ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》   作:ブイズ使い

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兄妹バトル開幕


リーリエVSグラジオ!決勝めぐる兄妹バトル!

準決勝第一試合、ヨウVSハウの戦いは熱い接戦の中ヨウが制し決勝進出を決めた。

 

そして続く準決勝第二試合、グラジオVSリーリエの兄妹対決が始まろうとしていた時だった。

 

「えー!?あのグラジオって人、リーリエさんのお兄さんなんですか!?」

 

待合室にてリーリエはヒナと話していた時、彼女から衝撃の真実を教えられた。パッと見た印象ではグラジオとリーリエの雰囲気は似ても似つかないが、容姿を思い出してみると目の色や髪の色、顔立ちなどもそっくりであると納得する。

 

「リーリエさんはお兄さんと戦うことに抵抗はないんですか?」

「抵抗とかは特にないです。むしろ抵抗とか緊張とかよりも、不思議とワクワクしているんです。」

「ワクワク……ですか?」

「今までお兄様は私にとって遠い存在でした。会話することも殆どなかったですし、トレーナーとしても憧れていました。トレーナーとして戦った時も、私はまだまだ未熟でお兄様に手も足も出ませんでしたから。」

 

確かに、先日の戦いであるプルメリとの戦いでは目が離せないほどのバトルを繰り広げていたし、明らかに只者ではないオーラを纏っている気がする。まだまだ新米トレーナーであるヒナからしても、彼はより高みにいるトレーナーであることはなんとなく分かる。

 

リーリエは以前兄と戦った記憶を思い返す。初めてのバトルロイヤルによる戦いのときも、Z技の指導をされた時も、どちらも軽くあしらわれてしまって歯が立たなかった。しかし今は……

 

「ですが今はお兄様と同じ舞台に立ち、正面から戦うことができるのが嬉しいんです。成長した私のバトルを見てもらえる、全力で戦ってくれる、ようやくお兄様と同じフィールドに立てることがとても嬉しいんです!」

 

笑顔で拳を握りながらそう答えるリーリエ。彼女の瞳は戦うことだけを目的としているのではなく、その先にある勝利を見据えたトレーナーの強い瞳であった。やはり自分の尊敬したトレーナーはすごい人なのだと改めて感心する。

 

「リーリエ選手、そろそろ準備をお願いします。」

「あっ、はい!分かりました!」

 

スタッフが扉を開け待合室のリーリエを呼びに来た。リーリエは興奮する気持ちを落ち着かせ、兄の待つフィールドへと向かうことにする。

 

「リーリエさん!私、応援してますから!絶対に勝って優勝してください!」

「ヒナさん……はい!頑張ります!」

 

ヒナの応援を受け、リーリエは会場へと向かっていく。頬をパンパンッと叩き、改めて気合を入れ直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーリエは司会の紹介と共にフィールドに立つ。すると目の前には腕を組みリーリエのことを待っているグラジオの姿があった。

 

「お兄様……」

「……来たか、リーリエ。」

 

リーリエが来たことを確認すると、グラジオは妹でありライバルでもあるリーリエの瞳を真っ直ぐと見つめる。

 

「……ふっ、いい眼をしている。まるであいつみたいだな。」

 

グラジオは小さく呟く。その声はリーリエの耳まで届くことはなかったが、ポケモントレーナーであれば語り合う方法はただ一つ。バトルに乗せて、兄に自分の成長をすべて伝える。そう考えたリーリエはモンスターボールを手に取り既に準備万端であった。それと同時にグラジオも最初のポケモンが入ったモンスターボールを手に取った。

 

「ったく、どっちもやる気満々ってわけね。ま、軽くなんて野暮なこたぁ言わねぇよ。思う存分ドンパチやりな。」

 

準決勝第二試合の審判を務めるのはウラウラ島のしまキング、クチナシであった。両者の準備ができているのだと確認すると、試合の合図を出すのであった。

 

「それではこれより、準決勝第二試合を始める。使用ポケモンは今まで通り3対3。両者、ポケモンを。」

 

クチナシの合図とともに、リーリエはモンスターボールを投げる。

 

「お願いします!チラチーノさん!」

『チラッ!』

 

リーリエが最初に繰り出したのは彼女のパーティにおける切り込み隊長、チラチーノであった。対してグラジオが繰り出したポケモンは……。

 

「……行くぞ!シルヴァディ!」

『シヴァア!』

「っ!?し、シルヴァディさん!?」

 

最初に繰り出されたポケモンを見てリーリエは驚きを隠せなかった。なぜならそのポケモンは彼にとって相棒でもあるシルヴァディだったからだ。初手から自分のエースポケモンを出す大胆な行為に、兄には何か考えがあるのだろうと考えるリーリエ。

 

「それではバトル、始め!」

 

兄の思考を読んでいる中、バトル開始の宣言がされグラジオ対リーリエのバトルが始まる。その直後に動いたのはリーリエではなくグラジオの方であった。

 

「突っ込め!シルヴァディ!」

『シヴァ!』

「っ!?来ますよ!チラチーノさん!」

『チラッ!』

 

相手はあのシンジとライバル関係にあるグラジオだ。考えても思考で彼の上を超えていくのは難しい。ならば例え兄が何を考えていようと正面から自分の戦いをするしかないとチラチーノと共に身構える。

 

「チラチーノさん!スイープビンタです!」

『チラチ!』

 

充分に接近してきたシルヴァディに対して、チラチーノはスイープビンタで迎え撃つ。しかしシルヴァディは自慢の身のこなしでその攻撃をスレスレの位置で回避し後ろに回り込む。

 

「かえんほうしゃだ!」

「っ!?かわしてください!」

 

シルヴァディは背後に回ると同時に振り向いてかえんほうしゃによる反撃をしてくる。チラチーノはその攻撃が命中する前に空振りしたスイープビンタを地面に叩きつけ、咄嗟に上空に飛び跳ねて回避するのだった。

 

「スピードスターです!」

『チラッチ!』

 

チラチーノは空中からスピードスターで反撃する。これは決まった、そう確信していた2人だが、その時シルヴァディが衝撃の技を放ち驚愕することになった。

 

「……ナイトバースト!」

『シッヴァ!』

「な、ナイトバースト!?」

 

シルヴァディが暗黒に染まった衝撃波を放つと、スピードスターを次々と消し去りチラチーノに接近する。空中で咄嗟に動きをとれないチラチーノはナイトバーストの直撃を受けて地面に叩きつけられ、大きくダメージを受けてしまった。

 

「チラチーノさん!」

『ち……ラァ!』

 

リーリエの声に答えてチラチーノは立ち上がる。どうやらまだまだ体力に問題はないようだ。しかし一番の問題はリーリエの中で完結していた。

 

シルヴァディの使った技ナイトバースト。それは本来シルヴァディが覚えることができず、あるポケモンが習得することで有名な技の一つである。つまりグラジオの繰り出したポケモンの正体は……。

 

「流石に気付いたか。もう戻っていいぞ、ゾロアーク。」

 

グラジオの指示に従い自分の姿を変えていくシルヴァディ。その正体は彼のエースであるシルヴァディではなく、ばけぎつねポケモンのゾロアークであった。

 

ゾロアークの特性はイリュージョン。手持ちのポケモン一体に化け、相手を視覚的に騙す特性だ。しかし使用できる技は自身の技のみなので、騙せるのは戦闘の序盤のみであろう。それでも今回はリーリエに刺さった戦術だったのは間違いない。

 

今まで彼がバトルでゾロアークを見せたことはなかった。恐らく彼にとってこの時のための隠し玉と言ったところだろう。結果、その戦術によりリーリエのチラチーノは初手から大きくダメージを負ってしまい不利な状況に追い込まれた。

 

「ゾロアークさん……まんまと騙されてしまいましたが勝負はまだまだこれからです!」

「来るぞ。気を抜くなよ、ゾロアーク。」

『ゾロアッ』

「チラチーノさん!あなをほる!」

『チラッ!』

 

相手が翻弄してくるならこちらも翻弄し返すまでだ、とチラチーノ得意の戦術に切り替える。あなをほるで相手の死角から攻撃して流れを強引にでも引き戻す作戦だ。しかしその戦術はグラジオとゾロアークの前には無意味だった。

 

「ゾロアーク!シャドークロ―!地面に突き立てろ!」

『ゾッア!』

 

ゾロアークは鋭いツメを地面に突き刺し地面を引き裂いた。その衝撃であなをほるで地中にいたチラチーノは溜まらず上空に追い出されてしまった。

 

『チラッ!?』

「チラチーノさん!?」

「とどめだ!つじぎり!」

『ゾロッ』

 

ゾロアークは素早い動きでチラチーノの体を貫き、一瞬でチラチーノを切り裂いた。チラチーノはその一撃によるダメージで力なく地面に墜落してしまい目を回していたのだった。

 

「チラチーノ、戦闘不能。ゾロアークの勝ち。」

 

初戦を制したのはグラジオのゾロアークであった。チラチーノが自分の戦いで流れを引き寄せる前にグラジオの戦術に引っ掛かってしまい流れを持っていかれてしまった。これは明らかなグラジオの戦略勝ちである。

 

「チラチーノさん、お疲れ様。ゆっくり休んでいてください。」

 

グラジオの練られた戦略、的確な状況判断力、間違いなく彼はシンジにも匹敵しうるトレーナーであるとリーリエは再認識する。それと同時に、絶対に勝たなければならない相手でもあると頬を叩いて改めて気を引き締める。

 

「……よし!シロン!お願いします!」

『コォン!』

 

次にリーリエが繰り出したのは彼女の相棒でもあるシロンだ。フェアリータイプを持つシロンであればあくタイプのゾロアークに対して有利に立ち回れる。問題はシロンがゾロアークの変則的かつ素早い動きにどこまで追いつくことができるかだが。

 

「シロン!こおりのつぶてです!」

『コォン!』

 

先ほどとは打って変わって、今度はリーリエ側から攻撃を仕掛ける。

 

「ゾロアーク!かえんほうしゃ!」

『ゾロアァ!』

 

シロンのこおりのつぶてをゾロアークはかえんほうしゃの熱い炎で全て溶かして打ち消した。

 

「シャドークロー!」

「かわしてもう一度こおりのつぶてです!」

 

ゾロアークの素早い動きから繰り出される鋭い一撃をシロンはバックステップして回避する。そしてすかさずに再度こおりのつぶてを放ち反撃する。

 

ゾロアークは咄嗟に腕で防御するもさすがにダメージを完全に防ぐことは出来ず、貫通してダメージを受けてしまい顔を歪ませる。

 

「ちっ、ナイトバースト!」

『ゾロッ!』

「ムーンフォースです!」

『コォンッ!』

 

ゾロアークはダメージを負いながらもナイトバーストで反撃する。シロンはナイトバーストによる衝撃波に対してムーンフォースで迎え撃つ。先ほどのダメージもありナイトバーストの威力は減少しており、その上フェアリータイプのムーンフォースに対してあくタイプのナイトバーストは相性が悪い。

 

ムーンフォースの一撃がナイトバーストを貫きゾロアークに直撃する。効果抜群の技を喰らってしまい、ゾロアークは大きくフィールドの端まで飛ばされてしまった。

 

「ゾロアーク!」

『ぞ……ろぉ……』

「ゾロアーク、戦闘不能。」

 

ゾロアークが戦闘不能となり、今度はリーリエが流れを取り返す。これで互いに残りポケモンは2体となり、シロンも無傷のままバトルを終えたため戦況としては両者五分の状態に戻った。

 

「……やはり一筋縄ではいかない相手だな。」

 

グラジオはふっ、と微かに微笑むと妹の成長を心の中で感じ取り、喜びと同時にライバルとして負けられないと気を引き締める。そして次のポケモンが入ったモンスターボールを手に取り、フィールドに投げるのだった。

 

「……頼むぞ!クロバット!」

『カカッ!』

 

次にグラジオが繰り出したのはどく・ひこうタイプのクロバットだ。そのクロバットの姿を見たリーリエは、以前出会ったカントーでの一人のライバルのことを思い出した。

 

どくタイプを持つクロバットに対してフェアリータイプのシロンは相性が悪いが、対してクロバットはひこうタイプも併せ持っているのでこおりタイプのシロンに対しても相性が悪い。しかし、ひこうタイプ特有の空を舞う自由な動きは捉えるのが難しい。ここは冷静に、シロンではなくあのポケモンに任せた方がよさそうだと冷静に判断する。

 

「シロン、一度戻ってください。」

 

リーリエはシロンをモンスターボールに戻した。そしてクロバットに対抗して次に繰り出したのは……。

 

「お願いします!カイリューさん!」

『バォウ!!』

 

リーリエが次に繰り出したのは同じひこうタイプを持つカイリューだ。空を自由に飛び回ることのできるひこうタイプには同じひこうタイプ。ある意味セオリー通りの戦術と言えるだろう。

 

グラジオはこの大会でカイリューの戦いを確認しており、その力強さをよく知っている。だからこそ注意すべき相手だとクロバットに忠告する。

 

「クロバット!アクロバット!」

『カッ!』

「カイリューさん!しんそくです!」

『バウッ!』

 

開幕からアクロバットで翻弄しつつ先制攻撃を仕掛けてくるクロバット。対してカイリューはしんそくにより正面から対抗する。

 

クロバットとカイリューが正面から衝突し互いに弾き合う。どうやら互いに様子見の一撃は互角と言ったところのようだ。

 

「やるな……だが!クロバット!ヘドロばくだん!」

『カッ!カッ!』

 

クロバットはヘドロを連続で発射しカイリューを狙い撃つ。カイリューは空を飛んでその攻撃を避けていくが、無数に放たれるヘドロばくだんに次第に追い詰められていく。

 

「今だ!どくどくのキバ!」

『カカッ!』

『バオゥ!?』

 

ヘドロばくだんでカイリューを誘導し、狙い通りの場所に来たカイリューにどくどくのキバが決まる。それと同時にどくどくのキバの追加効果によりカイリューが毒状態となってしまいより一層追い詰められてしまった。

 

「カイリューさん!?」

『ば……オウッ!』

 

カイリューは毒で苦しみながらもリーリエの期待に応えるために自身を奮い立たせてまだまだ行けると意思表示をするため空高く吠えた。しかしそれでもこの追加ダメージは深刻なもので、彼女たちは短期決戦を強いられる結果となる。

 

「まだまだこれからです!カイリューさん!げきりんです!」

『バウッ!バオウゥ!』

 

カイリューは逆鱗状態に移行しすぐに勝負を決める態勢になったのだった。リーリエの思い切った戦術に、グラジオは面白いと口角を上げ、望むところだと迎え撃つ姿勢に入る。

 

「クロバット!アクロバット!」

『カカ!』

「受け止めてください!」

『バオゥ!』

 

カイリューはアクロバットで正面から突っ込んでくるクロバットを受け止める。逆鱗状態であるカイリューのパワーには流石のクロバットでも互角で打ち勝つことはできない。しかしグラジオたちの狙いは別にあったのだった。

 

「ヘドロばくだん!」

『カッ!』

『バオウっ……』

 

クロバットは掴まれた状態のままヘドロばくだんで反撃する。ゼロ距離であれば防御もできず回避もできないと踏んでの敢えての超接近戦を仕掛けたのだ。カイリューに命中したヘドロばくだんによって2人を衝撃が包み込む。

 

次の瞬間、衝撃から姿を現したのはクロバットであった。クロバットは風に乗り上空に上がるが、爆風からカイリューの姿が見えない。どうなったのかと様子を見ていると次の瞬間……。

 

『バオウッ!!』

『カッ!?』

 

カイリューが猛スピードで爆風から姿を現しクロバットの目前まで飛んできた。そのまま逆鱗状態の怪力でクロバットを地面に叩きつけた。クロバットもそれには堪らず大ダメージを受けてしまい、先ほどまでの元気がなくなってきていた。

 

「くっ、さすがにマズいか。ヘドロばくだん!」

『カカ!』

「かわしてしんそくです!」

『バウゥ!』

 

カイリューは逆鱗状態でありながらも冷静にヘドロばくだんを回避しスピードを上げてクロバットに向かって突っ込んでいった。

 

「っ!?アクロバット!」

『カッ!』

 

クロバットは再び空に飛び上りアクロバットで反撃する。お互いの技が衝突し、爆風が発生したと同時に両者地面に墜落する。よく見ると両者共目を回していて、どちらも戦闘不能になっているのが分かった。

 

『ば……おうっ……』

『か……かか……』

 

「クロバット、カイリュー、共に戦闘不能。」

 

ダブルノックダウンだ。カイリューも毒の継続ダメージが大きく、クロバットもカイリューの高い攻撃力で一気に体力を削られたのだろう。かなりの激戦だったが、両者共に最後のポケモンに勝負が託された。

 

「お疲れ様です、カイリューさん。ゆっくり休んでください。」

「ご苦労だったクロバット。あとは任せてくれ。」

 

お互い残るポケモンはラスト一体。妹の成長を実感したグラジオは、最終戦の前にリーリエに声をかける。

 

「リーリエ。」

「お兄様?」

「正直ここまでやるとは思っていなかった。俺をここまで追い詰めるとはな……ふっ、成長したな。」

「お兄様……」

「だが、勝負に勝つのはこの俺だ。お前の全力、俺とシルヴァディが受け止めてやる!」

「……はい!ですが、私たちは負けません!」

「ふっ、行くぞ!シルヴァディ!」

「お願いします!シロン!」

『シヴァア!!』

『コォン!』

 

両者最後に残ったポケモン、シルヴァディとシロンが姿を現した。兄妹バトルファイナルラウンド。この戦いに勝った者が決勝に進出できるのだ。

 

お互いの間に緊張が走る。そして観客たちも一瞬の静寂に息を呑む。刹那、最初に動いたのはリーリエだった。

 

「シロン!こおりのつぶてです!」

『コォン!』

 

まずはリーリエとシロンの常套戦術、こおりのつぶてで先制攻撃を仕掛ける。しかしその攻撃はグラジオも当然読み切っている。

 

「シルヴァディ!エアスラッシュ!」

『シヴァヴァヴァ!』

 

シルヴァディは無数のエアスラッシュでこおりのつぶてを切り裂いた。シロンの攻撃が止んだ時、今度はグラジオたちが動きを見せる。

 

「シルヴァディ!炎の鎧をその身に纏い、凍てつく氷を溶かし尽くせ!」

 

シルヴァディは赤色のディスクをシルヴァディに投げる。ディスクのメモリをシルヴァディの頭部がインプットし、トサカと尻尾を真っ赤に染め上げる。ファイアメモリによりシルヴァディはノーマルタイプからほのおタイプへと変化した。変わりにこの戦闘中Z技の使用は制限されてしまう。

 

「シルヴァディ!そのまま突っ込め!」

『シヴァ!』

「来ます!シロン!」

『コォン!』

「ブレイククロー!」

『シヴァア!』

 

シルヴァディはツメを鋭く尖らせ攻撃態勢を整える。対するシロンは向かってくるシルヴァディに対抗するため身構え反撃の態勢をとる。

 

「シロン!こなゆきです!」

『コン!』

 

シロンはこなゆきでシルヴァディに細かいダメージを与えながら地面を凍らせていく。しかしその行動をもグラジオは読んでいた。

 

「シルヴァディ!」

『シヴァ!』

 

シルヴァディはグラジオの合図と共に地面を抉り裂いてジャンプした。ブレイククローで鋭く尖らせていたことにより、地面が氷漬けになっても足場が不安定になることなく跳び上がることができたのである。

 

「マルチアタック!」

『シヴァ!』

『コォン!?』

 

シルヴァディのマルチアタックがシロンに炸裂する。シロンは強力なマルチアタックに吹き飛ばされてしまい大きくダメージを負ってしまう。

 

それだけでなくマルチアタックはシルヴァディのタイプに応じたタイプに変化する特殊な技だ。現在ほのおタイプのシルヴァディが放つマルチアタックは同じほのおタイプに変化し、シロンに対して効果抜群となっている。これは想定以上のダメージが入ったことは間違いないだろう。

 

「続けてラスターカノン!」

『シヴァア!』

「っ!?かわしてください!」

『こ……コォン!』

 

立て続けに放ったシルヴァディの技ははがねタイプのラスターカノン。こおり・フェアリータイプを持つシロンに対して非常に有効な技で命中すると一溜りもない、と慌ててシロンに回避の指示を出す。なんとか立ち上がり回避するも、肩で息をしていてこれ以上はかなり厳しそうな様子である。

 

「エアスラッシュ!」

『シヴァヴァ!』

「れいとうビームです!」

『コォン!』

 

シルヴァディのエアスラッシュをれいとうビームで打ち消していく。この状況を打開するならあの技しかないと、リーリエはシロンの名前を呼ぶ。

 

「シロン!」

『コォン』

「私たちの全力、お兄様に見せましょう!」

『……コォン!』

 

リーリエとシロンは目を合わせ、お互いに頷いて気持ちを一つにする。グラジオは来るか、と微笑むとシルヴァディと共に身構えてZ技を受ける態勢を整える。

 

「お前たちの全力、俺たちにぶつけてみろ!」

『シヴァアア!』

「行きます!お兄様!」

『コォン!』

 

シロンは手をクロスさせ気持ちを落ち着かせ、シロンと一つになるため気持ちを集中させる。全力の一撃を放つために集約されたパワーがリーリエのZリングを伝わってシロンに届いていく。

 

「これが私たちの全力……私とシロンの全て……」

『コォン』

 

集約されたZパワーが氷の柱となってシロンを上空に持ち上げる。そしれシロンの身体全体をリーリエのZパワーが纏って全力の一撃が放たれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――レイジングジオフリーズ!!

 

 

 

 

 

 

シロンから放たれる大気が凍るほどの氷のブレス。その一撃がシルヴァディ目掛けて飛んでいく。これほどの攻撃を避けることは非常に困難で、例えよけられたとしてもその衝撃による余波で結果的にダメージを逃れることはできない。

 

ならばここは迎え撃つしかない。元よりそのつもりだったグラジオとシルヴァディは、自身の身体の一部に力を集中させる。

 

「俺たちも全力で応える!シルヴァディ!マルチアタックッ!」

『シヴァア!』

 

シルヴァディの脚に炎の力が集中し、氷のブレスと正面から衝突し合う。Z技とは言えポケモンの相性を覆すのは実際のところ困難である。炎の力が次第にZ技を溶かしていき、熱い熱量で氷のブレスを溶かし尽くした。

 

Z技を受けきったことでグラジオ本人も、観客も全員が勝負の行く末が決まったと思った。しかし目の前の状況を見た時、グラジオは驚きの光景に驚愕した。

 

「なにっ!?シロンがいない!?」

『シヴァ!?』

 

そこには氷の柱はあるものの、シロンの姿が見当たらなかった。一体なぜなのだと思った時には既に遅く、まさかと思い上空を見上げる。

 

シルヴァディの頭上に飛び上っていたシロンの姿があった。シルヴァディがZ技に対抗し破られる瞬間、シロンは彼の死角を取り隙を突いたのである。

 

「まさか……Z技を囮にするだとっ!?」

 

リーリエの戦術は驚くべきことに、アローラのトレーナーにとって最大に切り札ともいえるZ技を囮にすることであった。もちろん最初から囮にするつもりがあったのではなく、兄であるグラジオならばこのぐらいのことはやってくるであろうと読んでの行動である。戦略的にグラジオが一歩先を行っていたと思われていたが、最後にそのグラジオを妹であるリーリエが超えたのである。

 

「シロン!ムーンフォースです!」

『コン!コォン!』

 

シロンは自分が持つ最大火力、全力のムーンフォースを頭上から放った。シルヴァディは受け止めたとはいえZ技の衝撃によるダメージがないわけではない。不意打ちであったことも加え、回避行動にも防御にも移ることができずムーンフォースの直撃を受けてしまった。

 

『し……ヴぁあ……』

「シルヴァディ、戦闘不能。キュウコンの勝ち。よって勝者、リーリエ。」

 

ムーンフォースの一撃でシルヴァディは戦闘不能となった。これでグラジオの手持ちのポケモン3体が戦闘不能となり、勝者が決定した。準決勝を勝ち上がり、決勝戦へと進出したのはシロンとそのトレーナー、リーリエだ。

 

「かった……?お兄様に……?」

『コォン!コォン♪』

 

必死過ぎて兄に勝ったことを受け止め切れていないリーリエ。その時感極まってシロンはリーリエに飛びついていく。シロンの声と重みを感じ、ようやくリーリエは兄に勝てたのだと実感することができたのだった。

 

「や、やりました!シロン!やりましたよ!ありがとうございます!」

『コォン♪』

 

ようやく実感した喜びをシロンと共に分かち合う。敗北してしまったグラジオはシルヴァディの傍まで歩く。

 

「シルヴァディ、よく頑張った。お前は自慢の相棒だ。」

 

最後まで健闘したシルヴァディに労いの言葉を贈り、グラジオはリーリエに歩いて近寄った。

 

「リーリエ。」

「あっ、お兄様。」

「ふっ、まさか妹に負ける日が来るとは思わなかったな。」

「私も、お兄様に勝てる日が来るとは思いませんでした。」

「だが、これが現実だ。……ふっ、素直におめでとう、と言っておく。」

「お兄様……。ありがとうございます!」

「だが、次のバトルに勝たなければあいつと戦うことはできないぞ?俺に勝っただけで慢心しないことだな。」

「分かっています。次の対戦相手……ヨウさんはとても強い人ですが、必ず勝ちます!そして……」

 

リーリエの眼を見たグラジオは、つくづくあいつと重なるなとライバルの事を思い出す。これ以上敗者である自分が言うことは何もないと、振り向いとフィールドを立ち去ろうとする。

 

「お兄様!」

「……次にやる時は負けないさ。」

「……はい!私も負けません!」

 

グラジオは背後のリーリエに手を振ってまたのバトルを誓う。リーリエも次バトルした際にも負けないと心に強く決める。

 

そして次はいよいよ決勝戦。対戦カードは一回戦を勝ち上がったヨウと二回戦を勝ち上がったリーリエ。

 

アローラリーグ勝者はたった一人。チャンピオンシンジへの挑戦権を賭けた戦いが遂に幕を上げる!




なぜシルヴァディのマルチアタックはダイマックスすると威力が下がるのか……。

明日は風花雪月無双の出る日ですぞ!

シンジが最終戦で使うブイズはニンフィア、イーブイに加え残り4匹は誰がいい?(投票数の多い順に選ばれます)

  • シャワーズ
  • サンダース
  • ブースター
  • エーフィ
  • ブラッキー
  • リーフィア
  • グレイシア

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