ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
まさかヨクバリスが実装されるとは思わなかった
アセロラの試練を無事突破し、一日エーテルハウスのお世話になったリーリエ。疲れを癒した翌日、再び旅を続けるためにエーテルハウスを後にすることにしたのであった。
そんな彼女を、エーテルハウスの子どもたちやキャプテンであるアセロラが見送るために、西にある小さな浜辺にやってきていた。
「さぁ、リーリエ。次はいよいよ大試練だよね?」
「はい!ウラウラ島の大試練に挑もうと思います!ただ……」
大試練を担当するしまキング、クチナシが現在どこにいるのか不明なのだ。彼女はクチナシの事自体が余り知らないのだが、聞いた話ではかなり気まぐれかつ面倒くさがりな性格で、普段からどこにいるかが読めない人物なのだ。
「クチナシおじさんなら今ポータウンにいると思うよ。」
「ポータウン……ですか?」
ポータウンと聞いて、リーリエは脳裏を少し苦い記憶が横切る。ポータウンはかつてスカル団のアジトとして利用されていて、2年前にリーリエが攫われてしまった場所でもある。とは言えスカル団と言っても、彼らはルザミーネの指示に従っていただけなので、リーリエは特別酷いことをされたわけではなくすぐにエーテル財団に引き渡されたのだが。
「この水道を渡った先にあるんだけど、そのためのライドポケモンを貸してあげるよ。」
そう言ってアセロラは一つのモンスターボールを投げると、そこから出てきたのは青い体にクラゲの様な容姿をしたポケモンであった。
『ブルンゲル、ふゆうポケモン。みず・ゴーストタイプ。体の殆どが海水と同じ成分でできている。ブルンゲルの住処に侵入した船は沈められてしまうと恐れられている。』
そのポケモンはブルンゲルであった。図鑑説明はその見た目からは想像できないものでありゾッと寒気を感じる。
「大丈夫大丈夫。この子は人懐っこくて気のいい子だから。」
「そう、なんですか?」
『ブルゥン』
不安そうに感じるリーリエをブルンゲルは柔らかい触手で頭を撫でる。その感触にリーリエは不思議と安らぎ、ブルンゲルはいい子なのだと心で感じる事ができた。
「この子の乗り心地は最高なんだー!ふわふわしてて、凄く気持ちいいんだよ!」
「そうなんですね。アセロラさん、ありがとうございます!」
「またこっちに戻ってきた時に返してくれればいいから。はいこれ!ブルンゲルのモンスターボールだよ。」
「はい!大切にお預かりします!」
アセロラからブルンゲルのモンスターボールを預かり、リーリエはブルンゲルに跨る。確かにふわふわしてて、感触にも不快感を感じない。寧ろどこか落ち着けて安心できるものであった。
「リーリエ姉ちゃん!頑張ってね!」
「また遊びにきてね!」
そう言って見送ってくれる子どもたちにも手を振り、リーリエはブルンゲルと一緒にポータウンへと向かう。
「んー♪風がとても気持ちいです。」
水道を吹き抜ける風が頬を撫でるように触れて心地いい。海水の香りと波の音、そしてブルンゲルの気持ちのよい感触。更には丁度良いゆったりと、ふわふわとしたまるで揺りかごのような乗り心地。
気持ちいい船出に、リーリエは気付けば瞼を閉じ、静かな寝息を立てていたのであった。
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「リーリエ!」
「シンジさん!それにお兄様にミヅキさんも!」
リーリエが振り返ると、そこにはシンジと兄であるグラジオ、それに友人であるミヅキの姿があった。慌てた様子で駆け付けた3人の額からは、汗が滴り落ちていてどれだけ焦っていたのかが伝わってくる。
スカル団に攫われたリーリエはエーテル財団に引き渡され、彼女を助けるためにシンジたちはここまでやってきた。正直一人でどうしたらいいか分からなかったリーリエにとって、これほど嬉しいことはない。
「この部屋は……」
グラジオが周りを見渡すと、その光景に3人は言葉も出ずに絶句するしかなかった。
なぜなら周囲にあったカプセルには、ポケモンたちが入れられていたのだ。正確に言えば、ポケモンたちが冷凍保存されている姿が目に映っていた。いわゆるコールドスリープと言うものである。
コールドスリープとは簡単に言うと、肉体を低温状態に保つことで老化を防ぐものである。本来であれば宇宙船や空間移動など、主に映画の世界で見ることの多いものではあるのだが、ここはエーテルパラダイス。明らかに別の用途で使用されているのは言うまでもない。
そして正面にはリーリエの母であるルザミーネの姿。この部屋に辿り着く前にあったのは寝室。そして奥に隠されていたワープ装置に乗ってこの部屋に移動してきた。間違いなくここはルザミーネのシークレットルームだ。
「……来てしまったのね、グラジオ。それにシンジ君とミヅキちゃんも。」
3人の存在に気づいたルザミーネは振り返りその姿を確認する。彼女の表情は薄ら笑いを浮かべていて、最初に出会った時の優しそうな大人の女性、と言った印象は微塵も感じられない。むしろ不気味ささえ感じてしまうほど、まるで別人のようであった。
「どう?この部屋。美しいでしょ?」
ルザミーネは自身気にそう言うが、シンジたちにはこの部屋の何が美しいのかは分からなかった。ポケモンたちが非人道的な状態で保存されているのだ。誰がどうしてこの部屋の状態を美しいと言えるのだろうか。
「……お母様」
「……失敗作は黙りなさい」
リーリエは一言そう呟く。すると母親であるルザミーネは無常にもそう返答した。
「私は、美しいものだけを愛するの。この部屋にあるポケモンたちは全員姿を変えることなく、私の望んだ姿で永遠に存在している。でも……あなたは、あなたたちは私の手から“勝手に”去っていった。そんなあなたたちを愛せるとでも思っているの?」
リーリエとグラジオは分かっていた。小さいころは優しい母親であったのだが、いつからか着せ替え人形のように母から与えられた服を着るだけであった。母の言いなりでしかなかった二人は、気付けば彼女の道具でしかないのだと感じるようになった。そこには親子としての愛情など微塵もないのだと。
「あなたたちは私が産んだ子ども。だったら私の言うとおりにしていればいい。所詮は私の所有物でしかないのだから。」
「違う……」
「シンジ……さん?」
「リーリエもグラジオも、あなたの所有物なんかじゃない!」
「そうだよ!二人は人間なんだ!親だからって、子どもをモノ扱いしていい訳ないよ!」
「ミヅキ……」
「他人は黙っていなさい!私たち親子の問題に口出ししないでちょうだい!」
ルザミーネに対しシンジとミヅキは反論するが、ルザミーネはそんな彼らに怒鳴り散らす。もはや彼女には会話すら通じない状態のようだ。
「……あなたたちには私の理想なんて理解できない。なら、やることは一つだけでしょう?」
そう言ってルザミーネは複数のモンスターボールを手に取り投げる。中からは彼女に従うポケモンたちが姿を現した。
姿を現したのはミロカロス、ドレディア、そしてムウマージであった。リーリエとグラジオは知っているようで、彼女が以前から可愛がっていたパートナーたちのようである。
ここに来た時点でこうなることは分かっていた。シンジ、グラジオ、ミヅキはモンスターボールを投げて自分の相棒を出してルザミーネと対峙する。
「行くよ!ニンフィア!」
「やるぞ!シルヴァディ!」
「お願い!アシレーヌ!」
『フィア!』
『シヴァア!』
『シレー!』
ニンフィア、シルヴァディ、アシレーヌは登場と同時に戦闘態勢に入る。ルザミーネのポケモンたちを見た瞬間、間違いなく強敵だと理解したからこそ油断できないと判断したのだ。
「母さん……必ず助けてみせる……」
グラジオはそれでもなお母親を信じて誰にも聞こえない声で覚悟を口にする。次の瞬間、ルザミーネのポケモンたちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
「あなたたち!やってしまいなさい!」
ルザミーネは特に指示することなく、ミロカロス、ドレディア、ムウマージは前に出る。彼女のポケモンたちは何の違和感も感じることなく、彼女の指示を従順に従っている。その姿はまるで操り人形のように、主のことを疑うことなく……。
「ニンフィア!ようせいのかぜ!」
『フィア!』
『ミロ!?』
ニンフィアはようせいのかぜで近接攻撃を仕掛けてこようとするミロカロスを弾き返す。ミロカロスは堪らずダウンする。
『マァジ!』
「シルヴァディ!ブレイククロー!」
『シヴァ!』
ムウマージはシャドーボールでニンフィアを攻撃する。シルヴァディはニンフィアの前に出てブレイククローを構え、シャドーボールを正面から切り裂き防いだ。
『ディアー』
気がそれている間にドレディアはちょうのまいで自身の能力を向上させる。そうさせるわけにはいかないと気付いたミヅキは、すぐさま妨害しようと指示を出す。
「アシレーヌ!ハイパーボイス!」
『シレー』
アシレーヌは可憐ながらも大きな声で振動を発生させる。その声を聴いたドレディアはちょうのまいを中断し、耳をふさいで怯んでしまう。
ハイパーボイスは範囲も広い技だ。相手のミロカロスもダメージを受けている様子だ。ハイパーボイスはノーマル技であるため、ゴーストタイプのムウマージに対してはダメージが入っていない。
『マァジ!』
『ディア!』
ムウマージとドレディアは反撃に出る。ムウマージは自身の周囲にいくつかの火の玉を生成し飛ばす攻撃、マジカルフレイム。ドレディアは強力な鋭い刃のような葉の嵐、リーフストーム。それらの攻撃が同時にニンフィアたちに襲い掛かる。
「ニンフィア!ムーンフォース!」
「シルヴァディ!エアスラッシュ!」
「アシレーヌ!うたかたのアリア!」
ニンフィア、シルヴァディ、アシレーヌは同時に攻撃を放ちマジカルフレイム、リーフストームと対峙し、お互いに打ち消し合う。それを見たミロカロスは後ろからすでに大技の態勢に入っていた。
『ミロォ!』
ミロカロスの繰り出す水タイプの大技、ハイドロポンプだ。鉄をも切り裂かんとする勢いの水圧を防ぐため、アシレーヌとシルヴァディは前に出る。
「シルヴァディ!マルチアタック!」
「アシレーヌ!アクアテール!」
『シヴァアア!』
『シレェヌ!』
シルヴァディとアシレーヌは全力の攻撃でハイドロポンプを正面から受け止める。しかしミロカロスのハイドロポンプは非常に強力であり、このままでは押し切られてしまうであろう。
「シンジ!今の内だ!」
「アシレーヌたちが止めている間に!」
シンジは頷く。二人に相槌を取ったシンジは、相棒のニンフィアと目を合わせて合図を取る。
「行くよ!ニンフィア!」
『フィア!』
シンジはその合図と同時に手を目の前でクロスさせてポーズをとる。ノーマルタイプのZ技のゼンリョクポーズで、彼のZリングが光輝く。Zリングから放たれる光が、ニンフィアの体を包み込んだ。
ニンフィアの力が高まっていくのを感じる。シンジの思いがニンフィアに伝わり、ニンフィアは駆け出した。ミロカロスの攻撃を耐え凌いでいるシルヴァディとアシレーヌの上に飛び上がる。
――ウルトラダッシュアタック!
その後勢いよくミロカロス目掛けて一直線に駆け抜ける。攻撃中のミロカロスは対応することができず、ニンフィアの全力のZ技を正面から受けてしまった。
ミロカロスはその衝撃により大きく飛ばされ、直線状にいたムウマージ、ドレディアも同時に巻き込んだ。強力なZ技により飛ばされたミロカロスは戦闘不能。さらにその衝撃に巻き込まれたムウマージとドレディアも戦闘続行不可能な状態となっていた。
それを確認したルザミーネは、冷めた表情のままポケモンたちをモンスターボールに戻す。すでに彼女にはトレーナーとしての感情はないように感じられる。
「……ふふふ」
ルザミーネは小さく怪しい笑みを浮かべる。自分のポケモンが負けたにも関わらず、だ。
「準備はすでに整ったわ。」
「準備……だと?どういうことだ母さん!」
グラジオが声を荒げて問いかける。ルザミーネは彼の問いに口角を上げながら答えた。
「そんなの決まっているわ。」
そう答えたルザミーネは指をパチンッと鳴らす。指を鳴らしたと同時に、彼女の持つケージが突如として光出し勝手に宙へと浮かび上がる。
「なっ!?こ、これは……!?」
「どうなってるの!?」
シンジとミヅキは驚きの声を上げる。それもそのはず。なぜならケージの光と共に、ルザミーネの背後に見覚えのある空間が切り開かれていたのだ。しかもその空間から、ゆっくりとある生物が姿を現したのであった。
「そ、そんな……まさか……」
リーリエは顔を真っ青にして絶望する。その空間から現れた生物の正体とは……。
『ジェップ』
「……ウルトラビースト……だと?」
その正体はUBと呼ばれる存在であった。体は白く、クラゲに似た異形な姿をしたポケモンを、シンジとミヅキは見覚えがあった。
「このUBはウツロイド。このコスモッグの力を使って呼び出したのよ。」
コスモッグ。リーリエが大切にしていたほしぐもの通称である。ルザミーネはリーリエからほしぐもを奪うとケージの中に閉じ込め、彼の特殊な力を無理やり引き出して空間を歪ませ、ウルトラホールとこのアローラを繋げたのだ。
現在ルザミーネが手にしているケージの中にコスモッグはいる。コスモッグが力を使うと、ゆっくりと地上に降りてケージから姿を現す。
『きゅい……』
「ほしぐもちゃん!?」
苦しそうに出てきたほしぐもを心配してリーリエは駆け寄る。すると再びほしぐもを光が包み込み、光が収まるとそこにはコスモッグの姿はなく……。
『……』
「ほしぐも……ちゃん?」
そこには姿の違う別のポケモンの姿があった。見た目的には星空の様な模様を残しているためコスモッグの進化形であることは分かる。しかし何もしゃべることはなく、ただ眠っているだけのようでリーリエの事も認識していない。それどころか浮いているだけで、動く気配すら感じない。
「……どうやら力を使い果たして眠っているようだ。」
「眠っている……ですか。」
その言葉を聞いて少しだけ安堵するリーリエ。そんな彼女に、母親から無慈悲な一言が突きつけられる。
「その子はもう用済みよ。」
「っ!?」
その言葉にリーリエはショックを受ける。自分たちだけでなく、ほしぐもまでもが彼女にとっては道具の一つでしかなかったのだ。どれだけ突き放されようと、リーリエにとってルザミーネはたった一人の母親だ。心の中ではどうしても信じたかった。
だがどれだけ信じても、彼女から発せられる言葉は一切心の無い言葉ばかり。リーリエはただただ裏切られ、悔しさと衝撃から口を噛み締めるしかできなかった。
「あなたって人は!」
「シンジ君……もう二度とあなたとも会うことはないでしょうね。」
ルザミーネはそう言ってウツロイドの方へと振り返る。その時部屋に1人の男の声が響いてきた。
「な、なんだよここは……」
そこに入ってきたのはスカル団のボス、グズマであった。ルザミーネに指示されリーリエとコスモッグを手に入れたグズマ率いるスカル団だが、さすがにこの部屋の衝撃には絶句するしかないようだ。
「グズマ、あなたも来なさい。」
「あ、ああ!」
ルザミーネはウツロイドと共にウルトラホールの中に入っていく。グズマはルザミーネにそう言われ、疑うことなく彼女の後を付いていき一緒にウルトラホールの中へと突入した。
それと同時にウルトラホールが閉まってしまい、シンジたちは追いかけることは出来なかった。残された彼らは、あまりの衝撃から暫くその場を動くことは出来なかったのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
「う……ん……あれ、私……眠っちゃってたんですね。」
気付いたらブルンゲルの上で眠ってしまっていたリーリエ。眼を覚ますと、目の前にはいつの間にかポータウンに続く道が見え始めてきていた。
「それにしても、まさかあの時の夢を見るなんて……」
リーリエにとってはあまりいい思い出の無い出来事であった。母親が狂ってしまった出来事など、いい思い出だと感じる人間はいないだろう。
「……でも、あの時がキッカケだったんですよね。」
本来自分に母親と向き合う勇気などなかった。だからほしぐもを連れだして彼女は態々エーテルパラダイスを逃げ出したのだ。
そしてククイ博士やシンジたちと出会い、旅をする中で色々な経験をし、母親であるルザミーネと向き合う勇気を得ることができた。そしてルザミーネがウルトラホールへと消えた日の翌日。自分は母親を助けるための覚悟を持つことができるようになったのである。
「……あまりいい思い出ではありませんが……それでもいいキッカケではありました……。」
自分が覚悟を持ち、母親を助けるキッカケを作った出来事。シンジと一緒に向き合うことのキッカケにもなった出来事なのだから。
「……よし!」
リーリエはあの時の気持ちを思い出し、気を引き締める。次の大試練も必ず突破し、あの時から変わったのだとシンジに伝えるために、改めてやる気が満ち溢れてくる。
リーリエは陸に辿り着くとブルンゲルから降りてブルンゲルをモンスターボールへと戻す。リーリエはブルンゲルに感謝し、次の目的地である大試練の場、ポータウンに向かって歩き出したのだった。
ニンフィアナーフされたけどそれでも充分強いよね。ナーフ前が強すぎただけで