ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
マリエシティでミヅキと共に観光をしゆったりと過ごしたリーリエ。翌日には彼女と別れ、リーリエは島巡りを続け先を目指していた。
マリエシティを出て暫く南の方へと進んでいく。その先には、激しいデコボコ道の続く場所へとやってきた。
「どうしましょう……かなり通り辛そうです。」
一応通れないことはないだろうが、一歩踏み外してしまえばかなり痛い……下手をすれば大怪我に繋がってしまう恐れがある。
戻るにしてもここまでは一本道で他に道は無さそうに思える。ならばこの辺りでデコボコ道も渡ることのできそうな鋼タイプのポケモンでも仲間にするべきか。
そう考えていたリーリエの耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「む?リーリエではないか?」
「あっ!?ハプウさん!」
振り向くとそこにはバンバドロにライドしているポニ島のしまクイーン、ハプウがいた。ミヅキの話の通りであれば、ハプウもしまキング、しまクイーンの招集に訪れていたのであろう。
「その様子を見ると、どうやらこの先に行けなくてこまっているようじゃのう。」
「は、はい、ライドできるポケモンさんも持っていませんし……」
「ふむ、ではわしのバンバドロに乗せてやろう。」
「え?いいんですか?」
リーリエの問いかけにハプウは快く頷き答える。
「もちろんじゃ。それにわらわもこの先に用事があるのでな。ほれ、遠慮などするな。」
リーリエはハプウの言葉に甘え、それではとハプウの後ろに乗ることにする。少しゴツゴツとしているが、流石しまクイーンのポケモン。その逞しい背中は不思議と安心感を覚える頼もしい背中であった。
バンバドロはリーリエが乗ったことを確認すると、バンバドロは立ち上がり歩き始めた。
「凄いですね、バンバドロさん。」
「わしの相棒じゃからな。このぐらい問題ないぞ。」
バンバドロはデコボコ道も気にすることなく平然と進んでいく。バンバドロの泥で固めた立派な四肢は、尖った岩の道など全く問題にはならないようである。
「しかし懐かしいのお。以前はシンジも同じように後ろに乗せていたのじゃよ。」
「シンジさんもですか?」
「うむ。シンジもリーリエと同じようにどうするか悩んでおったから、偶然通りかかったわしがバンバドロに乗せたのじゃ。まさかまた同じような状況に出くわすとは思わなかったがの。」
2年前の島巡りの時もリーリエと同様、シンジもハプウに助けられたようだ。確かにシンジのポケモン達には彼を乗せられるポケモンは存在しない。エーフィのサイコパワーで運んでもらおうにも、流石にこの距離を一気に運ぶのは難しいだろう。
別にすごい事でもなんでもないのだが、なんとなく彼と同じ状況になったことが嬉しいと感じるリーリエだった。
「そう言えばハプウさんの用事ってなんなんですか?」
「この先にある地熱発電所と呼ばれる場所があってな。そこに野菜を届ける最中なのじゃよ。」
地熱発電所。その名の通り地熱を利用し発電する施設で、核融合エネルギーなどを使用しないことから、大気汚染などの対策手段としても有用だと考えられている。当然発電所であるため注意深く扱う必要はあるのだが。
それによく見るとバンバドロのサイドにはいくつかの野菜が積んである。大根など、見るからに重そうな野菜も運んでいるが、それに加え今はハプウとリーリエも背中に乗せて歩いている。改めてバンバドロの持久力とパワーには感心させられる。
「すまないが先に地熱発電所によってもかまないかの?」
「はい!もちろんです!」
リーリエはハプウの問いにそう返答し、2人はバンバドロに乗ってそのまま地熱発電所へと向かうことにした。
暫く進むと、大きな白い建物が見えてきた。あそこが目的の場所である地熱発電所だろう。
しかしその前には幾人かの人だかりができていた。その中には作業服を着ている、明らかに発電所の人間だと思われる人物の姿もあった。ハプウは彼らに近付き声をかけることにした。
「おぬしたち、どうしたのじゃ?」
「あっ、ハプウさん!丁度良かった!」
スタッフの面々はハプウに事のあらましを説明した。どうやら野生のジバコイルが彷徨いこんでしまったようだ。
ジバコイルは強力な磁力を発生させているポケモンだ。ここは地熱を利用しているとはいえ発電所。恐らく発電所の磁場に引き寄せられてしまったのだろうとハプウは推測する。
「うむ!ならばわらわがなんとかしよう!困っているところを見て放っておくなどできぬしな!」
「では私も協力します!ハプウさん!」
「おお!感謝するぞリーリエ!じゃが無理はするなよ?」
二人はそう言うとスタッフたちに頭を下げられ改めてお願いされる。スタッフたちに見送られて発電所の内部へと足を踏み入れる。
停電が起きているのか、中は一切電気がついておらず足元の見え辛い暗闇となってしまっている。転ばない様に二人は気を付けて先を進んでいく。
暫く進むと、ある一室が異様なまでに明るくビリビリと照らされていた。そこは扉が僅かに開かれ、もしやと思いハプウとリーリエは隙間から内部をこっそりと覗き込む。そこには話に聞いていたジバコイルと、一人の男が笑みを浮かべて立っていた。
「いいぞいいぞジバコイル!これだけ電気があれば……」
どうやらこの騒動の原因はあの男のようだ。この状況を見る限り、考えられることは一つだけ。ジバコイルは野生のポケモンではなく、あの男のポケモンだということ。そしてあの男は電気泥棒と考えるのが妥当だろう。
ジバコイルを野生のポケモンに見せ発電所内部を混乱させる。その後隙を見て自分も発電所内部に侵入。
そして誰もいなくなった発電所に侵入した男は、発電所に溜められた電気を手に入れるという寸法だろう。穏やかなアローラであろうと、やはりこのような悪事を働く人物もいるというのは少々悲しいとと感じてしまう。
「そこまでじゃ!」
「っ!?誰だ!」
「これ以上の悪事は許しません!」
野生のポケモンが起こした騒動でないと分かればこれ以上好き放題させるわけには行かないと、ハプウとリーリエは中に入り男に一喝する。完全に油断していた男には驚きの表情が伺える。
「くっ!邪魔されるわけにはいかない!いけ!エレブー!」
『エッブ!』
ジバコイルと新たにエレブーも繰り出し、男は臨戦態勢をとる。相手が2体で来るならこちらもと、ハプウとリーリエもモンスターボールを構える。
「頼むぞ!バンバドロ!」
『ブルルゥ!』
「お願いします!シロン!」
『コォン!』
ハプウは一時的に戻したバンバドロを、リーリエはシロンを繰り出した。電気泥棒を止めるため、ハプウとリーリエのタッグバトルが始まる。
「ジバコイル!でんじほうだ!」
『ジバババ!』
ジバコイルのでんじほうがシロンに向かって襲い掛かる。しかしその攻撃を大きな影が盾となる防いだ。
「うむ!よくやったぞ、バンバドロ!」
その攻撃を防いだのはバンバドロであった。バンバドロはじめんタイプのポケモン。じめんタイプに対してでんきタイプの技の効果はない。だからこそリスクなくシロンを守るために、バンバドロが自ら盾になったというわけだ。
「くっ、ならばジバコイル!ラスターカノン!エレブーはきあいだまだ!」
バンバドロに効果のないでんき技は避け、男は別のタイプの技を使い攻撃を仕掛けてきた。その攻撃に対し、今度はリーリエが抵抗を見せる。
「シロン!れいとうビームです!」
シロンはれいとうビームでラスターカノンを迎え撃つ。シロンのれいとうビームによりラスターカノンは相殺されるが、きあいだまはバンバドロへと向かってしまう。
エレブーのきあいだまがバンバドロに直撃する。男はヨシ、と呟くが、ハプウはふふんと鼻を鳴らして笑みを浮かべた。
「なっ!?」
きあいだまの衝撃が晴れ、そこにいたのは顔色一つ変えずに立っていたバンバドロの姿であった。顔色どころか傷ひとつ付いていないその立ち姿に、流石だと言いつつも仲間であるリーリエですら驚きを隠せない。流石の耐久力と言ったところだ。
「ならばエレブー!れいとうパンチ!」
『エッブ!』
きあいだまがダメなら弱点であるこおりタイプの技、れいとうパンチならばダメージを与えられると考えた男はバンバドロに接近戦を挑む。しかしそれがかえって仇となってしまうのであった。
「バンバドロ!10まんばりきじゃ!」
『ブル』
『エブ!?』
バンバドロは走ってくるエレブーに背中を見せる。すると強靭な後ろ足を勢いよく後ろに突き出し、エレブーの攻撃が当たる前に直撃させて迎撃する。10まんばりきはバンバドロの得意技であると同時に、エレブーの弱点でもある地面タイプの技だ。
その一撃は素早い上に重く、エレブーは堪らず大きく吹き飛ばされ目を回す。エレブーは耐えることができず、戦闘不能状態となったのだ。
「なっ!?エレブー!くそっ、こうなったらジバコイル!でんじほう!」
『ジバババ!』
男はまだ諦めることなく、ジバコイルはでんじほうでシロンに再び攻撃をしてきた。
「かわしてムーンフォースです!」
『コン!』
リーリエも一切油断することなく、ジバコイルのでんじほうをジャンプして回避する。でんじほうは麻痺の追加効果もあり威力も高い技だが、その分命中率も低い。単発では中々当てづらい技筆頭であろう。
でんじほうを回避したシロンはムーンフォースで反撃をする。シロンに力を込めたムーンフォースの一撃がジバコイルの急所に直撃し、ジバコイルは吹き飛ばされた。ジバコイルは壁に激突し、技と壁への衝突のダブルパンチで戦闘不能となったのである。
手持ちのポケモンであるエレブーとジバコイルが戦闘不能となり、男は遂に戦意喪失となってしまう。その後通報を受けたジュンサーが駆けつけ、男を署へと連行したのであった。
「ハプウさん!それから君も!本日はありがとうございました!」
「なに、気にすることはないのじゃ!野菜も無事に届けることが出来たし、わしもバンバドロも満足じゃよ!」
「私も困っている人を助けたかっただけですので」
ハプウは発電所のスタッフたちの感謝を受けながら、再びバンバドロにライドしその場を後にすることにした。
「いやぁ……なんだか変な事件に巻き込まれてしまったが、なんとかなったのお。これもバンバドロとリーリエ、シロンのお陰じゃな!」
「そんな……私は何もしていませんよ。」
「謙遜することはないぞ?まぁ、そんなところもリーリエらしいがの。」
二人はそんな雑談をしながら、デコボコ道の先を進むのであった。
今回は話にハプウさんを絡ませてみました。こうなんて言うのか……ロケット団がやりそうな話はなんとなく書きやすい気がしますね。モブ戦なので戦闘もシンプルにすませました。
次回は分かんないけど恐らくブイズとの出会い回かな。少なくともアローラリーグまでには全てのブイズ回を書きたいと思っているので。