ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
四天王、カヒリに送られ、遂に第三の島であるウラウラ島に上陸したリーリエ。送ってくれたカヒリに感謝し、彼女とはすぐに分かれることとなった。なにせカヒリは四天王でありプロゴルファーでもある。彼女のスケジュールも忙しいのであろう。
ウラウラ島最初に上陸した街はマリエシティだ。ここはカントーに隣接したジョウト地方をモチーフとして出来た街で、観光地としても非常に有名な街である。野生のポケモンも生息し風情のあるマリエ庭園、カントー地方にあるジムをイメージしたジムオブカントー、アローラの歴史本が数多くあるマリエ図書館、と様々な施設がある。
更にウラウラ島にはアローラでも最も高いとされているラナキラマウンテンがそびえ立っている。そこは温暖なアローラで唯一の寒冷地であり、ポケモンリーグが設立された場所でもある。
すなわち、リーリエの最終目標地であり、島巡りのトレーナー全員が目指す夢の舞台が、このウラウラ島にあるのである。この島にくるだけで、不思議と緊張してしまうのは気のせいではないだろう。
しかし上陸して早々、ハウは観光及びマラサダを求めて駆け出して行った。ヨウはやれやれ、と半ば呆れながら自分も少し見て回るか、とリーリエに別れを告げた。ここからは彼らと別れ、再びリーリエの島巡りが再スタートする。
とは言えウラウラ島に到着したばかりでリーリエはどうしたらいいのか分からない。マリエシティを観光、と言っても2年前に軽くではあるが見て回ったので一人で歩き回るのは少し気乗りしない。ならば次の試練の場所の向かうべきだろうか?
そう考えたリーリエに、ロトム図鑑はある提案をする。それは「試しにマリエ図書館に立ち寄ってみてはどうロ?」というものであった。
確かに以前シンジと共にこの街に来た時もマリエ図書館へ立ち寄っていた。ほしぐものことについて調べるためだ。アローラの歴史が数多く眠るマリエ図書館。もしかしたらウルトラ調査隊のダルス、アマモたちが求めている情報が何かしらあるかもしれない。
そう考えたリーリエは早速マリエ図書館へと歩みを進めるのであった。
『それでどうしてマリエ図書館に行くだけで道を迷うロ?』
「うっ……そ、それは……」
ここでもリーリエの方向音痴が当たり前のように発動し、マリエ図書館に真っ直ぐ行ったつもりがマリエシティの先にある外れの岬に出てしまった。そしていざ戻ると、今度は何故かマリエ庭園まで戻ってしまい、ようやくマリエ図書館に辿り着いた、と思いきやジムオブカントーに入ってしまい恥ずかしい思いをしてしまうという、方向音痴にもほどがあると言わんばかりの様子であった。
『最初は行ったことある場所だから分かります、って自身満々だったのにロ……』
「そ、それを言わないで下さいよ!///」
初めに自分の言ったセリフを思い返し顔を赤くするリーリエ。気を取り直しマリエ図書館に入室する。
図書館というだけあり中は広く、本がたくさん並んでいる。当然殆どの人が本を読んでおり、非常に静かな空間がそこには広がっていた。
決して私語が厳禁、という場所ではないのだが、やはり興味のある本があるとどうしても集中してしまい、周りの事も見えなくなるのだろう。
しかしそんな中、リーリエの視界に見知った顔の人物が入ってきた。その人物は集中して本を読んでおり、リーリエの存在にも気付かない様子であったが、彼女が近付いて静かに声をかけると、読書を中断してリーリエの方へと振り向いた。
「お兄様?どうしてここに?」
「リーリエか。ここに来た、ということはグズマの試練も突破したのか。」
その人物とはリーリエの実の兄であるグラジオであった。リーリエは兄の質問に笑顔で頷いて答えた。グラジオもその回答には自然で笑みが浮かび嬉しそうな表情であった。
「俺は母さんに頼まれて調べ物をしていたんだ。」
「お母様から?」
リーリエの母でもあるルザミーネからの頼みで調べ物をしに来たというグラジオ。一体何を調べに来たのかというリーリエの質問に、グラジオは今読んでいる書物のあるページを指差した。
リーリエはその書物に目を通す。するとそこにはこの様に書かれていた
なにもない 空
突如として 穴が開き
一匹の獣 姿を見せる
太陽を 食らいし 獣と 呼ばれ
アローラの 王 歌う
太陽を 食らいし獣
獣 光り輝き
持てる すべての 力 放ち
島の守り神を 従える
太陽を 食らいし 獣
アローラの 王朝を
明るく 照らし
自然の 恵みを もたらす
太陽の獣 月の獣
交わり 新たな いのち よぶ
島の守り神
命 見守ると する……
アローラの 王朝
祭壇にて 二本の 笛を吹き
音色 捧げ
太陽の 獣 ソルガレオに
感謝の 気持ちを 表す
「お兄様、これって……」
「ああ、お前も知っていることだろう」
この書物にはリーリエも見覚えがある。2年前にシンジ、それからアセロラと共に調べた書物だ。
太陽を食らいし獣、ダルスの話では月を誘いし獣がルナアーラ、そしてそれの対となる存在こそがソルガレオ、つまりほしぐもだと。
この書物にはかつてアローラにて実際に起きた出来事が記録されている。本の内容を要約すると、かつて突然ウルトラホールが開き、ソルガレオがアローラに姿を現した。
太陽を食らいし獣、ソルガレオがアローラを光で照らし、恵みに光りをもたらした。そして島の守り神たちを従え、ルナアーラと共にアローラの命を見守る。
その栄光を称え、感謝の意味も込めて太陽の笛、月の笛を日輪の祭壇にて吹き、その音色をソルガレオに捧げた、ということだ。
つまり、かつてリーリエとシンジが行った出来事を、かつてのアローラでも行われた、ということである。
「お兄様が調べたい事というのは、このことですか?」
「確かにこの内容も興味深いものではあるが、これとはまた別にもう一つの本を見つけた」
グラジオが取り出したのもう一冊の本は、少し古びた本であった。サイズはそこまで厚くはないが、グラジオは軽く目を通したらしく、その中のある一文に注目した。
おおぞら より
ひかりのりゃくだつしゃ あらわれ
せかい やみに つつまれる
たいようを くらいし けもの うばい
たそがれの たてがみ となる
わかものと まもりがみ
いしを つかい ひかりを はなち
たいようを くらいし けものと
ひかりのりゃくだつしゃを わかちて
アローラの やみを おいはらう
そこにはそう綴られていた。
全て平仮名で、言葉も片言なため少々解読し辛いが、ここにはアローラでかつて起きたとある出来事の事を描かれているようである。
新たな単語、光の略奪者。リーリエに思い当たる節がない、わけではなかった。
「……かがやきさま」
リーリエはそうボソッと呟いた。グラジオはその単語に反応し思わず「知っているのか」と尋ねた。
「い、いえ、ただ、ウルトラ調査隊の人たちからチラリと聞いただけです。詳しいことは……」
「そうか……」
「もしかしてお兄様の調べたい事って」
グラジオはリーリエの言葉に頷いて答える。どうやら彼はアローラの歴史というよりも、かがやきさまに関しての情報を集めているようだ。
この本を見る限りでは、かつてアローラに現れたソルガレオと、光の略奪者、恐らくかがやきさまは何かしらの関連があるとみて間違いない。ここにかいてある“太陽を食らいし獣奪う”という一文を見れば分かるだろう。
若者、は恐らくかつてのポケモントレーナー、またはそれに近しい人物、そして守り神も共に登場している。そして石とその光は紛れもなくZクリスタルとZ技。最後には闇を追い払う、と記載されている。
この文章だけではイマイチ状況が掴めないが、リーリエはどこか嫌な予感を感じている。胸の奥に何かが刺さるような、ざわつきが収まらないのである。
「かがやきさま、か。」
グラジオはそう呟き本を抱える。
「取り敢えず俺はこれを借りて一度母さんに報告しに行く。もしかしたらエーテル財団で解読すれば、何かしらの情報が掴めるかもしれない。」
そう言ってグラジオはリーリエに背を向ける。しかし少し歩くと立ち止まり、口を開いてリーリエに尋ねた。
「……リーリエ」
「は、はい、どうかしましたか?」
「Z技、できるようになったか?」
「……はい、まだまだ未熟ですが、以前よりは形になったかと」
「……そうか」
リーリエの回答にグラジオは一言だけそう呟いた。そしてグラジオは再度口を開き……。
「……がんばれよ」
「お兄様……」
そう激励の言葉をかけグラジオはマリエ図書館を後にする。リーリエもその言葉を聞いて元気をもらうことができ、これなら次の試練にも迷いなく挑むことができると確信することができた。
光の略奪者、かがやきさま、そうしてダルスたちが暮らすもう一つの裏の世界。分からないことは多いが今は自分の出来ることをやるしかない。
試練を着実にこなしていき、トレーナーとしての実力を上げていく。そして、必ず約束の場所へと辿り着く。それこそが、今彼女が目指すべき目標なのだから。
今回出した本の内容はウルトラサンの殿堂入り後にマリエ図書館のアセロラちゃんに話しかけることで読めます