ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
リーリエがグズマとの大試練に挑戦している頃、チャンピオンであるシンジはポケモンリーグにて、四天王の一人であるハラと一緒にイーブイの特訓をしていた。
「イーブイ!スピードスター!」
『イブイ!』
「ハリテヤマ!つっぱりで受け止めなさい!」
『ハァリィ!』
イーブイのスピードスターをハリテヤマはつっぱりで正面から防ぐ。それを見たシンジは、さすがと一言呟いた。四天王のポケモンともなれば流石のシンジも苦戦は必至である。
「さて、本日はここまでにしましょうか。あまり根を詰めすぎても逆効果ですしな。」
「そうですね。イーブイ、お疲れ様。」
『イブイ♪』
シンジはイーブイの頭を優しく撫でる。イーブイも嬉しそうにシンジに擦り寄っていた。
「ハラさん、いつもイーブイの特訓に付き合ってくれてありがとうございます。」
「はっはっは!なに、気にしなくて構いませんよ。私たちにとってもいい特訓になりますからな!」
シンジとイーブイは時間さえあればこうしてハラや他の四天王たちにも特訓に付き合ってもらっている。イーブイはシンジのパーティの中でも新入りであり、旅で経験した数も少なくまだまだ未熟な部分も多いため、四天王である彼らとの戦いは非常に有意義なものである。
それにチャンピオンや四天王といえど、挑戦者たちが頻繁にくるというわけではない。島巡りを突破し、ポケモンリーグの結果次第でチャレンジャーと戦うため、普段はバトルをする機会がない。そのため、このようにしてコミュニケーションも兼ねてバトルをして互いに経験を積んでいるのである。
島巡りのトレーナーだけでなく四天王やチャンピオンも一人のトレーナーだ。トレーナーである以上、更に強くなりたいという向上心に関しては決して負けていないのである。
そんな彼らの元へ一人の女性が駆け足でやってきていた。このポケモンリーグに務めているスタッフのようだ。女性は少しおどおどした様子でシンジに話しかけてきた。
「ちゃ、チャンピオン!忙しいところすみません!少しよろしいでしょうか?」
「ん?うん、別に構わないけど、そんなに畏まらなくていいよ。」
「は、はい!す、すみません。」
チャンピオンはトレーナーにとって一番の目標とするべき存在であり、ポケモンリーグのトップにも近い存在。研究者の間で言えば一研究員がポケモン研究の第一人者、オーキド博士に話しかけるにも等しい。
仕方ないこととは言えシンジとしては気軽に話しかけてもらって構わないと思っているため、そこが最近の悩みの種でもある。
「じ、実はエーテル財団様の代表の方から連絡をいただきまして……」
「代表、ルザミーネさんから?」
女性スタッフの話によると、ルザミーネがチャンピオンであるシンジにエーテル財団まで顔を出してほしいとのことだった。急用、というわけではないようだが、シンジに直接伝えたいことがあるのだとか。
シンジはハラと顔を合わせると、ハラはシンジに頷く形で答えた。シンジはその行動を了承の意図と捉えると、その場を後にしてすぐにエーテル財団へと赴くことにした。
ルザミーネに呼ばれエーテル財団へとやってきたシンジ。ルザミーネの待っている部屋の前までやってくると、大きな扉をノックし、どうぞという声を確認してから扉を開けて入室する。
中には奥の大きな椅子に座ったルザミーネと隣には秘書であるビッケ、そして空間研究所所長のバーネット博士、さらにルザミーネの息子でありシンジのライバルでもあるグラジオがいた。
「グラジオ、君も呼ばれたの?」
「ああ、かあさ……代表から連絡があってな、どうやら俺とシンジに伝えたいことがあるらしい。」
ルザミーネはシンジとグラジオが揃ったことを確認すると、彼女は立ち上がり話始める。
「シンジ君、来てくれてありがとう。それとグラジオも、今までエーテル財団を守ってくれてありがとう。」
「母さん……いや、俺がしたいことをしただけだ。それに、俺がここまでやってこれたのは一緒に支えてくれた財団のみんな、それに秘書のビッケ、バーネット博士たちのおかげだ。俺一人では無理だった。」
「グラジオ……変わったわね、あなた。」
「ふっ、どこかの誰かのせいで、な。」
グラジオは自分を変えたという人物に目をやる。当の本人は気付いていないのか首を傾げるが、そんな彼を見てグラジオは「相変わらずだな」と心の中で呟き笑みを浮かべた。
「ビッケ、それからバーネットも、色々心配や迷惑をかけたわね。ごめんなさい。」
「代表、お気になさらないで下さい。私たちは自分たちの役割をこなしただけですので。」
「そうだよ。それに、私たちはあんたに謝ってほしかったり、感謝してほしいからやったわけじゃないんだ。私とあんたは親友で、ビッケはあんたの秘書、でしょ?」
「ビッケ……バーネット……」
優しく励ましてくれる秘書と親友の姿に涙を流しそうになるも、これ以上彼女たちに情けない姿を見せるわけにはいかないと、ルザミーネは俯くことなく涙をこらえる。そして代表として前を向き、再びシンジとグラジオの方へと向き直った。
「二人とも、改めて来てくれてありがとう。」
「いえ、それより話というのは?」
ルザミーネはシンジの質問に頷いて答え、二人の目の前にホログラム映像を映し出した。その映像にはゆらゆらと揺れている波打った線が映っており、上下に激しく動いている。一見何かの強弱を表しているようだが……。
「代表、これは?」
「これは今朝、バーネットから送られてきたデータよ。」
「バーネット博士から?じゃあもしかして!?」
察したグラジオの言葉にルザミーネは頷き、彼女の代わりにバーネットが答える。
「あなたたちが察した通り、これはUBたちの発するオーラ、ウルトラオーラの反応だよ。」
「そんな!?確かにUBたちは彼らの世界に返したはずじゃ!?」
「ええ。確かに私たちエーテル財団が彼らを元の世界に送り返しました。それは間違いありません。」
慌てるシンジたちにビッケが落ち着いた様子でそう返答する。その後「ですが」、とビッケは言葉を続けた。
「これを見てください。」
そう言って新たに映し出された映像には、とある石板が映っていた。
「これは……ウツロイド?それにカプ・コケコ!?」
「それだけじゃない。他のUBや守り神たちの姿も描かれているわ。」
「それにこの中心にいる巨大なのは……ポケモン?」
その石板の中央にはUBや守り神たちとは違う、一際目立つ存在がいた。周りは光で輝く姿が描写されており、非常に神々しい印象を彼らに与えていた。
「この石板はつい先日見つかったもので、昔アローラで繰り広げられた戦いを残した記録みたい。」
「ルザミーネさん。このポケモンは?」
「……かがやきさま」
「かがやき……さま……」
「シンジ、知っているのか?」
「以前、ウルトラ調査隊の人達に聞いた話に出てきてたんだ。まさかここで聞くことになるとは思わなかったけど。」
「もう一回この映像を見てもらえるかしら?」
そう言ってルザミーネは再び最初に見せた波の映像を見せる。シンジとグラジオもその映像に再び目を向ける。
「この映像、ウルトラオーラの反応なんですよね。」
「ええ、でも少し異質でね。ウルトラオーラの反応に間違いはないのだけど……。」
「どうかしたんですか?バーネット博士。」
歯切れの悪いバーネットにグラジオは訪ねてみると、彼女は少し悩んだ素振りを見せながらその問いに答える。
「実はこのウルトラオーラにはもう一つ、別の反応が感知されたの。」
「別の反応?それって……」
「私たちのよく知る存在、ぬしポケモンと同じオーラの反応よ。」
『っ!?』
シンジとグラジオは思わず驚きの表情を浮かべる。
ぬしポケモンといえば島巡りのトレーナーたちが挑戦する試練の一つであり、キャプテンに育てられているポケモンである。彼らの特徴といえば通常の個体に比べ一回りか二回り程大きく、能力も非常に優れているポケモンだ。
「それにもう一つ、このウルトラオーラ、かなり不安定で反応が強くなったり弱くなったりを繰り返しているの。本来のウルトラオーラであれば近づくごとに存在を感知できるんだけど、このオーラに関しては全く掴めないの。」
「もしかして、このオーラの反応が……?」
「ええ、かがやきさまの可能性が非常に高いわ。」
その言葉を聞き、シンジとグラジオは表情を暗くする。一難去ってまた一難。さらなる脅威がアローラに近づいているのである。
そんな彼らの様子を見て、ルザミーネは二人の肩に手を置いた。
「大丈夫よ、心配しないで。もしもの時のために、これからみんなで対策を考えようと思うの。」
「対策?」
「ええ、グラジオにはこれからマリエ図書館に行ってほしいの。かつてのアローラにまつわる本があれば、その情報を集めてほしいのよ。そこに何かヒントが記されてるかもしれないから。」
「……わかった」
「シンジ君は、ウルトラ調査隊の人たちと調査を進めてくれるかしら?彼らなら何か気付けることがあるかもしれないから。」
「分かりました」
「私たちはバーネット博士たちと共同で研究、及び監視を続行するわ。もし何か分かれば、エーテル財団まで連絡を頂戴。」
シンジとグラジオはルザミーネの言葉に頷き、早速自分の役割に取り掛かろうと部屋を後にする。
「まさかまたこのアローラに脅威が迫ってるなんてね。」
「ふっ、どこかの誰かさんが厄介ごとを引き付けてるんじゃないか?」
「ははは、なんだか否定できないんだけど……。」
グラジオに言葉にシンジは引きつった笑いをする。実際自分がアローラに訪れてから色々と起こりすぎているので、思い当たる節がないわけではない。
「なに、ちょっとした冗談だ。それに、俺たちが組めば何も怖いことなんてない……違うか?」
「グラジオ……違いないね。」
シンジはグラジオの言葉に同意し、笑顔で拳を突き合わせてそれぞれ別れて役割をこなすことにする。アローラの新たな脅威となり得る可能性のあるかがやきさま……彼らとアローラの運命はどのような結末が待っているのか?
「……はぁ、またあの子たちを頼ることになっちゃったわね。」
「代表……彼らなら心配いりませんよ。彼らは大人たちよりもしっかりしていますから!」
「ええ、それに、彼らを支え導くことが私たち大人の務め。そうでしょう?ルザミーネ代表?」
「……そうね。私たち大人は、彼らの未来のために支えなきゃ。そうよね?モーン……。」
ルザミーネは窓の外に果てしなく広がる青空を見上げ、そう呟いたのだった。
何気ないことでも社長に報告するときは毎回緊張するよね?女性スタッフもそんな気持ちなんだよ、うん。
来週ついにポケスナ発売日!みんな!カメラの準備は万全か!