ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
方向音痴により迷子になってしまったものの、ロトムの案内により無事ディグダトンネルを抜けることができたリーリエ。そしてその視線の先には、次なる目的地が見えてきていた。
『リーリエ!見えてきたロ!』
「コニコシティ……なんだか懐かしいです!」
アーカラ島の南西部に位置するコニコシティ。この先にある命の遺跡には、アーカラ島の守り神であるカプ・テテフが祀られている。
カプ・テテフが振り撒く鱗粉には癒しの効果があり、触れた者の傷を治すほど強力な効果が含まれている。しかしかつてはカプ・テテフの鱗粉を巡り争いがおこり、鱗粉に振れ過ぎた者たちの感情が暴走して多くの人たちの命が失われてしまった、とも伝えられている。
2年前、リーリエはほしぐもと共にこの場所を訪れたことがあった。当初の目的であるカプ・テテフに会うことは叶わなかったが、当時しまクイーンをしていた現四天王のライチ、そしてシンジの大試練による熱い戦いは今でも鮮明に思い出すことができる。トレーナーになった今だからこそ、あの戦いがどれだけ凄いものなのかがよく分かる。
リーリエ当時の思いを胸にコニコシティへと足を踏み入れる。街に入ると、子供たちが元気よく遊んでいる姿が目に入る。当時はライチがしまクイーンであったが、現在では元スカル団幹部であったグズマがしまキングを務めている。それでも街の雰囲気は全く変わっていない。
コニコシティは中華街と言うべき雰囲気の街で、大きな門を潜り抜けると左右にいくつもの店が並んでいる。
多くの街にある衣服の店、ブティックはもちろん、ヘアサロン、マッサージ店に御香屋、漢方屋などの珍しい店、そしてライチが経営しているジュエルショップ、マオの親が経営している飲食店等も存在する。
更にここはキャプテンであるスイレンの地元でもあり、彼女の実家もこの街にあるらしい。
『これからどうするロ?』
「そうですね……大試練を受ける前に、一日休息しようかと思っているのですが。」
流石にディグダトンネルを通り抜けてきたばかりなのでリーリエも疲労が残っている。急がずとも大試練が逃げるようなことは無いので直ぐに向かう必要はないだろう。
それに相手はしまキング、それも相手はシンジやグラジオを苦戦させたあのグズマである。準備する期間は必要だろう。
「折角ですし、マオさんの実家に立ち寄ることにしましょう!」
『ビビッ!?』
「どうかしましたか?ロトム図鑑さん?」
『な、なんでもないロ……。』
様子が可笑しいロトム図鑑に首を傾げつつも、リーリエはマオの実家である料理店の扉を開いた。その時に入店の合図を知らせるベルが鳴り、奥からは元気な「いらっしゃいませー!」と言う声が聞こえた。
「あれ?リーリエじゃん!来てくれたんだね!」
明るく出迎えてくれたのはキャプテンでありこの店の看板娘、マオだ。マオはリーリエの顔を見るなりすぐさま近寄ってくれる。
キャプテンと島巡りと言う間柄ではあるが、対象的に思えるものの二人はなんだかんだで気が合う。友好的に接してくれるマオに対してリーリエも話しやすいのであろう。
「もしかして今日はお客様?」
「はい、大試練のためにコニコシティに寄ったのですけど、折角ですのでマオさんのお店に立ち寄ろうかと思いまして。」
そう言うことなら、とマオはお客としてリーリエを席に案内する。昼を過ぎて結構時間が経っている中途半端な時間なので、現在他の客は少ない。お嬢様育ちのリーリエは店で食事をしたことが殆どないので、少し緊張気味である。
「ご注文は何にする?」
「えっと、オススメって何かありますか?」
「だったらこのZ定食ってやつだね!種類も色々あるから、好きなの選んでいいよ!」
リーリエがオススメについて質問すると、マオは迷わずにZ定食と呼ばれているものを指定する。種類もいくつかあり、肉、魚、野菜など、それぞれ別の食材を重点に置いた定食のようである。
リーリエはどちらかと言うと少食なので、この中でボリュームが一番少ない野菜を選択した。マオはリーリエの注文を承ると、すぐに厨房を担当している男性に伝えに行く。どうやら彼がマオの父親のようである。
マオの父親は彼女の注文を聞き受けると、すぐに料理を始める。長年料理をしているはずなので当たり前ではあるが、かなり手際がよく、最近やっと料理に慣れてきたリーリエもその素早い手捌きに圧巻する。
暫く待つと、マオが出来立ての料理を運んできた。客も少ないこともあり、料理ができるまでそこまでの時間がかかることはなかった。
運ばれてきた料理は白いご飯、味噌汁、そして野菜が多めに揚げ物と言った一般的な定食であった。リーリエは早速「いただきます」と、手を合わせて食べてみることにする。
味の方はと言うと、かなり美味しく、流石は自ら料理店を営んでいる程と感心する。シンジからも聞いていたが、彼女の両親の店はかなり評判がよく、時間帯になると席がすぐに満席になるほどだと言う。そう考えると、自分が訪れたのは丁度いい時間帯であったと言えるだろう。
おかずの味付けも丁度良く、白いご飯とマッチして箸が進む。リーリエもこの味には満足し、気が付けば既に完食していた。
「ごちそうさまでした」と満足そうに手を合わせるリーリエ。その表情にマオも嬉しそうに微笑み返した。
その時、マオが「そうだ!」と思い出したように椅子を立ち上がった。
「折角だから私の作ったご飯も食べて行ってよ!」
「え?まぁまだ少しだったら食べれますけど」
あまり胃袋の大きくないリーリエ的にはこの量でも満足できるぐらいであった。マオは食べきれなかったら全然残してくれても大丈夫、と言いそのまま厨房へと向かった。
そう言うことなら、とリーリエも料理を待つが、何故か無性に嫌な予感がした。そう言えば、とリーリエは試練の時の出来事を思い出す。
リーリエの集めた食材でマオが作った料理は、かなり、なんと言うか、変わったものであった。匂いも独特で、不思議と食欲も消え失せてしまうものであった。カキとスイレンも遠慮していたため、仕方なくリーリエ、そしてその時一緒にいたヒナは彼女の料理を口にした。
「…………」
リーリエは思い出すと同時に額から冷や汗を流す。あまりのショックで当時の記憶が抜け落ちていたのか、彼女の料理はかなり悲惨なものであった。お世辞にも美味しいと呼べたものではない。
冷静に考えてみればあの時集めた食材は甘い木の実に甘い密。そんなものを同時に加えれば甘さばかりが強くなってしまい癖のある味になってしまう。その上マオが混ぜたのが大きな根っこに小さなキノコである。
キノコならまだしも、根っこは食材として使うものではないのでは、と今になって考えてしまう。そうこうしている内に、マオの声がリーリエの耳に入ってきた。その声にリーリエは少しビクッとなってしまう。
「おまたせー!名付けて“Z定食マオちゃんスペシャル”だよー!」
そう言ってマオは自分の作った料理を持ってくる。Z定食マオちゃんスペシャル、と呼ばれるものは一見特に変わらない普通の定食である。……やたらと鼻を刺激する甘い香りがすること以外はだが……。
ああ言った手前今更断ることもできない。残してもいい、と言っていたため少しだけ食べて感想を言うしかないと覚悟を決める。リーリエはマオちゃんスペシャルを口へと運ぶ。
味は、以前食べたものよりかは幾分マシである。あの時のような口に残る感じは流石にない。
しかしやはりその香りも味も独特であり、なんとも表現できないものであった。辛いのか甘いのか分かり辛く、食感も色々と違うものが混ざっている感じがする微妙なもの。
どうどう!?と迫るマオだが、リーリエの反応も微妙なもので反応に困ってしまっている。表現に困っているリーリエを見て、ロトム図鑑は心の中である感想を述べていた。
(リーリエの表情、あの時のシンジと同じだロ……)
ロトム図鑑から見ても、2年前に見たシンジの表情と完全に一致するようであった。彼女が父親のような料理を作れるようになるまで、どれぐらいかかるのだろうか。
マオの店で食事を終えたリーリエ。また来てね!と明るく見送ってくれるマオだが、可能ならばマオの料理はなるべく控えたいと思うリーリエであった。
そんな彼女を店の外で待つ存在があった。その人物は店を出てきたリーリエを見かけ、やっとかと呟き声をかける。
「久しぶり、と言うほどでもないか、お姫さん。」
「ぷ、プルメリさん!?どうしてここに?」
彼女を待ち受けていたのは元スカル団の幹部、プルメリであった。プルメリとはオハナタウンで会った時以来であり、リーリエもまさかここで再会するとは思っていなかったため驚いた。
「なに、偶然立ち寄ったらあんたがこの店で食事しているのが見えたから待っていただけさね。」
その後、プルメリはそれより、と言葉を続ける。
「以前あんたに言ったこと、覚えてるかい?」
プルメリの言葉にリーリエは以前出会った時のことを思い返す。すると心の中であっ、と思い出した。
「次に会ったらバトルしよう。トレーナーだったら、当然断りはしないだろう?」
「プルメリさん……勿論です!」
手をギュッと握りしめ、バトルの申し入れを受け入れるリーリエ。その言葉を聞き、プルメリはニヤリと微笑み振り返った。
「ここじゃあなんだ。あたいに着いてきな、お姫さん。」
そう言ってプルメリはコニコシティの外へと向かって歩き出す。リーリエは彼女とバトルをするため、彼女の後に着いて行くことにしたのであった。
次回プルメリ姉さんとのバトルとなります。アーカラ島もようやく終盤となります。