ポケットモンスターサンムーン~ifストーリー~《本編完結》 作:ブイズ使い
次回はバトル回と言ったな?あれは嘘だ。(気が付けばこんな話になっていました)
他者に全く興味を示すことのなかったボーマンダと少し近づくことのできたリーリエ。今日はもう一人のパートナーの状況を見てみよう。
「ピチュー!でんきショック!」
『ピチュッ!?ピチュピチュ』
ヨウがパートナーであるピチューに、自分のポケモンであるニャヒートに攻撃の指示を出す。しかしピチューは攻撃することなく怯えてしまい、近くの物陰に隠れてしまった。
「うーん、やっぱりダメか……。」
『ニャット』
出会ったときに比べて距離を縮めることはできたと自負しているヨウだが、臆病なピチューは攻撃の指示を一切聞いてくれずにすぐ逃げ出してしまうのだ。
「最終日はバトルの日だからなぁ。何とかしてバトルができるところまでもっていかないといけないんだが……。」
ヨウの言う通り、この課題の最終日には参加者同士でバトルをしなければならない。それはトレーナーとしてポケモンとどれだけ仲良くなったかを知るには、バトルが最も分かりやすいという単純明快な理由からだ。
もちろん、このバトルは強制参加ではない。中にはバトルすることを嫌がるポケモンもいるため参加を強制させるわけにはいかないからだ。臆病なピチューもバトルに積極的になることはできないのだろう。
しかしヨウはピチューにバトルをしてほしいと思っている。なぜなら苦手なことから逃げていてはいつまでたっても成長しないからだ。少しでもピチューには積極的になってほしいところではあると思っているのだが。
「とりあえず戻ってくれ、ニャヒート。」
『ニャッブ』
ヨウは一先ずニャヒートをモンスターボールへと戻す。ピチュー自身ヨウに慣れてきたようだが、ニャヒートの事は少しまだ怯えてしまっている可能性がある。
「なぁピチュー。どうしてそんなに怖がっているんだ?」
『ピチュ……』
「もし嫌な事があったら言ってくれないか?力になりたいんだよ。」
『……』
ヨウはピチューの目線と合うように屈んで話しかけるも、ヨウの言葉にピチューは俯いてしまう。ピチューが話してくれなければ自分にはもう手詰まりだと頭をガシガシと掻いた。そんな時であった。
『ピッカチュ?』
『ピチュ?』
「えっ?あれって……ピカチュウ?」
そんな時彼の前に現れたのはピチューの進化系であり、世間的に有名なポケモンであるピカチュウだった。そのピカチュウの尻尾の先端はハート形であり、そのピカチュウがメスだということが分かった。
ピカチュウはヨウとピチューを見ると頭を傾げる。ピチューは珍しく怯えることなく、ピカチュウに興味を惹かれている様子であった。
「このピカチュウは?」
『ピカッチュ!』
「あっ!ちょっと待ってくれ!」
ピカチュウは突然走り始める。ヨウはそのピカチュウの事が気になり、ピチューと共に追いかける。
ピカチュウは近くの森の中へと入っていく。森の中は特に危険はないと聞かされているためヨウは迷いなく進んでいった。ピチューもヨウの後に続きピカチュウを追いかける。
暫く進んでいくと森の奥から光が見える。ピカチュウがどこへ向かっているのか気になりながらヨウは森の奥の光へと突っ切る。するとそこに広がっていたのは衝撃的な光景であった。
「こ、ここって……」
『ピチュ……』
驚くべきことに、その場所は一面ピカチュウだらけであった。右を見てもピカチュウ、左を見てもピカチュウ。まさにピカチュウ好きにはたまらないような場所だった。
「おや?君は……」
ヨウたちに目の前に現れたのは中年くらいの男性だ。男性はピカチュウがプリントされた白色のTシャツと半ズボンを着用しており、見るからにピカチュウ大好きと言う雰囲気であった。
「あ、俺は……」
「なるほど!君もピカチュウが大好きなんだね!?」
「え?いや、俺は」
「ふふふ、言わなくてもわかるよ。ピカチュウの進化前であるピチューを連れていることが動かぬ証拠だ!」
男性は興奮気味で熱く語る。これは話を聞いてくれなさそうだなと悟ったヨウは、もうこれ以上何も言うまいと突っ込まないようにした。
「さぁさぁ!奥のトレーラーに入りたまえ!」
(なんだろう。ハウ以上に手ごわい気がする……)
ヨウは半分あきらめ気味に男性の言う通り後をついていきトレーラーの中へと入っていく。そんな彼らを見つめるピカチュウたちの視線が気になるヨウであった。
「ゆっくりしたまえ、今お茶を淹れるから。」
「は、はぁ、ありがとうございます。」
(まさかトレーラーの中の家具までがピカチュウグッズばかりとは思わなかった。)
トレーラーの中にある食器、椅子、机、遊び道具だけでなく、今男性から出されたマグカップまでもがピカチュウを模したものであったため、ヨウは心の中で驚いていた。人の趣味はそれぞれであるため特に何かを言いたいわけではないが、敢えて言うとすれば部屋中が真っ黄色であるため目が痛くなるくらいだろうか。
「さあ遠慮なくくつろぎたまえ。何ならピカチュウクッキーも……」
「あっ、いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫です。」
ヨウのその言葉に男性はなぜか「そうか……」と少し落ち込んだ様子で呟いた。
食べてほしかったのか?となんだか少し悪く感じたヨウは、男性の好意に応じクッキーを頂くことにした。男性は気分を良くしてピカチュウクッキーを取り出しヨウに差し出す。
(本当にピカチュウの形してるし……)
クッキーの味は申し分なかったのだが、ピカチュウの顔が少しずつ欠けていくところを見ると何だが少し罪悪感というか、そういったものを感じてしまう。さすがにポケモンの顔が欠けるのはトレーナーとして抵抗を感じるところである。
「と、ところでここは一体どんなところなんですか?」
「ここはピカチュウの谷だよ。ピカチュウ好きのために私が世界中から各地方のピカチュウを集めて創った、ピカチュウとピカチュウ好きの楽園だよ!」
「……」
ヨウはイキイキと語る男性に何も言えなかった。少なくとも彼の熱意と愛情だけは感じることはできたが……。
「ここのピカチュウたちはあなたの捕まえたピカチュウってことですか?」
「いや、彼らは私のではないよ。私はピカチュウを好きになるうちにピカチュウにも好かれる体質になったようでね、彼らが勝手に私についてきただけなのだよ。」
なるほど、とヨウは納得する。熱意と愛情が伴い、どうやら男性にはピカチュウに対してのみではあるが好かれる才能があるようだ。
そうだ、とヨウは思いつき自分の傍で座っているピチューを抱えて男性の前へと差し出した。
「このピチュー、見ていただけませんか?」
「む?ピチューをかい?」
「はい。実はこのピチュー、極度の臆病な性格なんです。ただどうしてこうなったか、俺にも分からなく。あなたなら何かわからないかと思ったのですが。」
「どれ、ちょっと見てみようか。」
男性は先ほどの熱気はどこに行ったのかと言わんばかりに真剣な表情になりピチューを受け取りじっと見つめる。ピチューもこれには困惑する様子で、少し縮こまってしまっている。だが不思議と怯えている様子はなく、さすがはピカチュウに好かれるというだけはあるとヨウは改めて感心した。
『ピカチュ!』
「む?どうしたピカチュウ?」
男性に声を掛けたのは先ほどヨウが見かけたメスのピカチュウだ。ピカチュウの話を聞いて男性は「うんうん」と頷いている。本当に理解しているのかは微妙ではあるが。
『ピカピカ、ピカチュウ。ピッカチュ!』
「ふむふむ、なるほどなるほど。」
「あ、あの、ピカチュウが何を言っているか分かるんですか?」
「もちろんだ。どうやらこのピチューには一種のトラウマがあるようだ。」
「トラウマですか?」
ヨウが聞き返すと、男性は「うむ」とだけ答え話をつづけた。
男性の話によると、どうやら以前に凶暴なポケモンに襲われたことがあるそうだ。その出来事が脳裏に焼きついてしまい、次第に性格が臆病になってしまったそうだ。
「そんなことがあったのか。」
「その時、このピチューのトレーナーもピチューを置いてどこかへと逃げてしまったらしい。」
「……」
男性のその話を聞いてヨウは自然と怒りが溢れてくる。ポケモンを見捨てて逃げるトレーナーが許せなかったからだ。ポケモンの事が好きなトレーナーであれば当然の感情であろう。
そんなとき、トレーラーの外で何かしら爆発音が聞こえた。
「っ、一体なんだ!?」
男性とヨウは慌てて外へと出る。するとそこには一匹のポケモンがピカチュウたちを問答無用で襲っている姿があった。
『ドラァ!』
「っ!?あれはドラピオン!?」
そこにいたのはどく・あくタイプのドラピオンであった。ドラピオンは一方的にピカチュウたちを襲い、ピカチュウたちは逃げ回るばかりであった。
『ピチュッ!?』
ピチューはドラピオンの姿を見て動きを止める。よく見るとピチューが小さく小刻みに震えているのが分かる。その様子から、ピチューの過去のトラウマの相手はドラピオンであることが分かった。
「行くのだ!我が愛しのピカチュウよ!」
『ピッカ!』
そう言って男性の合図と同時に飛び出したのはあのメスピカチュウであった。どうやらこのピカチュウのみは男性のパートナーなのだということがその様子から分かった。
「私のピカチュウたちに手を出すものは、私が成敗する!ピカチュウ!でんこうせっか!」
『ピカピッカ!』
ピカチュウは素早い動きでドラピオンに接近し一直線に突撃する。ドラピオンはピカチュウの動きを捉えることができずでんこうせっかをマトモに受けて怯んだ。
『っ、ドラァ!』
「かげぶんしん!」
『ピッカァ!』
ドラピオンは鋭い手から無数のミサイルばりでピカチュウに反撃するが、ピカチュウはそれに負けないくらいの自身の分身を作り出しミサイルばりを回避する。
「す、すっげぇ……」
『ピチュウ……』
ヨウはただただピカチュウの戦いぶりに感嘆の声をあげるしかできなかった。その姿からただのピカチュウ好きにできるような戦いではないと心の中で驚きの声をあげていた。
そしてピカチュウはドラピオンの頭上で全ての分身を集約し、尻尾に力を集中させていた。
「アイアンテール!」
『ピッカチュピ!』
ピカチュウはアイアンテールでドラピオンの頭上へと振り下ろす。ドラピオンは今の一撃で既に疲労が溜まり反撃も困難な状態となっていた。
『……ピチュ!』
「え?ピチュー?」
ピチューは何かを決意したかのように頷きヨウを見る。ヨウはそんなピチューの決意に満ち溢れた顔を見て、ピチューが何を考えているのか分かった気がした。
「分かった!やるぞ、ピチュー!」
『ピッチュ!』
『ピチュ!ピチュピッチュピ!』
『ピカッ?ピカッチュ!』
ピチューはヨウのその言葉と共にピカチュウの元へと走り隣に立つ。そう、ピチューの決意とはピカチュウと共にドラピオンを倒すことであった。
「ピチュー!でんきショック!」
「ピカチュウ!10まんボルト!」
『ピッチュウ!』
『ピィカチュウ!』
『ドラッ!?』
そして同時にでんきショック、10まんボルトをドラピオンに放つ。ドラピオンはその同時攻撃の直撃を受け、逃げるようにして森の中へと戻っていった。これでもうドラピオンはピカチュウの谷を襲う事はないであろう。
周りのピカチュウたちからは歓喜の声が沸いていた。どうやらドラピオンを追い払ったピカチュウとピチューを称賛しているようであった。
「ピチュー!よくやったな!」
『ピチュピチュ!』
ピチューはヨウの元へと飛びつく。どうやら先ほどの一撃と共に過去に受けたトラウマを振り払う事ができたようだ。ピチューは満面の笑みをヨウへと向けていて、ヨウも釣られてピチューに微笑み返したのだった。
「いやぁ、君のピチューのでんきショックは中々に強力だね。いいもの見せて貰ったよ!」
「いえ、あなたのピカチュウこそすごい戦いぶりでした。」
「ハハハ!自慢のピカチュウだからね!」
男性は心底嬉しそうに高笑いをする。よっぽどピカチュウの事が好きなのだという事が分かるくらいに笑顔を浮かべている。
「君のピチューも無事トラウマを克服したようだし、これからが楽しみだ。」
『ピチュピッチュ!』
『ピカッチュ!』
ピチューは男性のピカチュと何か話をしている。ヨウにはピカチュウの言葉が分からないが、ピチューが今回の件でピカチュウに感謝していることだけは伝わった。
「今日はありがとうございました!色々と勉強になりました!」
「お礼は私ではなく、このピカチュウに言ってほしいな。私はピカチュウの言葉を君に伝えただけなのだから。」
「はい、ピカチュウ、ありがとう。」
『チャア!』
ヨウが感謝しながらピカチュウの頭を撫でると、ピカチュウは嬉しそうに可愛らしい高い鳴き声をあげる。手を離すと、少し名残惜しそうにしていたのは恐らく気のせいではないだろう。
ヨウは男性の別れを告げ、「また必ず来ます」と伝えてピカチュウの谷を後にした。このピチューは自分のピチューではないが、まるで自分のことのように今回の出来事は嬉しく感じる事ができた。
心なしか、ピチューもヨウと一緒にいられることが嬉しいのだと思っているように感じられる。それがピチューの本当の感情なのか、それはピチュー本人にしか分からない。
ポケモンの厳選している時が一番楽しいと思う今日この頃
私はピカチュウが嫌いなのではなく、ポケモン=ピカチュウと結び付ける人が嫌いなだけであってピカチュウは可愛いから好きです。
因みにポケモンオブザイヤーではブラッキーが5位、ニンフィアが6位と大健闘でしたね。ミミカス、ガラル人気にドラパがいる時点でガチ層の投票が多そうな気がしますけども。
今私の中で弱保リーフィアが熱い