Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

6 / 27
健君の方の話ですね。


6話 未来

side健

 

教室にて。

紅い夕日が窓から俺の目に直接届き、床からも反射して2つの光が目を細くさせた。

教室には殆ど誰もいない。部活に行ったり、その他の人々は既にHRが終わってだいぶ経つので帰宅していた。

そんな部屋に残っているのは俺と教卓の上に座ってこちらを見てくる先輩。相手が女性なら少女漫画のような甘酸っぱい青春ストーリーの一部なのかもしれないが、その先輩も俺と同じ雄だ。

 

「健、バンドやらないか?」

さっきから、いや、会うたびにこの人はこればっかりだ。正直なんでそこまで俺にこだわるのだろうか。

 

「いや、やりませんよ。優人先輩」

 

「オッケー。明日練習あるからな。いいな」

この人強引すぎるよ。俺の都合は無視ですか。ハイハイ、オッケーオッケー。…………いや、何一つオッケーじゃないです。

 

「…………何一つ良くないです。勝手に話を進めないでください」

 

このくだりは昨日、咲野 優人先輩が生徒会室に乗り込んで来た時と全く同じだった。

名前同士で呼び合うようになったし、それなりに仲良くなったつもりだが、だからと言ってバンドに入るかと言ったら話は別だ。

 

「何が不満なんだよ?」

 

「不満があるわけではありません」

そう、バンドというもの自体に興味がないわけではない。

 

「じゃあなんなんだ?」

 

「俺は趣味の範囲でギターをやってるだけです。でも、あなた達は本気だし、プロも目指してるじゃないですか。それに、もうスカウトもいっぱいきてるって噂で聞きました。そんなグループに俺が入れるわけがありません」

俺がいても邪魔になる。だから、バンドには入らない。

 

「その手を見たら誰もが本気だって思うだろうけどな。……それに、もし仮に俺達のバンドが本気じゃなくて、実力もなかったら、お前は俺らのグループに入るのか?」

 

「……………………」

その言葉には言い返せない。

多分、俺がギタリストとして成長できるのは本気で演奏しているバンド以外ありえない。

 

「じゃあーー」

 

「本気とかそれ以前に、技術の問題なんですよ」

俺は先輩の言葉を遮り、言い放つ。下を向いて、何もかも諦めているようなオーラを出して。俺自身も、なぜここまでムキになっているかはわからない。でも、自分のためではなく、先輩達のバンドを思ったの言葉と行動だった。俺なんかいたところでーー

 

「…………なら、お前ギター弾いてみろよ」

 

「え?」

なんで?

そうなった意図がわからない。

 

「ほら、ギター貸すから」

 

「いや、いいですよ」

 

「遠慮すんなって」

遠慮なんかしてない!と大きな声を出しかけたが、少し抑えて、

「いやいやいやいや。無理ですって!」

何回断ればいいんですか。この人、悪い人ではないんだろうけど。

 

「チェッ、それじゃ、今日のところはこれぐらいにしとくか」

小さく舌打ちが聞こえたが、不快にさせるような舌打ちではないのはわかった。

良かった。これでもうこないはず………。

 

「また明日な」

 

へ?

先輩明日も来るの!?もう諦めてくださいよ〜。

 

 

 

 

 

 

翌日

 

 

side優人

 

俺は軽くグロッキー状態に陥っていた。

昨日寝る前に新曲の歌詞が思いついたから、そのまま書き留めて、そのまま一つの曲を作ってしまった。集中力がおかしいくらいに解放されたため、時間などはどうでも良かった。しかし、それが終わる頃にはまばゆい朝日が俺の部屋の窓から射し込んできた。

朝日に気づくと溜まった疲労が一気に押し寄せ、「寝たい!」と思ったが、バイトが入ってた。1時間ほど遅刻だわ。やっちまったな。朝からはやっぱキツイな。

沙綾の奴、心配するどこらか軽くひいてたぞ。

学校中は文化祭の準備で慌ただしかった。

そのうるささに余計に疲れていた。

 

 

しかしーー

 

 

不意にギターの音がした。

 

 

でも、この音に気づいているのは周りを見ても俺だけだった。

 

 

誰だ?誰が弾いている?

 

 

春か?香澄やおたえか?

 

 

いや、……………………否だ。

 

 

俺の知ってる人の中でこんなに心落ち着くようにギターを弾ける奴はいない。

 

 

とにかく、どこで弾いているか探そう。

 

 

 

「ここか」

そこは俺達、軽音楽部の部室だった。

 

 

ならばやはり、春だろうか?

 

 

いや、先ほども言ったが、否だ。

 

 

これは違う。ひたすらギターだけに時間を費やしてきたのが伝わってくる音だ。

 

 

「とりあえず入るか」

 

 

俺が部室に入ると共に音は止み、音の原因はこちらを向いた。

 

「なんでいるんだ?」

 

「鍵で開けたからですよ」

 

「そういうことじゃなくて、なんでギター弾いてんだ?ーー

 

 

 

 

 

ーー健」

そう健だった。俺の熱意が伝わり、バンドに入ることを決意してくれたのだろうか。

 

「先輩が弾けっていうから、来たんじゃないですか」

 

へ?

マジでこいつやる気になったのか?

 

「じゃあ、お前……」

 

「別にやる気になったわけではありません。俺の実力を知ってもらった方が諦めてもらえると思って」

………………そういう……事か。でも、このメロディを聴いたら、余計諦めがつかなくなりそうだな。

 

「…………そうか。でもな、お前の演奏が俺をここに連れて来たんだ。正直言って、凄いよ」

素直に言葉が出て来るあの雑音の中、確かに俺の耳に綺麗な音が届いたのだから。

 

「ありがとうございます。……でも、やっぱり俺はーー」

こよ先は何を言いたいか、理解した。

なので俺は

「わかってるよ」

 

「え?」

 

「もう、無理に勧誘はしない。お前の才能も技術も積み重ねてきたものもわかった。それでも、お前はまだ断るなら、無理には誘わない。でもーー」

ここで一息溜める。

 

「なんですか?」

健は俺が言葉を止めたので、そう聴いてきた。

 

「お前がバンドしたくなったら、いつでも来いよ」

 

「………………はい!ありがとうございます!!」

 

さてと、ここで問題がある。俺ら、サボりじゃね?

そう思うと早く教室へ戻ろうという気になる。

 

「優人先輩、そろそろ教室戻った方が良いと思うんですけど」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

俺達は部室から出る。しかし、

 

 

「お前ら何サボってんだー!!」

ヤッバ!先生に見つかったよ。

 

「健」

 

「はい」

 

「逃げるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

俺達はなんとか先生から逃走成功した。

でも、また不幸が訪れる。

 

俺が教室のドアを開けようとしたその瞬間に、ドアがひとりでに開いた。

いや、内側から開いたのだ。

俺は眠気&疲労のせいで思考が鈍っていたため、誰がいるのかわかっておらず、そのまま前進した。

しかし!俺は誰かにぶつかった!そりゃそうだ!誰かがドアを開けたのに誰もいないはずがない!!

 

俺は態勢を崩す。

これが運のつきだ。

俺はその場に倒れる。

なんとか両手で支えたため、床に顔面が接することはなかった。

 

なんだか顔に息がかかる。

嫌な予感。

恐る恐る、目を開く。

 

 

「あ……」

 

なるほど。これはあかん。

みーんな見てるよ。

だってーー

 

 

 

ーー丸山を押し倒す態勢になってるんだもん。

 

 

 

「あー、そのー、……ごめん」

 

しかし、丸山は顔を赤くしたまま何も言わない。

 

てゆか、ホントに両手で体勢を保って正解だったわ。じゃないと丸山にキスしてた事に……。

 

自分で考えておきながら顔が赤くなるのがわかった。

 

顔の距離は僅か5センチにも満たない。

 

俺は丸山の顔を直視できなかった。

いくら、恋愛に興味がないと言っても流石にこれは照れる。

 

しかし、そう考えると同時にキスしたいな、と考えている俺がいた。

丸山を異性として好きとかそういうのじゃなくて単なる鼓動が速くなっている事と、押し倒した事によってできたムードのせいだ。

 

まあ、しないけどね。

 

すると、丸山が、

「……………て」

 

「え?」

何か言ったが聞き取れなかった。すると、次の瞬間、ハッキリと聞こえる声で、

 

 

 

 

 

「早くどいてくれないかな?///」

 

「あっ…………」

 

そうだよなー!

なんで俺、すぐにどかなかったんだろうな!

そういや、ここ教室の中だったわー!!

 

「ご、ごめん!」

 

 

この時皆が面白おかしくニヤニヤしたり、恋愛ドラマを見ている様な顔をしてたのは言うまでもない。はたや、嫉妬の目線を丸山に向ける者も多かったが。。

 

 

 

 

だけど、1人だけ違った。

 

春だった。

 

あいつは他の皆と全然違うのは一目瞭然だった。

 

だって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつだけ、ムービー撮ってるんだもん!!!

 

 

なんて日だッッッッッッッ!!!

ッの量な。

 

絶対後でこれをネタにいじられまくるのが予想できた。

 

 

 

 




次は沙綾の話をしていきたいです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。