Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

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4話 Happiness

side優人

 

明日は練習がない日だった。そしてバイトもない。なので、引きこもりの予定だ。なのに、なのにぃ!

 

『先輩!私達のライブ来てください!』

 

「…………………………はぁ?」

電話の相手は後輩の香澄だ。

というか、「ふざけるな!なんで休日なのに外にでなきゃいけないんだよ!」と言いたかったけど、それよりも一つ、気になる事があった。

 

「てゆーかお前、俺の番号どこで知った?」

 

『沙綾に教えてもらいました!』

さーやさん……。何で教えたの?まあ、構わないけど。。

 

『ライブ、来てくださいね!』

でも、香澄と連絡取り合っても一方的に話すだけだろ、向こうが。

 

「いや、おまーー」

 

『明日、有紗の家でやります!それじゃ!!』

ほらな、言ったろ?

自己中すぎるな、こいつ。呆れを通り越して感心するよ。まあ、それを全部ひっくるめて明るいってことなのかも、、

つーかその前に、明日の予定勝手に決められた上に市ヶ谷の家知らねーし。

どうする……。

行かなくていっか!

すると、再び電話がかかってくる。相手は……香澄。嫌な予感しかしない〜。

「もしもーー」

 

『春先輩と陸先輩も誘っておきましたから!春先輩に有紗の家は教えてあります!それでは!』

プツッ。

いや、「もしもし」くらい聞けよ!

なんなんだよ!俺先輩だぞ!

 

一方的すぎないか……?

まあ、元気あるはいいことだけど、元気すぎるのはちょっとね……。

まあ、いいや。行ってやろう。この短期間でどれだけ上手くなったか、見てやるか。

 

 

翌日。

「ふぁぁ。……寝みぃ」

俺はとても起きる時間とは思えないほど、遅くに目覚めた。でも、時間は今から行けば、クライブには間に合うだろう。

今日はバイトはないが、沙綾の家に行って、あいつらにパンでも買ってってやるか。

家を出て、やまぶきベーカリーへと向かう。バイト無くてもあの店には行きたくなるなぁ。まあ、あれだいい匂いにつられてフラッと寄ってしまうんだ。

「いらっしゃいませー。あ!先輩!」

 

「よお、沙綾。今日は客として来たぞー」

俺はそう言いながら、チョココロネを10個ほど買う。多分俺の分は無くなるんだろうな……。

「こんなに買って、どうしたんですか?」

 

「いやー、なんか香澄達が市ヶ谷の家でライブするって言ってて、それに呼ばれたんだよ。チョココロネは先輩からの差し入れみたいな」

 

「先輩も呼ばれたんですね」

先輩『も』ってことは、

 

「沙綾もか?」

 

「はい……」

苦笑いしながら、答える。しかし、俺はその表情を見て心配する。

 

「……大丈夫…………なのか?」

 

「…………バンドが嫌いになったわけではないので」

 

「そっか」

俺は沙綾のバンドの一件を知っている。

別に沙綾がバンドをやめる必要性はなかったと思う。

だけどそれ以上に、自分が何もできなかったことが悔しい。

だから、香澄達が沙綾をバンドに誘ってくれたらありがたいが、恐らく、もう断られているだろう。

だけど、『CHiSPA』の一件を知ったら、また沙綾を誘うだろか?

「………い、……輩、先輩、…優人先輩!」

 

「うおっ!どうした沙綾!?」

 

「いや、よかったら一緒に行きませんか?」

 

「おお、いいぜ。でも陸と春と待ち合わせしてるからな」

 

「わかりました。準備して来ますね」

待ってる間に俺はスマホでテキトーに音楽を聴いて待つ。沙綾の支度が終わり、俺達は店から出る。

陸と春との待ち合わせ場所へ向かう。

「陸、春、おはよう」

 

「おはよう」

 

「おはよう優人……と沙綾。久しぶりだね」

 

「お久しぶりです、春先輩」

 

「もしかしてお邪魔だった?」

 

「いえ、そんな!」///

という春と沙綾の会話は俺には聞こえていない。

「2人共、どうした?」

 

「優人、気づいてないの?沙綾ちゃんはきみの事が」

 

「スタップ!ストップ!陸君ストップ!!いやっ、なんでもないよ!」

 

「どうした?すげぇ慌てようだけど?」

 

「先輩には関係ありませんから!」

なんか俺だけ外されてる?

 

「そこまでスパッと仲間ハズレにされると、俺にも傷つくものがあるぞ」

 

「冗談言ってないで、さっさと行くよ」

 

「俺は割と真面目だったんだが……」

そんな俺がなぜか被害にあう会話をしている内に市ヶ谷の家に着いた。

やった!これでこの会話は強制的に終わる!!

俺の目論見通りこのただただ俺をdisる会話はおわったが、新たな刺客が現れた。

 

黒髪ロングの清楚な美少女だった。背中にあるのはギター。いかいもクールそうな少女だった。恐らく性格も容姿に見合っているのだろう。

しかし、彼女は俺の手を握って、

「ギター、教えてください」

 

「へ?」

 

「ち、ちょっとおたえ!?」

 

黒髪ロングの少女はおたえと呼ばれているらしい。

 

「沙綾!これが興奮せずにいられるの!?全国の高校生の中で1番と言われるギタリストが今、目の前にいるのに!?」

うわー、目、すっごい輝いてる。てゆーかよだれたらさなかった今?性格残念だなー。でも、この子もライブに呼ばれたんなら香澄の知り合いってことだろ?てことは、この性格も納得できる。

 

「あの、一旦離れてくれないかな?」

 

「なんでてすか?」

 

「い、いやー、女の子に手を握られてるのはちょっと……照れるというか……」

 

「じゃあ離す代わりにギター教えてください!」

 

「いやー、それは」

 

「じゃないと離しませんよ?」

何それ!?怖い!?現役JKは脅しなんかしたらいけません!ヤンデレなんだな!

てゆーか、少しずつ顔を近づけるな!

そして、もうそろそろでキスする距離になるので俺は、、

「わかった!わかった!今度教えるから!」

 

「ありがとうございます」

そう言って俺に笑顔を向けた。その笑みは満点なんだけどなぁ。性格があーでなければ……色々残念だな。

「てゆーか沙綾、なんで若干拗ねてんの?」

 

「えっ!顔に出てました!?」

あっ、否定しないんだ。

 

「ハッ!拗ねてなんかないです!!」

いや、手遅れだよ。

 

「それよりそろそろ行かない?」

おお、流石春、この永遠に終わりそうにない会話を終局へと導いてくれた、神よ!

……………………厨二臭いな。やめとこ。

 

俺達は市ヶ谷家の蔵に入る。そもそも蔵があること自体はツッコまないでおこう。

蔵に入ると、観客席側には数人、既にいた。1人は、おばあちゃん?で。1人は妹?で。あと1人が、

「あ!ゆり先輩!先輩も呼ばれたんすか?」

 

「うん。だって、りみの演奏姿見たいもの」

 

「そ、そうすか」

そういえば姉妹だつだな、この2人は。

 

「私、ゆり先輩の隣座るね」

 

「あ、ああ」

 

「今思ったけど男子、僕らだけだね」

 

「そうだな、すっかり忘れてたよ」

まあ、気にせず座ろう。もう、後にはひけないし。

 

さあてライブだ、ライブだ!

と思ったが違和感を覚える。

おたえはん、なんであなたは演奏する側に?

おたえちゃんをバンドに入れるためのライブって聞いたけど。

まあ、香澄達と弾きたくなったんだろうな。一回合わせてみて、楽しかったんだろうな。だから今、ステージにいるのだろう。

 

「こんにちは!戸山香澄です!クライブに来てくださり、ありがとうございます!!」

 

わりかしまともなMCでちょっと安心してしまった。

 

「今日はおたえと沙綾、あっちゃん、優人先輩、春先輩、陸先輩、ゆりさん、おばあちゃんをドキドキさせます!てくれたら嬉しいです!!」

 

相変わらず好きだな『ドキドキ』。

 

「いきます!『私の心はチョココロネ』!」

 

 

 

 

 

 

ライブ後。

メンバー4人は抱き合っていた。いや、変な意味じゃなくて!

皆はドキドキしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少なくとも俺はしなかった。

 

やっぱり俺をドキドキさせるのはあの声しかないのだろうか

 

もう何年も『ドキドキ』を感じていない

 

いや、あったな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苦しい方の『ドキドキ』だけど


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