Full Bloom 〜満開の歌声を〜 作:grasshopper
side優人
今日は俺の日常を紹介していこう。
俺の朝は太陽より早い。朝目覚めると、俺は自分の弁当をまず作る。まあ、ダルくて作らない日もけっこーあるけどな。
その後、朝メシを食べ、身支度を済ませ、学校ではなくバイト先のパン屋に向かう。
俺はエプロンを着て、いつも通りのクソみたいに仕事をこなしていた。
そして、沙綾が家の方から店に来た。手伝うのだろう。
「沙綾、おは」
「おはようございます、先輩。昨日も練習でしたか?」
「まあな」
素っ気なく返す。こいつにはあまりバンドのことを話さないようにしている。
バイトは殆どレジ打ちだけだ。お客がくるまでは俺もパンをつくるが。
と、思っていたら客がきた。
「いらっしゃいませー。て、お前らか、蘭、モカ。おはよう」
この2人は美竹 蘭と青葉 モカ。《Aftergrow》というバンドをやっている。2人にはたまにギターの練習に付き合ってあげている。もう、俺なんか必要ないと思うんだけどな。詳しい紹介はメンバー全員が揃った時にするよ。
「おはよう……優人先輩」
「おはよ〜〜ゆーと先輩」
「モカは今日もパンか。いつもご贔屓してくれてありがとな」
「感謝してるなら、奢って欲しいな〜〜」
ごめん、撤回。結局俺がこいつに奢るとバイト代がこの店に戻るだけ。
つまり、この店を贔屓にしてんのは結果俺だわ。
「こないだ奢ったばっかだろ。まぁいいや、奢ってやるよ」
俺の懐はeverydayであったかいんだからぁ。
「やった〜〜!」
「蘭もいいんだぜ」
「…………私はお弁当があるから」
「え〜、でも、蘭さっき今日は学食って言ってたじゃん」
「ちょっとモカ!」
何で嘘ついたんだ?俺の金なんかで飯を食うのは屈辱ってことか。自分で言ったくせに自分で傷ついてしまった。まあ、そんなことないやろー。フラグ。
「別に遠慮すんなよ、蘭」
「じ、じゃあ、お言葉にあまえて」
良かったーー!フラグじゃなくてホンッッッット、良かったーー。
そうして会計をする。
「バンドどうだ?」
「調子いいですよ〜〜。蘭の作った歌詞聴きます〜?」
「お!いいねいいね」
やっぱモカとはイタズラの波長があうなー。思考回路が全く同じなのか?
「ちょ!モカやめて!先輩もふざけないでください!」
「ハハ、冗談だって」
「全く……」
「まあ、あれだ。バンド、頑張れよ。これからも応援してるよ」
俺はパンの入った袋を渡し、蘭の頭を撫でた。
「ん?どうした?顔赤いぞ」
「なんでもない!」
蘭は逃げるように出て行った。モカはありがとうございました〜、だけ言って店を出て行く。
「沙綾、俺そろそろ上がるわ」
「あ、はい。わかりました。お疲れ様でした」
俺はエプロンを脱ぎ、扉を開き、学校に向かう。
その途中で俺はあまり何もしたくない。
もちろん、話すこともだ。眠いから仕方ないんだなーこれが。
「ふあ〜〜」
「朝から眠そうだな」
「おお、冬夜。おはよー」
と言いつつも俺は心の中で呟く。
空気読めよ!!
こいつは
俺の3番目の親友。
1番と2番はもちろん、陸と春だがな!こんなにも言い切ったら、恥ずかしさなんてもんは吹き飛ぶな。
「おはよ、今日もバイトか?」
「まーな、放課後は練習あるから朝出ないとな」
昨日の練習はあれだなー。…………特に大した出来事なかったわ。いつも通りだったわ。
「ふーん、大変だな」
「そう思うならもっと尊敬したまえ」
そうだぞ冬夜君、君は俺より下等民族なんだ。下っ端は下っ端らしくしてろよな。冬夜の扱いがあれだ。雑だな。
「ハーイ、スゴイスゴーイ」
「お前、張り倒すぞ」
あ、こいつも雑だった。ならば然るべき行動を取るのみ。それは取り敢えず締めるということだ。
「そんなことより、優人。お前、昨日も告白されてたよな?」
いや、話題の切り替えの早さな。締めるタイミング見失っただろ。
「うぐっ!痛いとこつくな。見てたのかよ。ストーカーか?お前、そんな趣味が……。しかも男の俺を……」
まさか、友人がゲイだったとはな。これから距離を置こうかな。
「バカか!?ちげーし!なんで男子のストーキングしなきゃなんだよ!」
あ、違うんだ。安心安心。でも、ホントにゲイって可能性も0じゃないから、やっぱり少し距離を置こう。
「それで見てたのか?それとも噂か?」
「ああ、バッチリ見てた。結構可愛い子だったじゃん。なんで付き合わないんだよ」
「別に恋愛とかキョーミないからな。そういうお前はどうなんだよ?」
これは事実だ。俺は女性にドキッとしたことがない。もちろん、男性にもないからな。
「俺か?俺も誰とも付き合ってねーよ。告白、昨日はされてない」
「『昨日は』ってことはつい最近告白されたんだな?」
どんだけ告られてんだよ。そんなんだから、チャラ男の称号がついたんだぞ!まあ、誰とも付き合った事は無いらしいけど。
「まーな。断ったけど」
「ハァ、これだからイケメンはムカつくんだよ」
「いや、お前も十分イケメンって持て囃されてんじゃん。事実、俺よりモテてるくせによ」
「大して変わらねーだろ」
こんな内容がものすごく薄い会話をしていると、学校に到着していた。
「俺、職員室に用あるから」
冬夜が言ってきた。
「わかった。先、教室行っとく」
階段を登っていると、春に遭遇した。
「春、おはよう」
「おはよう優人。今日は冬夜君と一緒じゃないんだ」
「まあな。それより、今日は練習だからな。遅刻するなよ」
「こないだ遅刻した優人に言われるのはなんだかなぁ」
そんな会話をしながら、教室に入る。因みに、春も冬夜も同じクラスだ。
とりあえず、席につき、鞄を横にかける。
「おはよう、優人君。眠そうだね」
隣から、声をかけられる。
「おはよう丸山。今日も朝からバイトだったからな」
俺の隣の席の丸山 彩。アイドル志望だそうだ。どうでもいいが、俺の感想を言わせてもらう。ピンクの髪って珍しいよな。
「昨日も練習あったの?」
「ああ、新曲を合わせたよ。近々、ネットにアップするよ」
「いいなー、優人君のバンドは人気があって。私もそれぐらい人気になりたいよ」
「あのなぁ、俺達はまだプロにすらなってないんだぜ」
「でも、いろんな事務所からデビューしないかって言われてるんでしょ」
な、なぜそれを!貴様、ニュータイプか?
「ど、どこで知った?」
「事務所の人が話してるのが聞こえちゃった」
「そ、そーか」
何とか頑張って気にしてない雰囲気を出すが、全然意味ないね。
「なんか断る時に『確かにプロにはなりたいですけど、まだ自分達が納得いく成果を出されてないので、プロでもやっていける自信はありません』って言ってたって聞いたよ」
丸山は悪戯な笑みを浮かべていた。
「…………まぁ、この話は置いとくとして、お前もなんかバンド始めたんだろ。アイドルバンド?だったか?」
すると丸山の顔が曇る。いつも明るいのに。絶対何かあったな。
俺は真面目に話を聞く事にする。
「う、うん。そうなんだけどさ。その事で相談したいことがあるんだ。場所を変えよ」
俺達は屋上に行く。
「はあ!?口パク!?弾いてるフリ!?何だよそいつら!バンド舐めてんのか!!今すぐ締めてくる!!!骨も残らないと思え!!!!」
「骨もですか!?じゃなくて!」
こんな状況でもノリいーじゃねーか。てゆーか真面目に聞くんだったわ。
でも、イライラしたのは本当だ。
だから無意識に指の骨を鳴らす。
「わー!ちょっと待って!行っても何の解決にもならないよ」
………確かにそうだ。
一度冷静になろう。
「けどよ、丸山、お前はそれでいいのか?お前の憧れてたアイドルってのはそんな歪んだものなのか?」
「確かに最初はだめだと思ったけど勝手に話が進んで。私なんかが口出しするのも……」
「は?なんだよ、お前?まだ研究生気分なのか?言っとくけどな、ステージに立つのはお偉いさんじゃないんだ。お前らなんだ。だから、お前が意見を言わなくてどうする」
「うん。でも、メンバーの中にも賛成している子もいたし」
「だから、意見を言わないのか?たかが1人の人間の意見を聞いただけで諦めるのか?」
「…………」
言い過ぎたかな。
「まあ、でも、俺がしてあげれる事はないからなぁ。そうやって相談したかったり、愚痴をこぼしたかったらいつでも言ってくれよ」
俺のこの言葉を聞くと、丸山の顔は晴れ、笑顔になった。
「うん!ありがと!なんだかやる気になってきたよ」
そう言ってあいつは去って行った。
俺は1人屋上に残される。
雨が降り始めた。
梅雨も近いかな。
最後が書きたかっただけです。結構重要なことを書いたつもりです。