Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

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3話 雨唄

side優人

 

今日は俺の日常を紹介していこう。

俺の朝は太陽より早い。朝目覚めると、俺は自分の弁当をまず作る。まあ、ダルくて作らない日もけっこーあるけどな。

その後、朝メシを食べ、身支度を済ませ、学校ではなくバイト先のパン屋に向かう。

俺はエプロンを着て、いつも通りのクソみたいに仕事をこなしていた。

そして、沙綾が家の方から店に来た。手伝うのだろう。

 

 

「沙綾、おは」

 

「おはようございます、先輩。昨日も練習でしたか?」

 

「まあな」

 

 

素っ気なく返す。こいつにはあまりバンドのことを話さないようにしている。

 

バイトは殆どレジ打ちだけだ。お客がくるまでは俺もパンをつくるが。

 

 

と、思っていたら客がきた。

 

 

「いらっしゃいませー。て、お前らか、蘭、モカ。おはよう」

 

 

この2人は美竹 蘭と青葉 モカ。《Aftergrow》というバンドをやっている。2人にはたまにギターの練習に付き合ってあげている。もう、俺なんか必要ないと思うんだけどな。詳しい紹介はメンバー全員が揃った時にするよ。

 

 

「おはよう……優人先輩」

 

「おはよ〜〜ゆーと先輩」

 

「モカは今日もパンか。いつもご贔屓してくれてありがとな」

 

「感謝してるなら、奢って欲しいな〜〜」

 

 

ごめん、撤回。結局俺がこいつに奢るとバイト代がこの店に戻るだけ。

つまり、この店を贔屓にしてんのは結果俺だわ。

 

 

「こないだ奢ったばっかだろ。まぁいいや、奢ってやるよ」

 

 

俺の懐はeverydayであったかいんだからぁ。

 

 

「やった〜〜!」

 

「蘭もいいんだぜ」

 

「…………私はお弁当があるから」

 

「え〜、でも、蘭さっき今日は学食って言ってたじゃん」

 

「ちょっとモカ!」

 

 

何で嘘ついたんだ?俺の金なんかで飯を食うのは屈辱ってことか。自分で言ったくせに自分で傷ついてしまった。まあ、そんなことないやろー。フラグ。

 

 

「別に遠慮すんなよ、蘭」

 

「じ、じゃあ、お言葉にあまえて」

 

 

良かったーー!フラグじゃなくてホンッッッット、良かったーー。

そうして会計をする。

 

 

「バンドどうだ?」

 

「調子いいですよ〜〜。蘭の作った歌詞聴きます〜?」

 

「お!いいねいいね」

 

 

やっぱモカとはイタズラの波長があうなー。思考回路が全く同じなのか?

 

 

「ちょ!モカやめて!先輩もふざけないでください!」

 

「ハハ、冗談だって」

 

「全く……」

 

「まあ、あれだ。バンド、頑張れよ。これからも応援してるよ」

 

 

俺はパンの入った袋を渡し、蘭の頭を撫でた。

 

 

「ん?どうした?顔赤いぞ」

 

「なんでもない!」

 

 

蘭は逃げるように出て行った。モカはありがとうございました〜、だけ言って店を出て行く。

 

 

「沙綾、俺そろそろ上がるわ」

 

「あ、はい。わかりました。お疲れ様でした」

 

 

俺はエプロンを脱ぎ、扉を開き、学校に向かう。

その途中で俺はあまり何もしたくない。

もちろん、話すこともだ。眠いから仕方ないんだなーこれが。

 

 

「ふあ〜〜」

 

「朝から眠そうだな」

 

「おお、冬夜。おはよー」

 

 

と言いつつも俺は心の中で呟く。

空気読めよ!!

 

こいつは漣 冬夜(さざなみ とうや)

俺の3番目の親友。

1番と2番はもちろん、陸と春だがな!こんなにも言い切ったら、恥ずかしさなんてもんは吹き飛ぶな。

 

 

「おはよ、今日もバイトか?」

 

「まーな、放課後は練習あるから朝出ないとな」

 

 

昨日の練習はあれだなー。…………特に大した出来事なかったわ。いつも通りだったわ。

 

 

「ふーん、大変だな」

 

「そう思うならもっと尊敬したまえ」

 

 

そうだぞ冬夜君、君は俺より下等民族なんだ。下っ端は下っ端らしくしてろよな。冬夜の扱いがあれだ。雑だな。

 

 

「ハーイ、スゴイスゴーイ」

 

「お前、張り倒すぞ」

 

 

あ、こいつも雑だった。ならば然るべき行動を取るのみ。それは取り敢えず締めるということだ。

 

 

「そんなことより、優人。お前、昨日も告白されてたよな?」

 

 

いや、話題の切り替えの早さな。締めるタイミング見失っただろ。

 

 

「うぐっ!痛いとこつくな。見てたのかよ。ストーカーか?お前、そんな趣味が……。しかも男の俺を……」

 

 

まさか、友人がゲイだったとはな。これから距離を置こうかな。

 

 

「バカか!?ちげーし!なんで男子のストーキングしなきゃなんだよ!」

 

 

あ、違うんだ。安心安心。でも、ホントにゲイって可能性も0じゃないから、やっぱり少し距離を置こう。

 

 

「それで見てたのか?それとも噂か?」

 

「ああ、バッチリ見てた。結構可愛い子だったじゃん。なんで付き合わないんだよ」

 

「別に恋愛とかキョーミないからな。そういうお前はどうなんだよ?」

 

 

これは事実だ。俺は女性にドキッとしたことがない。もちろん、男性にもないからな。

 

 

「俺か?俺も誰とも付き合ってねーよ。告白、昨日はされてない」

 

「『昨日は』ってことはつい最近告白されたんだな?」

 

どんだけ告られてんだよ。そんなんだから、チャラ男の称号がついたんだぞ!まあ、誰とも付き合った事は無いらしいけど。

 

 

「まーな。断ったけど」

 

「ハァ、これだからイケメンはムカつくんだよ」

 

「いや、お前も十分イケメンって持て囃されてんじゃん。事実、俺よりモテてるくせによ」

 

「大して変わらねーだろ」

 

 

こんな内容がものすごく薄い会話をしていると、学校に到着していた。

 

 

「俺、職員室に用あるから」

 

 

冬夜が言ってきた。

 

 

「わかった。先、教室行っとく」

 

 

階段を登っていると、春に遭遇した。

 

 

「春、おはよう」

 

「おはよう優人。今日は冬夜君と一緒じゃないんだ」

 

「まあな。それより、今日は練習だからな。遅刻するなよ」

 

「こないだ遅刻した優人に言われるのはなんだかなぁ」

 

 

そんな会話をしながら、教室に入る。因みに、春も冬夜も同じクラスだ。

とりあえず、席につき、鞄を横にかける。

 

 

「おはよう、優人君。眠そうだね」

隣から、声をかけられる。

 

 

「おはよう丸山。今日も朝からバイトだったからな」

 

 

俺の隣の席の丸山 彩。アイドル志望だそうだ。どうでもいいが、俺の感想を言わせてもらう。ピンクの髪って珍しいよな。

 

 

「昨日も練習あったの?」

 

「ああ、新曲を合わせたよ。近々、ネットにアップするよ」

 

「いいなー、優人君のバンドは人気があって。私もそれぐらい人気になりたいよ」

 

「あのなぁ、俺達はまだプロにすらなってないんだぜ」

 

「でも、いろんな事務所からデビューしないかって言われてるんでしょ」

 

 

な、なぜそれを!貴様、ニュータイプか?

 

 

「ど、どこで知った?」

 

「事務所の人が話してるのが聞こえちゃった」

 

「そ、そーか」

 

 

何とか頑張って気にしてない雰囲気を出すが、全然意味ないね。

 

 

「なんか断る時に『確かにプロにはなりたいですけど、まだ自分達が納得いく成果を出されてないので、プロでもやっていける自信はありません』って言ってたって聞いたよ」

 

 

丸山は悪戯な笑みを浮かべていた。

 

 

「…………まぁ、この話は置いとくとして、お前もなんかバンド始めたんだろ。アイドルバンド?だったか?」

 

 

すると丸山の顔が曇る。いつも明るいのに。絶対何かあったな。

俺は真面目に話を聞く事にする。

 

 

「う、うん。そうなんだけどさ。その事で相談したいことがあるんだ。場所を変えよ」

 

 

俺達は屋上に行く。

 

 

 

「はあ!?口パク!?弾いてるフリ!?何だよそいつら!バンド舐めてんのか!!今すぐ締めてくる!!!骨も残らないと思え!!!!」

 

「骨もですか!?じゃなくて!」

 

 

こんな状況でもノリいーじゃねーか。てゆーか真面目に聞くんだったわ。

でも、イライラしたのは本当だ。

だから無意識に指の骨を鳴らす。

 

 

「わー!ちょっと待って!行っても何の解決にもならないよ」

 

 

………確かにそうだ。

一度冷静になろう。

 

 

「けどよ、丸山、お前はそれでいいのか?お前の憧れてたアイドルってのはそんな歪んだものなのか?」

 

「確かに最初はだめだと思ったけど勝手に話が進んで。私なんかが口出しするのも……」

 

「は?なんだよ、お前?まだ研究生気分なのか?言っとくけどな、ステージに立つのはお偉いさんじゃないんだ。お前らなんだ。だから、お前が意見を言わなくてどうする」

 

「うん。でも、メンバーの中にも賛成している子もいたし」

 

「だから、意見を言わないのか?たかが1人の人間の意見を聞いただけで諦めるのか?」

 

「…………」

 

 

言い過ぎたかな。

 

 

「まあ、でも、俺がしてあげれる事はないからなぁ。そうやって相談したかったり、愚痴をこぼしたかったらいつでも言ってくれよ」

 

 

俺のこの言葉を聞くと、丸山の顔は晴れ、笑顔になった。

 

 

「うん!ありがと!なんだかやる気になってきたよ」

 

 

そう言ってあいつは去って行った。

俺は1人屋上に残される。

 

 

 

 

 

雨が降り始めた。

梅雨も近いかな。




最後が書きたかっただけです。結構重要なことを書いたつもりです。

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