Full Bloom 〜満開の歌声を〜 作:grasshopper
「へぇ……じゃあ、結局キーボーディストも集まったんだ」
僕は教室にて、現在のRoseliaの状況を教えてもらっていた(というより聴かされていたという方が正確だが)。
しかし、その相手は友希那ではなかった。
「うん、そうなんだよねー。しかもその子、なんか小さい頃には賞とかとってたんだって」
相手はクラスメイトの今井さんだ。朝に「おはよう」と挨拶し合う程度なので、僕からしたらあまり仲良くなったつもりではないが、彼女距離とかはあまり気にせず、壁を作らずに話すことのできる人だとわかった。
「……ホントに?だとしたら、僕達は今まで近くに優秀なピアニストがいたことに気づかなかったということ?」
「近くっていっても、燐子はこの
燐子さんっていうのか……。今日の練習で優人や春に知り合いかどうか聞いてみよう。
「そっか。ならしょうがないか……。でも、なんで僕らは2年近くバンド組んでるのに、メンバーは初期の3人のままなんだろう…………」
そう、僕らのバンドはもう1人2人は欲しいものの、全く寄り付かない。
「やっぱり有名だから、みんなレベル的に寄り付きにくいってことでしょ」
「別にそこそこの技術があればいいんだけどなぁ」
「その『そこそこ』の基準が高いって思われてるんだって」
「まあ、しょうがないかな。…………それより、FUTURE WORLD FES.には出られそう?」
この質問は実力や、グループの雰囲気を指したつもりだった。
「うん!合わせた感じは良かったかな」
「そっか。なら、みんなに伝えておいてほしいことがあるんだけど。いいかな、今井さん」
「うん。別にいいよー」
「じゃあ、『僕達もフェスに出場する』って伝えてもらえる?」
「……………………マジ?」
「うん。まだ優人達には言ってないけど、多分乗り気になると思うよ」
この事を直接友希那に伝えなかったのには意味があった。直接言っていたら絶対拗ねたと思う。そこを今井さんというワンクッションを置く事で少しでも緩和したかったのだ。
「はあ、わかった伝えとく」
「助かるよ、今井さん」
そうして僕は教室を出て、優人と春の待つライブハウスへと向かった。
「えぇ!?FUTURE WORLD FES.に出る!?なんで、去年は出なかったのに今年は出る気なんだ!?」
優人は声を上げていたが、反感を買ったわけではなさそうだ。なぜなら、若干声は弾んでいるし、表情を見ても口元が喜んでいるのがわかるからだ。
「去年は去年。今年は今年だよ」
「まあ、陸の決定なら文句は言わないけどよ!」
大した説明もせずに優人は納得してくれた。理由なんかどうでもいいって顔してるし。
「それよりもどうして急に?」
春も出場すること自体には何も言わないので、出てもいいということだろう。
「なんて言うのかな……。そろそろこういう本格的なものにも挑戦しないとプロとの実力差が分かりづらいから、かな」
というのは建前で、本音は優人と友希那をぶつけたいだけだ。
それに、僕らの実力ならそこら辺のプロには負けないとも思っている。別に自意識過剰なわけではなく事実なのだ。以前その事実を否定し、自分達は下手だ、と言ったら嫌味にしか聞こえないと言われたことがある。
「なるほどね〜。私も出てもいいよ。陸君がそこまでやる気なら、とことん付き合うよ」
春はそう言ったが、どうやら僕よりもやる気を出している。本当に頼もしいよ。
「わかった。ありがとう、僕の我儘に付き合わせちゃって……それと、Roseliaが5人揃ったって」
「えっ!?そうなのか!?」
「うん。知ってたよー」
どうやら優人と春の情報網は全く違うらしい。
優人は出遅れたという顔をして、なぜか悔しがってた。別に悔しがることでもないような……。
「春はどこで知ったの?」
「大したツテがあるわけでもないよ。ただキーボードの子が友達だったってだけだから」
「あっ、そうなんだ」
「と言っても、その子がピアノやってるなんて私も今まで知らなかったから優人が知らなくても無理ないよね」
「ちなみにその子は誰だ?お前の友達ってことは元俺らのクラスメイトってことだよな?」
あっ、そっか。この2人、ずっとクラス一緒だったんだっけ。なんかいいなぁ。僕だけ仲間はずれみたいな感じで。まあ、2人はそういうのを気にせず接してくれるから有難いけど。
「燐子だよ。白金燐子。優人もそれなりに話してたよね?」
「はぁ!?白金、ピアノやってたのか!?俺、聞いてない!」
なんだか話の焦点がどんどんズレていってるような気がするけど、本質は変わってないからいいや。でも、練習したいから僕は、
「と、取り敢えずこの件についてはもういいかな?そろそろ練習始めよう」
僕は長くなりそうなのを察して、練習を促した。2人は気持ちをすぐに切り替えてくれた。
その後、曲を合わせてみると、2人の音が少し力んで聴こえた。いや、僕も入れて3人ともだろう。予想以上のリアクションをしてくれた優人はもちろんのこと、春もやる気は十分だ。どうやらRoseliaも出場してくると察したようだ。全力で友希那達に勝ちに行くんだろうな。
久しぶりに優人と陸が同じステージの上で競い合うのを観れるのだ。そのためにも足を引っ張らないように、僕も頑張らなきゃな。
と、僕も密かに心を躍らせていた。
僕は練習が終わって家に帰っていた。
「ただいま」と言って、家族からの返事を聞くと洗面所で手洗いをし、すぐに自室へと続く階段を上る。
制服から部屋着に着替える。大した柄のない藍色のシャツに腕を通す。
それから夕飯を食べようと、再び一階に降りようとするが、その前にスマホを開いた。
すると、日菜から通知が来ている。
「明日は休みの日だから遊びに行きたいのかな?」
僕は予測し、少し微笑み、1人呟く。
しかしながら、内容は違っている。
『明後日はあたし達のお披露目ライブだから見に来てね!特等席を用意してるから!』
なるほど、強制イベントだね。ま、これが日菜の通常運転なんだけど。
それより、明後日は日曜だから練習あるんだけど……早く切り上げさせてもらおう。今日、僕からフェスに出ようと提案したのに、2人には申し訳ないことをしちゃうな。
優人と春を誘ってもいいけど、アイドルに興味はないだろう。
まさか、2人にもパスパレのメンバーに知り合いがいるっていう、そんなミラクルがあるわけでもないだろうから。
僕は早速優人と春とのグループにメッセージを入れておいた。
『今度の土曜日、夜に用事ができたから早めに始めてもいいかな?』
2人からはすぐに既読が付き、ほぼ同タイミングで返信が来た。
『OK!!』
『りょーかいっ!』
と、優人と春から送られてきた。
2人が快く快諾してくれたお陰で、僕はすぐに日菜に返事をすることができた。
『わかった。日曜日に行くよ』
すると、こちらもすぐにメッセージを確認したのか、
『ヤッター!!後から行かないって言うのはナシだからね!』
「ホントだよ。嘘ついたって意味ないじゃないか」
僕は小声でそう口から溢した。その時、呆れ混じりにも微笑んだのはナイショだ。
僕はスマートフォンの電源ボタンを押し、机の上に置いた。そのまま部屋から出て家族の待つリビングへと向かう。
その道中の階段で、僕は思ったことがあった。
「みんな、なんで僕に対してこんなに早く返事するんだろう……?」
エキスパート、あと12曲でフルコン制覇します。
レベル26はY.O.L.O!!!!!とハッピーシンセサイザのみ……。あいつら難過ぎです……。