Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

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お久しぶりです。なんか投稿ペースがグダグダになりつつありますが、頑張ります。


2話 Break the Chain

「友希那の出番は次だね」

 

僕は隣にいる紗夜に確認をする。紗夜は、

 

 

「ええ、分かってます。それにしても……」

 

紗夜は言葉をそこでせき止めた。多分、お客がみんな友希那を待っているからだ。しかも、騒いだり、混雑するのではなく、静かに。

これだけで友希那の人気はわかるものだが、紗夜の目つきは変わらず。

僕も実は友希那の歌が楽しみなのだ。彼女の歌を聴くのは楽屋やステージ袖ということが多くて、客として見た回数を数えるには両手で足りるだろう。

紗夜が誰かとぶつかったり、後ろで騒いでいる女の子を注意しようとしていたが、ハッキリ言ってどうでも良かった。

 

 

友希那の歌を聴くのが楽しみなのだ。

 

 

以前聴いた時からより洗練されているはずだ。

 

 

そして友希那が登壇した途端、お客さん達の歓声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

いま、クラス中の視線は僕の方に集まっている。いや、教室以外にも、廊下にいる人がこちらを見ていた。他のクラスの子も見に来たのだろう。

なんで、こんなにこちらを見ているのか。その答えは簡単だった。それは学年で、いや、校内でもかなり有名な友希那が昼休憩時に僕の元へやって来たからだ。

彼女は、数日前のライブで見事紗夜を認めさせ、1人目のメンバーを確保した。その後、出待ちしていた女の子にドラマーとして入れてください!と言ってきた子がいたが、一蹴していた。

でも、今はその事は置いておこう。

何故友希那がここにいるのか。それは僕から話があると誘ったのだけど、まさか教室に来るとはね……。

 

 

「それで陸、話って?」

 

 

「あ、うん。今のところ他のメンバーの目星はついてるのかな?って思っただけだよ」

 

 

「いえ、まだ決まってないわ。だから陸、貴方は……」

 

「お断りします」

 

全く、友希那も懲りないなぁ。どうして僕に固執するんだろう。

 

 

「それよりドラマーは昨日の子じゃダメだったの?やる気は十分だと思ったけど」

 

 

「彼女は自分のことを世界で2番目のドラマーと言ったのよ?」

 

 

「うん。それがどうしたの?自信持ってるんだからいいんじゃない?」

 

 

「私が目指すのは頂点よ。No.2のドラマーが私の理想のメンバーになるはずがないわ」

 

……一理あるから何も言い返せない。

 

 

「それにあの子はお姉さんが世界1のドラマーと言ったわ。そこが気にくわないのよ。だって、1番のドラマーは陸ですもの」

 

 

「っ!ちょ、友希那何言ってるんだい!?恥ずかしいからやめてよ!」

 

あくまでも友希那の独断と偏見によって決めたNo.1のドラマーが僕だとひても、真正面から言われるのは……照れる。

 

 

「そんなことよりも、早くメンバー見つけないて練習しないといけないんだから、僕も知り合いに話してみようか?」

 

これでも高校生でバンドをやってる人達の関係は広い。それなりに上手でガッツのある人も見つかるだろうし。

 

 

「いいえ、遠慮しておくわ。陸の手を煩わせるわけにはいかないもの」

 

 

「わかった。そろそろ予鈴鳴るから、教室に戻った方がいいよ」

 

 

「そうね。じゃあ」

 

そう言って友希那はまるで周りの目を気にせず教室から出て行った。もしかしたら気づいてなかっただけかも。

僕らを観ていたギャラリーは友希那が教室を出て行くのを見送り、そのまま見えなくなるまで彼女を観て、見えなくなった途端、僕の方に集まって来た。

 

めんどくさいなぁ。質問ぜめ。

そう思ったら、僕はチャイムに救われたのだった。

 

 

 

 

 

放課後になり、僕は教室を出ようとする。

 

 

「さてと、練習行かなきゃ」

 

クラスの男子の友達と下駄箱まで降りて、靴を履き替えたのちに正門へ向かう。

すると、正門前で何やら人だかりができていた。といっても、それほど集まっておらず、友人含む3人がいて、それを通りすがりにチラ見している人が多かったからそう見えただけだ。

その3人とは、友希那と今井さんとこの間のドラムの子だった。というか、うちの中等部の生徒だった。

何事だろう?と思ったけど、よそ様の問題に首を突っ込むのは良くないだろう。

僕は友人と、何も知りませんというオーラを醸し出して通り過ぎようとするも。

でも、

 

 

「ちょっと待ちなさい、陸」

 

話しかけられたらそこで終わりなんだよ。

僕は友達に「ごめんけど今日は一緒に帰れそうにないから」と言った。3人の友達は厄介事には関わりたくないけど、女の子とはお喋りがしたいという2つの気持ちで揺れた結果、帰った。

 

 

「さてと、友希那。一体どうしたんだい?」

 

しかしこの問いに答えたのは友希那自身ではなく、今井さんだった。

 

 

「え?友希那と陸って知り合いだったんだ。なんで教えてくれなかったの友希那」

 

もっとも、これが返答になっているとも思えないけどね。

というか、友希那と今井さんは幼馴染だそうだ。今日の昼休憩に今井さんが教室に残ってたら絶対もっと視線がヤバかった気がする……。

 

 

「だって聴かれてないもの」

 

どんどんと話が逸れて行ってる。このままだと、最終的には地動説くらいのスケールに変貌しそうなので僕が軌道修正を買って出る。

 

 

「そんな事よりどうしたんだち?こんな正門の真ん前で…………その子、この間のドラム志望の子だよね?内容は大体想像ついたけど、一様説明してくれるかい?」

 

そう言ってザッと教えてもらった事をまとめると、どうやら今井さんがオーディションをやるという提案をし、友希那が一回セッションすることだけを認めた。それでダメだったらもう2度と来るな、ということだ。

 

 

「成る程ね…………。つまり僕は関係ないね。じゃあ」

 

 

「待ちなさい陸。貴方にもオーディションを立ち会ってもらうわ」

 

 

「なんでなんだい?僕がいたって出来ることは何も無いよ?それに邪魔になるかもだし」

 

これは本音だった。

自分で言うのもなんだけど、僕は困っている人は放って置けないタチだけど、自分にできないことは静かに見守り、自分の出番を大人しく待つタイプだと思っている。

なので、今回の案件はいくら待っても僕の出番は無いだろう。

だから最後まで友人として邪魔はしたくない。僕がオーディションに行くと集中の妨げになったり、ギャラリーがいるだけでドラム志望の彼女も緊張するかもしれない。

 

 

「いいえ陸、貴方はきっと邪魔にはならないわ」

 

 

「何を根拠に……」

 

 

「根拠?そんなの勘よ」

 

 

「そんなのって……」

 

そんなのってアリ?と言おうと思ったが『勘』という言葉の前ならどんなに言葉を並べても意味ないと悟った。

 

 

「……分かった。僕もついて行くよ」

 

友希那は微笑を浮かべていた。今井さんは……ポーカーフェイスだね。それにあの中等部の子も今は特に緊張は伺えないかな。

 

それにしても。

友希那も『勘』なんて言うんだね……。

 

そんな事を考えながら僕は3人について行った。

 

 

 

 

 

ライブハウスCiRCLEに到着した。

ここは僕達も良く来るライブハウスだ。というか今日の練習もここで行うので一曲終わればすぐに練習に向かえるわけだけど。

 

問題は2人に……優人になんて言うかだ。

多分友希那のバンドの事だと知ったらこちらに突撃してくるだろう。

だから、僕は春だけに連絡を入れて、上手く隠蔽してもらう。

 

友希那を先頭に予約を入れていたスタジオに入る。

僕が「お邪魔します」と言うと、後ろに続く今井さんや宇田川が真似して「お邪魔します」と言った。

スタジオ内には紗夜が既に来ていた。彼女は僕がいる事に若干驚いたが、僕以外にも人がいる事に気付いた。

 

 

「湊さん、桃月さん。この人達は?」

 

すると、今井さんと宇田川が自己紹介を始め、オーディションをする理由を友希那が述べた。

 

 

「という事は実力はある方なのですね?」

 

 

「努力はしているらしいわ。勝手に練習時間を使ってごめんなさい。実力がなければ、2人ともにはすぐに帰ってもらうわ」

 

…………ん?2人?

ちょっと僕は含まれてないの?

練習あるんだけど。紗夜もなんで意義なしみたいな顔してるのさ。違和感とか感じなかった?

 

 

「リサ姉!あこ絶対合格するように頑張るから!」

 

 

「そうだね。あこ、ファイトっ」

 

そろそろ始まる空気になって来たかな。オーディションを執行する側も受験する側も準備できてるようだし、僕はそろそろ用済みかな。

しかし、

 

 

「できればベースもいると、リズム隊として総合的な評価ぎできるんだけれど……」

 

紗夜がそう言うと、友希那は彼女ではなく僕の方を向いた。紗夜もわざとらしくこちらに向く。

わかった、そういうことね。

僕にベースをやらせる為に連れて来たんだね。多分、彼女らは自分の口から言わないだろうから、時間重視で僕から立候補しよう。

 

 

「じゃあ、僕がベー……」

 

 

「あ、あのさ。アタシが弾いちゃダメかな?」

 

僕の言葉は今井さんによって中断された。だけどそれは僕にとっては好都合だ。最近あんまりベースは触ってないからなぁ。

 

 

「リサ姉、ベーシストだったの!?」

 

 

「昔ちょっとやってたんだよね。誰もいないんでしょ?だったらアタシ弾くよ。待ってて、ベース借りてくるから!」

 

誰もいないわけではないが、今井さんが異論反論を受け付けずにそそくさとベースを借りに行ったので、言い出せる雰囲気ではなくなっていた。

 

 

 

そして、今井さんがしばらくして戻ってくると、早速オーディションが始まった。

僕は見学する。義務付けられてるだけなんだけどね。

 

そうして4人のセッションが始まった。

 

 

「っ!!」

 

音が肌にビリビリ伝わってくる。その刺激が鳥肌を立たせる。

しかし、そのことに気づかないほど、脳にも刺激が届いていた。

4人も驚きが隠せていない。

 

それもそうだ。

昨日今日で集まった4人の演奏がこんなにもハイクオリティだなんて、誰の想像にもつかない。

まだまだ技術面て劣っているメンバーもいるし、全然合わないパートもある。

 

 

 

 

 

「『調和』というよりも、『共鳴』だね……」

 

僕は思わず呟いた。

僕も過去に1・2度、その『共鳴』というものを感じたことがあった。

そして、ある確信もしていた。

 

 

きっと彼女達は大きく羽ばたく、と。

 


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