Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

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この話からは優人が花咲川学園で、高校2年生の前期を送っている時の、羽丘学園での出来事を書いていきます。



ゆりしぃが引退……だと……。







第1部(裏) 桃の花咲かせるアンサンブル
1話 君の知らない物語


本日、僕の通う羽丘学園は登校日で、今日で僕も晴れて高校2年生だ。

僕はいつも通りに朝早く学校に到着する。この時間に来ると、だいたい朝練がない生徒はまだ登校していない。

だけど今日は違った。

やはり、みんなは自分のクラスが気になったようで、ざっと目算で30人程度来ていた。僕は彼ら彼女ら同様に自分のクラスを確認し、教室へ向かった。

 

僕が教室に入ると、中には女の子が数人いた。僕がドアを開けた音に反応したのか、視線が集まった。

僕に話しかける事はなかったものの、ずっとこちらを見て顔を赤らめていたので困ったのだった。

 

 

「早く知り合いの人とか来ないかなぁ……」

 

僕は心の声を漏らした。

しかし、これがフラグだったのか、五分経っても顔馴染みの人は教室に入ってこなかったので、バッグの中に入れていた密閉型ヘッドホンを取り出し両耳にあてる。スマホのロックを手慣れた動きで解除して入れている曲を流す。

 

 

 

そのまま音楽を2・3曲流していると、不意に肩を叩かれた。しかしそれは暴行目的のものではないと加減で察した。

僕はヘッドホンを耳から真下に下ろして、首にかけている状態にした。

その動作と並行に、後ろを振り向く工程もこなしていた。

 

 

「おっはよー!桃月クン!」

 

やけにフレンドリーに話しかけられたからといって、知り合いなわけではなかった。

 

 

「おはよう。えーっと……今井リサさん?」

 

 

「アタシのこと知ってるんだー」

 

同じクラスになった事はないし、直接顔を合わせた事があるわけではないが、噂で名前は聞いたことがある。俗に言うギャルらしい。

 

 

「まあ、目立ってるからね。君の方こそなんで僕のこと知ってるの?」

 

 

「えっ……それ、本気で言ってるの?」

 

 

「?うん、本気だけど?」

 

僕何か変なこととか失礼なことを言ってしまったのかな。特に思い当たりはないんだけど。

 

 

「陸は校内1の有名人なんだよ?色んな噂も立ってるのにアタシが知らないわけないじゃん」

 

いきなり名前呼びですか。はいそうですか。さっきは苗字で呼んでたような気がするけど気にしないよ。

 

 

「へぇ、僕ってみんなからどういう認識されてるのかな?」

 

 

「まあ、主にルックスと穏和な性格でしょ。あとは勉強できるし、運動もまあまあできる方って聞いたし」

 

そ、そんな噂が。見た目とか性格とか普通のつもりだったんだけど。

勉強も毎日努力してるからだし、身体だって一様鍛えている。にもかかわらず、細いままだ。「よくこんなに細い腕であんなに力強いドラムが叩けるね」って言われるんだよね。

 

 

「それで、何の用かな?」

 

 

「いやー別にこれといって用があるわけじゃないんだ」

 

 

「そっか。じゃあ1年間よろしく頼むね、今井さん」

 

 

「リサでいいって」

 

 

「ううん、今井さんって呼ぶよ」

 

 

「へぇ〜」

 

 

「ん?どうかした?」

 

 

「別にー。見た目の爽やかさとは裏腹に頑固なんだな、って思っただけ」

 

今の流れだったらそういう風に捉えられても仕方がないけど、一様今が初対面だから普通じゃないかな?なんて話が長くなりそうな事は言わない。

 

 

「じゃ!そういうことだから1年間よろしく〜」

 

 

「うん、よろしく」

 

話は終わって今井さんは自分の席につく。のではなく別の人に話しかけた。というか、話している時も周りの視線がすごかったのはなぜだろう?今井さんって女子からモテるのかな?

 

今気づいた事ではないけど、僕が音楽を聴いている間に結構な人数がクラスにいた。友達も結構いるし、あとで話しかけに行こうかな。

 

 

「りっくんおはよー!」

 

また声をかけられる。先程の今井さんよりも馴れ馴れしい挨拶だが、声の持ち主は友達なのでこれといって気にならない。

それに、「りっくん」なんて呼びかたをする人は1人くらいしか思いつかないし、それ以外に現れるとも思わない。

結論を言おう。

彼女の名前は氷川 日菜だ。

 

 

「おはよう日菜。君もこのクラスだったんだね」

 

僕は彼女とは中等部のころからの友達。同じ天文部員(僕達2人で全員)に所属しているし、昨年度はクラスメイトだった。因みに僕は軽音部(僕1人)と天文部の掛け持ちをしている。

 

 

「2年連続で同じクラスなんて凄いねー!やっぱり運命なんだよ!」

 

 

「運命なんて軽々しく言うものじゃないよ」

 

 

「軽々しく言ったつもりなんてないんだけどなー」

 

女の子の友達のなかでは日菜が1番仲が良いだろう。2人きりで遊びに行くこともある。

 

 

「それより今日は天文部の活動するの?僕は練習がないんだけど、どうする?」

 

昨日までが春休みだったので、毎日毎日練習をしていて休みがあまりなかったので、今日はオフになった。とは言っても、家で自主練はするんだけど。

 

そして、まともに部活をしているように聞こえるが、いつも部室で日菜の色々な話を聞くだけだ。部室じゃなくてもできる。

 

 

「んー。今日はあたしが練習あるんだー」

 

 

「へ?日菜って習い事とかしてたっけ?」

 

 

「ううん。バンド始めたんだ!なんかギターのオーディションに受かってアイドルバンド?ってのを始めるの!」

 

 

「……それってまだ公式発表されてない情報なんじゃない?だとしたら僕に言ったのは不味かったんじゃ……」

 

 

「あっ!そうだった!じゃあ今のナシね!」

 

 

「む、無茶言わないでよ。でも他の人には言わないから。練習頑張ってね」

 

 

「と言ってもがんばるほどでもないんだよなー。ギターってそんなに難しくないから」

 

 

「さ、流石だね日菜。……それよりそろそろ予鈴がなるよ」

 

 

「あ!ホントだ!じゃあまた後でねー!」

 

彼女は元気に自分の席へと行った。僕はその姿を見ながら日菜がギターを弾き始めたことについて詮索していた。

 

多分、彼女がギターを始めたのはお姉さんの紗夜がギターをしているからだろう。すぐに追い抜きそうだけど。

 

でも、日菜はギターでは1番にはなれないんだろうな。

 

だって僕は日菜以上のギターの才能を持っているであろう親友がいるから。

 

 

 

 

 

始業式が終わり、担任の先生からの連絡事項も済み、午前中での放課となった。日菜は事務所に向かって行った。

 

自主練は夜からやるとして、誰か友達を誘って遊びに行こうかな。幸いにも仲のいい男友達とも同じクラスになれたわけだし。

しかし一旦家に帰って昼御飯を食べよう。誰かを誘うのはその後でもできるからね。

 

そう思ってクラスにいた友達に挨拶を済ませて教室を出た。

 

すると、廊下でまたもや知り合いに出会う。

 

 

「やあ、友希那。新しいクラスメイトと馴染めた?」

 

目の前にいる少女は凄まじいオーラというか存在感を放っていた。見た目からザ・クールな感じだし、中身もその印象を裏切らない。猫が好きで苦いものがダメなところ以外は。

 

そんな彼女の名前は湊 友希那。

ライブハウスで知り合って同じ学校ということもあり仲良くなった。冷淡な彼女でも普通に笑顔を見せてくれた時は驚いた。そして、若干照れてしまった。

 

 

「あんな人達と馴染む必要ないわ」

 

 

「あはは、友希那らしいね。でも、少しくらいクラスメイトと仲良くしたら?」

 

 

「……気が向いたら」

 

 

「うん、自分のペースでね。それより、今日はなんの用かな?」

 

僕は早速本題に移った。別に焦っているわけではないし、もう少し世間話をしてもいいのだが、友希那が音楽以外の普通の会話ができるとは思っていない。

 

 

「ええ、今日はこれからライブハウスに行こうと思ってるの。それで、貴方を誘いに来たのよ」

 

 

「なるほど、それは単に見に行くってこと?それとも友希那が出演するの?」

 

 

「もちろん、私はステージに上がるために行くのよ」

 

 

「OK。なら僕も行くよ」

 

二択質問をしたけど、この後大した予定があるので、たとえ友希那が出演しなくてもついて行っていただろう。

 

 

 

 

 

そうして僕らはライブハウスへと向かう。

今日は登校日たげど、曜日で言うと日曜日なのだ。昨日の土曜日に入学式が行われていたらしい。

なので、こんな昼間からライブすると言っても、平日ならお客さんは集まらないだろう。しかし土日となれば、昼過ぎでもかなりの人数が集まる。

 

なので、そのライブハウスに入って人の多さに驚いた。やはり友希那のライブとだけあって、集客率はすごい。

 

そして当然のように僕らが音楽業界にとってどのような存在かも秒でバレた。

 

 

「ねえ、あれって友希那だよね。近くで見ると迫力がすごいなぁ」

 

 

「うん。それに隣にいるのはFull Bloomの陸だよね」

 

 

「あの2人が一緒にステージに立ったりするのかな?だとしたら絶対カッコいいって!」

 

 

などと周りからの声がする。それよりも制服で通っている学校がバレそうだけど、大丈夫かな?

 

 

 

すると、1組目のバンドが登壇した。

そのバンドはお世辞にもいい演奏とは言えなかった。譜面通りにすら演奏できてないし、なにより熱意が感じない。おや、1人だけ違った。

 

 

「このバンド、ギター以外は全然ダメね」

 

友希那が呟いた。やはり彼女程のレベルだと気づくようだ。

 

 

「ああ、僕もそう思う。でも、こうしてみるとやっぱり紗夜は流石だなぁ」

 

 

「あの子を知っているの?」

 

友希那が、これは呟きではなく明らかな疑問系として声を出す。

 

 

「まあ、ちょっとしたね。友達のお姉さんで、紹介されたんだ。それなりに仲は良いつもりだよ」

 

 

「そう……陸、私彼女とバンドを組むわ」

 

 

「へぇ、いいんじゃない。…………えっ?」

 

な、何を言いだすんだ彼女は。確かに紗夜の技術を凄いけど、そんなに即決しなくても良いのでは?というか、引き抜くの?

 

でもなんで結論を急ぐのかは僕には分かっていた。

 

 

「やっぱりFUTURE WORLD FES.に?」

 

 

「ええ、もちろんそのつもりよ。それにあたって陸、貴方も一緒にバンドを組まない?」

 

はぁ、またですか。僕は彼女から何度も何度も繰り返しバンドを組もうと誘われている。

 

 

「前から断ってるよね?間に合ってます」

 

 

「いいえ、貴方は私と組むべきよ。あと春とも組みたいわ」

 

君はどこのお嬢様なの?それが口から溢れそうになったのは事実だ。

 

 

「何でそんなに優人を毛嫌いするんだい?」

 

 

「何でって言われても……優人は第一印象が最悪だったからかしらね」

 

全く。優人も優人だけど、友希那も友希那だ。2人とも音楽への愛情は測りきれないし、努力も最大限音楽を超えてるし才能にも恵まれている。音楽的感性は2人とも似ているし、性格が違っても仲良くなれると思ってるんだけどなぁ。

 

いや、今はそんな事はどうでもいい。それよりも……。

 

 

「自分から聴いておいてなんだけど、僕の前であんまり優人の悪口を言わないでほしいな」

 

 

「!……ごめんなさい」

 

僕は少しだけ声を低くした。つもりだったが、予想外に怖くなっていたようたった。

 

 

「いいよ、僕こそごめんね」

 

実際のところ、僕の気分は害されていなかったが、友希那がこのままヒートアップしていたら間違いなく優人の悪口を言いまくっているはずだ。

そうなると、僕はほんとに気分が悪くなるから、早めに止めておいた。

 

 

「じゃあ、楽屋の方に行ってみる」

 

 

「……ええ」

 

この少しの間はおそらくまだ先ほどのことを気にしているのだろう。だけど少ししたらいつもの調子に戻るだろう。なので、あまり気にしてない感じを漂わせて人混みの中を掻き分けて行った。

 

 

 

そして目的の楽屋。ではなくロビーに僕と友希那は立っていた。いや、話を盗み聞きしていたというべきだ。と言ってもロビーだから意識しなくても声が耳に入ってくるのだが。

なぜなら友希那が今から勧誘しようとしている例のギタリスト・氷川 紗夜が彼女のバンドメンバーと揉めていたからだ。

 

見守っていると、どうやら決着がついたようだ。雰囲気からして紗夜はそのバンドから脱退したようだ。

彼女はどうやらお遊びでバンドをする人達とはやって行けない。自分と同じくらいの練習量じゃない人とは組んでも意味がないと前から言っていたのを僕は知っている。

ま、隣にいる同学年の少女もなかなかハードな練習をしているけど。

 

すると、紗夜が僕らのことに気づいた。

 

 

「!ごめんなさい。他の人がいるとは気づかずに……桃月さん!?見に来ていたんですか?」

 

 

「やあ紗夜。いい演奏だったよ」

 

 

「いえ、ラストの曲、アウトロで油断してコードチェンジが遅れてしまいました。拙いものを聴かせてしまって申し訳ありません」

 

そんなに気にならなかったんだけどなぁ。僕はその一言を口にしなかった。なぜなら質問が飛んで来たからだ。

 

 

「……ところで桃月さん、そちらのお方は?」

 

 

「あ、ああ。彼女はーー」

 

 

「湊 友希那よ。紗夜といったわね。貴方に提案があるの。……私とバンドを組んで欲しいの」

 

僕が紹介をする前に自分で済ませてしまい、その上本題まで一気に切り込んだ。

 

 

「ーーえ?私とあなたでバンド?すみませんが、あなたの実力がわからないので、今はお答えできません」

 

紗夜の反応は当然のものだろう。これで即OKする方がおかしい。友希那の実力を知っている・知らないにしてもそんなにすぐに答えは出せるはずない。

 

 

「私はこのライブハウスは初めてなんですが、あなたは常連なんですか?」

 

 

「そうね」

 

その短い返事を返した友希那は、紗夜を誘った理由を熱心に話し始めた。FUTURE WORLD FES.のことも話し実力とか覚悟がある人とは組めないと紗夜が言った。

その言葉に僅かに燃えて来た友希那がいた気がした。

 

 

「私の出番は次の次。聴いてもらえればわかるわ」

 

しかし紗夜はそれでも反論を述べる。

 

 

「待ってください。例え実力があってもあなたが音楽に対してどこまで本気なのかは一度聴いただけではわかりません」

 

 

「それは私が、才能があっても胡座をかいて努力しない人間のように見えるということ?私はフェスに出るためなら何を捨ててもいいと思ってる。貴方の音楽に対する覚悟と目指す理想に、自分が少しも負けてるとは感じないわ」

 

友希那は堂々と言い切った。内容はそう簡単に言えたものではない。冗談半分でも口にする人間はいないと思えるほどに。紗夜は友希那の意思に折れたのか、

 

 

「……わかりました。でもまずは一度、聴くだけです」

 

 

「いいわ、それで十分よ」

 

そして友希那は楽屋の方に去って行った。準備をするのだろう。出番は次の次と言っていて、どのバンドも数曲やるので時間はまだ余裕があるはずだが、おそらく闘争心が駆り立てられているのだろう。

 

 

「桃月さん、あなたから見て彼女の実力はどれほどのものですか?」

 

紗夜が突拍子のない問いをする。おそらく、少しだけだが興味を持ったのだろう。

 

 

「んー。もうすぐ歌うからあんまり言わないけど、彼女は……友希那は凄いよ」




久しぶり?なんですかね?もう前回がいつ書いたか覚えてません。

今回きらはちょっと話を四月に戻して、「裏」と題して話を進めていきます。ここの話が終われば夏休みに入ります。季節感ゼロっスね。

ちなみに、今回が陸君目線だっただけでちゃんと優人君に焦点は戻します。でも、あと2・3話は陸君目線かなぁ。

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