Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

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2話 にじいろ

side優斗

 

今日も朝からバイトだ。いつもいつも、寝みぃと言うわりに俺はバイトに来る。だって時給いいんだもん……。

 

 

「いらっしゃいませ〜」

 

「先輩シャキッとしてください……」

 

 

沙綾、呆れ口調はやめてくれ。傷つくよ。死んじゃうよ。先輩をもっと労っておくれよ沙綾君。

まあ、でもここで逆らったら、先輩としての威厳が無くなるかもな。よし、シャキッとしよう!…………とは、これっぽっちも思わない。

なので、、

 

 

「は〜〜〜い」

 

 

思わず間延びした返事を返す。

 

 

「お願いします」

 

 

おっとお会計のようだ。まともにせねば。お客様には流石に真面目にしなきゃ、解雇されるからな。

と思ったら、顔見知りだった。学校の後輩で、沙綾と同じ学年のーー

 

 

「おー、牛込じゃん!久しぶり」

 

「お久ぶりです、先輩」

 

 

ご丁寧にどうも〜。と言いかけた。これじゃ、ババァだな。俺は永遠の16歳だぞ!!

 

 

「今日もチョココロネか。よく飽きないな」

 

 

まあ、俺も好きなんだけど。毎日食うのはなんだかなぁだよ。

 

 

「はい、チョココロネ大好きですから」

 

「ハハッ、相変わらずだな。けど、俺はメロンパンがすきだなぁ」

 

 

この話何回目だ。会う度に話してる気がする。

まさか俺は同じ日をループしていたのか!?

そう思いながら俺はチョココロネを袋に入れる。

 

 

「先輩、箱に入れてあげてください」

 

「うおっ!沙綾いつからそこに?」

 

「最初からいましたよ」

 

 

ちょっと握り拳作らないで。怖いです。先輩殴るの?冗談だから、冗談だから!お願い殴らないデェ。とふざけた言い方をすれば殴られるのは間違いないので、

 

 

「す、すまん。で、なんで箱に?」

 

「外を見てくださいよ」

 

 

そう言われたので見ると、

 

 

「あ〜〜。牛込、ファイト」

 

 

察した。何が起きるか予想ついたわー。

 

 

「気をつけてね」

 

 

そう言って、チョココロネ2つを箱に入れた。これでもし落としても大丈夫だねー。

 

 

「???」

 

 

牛込は俺達の会話の意味がわからないまま、店の外へ出た。そりゃそうだわ。

 

『確保ーー!』

『バッチ来ーーーーい!』

市ヶ谷と香澄のそんな声が聞こえてきた。朝からそんなデカイ声よくでるな。あんまり使い道はなさげだけどな。

 

 

「香澄って朝から元気なんだな」

 

 

その元気を分けてほしい。いや、元気はあるのだが、朝は辛い…。

 

 

「ハハハ……」

 

 

沙綾は苦笑いをした。

大分お疲れのようで。散々振り回されてるんだろうな。オツカ〜〜レ。

そして再び外を見るとーー。

 

 

牛込が泣いていた。

 

 

ヤバいな。ここは誰かが行かないとまずい気がする。

 

 

「沙綾、俺ちょっと止めてくる!」

 

「あっ、はい!」

 

 

俺は店のドアを開ける。

 

 

「おいお前ら、朝から喧嘩はやめとけよ」

 

 

昼と夜もダメだけどさ。

すると牛込は走って行ってしまった。いや、話を聞こうとしただけなのに。

気を取り直し、何が起きたのか香澄に尋ねる。

 

 

「香澄、何があったんだ?」

 

「りみりんをバンドに誘ったんですけど、断られて。理由を聴いてたら、あんな事に……」

 

「あー、なるほど」

 

「先輩は何故だかわかりますか?」

 

 

まあ、わかってるな。

よく考えればわかる事だ。あいつの性格からして表に立つのは嫌い……というか、苦手なんだろう。

 

うん。謎は全て解けた!(←某有名高校生探偵のセリフ)

 

そして、その考えを香澄に言う。

 

 

「んー、あくまで推測だけど、あいつは多分、あがり症みたいなもんだと思う。バンドはやりたいけど、人前に立つのは無理みたいな。ま、あいつにも事情があるんだ。あんまり追求すんなよ?」

 

「…………そうですね」

 

 

香澄は俺の話を聞き終わると暗そうに学校へ向かった。

まあ、それでもあいつは諦めないんだろうけどさ。

 

 

 

雲行きが怪しいな。

今の空色は何か意味を含んでいるようにも思えてしまう。

 

 

考えすぎなのはわかっている。俺が首を突っ込むとこではないとわかっている。こういうのは柄じゃないのもわかってる。

でも……俺は香澄と牛込のためにお節介を焼くだろう。

 

たとえ……必要でなくても。

 

 

 

 

 

3日後。

いやー、降ってるなー。こんなに降ってると読書したくなるんだよなぁ。なのでベッドに座って本を読んでいた。

なのに……

 

 

「はあ!?なんで俺がSPACEに行かなきゃいけないんだ!」

 

 

只今、春と電話中だ。会話の内容はザックリ言うと、雨の中出てこい、という要件だった。

 

 

『まあまあ、いーじゃんか。今日はゆり先輩も出るんだよ』

 

 

それを言ったらダメでしょ。先輩のライブを見たくないみたいに解釈されたら、俺、先輩達に殺されるよ。

 

 

「わーったよ」

 

『ありがとー。陸君も誘っといたからー』

 

「りょーかーい」

 

 

そう言って電話を切り、支度を始める。

準備を終え、ギターケースを背負い、ドアを開ける。エレベーターで降りる。俺は一人暮らしのくせにかなりいいマンションに住んでいる。親は俺の顔を二度と見たくないのかな?

エントランスをでて、傘を差して、駅のホームを目指す。駅に着くとちょうど電車が到着した。

電車に揺られること5分。

電車を降りて俺はSPACEに向かい、店内に2人の姿を見つけた。

 

 

「おーい、きたぞー」

 

「遅ーい」

 

「まあまあ春。きたんだから許してあげたら?」

 

 

最後に声を出したのが俺達のバンドのドラマーの桃月 陸(とうげつ りく)。羽丘学園の2年生だ。大人しい感じで見た目も優しい感じだ。一人称も「僕」だし。それでいて、イケメン。実質、校内で1番モテているそうだ。それで、勉強できて、運動できるんだろ?羨ましいよ。まあ、運動は俺の方が得意だけどな。

それでも嫉妬というものは一度もしたことがなかった。

なぜならそこらの女子よりも遥かに陸の事を愛しているのは俺だからだ!

 

 

「よお、陸。今日は練習ないのに、呼び出しご苦労さん」

 

「そういう優人もね」

 

「ちょっと2人共、嫌だったの?」

 

「「だって雨降ってたから」」

 

 

俺と陸は息を揃える。

 

 

「いーじゃんか、別に。グリグリのライブ聴きたくないの?」

 

 

グリグリとはGlitter*Greenの略だ。『Glitter』の意味は確か……『輝く』とか『きらめく』だったかな。まあ、知ってたところで、大した使い道ないけどな。だって『shine』でいいんだもん。

 

 

「そろそろ始まるよ」

 

 

陸の発言により、俺達の会話は中断され俺も、もう考えるのはやめた。

ライブが始まる。

スッゲー盛り上がりと熱気だな。しかもどのバンドもクオリティ高いな。この中に次代のロックスターがいるかもな。

そしてあと1つのバンドが演奏したらグリグリだな。てことは、そろそろ帰れる!

しかし、グリグリの番になっても出てこない。

 

 

「どうしたのかな?」

 

 

陸が言った。春も気になっていたようなので、俺達はだんだんと心配になる。

 

 

「楽屋の方に言ってみる?」

 

「そうするか」

 

 

俺達は楽屋に向かう。

着くと、なんとも慌ただしい光景が目の前に広がった。これが新世界か。て、ちがーう!今、ボケてる場合じゃないよ。

 

そこには香澄達も何故かいた。こいつら暇人か?それとも追っかけか?

 

 

「おい、香澄。何があったんだ?」

 

「あ!先輩」

 

「実はお姉ちゃん達がまだ来てなくて」

 

 

俺の質問に牛込が答えた。そういや、修学旅行に帰って来るのが今日だったか?

 

 

「で、こういう状況か……」

 

「おい、あんた達」

 

 

俺達3人は不意に後ろから声をかけられた。

そこにいたのはオーナーだった。

 

 

「なんですか?」

 

 

陸が聞く。こういう時に大体率先して聞くのが陸だ。ならお前がリーダーになれよな。。

 

 

「ライブしてくれないか」

 

「「「はあ!?」」」

 

 

いやいやいや、ここ、ガールズバンドの聖地だよね。俺らは男子が2人もいるよ?無理だろばあちゃん。

 

 

「頼む」

 

 

オーナーが頭を下げてきた。

その場にいた全員がこちらを見ていた。

そんなに珍しいのか?

 

 

「やる?」

陸が聞く。

 

 

「やるか」

俺。

 

 

「そうだね」

春。

 

 

「そういうと思ったよ。やらせていただきます、オーナー」

陸、の順。

 

するとステージから、『今日はスペシャルゲストが来ています!』という声がした。準備はえーな。

 

 

「じゃあいくか!!」

 

 

そう俺が言い、ステージに出ていく。

 

こんなカタチでライブする羽目になったが、ここで成功させて、もっと盛り上がる!先輩達が来た時には客が疲れてるぐらいにまでしてみせる!

 

 

 

side香澄

先輩達がステージに出た途端、お客さんがザワザワし始めた。

それは、男性がいるからではなかった。

「え、あれって……」、「マジで!?」、「本物!?」、「曲、生できけんの!?」、「めっちゃうれしー!」等々のものだった。

 

 

「スッゲー人気。あの人達何者なんだ?」

 

 

有紗が言う。私にとっても疑問だった。初めて聴いたとき、確かに演奏はプロの中でもかなり上のレベルだと思った。それでも、デビューはしてないので、こんなに知名度が高いはずがない。

 

 

「2人共知らないの?」

 

 

りみりんが言ってきた。何の事なのかな?私は理解できなくて、質問仕返した。

 

 

「どういうこと?」

 

「これ見て」

 

 

りみりんがスマホで動画を見せてきた。

それは先輩達のバンドの動画だった。オリジナルの曲だけど、こんなにもクオリティの高い曲を作れるのがすごい。

 

 

「スッゲー……。てか、再生回数5000万回!?」

 

「えっ!?」

 

「うん。今、中・高生の間で1番人気のあるバンドが先輩達、《Full Bloom》なんだよ」

 

「知らなかった」

 

「かっこいい……」

 

 

私はもう2人の会話を聞いておらず、演奏を聞くのに夢中だった。

 

先輩達が演奏を終える。

歓声とともに戻ってきた。私も思わず拍手していた。

 

 

「先輩、かっこよかったです!!」

 

「おお、ありがとな。あっ!そうだ!紹介忘れてたけど、こいつ、ウチのドラマーの桃月 陸だ」

 

「よろしく……えっと……」

 

「戸山 香澄です!香澄って呼んでください!」

 

 

私は大きな声で自己紹介をする。

 

 

「う、牛込 りみです!」

 

「市ヶ谷 有紗……です」

 

 

一通り自己紹介を終える。

 

 

 

先輩達の演奏の後もいくつかバンドが出たが、グリグリは来なかった。

このままでは皆が帰ってしまう。なんとしてでも待ってもらいたい。

そのためには……

私は心を決め、ステージに出ていく。

 

 

 

side優人

はあ!?!?

香澄の奴何やってんだ!?

なんか歌い始めたぞ?まさかの『キラキラ星』とはな、、

あ、市ヶ谷呼ばれた。ドンマイ、死亡フラグたったぞ。てゆーか顔真っ赤にしすぎだろww!

あ、でもなんか、一緒に歌い始めた。客からのウケもいい。

俺も悪ノリで行こうかな?いや、そんな事しないけどな。

 

 

俺が出る番じゃない。

 

今、ステージに出るべき人物は隣にいる牛込だろう。

しかし、牛込は迷っていた。それもそうだ。今までできなかった事を急にやれと言われて即決できる人間などいない。つまり、ステージに出るか出ないか、当然迷う。折角香澄達が盛り上げたのに自分が出て行ったら、悪影響かもしれない。とか、考えてそうだな。

 

 

「牛込、周りの目なんか気にするなよ。自分のやりたいようにやれよ。じゃないと、いつか必ずお前は後悔する」

 

 

すると牛込は決心する。

歩き始める。

香澄達の所まで行き、ベースを弾き始める。それなりに上手く、今からバンドに入っても充分なレベルだ。

 

 

「珍しくいい事言ったね」

 

 

春は微笑を浮かべながら、しかしステージの方を向いたまま、言う。

 

 

「珍しくってなんだよ」

 

 

そこだ。まさにその部分だ。ヒドイよ春さん。

 

 

「いや、優人ってそういうの柄じゃないから」

 

 

わかってた。柄じゃないのは自分でもわかってた。でも、自分以外の人から言われるとなんか傷つくよね。

それだけ、こいつらが俺の事を理解してるってことか。

でも、捨てきれぬこだわりは俺にもある。

なので……

 

 

「おい、陸まで……。俺、結構空気読むよ」

 

「「うん、だって空気になってる事が多いもんね」」

 

「ヒデェ。あんまりだ……」

 

 

揃えて言われるのはあれだわ。最早感動だわ。

 

 

「冗談だよ。優人がいい事言うのは私達がよくしってるから」

 

 

な、なんだよ!それを言えよな!本気で空気になるとこだったぞ!

 

 

「まあ、これで牛込さんが何か変わったなら、良かっんだと思うよ」

 

 

陸が話題を上手く変えてくれた。

いや、そういうことではないな。

単に、思った事を述べただけだな。なら、俺も便乗しておこうかな。

 

 

「……そうだな」

 

 

俺達は観客側に戻る。3人は良く見えた。いい顔をしている。

 

もう、グリグリが到着したから、大丈夫だろう。

 

 

これで、前進してくれたなら、それは嬉しい事だ。


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