Full Bloom 〜満開の歌声を〜 作:grasshopper
side優人
無事にテストが終わり、俺達はいつもの生活に戻っていた。練習、練習、練習の日々。ちなみにテストの順位は320人中、24位というなかなかの順位を叩き出した。
そして俺は練習がない日はPoppin' Partyの練習に付き合うのが日課になっていたりもする。今、演奏が終わって、俺が一人一人にアドバイスをする。
「香澄。テスト終わったからって張り切りすぎ。Bメロ音程ズレてたから直せよ」
「わかりました!」
香澄が俺のアドバイスを聞き、元気よく返事をしたものなので、「よし」と俺は言った。
「沙綾は全体的に自己主張しすぎかな。もう少し控えめにしてサビを強くすればいいと思うから」
「やってみます」
そう言ってイメージトレーニングを始め、頭の中を整理していた。
「牛込、お前は逆にもうちょい強く。イントロでいるのかわかりにくいぞ」
「は、はい!」
と言い、ベースを持ち直し、エアで引く真似をしてイメージを固めている。
「おたえは、そうだな……全体的に申し分ないけど、サビ前、もうちょっとみんなを引っ張るつもりでやってみたらいいと思うぞ」
「わかりました〜」
おたえは間延びした返事をする。コイツは俺の話をちゃんと聞いているのだろうか?
そして最後に、
「市ヶ谷だけど……」
そう言って、キーボードの方へ首をかしげる。
その方向にいたのは何故か目の燃えている市ヶ谷の姿だった。それはやる気ではなく、憎悪のような炎に包まれていた。
「……………………どうした?」
「学年1位が取れなくて少し精神が……」
「なるほどな」
ここでドンマイとでも言ったら、首元を噛みちぎられるだろうな。
「因みに1位は誰だったんだ?」
「確か、有紗ちゃんと同じクラスで芽吹 健君っていう人でした」
わざわざクラスまで教えてくれてサンキュ、牛込。つか、
「健の奴、学年1位とったのかー。今度、勉強のコツを教えてもらおう」
まあ、TOP30には入ってたからコツなんて必要ないけどな。
そんな事を考えていると、市ヶ谷がこちらを向いた。どうやら俺が健と知り合いだったことに反応したようだ。しかし何も言わずに黙っている。ただ目が怖い。健の住所教えたら事件が起きそうな気がする。。
不意に、
「お、悪い。俺のだ」
俺のスマホが音を鳴らし、電話がかかってきたのを伝えてくれる。俺は階段を登り、蔵から出て、電話にでる。相手は、
「噂をすればってやつか……」
健だったのだ。
「もしもし」
この後、驚愕の一言が受話器越しに届いた。
『芽吹 健は預かった』
「なっ…………!」
明らかに健の声ではない。ボイスチェンジャーのような機械的な音声でもない。30代の男性の声だ。
「ど、どういう意味だ……!?」
『そのままの意味だ。今から言う私の要求を全て呑まないと、芽吹 健の命は無いと思え』
「…………」
『今から私の言う住所に迎え』
落ち着け俺。向こうは健を本当に拉致したかどうかはわからない。むしろ悪質ないたずらの可能性の方が高い。第1、健の声をまだ聞いていない。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。まだ健の安否が確認できてない。声を聞かせてくれ」
俺はカマをかけた。これで健の声が聞こえない場合は無視するまでだ。しかし、最悪の場合……。いや、考えるのはよそう。
『…………わかった』
何!?
『優人先輩!』
間違いない。これは健の声だ。
『来ちゃダメです!コイツの狙いは……』
健がそこまで言いかけてパァンと乾いた音がこちらにも届いた。おそらく殴られたのだ。俺は頭に血が上った。
「お前……何してんだ……!!」
『さてと、では今から言う住所に来たまえ』
奴はスラスラと呪文のように住所を唱え、そのまま通話を切った。
「あ、……待て!」
クソッ!
こうなったら行くしかないよな。それにしてもどうしよう。
…………ホントに事件が起きちゃったな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は香澄達に心配させないように、急用ができたと言って、抜け出した。そのまま止まることなく、指定地まで走り抜ける。その道中、2回ほど人にぶつかってしまった。
俺は指定地はてっきり廃墟かなんかだと思っていた。
しかし違った。
そこにはただただデカイ屋敷があった。
弦巻家。
そこに住んでいるのは後輩の女の子で、超が5個つくほどの金持ちの家だ。確か、その女子と健は同じクラスだったはず……。
まさか……
①その女子・弦巻 こころと健が結託して、屋敷の人に電話をさせた確率85.2%。
②健が弦巻 こころに拉致された確率14.3%。
③健と弦巻 こころ含む、この豪邸にいる全員がここに監禁されてる確率0.5%。
①だな!よし、健君は死刑!
俺はそんな答えを導き出してインターフォンを鳴らす。
すると玄関が開く。なぜかって。俺はこころとちょっとした知り合いだからな。その話はまた今度だが。
俺はだだっ広い庭園を駆け抜け、デカいドアを開けようとする。すると、1人でに開いた。便利〜。
そうして足を踏み入れる。
迷った。
ここに来るのも5回目くらいだが、余裕で迷う。つか、どの部屋行けばいいかわからない。仕方ないので俺は、しらみつぶしに部屋を当たった。
しばらくして声の聞こえる部屋を見つけた。知ってる声がいくつも。その中には健の声も。ここだな!と俺は思ってドアノブに手をかける。
今から、芽吹 健の死神が参りまーーす!!
ドアを開けると、そこには確かに健の姿があった。
しかしーー
ーー椅子に縛られていた。
「あー、健?これはどういう」
俺は言いかけると、その部屋にいた者全員がこちらを向く。いやだ!ナニコレ怖い!
「あら、優人じゃない!」
「…………」
俺は絶句していた。因みに、今話しかけて来た少女が弦巻 こころだ。
「黙り込んでどうしたの?」
「……後輩の女子の家で、後輩の男子が縛られてるのを見ると絶句するのは俺だけか?」
「それより優人!」
「俺だけなのか?」
「私達のバンド《ハロー、ハッピーワールド!》のみんなを紹介するわ!」
「…………」
ヒデェ。
執拗以上にスルーしてないか!?これが素なのか?そうだとしたら、こわいの2、3段階上回ったよ!
つか、その前に状況説明を……。
「まずはベースの……」
「知ってるよ。北沢 はぐみだろ?バイト先の目の前の家に住んでるからな」
「はぐみよ!」
あ、ここすらスルーしてくんだな。俺、知ってるって言ったよな?え、もしかして俺の声届いてなかった?
「初めまして!よろしくね、ゆーくん先輩!」
オレンジ髪のボーイッシュな少女が俺に言ってくる。うん、それ、初見の挨拶だよね?
「いや、なんでお前まで初めて会った人みたいに振る舞うの!?俺の豆腐メンタルが限界近いぞ!」
「そしてギターの薫よ!」
すると、男性のような人が前へ出る。その容姿は高身長で、紫の髪をポニテにしている。ウチの春も紫だが、春に比べたら明るく見える紫いろだ。
そしてお辞儀。宝塚?
まあ、こころやはぐみに比べたら常識ありそうだな。しかしそんなのは俺の願望にしか過ぎなかった。
「シェイクスピアはこう言った……」
シェ、シェイクスピアァ?
てっきり自己紹介してくるかと思ってたのに、なんだそれ。
「『運命とは、最もふさわしい場所へと、貴方の魂を運ぶのさ』とね。……つまり、そういうさ」
うん、わからん。
もう対処の仕方がわからない。なので思った事を言う。
「どういうことだ?」
「そういうことさ」
「……どういうこ「そういうことさ」」
「………………………………………………………………………………………………………………………どうい「そういうことさ」……はい」
もお、なんでもいいや。
「次は美咲よ!美咲はミッシェルと仲がいいのよ!」
いや、知らんがな。
そうして呼ばれた美咲という少女は何というか……ダルそうだった。
「ハァ……どうも、奥沢 美咲です。いつも健がお世話になってます」
「ん?健の知り合いか?」
つか、知り合いじゃない人が縛られてるのを見るのもかなりの拷問だよな。
「ええ、まあ。幼馴染っていうか、腐れ縁ってやつです」
うん。縛られてる人を幼馴染って言うのは気がひけるよね。でも、助けてあげよ。
「それと、私がミッシェルです」
おお、最後のは子供の夢を壊したね。R15設定にしてて正解だったな。
そしてこころが最後の1人の紹介をしようとする。最後の人を1番知ってるんだよな。
「ドラムの花音よ!」
よっしゃ!ここまで来たら最後までツッコミ切るぞ!
俺はよく目立つ水色の髪をサイドテールにしている少女の方に向く。
「花音!バッチ来い!!」
すると、花音は。
「ふ、ふえぇ……優人君、そんな無茶振り無理だよぉ〜……」
まあ、そーゆーキャラじゃねーもんな。花音がボケ倒すなんてのはキャラ崩壊の域を超えていくぞ。流石に本家が怒るぞ。
それにーー、
「それでこそ花音だもんな」
いやー。花音で終わると平和だなぁ。なら、花音付き合おう!(唐突&暴論&狂気)
しかし、ここである事を思い出す。きっかけは、次のこころのセリフだ。
「で、コレが健よ!」
あ…………。
すっかり忘れてたな。
「どうしたんだ?健。椅子に縛り上げられた挙句、コレ呼ばわりされたぞ」
「優人先輩!助けてください!弦巻さんがいじめてくるんです!」
「よしみんな!ゲームでもしようぜ!」
するとみんなは同意して、こころがゲームばかりある部屋に案内する。
「ちょ!ゆ、優人先輩!?どこ行くんですか!?あ!美咲まで!た、助けてくださーーい!」
俺達はホントにゲームルームに行った。
「で、何があったか説明しろよな?」
俺はこっそりと抜け出して、健のいる部屋に戻ってきた。
「優人先輩……!……はい。説明します」
健は口を開いた。
「まず、美咲がバンドに入ったっていうから、見に来てみたんです。そしたらいつしかそれが習慣になっていて……。で、今日もそんなノリで来たら弦巻さんが『決めたわ!!!!船に乗りましょう』って言い始めて……」
「アハハ……こころらしいな」
苦笑いしかできなかった。
「そしたら当然のように俺も乗れって言われて、必死に抵抗した結果……黒服の人達にこうされました」
Oh……。それはかわいそうだな。でも、俺からしたらどうでもいい。問題はその後だ。
「で、黒服の人達にスマホ取られて、俺に電話がかかって来たってことか……」
うし。コレで解決だな。なら帰るか!
「謎は全て解けた…………。じゃあな健!」
俺は健の縄を解かずに帰ろうとする。
「待ってください!!」
あ、やっぱり解かないといけないか。めんどくせー。
と、俺は今、そう思っていたが、次の健の発言で心境が一変することになる。
「スマホなんか取られてませんよ」
「え…………?ど、どういうことだ?」
「いや、スマホどころか何もとられてないですよ。そこの俺のカバンには誰も触ってないですから」
「は…………?くだらない冗談はやめろよな……」
俺は冗談だと思っていたかった。しかし本能が言っていた。健は嘘をついていないと。
「なら、このロープ解いてください。そしたらスマホの履歴を見せますよ」
「あ、ああ」
俺は殆ど力が抜けきっていたが、それでもなんとか筋肉を行使して、拘束を解く。
健は椅子から立ち上がると、伸びをした後にカバンに手をかけ、ファスナーを開ける。中からスマホを取り出す。ロックを解除して、俺に証拠を突きつけた。
「ほら、履歴に残ってないでしょう?」
おかしい。男との電話で明らかに健の声がしたのだ。
「いや、俺のスマホに着信履歴が……」
そう言いながら、俺もスマホを開く。しかし、寒気がした。何かおかしいと直感が告げる。それでも、恐怖よりも真実を知りたいので、電話のアプリケーションをタッチし、履歴を確認すると、
「な…………無い!」
健は、頭でもぶつけたのだろうかこの先輩は、という目で見ていた。
「おかしい……絶対におかしいって!」
背筋が凍った。
夢だったのだろうか。いや、それは己の願いだ。できればそうあって欲しいと願うだけだ。
なんでだ!?
と、その瞬間ーー
『船に乗りましょう!』
「ッッ!……っくりしたぁ」
不意にこころの声がした。ゲームルームからこの部屋は大分遠いいはずだけど。
「先輩驚き過ぎですって」
コイツ……!全く呑気なやつだよ。一体誰のせいだと思って……健のせいではなかったな。
バァン!
「船に乗りましょう!!」
こころがドアを破壊する勢いで開けた。つか、壊れたな。デストロイヤーだな。
「こころ……俺、今結構真剣なことを考えてたん……」
いや、待てよ。船の上で、風に当たれば、この得体の知れない感情もなくなるかも……。こういう時は心理学だよな。いい風景見れば、心も一新するよな。こころだけに。
「そうですよ。俺達は遠慮しておきます」
健がそう言ったのだが俺は全く別のことを言う。
「行こう」
俺。
「へ?」
健。
「行こう」
俺。
「さっきと言ってることが真逆ですよ?優人先輩」
「いいだろ別に。気分の問題だよ。それに来たく無いならお前だけ帰っても別にいいだろ」
俺の挑発まがいな発言に健は顔をムッとする。
「わかりました。俺も行きます」
すると、すぐに黒服の人達が車を用意してくれた。
3時間後。
車の中にて、もうすぐ着くのだが、みんなは雑談状態だった。
しかし俺はずっと考えごとをしていた。
もちろん先程の一件だ。
健の言葉を聞いた瞬間に全身の毛が逆立ち、凄まじい吐き気と悪寒に襲われた。
しかし、それと同時に好奇心もあった。恐怖とは違う類の感情。近くもなければ、遠からず。そんな新たな感情にワクワクする自分がいた。
そう、俺はいつでもアドベンチャーなのさ!
結果的に俺は今、どういう状態だと思う?正解は冷や汗をかきながらも、笑みを浮かべていたということだ。
ただの変態だな。
もちろん誰にも見られないように手で口元は覆っていたが、やはり汗は隠しきれなかったようで、
「優人君、……汗すごいよ」
隣に座っていた花音が俺の額をハンカチで拭いてくれていた。
そのことに気づくと、俺は急いで身を引き、
「あ、いいよ!汚いだろ?洗って返すよ」
「ううん。全然平気だよ……。それより顔色悪いよ……、大丈夫?」
やっぱりいい子だな〜。やっぱり俺達付き会おう!
「あ、ああ。大丈夫だよ。もうすぐ着くから外に出れるし。心配してくれてありがとな」
俺はそう言い、右手で花音の頭をそっと撫でた。少し顔が赤らめていたので、俺は「ご、ゴメン」と言ってすぐに手をどけた。
花音の少し名残惜しそうな顔には気づかなかった。
車から降りて、港にて。目の前には大きな船。プロジェクションマッピングとは全く違うリアリティ。
「まさかの豪華客船て……」
俺は思わず口からこぼれた。
そのスケールの大きさに圧倒され、船に乗る前から俺の悩みは吹っ飛んだ。
「こころちゃん、今日はどうして船に乗ろうと思ったの?」
花音がこころに質問していた。
「もちろん、楽しそうだと思ったからよ!さ、みんなも乗り込むわよ」
あー、想像した通りの回答だな。
そして、みんなが乗り始める。俺は最後でいいや、と思って待っていると何やら瀬田と黒服の人達が話していた。
どうしたんだろう。
俺は盗み聞きしようと思って近づくと、
ドンッ
通りすがりの若い男性にぶつかった。服装からしておそらく、客ではなく乗務員だろう。向こうがすみませんと言ったので、俺もすみませんと言っておいた。
気づくと瀬田はいなくなっていた。階段を登っていた。いつの間に?
まあ、いいや。俺も乗ろうか。そう思って歩き始める。
刹那。
何かが落ちた音。音から推測するに、おそらく紙のようなものだろう。どうやら、俺のポケットから落ちたようだ。しかし紙なんか入れてたか?
そう思って足元の長方形の紙を拾い上げる。持つと紙には変わらないが、以外と丈夫にできている。こんなの持ってたか?
裏返すと、赤い十字架が真ん中にあり、その周りを赤薔薇が囲んでいた。ますます思い当たる節がない。
くだらない。そう思って俺はその場に捨てようとした。
「「「待ってください!!」」」
黒服の人達が大声を上げる。何事だぁ?
「それを見せてもらえますか?」
焦りを感じさせる声で言うので、有無を言わずに無言で差し出した。
それを見た瞬間、黒服の人達は慌ただしくなり、急いで無線機を使って、ほかの人々とも連絡を取り始めた。どうしたんダァ?
「あの、……なんかあったんですか?」
「これは……
とある怪盗の予告状です」
「はあ?怪盗?今の時代に?」
正直な話、怪盗なんぞがこのご時世にいるのだろうか。いたら天然記念物だな。
「はい。あまりにも有名な宝石や絵画を盗んでいるので、国連からは存在をもみ消され、世間一般には知られていない存在です」
な、なんかスゲェこと聞いてしまった。世界規模で問題の怪盗か……。
「で、そいつは今日この船に現れるってことですか?」
「おそらく、そのように推測されます」
「わかりました。じゃあ、ーー
ーー俺に探させてください」
その俺の発言にその場の黒服全員が唖然とする。
「だ、ダメです。こころ様の友人を危険な目に合わせるなど……」
「そのこころ様の友人の頼みでもダメなんですか?」
黒服達はぐぬぬとなり、白旗を掲げた。よっしゃぁぁ!!
え?なんで捜査したいかだって?そんなの面白いから以外に理由はいるかよ!世界レベルで注目視されてる怪盗と対決って……。心が躍る。
「因みに、なんて言う名前の怪盗なんですか?」
「はい。あまりにも巧妙な手口は、さながらアルセーヌ・ルパンのよう。そのアルセーヌ・ルパンを省略して、彼を知る人はこう呼ぶようになりました。ーー
ーー《怪盗アルン》と」
はい、次回に続く形にしました。急いで書きました。本家であったイベントの内容とは全く別のところで優人君が本物の怪盗と対決するお話です。
そして、謎の男からの電話の正体は?
◎感想、評価等々、よろしくお願いします。