Full Bloom 〜満開の歌声を〜 作:grasshopper
side優人
ここ最近で色々な事があった。
ガールズバンドの聖地・SPACEがもうすぐなくなること。《Poppin' Party》のギターボーカルの香澄が歌えなくなったこと。それを5人で乗り越え、見事オーディションに受かったこと。などなど、色々あるが、これらは全て俺の身に起こったことでは無い。そもそも俺にイベントなどは起きるわけがない。
そう思っていたのに、
「いやー、ごめんね優人。一度優人の家に来てみたかったから」
「それにしても連絡の一本くらいよこせよな
今、俺の借りてるマンションの部屋の扉を開けた所に、我が姉・
「でも、なんで急に来たんだよ」
「今言ったじゃない。優人の生活ぶりを見に来たのよ」
「ホントは観光目当てだろ?」
「うぐっ!……で、でもお母さんから頼まれて来たから……」
「わーったよ。とりあえず上がったら?お茶くらいは出すよ」
「お茶しか出ないの?」
「…………菓子も出すよ」
はあ、なんで姉ちゃん来たんだよ……。ま、久々に顔見れたからいっか。そんな事を思いながら姉の荷物を持ってやる。
「それにしても、中々立派なマンションに住んでるんだね〜」
「まあな。父さんは俺を家から追い出すためならこれくらい痛くも痒くもないだろ」
そう、俺は父親から嫌われている。正確に言えば俺を奇妙に思っていた。俺との会話を極力控え、俺を見るときは妖怪でも見るような目で見ていた。そんな父から離れられて心底嬉しかったし、今でもその気持ちは変わらない。ただ、一つ心配な事がある。
「その……母さんは大丈夫か?」
「うん。元気だよ。優人が出てった頃は大分やさぐれてたけど、今では平気になったみたい。…………でも、たまに悲しそうな顔するからちゃんと電話するのよ。優人、出てったっきり私以外には連絡を一切しなかったでしょ」
「ま、まあな。俺もあのころは色々大変だったんだよ。引っ越したばっかだから土地勘とかも色々あるし、1人で転校手続き殆どしたし。……………………それに、何より精神的に辛かったし」
「確かに優人がどれだけ辛かったかはわからないけど、連絡しなさいよ。お母さんどれだけ心配したと思ってーー」
「1人になりたかったんだよ!」
俺は強く怒鳴る。そんなつもりは無かったのに。
「ごめんね……」
なんで姉ちゃんが謝るんだよ。俺が明らかに悪いのに。
「それより立ってるのもキツイだろ。座ったら?」
「うん」
短く返事を返した姉はソファに静かに座った。俺はお湯を沸かし、紅茶を淹れる。それに客人用のクッキーを皿に盛って、ソファの前のテーブルに置く。
姉はカップの取っ手を握り、一口分口に含んで喉に運ぶ。カップを皿の上に戻すと、さっきの重い空気からは打って変わって。
「優人、彼女できた?」
「ブハッッ!!なっ!何聞いてんだよ急に!!」
「えー?何?弟の恋路を聞いちゃダメなの?それとも図星?」
「い、いるわけねーだろ!」
「えー。一緒にバンド組んでるあの超絶美少女は?」
え?この人も俺達のバンドの動画見てんの?
「俺と春はそういう関係じゃねーよ」
「へー、あの子春ちゃんっていうんだ。まあ優人とは釣り合わないよね」
聞き分けが良くて嬉しいがサラッと俺がけなされたな。
「ああ、俺みたいなブサメンに彼女がいるわけねーだろ」
すると、姉ちゃんは驚いた表情になる。え?なんで?俺、変な事言った?
「優人、本気で言ってる?」
「?もちろん本気だけど?」
「あんた告白されたことは?」
「何回もあるぞ」
「それでもブサメンって言い張るの?」
「だって、どうせ罰ゲームかなんかだろ?」
「…………ハァ。あんたに惚れた子達は大変だろうね」
「?どういうことだ?」
「もっと自分を知りなさいってことよ」
「はいはい。それより姉ちゃんの方はどうなんだよ?まだ処女か?」
ドスッ
気づくと俺は腹パンさせられていた。いつの間に。早すぎる。
「優人、実の姉にそんな事をよく恥ずかしげ無しに聞けるね」
「まあ……な。…………デリカシーがないのは俺の専売特許だから……」
ダメージがまだ大分残ってるし、痛みが中々引かないし。相変わらず、うちの姉は化け物だわ。
「ま、結局は処女なんだけどね〜」
「答えるなら殴るなよ」
「いや、さっきのは殴らるのは当然だから」
「彼氏は?」
「いないよ」
「姉ちゃんもう20歳だろ。それで経験ナシどころか彼氏もいないって危機感持てよな」
「大丈夫大丈夫。言い寄ってくる男はいっぱいいるから」
「あ…………さいですか」
心配して損しーー
「なら、優人なら初めてをもらってくれる?」
「ブフッッッ!!ゲホッ!ゴホゴホ!ちょ、何言ってんだあんたーー!!」///
「心配するならヤろうよ」
「あんた頭沸いてんじゃないのか!?」///
「優人はまだ童貞?」
「よし!病院行くぞ!姉ちゃんは絶対熱だ!!」
俺はソファから立ち上がる。だが、姉ちゃんに手を掴まれた。そのまま引っ張られ、結果的に俺が押し倒したような体勢になった。
「あの?これはアウトなんじゃ……」///
「優人は私とじゃ嫌?」
「嫌とかそういう問題じゃないなら!俺達姉弟だから!」
「へえ、先に私に処女かどうか聞いたのは優人じゃない」
「うっ…………」
言い返せない。俺が明らかに悪いなこれは。
気づくと姉は俺に顔を近づけてきた。
「えっ!?あっ!その……!お姉様!?!?」
俺の慌てた声には耳を貸そうとせず、あと1ミリというところまできた。ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
「プッ」
「へ?」
「プハハハハハハハハハハ!!」
「ちょ!?姉ちゃん!?」
「優人ってやっぱり馬鹿だね!弟に発情するわけないじゃん!」
………………………………………………まじかよ!!
まあ、どうにかして逃げるつもりだったけど。それなりにキスの覚悟は決めてたのによ。
「ハァ……そろそろ本題に入ってくれよ、姉ちゃん。何か話があって来たんだろ?」
「あ!そうだった。実は……」
急に真剣な雰囲気になるので、テンションに合わせるのが疲れる。しかし、それでもちゃんと聞こうと思った。
パンッ!
と乾いた音がした。まるで手を鳴らしたような。てゆーか実際に手を鳴らしたのは姉なんだけど。
「本題は後回しにして…………ちょっと観光したいから案内してよ」
本当にこの人は無邪気というか掴めないというか……。
「わかった。けど大した場所ないぞ。…………駅前のショッピングモールに行く?」
「ショッピングモールって……観光したいんだけど」
「だから名所的なのが無いからしょうがないだろ。東京っぽいところに行きたいんなら時間も結構かかるぞ?」
「わかった。でも何か一つくらいめぼしいところはあるよね?」
「ああ、ショッピングモールから少し歩くけど、有名なケーキ屋があるんだ。結構雑誌にも載ってる店だぞ。そこに行ったらいいだろ?」
「奢り?」
「…………自分で買えよ。大学生」
というわけで俺達は出かけることになった。つってもあのショッピングモールで買い物するとなったら俺は絶対荷物持ちだな。そしてケーキも奢らされる羽目になるんだろ、どうせ。どこのパシリだよ俺は。
そしてバスで目的の駅まで移動する。
「もうすぐ着くぞ」
俺は一声かけて立ち上がる。姉ちゃんも遅れて同じ行動を取る。俺達はショッピングモールの敷地内のバスセンターでおり、早速入店する。
「さてと、どんな店に行きたいか?」
「んーー。まずは服かな?」
「ここに服なんて腐るほどあるから、見れきれないぞ」
「じゃあオススメの店は?」
姉ちゃんは近くにあった案内図の方まで行き、どこ?と聞いてきた。
「えーっとねー。……て、俺が女性服のオススメの店なんかあるわけないだろ!」
「えー。てゆーか男性ものの服もイマイチ理解して無いでしょ。流行に疎そうだもんね」
あ、バレてましたか。そりゃそうだよな。だって俺、全身真っ黒コーデだぜ?ファッションなんか興味ないし。別に陸とか春とかもそういう知識ないから気にしないし。そもそも似合ってるからいいだろ。…………似合ってるよな?ダサくないよな?
「じゃあテキトーに回ろうかな」
そうして本当にテキトーに回ったので時折変な店にも入ってしまった。靴紐専門店みたいなのもあったな。「千種類以上の靴紐が、ここにある」って言われても違いが分からん。オーダーメイドとかあったが、最近の靴紐もすごいんだな。けど、1番やばかったのは普通にランジェリーショップだったな。俺は入りたく無かったのに無理矢理入店させられた。周りからの視線がすげー痛かった。俺ずっと下むいてたよ。あとは普通に買い物してたけど、楽しかったな。荷物持ち以外は。
「じゃあ次どこ行く?」
ハッキリ言うと、俺が行く店は楽器店とCDショップと本屋とゲーセンしかない。
「ゲーセン行くか?」
「オッケー。優人には負ける気はしないかな」
「まあ、俺はゲームはスマホでしかやらねーからな」
そしてゲーセンにて。
「どうして…………私が……優人なんかに………。優人なんかゴミなのに……」
いくら負けたのが悔しいからってゴミはないでしょ!ゴミは!
俺達はエアホッケーで負けた方がジュースを奢るという罰ゲーム付きでやったわけだが、結果は俺の5勝0敗。ここまでくるとなんだか申し訳ない。その後、太鼓の○人やマ○オカートもしたが、俺が全勝。計ジュース三本程度かな。でもゲームのプレイ料金全額俺持ちだから、結局のところ俺が赤字。
俺は缶のサイダーを片手に持って、
「次はどっか行きたいところあるか?」
「んー。もう特に無いかなぁ」
「じゃあ、さっき言ってたケーキ屋に行く?」
「うん。いいよー」
そのケーキ屋とはこのショッピングモールから徒歩10分くらいで着く。そこのケーキが中々に絶品で、このモール内や周辺のお店からはケーキ屋が他に無い。確かに、一度陸と春と食いに行った時はビビった。
そんなわけだから、俺もまあまあ楽しみなのだ。
だが、人生甘くは無い。この後、いや〜な出来事が起こるが、この時は想像すらしてなかった。
ケーキ屋に向かう道中。
「あれっ?あー!やっぱり先輩だー!!」
後方から聞き覚えのある声。この時、他人のフリをしてればよかったのに、思わず振り返ってしまうのが人間だ。
振り返ると知り合いの姿があった。それは2人で、両方とも後輩だ。とりあえず、俺と姉ちゃんの関係を誤解するだろうな。それはしょうがないのだが、よりによってコイツらかよ……。
後ろにいたのはなんとも口の軽そうな香澄とおたえだった。こちらに手を振っている。
何という悪運だろう。人の話を聞かない奴と天然な奴って。
俺は呟く。
「……ゲームオーバーだな」
一様、次回に続きます。お楽しみに!!