Full Bloom 〜満開の歌声を〜 作:grasshopper
タイトルはLiSAの『Rally Go Round』です。恋のキューピッド的なのをイメージしたから……。
side優人
ステージ裏。香澄率いるポピパが今、最後の一曲を歌い終わり戻って来た。
「あ!先輩!」
ステージから戻って来たばかりの香澄がこちらに気付いた。
「よお、いいステージだったぞ」
俺は香澄、おたえ、牛込、市ヶ谷、そして沙綾を見渡して言った。
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
そう言い残して5人は去って行った。
「さてと、じゃあ俺らもいくとしますか!」
俺は陸と春に言う。
「そうだね!」
春は言い返してくれた。しかし陸は無言で右手を俺と春に差し出した。その行動が何をしたいかはすぐにわかった。春は陸の手の上に手をかざした。
そして俺も、手に手をかざした。
「いくぞ!」
「うん!」
「ああ!」
珍しく陸が「うん」ではなく「ああ」と言った。
そして俺達は袖からステージに登場する。それだけで観客は香澄達の時以上に声を出し、盛り上がった。ここで俺は更に煽る。
「学祭、盛り上がってるかーー!!!」
すると、他のどのバンドよりも既に観客が多かった。なんか申し訳ない。今から歌ってもっと盛り上げるつもりだから、ホントに申し訳ない気持ちになった。
一曲目、これはオリジナル曲だ。これはいきなりトップギアにするような曲のため、ハッスルしすぎて声がもう枯れそうだ。でも、次も俺が歌う。因みにカバー曲で『いつかきっと』だ。この青春ソングは文化祭にピッタリすぎるからな。
三曲目はオリジナルで、陸がメインボーカルだ。陸の声は俺に比べてややキーが高い。なので、陸が歌うと同じ曲でも違う印象を与えることもできる。
そしてMCに入る。
「あー、どうも。《Full Bloom》です!メンバー紹介いきます!ベースボーカルの春!」
春は派手にベースから音を出した。「キャー!!」と観客側から聞こえる。
「続いてドラムの陸!」
陸も春に負けないくらいデカイ音を出す。すると「キャーーーーー!!!!!!」と観客からの黄色い声援が送られてきた。
「そして俺、ギターボーカルの優人だ!」
三度黄色い声援が飛んでくる。
side蘭
先輩達の演奏を見ていると、早く追いつきたいといつも感じてしまう。でも、その差は歴然で、縮まるどころか開く一方だった。たまに優人先輩に練習を見てもらっているのになぜだろう。
やっぱり魂だろうか。
優人先輩の演奏はいつも全力で、見てる側は鳥肌が立つほどだ。普段はヘラヘラしてて、陽気な人なのになぜあそこまで熱のこもった演奏ができるのだろうか。
すると、隣にいたモカが、
「蘭〜、ゆーと先輩ばっかり見てるけど、ホントゆーと先輩のこと好きだよね〜」
そう、いつも私は優人先輩だけを見ている。なぜかいつも心惹かれてしまうのだ。その理由はわかってる。
「うん、いつも周りに笑顔を振りまいてる優人先輩も好きだけど、あんなに楽しそうに演奏してる時の、真剣な表情も…………好き」
「フウー。蘭ったらだいた〜〜ん」
「え?私、今、声に出てた?」
「うん、出てたよ〜」
モカのその言葉を聞いた瞬間に、耳まで真っ赤になっていくのがわかった。思わず私はその場にしゃがみ込んだ。
side優人
そしてMCは春に交代して、
「じゃあ4曲目、LiSAの『Rally Go Round』!」
俺達は演奏を始める。この歌も恋愛感の強い曲だ。恋愛系を選ぶとそれ自体が青春ソングに聞こえるのだから、必然的にこういった曲が多くなる。
その後は陸がMCを担当し、五曲目、六曲目も終わらせて俺達の文化祭ライブは終わった。俺達がステージを去る時にはこの文化祭ライブ1番の盛り上がりだった。もはやこれ以上は無いと思わせる程までに。
「ありがとーーーー!!!」
そう言い残し、舞台袖に戻る。
「あーー、まじで疲れたわー。喉枯れる」
今日俺が歌った曲数は3曲。春は2曲で、陸が1曲だ。なので俺の喉は死んでるに等しい。
この後のクラスのシフト、サボっていいよな。サボっていいに決まってる。クラスの男子供、俺の分までしっかり稼いでくれよ!
時間は過ぎて、特にやることも無くなった。陸は花咲川の生徒でないため、もう帰ってもいいのだが、残って俺と一緒に屋上にいる。
俺は地べたに腰掛け、柵にもたれかかっている。陸も立ってはいるものの、俺と同様に柵にもたれかかってる。
「ホントにサボって大丈夫なのかい?冬夜にまた怒られるでしょ」
「あいつが怒った時の対処法はマスターしてある」
「あはは」
陸は俺の発言に苦笑いで返す。
「なあ。話は変わるけど明日の後夜祭、結構な人数が参加するらしいぞ」
「へぇ、僕達の企画なのに集まってくれるのは嬉しいな」
そう、後夜祭は生徒会や学校側が運営する行事では無い。なので昨年は無かったのだが、今年は俺達が企画し、申請した。まさか本当に申請が通るとは思っていなかった。この後夜祭の目的は新曲のミュージック・ビデオを撮ることだ。そして、俺達の演奏が終わった後にフォークダンスがある。相変わらず、男女比がおかしいの女子同士で組むペアもあるだろう。つまり、ガールズでラブな光景が見られるだろう。
「明日のフォークダンス、陸も参加するのか?」
「いいや、僕は遠慮しておくよ。ここの生徒でもないし。踊る相手もいないし」
「春と踊ればいいじゃん」
「え?」
陸が何故かそんな間の抜けた声を出すので俺も思わず
「え?」
「いや、優人が春と踊るんだと思ってたから」
「はぁ?なんで俺があいつと?」
「いや、1番仲良い女の子って春でしょ?」
「まあ確かにそうだが、あいつとの間隔は幼馴染?というか親友?というか。とにかく、あいつとはそーゆー仲じゃないさ」
「そっか。良かった」
ここで何が良かったのは聴かないでおこう。恐らく、陸は春の事が好きだ。そして俺の予想だと、春も陸の事が好きだ。そんな両想いの2人と一緒にバンドを組んでる俺っていったい……。
つーわけで、俺はこいつらの恋のキューピッドになろうと思っているのだが、こいつら超奥手すぎる!会話量が少ないとか顔が紅くなったりという事はあまり無い。だから進展も無い!!いつだって似たような会話しかしねーし、2人で遊ぶ事もあるそうだけど手繋いだりとか無いみたいだし!そもそもこいつら自分の気持ちに気付いてねーんじゃないのか?陸はさっき「良かった」と言ったが、それでも自分の気持ちに気付いていない。春も春だよ。陸の事は普段からカッコいいとか、俺に比べて大人っぽいとか言ってるくせに全く自分の気持ちに気付かねー!!
俺は今までに何度も2人にいいパスを出したのに2人はゴールを決めるどころか、パスの存在にも気付いてくれない……。俺って恋のキューピッド失格なのかな?
「それにしても、ここから見る夕日も中々に絶景だね」
陸が不意にそんなことを言い始める。
俺は立ち上がり、真っ直ぐに太陽を見つめる。そして思わず口から言葉が溢れた。
「ああ、俺も結構気に入ってるんだ。羽丘も屋上から夕焼け見えるのか?」
「うん。今度、夏休み明けに文化祭があるから見るといいよ」
「そうしてみるよ。ライブついでにな」
「いやー、なんか今から楽しみだなぁ」
「おいおい、それより前に明日もライブあるし、夏にはデカイフェスにも出場するんだから、気が早ぇよ」
「あはは、そうだね」
バンッ!!
唐突に大きな音がする。恐らくドアが開かれたのだろう。俺達は見事にシンクロしながら扉の方に振り返る。
「ここにいたんだ!全く、探したんだよ2人とも」
そこには春の姿だった。
「どした春?」
「もう一般客の人は皆帰ったから、皆で軽く打ち上げしようって」
「え?明日も文化祭だよね?」
ここの生徒でない陸が訊き返す。しかし、俺も疑問に思った事を代弁してくれた。
「いや、私もよくわかんないけど、なんかそういう雰囲気になっちゃったんだからしょうがないでしょ」
なんだよそれ。気分が大分アゲアゲなんだな。
「じゃあ、僕は帰るとするよ」
「あ!陸君も来てもいいって」
「「え?」」
関係の無い俺まで声をあげる。
「ライブ出てたからなんか来て欲しいってクラスの皆が」
「あー、なら逃げられないな。ドンマイ陸!」
「いや、別に逃げようと思ってたわけじゃ……」
しかし陸の言葉を俺ではなく春が遮る。
「なら、早く行こ!」
そうして俺達は綺麗な夕焼けの元、クラスメイトの待つ教室へと3人並んで向かった。
文化祭は2日間あるという設定なので、学祭の話はまだ終わりません。次の話で後夜祭の話をして文化祭編は終わりたいです。