Full Bloom 〜満開の歌声を〜   作:grasshopper

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第1部 桜咲く春のコンチェルト
1話 前前前世


ーーーごめんな、優人。

 

なんで…………

 

ーーーお前との夢、叶えられそうにねぇわ。

 

だからって……なんで………………

 

ーーーお前に酷いことしちまったから。……せめてもの報いだ。

 

ああ、そうだよ……お前は酷いことをした。

…………だから償えよ

……こんなカタチじゃなくて、一緒に夢を叶えて、償えよ!

 

ーーーほんとにごめんな。

 

うるせぇよ…………

 

ーーー俺さ、お前のギター好きだった。

ーーーもっと、聴きたい

ーーーだから……

 

 

 

 

この先はいつも思い出せない。

 

この後のあいつの言葉のおかげで俺はギターを、歌を歌い続けているのだから。

 

なのに、なんで……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今日は平日。

時刻は朝4時半。朝日はまだ見えないが、深夜に比べると明るいかな。

こんな時間に起きてどうしたって。

 

バイトだよ。

 

そんなことはおいといて、今日からうちの学校に新入生がくる。期待に胸を躍らす新入生の諸君!今の内に言っておくが、ちゃんと勉強しろよ!俺みたいになるなよ!(←ホントは成績いい)

 

在校生は明日が始業式だけど、俺は学校へ行く!!!

 

理由はただ1つ!部活勧誘だ!!やっぱり、青春といえば、部活だよな!!!新入部員期待してるからな!!!!一緒に軽音部を盛り上げていこーぜ!!!!!

 

ハイ、無駄に!マーク使ってゴメンナサイ。何となく勢い出したかっただけです。

 

俺は誰に説明していたのだろうか。アホらし。てゆーかバイト!遅刻するぅー。

 

 

「急がねーと、遅刻する!」

 

 

俺は制服姿でバイト先に行き、そのまま登校する。

玄関で靴を履いてドアを開ける。

 

 

「寒いな……」

 

 

ドアを閉める前に小声で「行ってきます」と言った。返す声はない。だって、誰もいないから……。

 

朝日がようやく見え始めた。それによって生まれたグラデーションは優美以外の何物でもなかった。ほぼ毎日見ても飽きない。

 

 

 

 

 

バイト先はそんなに遠くない。《やまぶきベーカリー》というパン屋だ。一言で言うならば、ここのパンはうまい。朝飯食って来たのに、焼きたてのパンの誘惑に負けそうだ。

 

俺は扉を開け、

「おはようございま〜〜す」

と、なんともダルそうな声で挨拶した。これが日常。もう、この挨拶しか俺はできないと思うぐらいに乱用している。

 

 

「あ、おはようございます!優人先輩」

 

「おう。おはよう沙綾」

 

 

名前で呼んでることに大した意味はない。何故なら同じ学校だからな。まあ、俺からしたら妹みたいなもんだな。こんなしっかりした妹が欲しいッ!!!というのは冗談で、単なる先輩後輩ってだけだ。

 

 

「お前も今日から、高校生か〜。俺がバイトを始めた時はまだ中2だったのにな。あの頃の沙綾は可愛かったな〜」

 

「先輩もその頃は中3だったじゃないですか!」

 

「ハハハ。冗談だって。今でも可愛いよ」

 

 

そんな会話をしながら、商品のパンを並べる。ええ匂いやわ〜。並べたら、あとはレジ打ちあるのみ。正直言って、レジの計算システムより、俺の暗算の方が速い!…………ということはなかった。普通に考えてレジに勝負を仕掛けるキチガイなんていないからな。

 

 

「それにしても先輩、別に朝は来なくてもいいんですよ?朝のパン屋は忙しいですし」

 

 

確かに。でもな沙綾、あんまり客いないから大して忙しくないよ。という冗談は言わない。実質売れ行きいいし、客も多いからこんな事言ったら四肢を裂かれたのちにクビになるだけだ。

自分で考えたくせにあれだな、四肢をさくってのは流石にグロいな。

 

 

「んー。でもさ、やっぱり朝のパン屋の感じ好きだし。早起きは健康にいいしさ」

 

 

まあ、これは本当だ。正確に言えば、このパン屋が好きなのだ。家族の仲が良く、非常に心が温まる。あったかいんだからぁ。

 

 

「そ、そんな理由で……」

 

「ちっちゃいことはきにするなー」

 

「バカにしてるんですか?それと、棒読みは元ネタにしつれいですよ」

 

 

 

時間は過ぎて7時半。すっかり、日が昇った。その頃、ようやく、俺の目も冴え始めていた。スロースターターすぎるよね。

 

「じゃ、俺は上がらせてもらいますわ。じゃーな沙綾。また学校でな」

俺は彩綾の父親の亘史さんと沙綾にそう言い、店を出た。外は多少、暖かくなってるかな?と思ったが、全然寒い。お日さまはあんなに暖かそうなのにぃぃぃぃぃぃ!

 

 

 

 

花咲川学園。

それが俺の通っている高校だ。男女比率がおかしい。それしか、特徴がないな。仮にあったとしても、この印象が強すぎて、他が浮かんでこないほどだ。

 

俺は学校に着くと、当たり前だが暇なので、部室にこもって作曲を始めた。

 

すると、

 

 

「おっはよーう!」

でたよ。紹介しておこう、バンドメンバーでベースの櫻井 春だ。

黒髪(若干紫)のポニーテールで、明るい性格だ。美人だとも言われている。

俺も否定はしないが、こいつとは恋愛という関係には絶対にならないと確信を持っている。

なぜならこいつと俺は似ていて、感覚的には双子みたいなもんだからだ。

名前はザ・春って名前だよな。

 

 

「おはよう。朝から元気だな」

 

 

ちなみに、

部室とは言ったが、ここではほとんど活動していない。何故なら、他校にバンドメンバーがもう1人いるからだ。そいつが俺にバンドをやらないかと誘ってくれた。今では感謝している。あいつに出会っていなかったら………。

こういう話は1話目ではなく、もっとシリアス回でやろう。

だから、期待しててくれよ!

 

それはそうと、作曲の続きをする。

 

 

「なあ春、今作曲してるからさ、ちょっと弾いてくんね?ほら、ここ」

 

「ん?あー、そこは昨日も悩んでたよね。オッケー、わかった」

 

 

俺が弾くように頼んだのはベースではなく、俺の担当しているギターだった。

俺達のバンドはメンバー全員がいちようどれでも弾けるようにしている。こうしておくと、燃費がいい。ちゃうちゃう、燃費じゃなくて効率な。

 

 

 

 

時間は過ぎて、いよいよ部活勧誘。といっても中高一貫なのでほとんど意味がない。そう何が言いたいかって?

 

結果、不発!!!

 

悔しいです!!!!!

 

そして、再び部室にて、

 

 

「やっぱり意味なかったねー」

春が話しかけてくる。その声から、だいぶ疲れていると俺は悟った。

 

「まあ、だいたい予想してたけどな」

 

 

そう予想してたさ。でも、1人ぐらい入ってくれてもよくね!?

 

 

「ただただ優人がカッコイイって言われてただけだよね」

 

 

そうだったのか?記憶に残ってないな。

軽く春を小バカにしたら、後頭部にチョップ食らわせられた後の記憶が曖昧だからかな。まあ、、それ以外には理由が見当たらないけどな。

 

 

「いや、お前の方がよっぽど視線集めてただろ」

 

 

そう。俺なんかが視線を集めるはずがない。あったとしても、「あの人キモーい」という意味のこもった視線だけだろう。……自分で言ってて悲しいなあ。

 

 

「そうだった?」

 

 

これだから、無自覚美少女は!!!春、お前はもっと自分のビジュアルを把握しなさい!(←ブーメラン)

もし、軽音部に他の男子がいたら、お前絶対襲われてるぞ!……いや、待てよ。こいつはなんか近づきにくいオーラがあるからな。ハッ!もしやこいつのせいで部員が入らないのでは。

俺は最早、誰かのせいにまでしてしまいたい気分だった。

 

 

「ま、今の3Pでも十分クオリティ高いからいいけどな」

 

「そーだねー」

 

 

つまらなさそうに返事するのやめてもらえます。傷つくから。

まあ確かに、新メンバーが来たら面白くなりそうだけど。

 

 

 

数日後。

特に用も無いが俺達は部室を訪れた。

まあ、2週間ぐらいは部室にいよう、ということになった。

誰か来るかもしれないし。そう、俺達は希望を捨ててはいなかった。いつか必ず、その時がくると信じている!

もう1人のメンバーも学校に残った。向こうも一貫校のため、ほぼ0%だけどな。

暇なので自主練を始める俺と春。合わせはしない。全員でやらないとあまりポテンシャルとかが上がらないからな。

まあ、どうせ後で3人でみっちり練習するんだけどな。

 

すると、不意にドアが開けられる。

これは、これはまさかの……

 

 

「すみませーん。軽音楽部の部室ってここですよね?」

 

 

ドアの方を見ると茶髪で猫耳の女の子と、金髪ツインテールの女の子がいた。猫耳の方はギター持ってんな。これはきたパターンじゃないか?

 

 

「ど、どうした?入部希望か?」

 

「いえ!そうじゃないです!」

 

「…………あ、そう」

 

 

なんでやねーーん!そういう流れだったでしょうが!空気読んで!それとも、あれか!俺のセリフがフラグだったのか?なら、入るとこからやり直そう。

 

 

「じゃあ、どうしたの?」

 

 

春が後輩2人に尋ねる。

 

 

「いや、その……」

 

 

ツインテールの方がモゴモゴ言っている。

冷やかしか、こいつら?

ヒドイ!私の事遊びだったのね!!

 

 

「あーー!!!」

 

「香澄うるさい!」

 

 

おいおい、さっきとキャラ変わりすぎだろ金髪ツインテール!

なるほど、猫耳っ子は香澄というのか。どうでもいーけど。

 

 

「どうしたの?」

 

 

春がきく。えー。この話は発展させなくていーよ。俺、どうせわかんないだろうし。

 

 

「こないだSPACEでソロで出てた人だ!」

 

 

春を指差してそう言った。

SPACEって確か、ガールズバンドのやつだよな。ちょくちょく春の奴出てるから知ってる。でも、会話に入りたくないなー。香澄って奴、絶対人の話聞かないタイプだと思うからな。

 

 

「見に来てくれたんだ!ありがとう!私は2年の櫻井 春(さくらい はる)!気軽に春先輩って呼んでね!」

 

 

「俺も2年の咲野 優人(さきや ゆうと)だ。優人先輩でいい」

空気になっていた俺もようやく参加できた。まあ、こいつ面倒臭さうだから、空気でもよかったんだけどねっ!

 

 

「1年の戸山 香澄です!香澄って呼んでください!ほら、有咲も!」

 

「えっ!いいよ」

 

「いいから!いいから!」

 

 

なるほど、面倒臭いが面白そうだな。それに悪いやつではなさそうだ。

 

 

「えっと……1年の市ヶ谷 有咲です」

 

 

香澄のゴリ押しにやられた市ヶ谷は自己紹介をした。なるほど、多分覚えた。

 

 

「で、何の用?」

 

 

春が言った。そーいや、忘れてたわ。

 

 

「演奏してもらえますか!」

 

「「…………え!?」」

 

 

無理な願いだ。何の準備もしてないし。それになぁ。ここであんまりガチの演奏はちょっとね……。

 

 

「俺らのバンドは3人なんだ」

 

「もう1人のメンバーは他校の生徒なんだよ」

 

 

春も俺に続けて言った。ナイスコンビネーション!

 

 

「やっぱり無理だって。帰るぞ香澄」

 

 

市ヶ谷が香澄の制服の襟を掴む。

 

 

「ただし!!」

 

 

おお、!マークってこういうところで使うのか。

部室から出ようとした香澄と市ヶ谷は足を止めた。

 

 

「俺ら2人の演奏なら、今すぐ出来るぜ?どうすーー」

 

「聴きます!!」

 

 

お、おう。即答ダネ。

いいね、結構ノリいいな!こういう観客いる方がやる気でるな!

 

 

「じゃあ、何かリクエストでもある?」

 

「キラキラドキドキするもの!!」

 

 

うん、具体性がないね。

と、心の中でツッコミを入れる。俺、あんまりツッコミ型じゃないんだよなぁ。

 

しかし、俺は香澄のバッグに付いてたキーホルダーを見て、質問する。

 

 

「星、好きなのか?」

 

「はい!大好きです!」

 

「なら、あれだね」

 

 

春が俺に言ってきた。

あれかぁ。ただただ春の好みの曲なだげだろ。まあ、いい曲だけどさ。

 

 

「カバー曲でもいいか?」

 

「ハイ!」

 

 

じゃあ、ちゃちゃっとやりますか。

俺はさっき下ろしたばかりのギターを再び首にかける。

ベースを持った春の方を見ると、無言で頷いた。

 

ドラマーがいないので俺が1、2、3、4と言う。

そして俺達は弾き始める。

 

選んだ曲は『前前前世』。春は「君の名は」を見に行った日以来、RADWIMPSの曲をアレンジしていた。まあ、アレンジすんのは俺も手伝ったけどね。仕事だけどね。

もう、半年経つから、そろそろ飽きるだろう。

 

イントロが終わり、Aメロ。

マイクがないから、俺達は地声で頑張る。ここでは前走の疾走感からさらに速くしようと原曲と歌は同じペースだが、演奏の方を結構変えた。

Bメロに入り、少し、声を弱くする。こうすることでサビの印象を強くすり。だからといって、ここの部分の印象が薄くなっていいわけでもないので、そこもアレンジで対応済みだ。

 

そしてサビ。一気に声のボリュームを上げる。ここではほとんど無我夢中って感じだな。結局音楽は楽しんだ者勝ちだ。だから、やりたいようにやり、歌いたいように歌う。そんな自由性(オリジナリティ)溢れるアレンジにしている。

 

1番を歌い終える。今日はここまでにしとこうと、春にアイコンタクトをとる。

 

終わったーー。2人でできたよ。大変だったよ。でも、練習の甲斐があったな。こんな思わぬ機会でライブするとはな。

 

 

「す……」

 

「「す?」」

 

「凄かったです!!」

 

「うおっ!びっくりしたぁ」

 

 

声、大きすぎたよぉ〜。頭に響くなぁ。

 

「急に大きい声出さないでくれるとありがたいな、香澄」

俺と春は続けて言う。俺と同じく、やめてほしいようだ。

 

 

「ホントにカッコよくて!キラキラしてて!ドキドキさせられました!」

 

 

だからデカイ声やめろって。

でも、

 

 

「そうか、喜んでもらえたなら嬉しいよ」

 

「私達もバンド組んで、絶対に追いつきます!」

 

「「「へ?」」」

 

 

俺と春だけでなく、市ヶ谷まで素っ頓狂な声を出した。

 

 

「それじゃあ!失礼しました!また来ます!」

 

 

と言って出て行った。

 

 

「おいコラ!待て香澄!!失礼しました!」

 

 

そう言って市ヶ谷も出て行った。

 

なんだったんだ?

 

嵐が通り去った後の静けさに、部室はつつまれた




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