「パルテナ様、ハデスはロックシードをもう送ったそうですよ」
「あらっそうなのですか?流石に冥府の神、死後に慣れていると何かを生み出すのも上手いのでしょうか。まあ此方も後少しです」
「すいません、良い所でしょうけどミカエルさんが来ています」
「はぁっ……またですか?懲りない人です事」
「人じゃないですけどね」
「言葉の綾です」
蔓の先で熟成し始めている果実、多くの光を浴びながら少しずつ大きくなっていく。それは何れ同盟の調停者の力となる為の者、ビットはパルテナが奇跡の加護と光を浴びせてそれを育成しているのを知っている。自分もパルテナの奇跡を受けて空を飛ぶ事が出来ている、きっとこれは友人の力になると確信しつつ笑みを浮かべる。
「それにしてもこれ何の果物だろ?桃でもイチゴでも無い……うーん、パルテナ様に聞いてみようかな」
そう思うと此処を訪ねてきた天使の対応に向かうのであった。天空界は一般的に想像される天界とは異なる世界である、基本的に人間に干渉せず中立の立場を貫き続けるが他の勢力が人間などに強い影響を行った場合に限り動く事としている。頂点は女神パルテナ、だが今来ている天使の上の存在という訳では無い。
「僕はあの人嫌いだな……」
珍しく愚痴を零したピットは貴光の所でゲームをやりたいと思いつつパルテナの後を追った。
「貴光君、迎えに来たよ。来て貰えるよね」
「……アポがある以上行こう。その為だけに予定を開けさせられたからな」
放課後教室にやってきた木場に連れられて部室へと連れて行かれる貴光。いきなり連行するのは通じないと理解したのか木場が前もってのアポを取りに来て約束を取り付けた為それに報いる為に貴光はその後に続いていた。いきなり用があると言って自分の都合だけに動かされるのが嫌いなだけであって前もっての約束があれば確りと応える、それが貴光である。掌には渡されたばかりのミントロックシードを転がしながら木場の後に続いていく。
「一応今僕も言っておくよ、悪かったよ貴光君」
「お前に謝られてもな、お前は別に俺に対して疚しい事をした訳ではないから受け取りようが無いな。やたらに謝るのは止めておいたほうがいいぞ、低く見られる」
「それでもだよ」
そんなやり取りを続けていると部室に到着した、そこにはソファに座っているリアスと此方を何処か恐ろしげな視線を投げている小猫と緊張した面持ちの朱乃、そして顔を合わせ難そうにしている一誠がいた。木場に通されてリアスの正面に座らされる、キつい目付きの表情を向けられて思わずリアスは声を上げそうになったがそれをぐっと堪える。
「呉島君、今までの非礼申し訳ありませんでした。悪魔として、リアス・グレモリー個人として謝罪致します……」
「受け取りはする。それと興味で聞くがそれは俺に対しての謝罪か、それとも俺の立場に対する物か?」
この発言に対して貴光は悪意などはなく唯の興味心からの言葉だった。それに思わず身体が硬直してしまうリアス、彼女としては自然王直轄である自然軍の所属であるということを聞いて態度を改めてしまっているので如何足掻いても立場に謝罪しているとしか受け取る事が出来ない。だが此処でそれを否定しても今までの言動や行動からそうだと受け取る事は出来ず嘘の事を言っている事にしかならない為言葉に詰まってしまう。
「まあいい、俺としては謝罪は理解した。だが次は無い」
「た、貴光そ、その!!」
一誠が言葉を口にしようとした時部室内にあるリアス達が使用する転移魔方陣が輝きを放ち始めた、光を放っていく魔法陣に注目が集まっていく中魔法陣の文様が変質して行き炎を舞い上げていく。炎と共に巻き起こった熱風に部室内が荒れるが貴光は顔色一つ変えずに魔法陣を見つめ続けた。
「ふぅ……人間界は久しぶりだな」
炎が消え舞っている火の粉の奥から何処かホストのような男が姿を現した、それはリアスを見つめると気持ちの悪い笑みを浮かべてリアスの名を呼んだ。だが肝心のリアスは現れた男に対して嫌悪感を露わにしつつ顔を顰める。
「(なんて最悪なタイミングで……!!)」
「木場、お前主間違えたか?」
「ア、アハハハ……貴光君、今はマジで勘弁してくれないかな」
リアスもこの状況で考えられる限り最悪の相手が来たと思ってしまった、悪魔の中でも有数の力を持つフェニックス家の悪魔。上級悪魔ライザー・フェニックス、自分の婚約者でもある悪魔だがリアス自身は彼のことを酷く嫌っている。彼女の理想としては確りとした恋愛をして結婚することであり親同士が勝手に決めた相手などと結婚はしたく無いと思っている。
「私は貴方と結婚なんてごめんだって言ってるでしょう!!絶対に嫌よ!!」
「おいおい今や純粋な悪魔は少なくなっている、それを絶やさない様にする為の婚約なんだぜ?」
「だとしても嫌よ!純潔が何だっていうのよ、純潔がそんなに偉いの!?」
如何あってもリアスを説得したいライザーからしても両家の承諾を得て婚約をしているのでこの拒否は困る。ライザーとしてもリアスは好みらしく如何あっても手に入れたいと思っているようでかなり粘っているが御付のメイドと思われる悪魔が最終手段であるレーティングゲームの発案をした。リアスもライザーもそれを了承したが最後にライザーは暢気に紅茶を飲んでいる貴光へ視線を向けた。
「おい人間、貴様何故此処にいる。リアスに貴様のような人間が会って良いと思っているのか」
「ああ思っている。俺はそれに呼ばれたのだからな」
自分は呼ばれた側である為権利としてはある、公然と主張する貴光だがリアスをそれ呼ばわりしたのにライザーは激怒した。
「貴様不敬な!!死ねっ!!」
「ま、待ちなさいライザーそれだけは駄目っっ!!!!」
必死に止めようとするリアスの行動も空しく貴光へと炎が向けられて発射されてしまった、木場がフォローに入ろうとするのにも間に合わず炎は貴光に炸裂するがそれを阻むように光の壁が広がった。
「何っ!?」
「……矢張り悪魔は悪魔か」
溜息をしながらも立ち上がりベルトを装着する。
『ミント!!』
「俺を攻撃したんだ、される覚悟はあるよな糞悪魔。―――変身!」
『ソイヤ!!ミントアームズ!! 冥府神ハデス 現世降臨す!!』
ミントアームズを装着されると周囲にハデスのオーラが発散されていく、冥府の神の覇気が広まっていくのを感じ流石のライザーも顔色を悪くしていく。
「貴様……何故神の覇気を纏って……!?高々人間が何故……!?」
「一発は一発、先に手を出してきたのは其方だ。こちらもやらせて貰うぞ」
『待つのじゃ』
振り上げられた鎌がライザーを切り裂こうとした時、部室全体に聞こえるように声が響き渡った。その声を聞いた時貴光は動きを止め鎌を収めた、その声は主であるナチュレの声だからだ。
「ナチュレ様」
「ナチュレ、だと……!?あの自然王か!?」
『若造、お主は妾の部下に炎を向けた。それは妾に対する敵対行為、悪魔は自然軍との戦を所望すると受け取るが良いのじゃな』
「ち、違う俺は唯俺のリアスに対して生意気な事を言った人間を……!」
『その生意気な人間は妾の配下じゃ、つまり妾に対する宣戦布告じゃ』
何も言い訳が通じない状況にライザーも汗を流すがナチュレは悪い笑いを浮かべながらある事を言った。
『良いじゃろう、ならばお主らがするというレーティングゲームに参加させよ。そこで決着を付けようではないか、貴光もそれで良いな』
「意義など御座いません、全てはナチュレ様の意のままに……」
『10日後、じゃったな。ではその時に会おうではないか』
その声と共に光に包まれて転送されていく貴光は部室から姿を消していく。ライザーは思いもしなかった展開に驚きつつ勝てば問題ないと笑ったが彼はまだ知らない。
「という訳じゃエレカ、10日後貴光と共に頼むぞ」
「任せてくださいよ、久々に暴れちゃいますから♪」
「んじゃタナトスきゅん行って来る?」
「いや私が行く、異論は認めん」
「あらら~メデューサちゃんがやる気満々だ、こりゃ悪魔連中可愛そう♪」
「少し行ってみたかったデスよ」
「パルテナ様、僕も行っていいですか?」
「勿論です。ヤッチャッてください」
敵が自然軍だけ、では無い事に……。