「その年で厨二病か、難儀な事だ……」
凍りついたのは空間、そしてその場全員の身体と意識。貴光と一誠の二人を威圧しようとしたのか、それともカッコつけようと思いきって言ってしまったのかは分からないが自身満々に発した言葉への反応は酷く淡白且つ呆れが強いものだった。
「ちょ貴光!?お前失礼すぎるだろ厨二病扱いとか!?謝れ、リアス先輩に謝れ!!」
「いやだってお前、いきなり呼び出されて来てみたら本人はシャワー浴びてて出てきたと思ったら悪魔として歓迎するとか抜かすんだぞ。普通に引くわ、正直無いわ」
「い、いやそうかもしれないけど言い方って物が……」
そう言いつつも一誠も思う所があるのか言葉に力はない、確かにいきなり悪魔として歓迎と言われても相手の精神状態が異常をきたしているのではないかと心配になるのが当然と言えるだろう。この学園のマドンナと言うべきリアスが堂々の悪魔発言、十分なスキャンダル発言だ。木場も思う所があるのか張り付いた笑みは引き攣り皮膚がピクピクと痙攣している。姫島や1年生の塔城 小猫も笑いを堪えているように見える。
「ま、真面目な話をしているんだけど…?」
「ああ……一誠直ぐに黄色い救急車を呼べ、自分が本当に悪魔だと思い込むレベルまでに病が悪化してしまっている……。俺はこの事実を新聞部に売り込んでくる、良い小遣い稼ぎになるだろ」
「ちょっと本当に止めてくれないかしら!?私の評判ガタ落ちになるわ!?」
「なればいい」
「た、貴光ぅぅぅぅぅっっっ!!!??」
「そうよ一誠も何か言ってあげて!!」
「我らがお姉様が一大事だ!!黄色い救急車って何番だ!?」
「そこじゃないわよぉおおおお!!!!」
怒涛のラッシュが掛けられ最早半泣きに片足を突っ込み掛けているリアスに周囲は何とか慰めようとしているが木場はその場に蹲り笑いを堪えるのでもう手一杯になっている。いや何とか隠そうと努力している彼はマシな部類だろうか笑い声とニヤついた表情で背中を摩っている子猫と普通に笑っている姫島に比べたらマシなのかもしれない。
「もう、いや……なんで真実を言っただけで私が厨二病扱いされなきゃ行けないの……?私が、私が悪いの……?」
「(お、おい貴光なんかやばいぞ。もしかして……リアス先輩で電波系……?)」
「(恐らくな。良いか覚えておけ一誠、こういった女は100%ハズレアだ。付き合おうと思うなよ)」
「(そうなのか……残念美人って良くね?)
「(後々の人生で死ぬほど後悔するぞ、清楚な女と電波、どっちが良い)」
「(清楚だな、分かったぜ貴光)」
ひそひそと行われる男子二人の会話、人知れず一誠の中でリアスの株が徐々に安くなっているのは大体貴光のせいである。話が再開されたのは約30分後の事である。
「え、ええと兵藤君。親しみを込めて一誠を呼ばせてもらうわね、そしてそちらも貴光と」
「ふざけるな、散々人を馬鹿にしておいて親しみを込めるだと?おい木場、帰って良いか」
「お、お願いだからもう少し居て貰えないかな……?」
明確な敵意を剥き出しにしながらリアスに嫌悪感を発散させながら木場の頼みということで留まる、そもそも此処に来た理由は人の事情も一切考慮せずに自分を呼びつけたリアスに対して文句を言う事なのでリアスの話を聞く気は最初から0、マナーも相手に対する配慮も出来ない先輩にパシリとして使われている木場の顔を立てるつもりで今此処にいる。
「グスン……。一誠、貴方は先日殺されているの。覚えてないかしらってお願いだから真面目に聞いて頂戴!!そんな残念な頭の女を見るような目をしないで!!」
「(自覚、あるのかな……)殺されてって言われても……」
「おい一誠、こいつは何を言ってるんだ?」
まだ何か妙な事を口走り始めたと思いつつも一誠の方を見つめるとその表情は徐々に青ざめていく、それは先程見た夕麻という彼女の事を皆が覚えていない時に見せた物と全く同じ。そして小さく漏らしていくのが自分が彼女に殺されたという記憶があるという事。
「一誠お前……もう一回死んでみるか?」
「いやなんでそうなる!?可笑しくない!?そこは心配するところだろ!?」
「いやもう一回死んで蘇ったら少しはエロい面が減るかと思って」
「お前の頭の中どうなってんだよ!!?」
全力で突っ込みながら元気を取り戻していく一誠、それを見つつ友人思いなんだなと思いなおすリアスだが彼が此方に向けて来る視線は変わらず冷たい。そんなこんなで話は進んで行き一誠を蘇生したのはリアスでその際に一誠は転生悪魔に生まれ変わっている事とこの世界には天使や堕天使がいる事を告白し一度殺されている一誠を保護する為に眷属にした事が話された。貴光は依然怪訝そうな視線を向けたままだが一誠はそれが真実であると認めた。
「それで呉島くん、貴方にも眷属になって貰いたいんだけど」
「ハッ?俺に悪魔になれといいたいのか」
「ええ。貴方、昨日悪魔を一体倒したでしょ」
「さて、何の事やら……」
そう言いつつ白を切るが此方に投げられた一枚の写真、そこには暗い中に映っている貴光と頭上には空間の穴から出てきた果実のようなものが映っている。それでも言い逃れが出来るかと言わんばかりの事だが貴光は肩を竦めた。
「俺がこれだったら何だ、今これで暴れてあんたら全員殺しても良いんだぜ……?」
「貴方、私達の敵なの……?」
「知らんな。少なくとも俺はアンタが嫌いだな、マナーもまともに守れない奴なんてな」
もう言いたい事は言いきったと言わんばかりに立ち上がり木場の方を軽く叩いた、
『悪魔というのも礼儀がなっとらんのぉ、あんな態度と物言いでは敵を作って当然じゃな』
「(……聞いておりましたか)」
『当然じゃ、妾は常にお主らを見守っておる。だがプライバシーまでは侵害する気は無いから安心せい、その当たりは心得ておる』
校門を出ると同時に響いてくる声に貴光は心の中で返答をする、自分達を見守ってくれている上の存在。それへの感謝と敬意を示しながら歩みを進め続ける。
『貴光、警戒だが怠るでないぞ。悪魔は心の隙間を狙ってくるからの』
「(承知しております、あれに心を許す気などありません)」
『ならば良い、そうじゃ夕食時に顔を出させて貰うからの。久しぶりにスマブラでもやろうではないか』
「(いいですね、謹んでお相手をさせて頂きます―――自然王ナチュレ様)」
『うむ苦しゅうない』
リアスたちを一蹴し帰宅した貴光、さっさと宿題を済ませリビングへと向かうとそこには光実と貴虎、そしてもう一人がいや正確には人ではないが席についていた。赤いドレスに花や植物の蔓をあしらった装飾品を見事に自分の物にしているかのように纏っている幼い少女は傍らに身の丈ほどの杖を遊ばせながらチビチビと果実酒を口にしながら貴光を待っていた。
「待っておったぞ貴光」
「遅くなりましたナチュレ様」
「席につけ貴光、食事にしよう」
「分かったよ」
静かに席につくと貴虎が食事の開始を宣言した、普段なら愉快に談笑しながらする食事も今日は厳粛で静かな進行だった。この場にいるのは自分達の主とも言える存在である自然そのものを司る神、自然王ナチュレがいるのだから。明確に主と眷属という関係ではないが既に眷属と主という事だけでは済まされない関係にあるのも事実。
「う~ん矢張り美味いの~♪この野菜の新鮮さと口当たり、最高じゃな~♪」
「やっぱりナチュレ様は野菜好きですね」
「うむ。しかしだからと言って肉や魚が嫌いという訳では無いぞ、それらも自然の一つじゃからな」
しかしそれでも食卓は神が同席しているのにも関わらず賑やかとも言える。ナチュレも神と言って偉ぶる気は無く何処か庶民的な所があり人間くさい所が多々ある。呉島兄弟とナチュレの関係はかなり長い物でナチュレはちょくちょくお邪魔しては一緒に食事をしたりゲームをしたりしている友人的な面も持っている。
「もらいっ!!」
「おっコラ貴光お主それは妾が狙っておったから揚げ!?」
「早い者勝ちですよナチュレ様♪」
「ぐぬぬぬ~……では次はってもう無い!!?」
「「(モグモグ)」」
「貴虎にミッチィィィィ!!!お主ら少しは妾を敬わんかぁぁ~っ!!」
徐々に賑やかになっていった食卓も収まりを見せていき食後ジュースやコーヒーを片手に歓談する事になったがナチュレは先程のから揚げの事を根に持っているのかやや機嫌が悪い、貴光が謝りながらジュースを渡すとややむすっとしながらも受け取り美味しそうに飲み始める。
「んでナチュレ様、今回家に来た理由は何なんです?」
「んっそうじゃ忘れる所じゃった。街に一匹の悪魔が入り込んだ、凶悪で人間を食い物にしておる輩じゃ。そいつを貴光、お主が狩ってくるのじゃ」
老獪な視線と鋭い意識を向けながら指令を出すナチュレ、それを受け止めるのは貴光。
「何で兄さんなんです?僕や貴虎兄さんだって……」
「この中で一番潜在能力が高いからじゃ、もっと経験を積ませれば立派な戦士になるじゃろう。良いな貴光」
「承知しました」
言葉を頂戴し早速腰にベルトを巻き付けるとオレンジのロックシードを転がしながら好戦的な笑みを浮かべた。
「ナチュレ様、もしもあの悪魔達が出てきたら如何したら?」
「うーむ……潰して良いと言いたい所じゃがあれは悪魔界でそれなりに大きな力を持つ所の出、今潰すのは得策ではないの。ある程度の攻撃は許可するぞ」
「承知しました」