「な、なあおい貴光貴光!!お前なら、お前なら分かるだろ!?」
「なんだいきなりおい近いぞ」
「良いから答えてくれよ!!」
「主語を入れろ主語を!何を言っているのか分からない!」
放課後、帰宅前に教室でくつろいでいる時に此方に駆け寄るように迫ってきた一誠、鬼気迫る表情で此方を見つめるその眼の中にあったのは何かを求めているかのような物。迷子になっている子供のような弱弱しい光だった、周囲の女子達が何かを言っているが余り気にはしていない。
「夕麻ちゃんだよ、話しただろ!?なあ知ってるよな!!?」
「昼食の時に言っていた子だろ、それが如何した」
「し、知ってるんだな!?よ、良かったぁ……」
安心しきったのかその場へたり込んでしまう、明らかに様子が可笑しい一誠に貴光は戸惑う。周囲も彼が可笑しいのではという声が上がり始めているが普段の行いのせいかそこまで重要視されていない。
「おい兵藤、何があったのか説明しろ」
「皆覚えてないっていうんだ、夕麻ちゃんの事……!松田や元浜も……」
「覚えて、いない……?」
あんな衝撃的な事件を覚えていないというのは確かに可笑しい、それも常に一誠と共にいたその友人二人。自分が聞いた時にはしっかりと二人にも話したという事を聞いたのに明らかに食い違いが生じている。自分と一誠にはしっかりと残っている筈の物と残っていない物、これは明らかな異常である事態だ。あれが嘘の記憶だとは思わないし一誠もかなり困惑している事から本気だと分かる。何が起こっているのだろうか。そんな中一人の男が教室に入りながらさわやかな声を出した。
「ちょっといいかな、兵藤 一誠君と呉島 貴光君っていますか?」
「……何のようだ?」
そこに居たのは学園内でもイケメンとして有名で王子とも呼ばれている木場 祐斗。そんな彼が自分に一体何の用があるというのだろうか。
「リアス・グレモリー先輩が話があるというので、僕が」
「えっあの学園の二大お姉様の一人、リアス先輩が!?」
「……そんな事で復活するなよお前」
3年のリアス・グレモリー、この学園の二大お姉様と呼ばれている女子生徒。スタイル抜群で成績優秀な完璧な美女、男女問わず人気が高く誰もが憧れている、男ならば一度で良いからデートしてみたいというのが当然と言われているがそんな女性が何故自分に対して用があるのか全く理解できない。
「行きます行きます!!」
「良かった……貴光君も是非」
「……此方の事情は一切無視か、それに用があるなら前もって連絡し日取りを伝えるのがマナーだろ」
「す、すいません僕も呼んで欲しいと言われただけなので……」
貴虎から厳しく社会のマナーや礼儀を叩きこまれている身としてはいきなり会いたいからといって迎えを寄越して此方の事は配慮しない、高校生とはいえ前もって話を通すのは当然だろうと舌打ちをする。この場合木場に罪は無い、問題があるのはグレモリーの方だと判断すると文句の一つを言う為に同行する事を決める。何より今の一誠を放置は出来ないと思った。
木場の後に続いてグレモリーが待つという彼女が所属している部室、オカルト研究部へと到着した。入った瞬間に抱いた感情は驚きだった、オカルトグッズや怪しげな魔法陣や人形、六芒星が敷き詰められているような異様な空間。ドラマなどでオカルト研究会などを見た事があるが実際にこのような事になっているとは……現実は小説より奇なりとは言い得て妙だ。そして部屋の置くにはシャワールームと思われるスペースがあった。
「……おい木場、グレモリーは何処だ」
「多分今シャワーだと」
「……お前に人を呼びに行かせて自分はシャワーとは随分マナーがなっていないな」
それをハッキリ、本人に聞こえるように言う貴光に木場は引き攣った笑いを浮かべる事しか出来なかった。一誠はそんな事など気にしていないのかシャワーカーテンの奥に影として見えてるリアスの姿を目に焼け付けようとしているのかそれとも少しでも透ける事を願っているのか凄まじい眼力を向けていた。流石は変態三人衆の一角、先程まであれほど動揺していたのにそんな陰りはもう見えない。暫しするとそこへ一人の女子、姫島 朱乃がタオルと着替えを持って行きそこで着替えたのが真紅の髪を靡かせたリアス・グレモリーが此方へと視線を向けながら席についた。
「ようこそオカルト研究部へ兵藤 一誠くん、呉島 貴光君」
「……謝罪もなしか」
「そ、そうねまずは申し訳なかったわ。いきなり呼び出してしまって、そして調べ物をしていてシャワーを浴びる暇も無かったの、許して頂戴」
「そりゃ勿論!」
憧れのお姉様とやらと会話出来てそれだけで光栄ですと言わんばかりに興奮している一誠と相手の態度などが気に食わずに険しい表情を取り続ける貴光。それにリアスは苦い笑いしか浮かべる事が出来なかったが気を取り直すように息払いをすると顔を上げた。
「私達、オカルト研究部は貴方達を歓迎するわ!悪魔としてね……」
「その年で厨二病か、難儀な事だ……」
冷静且つ率直に吐き出された言葉はその場の空気を殺して、ただただ静寂だけを生み出した。