盛大な横槍をぶっ放した二人はコカビエルへと視線を向けている、上に乗っている男を跳ね除けると立ち上がりつつも身体から流れている血を見ると震えるように身体を揺らしながらも高らかな声を上げた。
「ハッハハハハッ!!!血、血!流血した、この俺が!!ハハハハッ!!!」
「うわ何あれサイコかよ、血が流れてるって分かったら笑い始めたよ。普通に怖いわ、引くわ」
「というかよくもまあ軽い流血だけで済んだよね。仮にも二つの複合攻撃を」
肩に担いだ鎌を音を鳴らしながら不適に笑っているコカビエルに対して純粋に引く貴光と純粋にドン引きしている光実、どちらにせよ引いている事には間違い無い。今まで色んな意味でキャラが濃い面子と顔を合わせてきたが此処までの戦闘狂のようなキャラには遭遇した事がない。自身を傷つけた対象である鎧武と龍玄を見つけると高格を大きく吊り上げるような笑みを浮かべながら其方へと歩いていく。
「悪魔共よりも楽しめそうじゃないか。さあもっと闘争を、血肉沸き踊る戦いをしよう……!!」
「うっわガチの戦闘狂とか初めてだわ……引くわぁっ……」
「あれとメデューサさんとの相手、どっちが楽?」
「どっちも嫌なんですかその」
暢気な言葉を口ずさみながらもどんどん此方へと迫ってくるコカビエルに対して警戒を強めていく鎧武と龍玄、龍砲とミントシックルの矛先が向けられるとより高らかな笑いをあげて喜びを露わにしながら迫ってくるコカビエルに遂に攻撃を仕掛けた。
「援護頼むぞ!」
「お任せを。後でお金取るから覚悟してね」
「ひっでぇ有料かよ?!」
などと言いつつも龍玄は後ろに後退し鎧武は前進し鎌を振り下ろし光の槍を振るってくるコカビエルを迎撃する。
「貴様その力冥府の物だな!!悪魔の気配もしないお前が何故冥府の力を持っている!?」
「答える意味があるのか!」
「ないな!!戦いに意味など必要ない!!したいから戦うのだ、戦いから戦うのだ!!」
たった一合得物同士のぶつけ合いしただけで鎧武のミントアームズが持つ冥府の力の強さとそれを十二分に扱えるだけのポテンシャルと技量を持っていることを把握出来た嬉しさからか更に大声を張り上げながら力を込めて槍を振るい続けてくる。それを全て受け止めつつ隙を見つけては鎌を振るう鎧武、初めて互角の戦いが出来る相手の登場に喜び勇むコカビエルを狙い打つ龍玄の龍砲が背後から炸裂する。
「ぬごっ!?」
「戦争なんだろ、なら全方位を気にしな!!」
体勢が崩れたところへと加えられた拳がコカビエルの全身を揺るがす、宙に浮いたコカビエルの身体に再び襲い掛かる龍砲の弾丸。翼の一部が焼け落ちた時振るわれたミントシックルはその身体を大きく切り裂きたい量の血が噴出した。
「ぐああああっっ!!!」
「よしクリンヒット!」
「ハ、ハハハ、ハハハハハハッ!!!!」
確かな手応えにを感じた貴光だが次に感じたのは異様過ぎるコカビエルの感性、胸から脇腹にかけて出来た大きな傷からは大量の血液が噴出しており素人が見ても重傷にしか見えない。それなのに大声を出して笑っているという異常事態に軽いパニックを起こす。
「いいぞ、いいぞもっと俺を滾らせろ!!もっと俺を戦わせろぉぉ!!!」
「なっうおおおっ!?」
身体に大きな傷を負っているのにも関わらずその動きが機敏さを増して行き一撃一撃の破壊力も先程とは段違いの物と化して鎧武へと降りかかってくる。鎌で必死に防御しつつ思わず後退してしまう兄を援護すべくトリガーを引くが背後から来る銃弾の軌道を完全に呼んでいるかのような動きで回避しながらアクロバティックな動きで鎧武へと連撃を加えていく。
「た、貴光!」
先程までの優勢が嘘のように追い込まれていく貴光に大声を出してしまう一誠、一方的な絶交を言い渡されているとしても友人だった者としてピンチを放置する事など出来ないと言いたげにリアスの方を向くと静かに首を縦に振られ貴光の所へと走り出そうとした時足元に弾丸が撃ちこまれた。
「どわぁったたたたぁぁあい!!!??」
それに驚き尻餅を突いてしまう、いきなり何が起きたのかと思って周囲を見回すと龍玄が龍砲の銃口を此方へと向けてトリガーを引いていた。
「お、お前なんで邪魔するんだよ!?貴光の仲間じゃないのかよ!?」
「そうだよ、でも悪魔とは同盟でも何でもないんだ。助けられる筋合いはない」
「そんな事を言ってる場合じゃ―――」
「単なる劣情で兄さんの言葉を無碍にした屑なんかを、兄さんの元に行かせる訳無いだろ」
沸きあがってくる怒りのまま光実はトリガーを引いて一誠の動きを封じた、一誠の話は兄から聞いていた。悪魔になった経緯は彼の意志に関係なく命を救う為にはしょうがないと判断するがリアスに従っている理由がエロ目的というのは如何にも許せない。友人としての忠告を受けておいてそれを捨て置き、唯の一時の劣情で兄厚意を無駄にした存在には異常なほどに怒りが沸きあがってくる。
「僕はお前を許さない……それに兄さんはあいつ程度に苦戦する程弱くはない―――そうだよね貴光兄さん」
「―――言ってくれるぜ…まあ」
威力もスピードも増して心臓を突き刺そうとした強烈な一撃、鎧すら貫通しようとしたそれを鎌で受け止めた鎧武は笑い声を漏らしながらコカビエルの攻撃の防御に完全に成功した。
「負けないんだけどなぁっ!!」
「そうだ、もっと来いっっ!!」
光の槍を跳ね返すと一気に攻勢に出始めた貴光、速度にも慣れたのか全ての攻撃を捌きながらどんどん前へと前進しコカビエルの身体へと新たな傷を増産して行く。ダメ押しと言わんばかりに身体を回転させながら渾身の力を込めた一撃は光の槍を粉砕しながらコカビエルに鎌を振り下ろした。
「ぐう"があ"あ"あ"あ"!!!!」
流石に頭部から股にかけて出来た巨大な傷は応えるのか苦しむもがく声を上げながら膝を突いたコカビエル、滝のように噴出して行く血液。既に勝負は決して居るように見えるのにそれでもコカビエルはまだ立とうとし戦いを続けようとしている。
「まだまだ勝負はこれからだぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っっ!!!こんな楽しい戦いを終わらせて堪るか、負けてなるものかぁぁぁぁっっっ!!!!」
「なんつぅ執念……ならこれで決めてやる!」
『ミントオーレ!!』
絶叫を上げながら此方へと走ってくるコカビエルの執念に経緯を示すようにブレードを倒しエネルギーの解放を行う。ミントシックルを地面に置き一気に跳躍しロックシードのエネルギーを全身に纏いながら一気にコカビエルへと向かって蹴りを放ちながら突撃した。
「セェェェェイッハァァァァァァァッッッ!!!!」
「うおぁああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
堕天使の死力を尽くした一撃と冥府の力を纏った戦士のぶつかり合いは刹那の時であったのにも関わらずとわにも思えるほどに長い時間だった。コカビエルの全力の一撃を完全に砕きながら突き進んだ鎧武はそのまま堕天使の腹部を貫通し大穴を開けながら地面に降り立った。ポッカリと空いた穴からは向こう側の景色が見えている、だがそれでも彼の意識はまだあった。
「ン"ン"……ゥグゥ"ゥ"ゥ"ゥ"……!無念だ……もっと続けていたかった……!!!至福の、戦争だったっ……!!!」
その言葉を最後にコカビエルは倒れこむと爆発を起こしながらその命の終わりを告げた。堕天使コカビエル、聖書にも名が載る程の存在の命は今此処で潰えた。
「……サイコな野郎だけど、その思いは本物だったか……」