「エクスカリバー?」
夕食の席にてナチュレが口にした言葉に貴光が思わず聞き返してしまった、久しく早く帰ってきた貴虎が腕を振るった夕食を食しつつ楽しげな談笑を途中で中断しながら口にした話題にその場の全員が注目を集めた。
「それってあのアーサー王が使ってたていう聖剣?」
「剣としての知名度は世界一って奴だな」
「うむ。実は先日カトリック教会本部ヴァチカン、プロテスタント、正教会に保管、管理されていたエクスカリバーが奪われたという情報が入ってきおってな」
「ええっ!?きょ、教会にですか!?」
元教会に身を置いていたアーシアは思わず大きな声を上げながら驚いてしまった、教会が保管管理をしていたという事はかなり厳重な物だったのは容易に想像出来る上にそれを突破して盗みを働いたという事がショックなのと同時にそんな事をするのは一体誰なのだろうと思ったが光実と貴光、貴虎は別の事を考えていた。
「んっ今なんか可笑しくなかったか……?今の言い方だと三箇所にあったエクスカリバーが奪われたって事になるぞ?エクスカリバーって何本もあるもんだったか?」
「姉妹剣はあった筈だけどエクスカリバー自体は一本のはずだよ」
「ガラディーンやアロンダイトではなく、エクスカリバー自体が複数あるっという事になるがそれ以前に返還された剣が実在する事になりますがナチュレ様」
世界一有名な剣と言っても過言ではないイングランドの英雄王〈アーサー王〉の愛剣、エクスカリバー。アーサー王伝説に登場した聖剣は他にもあるがエクスカリバーという剣は一本のみの筈、しかもその聖剣は死の直前のアーサーの命令を受けた部下によって湖の貴婦人に返還されている筈なのでこの世界にあること自体が可笑しい。その反応を見て自分の配下が頭の回転が速い事を嬉しく思うナチュレ。
「エクスカリバーと言っても本物ではない、その力を目の当たりにした教会の関係者が複製した模造品じゃ。本物の聖剣は確りと返還されておる、それは妾も確認済みじゃ」
「模造品ね……つまり木刀版エクスカリバーだな」
「なんか一気にしょぼくになっちゃったね」
「お土産屋さんで売ってそうですね」
「それだと全国各地で買える事になるぞ、せめて……そうだな、真剣の模造と言え」
木刀版エクスカリバーが妙にツボに入ったのか笑いを堪えるナチュレは必死に息を整えながら話を続ける。
「まあ模造品と言っても十分に危険な代物じゃ、しかもそれを盗んだ愚か者はこの街に潜伏しておるらしい」
「ああっそれで教会の人間が来てたのか……」
今ゼノヴィアとイリナの目的を理解した貴光、何かの理由でこの街に来ているのは察していたが内容を聞く前に帰ってきてしまったので漸く納得する事が出来た。
「盗みを働いたのは
「
「兄さん違うって、おじさんを捕食した地縛神じゃないよ」
「コカビエル。聖書に名が刻まれているほどの有名な堕天使だが、また随分な大物がこの街に」
ゼノヴィアとイリナの目的はエクスカリバーの奪還とコカビエルの討伐らしいが顔を合わせている貴光からするとハッキリそれが無理であると確信出来る。同時に相対した時に感じた神の気配のような物が討伐の為に与えられていた聖剣であると確信する、そしてその聖剣が剣としてのランクが決して高くない事も把握した。
「そいつらがこの街で何を」
「さあのう……だが何かをやらかそうとしているのは間違い無いじゃろう。本来関与しないつもりじゃったが此処はお主らもおる、妾ら同盟も動く事にするが他の勢力との協力は一切なしじゃ。教会は気に入らん」
「「「承知しました」」」
「わ、私も出来る限り頑張ります!」
「うむうむ愛い奴らよの」
翌日、貴光はアーシアと共に買い物に出かけていたがナチュレの話を聞いた為か腰に既にベルトを巻きつつミントアームズを何時でもセット出来るようにしていた。何時でも変身を行えるように準備はしている、戦う準備を終えている。何処か周囲を警戒しながら歩みを進めて行く二人だがそんな時バッタリとゼノヴィアとイリナと出くわしてしまった。
「おおっ呉島さんじゃないか!奇遇だな!」
「せ、先日はどうもすいませんでした……って貴方まさか……アーシア・アルジェント!?」
「は、はいそうですが……」
「何、魔女アーシアか!?」
イリナが大声を上げるとゼノヴィアは鋭い視線をアーシアへと投げかけた、魔女という不穏な言葉に思わず貴光は瞳を細めた。
「呉島さん、その女とはどんな関係で。それは主に仕える身でありながら悪魔を癒した魔女であり異端者。貴方の傍にいていい人間ではないぞ」
「……お前にそれを説明する必要があるのか、それに魔女だと……?」
「アーシア・アルジェント、その女が持つ力は悪魔や堕天使すら癒す主を冒涜する故魔女の烙印を押された。魔女と成り果ててその人に取り入り何をたくらんでいる」
明らかな敵意を向けるゼノヴィアと少し混乱しているイリナ、対照的だがアーシアへと向けられているのはよい感情ではない。自然王の配下である貴光の傍にいる事を許せないという考えで向けられている、悪魔すらいやする邪悪な癒しを利用し生き長らえているとすら認識している。
「魔女だと……?何も知らん馬鹿が知った口を利くな、聖剣を守りぬけない無能が」
「む、無能だと!?我々を侮辱するのか、幾らなんでも聞き捨てならんぞ!!」
「しかもアーシアを魔女と呼んだか、侮辱したか。その言葉は俺を怒らせるには十分なものだぞ!!!」
ゼノヴィアの言葉など捨てながら怒り心頭の貴光は周囲にナチュレから齎された加護を使い人払いと情報遮断の結界を展開し民度のロックシードをその手に取った。
『ミント!!』
「
『ソイヤ!!ミントアームズ!! 冥府神ハデス 現世降臨す!!』
ミントアームズを纏った貴光を目の前にした二人はその身体から発散されている冥府の波動を受け身震いした。神の力を感じるのに凍りつくような感覚が魂に押し寄せてくる、同時に貴虎の敵意の強さに驚く。ミントシックルを担ぎながらその瞳に宿し黒い炎は唯真っ直ぐと目の前の二人を燃やし尽くそうとしている。
「さあ、貴様らを冥府へと引きずり込む……!」
アーシアのヒロイン化まったなし……?これは、聖女と冥府女王の修羅場が見える……!?