竿魂   作:カイバーマン。

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またまた春風駘蕩さんからイラストを頂きました。

竿魂のタイトルロゴです(感動


【挿絵表示】


そして奇跡的というか今回の話のタイトルも竿魂です。


第九層 竿魂

コボルドロードの咆哮と共に無慈悲なる一撃が銀時とユウキの頭上へと振り下ろされた。

 

HPも残り筈かであった筈の銀時はもう助からない、最悪ユウキも……立ち上がろうとしていたキリトが生唾を飲み込みつつ凝視していると

 

ボスの一撃により撒き散らされた砂埃でよく見えなかったが

 

「ハハハ、正直ヒヤヒヤしたよもう」

「全くだ、こういうモンがあるなら言っとけよあの女」

「言っても聞かないじゃん」

「まあな」

「!」

 

渇いた笑い声を上げるユウキといつもの悪態を突く銀時の声

 

二人は健在だった、しかしどうして……

 

やがて砂埃が消えると二人の姿をはっきりと捉えることが出来た。

 

ユウキは腰が抜けたのかその場に両手を突いて座り込んでいて

 

一方銀時の方はというと

 

あのコボルドロードの振り下ろされた野太刀と、”新たな武器”で真っ向から鍔迫り合いを行っていたのだ。

 

キリトが驚いたのは

 

二人の生存

 

そしてなおかつまだ余裕が残して会話ができる状態

 

あろう事かあのボスと正面からの一騎打ち

 

しかしそれだけではない。

 

彼が持つその奇妙な武器こそがキリトが一番度肝を抜いた衝撃だったのだ。

 

「刀……!? しかもあの長さは……!」

 

痛みも忘れてつい反射的に立ち上がってしまったキリトは銀時の持つ武器を見て「刀」と呟くが

 

正しくは「刀みたいな見た目をした武器」と呼ぶべきであろう。

 

手で握る部分の『柄』、柄を握る手を守る為の部分『鍔』、相手を斬る部分『刀身』

 

それら刀に必要な部位が揃っているのでつい刀だと思ってしまったが、よく見ると明らかにそれは普通の刀とは大きく違った。

 

まずよくわかる違いはその『長さ』だった、EDOにおける刀系の武器は激レア中の激レアアイテムなので普段滅多にお目にかかる代物ではないのだが、その長さは平均サイズだと二尺三寸(約70cm)ぐらいだとキリトは聞いている。

 

しかし銀時の持つ刀の刀身の長さは三尺(約100cm)……コボルドロードのの持つ野太刀にも引けを取らぬ程その剣先は長い。

 

そしてもう一つはその刀身の「形」

 

翆色に輝くその美しき刀身にはまるで飛行機の翼の様なモノが搭載されていた

 

飛行機の飛行速度をコントロールする為に上下して揚力を発生させる為のフラップが逆刃の方に付いており

 

刃の部分にも風のまま靡いて空気抵抗を減らす為のスラットがあるのを確認できる。

 

これら二つがパッと見でわかる普通の刀とは違う部分、銀時の手に隠れて良く見えないが、柄頭の部分も妙に膨らんでいるので、もしかしたら”何か”あるのかもしれない。

 

以上の事を踏まえてキリトはあの特殊な形状した武器を見つめながら一つの結論を導き出す。

 

「これでわかった、あの人がコンバートで手に入れた特殊スキルの正体は『巌流≪がんりゅう≫』だ」

 

【巌流】

EDOの世界にある特別な流派系スキルである。

 

会得条件は昔、キリトはとある情報屋から聞いたのだが至ってシンプル

 

『んーとにかくバカみたいにぶっ飛んだ付加能力のある武器を扱い続ければいいのサ』

 

つまり常人ではまともに扱えない様なデタラメなモンを装備して扱い続ければいい、それだけだ

 

この世界では剣や素手、杖や銃等と武器の種類が非常に多いのだが、その中には物凄く扱いにくそうな武器、半ば製作スタッフの嫌がらせに近いような奇妙なモノがちらほらあるのだ。

 

キリトのストレージボックスにも「威力は高いがHPが常に1になる呪いの剣」などという使いどころが難しい武器が入っている。

 

そういった使えば尋常じゃない強さを持てる代わりに確かなデメリットも存在する極めて扱いにくい武器の底力をを限界まで引き延ばして操ることが出来るのが、【巌流】である。

 

このスキルがあれば特殊な武器を装備するだけでそのプレイヤーのステータスも飛躍的上昇する。

 

恐らく今の銀時であれば初心者でありながらもかなり強くなっている事であろう。

 

「あの武器がいきなり仕えた所から察するに、やっぱり条件が達成したら装備出来るタイプか」

 

差し詰めあの武器はHPが一定以上減ってから初めて使えるといった所か、だからこのピンチな状態で解放されたのだろう。

 

そうキリトが推測してい内に

 

銀時はボスとの鍔迫り合いの中、急に目をカッと見開くと否や、そのままググッと両手で刀を押し上げて

 

「ナメんなワン公がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「グオォォォ!」

 

自分よりもずっと図体のデカい相手を武器事弾き飛ばしたのだ。これにはボスも面食らったかのように驚いてるかのようなリアクションを取っている。

 

さすがにデタラメ過ぎるだろ……とキリトが内心呆れつつも、恐らく武器だけでなく銀時自身の潜在能力も関係しているんじゃないかと考えていると、銀時は新たな武器を手に取ったまま、頭に巻いた白い鉢巻きをなびかせ、ボスへと飛び掛かると

 

「せいッ!」

 

縦振りの一閃が右腕へと振り下ろすと、ボスのHPがはっきりと減るのをキリトは確認した。

 

初期装備の光棒刀程度では全く与えられなかったダメージが

 

巌流持ちによりステータスアップ、更に特殊な刀を使った途端この威力である。

 

そして銀時の攻撃はまだ終わらない。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

片手で長い刀を持ったままブンブンとボス目掛けて振り回す銀時。

 

ただデタラメに振っている訳ではない、的確にクリティカルに当たる部分、つまり頭から足のつま先にかけての急所のみを狙って次々と斬り刻んでいく。

 

やはり攻撃スピードも格段に速くなっていた、元からかなり早かったのだが、恐らくあの刀の形状から察するに空気抵抗を極力減らし、振る重さを感じさせず、更に鋭い斬れ味を殺さずに攻撃し続けることが出来るのであろう。

 

「コイツで!」

 

もはや悲鳴すら上げれずに怯んで動けない状態でいるボス目掛けて、ラッシュを浴びせ終えた銀時は最後に刀を両手に構えて

 

「どうだぁ!」

 

強烈な振り上げ攻撃を与えて、ボスの腹部から左肩までの間に一本の綺麗な線が残る。

 

しばしの間をおいてそボスの身にバッドステータスの一つである「出血」が発生し、傷口の部分から大量に赤い血を噴き出しながら腹ばいになって倒れてしまった。

 

目の前で倒れた強敵・コボルドロードを見下ろしながら銀時は手に持った刀を軽く振って血を払う。

 

「……あり? 終わった?」

「いやいや今は出血状態で動けないだけ」

 

さっきまでの血気盛んな表情は何処へやら、あっという間にいつもの死んだ魚の様な目をパチクリさせて銀時は倒れたボスの様子を伺い始める。

 

程無くして先程彼に助けられたユウキが後ろから駆け寄って来た。

 

「ボスのHPバーまだ1本残ってるでしょ? 今の内に態勢整えてトドメの準備しようよ」

「んだよ結構ダメージ与えたと思ったのにまだ生きてんのかよコイツ……」

 

ボスのHPバーが残り二本になった所でボスが凶暴化。

 

それからキリト、ユウキ、アスナの三人でダメージを与え(おまけで銀時)1本の2/3消費。

 

そして銀時一人のラッシュでまた残りの1/3削った事によって三本目のHPバーが消滅。

 

とどのつまり残す所はあと一本という事である。

 

「いやぁ凄かったよホント、まさかお姉ちゃんが銀時の為にそれを残してくれていたなんて」

「それ?」

「うん、まさかあの絶体絶命のピンチでそれが出てくるなんて、いやうっすらと予想は付いてたんだけどね。お姉ちゃんが銀時の為に残すモノっていったらやっぱりコレかなって」

 

そう言って微笑みかけながら銀時の手に持つ長い刀を見つめる

 

「『物干し竿』、GGO型でしか装備出来ない機械内蔵型超特殊レア刀であり、HPが半分以下に達しないと装備出来ないエクストラ装備、そしてGGO型のお姉ちゃんが初めて手に入れた時からずっと愛用していた剣……」

「コイツが……通りで初めて掴んだ時になんか生あったかくて嫌な感じがした訳だ」

「そこはお姉ちゃんの温もりを感じるとか言ってあげたら?」

「誰がそんな恥ずかしい台詞吐けるかってんだ……」

 

チャキッと刀を垂直に立ててまじまじと見上げる銀時がボソッと呟くが、仏頂面のその顔には心なしか亡き恋人に託された剣を眺めながら安らぎと懐かしさを覚えてる様な、そんな気配をユウキは感じた。

 

素直じゃないんだからと思いつつ、ユウキは確かな嬉しさとほんの少しの寂しさを覚えながら銀時を見守る様に眺めていた。

 

しかしそんな状況でも空気を読まずに、いやAIとしては空気を読んでいるからこそここで動いたのか。

 

気絶していたコボルドロードが白目を剥き出しながらゆっくりとこちらに向かって起き上がって来たではないか。

 

「ガ……ガァァァァァァァァァァ!!!」

「うん、ねぇ銀時、ノスタルジックに浸ってる所悪いけどボスが起きたみたい」

「へ? ってなにぃぃぃぃぃぃぃ!? いくらなんでも早起き過ぎだろ! ラジオ体操に行く小学生か!」

「いやぁそういやコイツ気絶半減追加されてたんだっけ、失念してたわめんごめんご」

「いや待てこっちは動き過ぎててまだ疲れて……!」

 

仮の体でありながら不思議なのだが、この世界でもまた体をフルに使い過ぎると息切れを起こしたりその場で倒れ込んで動けなくなってしまう現象はよくある事。

 

銀時もまた先程かなり体を動かしまくったので、その反動で呼吸を整え体力の回復に徹していたのだが

 

それをボスは許さず、容赦なく立ち上がるとすぐに手に持った野太刀を振り上げようとする。

 

しかし

 

「させるか!」

「おーキリト! GJ!」

 

寸での所で駆けつけてきたのは先程痛みの恐怖で動けずにいたキリトであった。

 

黒いコートをなびかせながら颯爽と現れるや否や、手に持った片手剣でズバッとクリティカルヒットを与えてボスを後ろにのけ反らせる。

 

現れた彼にユウキが称賛の声を送るが、銀時の方は彼が来た事よりも、ユウキが先程言った言葉が理解できなかった様子で

 

「ジ、ジージェイ? 何それ、なんの略語?」

「good jobだよ、良い仕事したねって事」

「なるほど」

 

それを聞くと銀時は突然パチパチと両手で鳴らしながら背中を向けているキリトに向かって

 

「おーキリト君GJだよマジGJ~でも現実世界ではNJ~」

「斬ってやりたいがそっちも随分と仕事してくれたから許してやるよ……アンタはそこで休んでろ、こっからは俺が代わる」

 

助けてやったのに小馬鹿な態度取って来る銀時にイラっと来ながらも、キリトは若干後ろに下がっていたボス目掛けて走り出しつつ、剣を持ってない方の手を背中に回す。

 

「こちらもHPは半分以下に達した、おかげでこっちも本領発揮だ……!」

 

そう呟くとキリトの背後からフッと漆黒の禍々しいデザインの片手剣が現れたではないか。

 

それを後ろから見ていたユウキはビックリ仰天して「あ!」と声を上げる。

 

「あれってもしかして第五十層のフロアボスにラストアタック決めると低確率でドロップするとかいう魔剣『エリシュデータ』!?」

 

極めて入手困難で現物を拝む事さえ難しい程の激レア武器、キリトは背中に現れたそれを手に持つと、両手で剣を持ったまま更に加速する。

 

その姿を見てユウキは「ははーん」となるほどといった感じで頷いた。

 

「そういえばエリシュデータの付加能力は「体力半分以下にならないと装備出来ないが片手剣装備状態の時でも装可能となる」だっけ……」

「どういうこったよ?」

「簡単に言えばね、エリシュデータは銀時の物干し竿と同じで普段は装備出来ないけど、HPがごっそり減ったら装備が出来るの、片手剣装備したままね、つまり……」

 

ユウキが銀時にわかりやすく説明しようとする途中で

 

キリトは”二振りの剣”を両手で持ち構えながらボスに斬りかかった

 

「二刀の剣を持つ”二刀流”だよ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「グルァァァァァァァァ!!!!」

 

銀時も攻撃スピードもすさまじかったがキリトはそれを凌駕する動きで敵のHPをどんどん削っていく。

 

さすが現実をないがしろにして廃人プレイヤーに徹した実力者は伊達じゃない。

 

二振りの剣を交互に振り抜きながら攻撃を与えていると思えば、両手の剣を構えたまま空中を回転しながら斬撃を浴びせる等。

 

ソードスキルを併用して現実では到底無理な動きを次々と混ぜ込みながら怒涛の勢いで攻め立てる。

 

ソードスキルは発動すれば自動で体が動き、アクロバティックなアクションを誰であろうと使えることが出来る。

 

何も使わず己の身体能力のみで戦っていた銀時とは違い(それはそれで末恐ろしいだのが……)

 

キリトはゲーマーらしくあらゆる戦闘システムを熟知した上で戦う事を生業としているのだ。

 

「多分キリトも銀時と同じ【巌流】所持者なのかも、いやぁアレ結構珍しいスキルなのによく手に入れたね、ボクすぐに挫折したのに」

「二刀流ってそんな珍しいのか、じゃあ俺もコイツ口に咥えて刀二本両手に装備して三刀流目指そうかな」

「お姉ちゃんの大事な愛刀を口に咥えないでよ……それじゃあボクも行くから」

「待て待て待て、お前はダメだろ危ないから」

「えー」

 

何やらキリトに対抗意識を燃やして変な事やろうとしている銀時にユウキはジト目で口を挟みつつキリトの下へ出向こうとするが、それを許さないと銀時が彼女の手を握る。

 

「テメーの体の事考えろよ、お前は危険だからもう大人しくしてなさい」

「いやでもキリト一人じゃまだボスを倒し切れ……」

「んなもん心配しなくていいんだよ、ほれ」

 

絶対に行かせないという感じできつく手を握り締めてくる銀時にユウキはちょっと照れながらも後頭部を掻きながら異議を唱えようとする。

 

しかし銀時はそんな心配ないと目配せする。

 

「キリト君の為にべっぴんさんが助太刀に行くってよ」

「それ私の事言ってるの?」

 

銀時の視線の先には回復ポーションを飲み終え戦いの準備をしているアスナの姿が

 

キリトの為、という部分が引っかかったのかジロリと銀時に目を向けた後、すぐに彼女は腰に差すレイピアを抜いて駆け出す。

 

(何かあるんじゃないかと思ったけど、あの黒い服装と二刀流……なるほど、山崎さんの情報通りならあのプレイヤーが……)

 

ボスよりもキリトの姿をまじまじと見つめながら奥歯を噛みしめると

 

キリトがボスを豪快に跳ね飛ばした隙に

 

間髪入れずにアスナが横から割り込んでボスを突き刺した。

 

「援護ありがと、引き続き私のフォロー回ってちょうだい」

「誰が回るか誰が……人の得物を横から狩り取ろうとするとかそれでも血盟騎士団か」

 

華麗に追撃を与えたアスナだが、上から目線の物言いにはさすがにキリトもイラっと来ながら皮肉を浴びせる。

 

そうしている内にボスは転ばされた状態からゆっくり起き上がろうとする、だがそれを許すまいと

 

「おおっと! 俺を忘れちゃ困るぜ!」

 

コボルドロードの右足に向かって豪快に両手持ちの大斧を振り抜くのはエギル。

 

立ち上がる際に足に重心を置いていたボスは再び苦悶の表情を浮かべながら尻もち突いてしまう。

 

三人のベテランによる奇妙な連係プレイによって、ボスはすっかりたじろいでいる。

 

しかも

 

「オラぁ! 撃たんかいお前等! ここで撃たなきゃいつ撃つんじゃボケェェェェェェ!!!」

 

背後からやかましい関西弁と共に次々と銃弾が倒れているボスへ多段ヒットする。

 

追い打ちをかますには絶好のタイミングだ、キリトは後ろに振り返ると、援護射撃を行ってくれたプレイヤー達と、その中心でディアベルの代わりに指揮官を務めているキバオウが立っていた。

 

「フン、お前なんかに手柄独り占めにさせたるか、ラストアタックボーナスはこのキバオウ様が狙っとるんじゃ、さっさと退いて隅っこで回復でもしとれ」

「へ、それは遠回しに俺の身を案じてくれているって事か? 初心者から金せびろうとしていた割には結構優しい所もあるんだな」

「誰がお前の心配なんぞするか! ワイはお前にそれ以上活躍されると! 同じベテランプレイヤーとして立つ瀬が無くなるからに決まっとるやろうがボケコラカス!!」

 

ムキになった様子で必死に否定するキバオウにキリトが思わず苦笑していると

 

「グオォォォォォォォ!!! グワァァァァァァァァァ!!!!」

「バーサク状態!?」

「この野郎まだそんな隠しネタ持っていやがったか!」

 

ボスと対峙していたアスナとエギルが驚き叫んでいる。

 

すぐに振り向くとボス・コボルドロードが最後の力を振り絞るかのように喉の奥からかつてない咆哮を上げて、力強く立ち上がるや否や

 

手に持っていた野太刀を口に咥えると両手を地面に着けて

 

4本足で無茶苦茶に走り回り出したのだ。

 

「マズい! バーサク状態だと優先度なんて関係なく見境なくプレイヤーを襲う様になる! このままだと他のプレイヤーに被害が!」

 

本来敵モンスターはこちらを積極的に攻撃する者や後衛で味方に回復支援する者など、そういった自分に対して厄介となる障害を積極的に襲うAIが実装されている。

 

しかしプレイヤーにギリギリまで追い詰められたモンスターは、稀にバーサク状態という最後の手段を用いて、目に映るプレイヤーを片っ端から叩き潰そうとする危険な状態に陥る事があるのだ。

 

ああなると戦闘パターンも読めないので非常に戦いにくい、一体どうすればとキリトが思っていた矢先

 

「やれやれ、遂に見たまんまのワン公に成り下がったか、あのボス」

「!」

 

後ろからまた聞こえたのはキバオウの関西弁ではなく、心底めんどくさそうに喋る口調。

 

そこに立っていたのはやはり銀時であった。

 

「アンタもういいのか!? あんだけソロでボス相手に奮戦してたら普通まともに立ってられないぞ!」

「ゆとり世代のテメェ等と一緒にすんな、あの程度の戦いなんざ準備運動にも満たねぇよ」

 

驚くキリトにそう突っ返すと、HPを赤の状態で維持している銀時は、右肩に長刀、物干し竿を掛けると

 

滅茶苦茶に走り回っているボスを見据える。

 

するとしばらくして、ボスはこちらに気付いたのかクルリと振り返ると、口に得物を加えたままこちら目掛けて突っ込んで来る。

 

「ガァァァァァァァァァァ!!!」

「相当恨んでるみたいだな、アンタ目掛けて突っ込んで来たぞ。どうにかして大技で決めてやりたいが……」

「こっちに向かってくる相手を迎撃するにはちと奴が早過ぎる、一瞬でもいいから止まってくれないかねぇ……」

 

他のプレイヤーではなく自分達の方へ向かって来たのはこれ幸いかもしれない。

 

しかしいかんせん突っ込んでくるスピードが速すぎる、これではタイミングを合わせて一気に奴のHPを削り切る大技を出すにはリスクが高すぎる。

 

キリトと銀時がどうしたもんかと悩んでいると……

 

「銀時! アイツに向かって物干し竿の柄頭の底を押してみて!」

「ユウキ!」

 

銀時達の下へ飛んで来たユウキがまた急かすように銀時に言葉を投げかける。

 

今度はすぐに言われた通りに物干し竿の柄頭の底に手を置くと、奇妙な膨らみを感じた。

 

「刃先をボスの顔面へ突き付けたままタイミング良く発射して! そうすればボスを一時的に止められる筈だから!」

「発射!?」

「そうかアンタの武器はGGO型専用武器……てことは刀の機能だけでなく重火器の機能も備わってても不思議じゃない……!」

 

ユウキのアドバイスを聞いて銀時よりも早くキリトは気付いた。

 

きっとこの物干し竿には隠された機能、つまり仕込み銃的なモノが隠されているのだろう。

 

ボスはいよいよこちら目掛けて飛び掛かって来た、狙いは当然銀時。

 

「やってやらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

手ブレも起こさずピタリとボスの顔面目掛けて刃先を向けると、気合の雄叫びを上げながら銀時は物干し竿の柄頭の底を力強く押した。

 

「銀時! 姉ちゃんはいつもその技で何度も窮地を脱したの! 物干し竿の柄頭の底を押すとなんと!」

 

 

ユウキも叫んでいたその瞬間

 

 

 

 

 

 

 

物干し竿の刃先からピューッと力強く黒い液体が飛び出した。

 

「醤油が出るの!!!」

「「「「「なんで醤油ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」」」」」

 

そのフロアにいる全員、正しくはユウキとボスであるコボルドロード以外の全プレイヤーの気持ちが一つとなって総ツッコミを上げた。

 

そして刀の先から噴き出された醤油は綺麗に曲線を描くと

 

ボスの両目にまさかのクリティカル

 

「ゴ! ゴワァァァァァァ!! グルガァァァァァァァ!!!」

「えぇぇぇぇぇぇ!? なんかボスがめっちゃ悲鳴上げながら怯みだしたんだけど! マジでか!? まさかの醤油で目潰し!?」

 

思わず口に咥えいてた野太刀を床に落として、両手で目を押さえながら激しい痛みに悶えるフロアボス。

 

予想外の展開に刀を突き付けたまま銀時が仰天していると、上からすぐにユウキの叫び声が

 

「今だよ銀時! 気合の一撃かましちゃって!」

「な、なんかすげぇやり辛ぇけど仕方ねぇ!」

 

目を押さえながら涙目になっているボスへちょっとした罪悪感を覚えながらも

 

HP残りわずかである第一層フロアボス・イルファング・ザ・コボルドロードへ銀時は長刀の物干し竿を両手に持って高々と掲げると、ぐっと力を溜めた後それを放出する様に振り下ろし

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ボスの頭部から真っ直ぐ縦に振り下ろされたその一撃は

 

残っていたボスのHPを完全に削り切り

 

苦しそうな表情を浮かべたままボスは真っ赤に輝くと

 

綺麗とも思えるぐらいの結晶体となって一気に周りに四散してその身が消えたのであった。

 

「……」

 

振り下ろした瞬間、コレで終わったかと銀時が刀を手に持ったまま固まっていると

 

彼の目の前に紫色のシステムメッセージが現れた

 

『ラストアタックボーナス! 特別進呈・脇差・今剣≪いまのつるぎ≫』

 

小首を傾げながら「なんだこりゃ?」と銀時が疑問を浮かべていると……

 

「やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うげ! ちょ、おま! こっちもうHPねぇんだぞコラ! せっかくボス倒したのに俺を殺す気か!」

 

予想だにしない奇襲、もとい空中から下りて来たユウキが、歓喜の声を上げて背後から勢いよく飛び込んで背中から抱きついて来たのだ。

 

「初心者なのに大活躍じゃん! しかもラストアタックまで決めちゃうし大金星だよ!」

「わかったから離れろうざってぇ! 人の背中ではしゃぐなガキじゃあるめぇし!」

 

背中にしがみついて嬉しそうに称賛してくれるユウキに対して、銀時はしかめっ面を浮かべて無理矢理引き離そうとするが、身体を激しく揺らしても一向に振り落とせない。

 

「……よくやったな、いや本当に」

「ん?」

 

全然引き剥がせないので仕方なく銀時はユウキを背中におぶったままハァ~とため息を突いていると

 

キリトがぎこちない口調で頬を掻きながら歩み寄って来た。

 

「戦力外扱いして悪かったな、まさかここまでやれるとは思わなかったんだ」

「詫びの代わりにパフェの一杯でも奢れや、と言いてぇ所だが、活躍したのは俺よりもコイツだ。まさか最後の最後にアイツに助けられるとはな……」

「アイツ?」

 

アイツとは誰かと疑問を浮かべるキリトの前にスッと手に強く握りしめている得物を真っ直ぐ振り上げて見せる。

 

血に濡れながらも翆色に輝くその刃はまばゆい美しさがあった。

 

「この武器の名前は物干し竿」

「物干し竿……」

 

銀時の代わりに、彼におんぶしてもらっているユウキがその武器の名を呟くと

 

キリトは思わずフッと笑ってしまう。

 

「見た目と違って随分とマヌケな名前だな」

「ああそれはボクも常日頃から思ってた、でもそれ言うと姉ちゃんにキレられるんだよ、「侍の刀の名を馬鹿にするなー!」って」

「姉ちゃん? てことはコレ……」

「うん、死んだボクの姉ちゃんの愛刀」

 

銀時の為にコンバートした物の中には???表示の装備品もあったが

 

なるほど、これが亡くなったユウキの双子の姉が銀時に託したあの装備品だったのか

 

そう思ってキリトがつい真顔でその刀を眺めていると、ユウキは銀時の首に両手を回しながらそっと囁く。

 

「だからボクわかるんだ、クセが強くて扱いにくいこの武器を手に取っても、すぐに銀時が使いこなせた理由が」

 

 

 

 

 

 

 

「”物干し竿”には、きっと姉ちゃんの”魂”が宿ってるんだ」

 

周りが勝利の歓声を上げている中、三人は黙ってその刀を見上げる。

 

 

自分達を勝利に導いてくれた真の立役者は返事をするかのように一層光り輝くのであった。

 

 

 

 

 

 

とある密偵が記すEDOにおける設定と豆知識その3

 

『巌流』

 

普段EDOをプレイする上ではまず耳に入れないであろうが

 

今回はスキルの中でもかなり珍しい部類に入るスキルの事も紹介しておこうと思う。

 

それが『巌流』

 

性能は反則的だがその反面、色々と厳しいペナルティが施されているレア武器を極めた者のみが手に入れる事の出来るスキルである。

 

例えば体力半分以下でないと装備出来ない破壊力抜群のハンマー

 

弾丸一発しか打てないけど、その一発が極めて精密性と威力に長けているハンドガン

 

普段は攻撃力ゼロだけど、パーティ内で同じ武器を装備しているプレイヤーが複数いると攻撃力が半端ない程上昇する槍とかなど

 

そういった色々と扱いにくい武器を装備して長い間ずっと使っている事で、ようやく手に入れられるスキルなのだ。

 

スキル性能は平たく言えば、なんと扱い辛い武器を装備してる間は武器の性能を飛躍的に上げる事が出来て、更にプレイヤー本人のステータス上昇という極めて強力な内容なのだが。

 

問題なのはその会得条件であり、色々とシビアな所もあるEDOという世界で、延々と扱いにくい装備を振り回すというのはかなりの苦行に近く、ほとんどの人が挫折してしまうのだ。

 

俺の知る限り、この『巌流』を持っているのはSAO型とGGO型に一人ずつ。

 

GGO型の巌流持ちのプレイヤーはただでさえSSレアとして数多のプレイヤーが欲している『刀タイプ』の武器を操る者であり、それもかなりの長物の刀だという事でかなり注目を浴びていた。

あ、ちなみに女性です、結構美人です。しかもどことなくあの子と似ているんだよなぁ……

 

しかし残念な事にここ最近彼女はEDOの世界に来ていないのか行方知らずである。

 

いずれ彼女が現れる時があるのだろうか……ウチの上司が珍しく機嫌良さそうに一度斬り合いたいと言っていたので、ご一報お待ちしています。

 

 

もう一人のSAO型の巌流持ちプレイヤーはなんとも珍しい二刀流使いである。

50層のフロアボスでラストアタックをかますと、物凄い低確率で極まれに落とすという幻の魔剣を持っているかなりの猛者なのだが、あまり公に姿を現さないせいであまり詳細は知られていない。

 

だが俺は様々な情報網を駆使して、このプレイヤーには良からぬ噂がある事を耳にした。

 

EDOで起こるイベントの一つである「星々親交交流試合」にて、黒づくめの男性プレイヤーが二つの剣を使って他星のプレイヤー達を容赦なく一方的に次々と斬り捨てていくという事件が起きているのだ。

 

EDOとは地球と他星をより友好的な関係を築こうする為のモノ。

なのにこういった勝手で野蛮な行いをするプレイヤーは決して許される事ではない

 

と有名なギルドで副長を務めるアス……女性プレイヤーも誠に遺憾の意を表明している

 

そして二つの剣という事は二刀流使い……もしかしたらこのSAO型の巌流持ちが……

 

詳しいことが分かり次第お伝えしようと思います。アスナちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タイトル回収回、良かったこれでやっとこの物語の題名が単なる下ネタではないと証明できました……

竿魂はただの下ネタではありません、意味のある下ネタなんです

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