新八に連れられて行った先に待ち構えていたのは、まさかのあの泣く子も黙る武装集団・真撰組の巣窟であった。
当然、銀時達も彼等と鉢合わせする事態になり
「おい、なんだこの食に対する冒涜的な物体Xは」
「ああ? テメェ、人が親切に作ってやった土方スペシャルに文句付ける気かコラ」
いつの間にか銀時達の前には全員分のマヨネーズてんこ盛りのカツ丼、土方スペシャルが並べられていた。
それを前にしてすぐに不満そうな声を上げる銀時に、作ったシェフである土方がジロリと睨みつける。
「テメェ等がここで余計な事を叫ばないよう口止め代わりに俺が奢りでメシ出してやったんだ、ありがたく食え」
「いやいやいや、こんな人の命を奪う的な意味での口止めなんて受け取れねぇよ、普通のパフェでいいから」
「ボクも普通のガソリンで良いよ」
「テメェ人がわざわざ手間暇かけて作ってやったのに……普通のガソリンってなに?」
銀時の隣で彼と一緒に注文して来たユウキに土方が眉をひそめているのをよそに
「十四郎さん大丈夫です、私しっかり食べ終えましたから土方スペシャル」
「ほれ見ろ、ちゃんと食える奴がいるじゃねぇか、俺の土方スペシャル」
「いやそいつは別だから、お前と同じ血じゃなくてマヨネーズが通ってるマヨネーズ一族だから」
平然とした様子で土方スペシャルを平らげながら、キリッとした表情で土方に完食した事を伝える明日奈。
彼女にとってこの程度のマヨネーズ、むしろ足りないぐらいである。
「あのな、そいつ無断でラーメンにマヨネーズ丸々一本トッピングしやがったとかで、俺の行きつけのラーメン屋から出禁食らってんだぞ、おたく一体どんな育て方したの?」
「なんで俺が育てた事になってんだよ、コイツを育てたのはコイツの親だろ、テメェの方こそどんな教育させれば平然とガソリンを飲める小娘を育てられんだ」
「ぷっはー! おかわり!」
「ユ、ユウキ!?」
唐突に説教をかましてくる銀時に対し、土方はすかさず彼の隣で躊躇なくガソリン一気飲みしているユウキを冷ややかに指摘。そしてその光景を初めて見る事になった明日奈も我が目を疑い始める。
「な、なんでそんなの飲んでるのアナタ!? 危ないから止めなさい!」
「さてはお前、まともなモン食わせてねぇなコイツに、児童虐待でしょっぴいてやる」
「いやコイツ確かに人間だけど体はからくりだから、そんでガキでもねぇ、俺と同年代」
「えぇぇぇぇぇ!?」
素っ気なく呟く銀時のカミングアウトに土方よりも明日奈が驚いて見せた。
今の今まで、ユウキは自分と同年代の普通の娘だと思っていたのだが……からくりの体で実年齢が銀時と近いというのは流石に意外過ぎるというかなんというか……
「そんな私、今までユウキ、さんの事普通の女の子だと思ってた……コレから一体どう接すれば……」
「いや今まで通りの接し方で良いから、気にしないしボク、年下にタメ口利かれても平気だから」
「じ、自分よりも年上だとわかると、いつもの発言がすっごく大人な感じに聞こえる……!」
こちらに笑いかけながら今まで通りでいいとあっけらかんに答えるユウキだが、明日奈の方はますますどうしていいのか困惑している様子でガクッと頭を垂れた。
「考えてみれば私、ユウキさんとはもう結構な付き合いだけど本当に何も知りませんでした……」
「大丈夫大丈夫、これから知ればいいんだから、あと「さん」付けと敬語はいいからね」
「わかったわ……じゃあこれから改めてよろしくね」
「おっけー」
こちらに一礼する明日奈にユウキは軽い感じで答えると、二人は改めて自分達の身の上話を始めるのであった。
「とりあえずボクが攘夷戦争時代は死体からモノを剥ぎ取って、それで生計立てて暮らしてたのは前に話したっけ?」
「ううん初耳……え、死体!?」
初っ端からとんでもない話をへらへらしながら切り出すユウキに明日菜が素っ頓狂な声を上げてる中
銀時と土方はというと
「おいテメェ! 俺は普通のパフェ寄越せつったんだよ! なんでパフェまでマヨネーズトッピングしてんだよ!」
「ああ!? こっちが美味しくしてやろうと粋な心遣いを見せてやったのになんだその態度は! 殺すぞ!」
未だマヨネーズ絡みの事で二人で不毛な争いを続けるのであった。
そしてすっかり本来の目的を忘れてしまった彼等をよそに
キリ子こと和人はすぐに新八を連れてその店を後にすると、土方スペシャルでパンパンになった腹を押さえ苦しそうについて来る新八を連れてこの後の事を考えていた。
(さて、どうしてくれようかこの野郎、自分が恋愛経験皆無だからっておかしな連中に協力を求めやがって……)
「キ、キリ子さん、次はどこへ行きましょうか……うぷ」
「さあどうしましょうか~、とりあえず今吐いたらぶん殴りますよ」
腹を押さえて今にも吐きそうな青白い表情を浮かべる新八に、冷たい目を向けながら辛辣な言葉を浴びせる和人。
あのマヨネーズてんこ盛りのカツ丼を2杯も平らげればそら気持ち悪くなるのも当たり前だ、見てるだけでも胃がもたれそうだったのに
「まあアレ食べれるとは思ってなかったんでそのガッツは認めますよ、だから1ポイントあげます」
「ポイント!? そ、それって溜まったらどうなるんですか!? まさかキリ子さんにあんな事やこんな事を……!」
「10ポイント溜まれば、旧作1本タダになります」
「レンタルビデオォ!?」
鼻の穴を膨らまして興奮している幼馴染に哀れみながら真顔でボケると、いつものツッコミが返って来た。
やはりこんな状態でも彼の根っこの部分にあるツッコミスキルは健在のようだ。
「コイツなりのユニークスキルだな……戦闘には何の役にも立たないし全然羨ましくもないスキルだが」
「え? なんか言いました?」
「いいえ、それよりちょっと街の中ブラつきましょうか」
思わずゲーム用語をボソッと呟く和人であるが、そこは上手く誤魔化して新八と共にかぶき町の中を練り歩くことに
適当に時間を潰してさっさとこの茶番を終わらせようという魂胆らしい。
しかしそれより前にやる事があると新八は顔面蒼白の様子で
「す、すみません、それよりちょっとトイレに行ってきていいですか……うえっぷ!」
「あーはいどうぞどうぞ、好きなだけ吐いて来て下さい」
本格的に吐きそうになっているので、和人はさっさと行って来いと手を振って新八をトイレに促す。
彼が一目散に走って行くのを眺めながら、和人ははぁ~とため息を零しつつ勝手に歩き出した。
「デート中に吐くとかダメ過ぎるだろ……さてと、アイツが戻って来たらどうしてくれようかねぇ~」
しばらくすればすぐにこちらに追いつくであろうと思って、和人は一人街中を散策する。
「しかし考えれば主導権は完全にこっち側じゃないか、よし、色々貢がせて最終的に「脈無し」と宣告してさっさとおさらばしよう、新八が傷つこうが俺にとってはどうでも良い事だし」
幼い頃から家族ぐるみで親交があった仲とは思えない酷い事を平然と企みながら、ここはキリ子という立場を上手く利用してやろうと計画する。
「とりあえず最新型のパソコンでも買わせてやろうか……いやそれだと流石に俺の正体がバレるか、いやいやでも今の恋に盲目状態の新八なら……いた」
しかしそんな事考えてる事に気を取られ、前方を確認していなかった彼はドンと何かにぶつかった衝撃
すぐに和人は前に向き直るとそこに立っていたのは
「……おい嬢ちゃん、気ぃ付けて歩きや」
「へ? ぎょ!」
唐突に目の前にドスの利いた低い声で呟くその男性が現れた事に和人は反射的に声が上ずってしまう。
何故ならぶつかった相手の男はどう見ても堅気には見えなかったのだ、間違いなく”その筋”の人である。
髪型は七三分けで、口に楊枝を咥えた中年の男、舎弟らしき者達も率いており、それなりの地位を築いている様に見える。
「あり? お嬢ちゃん前にどっかで会わんかった?」
「テメェゴラァ!! ウチの兄貴にぶつかってなにボーっとしてんじゃあ! さっさと謝らんかぁ!!」
「は、はいすみません……つい考え事しちゃってて……ハハハ」
男の方は和人に向かって目を細めて、何故かどこかで会ったかのように呟くが、それを遮るかのように彼の後ろにいたいかにもチンピラっぽい舎弟が和人に向かって怒鳴り声を上げる。
すると男はめんどくさそうにその舎弟の前にスッと手を出して制止させ
「待て待て、たかがぶつかった程度で堅気に喚き散らすなんざなに考えてんねんボケ、俺等はチンピラやなくて正真正銘の極道、それもこのかぶき町を取り仕切る”溝鼠組”や」
「す、すんません若頭……」
(え? 溝鼠組の若頭ってまさか……)
たかが小市民の小娘相手に騒ぎ立てるなと一喝する男に舎弟が急いで謝っているのを眺めながら
彼等の中で出てきた言葉に和人はすぐに反応してピンとくる。
彼もまた今ではすっかりこのかぶき町の住人だ、だからこそ溝鼠組という極道の事も人伝に聞いている。
(そういえば聞いた事があるぞ、かぶき町にはかぶき町四天王という各地を収めるリーダー的存在がいて、その中の一人にいるのがウチの家の下に住むお登勢さん、そしてもう一人は俺が現在形でコキ使われている店のオーナーのマドモーゼル西郷……そして……)
どうやらヤバい連中とぶつかってしまったみたいだと、和人はゴクリと生唾を飲み込む。
(”泥水次郎長”……かぶき町にある一部の賭場を仕切り、歯向かうモノには相手だけでなくその家族や家にも手を出し、違法薬物を仕入れては街中に流しまくっていると噂されているマジモンの極道……)
「すまんの嬢ちゃん、ウチのボケが怖がらせしもうて、いやしかしそれにしても……ホンマどっかで見たツラしとんなぁ」
(そしてその次郎長が大親分として率いているのが溝鼠組……マズイな、そこの若頭って事はこの人かなりヤバい奴なんじゃないか……?)
男の方はこちらを女性だと思っているのか、意外にも紳士的に非礼を詫びて来た。
しかし気が気でない和人は、ここは何事もなく穏便に済ませようと慌てて頭を下げて
「いえいえこちらこそ前を見ずに歩いてしまっていてどうもすみません……それでは私はここで……」
「おいおい、そんな逃げる様にそそくさと行かんでもええやないか」
「はい!?」
サッと彼の横を通り抜けて行こうとする和人であるが、そんな彼の後襟をグイッと引っ張る若頭
「いや悪いんやけどな、お嬢ちゃんの顔見てると不思議とどこぞの坊主を思い出すんや、それもあんまええ印象が無い坊主での、クソ生意気で礼儀もなってない俺の嫌いなタイプや」
「へーそうなんですか……いやでも俺……じゃねぇや私はその坊主とは縁もゆかりも無いんで……他人の空似だと思いますけど」
「名前なんつったけのー、あーそやった、確か……」
和人は顔から汗を垂らしながら徐々に焦り出す、さっきから自分を掴む力が強くなっている気がするからだ。
すると彼を捕まえている若頭はジッと怪しむ様にこちらに目を細めながら
「キリトやったな、嬢ちゃん知ってる?」
(俺の仮想世界のアバター名!? てことはこの男! 仮想世界で俺と会ってるのか!?)
「なあ、それともう一つ直球的な事を聞くんやけどな……」
そこで若頭の目つきは一層鋭く光り
「お前本当に”お嬢ちゃん”か?」
(ギャァァァァァァァァ!! バレてるぅぅぅぅ!!!)
明らかに疑っている、というより完全にこちらが女装している事に気付いている様子の若頭に、和人は本格的に焦り出す。
そう、興奮して盲目状態の新八ならともかく、一般の人であればよくよく観察すれば普通にバレるという事を失念してしまっていたのだ。
それも仮想世界で会った事がある知り合いともなれば、ちゃんと見ればすぐに自分に気付くのも何ら不思議ではない。
「答えられへんなら質問変えよか、お前はあのキリトっちゅう坊主か? 正直に言ってみ」
「い、いやーなんの事やらさっぱり……」
「今時二刀流とかごっつカッコ悪いと思わへん? なに両手に剣って、ダッサ」
「ああ!? 二刀流は男のロマンだろうが! 男児に生まれれば一度は憧れるであろう伝統ある戦闘スタイルにケチ付けんなぁ!」
「おい」
「……あ」
彼の簡単なカマかけについ己の現状を忘れて本性を露わにしてしまう和人、それを見て若頭はすぐに彼の正体を見抜いた。
そして後襟をむんずと掴んだまま、若頭は軽々とヒョイッと彼を掴み上げると
「やっぱお前やないか、黒夜叉のキリト」
「あ、あのですね! この格好をしているのは深い訳が! だからどうかこの事はEDOの世界ではバラさないで頂きたいと!!」
「そいつは俺の気分次第や、それよりお前暇か? ちょいと付き合ってくれ」
完全に正体を見破った若頭は逃げられないよう和人を掴んだまま、舎弟達の方へ振り返り
「おい、ちょっとこのお嬢ちゃん連れてくで、港にある廃工場に」
「え、いやだって若頭、さっき堅気には手を出すなって自分で言うてませんでした……?」
「ドアホ、落とし前着けさす為に連れて行く訳じゃないわ、ちょいとコイツと話があるから連れて行くだけや」
そう言うと若頭は舎弟を連れ、そして和人をズルズルと掴んだまま何処かへ行こうとする、しかしそう簡単に連れて堪るかと和人は精一杯の抵抗しようと試みる
「待て待て待て! アンタとどこで会ったかは知らないが俺が一体何をしたって言うんだよ! 恨まれる事なんて山ほどした覚えしかないぞ!」
「覚えありまくりやないか! さっき言うたやろ! こっちは別に仕返しするつもりなんぞこれっぽちも無いわ! ただお前と話をしたいだけなんや!」
「嘘つけ! ヤクザが港に連れて行くって事は間違いなくコンクリ詰めコース一直線だろ! 止めろ! よりにもよってこんな格好で死にたくない!」
「あーもううっさいわボケコラカス! お前は黙ってこの溝鼠組の若頭、”黒駒勝男””に連れてかれればええんや!」
そこで初めて自分の名を名乗る若頭こと黒駒勝男
何もしないと聞かれても極道の話など全く信用できない和人は、彼の腕の中で必死に藻掻きながら叫ぶ。
するとそこへ……
「オイィィィィィィィィィィ!!! テメェ等なにやってんだコラァァァァァァァァ!!!」
「あん?」
怒りが混じった雄叫びを上げながら凄い勢いでこちらに駆け寄って来た者に勝男はクルリと踵を返して振り返る。
そこに立っていたのは先程までずっとトイレで吐き散らしていたばかりの……
「その子を放せぇ! さもないとこの志村道場の跡取りにして寺門通親衛隊隊長! 志村新八が全員まとめて相手にすんぞゴラァァァァァ!!!!」
相手が強面の集団だろうが知ったこっちゃないと、自分の前からキリ子を拉致にして、どこかへ連れて行こうとする彼等に、男新八が目を血走らせながら咆哮を上げる。
それとは対照的に勝男は口をポカンと開けたまま
「おい黒夜叉、このしょうもなさそうな眼鏡、お前の知り合いかなんかか?」
「あ~知り合いというか幼馴染というか……」
「なんやねん、こっちはただ話をしたいだけっちゅうのに変なモンが現れおって……めんどくさ」
これまた相手にするのも疲れそうな奴が現れたなと、和人を抱えたまま勝男はため息をつくと
「しゃあないな、堅気なんぞに喧嘩を売られて無視するのは極道の恥や、お前等、ちょいと痛めつけとけ」
「へい!」
手っ取り早く暴力で解決するのが一番楽だと判断した勝男は、舎弟達に向かって新八をとっちめろと冷酷に命令するのであった。
そしてそんな光景を少し離れた所から物陰に隠れて見ていたのは……
「あわわわわ……! なによコレ……! ちょっと目を離した隙にお兄ちゃんが怖い人達に捕まって新八さんも絡まれてる……!」
和人と新八を良く知っっている桐ケ谷直葉であった。銀時達が店の中でまだくっちゃべっているのを放置して、彼女は一人で彼等を追う事にしたのだ。
その結果、彼女の目の前に現れた光景は、まさかのヤクザに捕まっている兄と、そのヤクザの部下達にボコボコにされそうな新八の姿……
流石にコレは笑って流せる誤魔化せる問題ではないと血相を変える直葉だが、彼女の背後からヒョイと二つの頭が飛び出す。
「ありゃー運が悪いねー、アイツ等このかぶき町を仕切っている溝鼠組の連中とトラブってやがる、どうしやす近藤さん?」
「う~むまいったな……相手がヤクザとなると警察である俺等も迂闊に動けんぞコレは……」
同じく銀時と揉めている土方をその場に放置して新八達を追いかけに来た沖田と近藤であった。
腕っぷしと権力だけは強そうな彼等であっても、ここで表に出てしまうと溝鼠組と面倒な事態になりかねない……
近藤は厳しい表情で考え込むと、しばらくして出した結論は
「とりあえずすぐにレンタルビデオ店でアウトレイジのDVD借りて、極道の対処法を研究するか」
「そいつはタイミングが良いですぜ近藤さん、実は俺カードのポイント溜まってるんで旧作1本タダで借りれます」
「でかしたぞ総悟! よーしまずはレンタルビデオ店に行こう!」
「ダメだこの人達……ホント早く切腹して欲しい……」
今まさに和人が連れ去られそうになって新八が袋叩きに遭いそうな状況で
とち狂った作戦を捻り出して二人で納得する沖田と近藤に
本当にいい加減にしろと直葉は本気でイライラし始めるのであった。
果たして新八と和人の行方は……
次回に続く。