竿魂   作:カイバーマン。

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ちなみに私は「怖いのは苦手なのに好奇心に負けてちょくちょく見ちゃうタイプ」です


第八十四層 この世は常に祟りだらけ

「……」

 

「落ち着いたか電波娘」

 

アリスは今、銀時と一緒に偶然見つけた寂れた公園にあるベンチに座っていた。

 

周りから”見えない”子供の声だけがキャッキャッと聞こえてはいるが、銀時はそれを聞こえてないフリをしながら彼女に声を掛ける。

 

「ったくよぉ、いきなり立ち止まって呻き声上げた時はどうしたんだコイツと流石に焦っちまったじゃねぇか」

 

「……少々錯乱していたみたいですね、私は」

 

「前々から急に変なこと言い出す妙な奴だとは思ってたが……ホント大丈夫かお前?」

 

「……」

 

彼の話を聞きながらアリスはもう一度、ついさっきの出来事を思い出す。

 

アレは明らかにまともではない現象であった、見覚えのない記憶、片眼に伝わる激痛、そして目の前に浮かび上がったあの謎の言葉……

 

恐らく銀時にこの事を説明しても理解してもらえないであろう、というより彼にだけは絶対に言ってはいけない気がする

 

もし話したら、彼はもう自分の事を今まで通りに接してくれない気がして……

 

「……心配かけてすみませんでした、少々疲れていたみたいです、お前の前で無様な姿を晒す事になるとは」

 

「お前が無様以外の姿を晒してるの見た事無いんだけど? ていうか別に心配なんてしてねぇし」

 

なんだか妙に元気がなくなっている様子のアリスに、銀時は鼻を鳴らしてぶっきらぼうに言いながら、なんだか調子が狂うとしかめっ面を浮かべた。

 

「まさかアレか? お前本当はスタンド苦手なのか? ホントはビビッてんじゃねぇだろうな」

 

「そんな訳ありません、私はお前と違って幽霊など断じて怖くもなんともありません」

 

「幽霊って言うな、スタンドだ」

 

実はほんとは怖がりなのでは銀時に指摘されると、アリスはムッとした様子でそれを即座に否定。

 

幽霊など怖くもなんともない、むしろどこかで親近感的なモノを……

 

「いけませんね……今日は随分と混乱してるみたいです」

 

唐突に頭に浮かんで来たおかしな感情を振り払うかのように、アリスは首を横に振って見せた。

 

そんないつもよりもしおらしくなっている彼女を銀時はジッと見つめながら頬をポリポリと掻いて

 

「なんからしくねぇなお前、いつもなら隙あらば俺に褒めろだの頭撫でろだの訳の分からんアピールしてくるクセに、そんな大人しくなっちまったらこっちもどう対応すればいいのかわからなくなっちまうじゃねぇか」

 

「……」

 

「……まあいいや、よくわかんねぇけどお前にも少しは人間らしい所があるって事だな、安心したよ、お前って普段はまるで頭のネジが全部取れたからくり人形みたいだったし」

 

アリスの様子がおかしい事ぐらい銀時は既に察し済みだ。

 

しかしだからといって根掘り葉掘り彼女に理由を追求するような無粋な真似はいくら彼でもしない。

 

ここはしばらく彼女自身の時間を作らせてあげて、無闇に詮索しない方が良いだろうと考えたのだ。

 

「しばらくそうして物思いにふけってろ、俺はそれまで隣で座ってくつろいでいるからよ。話したい事があんなら適当に聞いてやらんでもねぇし」

 

「……そうですね、こうしてお前と二人きりでいると、不思議と心が安らぐ気持ちになれますし」

 

「俺は全然安らげねぇけどな、いつお前に襲われるかと思うと油断隙もあったモンじゃ……あ?」

 

相変わらず素直ではない銀時だが、そんな彼の肩にそっと頭を預けるアリス。

 

場所が不気味な公園というのがいささか不満ではあるが、それでもこうして銀時と二人きりでいられる事に

 

彼女は正直嬉しかったし何より”懐かしい”とさえ感じて来た。

 

「しばらくお前の肩を貸してください、こうしていると落ち着くんです」

 

「ったく勝手にしろ、別に誰に見られてる訳でもねぇし」

 

「私の様子がおかしいとは言ってますが今お前もまた随分とおかしいですね、なんだか優しくなっている気がします」

 

「張り合いが無くなってやる気無くしただけだ、あーあ、調子狂うぜホント」

 

自分の肩に頭を置いて来たアリスに銀時は眉一つ動かさず、けだるそうに呟きながらそのまま大人しく彼女の好きにさせてあげるのであった。

 

それからアリスはしばらく銀時に寄り添うようにもたれながら、自分の身に起こった不可解な現象がぼんやりと薄れていくのを感じつつあった。

 

そう、あの謎の忠告通り思い出す必要などない、こうして彼と一緒にいる”今”こそが、自分にとっての最大の……

 

 

 

 

「とぉーッ!」

 

「ごふッ!」

 

アリスが人知れず何かとても大事な事を吹っ切ろうと思ったのも束の間、突然銀時が背後からの謎の衝撃を食らって前のめりになる。

 

突如として銀時の背後に盛大に飛び蹴りをかまし、スタッと華麗に目の前に着地しクルリとこちらに振り返って来た人物は

 

「なに柄にも無くギャルゲの主人公みたいなのやってるの銀時、全然似合わないんだけど」

 

「テメェこそなにギャルゲのツンデレヒロインみたいな真似してんだコラ!」

 

会っていきなり冷たい視線をぶつけてくるのはやはりというべきかユウキであった。

 

どうやら彼女もまた銀時の事を探し回っていたらしい、そして最悪なタイミングに出くわしてしまったと……

 

「なにアリスと仲良さげに寄り添い合ってるの? 君そういうキャラじゃないよね? 絶対自分に頭預けてきたらその頭を笑顔で鷲掴みにして、「死ねー!」て叫びながら思いきり壁に向かってぶん投げるのが坂田銀時という男でしょ、ほらやって、アリスの頭を掴んで明後日の方向へぶん投げて」

 

「俺の事今までどんな風に見てたんだお前! 俺がいつそんな猟奇殺人者みたいな真似したよ! 完全に子供殺しまくる殺人ピエロじゃねぇか!!」

 

人のキャラ設定を勝手に捏造するなと銀時がユウキに叫んでいると、さっきまで幸せに満ちていたアリスは彼女が現れた途端、一瞬にしていつもの仏頂面に戻っていた。

 

「毎度毎度邪魔しに来ますねこの子は……一体何が目的なのでしょう、いっその事その生態を知る為に檻にぶち込んで飼ってみたいとさえ思って来ました」

 

「人の事を猛獣扱いにしないでくれる? そろそろ本気で怒るよボク、言っておくけど一度ボクがキレたら攘夷志士三人相手でも食い止める事が出来るぐらいヤバいんだからね」

 

「えらく限定的に表現しましたね、まるで実際にその連中と戦ったかのような」

 

平然とした口調でサラッと怖い事を言ってのけるアリスに、ユウキが負けじと力こぶでも見せつけるかのように腕を上げてアピールしていると、再度アリスは彼女に向かって口を開く。

 

「ていうかあなた、よく私達を見つけられましたね、ここら一帯は霧に覆われていて迷いやすいというのに」

 

「え? ああ、確かに上手く進めなくて結構迷ったんだけど、偶然銀時を見かけたって子供がいてさ」

 

「……子供?」

 

彼女の口から子供と聞いた瞬間、アリスは若干ピクリと反応した。

 

なんだかすごく嫌な予感がする……彼女がそう思ったのも束の間、何時の間にかユウキの隣には……

 

色白の肌を曝け出しながらも、その目は暗闇と表現する程に黒い小さな少年が、最初からそこにいたかのように立っていたのだ。

 

「ほら、この子が銀時の所まで案内してくれたんだよ、名前は俊雄君っていうの」

 

「にゃーーーー」

 

「やはり……」

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!!! なんだそのホワイト修正されまくったガキは! なに平然と連れて来てんだこのアマ!」

 

「酷いなー、この子、銀時の事友達だって言ってたよ?」

 

「にゃーーーー」

 

「こんなブリーフ一丁の明らかにヤバいガキと友達になった覚えなんてねぇよ! てかオイ! オイ! 後ろ!」

 

それは紛れもなく銀時があの白い家の前で出会った少年であった。

 

ユウキは全く気にしていない様子で彼の事を紹介するも、記憶が飛んでしまっている銀時は彼が何者なのかわからない様子。

 

しかしそんな事よりも、子の少年よりもずっと恐ろしいナニかがこちらに迫って来ている事を銀時は確認するのであった。

 

「なんかこっちに向かって長い黒髪を地面に垂らした女が! 四つん這いの状態ですげぇスピードでこっち迫って来てるぞ!」

 

「うわホントだ、よくあんな体勢で走れるねあの人、すご」

 

「呑気に感想呟いてんじゃねぇよ! アレ絶対お前が俊雄君連れて来たせいだろ!」

 

ふと公園の外から四つん這いでありながらも尋常じゃない速さで迫って来る恐ろしい女を目撃してしまう銀時。

 

長い髪が地面に垂れる事もお構いなく、ただ一直線にこちらに向かって突っ込んでくる女

 

こんな光景を見れば当然彼は完全にパニック状態だ。

 

「と、とりあえず俊雄君返してこい! ありゃきっと俊雄君の母親だろ! いやもはや”アレ”に対してそういう表現が合っているのかどうかさえ微妙だけど!」

 

「うーん返しただけで許してくれるかなぁアレ、なんか一度アレに目を付けられたらもう絶対に逃げられないという気がするんだよね、ボク」

 

「それなら尚の事俊雄君を返して土下座なりなんなりして……! ってもうこっち来たぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

早く俊雄君を返してやれとユウキに叫ぶが、もはや今更何をやっても遅かった、アレはもう公園内に入り、こちらへと迫って来ている。

 

こうなったらもう自分達に残った手は逃げるしかない、銀時の中ではもうアレと戦うという選択肢は無かった。

 

勝てる気が全く起きないし何よりこれ以上視界に入れたくない。

 

「もういい俺は逃げるぞ! 追いつかれたら完全に祟り殺される! いやそれ以上に酷い目に遭わされるかもしれねぇ!!」

 

「ここにはあまり長居した事は無かったけど、あんなに凝ったNPCがいるんだねぇ、銀時の言う通りアレに接触されたらほぼほぼゲームオーバーになりそう」

 

「全くどいつもこいつも私の邪魔をして……止むを得ません、撤退しましょう」

 

女性から機械のノイズの様な呻き声が微かに聞こえて来た、銀時はもう限界だと脇目も振らずに一人で脱兎の如く逃げ出して、それにユウキと不機嫌そうなアリスもついて行くのであった

 

 

 

 

そしてアレの息子であると思われる俊雄君も

 

「にゃーーーーー」

 

「銀時、俊雄君もついて来ちゃってるよ」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! お前はこっち来んなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

何故か自分達の後を素足の子供とは思えないスピードで追走して来るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、銀時が必死に逃げ回っている中、彼と一緒にこの街に逃げ込んでいたアスナは

 

「はぁ~ホント自分でもどうにかしたいとは思ってるんだけど……」

 

独り言……ではなく、隣に座っている”ソレ”に対してブツブツと愚痴を呟いている真っ最中であった。

 

”井戸”の上で

 

「あの顔を見たらついカッとなって喧嘩腰になっちゃうのよねぇ、そりゃあの人が100%悪いんだから仕方ないんだけど」

 

「……」

 

「だって私はこの世界の治安を管理し、平和を脅かす者は速やかに排除するという大事な使命を抱えているんですもの、なのにそれをわかっているクセにあの人ったら自分が攘夷プレイヤーだというのを棚に上げて何度も揚げ足を取ろうと躍起になって……」

 

「……」

 

「ほんっと子供よねぇあの人、私と同年代とはとても思えないわ、あなたもわかってくれるでしょ?」

 

「……」

 

恐らくキリトの事について愚痴を言っているのだろうが、話し相手の、長い髪を前に垂らして一切素顔を見せず、鉄の臭いが染みついた純白のノースリーブを着た女性はずっと無言で彼女の隣に座っていた。

 

明らかにこの世のモノとは思えない雰囲気を放っているがアスナは至って普通に話しかけており、どうやら以前の銀時同様、絶え間なく続く恐怖の中で精神が崩壊してしまったみたいだ。

 

「はぁ~、なんだかんだで腐れ縁が続いてるけど、少しは私を見習って改心しようとか思わないのかしら普通」

 

女の方がずっと無言であっても延々と愚痴り続けるアスナ、するとそこへフラリと

 

「……何処をどう見習えばいいんだよ、アンタみたいな正義バカを」

 

「あら……あなたなんでここにいるのよ」

 

「誰のせいでわざわざ来てやったと思ってるんだ……」

 

彼女の前にやって来たのはしかめっ面のキリトであった。

 

彼が現れた途端アスナはすぐに不機嫌そうな表情で彼を睨みつけるが、キリトの視線は彼女ではなくその隣にいるナニかに釘付けだ。

 

「……というお前、ちょっと待て……大丈夫なのか? 今お前が隣にいる女って完全にあの……」

 

「山村貞子って言うのよこの子、なんかどっかで聞いた様な名前だけど、きっと気のせいでしょうね」

 

「気のせいでもなんでもねぇよ! 明らかにホラー映画界の大御所と同姓同名だよ! 誰もが知る超有名人だよ!」

 

どっか、というより夏になれば一度は必ずしも聞く名前である。

 

ニコニコしながら彼女を紹介するアスナに、キリトは信じられない様子でツッコミを入れた。

 

「ていうかなに平然と一緒にいるんだよお前! そいつは全世界にウイルスばら撒いて新人類を創り出そうと企むような奴なんだぞ! ホラーのクセにSF要素まで兼ね備えたヤバい奴なんだからな!」

 

「何言ってんの酷い事言わないで、貞子と私は友達よ、今から彼女の住処であるこの井戸の中でホームパーティする所なんだから、この子に酷い事言ったあなたは来ちゃダメよ」

 

「いやそこホームじゃなくてその人のデッドゾーン! どうしたお前、ビビり過ぎて遂に壊れたか!?」

 

彼女の事を友達だと言い張るアスナだが、その目はどこか虚ろであった、完全に思考を放棄している。

 

「しっかりしろ鬼の閃光! 血盟騎士団のナンバー2がお化け怖すぎて正気を失うとか一生の笑いモンだぞ!」

 

「アハハハ、失礼ね私はいつだって正気よ、おかしいのはあなたの方でしょ攘夷プレイヤー、貞子もそう思うわよね?」

 

「駄目だコイツ……早く何とかしないと……」

 

こんな一時的狂気に陥った状態の彼女では、いつもの調子で軽口叩いて挑発する気も失せてしまい、キリトはどうにかして彼女を正気に戻してやろうと説得を試みようとする

 

だがその時……

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァ助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「今度はなんだ……っての声はもしや……! うお!!」

 

こういう時に限って毎回厄介事を抱え込んでくる男が一人いた事を思い出すキリト。

 

背後から突然聞こえて来た悲鳴に急いで振り返ると、すぐに彼は表情をギョッとさせる。

 

「いい加減にしろぉ! どこまで追いかければ気が済むんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ホント凄い執念で食らいついて来るねあの人、まるでアリスみたい」

 

「絶対に我が物にしてみせるという強い独占欲も感じますね、まるでユウキです」

 

「にゃーーー」

 

こちらに必死の形相で走って来るのは案の定、銀時、そしてそのすぐ後ろにはユウキとアリス、それと謎の色白少年。

 

極めつけは彼等に向かってドス黒いオーラを放ちながら四つん這いで追いかけている謎の女だ、一目見てヤバいとキリトはすぐに理解した。

 

「なにしに来たんだよアンタ! こっちはこっちで面倒事処理しようとしてるのに余計に増やしやがって!」

 

「おおキリト君じゃねーか! 丁度良かった、あの女どうにかしてくれ! それと俊雄君も!」

 

「出来るか! アイツ等は出現フラグ立てて付き纏われたら、こっちが死ぬまで延々と追いかけて来るんだぞ!」

 

「はぁぁぁぁ!? お前いつも自分は無敵だとか強すぎる己が怖いとか散々イキってたじゃねぇか! この期に及んでビビッてんじゃねぇぞテメェ!」

 

「和風ホラーの怨霊の類は強さとかそういう次元じゃないんだよ! アンタこそ散々最強銀さんとかアホみたいに名乗って調子乗ってたクセに!」

 

こんな最悪のタイミングで鉢合わせするとは思っていなかったキリトが、恐怖でキレ出す銀時と口論していると……

 

「全く騒がしいがね、せっかく静かだったのにゾロゾロとみんな集まってきちゃって……ほら見なさい、貞子だってなんか凄く怒ってるわよ」

 

「……!」

 

「あぁぁぁぁぁ!! こっちもこっちでヤバい事になってる! ウイルスばら撒かれて恐怖死させられるぅ!」

 

ウンザリした様子でアスナが呟いていると、隣にいる女が明らかに雰囲気が変化している

 

相変わらず一言も話さないが、長い髪の隙間から僅かに見える恨みがましそうにこちらを睨んでくる目が、こちらに対して強い殺意が芽生え始めているのだと物語っていたのだ。

 

「どうしてくれんだアンタ! よりにもよってホラー映画のツートップが揃い踏みになるなんて! 最近じゃコイツ等合体までするんだぞ!」

 

「知るかボケ! てかさっきから思ってたんだけどやけにこの手の話に詳しいなお前!」

 

「長年の引きこもり生活の中で俺が唯一妹にマウントを取るには! リビングでアイツの嫌いなホラー映画を鑑賞するしか無かったんだ!」

 

「その話聞いた上だとあの化け物共よりお前の方がずっと怖いわ! てかドン引きだわ!!」 

 

キリトのどうでもよく下らない悲しい過去を聞かされながら銀時が叫んでいる内に

 

いつの間にか前と後ろにもどことなく雰囲気が似た女によって逃げ場を失ってしまうのであった。

 

キリトと銀時達は合流すると、背中合わせになった状態でマズい事になったと状況を見渡す。

 

「あ、そうだ、ログアウトすりゃさっさとこの場から脱出……って出来ねぇ! なんでログアウト不可になってんだ!」

 

「この連中に襲われている時はログアウト不可能だ、これは演出みたいなモンで、街から脱出しない限り出来ない仕様になってるらしい……」

 

「そこまでしてプレイヤーをビビらせてぇの!? どんだけ全力で取り組んでんだよこの街に!」

 

「最初ここに来た時に言っただろ、凝った演出からして明らかに運営側の中にホラー好きの奴がいるんだろうなって」

 

ログアウトすら許さぬという悪意に満ちたイベントに銀時が怒りに震える中、キリトが冷静にしてきている内に

 

最凶の怨霊達がゆっくりとこちらへと迫って来る。

 

「ああマズイな……こりゃもう完全に逃げられないぞ」

 

「おいユウキ! テメェが俊雄君連れ来てたせいでこうなっちまったんだからな!」

 

「ボクは悪くないよ、そもそも最初に街に逃げ込んでみんなに探し回らせた銀時が悪いでしょ」

 

「にゃーーー」

 

這い寄って来る四つん這いの女

 

それから後ずさりしていく銀時とキリト、ユウキとアリス、それと何故か俊雄君。

 

そして彼等の背後にいるのは退路を塞いだ長い黒髪の女、と馴れ馴れしく一方的に話しかけるアスナ。

 

状況は明らかに最悪以外の何物でもなかった、もはや諦めるしかない、このまま一気にみんなまとめてゲームオーバー……

 

 

 

 

 

かと思われたのだがその時

 

 

「……おや? 誰かそこにいるのですか?」

 

「「!?」」

 

ふとそこへ聞こえて来たのは、とても低い男性の声

 

もはや助けが来てくれたのかと銀時とキリトが同時に声がした方向へ振り返ると、その声の主らしき人物がズンズンと重い足取りでこちらに近づいて来る足音が聞こえて来た。

 

「もしかして迷ってしまわれたんですか? この街は霧に覆われていて歩く事もままならないですからね、よろしければ私が一緒に街の出口まで連れてってあげましょうか?」

 

「お、おい! なんか俺達を出口まで案内してくれようとしてるっぽいぞ! 良い人だ! 絶対あの人良い人だ!」

 

「迂闊に信用するな、こういう甘い事言いながら近寄って来る奴ほどホラー映画じゃ黒幕率が高いんだ……俺達を本当に助けてくれるのかどうか……」

 

一筋の希望が見えたと銀時は喜ぶがキリトはまだ警戒してる様子。

 

すると彼等の前に深い霧の中からボンヤリと黒いシルエットが現れる

 

想像していたのよりもやや大きめな……

 

「いやーこんな所で人と会えるなんて思いませんでした、僕、いつも一人でこのゲームやってるんで心細かったんですよ」

 

「え、そうなんすか? んじゃここ脱出出来たら俺等と今度一緒にクエストでもなんでもやってやりますよ、こう見えて俺強いんで、最強銀さんと組めばもうどんな野郎も敵じゃないんで」

 

「ホントですか? いやー他のプレイヤーさんに誘われるなんて初めてです、嬉しいなー」

 

絶賛大ピンチなのにこの期に及んでまだ誰であろうと敵じゃないとのたまいつつ、相手に助けてくれれば協力クエストなりなんでもやりますと遠回しな取引を持ち掛ける銀時に、その巨漢のプレイヤーは喜んでる様子でゆっくりと銀時達の前へ現れた。

 

 

その人物は軽く銀時の背丈を超える程の身長で

 

全身緑色の体は決して人間では到達できない程に筋骨隆々で

 

頭には立派な二本の角を生やし、そして頭頂部にはちょこんとお花が一つだけ咲いていて

 

その下には鬼でさえも泣き叫んで逃げるであろうと確信してしまう程に

 

未だかつて見た事無い、まごう事無きの凶悪な面構えがあった。

 

「”屁怒絽”と言います、よろしくお願いしますね皆さん……」

「「「「「…………………………」」」」」

 

ギロッと二つの紅く鋭い眼光でこちらを見下ろし、鋼でさえも噛み砕けるのではと思うぐらいの鋭く尖った歯を出して友好的に名を名乗る屁怒絽を前に

 

その風貌と凄まじい形相に、銀時達、彼を取り囲んでいた人ではない存在も硬直したように固まってしまう。

 

「放屁の「屁」、憤怒の「怒」、ロビンマスクの「絽」で屁怒絽です」

 

「「「「「……」」」」」

 

「タイプはALO型、種族・ウンディーネ、回復や支援の魔法を得意としています、皆さんのお役に立てれば光栄です」

 

「「「「「……」」」」」

 

「争い事は苦手なので、よくお気に入りのお花畑を見つけてそこでのんびりと過ごすのが楽しみの一つです、それと可愛いモンスターとかとじゃれ合ったりするのも好きですね、フフフ」

 

「「「「「……」」」」」

 

銀時とキリト、そして彼を見た途端すぐに正気に戻っていたアスナが絶句の表情でポカンと口を開けて固まっている中、軽く自己紹介を終えて屁怒絽がこちらにニタリと笑いかけて来た瞬間

 

「まだまだ未熟な私ですがどうか皆さん、よろしくお願いします……」

 

もはやその場にいる事に限界を感じたのであった。

 

「「「ギャ、ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!」」」

 

「銀時ごめんね、ボク怖いモノなんて無いとか言ったけどウソだった」

 

「完全に私達を抹殺する目でした、間違いなく私達を皆殺しにする気です」

 

「……!」

 

「にゃーーーー!」

 

銀時、キリト、アスナが同時に悲鳴を上げて一目散にその場から逃げ出す、ユウキとアリスも流石に相手が悪過ぎると続き

 

更には井戸の傍にいた長い黒髪の女も陸上部のフォームで共に逃げ

 

ずっと銀時達を追いかけて来た女でさえも、俊雄君を抱えて普通に二本の足で、必死に彼等と共にその場から走り去るのであった。

 

 

かくして、後にホラースポットとして有名な第六十五層に新たな都市伝説が追加された。

 

特に霧が濃いタイミングで、街の中を長時間彷徨い続けていると……

 

 

 

 

 

頭に花を咲かせた恐ろしい悪鬼が現れ、生きたまま頭から食われるという伝説が

 

 

 

 

 

一方その頃酒場に残されたリズベットと神楽はというと

 

「アイツ等全員どこに行ったのかしら」

 

「知らないアル、ジェイソンにでも追いかけられてるんじゃないアルか?」

 

「あーそれはちょっと面白そうだから見てみたいわね、プレデターに襲われる銀さんとか」

 

「へ、あの天パならチャッキーだけで十分ビビッてチビるネ」

 

彼等とは対照的にほのぼのと過ごしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




私が今まで観て来たホラー映画中でのベスト10

10・「着信アリ」あの着信音が未だに頭から離れない程にトラウマ……首グルグルとかギャグっぽい演出があるのでいい塩梅に、ラストはちょっと「は?」ってなるけど普通に怖い

9・「感染」登場人物がクズばかりの中で謎のウイルスが大暴れ! 怖い筈なんだけどなんかスカッとする作品

8・「リング2」恐怖もあるのだがそれと同時に謎を解いていくミステリー成分も含まれており、初代とは別の形で面白味がある作品、出てくる女優が綺麗な人ばかり

7・「学校の怪談4」子供向けのホラーなのに普通に大人でもゾクッとする怖さが所々盛り込まれている、特に無音からのアレがヤバい、キャッチコピーは「次は、お前だ」

6・「ヴィレッジ」ひたすら恐怖感を煽っていくスタイル、所々に伏線が貼られ、ホラーというよりもサスペンスに近いかも、見ごたえはあるし綺麗に終わる

5・「パラノーマル・アクティビティ」低予算で作ったB級映画が、口コミで全米に知れ渡った怪作、最初は何てことない日常が徐々に恐怖を増長させていく演出がたまらない。

4・「呪怨」理不尽極まりない怨霊が家に入る者全て皆殺し……彼女ほど最悪で最強な怨霊はいないでしょうきっと、最近は関わっただけの者やその存在を知っただけで呪い殺すという理不尽極まりない技を会得した。

3・「リング」言わずもがな、ホラー映画と言えば真っ先に頭に浮かぶ名作、続編作りまくって色々アレになってるけど初代は完璧

2・「仄暗い水の底から」怖いというより純粋に泣ける、いや確かにべらぼうに怖いんだけど最後のオチが悲しくて……ホラーなのに親子愛も含まれた傑作

1・「輪廻」完成度がずば抜けて高い、ホラー特有の後見悪いオチではなく伏線をすべて回収してすっきり終わるのがまた素晴らしい、作者はあまりにも好きすぎてこの作品の主題歌をモデルに長編SS書いたぐらい

私が観てしまったしょうもないホラー映画トップ3

3・「青鬼」とにかく酷い、映画館で観たら普通に熟睡出来るレベル

2・「デスフォレスト恐怖の森」設定がちぐはぐ過ぎてまず映画として成り立っていない、明らかに製作人は誰一人元のゲームをプレイした事ないんだろうなというのがよくわかる

1・「コトリバコ」元は2chのオカルト版なんだけど、元ネタがすごい怖かったのに、全くそれを活かしておらず、ただの後見悪い下らない茶番劇に、役者が全員、高校の演劇部の人かな?と思うぐらい棒読みなのがかろうじて癒しになる

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