竿魂   作:カイバーマン。

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投稿予定日から遅れて申し訳ありませんでした……

忙しいって訳じゃないんですけど、どうにも最近、やたらと一話一話が長くなってしまって……



第八十層 けだものフレンズ

代々長く続く徳川家にとって、かつてない程の大事件が起こった。

 

あろう事か、将軍の穿いている御召し物、ブリーフを強奪する賊が現れたのである。

 

仮想世界で起こった前代未聞の”珍”事に、将軍の護衛役であるアスナは素っ裸に剥かれた茂茂を、極力視界から外しながらワナワナと怒りに震え

 

「あなた達はやってはいけない事をしてしまったわ……ただのPKだったらアカウント処分で済んだのに……よりにもよって畏れ多くも将軍様のパンツを……」

 

 

 

 

 

 

 

「奪い取ったばかりかそれを頭から被るなんて! これ以上ない将軍様への侮辱行為だわ!」

 

(ヤッベェェェェェェェェェェェェ!!!!!)

 

将軍が唯一身に着けていたブリーフを頭から被った変態仮面ことトッシーは、こちらに指を突きつけ激昂するアスナに強い焦りを覚え始めていた。

 

彼女に正体がバレぬ様に咄嗟に奪い取った布切れが、まさか畏れ多くも征夷大将軍のモノだったとは……

 

(なんで上様がこんなゲームやってた上にあのガキとつるんでんだよ! つかなんでパンイチ装備!? アイツ将軍様になんちゅうプレイをさせてやがったんだ!)

 

「だんまりを決めたって無駄よ! 将軍様の下着を被っている時点でもはや言い逃れは出来ない! よって将軍様に代わって私がアナタを処罰します!」

 

「はぁ!?」

 

急いで将軍のブリーフをひっぺ返したいというのもあるのだが、ここで取ってしまったら自分の正体が彼女にバレてしまう。

 

それで彼女が自分に幻滅なり嫌うなりしても全然構わないが、ここで自分が何をしているのかだけは絶対に隠し通さないといけない。

 

(仕方ねぇ、コイツにバレると色々と面倒だ、こうなったらまずはコイツを追い払い、将軍様だけ残った状態にしてこのくっせぇブリーフを返さねぇと……)

 

故にトッシーは初めて見る彼女の鋭い目つきに若干驚きつつも、細剣をこちらに突き出して突っ込んで来たアスナにすかさず手に持っていた刀を振り上げ

 

「テメェ如きが俺に向かって剣振るうなんざ100年早ぇんだよ!」

 

「な!?」

 

こうして彼女と剣を交える事になるとは夢にも思わなかった……

 

アスナの繰り出した突きを刀で受け止めると、ブリーフの奥にあるトッシーの目の瞳孔が開き始める。

 

「変態仮面をナメんじゃねぇ!」

 

「く! 私の攻撃を受け止めるばかりか逆に返してくるですって……!」

 

トッシーの振るう剣は明らかに素人が成せる動きでは無かった、荒々しくもがむしゃらに振ってる訳ではなく、冷静のこちらの動きを分析しながら一撃必殺のカウンターを狙って目をギラギラと光らせている。

 

ブリーフ一丁で頭にもブリーフという完全なる変態ではあるが、只者では無いとアスナもその天に突いては素直に認める。

 

しかし

 

「変態のクセに私の剣捌きについて来れるなんて大したもんじゃない、けどそれだけで通用する程この世界は甘くは無いわよ」

 

「!?」

 

余裕綽々と言った態度で彼女はそう言い切ると、トッシーの刀を剣で容易く弾き飛ばし、彼と同じく瞳孔を大きく開かせる。

 

「それと私も甘くないから」

 

「コイツ……!」

 

己の技量が足りないのであればスキルやアイテム、そして武器で補えばいい、衣服を脱ぎ去り防具の付加ボーナスを破棄した時点で、アスナとトッシーの間には圧倒的に戦闘ステータスの差が出来ている。

 

ゲーマーとしての差、血盟騎士団の副団長として君臨し数多の戦いを繰り広げてきた彼女は、当然見逃す筈がなかった。

 

(まさか俺がよりにもよってこのガキに剣で押されるだと!? 洒落にならねぇ悪夢だぜ……)

 

「あら? またヘタレに戻ったのかしら? 急に動きが鈍ったわよ」

 

「抜かせ!」

 

現実世界では一度も見た事のない挑発的な言動と態度に段々イラつきを覚え始めるトッシー

 

まるで別人だと思えてしまうぐらい、今の彼女は彼の知るもう一人の少女は似て非なる者であった。

 

(ムカつくがコイツの剣の腕は確かによく洗練されてやがる……マジでムカつくがその点についてだけは認めてやる、いやホントムカつくが、現実に戻ったら絶対に泣かしてやろうと思うぐらいムカつくが)

 

まだまだ余裕たっぷりの表情で嘲笑まで浮かべて来たアスナに、トッシーはますます全力でぶった斬ってやりたいと強く思っていると、そこへまた新手が

 

「おい、選手交代だ、スイッチ戦法で手っ取り早くとっとと決めようぜ」

 

「ちょっと! 人が戦ってる時に勝手に横入りしないでよ!」

 

「あぁ!?」

 

突如横からヒラリとやってきた人物にトッシーは怪訝な表情を浮かべた。

 

アスナと自分の間に入って来たのはキリト、どうやら相方のレンは彼を抑えきれなかったみたいだ。

 

「おいピンク娘! コイツの相手はテメェだろうが! なにこっちにすんなり通してんだコラ!」

 

「え? あ、すみません、話しかけないでください、知り合いだと思われたくないんで……」

 

「オイィィィィ今更他人装ってんじゃねぇ! お前もう変態仮面組の一員だろうが! それはもう決して避ける事の出来ない事実だ!」

 

「いやいやもうマジで勘弁して下さい、私ホント清らかな乙女なんで、変態の知り合いとかいないんで」

 

ふとレンの方へ見ると彼女はコソコソとこちらからかなり距離を取って戦う事を止めていた。

 

完全に変態と化しているトッシーの仲間だと認識されたくないのであろう。

 

相方と全く連携出来ない残念な彼をよそに、キリトとアスナはいがみ合いしながらも交互に彼を攻め立てていく。

 

「いいからアナタは大人しくすっこんでなさいよ! これは私の戦いなのよ! ここで功績立てないと打ち首にされるんだから!」

 

「なに一人だけ助かろうとしてるんだ! ふざけんな俺がこの変態を倒す! 生き残るのは俺だ!」

 

「アナタはどっち道将軍様に対する数々の暴言の件でとっくに晒し首確定よ! 晒された時は見に行ってあげるから有難く思いなさい!」

 

口ではギャーギャー言い合いながらも二人の攻撃はトッシーをみるみる追い込んでいく。

 

しかしこんな子供二人に一方的に押されるなどという屈辱に、彼がそう長く耐えられる訳が無かった。

 

「ふざっけんじゃねぇ!!! 調子乗んのもいい加減にしろクソガキ共!」

 

「「!?」」

 

執拗に連撃をかましてくるアスナとキリトのコンビに遂にトッシーはブチキレる。

 

刀一本で彼女達の剣を同時に弾き飛ばすと、ブリーフ越しにある眼光は一層怒りに燃えていく。

 

「この俺を誰だと思ってんだテメェ等……! 戦場も知らねぇただの青臭いガキ共風情が、この俺を倒すだのなんだの笑えねぇ冗談抜かしてんじゃねぇぞコラ……!」

 

「なんなんだこの変態……さっきから異様に殺気が半端ないぞ、パンツ被ってるクセに……」

 

「あれ? この雰囲気もしかして……いやでもやっぱあり得ないわ、パンツ被ってるし」

 

「パンツパンツうるせぇよ! こちとら好きで被ってる訳じゃねぇんだからな! こうなったらテメェ等に本当の戦いってモンを優しく教育指導してやるッ!」

 

パンツ被っているというのにこの圧倒的強者感漂う威圧感は一体どこから湧いて出てくるのであろう……

 

そんなアスナとキリトの疑問をよそに、トッシーは突然バッと左手を高々と掲げると

 

「煙幕!」

 

「アイアイサー!」

 

彼の短い伝令に元気に答えたのはまだ見えぬ彼のもう一人の仲間。

 

するとトッシーの背後からボンッ!と勢いよく何かが発射されたと思った次の瞬間

 

「うわ!」

 

何かが地面に直撃した音が聞こえたと思いきや、それと同時にたちまち辺りが黒い煙の様なモノが充満し始め

 

二人の視界はみるみる悪くなっていき、あっという間に何も見えない状態に

 

「しまった煙幕か! おい、あの変態を見失うなよ!」

 

「大丈夫に決まってんでしょ、向こうだって私達と同じ状態なんだから、迂闊に動く事も出来ない筈よきっと」

 

何処から聞こえて来るキリトの偉そうな指示にアスナが不機嫌そうに問題ないとキッパリと答える、だが

 

「全く私を誰だと思ってるのよ、こんな目くらまし程度でそう簡単に後れを取る訳……きゃあ!」

 

向こうだって動ける筈が無いとタカをくくっていたアスナであったが、その予想はあっさりと裏切られる。

 

真っ黒な視界の中で何かがギラリと光ったと思いきや、こちら目掛けて鋭い剣先が飛んで来たのだ。

 

間一髪でそれを避けながらも、アスナはすぐに失敗したと慌てて口を抑える。

 

(迂闊だったわ、どうやら大声出したせいでこっちの位置を掴まれたみたいね、でもそれなら対応は簡単よ)

 

これならどうだと声を発しないよう黙り込もうとするアスナ

 

(こちらの声で位置を把握するというのであれば、その声を出さなければみすみすバレる事も……って!)

 

であったが、そこへまたもや正確に刃が現れた。

 

流石に避け切れないとここは剣で受け止めるも、徐々に後ろに押され始める。

 

「まだわかんねぇのか、見えてんだよ何もかも……いかなる死地においてもこの俺の剣から逃れるモノなんざ誰一人いねぇ……」

 

(この人まさか、”本当の戦い”を知っている……!?)

 

暗闇の中からこちらと剣を交えたままトッシーがユラリと現れアスナは本気でヤバいと思うようになってきた。

 

(あの人の様に日々死線を潜り抜けて来た強者だからこそ、五感に頼らずとも敵の気配を察知する事なんて朝飯前だって事!?)

 

類稀ない危機察知能力、いかなる状況においても冷静に相手の位置を掴み、死角を突くなんて芸当を持つ者等早々いない。

 

アスナだってかなりの修練を積んでいるおかげで戦闘技術はかなりモノにしているのだが、この男は自分以上、それをいとも容易くやってのけている、まるでアスナの知るあの男の様に……

 

「言っただろ、テメェみてぇなガキがこの俺に勝てるなんざ百年早ぇってな」

 

「う!」

 

こちらが視界不良だというのにあっちはもはや感覚だけを頼りにして優位に斬り込んで来た。

 

一撃一撃が段々と重くのしかかり、アスナの表情に段々焦りが見え始めていく。

 

ついさっきまでは押していた筈が一方的に押され始め、遂には彼女の持っていた剣がキィン!と強い音を立てて弾き飛ばされ

 

「あ!」

 

「これでしめぇだ……!」

 

得物を空中に弾き飛ばされ無防備を晒してしまったアスナに、トッシーは一歩前に詰め寄って容赦なく刀を横薙ぎに振るう、もはや彼女にこの一撃を止める術はない

 

(やられる……!)

 

抗う方法が見つからないと判断したアスナは素直に敗北を認め、彼の攻撃を食らう決意。

 

反射的に両目をつぶってその時を待つ彼女、しかし……

 

「あ、あれ?」

 

「な! なにィィィィィィ!?」

 

いつまで経ってもその時が訪れない、不思議に思ったアスナが両目を開けるとそこには

 

 

 

 

 

 

「アスナちゃんは俺が護る!!!」

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

なんとそこには丸太のよう大きく太い腕で、トッシーの剣を受け止める毛深い猛獣が立っていたのだ。

 

突然の珍獣の登場を前にアスナだけでなくトッシーもまた度肝を抜かれて彼女と同じく叫び声を上げてしまう。

 

「だ、誰だアンタ!? い、いやもしかしてその見た目……アンタひょっとして近藤さ……!」

 

「通りすがりのゴリラだ! 覚えておけ!」

 

「いや覚えるも何もぜってぇ忘れられねぇよその見た目じゃ!」

 

通りすがりのゴリラと自称する謎のゴリラ、しかしその正体にトッシーとアスナもなんとなく何者なのか察する。

 

間違いなく真撰組の局長・近藤勲だ。

 

「ここは俺に任せてくれアスナちゃん! アスナちゃんの傍にこんなきったねぇブリーフ被った変態野郎なんざぜってぇ近寄らせねぇ! このゴリラフェアリーが全力でぶっ飛ばしてやる!」

 

「どの辺がフェアリーなのかどうか甚だ疑問ですが……とりあえず助けてくれてありがとうございます近藤さん」

 

「近藤さんじゃない! 通りすがりのゴリラだ!」

 

「く! よりにもよってこの人が相手かよ……!」

 

危機一髪でアスナを護れた事でテンションが上がりっぱなしの近藤ゴリラに、アスナは戸惑いつつもとりあえず礼だけは言っておく。

 

そしてそんなゴリラと対峙する事になったトッシーは、流石にマズイと冷や汗をかき始める。

 

「仕方ねぇ……! 一斉射撃開始!」

 

「うぇーい! ほらレンも出撃用意!」 

 

「えぇ~ヤダ~、あんな変態と一緒に戦いたくない、まだヘタレのトッシーの方がマシだって~……」

 

トッシーの号令を合図に、他の仲間も動き始めた。

 

そしてそれと同時に、辺りに発生していた煙幕は消えていき、アスナ達の視界も晴れる。

 

「よし、これでまともに戦えるわね……」

 

「うおぉぉ~~~~! ちょっと待て! ちょっと待てって!」

 

「?」

 

すると何処からから必死そうに叫ぶキリトの声が飛んで来た。

 

どうやら何かに襲われ苦戦しているみたいなので、アスナが振り返るとそこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

「敵はあっち! あっちだって言ってんだろ! なんなんだよアンタ!」

 

「通りすがりのドSでぃ、覚えておくんだな」

 

「って何やってんのよアンタァァァァァァ!」

 

キリトを執拗にバズーカを撃ちまくって追いかけていたのは、どこぞの流浪の剣士をまんまパクった衣装に身を包んだプレイヤー、アスナと前々からよく行動を共にしている沖田総悟であった。

 

どうやら近藤と同じくこちらにフルダイブしたらしく、やって来たもののその場にいたキリトを勝手に標的にして襲っているらしい。

 

「お前倒すけど良いよね、答えは聞いてない」

 

「聞けよ! なに人の話聞かずに問答無用でバズーカ撃ちまくってんだよ! いい加減にしろドSバカ!」

 

「いやー、旦那は別としていっちょお前さんとも戦いたかったんでね、いい機会だからここらでやり合おうかな~って」

 

「どこが良い機会!? タイミング最悪だろ! 将軍護れよ警察!」

 

さっきからドッカンバッカンと滅茶苦茶に売って来る沖田に、逃げ回りながらもキリトはすぐにトッシーの方へ指を差し

 

「将軍が全裸で晒されて目の前に将軍のブリーフ取った不届き者がいるんだぞ! 狙うならまずそっちだろ!」

 

「将軍のブリーフを取った変態? あ、ホントだ、確かにありゃあ相当ヤベェわ」

 

「いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

ようやくキリトへの砲撃を止めた沖田が振り向くとそこには彼の言う通り確かにブリーフを被った変態仮面がいた。

 

しかしその変態仮面ことトッシーは、近藤だけでなく沖田までもが現れた事にいよいよ本格的に焦り始めていく。

 

(マ、マズイィィィィィィィィ!! 近藤さんだけでなくあの野郎まで来やがった! アイツはマズイ! アイツにだけは絶対にバレちゃマズイ! もし俺の正体を知られたら一巻の終わりだ!)

 

「ツラはパンツのせいでよく見えねぇが、なんか見てるだけですっげぇイラついて来るなあの変態仮面、さっさと殺して将軍のパンツを剥ぎ取って、そのツラを全国ネットに配信して晒してやるか」

 

(しかもヤベェ事まで企んでやがるし! あれバレてないよね!? まだバレてない筈だよね!)

 

生理的に受け付けないと、沖田は無表情でこちらに向かってバズーカの標準を合わせ始めたので、トッシーは即座その場から退いて彼の砲撃から逃れようとする。するとそこへタイミング良く

 

「おいゴラァ! ウチのトッシーに手ぇ出すなぁ!!!」

 

沖田が撃つ前に突然上空からグレネード弾が次々と落ちて来た、彼は撃つのを中断してすぐにそれをヒョイッと避けると、トッシーの背後から一人の少女が颯爽と現れる。

 

「このフカ次郎! 例え変態であろうと杯を交わした相手は絶対に護るんだぜ!」

 

それは両手にグレネードランチャーを携えた金髪のちっこい少女。

 

トッシー、レンの仲間の一人であり後方支援担当のフカ次郎だ。

 

「けどこればっかりは流石にヤバいぜトッシー! 変なゴリラとパクリ侍が出てきたせいで一気に数の差が出来たもんだから戦況最悪だし!」

 

「チッ、正にお前の言う通りコイツはマジで最悪だ……」

 

「これもう素直に諦めて撤退した方が賢明じゃないでしょうか!」

 

「確かにこのまま逃げれば正体がバレる事はねぇが……将軍の下着を盗んだ事になっちまうからそれは流石に……」

 

こちらにビシッと敬礼して撤退するべきかと意見を述べるフカ次郎、それにトッシーはどうするべきかと真剣に悩みつつ、ふともう一人にロリ娘、レンが見当たらないと気付く。

 

「おい、ピンク娘はどうした」

 

「我々を置いて一人だけ逃げようとした所を狙われ、絶賛襲われている真っ最中であります!」

 

「あの野郎……」

 

戦況的に危ういと判断して独断で逃げようとは薄情な奴だ……あの娘、リアルでは内気寄りの性格なクセにこっちの世界だと中々にしたたかな一面を持っている

 

苦々しい表情でトッシーが舌打ちしていると、その時レンの悲鳴が

 

「うぎゃあぁ! なんか得体の知れない妙な二人組に襲われたぁ! せっかく逃げようとしてんのに邪魔するなぁ!!」

 

「はん、俺達の事を知らねぇだと? だったら耳の穴かっぽじって聞いておけコノヤロー」

 

レンの前に突如現れた二つの黒い影、何処からともなく現れた新たなる敵の登場に彼女が驚き叫ぶと

 

二人組はザッと前に出て手に持つ得物を構えてこの混沌ひしめく戦いに参戦する。

 

「通りすがりの主人公だァァァァァァァァ!!!」

 

「通りすがりのヒロインだァァァァァァァ!!!」

 

「いや聞いても意味わかんないんですけど!?」

 

それはキリトがよくつるんで行動を共にしている人物、坂田銀時とユウキであった。

 

神器・金木犀の刀を携えながら名乗りを上げると、銀時はユウキを引き連れて容赦なくレンに襲い掛かる。

 

「うおらぁ! こちとら10話近く一切出番無かったんだぞ! その間になに続々新キャラ出して俺がいない間に勝手に盛り上がってんだコラ!! 主人公の俺を差し置いて話進めてんじゃねぇ!!」

 

「酷いよホント! ずっと銀時と二人でスタンバってたのに誰からも呼ばれなくて! いっそ余所の作品に引っ越そうかって銀時と相談してたぐらいなんだよ!」

 

「だから知らないし! 引っ越したきゃ勝手に引っ越せばいいじゃん! 好きなだけ余所の作品に迷惑かけてくればいいじゃん!」

 

ずっと前から溜まり続けていた不満を晴らすかの如く、その矛先をなりふり構わず周りに向け、久しぶりの登場に銀時とユウキは派手に暴れ始めた。

 

「まずはそこにいるテメェだァ!」

 

そう言って銀時は目の前にいるレン、ではなく、少し離れた位置に立つ一人の男に狙いを定め……

 

 

 

 

 

 

「公然の場で全裸になってんじゃねぇ!! この変態野郎が!」

 

「ってそれ将軍ぅぅぅぅぅぅん!!!」

 

「こんな所で何やってんだあの二人?」と呑気に彼等を眺めていたキリトだが、次の光景に思わず悲鳴のような声を上げる。

 

銀時の繰り出すドロップキックは、一人離れて戦いを見守っていた全裸の将軍様であった。

 

その一撃を無言で顔面で受け止めた将軍・茂茂は、悲鳴も出さずにそのまま派手に後ろに転がりながらぶっ飛んでしまう。

 

「この野郎、いくらゲームの世界だからって全裸はねぇだろ全裸は、コイツにしょーもない足軽サイズを堂々と曝け出しやがって、どうせ曝け出すなら将軍サイズにしろや!」

 

「勘弁してよね~ホント、この世界に汚いモノを持ってこないでよ、罰としてその足軽、ボクが斬り落とすから」

 

「いや待て待て待て! その人斬っちまったらダメだ! 足軽も斬っちゃダメだ!!」

 

仰向けに倒れて未だ恥部を晒し続ける茂茂を軽蔑の眼差しを向けながら早速失言を連発する銀時とユウキ。

 

そして慌ててキリトが二人を止める為に駆け寄って行く間、倒れている茂茂の下へ慌ててアスナがやって来て介抱する。

 

「だ、大丈夫ですか将軍様!?」

 

「うむ……少々驚いたがこのような仕打ちに遭うのもまた新鮮なり」

 

「どんだけ御心広いんですか!? もうそろそろ本気で怒った方が良いですよ!? 私もう白装束に着替えますんで!!」

 

「よい、全て許す、こうして民との戯れに興じる事こそ余が望んでいたモノ」

 

数々の暴言を浴びせられ続け、パンツを盗まれるわ、突然ドロップキックされるわと散々な目に遭ってばかりの茂茂だが、これもまた面白いと称するので、流石にアスナも心配するが、茂茂は何事も無かったかのように立ち上がろうとする。

 

だが

 

「時に理不尽な目に遭う事もまた世の定理、それは全ての人に平等に与えられし試練、ならば余も、将軍としてそれら全てを真っ向から受け入れ……るんぬッ!!」

 

「将軍様ァァァァァァァ!!!!」

 

真顔で茂茂がなんかカッコいい事を言おうとした直後、突如彼の頭上に向かって何者かが勢いよく落下してきたのだ。

 

その者は足元にいる茂茂を下敷きにしたまま、手を出して固まっているアスナの方へ直立不動のまま振り返り

 

「どうも、通りすがりのメインヒロインであります」

 

「って今度はあなたァァァァァァァ!?」

 

現れたのは金髪碧眼の謎の美少女・アリス、将軍を思いきり踏みつけながら登場してきた彼女は、全く悪びれる様子もなくアスナに挨拶。

 

「ここにあの男がいると察知して来てみたらどうやら争いが起こっている様子、ここは私が手を貸してやっても良いですよ?」

 

「手はともかく足は使わないで! 踏んでるのよ護るべき対象を!」

 

「そういえば先程から地面がやわらか……なんですこの卑猥な男は? 公の場ですっぱだかとは……”人前で裸を晒すような輩”は心底軽蔑します」

 

慌てたアスナに指摘されてアリスはふと自分の足元に目をやると、そこには全裸の将軍が

 

すると酷く不愉快なモノを見たかのような冷たい目つきで一瞥すると、アリスは腰に差していた木刀を握り締め

 

「排除します」

 

「どんだけ将軍様を乏しめれば気が済むのよあなた達!」

 

そこから躊躇なくゴルフスイングで思いきり振り抜き、茂茂の頭をかっ飛ばしてそのまま体ごと空へと吹っ飛ばしてしまうアリス。

 

そして上空でクルクルと回転しながら茂茂が地面に墜落し、アリスの頭を思いきり叩いたアスナがすぐにまた追いかける。

 

「もうダメです将軍様! ログアウトしましょう! この世界は将軍様に厳し過ぎます!」

 

「……フ、実に自由な世界だここは」

 

「へ?」

 

残りHPバーが真っ赤に染め上がり、力尽きるのも時間の問題だというのに、茂茂はどこか満足げな表情を浮かべて立ち上がる。

 

「見よ、あの者達は皆己の生きるがままに好きに暴れ呆けておる、なんのしがらみも無く己の思うがままに生き、誰に言われずとも己の道を迷うことなく突き進む、その姿は今の世には眩しく見えるのだ」

 

「いや自由というか……自由過ぎてもはやただの暴徒と化してるんですが……」

 

彼が指さした方向では、様々な者達が好き勝手に暴れ回っていた。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!! 自然の力を思いしれぇぇぇぇ!!!」

 

「うおぉぉぉぉぉぉ! ゴリラが股間からビームサーベル出たぁ!」

 

猛るゴリラが卑猥な長物を振り回し、それから全力で逃げ回るフカ次郎

 

「未だ敵が誰なのか把握できないので、妥協であなたにしておきます」

 

「なんでボクに斬りかかるの!? いい加減にしてよホントにもう~! 一応こっちは君とは仲良くしておこうと思ってるのに~!」

 

目的をイマイチ把握していないアリスとユウキは勝手に理由を作り上げて戦っている。

 

「はぁ? アレが将軍、おいおいキリト君さぁ、この国の殿様がこんな場所でテメーの足軽晒す訳ねぇだろうが、下らねぇ冗談言ってるとマジぶっ飛ばすよお前、そして俺の出番を返せ」

 

「はぁ~……ちょっと前の俺と同じ反応だ……いや確かにおたくの言い分はごもっともだが、どうやらあの全裸のチョンマゲは本物の将軍らしくてさ……」

 

腕を組んでしかめっ面を浮かべ、頑なに信じようとしない銀時にキリトが、前にアスナが自分にやってた様に話を始め

 

「おろ? よく見りゃお前、ウチの部下共としょっちゅうやり合ってるピンクのガキじゃねぇか、何してんのお前?」

 

「あ、よく見たらチームアマゾネスの……いや~これにはちょっと事情があって、どうにかしてさっきのパンツ被ってる変態仮面を更生させようとしている所で……」

 

「変態仮面を更生させるってどんな事情?」

 

「それが、実はあの人なんだか、中古のナーブギアを買ったら呪われたらしくて……」

 

「呪い? なんだか随分と面白ぇ話じゃねぇか、ちょいと聞かせろや」

 

「えぇ~……」

 

戦闘狂である沖田は意外にも偶然居合わせたレンを見つけて、何やら例の変態仮面の事を知りたいらしく、彼について詳しく情報を聞き出そうとしている真っ最中であった。

 

そしてこの騒動を起こした元凶でもあるトッシーはというと……

 

「ってアレ? あの変態仮面がどこにもいない! いつの間に! あ!」

 

アスナがふと周りを見渡して探してみると、もはやトッシーはいつの間にか忽然と消えていたのだ。

 

色々な連中がゾロゾロと増えて大騒ぎしているのを好機と見て逃げ出したのだろう、しかしただ逃げただけでなく……

 

「あ、あそこに将軍様のパンツが落ちてます!」

 

「そうか、きっと彼が置いてくれて行ったのだろう」

 

ふと岩場の上にぽつんと置かれた白い物体を見つけてアスナが慌てて指を差す。

 

そこにあったのは一枚の純白に輝くブリーフ、しかも一緒に「パンツ取ってすんませんでした」って書かれた置手紙まで添えられている。

 

「なんの真似かしら、たかがこんな紙切れ一枚で国家反逆罪が消えるとでも本気で考えてる訳? 将軍様、直ちにあの悪逆極めし変態を指名手配とし、私達血盟組の名の下に総力を持って捕まえる事を約束しますので……」

 

「よい、たかが戯れで下着を奪われただけだ、余に謝意を述べながら返してくれた事であるし、これしきの事で大罪人と扱う必要は無いであろう」

 

何も言わずに置き手紙だけを残して消えていったトッシーに憤りを覚え、今度こそ捕まえてみせるとアスナが意気込むも、茂茂は相変わらず特に気にしていないようで奪われたブリーフを手に取る。

 

「今日は楽しかった、なんのしがらみも無く民達が楽しくはしゃぎ回っている光景を、こんなにも間近で眺められた事にそなたにも感謝しておこう」

 

「いや私なんてホント何も役に立ってませんから……結局将軍様を酷い目に遭わせてばかりでしたし……いっその事切腹申し付けて下さい、将軍様の優しさのせいで返って罪悪感が半端ないです私……」

 

「気にするな、先ほどから余が言ってる様にここは皆が現実から解放され、やりたい事だけをやる世界。それを知る事が出来ただけで余にとって十分だ」

 

いくらなんでもここまで天下の将軍を散々な目に遭わせておいて、なんのお咎めなしだと返って申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

しかし深々と頭を下げるアスナをよそに、茂茂は夕焼けの空をすっぽんぽんの状態で静かに見つめていた。

 

「本物となんら変わらない美しい夕日だ……これ程の素晴らしき世界、今日一日だけで済ますのは勿体ないな」

 

「へ? それって……」

 

「片栗虎にもう一度無理を言って再びこの地に足を踏み入れようと思う、今度はキチンと身なりを整えてな」

 

茂茂がどうしてこの世界を気に入ったのかはまだアスナはわからなかった。一体彼はどうしてこんな無法者ばかりの集団に囲まれたというのにこんなにも楽し気なのだろう……

 

頭の上に「?」を付けてキョトンとしている彼女に、茂茂はキリッとした顔立ちでゆっくりと振り返り……

 

「そしてその時が来たらもう一度そなたに余の案内役をして欲しい、今度はもっと……」

 

 

 

 

しかしその時突然、チュンッ!と不吉な音がアスナの耳に入った。

 

一瞬何かとんでもなく速い、銃弾の様なモノも見えた気がしたのだが、アスナが気が付くと同時に茂茂の股の下からポトリとあるモノが地面に落ちていた。

 

それは先程からずっと彼の下半身にブラブラと付いていた、滑稽な……

 

(しょしょしょ! 将軍様の足軽取れたァァァァァァァ!!!!)

 

モザイク塗れのその物体を見下ろしながらアスナが心の中で悲鳴を上げると、男として大事な一部を失った事で資茂茂はグラリと横に倒れ、そのままドサッと倒れるのであった。

 

そして残されたHPがゆっくりと消えていく中で、茂茂は倒れながらもアスナの方へ顔を上げ

 

「こ、この世界の仕組みを是非とも教えて欲しい……余はこの自由な世界を、皆と同じように楽しみたい……」

 

「……」

 

そう弱々しく呟く茂茂を彼を唖然とした表情でしばし見下ろすと

 

アスナは疲れ切った様に重いため息を吐きポツリ

 

 

 

 

 

「……いや、将軍様はもうこの世界に来ない方がいいです……」

 

 

 

 

 

 

一方そこからずっと遠くに離れ、高い所から見下ろせる位置に、アスナ達に気付かれないように注意しながら二人の人物がいた。

 

一人は座って狙撃銃を構えている若い少女、そしてもう一人の男は……

 

「……言われた通りターゲットをダウンさせたよ……全く、あんなに小さくて汚い的を狙撃したのは初めてだよ……もう二度とあんなモノ撃たないからね私」

 

「よくやったシノン殿、これでこの世界に恥部を晒して変態行為を行う非道な輩をまた一人消す事が出来た、これぞ正に天誅なり」

 

狙撃銃に付いているスコープからずっと遠くにいるアスナ達を眺めていたのは、先程茂茂の足軽を打ち落とした張本人であるシノンであった。

 

スコープから目を逸らし、明らかに不満げな様子で顔を上げると、その先に立っていたのはうざったい長髪を伸ばし、眼帯を付けた怪しい男。

 

「しかしこの世界にはまだまだあの様な周りに害を与える悪人共ばかりだ、きっと今もどこかで全裸で街中を駆け回る破廉恥な連中がひしめき合っているに違いない」

 

「いやそんな連中でひしめき合ってる世界なら私二度とここに来ないんだけど……」

 

「だからこそ俺が変えねばやらぬ、例え世界は違えども、俺の成すべき事はただ一つ、世界を引っくり返し、新たな時代の夜明けを生む事」

 

冷ややかなツッコミを見上げながら呟くシノンをよそに、男は腕を組みながらこの世界を本気で変えようとしている強い眼差しを光らせ

 

 

 

 

 

「この突如現れた希望の明星、”キャプテン・カツーラ”が堕落に溢れ腐ったこの世界に天誅を下さん」

 

「……なんでこうなっちゃったんだか……」

 

そんな強い決意を胸に一人で盛り上がっている男に対し、シノンはやれやれと首を横に振って静かにため息をつくのであった。

 

キャプテン・カツーラ、彼の正体はいったい何者なのであろう……

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、アスナ達から運よく逃走成功したトッシーはというと

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 洗っても洗っても臭い落ちねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

近くにあった川の水で、他人のブリーフを被ったという不快感と耐え切れない臭いから解放されようと、必死に顔を洗う姿が数人の冒険者に目撃されるのであった。

 

 




これにて鬼ノ閃光編は終わりです。

次回からはあの少年、黒づくめの厨二剣士を主軸にしたお話です。

アスナの交友関係と同じように、一癖も二癖もある変人共に囲まれている彼の日常や冒険を書こうと思っています。

道場の再興とか言いながらアイドルの追っかけに夢中になっている眼鏡

自分の事を全く兄として見てくれない絶賛反抗期の妹

その眼鏡と妹の上に立ち、彼にとって最も敵に回したくない最強のキャバ嬢

そして忘れちゃならない職場の上司とマスコット

自堕落に生きていきたい彼ではあるが、なんだかんだで周りに振り回され穏やかな日々とは無縁な毎日……彼に平穏が訪れるのはいつの事やら

おかしな変人揃い踏み、黒ノ夜叉編、お楽しみに




と、言いたいのですがここで一つ大事なお知らせが……

本作品はしばらくお休みをさせて頂きます


理由はなんというか……一度話のプロットを整理したいってのがありまして……

現状、本作品ともう一つの作品を同時進行している状態なのですが、申し訳ありませんがしばらくはもう一つの作品の方だけを投稿し、こちらはその間休載という形を取らせて頂きたいと思います

と言ってももう片方の作品はもう近々終わるのは確定しておりますので、そんな長くは休まないとだけ言っておきます。

休んである間に、色々と勉強する為に、新作の読み切りとかそういうのも書いてみようとも考えてますので

自分の中の「好き」を書いてみようと思っているナ

勝手な理由で申し訳ありませんが、再びここで皆様と会える事をお待ちしております、


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