ある日、結城明日奈はとある人物に呼ばれて、昼頃に一人公園のベンチに座って待っていた。
公園というのもあって、多くの子供が遊び回っている。
「平日の昼間から一人で公園にいると悲しくなってくるわね……」
わいわい騒いではしゃぎ回っている子供達を遠目で眺めながら、明日奈は少しだけ胸が痛くなるのを感じていると
そこへ一人の男がフラリと彼女の方へ歩み寄って来る。
「やあやあ明日奈さん、また奇遇だね、真っ当な社会人がとっくに活動しているこの時間帯で、こんなリストラされたサラリーマンが時間潰してる様な場所で会えるなんて」
「……あなたこそ平日の昼間からこんな所で何してるのよ須郷さん……」
ごく自然に目の前に立って来た男を見上げて明日奈はため息をつく。
いきなり現れた男の正体は須郷伸之
少し前に”不運な事故”に遭ったというのに、生命力が恐ろしく強いのかもうすっかり回復しているご様子。
そして当然、今回も待ち合わせしている相手は彼ではない。
「もしかしてクビにでもなったんですか? 遂に父にあなたの醜い本性がバレてしまったとか?」
「ハッハッハ、ご心配なく、僕はちゃんと君の父の下で忠実に働いてるよ、”誰かさん”と違って」
「……」
皮肉に対して皮肉で返して来つつ薄ら笑みを浮かべて見下ろしてくる須郷に、明日奈は無言でただムスッとした表情で睨みつける。
腹は立つのだが言い返せなかったのだ。
「それと僕は今日休みなんだ、知っているかい明日奈さん? 真っ当な社会人というのは日々真面目に働いていれば、会社から有給休暇を貰えるんだよ?」
「知ってるわよそれぐらい……」
「ハハハ、まあ君には関係無いだろうけどね。全く君が羨ましいよ、僕等が汗水垂らして働いてる中、君はパパとママが稼いだお金を使ってあんな品の無い小娘と毎日遊び呆けているんだから」
「あ、遊んでないわよ! 人を勝手にニートみたいに呼ばないで!」
「おや? 図星だったから怒っちゃったかい?」
今度は遠まわしではなく直球で痛い所を突いて来た須郷に、遂に明日奈がキレて立ち上がった。
「今日だって幕府の重鎮の方と会う約束してるのよ! 自分より年下の娘にネチネチ言ってるあなたみたいな可哀そうな小悪党なんかの相手してる暇も無いんだから!」
「ふん、可哀そうな小悪党とは随分酷い事を言ってくれるなぁ、僕は君の将来のお婿さんだというのに……」
彼女の言葉に若干イラッと来たのか、須郷の顔からは笑みが消え、ひどく憤慨した様子で明日奈を睨み返す。
「仕方ない、最初はただからかってやろうと思っていたんだが気が変わった、今日はあの忌々しい小娘も性根から腐ってるあのドS小僧もいない、君を護ってくれる者がいない今だからこそ、たっぷりと僕の花嫁になる自覚を持つ為の教育を施してあげよう」
「ちょっと、子供のいるこんな昼間の公園でなにやらかそうとしてんのよ、バカな事言ってないでさっさと私の前から消えなさい」
既に自分の事を所有物としか見てない様な目で近づいて来る須郷に、明日奈は怖がりもせずに心底嫌悪する表情で言い返すも、彼は近づくのを止めずにジリジリと彼女の方へ……
と、その時
「ん?」
ふと真横からバシュゥ!と何かが発射されるような音が聞こえたので、不審に思った須郷がそちらに振り返った次の瞬間
「にぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「キャァ!!!」
明日奈の目の前で突然須郷が大爆発。
何か黒い塊が彼に向かって飛んで来たのは一瞬見えたが、いきなり目の前で爆発が起きて須郷が真っ黒こげで倒れているのを見て、何事かと彼女がびっくりしていると
「フー遅れて悪かったな明日奈ちゃん、おじさんちょっと用事でゴタゴタしてたから時間かかっちゃってさ」
そこへ何後も無かったかのように明日奈の方へ歩み寄って来たのは
明らかに発射直後の痕跡が残っているバズーカを肩に掛け、口に煙草を咥えた強面の中年の男であった。
サングラス越しにこちらをジッと見下ろしてくる彼に、明日奈は少々ビビりながらも声を震わせつつ
「ま、松平さん!? もしかしてさっきこの男吹っ飛ばしたのって!」
「いや~大変だったよおじさん、この俺が新人の子からメアドと電話番号聞くだけでこんなに時間かかるなんて、これじゃあキャバの帝王という二つ名も返上しなきゃな~」
「もしかして遅れた原因ってまたキャバクラ行ってたんですか!? いやそれよりもそのバズーカ!」
朝からキャバクラ通いしてたと平然と話す男の正体は松平片栗虎
明日奈にとって関わり深いあの真撰組を始め、この江戸の警察組織全てのトップに君臨する幕府の重鎮である。
二つ名は「キャバの帝王」もとい「破壊神」、文字通り江戸を護る為ならば全てを破壊尽くす事もいとわない(破壊対象は護るべき江戸も含む)恐ろしい人物。
「正直相手が相手だから別にどうでもいいけど! 流石にバズーカで吹っ飛ばすのはどうかと思うんですけど!?」
「ああなんだそんな事か、もしもし俺だ、ガキ共のいる公園に相応しくないデカいゴキブリが転がっている、掃除頼むわ」
黒焦げになってピクリともしない須郷を指さして明日奈が叫ぶと、松平はあっけらかんとした感じで答えながら携帯を取り出して部下に指示、そして何事も無かったかのように明日奈の隣にドカッと座った。
「まあそれでえー……あれ? どうして俺は明日奈ちゃんをここに呼んだんだっけ?」
「知りませんよ……」
「あぁ、そうだそうだ」
須郷の事など完全に無視に徹している松平に明日奈が怪訝な表情を浮かべながら答えると、彼はここに彼女を呼んだ理由を話し出すのであった。
「えぇぇぇぇ!? 私をしょしょしょしょ将軍様のお嫁にぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「し~、明日奈ちゃん声大きいってば、女の子がそんなテンション高い叫び声上げちゃダメだって」
程なくして松平の部下らしき者達がやって来て、黒焦げ須郷を雑に引きずって車のトランクにほおり込んで何処かへ連れて行くのを見送った後
明日奈は先程の松平の話が何かの冗談なのではないかと困惑の色を顔に浮かべていた。
それもその筈、なんと彼が最初に言い出したのは、あの幕府のトップに君臨する徳川家の将軍様との
「すみませんいきなりとんでもない事言うもんだからビックリしちゃって……あのそれって将軍様との縁談話……って事ですか? リアルの話ですかそれ?」
「リアルもリアル、超リアルよ。まあ完全に決まっているわけじゃないが、俺が裏でコソコソと進めてるんだよ、明日奈ちゃんの親父にはちゃんと話を通してあるから安心してくれや」
「私が知らない所でまた勝手な事を……ごめんなさい今ちょっと頭の中がこんがらがってなんと言えばいいのやら……」
どうやらこの松平という男は、将軍と警察某長官という立場を超えて、かの徳川茂茂公と悪友的存在である立場を利用して勝手に明日奈との縁談を取り決めようという腹らしい。
しかしいきなりそんな話をこんななんでもない公園で聞かされては、流石に明日奈も内心酷く動揺してしまう。
「父には通したって言ってましたけど……私の父って確か私に自分ん所の社員を婚約者にしようとか考えてませんでしたっけ?」
「そんなもんとっくに白紙にさせる予定だよ、娘の相手が将軍ともなれば親父としてこれ以上に嬉しい事はねぇからさ、俺が話を持ち掛けた時にすぐにその場で舞い上がってフラメンコ踊ってたぜ」
「フラメンコ踊る父とか想像できないんですけど、てかどうしてフラメンコ?」
顔の広い松平は明日奈の父とも顔見知りだ、将軍と明日奈の縁談がすんなり進んでいるのもきっとその為であろう。
確かに自分の娘が将軍の下へ嫁ぐなど、父親としては涙を流す程喜ばしい話だろう。
「いやでも将軍様……茂茂様との結婚って私……正直荷が重くて遠慮したいんですけど、恐れ多いっていうか……」
「あれ? ひょっとして明日奈ちゃんって茂茂の奴嫌いだった?」
「いえいえそんな訳ありません! 茂茂様とは何度もお会いになってますからあの人がどれほど素晴らしいお方なのかはっきりとわかっています! 嫌いになるだなんて絶対にあり得ませんから!」
14代目征夷大将軍・徳川茂茂とは度々顔を合わせた事がある明日奈は彼の事をよく理解していた。
将軍という己の立場を鼻にかける事も無く、常に民の事を考え導こうと努力している心お優しい人物
そんな彼に対して明日奈は強く尊敬の念を抱き、いずれは彼がこの江戸を更に発展してくれるだろうと信じているのだ。
「けど私としてはもう雲の上の人の存在だと思っていたので……正直そんな方と縁談と聞いてもあまり現実感が湧きません……」
「いや~俺がやらなくてもいずれ明日奈ちゃんにはこういう話がやって来るのも時間の問題だったって、生まれも教養も文句無し、将軍の妹気味であるそよ姫からも懐かれてる上に当の将軍本人にも気に入られている、そして何より見た目がすんごい可愛い、キャバで働けば間違いなくナンバーワンになれる素材だ、これ以上に将軍の嫁に相応しい逸材はそうは見つからねぇよ」
「キャバで働く気はありませんよ私……うーん相応しいと言われてもあまり自覚ないんですけど私……」
「唯一明日奈ちゃんに足りない物と言えば、職歴ぐらいのモンさ」
「すみませんそれは言わないで下さい……さっきからずっと言われっぱなしで胸が痛いんで……」
須藤に続き松平にも言われたくない事に触れられて明日奈はちょっとブルーな気持ちになりながら呟き返す。
そこを突かれるのは本当に嫌なのだ……
「申し訳ないですけど今の私では将軍家の嫁になるなど到底無理です、ですからその話は将軍様の耳に入る前に無かったことにして欲しいんですが……」
「ええー!? おいおい江戸で最も権力の高いお殿様との縁談を自ら取り止めにするだなんて! いくらなんでも勿体なさすぎだろ!? この国に住む女性の誰もが羨む天下取りの嫁になれるんだぞ!?」
「そりゃそうですけど……私なんかじゃ将軍様の嫁なんて出来る自信が……」
「安心しな、明日奈ちゃん本人に自信なくても、このおじさんが絶対に上手くいくと保証してあげるから」
いきなり将軍の嫁になれと言われても、今の状態の自分じゃそんな話に乗る事は出来ないと拒む明日奈に
彼女の事を特別に思いやっている松平は煙草を咥えながら自信を持った様子で答える。
「おじさんはな、明日奈ちゃんが親父の金玉袋の中で泳いでた時から、ガキだった茂茂の面倒をずっと見ていたんだよ」
「すみません私の下りの部分って必要あったんですか? 物凄い不愉快な表現使われた気がしたんですけど?」
「アイツはガキの頃から俺と違って女性に対して積極的じゃねぇ、だからせめて気心の知れたいい娘を貰ってお世継ぎを作って欲しいと常日頃から考えていたんだ、そう思っていた矢先に、親父の金玉袋から飛び出て来て立派に成長した明日奈ちゃんを目に付けたんだ」
「だから親父の金玉袋の下り止めてくれません!? 怒りますよ!? もしくは訴えますよ!?」
年頃の女の子に対してド直球な下ネタをかましてくる松平に明日奈が本気でキレそうになっているが、それを軽くスルーして彼は淡々と話を進めていく。
「将軍の下へ嫁ぐ覚悟がまだねぇのはよぉくわかる、いきなりこんな話をされたらそら明日奈ちゃんも困惑するのは当然俺もわかっていた。だが今のアイツには支えてくれる存在が必要なんだ、心から信頼できる支えがな」
「噂は耳にしていましたけど、そんなに大変なんですか、幕府と将軍様は……」
「幕府は今、天人や攘夷浪士の連中に好き勝手に荒らされかつての威光は薄れている、当然この機を狙って将軍である茂茂に対して敵対する者も少なからずいる」
「敵って……もしかして攘夷浪士ですか?」
「いんや、そいつ等よりもよっぽどタチが悪い、茂茂を失脚させて新たな将軍を持ち上げようとする幕府側の人間だ」
「敵が身内に潜んでるって事ですか……穏やかじゃないですね」
天人と不当な条約を結んでからといういもの、幕府は侍を斬り捨てる事でなんとか生き延びている状態ではあるが、かつての栄光と権力はすっかり弱まってしまっているのが現実だ。
将軍と呼ばれる茂茂でさえも、天人の傀儡と化しいる幕府の状況を改善しようと試みてはいるものの、残念ながらそれを現実にする事は非常に可能性が低く、そればかりか幕府側から天人に媚を売って暗躍する者もいるらしい。
「だから俺としては早急に茂茂の奴に嫁さんでも持って少しは心休める時間を送ってほしいんだわ、アイツは常に幕府や民の事にばかりかまけて自分の事は二の次でよ、もしあいつが壊れちまったらそれこそ敵さん方の思うつぼだってのに」
「その点に関しては私も同意見です、以前将軍様にお会いした時は心なしか疲れてる様にも見受けましたし……けどだからと言っていきなり結婚だなんて向こうも困りますよ、そんな強引に私との縁談をやられても絶対に引き受けないと思います」
「いや~~俺としてはいいアイディアだと思うんだけどな~」
松平としては一種の親心で茂茂に心の安らぎを得て肩の力を抜いてほしいと思って、こうしてコソコソと明日奈の下へ会いに来て縁談の話を進めていたのだ。
と言っても、当の将軍や明日奈には全く伝えていなかったので、流石にここから強引に両者の結婚まで持っていくのはまだまだ時間がかかりそうだ、何より明日奈が全く乗り気じゃない。
「てか明日奈ちゃん、おたくさっきからずっと頑なに将軍との縁談を拒んでいるけどなに? もしかして今彼氏とかいんの?」
「い、いませんよそんなの!」
「そうか良かった、もし将軍との縁談の前に明日奈ちゃんに男でもいたら……」
唐突の質問に顔を赤らめて首を横に振る明日奈に松平はほっと一安心しながら
懐からカチャリと黒光りする拳銃を取り出す。
「おじさん殺し屋になっちゃう所だったよ」
「ちょ! いきなり拳銃なんて構えないでください!」
「だって心配なんだよおじさんは、俺はね、明日奈ちゃんの事はずっと昔から自分の娘のように可愛がってんだよ? 最近じゃ実の娘に口さえ聞いて貰えない様な俺みたいなおっさんと、こうして普通に喋ってくれるんだからそりゃもう可愛くてしゃーないんだよ」
どうやら明日奈に男の気配があったら、その男を即座に抹殺しようと企んでいるらしい。
拳銃に弾が込められているのを確認しながら松平は、驚いて飛びのく明日奈にため息交じりに本音をこぼす。
「もし明日奈ちゃんがどこぞの得体の知れねぇ変な男に引っ掛かりでもしたらと考えちゃうと、今すぐ江戸の男全員亡き者にしなきゃいけないって使命感に目覚めそうになるんだよ」
「そんなの目覚めさせないでください! それもう警察じゃなくて完全にテロリストの犯行ですから!」
「言っておくがな、もし原作で明日奈ちゃんが俺の知らねぇ男と結婚式を挙げるモンなら、例え原作という垣根を超えてでも俺はその結婚式に乱入して全力でぶち壊すと考えているんだよ」
「止めて下さい! 原作の私にまで迷惑かけないで! 頼むから向こうはそっとしておいて!」
明日奈の事は娘同然に思っている松平としては、例え別次元で彼女が結婚しようとしてもそれは絶対に阻止すると心に決めているらしく、どんだけ無茶苦茶な人なんだろうかと明日奈自身は頬を引きつらせて呆れるばかりであった。
「もうそうやって他人の事に一々首突っ込みたがるの止めて下さいよ……松平さんだって自分の事考えたらどうなんですか? キャバクラで遊んでばっかいるせいでロクに帰る事の出来ない家庭の事とか」
「俺の家族は問題ないさ、母ちゃんとはもう長い付き合いだしちゃんと俺の事をわかっている、俺が2、3ヵ月帰って来なくても心配なんてもうしねぇんだから」
「2、3日ならともかく2、3ヵ月!? それ逆に心配しない方がおかしくないですか!? とっくに愛想尽かれてますよ絶対!!」
「そもそも家庭に居場所がねぇんだよ俺は、娘にも汚物を見るような目で見られるし母ちゃんにもいない人扱いされるし、あーなんなんだよもう、結婚なんてするんじゃなかったよもー」
「さっき無理矢理縁談を取り決めようとしてた人が言う事ですかそれ!?」
ふと家庭の事と結婚について愚痴をこぼしてしまう松平であるが、ぶっちゃけ彼が家庭の居場所を失ったのは
毎日の様に夜の街に繰り出して、家族をほったらかしにして遊び呆けているせいである
そして今更結婚した事について後悔し始めてブツブツ呟き続ける彼をよそに、明日奈はスクッとベンチから立ち上がった。
「それじゃあ話も済んだ事ですし私はもう帰ります。まずは他人の縁よりも自分の縁を大事にしてくださいね、私と将軍様の件は無かったことにして構いませんから」
「無かった事にするのは無理だな、そういやちょいと頼みてぇ事あるんだが?」
「なんですか? 言っておきますけど私の方から将軍様に言い寄って欲しいとかナシですよ?」
「いやいやそっちの話じゃないから安心しな、俺が聞きてぇのは明日奈ちゃんが今ハマっているゲームについてだ?」
「ゲームって……もしかしてEDOの事ですか?」
「そうそうそれ、まあ俺はよく知らねぇんだけどさ」
今度はなに企んでいるんだと疑いの目つきを向ける明日奈に、意外にも彼の口からあるゲームについての話題を切り出してくる。
「実は俺のダチが最近そのゲームに興味持ち出してな、自分で遊んでみたいって言ってんだ。俺はゲームの事なんざ全くわかんねぇからよ、明日奈ちゃんにはそのダチの面倒を一日だけ見て欲しいんだ」
「ああそんな事ですね、変に怪しんじゃったじゃないですか、また将軍様絡みかと」
VRMMO初体験の初心者の指導、それぐらいの頼みなら引き受けても問題ないだろと、明日奈は疑う事も忘れて素直に頷く。
「初心者のお手伝いをする事ぐらいお安い御用ですよ、こう見えてゲームの世界では私、それなりに人に物事教えるの得意なんです」
「おーそんなにあっさりと引き受けてくれるなんて本当にいい子だな明日奈ちゃんは……おかげで計画が順調に進みそうだ……」
「え? なんか言いました?」
「いやなにも、おおっともう時間だ、そろそろ戻らねぇと」
一瞬松平が変な事を言ったかの様な気がしたのだが、彼は誤魔化すように自分の腕時計を見た途端すぐに立ち上がった。
「とりあえず俺はキャバに戻るとするわ、今日は色々と話聞いてくれてありがとな明日奈ちゃん、それと何時になるかはわからねぇが、俺のダチの件についてはいずれまた連絡するから」
「キャバじゃなくて家に戻って下さいお願いですから……ええ、いつでも待ってます、幸いにも最近私予定が空いてるんですよ」
「いや最近っつうかいつも空いてない? まあいいや、とにかく俺の代わりにダチを助けてやってくれ」
こちらに笑いかけ我ながら返事をするアスナにボソッとツッコミつつ、松平はその場を後にしようとした。
だがその時
「……通報があったから来てみたら……よりにもよってこの二人か……チッ、めんどくせぇ」
「ん? おおーなんだお前、トシじゃねぇか、もしかして俺の部下の代わりに迎えに来てくれたのか?」
「ええ!? と、十四郎さん!? いきなりどうしたんですか!?」
ベンチの背後から唐突に後ろから舌打ちしながら二人の方へ歩いて来たのは、いつもの制服に身を包んだ真撰組の副長・土方十四郎であった。
思いもよらぬ彼の登場に思わず驚いて立ち上がってしまう明日奈だが、それを尻目に松平は迎えに来たのだろうと安易に理解して彼の方へ歩み寄る。
「よぉ、今日は久しぶりにお前さんの従兄妹と喋れて楽しかったぜ、そんじゃあさっさとパトカー出してかぶき町に連れてってくれや」
「生憎だがとっつぁん、パトカーは用意しているがアンタをみすみすキャバクラに行かせる訳には行かねぇよ」
「あん? どういう事?」
口に咥えた煙草を携帯灰皿にポトッと入れると、土方は突然松平の両手首でガチャッと金属音を鳴らす。
するといつの間にか、松平の両手首にはガッチリ手錠がハメられているではないか。
「ついさっきウチに通報があったんだよ、子供がいる公園でいきなりバズーカぶっ放した危険なおっさんが未成年の少女を捕まえて長々と口説いてるってな」
「っておい! まさかお前! この警察庁長官である俺を捕まえに来たって訳か!? そりゃねぇだろトシ! 確かにバズーカは撃ったがありゃただの害虫駆除だ! それに俺は別にこの子を口説くつもりはねぇっつうの!」
「いや害虫駆除だろうがなんだろうが市民の居る公園でバズーカ撃っちゃダメだろ」
松平が逃げられないよう彼の肩に手を置きながら、相手が警察庁長官であろうとお構いなしに屯所へ移送しようとする土方、そして今度は明日奈の方へ開いた瞳孔を向けて
「それとお前もこんな平日の昼間からなにこんなオッサンとくっちゃべってんだ、傍から見ればオッサン相手に金目的で近づいてるようにも見えんだぞ、名家のクセに誤解が生まれかねない軽率な行動はよせって何度も言ってんだろうが」
「ご、ごめんなさい……でも私はただ松平さんの話に付き合ってただけじゃないのよ! これもれっきとした幕府の為の仕事……って十四郎さん!? なんで私にまで手錠!?」
「うるせぇ、暴れて抵抗されないよう速やかにテメェの実家へ移送する為に決まってんだろ」
「じ、実家!?」
会話の途中で不意に近づいて来た土方に松平と同じく自分の両手首に手錠をハメられて、しかも移送先が自分の実家だと聞いてビックリする明日奈
「実家に戻るなんて嫌ですよ! なんで連れてかれなきゃいけないんですか!」
「俺だって嫌々だけどな、テメェの母親に連れてこいって言われてんだよ」
「母さんが!? なんで!?」
「なんでってお前、決まってんだろーが」
「いつまで経っても「自分に合った仕事をしたい」とかほざいて定職に就かない名家の娘に、いい加減にしろって説教してぇからに決まってんだろ」
「……」
彼の言葉に明日奈は無言で頬を引きつらせて何も返す事が出来なかったのであった。
そして彼女は実家に連れてかれ、たっぷり精神を抉られる家族会議に参加させられたのは言うまでもない。
ヨシヒコは無事に完結できたけどこっちは全く終わる気がしません……書きたい話が多すぎる……
いっそデビルマンエンド目指そうか(錯乱