竿魂   作:カイバーマン。

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声は良いんだけどなぁ……スナフキンと同じなのに……


鬼ノ閃光編
第七十一層 無慈悲な暴力が天才を襲う


お昼、結城家の御令嬢・結城明日奈は神楽と共に住んでいる高級マンションの入り口前である人物を待っていた。

 

「遅いわね、何やってるのかしら」

 

「どうせどっかで道草食ってるに決まってるアル、アイツが時間通りに来ないなんて今に始まった事じゃないネ」

 

「一度近藤さんにビシッと言ってもらおうかしら、女の子二人を待たせるなんて男として最低よ全く」

 

 

二人でブツブツと待ち合わせをしている人物の愚痴を呟き合っていると、そこへふと一人の人物がフラリと歩いて来た。

 

「おや、明日奈さんじゃないか? どうしたんだいこんな所で」

「え? げ……」

 

妙に親し気に話しかけられて明日奈が横へ振り返ると、そこにいた人物にすぐに嫌悪する表情。

 

「なんであなたがこんな所にいるのよ、須郷さん……」

 

「ハハハ、嫌だなぁ人の顔を見るなりしかめっ面してくるなんて、たまたま偶然ここを通りかかっただけだよ」

 

「白々しい、どうせ私が住んでる場所を調べて、偶然を装って近づいて来たんでしょ……」

 

「ん~困ったなぁ、どうやら明日菜さんはまだ僕の事を嫌ってるみたいだ」

 

わざとらしいオーバーなリアクションを取りながらやれやれと首を横に振りながら苦笑して見せる男

 

彼の名は須郷 伸之。

 

明日奈の父が築いた会社で部下として働いており、若くして様々な分野で活躍し、遂には明日奈達が遊んでいるゲーム、EDOにも関係するフルダイブ技術研究部門の主任研究員にまで成り上がった天才である。

 

彼の父が父の腹心の部下という事もあって、明日奈や彼女の兄も須藤とは昔から面識があった。

 

だがこの男、一見物腰が丁寧な優しそうな感じではあるが、明日奈や兄は彼の本性をしっかりと見抜いている為、二人からは物凄く嫌われている。

 

その本性というのは……

 

「しかし少々その態度は問題だと思うがね、君がこれからも幸せな生活を送りたいのであれば、今の内に僕にそれなりの態度で接した方が君の為になるんじゃないかな?」

 

「おっしゃる意味がわかりませんが?」

 

「君の父上、つまりわが社の社長は僕の事をえらく気に入っておられてね、上手くいけば次期社長の候補として指名されるかもしれないんだ」

 

「は? あなたが?」

 

目上の人物に対しては猫を被る男だが、いざそれ以外の人間と相対する時はこういった見下した態度を取って来るのが須藤という男の本性なのだ。

 

明日奈は昔からこの男のそういう所が大嫌いで、正直今こうして会話している事さえ苦痛でしかなかった。

 

「冗談でしょ、父の跡を継ぐのは私の兄に決まっているじゃない、血の繋がりも無いあなたなんかに結城家が代々護り抜いた大事な会社を渡すモノですか」

 

「あぁ、君のお兄さんかぁ……彼は勿体ない事したねぇ、まさか名家の生まれでありながらどこぞの田舎娘を嫁に取ろうとするだなんて、名家の血にあるまじき不純物を交えようとするなんて馬鹿な事したら、僕等エリート達が果たして彼についていくかどうか……ま、その辺はきっと父親に似たのかな?」

 

「その辺にしておきなさい、これ以上兄や父だけでなく、母や兄の婚約者まで侮辱するというのなら絶対に許さないから」

 

「ああ、別に許さなくてもいいよ、実の所、君に嫌われようが僕は全く気にしてないんだ」

 

遠回しに自分の家族を馬鹿にしているこの態度が心底腹が立つ、明日奈は冷静を装いながらも目つきは鋭く

 

今すぐ目の前で小馬鹿にした感じで笑っているこの男を今すぐにでもぶん殴ってやりたいという強い衝動に駆られていた。

 

その内心を見破っているのか、須藤はますますこちらの反応を楽しむかのように笑みを浮かべ

 

「君の兄は田舎娘との婚約の件で一部の社員達から反感を買っている、そんな社員達の中で、次期社長を僕にすべきだと君の父に訴えてるみたいなんだ、僕を養子、つまり婿養子にして後を継がせるべきだという話を持ち掛けている所なんだよ」

 

「婿養子ってまさか……」

 

「君も一応は名家の生まれなんだからわかっているだろう、血を分けた息子よりも優秀で有能な部下を息子として後を継がせる、ゆくゆくは僕は君と政略結婚して結城家として生きていこうと思っているんだ」

 

「これ以上ない最悪ね、笑えないわ本当に……」

 

自分の兄に成り代わって須郷が次期社長に、おまけに自分を上手く利用して結城家に入り込もうとしているとは……

 

これ程までに最低な人間は見た事無いと、明日奈が頭を押さえて首を振ると、目の前の須藤は満足げに

 

「さあこれでわかっただろう? これ以上未来の亭主である僕に反抗的な態度を取ると、今後どんな酷い目に遭わされ……」

 

 

 

「ホワチャァァァァァァ!!!!」

「ぐべぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

明日奈にトドメの一言を言ってやろうと須藤がサディスティックな笑みを浮かべている所へ

 

突如タイミングを見計らったかのように神楽が雄叫びを上げながら彼の顔面に強烈な飛び蹴りをおみまい。

 

さっきまでの余裕の態度はどこへやら、顔面にめり込む程の蹴りを食らった須藤はそのまま道路にまで吹っ飛ばされてしまうのであった。

 

それ見下ろしながら蹴った張本人である神楽はペッと地面に唾を吐き

 

「アイツの言ってる事よくわかんなかったけど、とりあえずアスナ姐を困らせてるみたいだったから思いきり蹴っ飛ばしったアル」

 

「ありがとう神楽ちゃん、やっぱりあなたが傍にいてくれると頼もしいわ」

 

難しい事も明日奈の家の事情なども深く考えない神楽にとって須藤などただのねちっこい小悪党に過ぎない。

 

そんな彼女の頭を撫でてあげながら、明日奈がさっきまでのキツイ目つきから一転して優しい表情に戻っていると

 

意外にも須藤はヨロヨロと自力で起き上がった。

 

「こ、この小娘! 一体僕を誰だと……!」

「知らねぇヨお前なんか、さっさと消えるアル、次会ったらぶっ殺すぞ」

「ねぇ須藤さん、この子、あなたが前に病院送りにされた人の娘よ」

「な! なんだとぉ!?」

 

小指で鼻をほじりながら半狂乱した様子で叫んでくる須藤を軽く流す神楽。

 

そして明日奈が真顔で彼女の情報を教えてあげると、生まれたての小鹿の様に足をガクガク震わせ。

 

「ぼ、僕を何カ月もの間病院送りにし! 危うく出世コースから脱線し掛けた僕にとって忌々しいあの化け物の!?」

 

神楽の父親には、ちょっと前に「お仕置き」された事があるらしく、その事が未だにトラウマであるものの須藤は負けじと強がりを見せつけようとする。

 

「フン、だが今の僕がその程度で怖がるとでも……」

 

 

 

 

「どるふぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

しかしその途中で突然、彼の方へ勢いよく黒い車が突っ込んで来たのだ

 

そのまま須藤は華麗かつ美しい回転を魅せながら宙を舞い、べちゃりと音を立てて地面に落ちた。

 

目の前の光景に特に動じることなく明日奈と神楽が眺めていると、目の前に停車したその黒い車の運転席のドアが軽く開く。

 

「おい、迎えに来ましたぜお姫様、チャイナは後ろのトランクに入れ」

「遅いわよ、おかげで変なのと遭遇しちゃったじゃない」

「くおらぁサド王子、私だけトランクってどういう事アルか、ああ?」

 

何事も無かったかのようにキョトンとした顔で運転席から現れたのは真撰組の一番隊隊長・沖田総悟であった。

 

ようやくやってきた彼に文句を垂れつつ、明日奈と神楽もまた人を轢いた車の後部座席を開けて車内へ

 

だが助手席に座っていた一人の人物だけが、血相を変えて車から出て来た。

 

「ちょっと沖田隊長!? 今明らかに誰か轢きましたよね!? すんごい勢いでほとんどわざとじゃないかってぐらいのスピードで人撥ねましたよね!?」

 

「え、そうなの? 俺全く気付かなかったけど? なんか車道の真ん中にデカいゴキブリがいるなーと思って踏み潰したのは覚えてるけど?」

 

真撰組では数少ない常識人の枠におさまっている密偵・山崎退がまだピクピクしながら倒れている、かろうじて生きている様子の須藤を指差すが、沖田は全く気にしてない様子で車内に戻った。

 

「ゴキブリ踏んだぐらいでギャーギャー騒ぐなよ、女かテメェは。さっさと行くぞ山崎」

 

「おいジミー、さっさと乗れヨ、こっちはもうさっさと用事済ませて帰りたいんだヨ」

 

「行きましょう山崎さん、心配しなくてもその内害虫駆除の人が回収してくれますから、あのデカいゴキブリ」

 

「沖田隊長とチャイナ娘はともかく明日奈ちゃんまで!?」

 

誰を轢いたのかわからないが、珍しく辛辣な態度で沖田や神楽と共にスルーする明日奈にビックリする山崎であったが、轢いてしまった相手をちょっと心配しつつ、彼等に従い車内へと戻り、再び沖田の運転で目的地へと向かうのであった。

 

どれだけ生まれが良くて天才と称されても、理不尽な暴力には勝てなかった哀しき男を路上に放置したまま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後、沖田の少々荒っぽい運転によって明日奈達はある場所へとやってきた。

 

そこは沖田や山崎、真撰組が拠点としている屯所である。

 

屯所前に車が停まり、明日奈がガチャッとドアを開けて外へと出てみると……

 

「全員敬礼ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「「「「明日奈さんこんにちわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

「こ、こんにちわ……相変わらずこの歓迎には慣れないわ……」

 

自分が来るのをずっと待っていたのか、屯所の庭ではいかつい顔した屈強な隊士達が一斉にこちらへと敬礼を取って。

 

綺麗に野太い声を揃えながら力強い挨拶。

 

こうしてここに出向く事は今まで何度もあるのだが、毎回こんな感じなので明日奈はその度に苦笑しながら挨拶を返す。

 

 

すると彼女は手に持っていたバスケットを両手に持って彼等にそれを差し出すように

 

「あのこれ、いつも江戸の治安を護ってくれている皆さんの為に、つまらないものですがクッキー作りましたのでよかったら是非……」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!! 明日奈さんの手作りクッキーだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「どけテメェ等! 俺がいの一番に貰う!!!」

 

「ふざけんなゴラァ!! 俺が貰うんだボケェ!!!」

 

「女の子の手作りクッキィィィィィィィ!!!」

 

「戦争じゃコラァァァァァァァァ!!!」

 

「えぇ!?」

 

突如一斉にこちらに向かって血走った眼で群がって来る隊士達。

 

野郎共しかないむさ苦しい環境で死と隣り合わせの生活を送っている彼等にとって

 

時折屯所に顔を出してくれる明日奈は彼等にとって至高のオアシス

 

そんな彼女から頂き物を貰えるという事はそれすなわち、鬼気迫る争奪戦の始まりである。

 

しかし

 

「アチョォォォォォォォォ!!!!」

「「「「「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

 

大人げなく一人の少女に駆け寄って来た男達を、彼女の友人兼ボディガードである神楽が豪快に蹴りでぶっ飛ばす。

 

その迫力と強さに隊士達がたじろぐと、神楽は拳をポキポキと鳴らしながらやや低いトーンで

 

「貴様等モテない男共がそうやすやすとアスナ姐のクッキーを頂けると思ったら大間違いアル……欲しければこの私に一撃食らわし、己の力でもぎ取って見せるヨロシ……」

 

「てんめぇチャイナ娘! また来やがったのかぁ!」

 

「テメェは呼んでないんだよ! 明日奈さん置いてさっさと消えろ!!」

 

「早く私を倒さないとお前達が求むクッキー……ムグムグ、全て私の胃の中アル」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺達のクッキー食ってるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

挑戦的な物言いをしつつ、勝手にバスケットから明日奈が作ってくれたのであろうクッキーを、手掴みで一気に三個は口の中にほおり込んでいく神楽。

 

これには真撰組隊士達も黙ってはいられない、中股たちで争っている場合じゃない、真の敵はチャイナだと

 

「やろう今度こそぶっ殺してやる!!」

「明日奈さんのクッキーは俺達のモンだぁぁ!!」

「ここにいる全員の気持ちを一つにして、あの化け物をぶっ倒すんだ!」

 

男共が一斉に神楽の挑戦を受けると、どんどんクッキーを食べ続けている神楽の方へと方向転換。

 

そして明日奈はというと、自分が原因を生み出してしまった血生臭いクッキー争奪戦を、「ハハハ……」と頬を引きつらせて渇いた笑い声を上げるしかなかった。

 

「本当にみんな、いつも元気ですね……」

「あ~、まあ女の子が作ってくれたモノなんて、俺達には滅多に食えるもんじゃないからね……」

 

ちょっと引いている明日菜にフォローするかのように山崎が後頭部を掻きながら懐をそっと手で押さえる。

 

実は山崎、ここに来る以前に、車内で彼女からそのクッキーを貰っている、しかしこれは目の前で神楽相手に血を流しながら戦っている同僚には絶対に言えない、間違いなく矛先がこっちに向けられるからだ。

 

そして車を駐車場に停めて来た沖田はというと、堂々と彼女から頂いたクッキーを口に咥えながらけだるそうに

 

「おい、たかがクッキーぐらいでなに騒いでんだテメェ等」

「沖田隊長! ってあぁ!! これ見よがしにクッキー口に咥えてるよこの人!」

「隊長ズルいですよ! なんでアンタだけ普通に貰ってんですか!」

「山崎も車内で貰ってたぜ」

「「「「「山崎ィィィィィィィィィィ!!!!」」」」」

「いやちょ隊長!? ギャァァァァァァァァァァァ!!!」」

 

流れるように沖田が山崎を親指でクイッと指差しながらアッサリとバラしてしまい表情が強張る山崎

 

案の定複数の隊士に一斉に襲われ、屯所内で彼の叫びが木霊するのであった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あのまま放置して大丈夫だったの? なんか暴動みたいになってたけど……」

「どうって事ねぇよ、それより近藤さんに会いに行く方が先だろ」

 

明日奈と沖田は、暴れる隊士と神楽、そして袋叩きにされている山崎をよそに屯所内の廊下を歩いていた。

 

須藤がやられた時は罪悪感はちっとも感じなかったが、彼等に対しては全く別だ、自分のクッキーでまさかあんな事になるとは……

 

「今度差し入れする時はもっと多めに用意しておかないとダメね……」

 

「俺としては差し入れ以前に毎回こうしてウチにやってくるのを止めて欲しいねぇ、モテない男共に群がれて優越感に浸りたいのはわかるが、生憎ここはオタサーの姫が遊びに来る場所じゃねぇからな」

 

「そんなモンに浸ってもいないしオタサーの姫でも無いわよ、それに今回は近藤さんの方に呼ばれてるんだから、直接出向くのは当たり前でしょ」

 

先頭を歩く沖田の嫌味を軽く受け流しながら、明日奈はふと廊下から見える庭の方へと目をやると

 

口元を隠した物凄いアフロ頭の隊士がクッキー争奪戦に参加せずにトコトコと歩いていた。

 

それに気付くと彼女は足を止めて

 

「あ、あの、こんにちわ斎藤さん!」

「……」

 

斎藤と呼ばれた男は彼女の挨拶に振り返ると、僅かに会釈しただけで再びまたどこかへと行ってしまった。

 

先程の隊士達とは打って変わって随分と冷めた対応であった。

 

「やっぱりあの人、私の事嫌ってるのかしらね……子供の時に会った時からずっとあんな感じだし」

 

「そりゃあ終兄さんはアイツ等とは格が違うからな、自分の仕事に関係ないガキなんざ興味ねぇよ」

 

「ガキって私、あなたと年一つしか変わらないんだけど」

 

「精神的な年齢で言えば場数踏んでる俺の方が遥かに上でぃ」

 

馬鹿にした感じでそう言うと沖田は「おら行くぞ」と言って再び歩き出したので、明日奈もまたムカッときながらも黙って後をついて行く。

 

その途中再び、チラリと先程の斎藤という男が行ってしまった方向に目をやると

 

「え!?」

「……」

 

てっきり行ってしまったと思っていた男が、物陰からこっそりと僅かにアフロ頭を出しながらこちらをジッと見ていたのだ。

 

明日奈が驚いて思わず声を上げると、男はサッと隠れて見えなくなってしまう。

 

「なんだったのかしら今の……ひょっとして私を警戒している?」

 

不思議そうに首を傾げつつ、明日奈は気になる様子で悶々としながらも沖田と共に近藤のいる所へ向かう事に

 

三番隊隊長・斎藤終

 

明日奈にとって真撰組隊士の中で最も謎めいた男

 

果たして彼の真意は……

 

 

 

 

 

 

斎藤との接触で少し不安になりつつも、沖田と共に近藤のいる私室の前へとやってきた明日奈。

 

しかしその部屋の前には瓶底眼鏡を掛けた一人の隊士が、背筋をピンと伸ばして立ち塞がるように立っていた。

 

神山五郎、沖田が率いる一番隊の隊士、つまり沖田の部下みたいなモノだ。

 

「お疲れまです沖田隊長!」

 

「おう神山、お前なにサボってそんな所に立ってんだ?」

 

「失礼ですが隊長、自分は隊長と違って業務を怠る事は決してありません! これも大事な仕事です!」

 

「おい、それだと俺がいつもサボってるみてぇじゃねぇか、隊長を侮辱にした罪でお前一カ月間休日無しな」

 

「イエッサー! それが隊長の命であるならば自分はバッチコイっス!」

 

近藤の部屋の前で何やってんだと、早速沖田が神山に口を尖らせるも、どうやら仕事の一環でここに立っているらしい。

 

そして神山は沖田だけでなく明日奈の存在にも気付くとすぐにビシッと敬礼して

 

「そこにおられるのは結城家の明日奈さんじゃないっスか! すみません! 自分、隊長の事しか全く見えてませんでしたから! 隊長以外興味無いしまったく眼中に無かったもんで挨拶遅れました! お疲れ様です!」

 

「神山さんもお疲れ様です、こんな人の部下としてコキ使われて毎日大変ですね」

 

「いいえそんな事ありません! 自分は隊長率いる一番隊にいる事こそが何よりの誇りだと思っているんで! この体を隊長に好き勝手に弄ばれる事こそ、自分が最も輝いてると実感できるのです!」

 

「え……ちょっと隊長さん、あなたまさかこの人と……」

 

「いや違うからね? 違うからそんな目で見ないでくんない? おい神山、テメェのせいで変に誤解されただろうが」

 

敬礼しながら隊長である沖田に対しての強い信頼と忠誠を誓う神山であるが

 

その言葉に少々引っかかるものを感じて、ふと沖田をドン引きした様子で見つめる明日奈

 

これには沖田も手を横に振ってすぐに否定すると、神山の方へと振り返る。

 

「大体なんでテメェが近藤さんの部屋の前にいやがる」

 

「は! ただいま神山! 局長の命によりこの部屋の警護を務めているっス!」

 

「なんで近藤さんの部屋を警護する必要があるんでぃ」

 

「近藤局長曰く、一人部屋の中でゆっくりと瞑想する為に誰も部屋に入れないでくれ、と」

 

「ふーん近藤さんが瞑想、ねぇ……」

 

神山の話によると、近藤は自室で瞑想に集中する為に他の者を部屋に入れない様にしているらしい。

 

だがあの近藤が瞑想などという似合わない真似をするとは到底思えない、沖田は怪しむ様に部屋を見つめる。

 

「ま、俺達には関係ねぇや、俺とコイツは近藤さんにちゃんと呼ばれて来てんだ、そこどけ」

 

「出来ません隊長! 自分はこの時間帯は何人たりとも入れてはいけないと命じられているのです!」

 

「いやお前が命じられてようがいまいがこっちはどうでもいいから、さっさと中へ入れさせろ」

「いくら隊長が相手でもそれは承諾できないっス! どうしても中に入りたいというのであれば……」

 

頑なに近藤の部屋に入れようとしてくれない神山に沖田が少々イラッとしていると

 

神山はおもむろに振り返ってプリッとお尻を突き出して

 

「その代わりに自分の尻穴へ入れる事を許可するっス! ささ! どうぞ遠慮なく!」

「おい、急になにどえらい下ネタ放り込んでんだ、いい加減にしないとマジ刺すよ?」

「刺してくだされ! 隊長となら本望です!」

 

顔を少し赤らめながらぶっ飛んだ要求をしてくる神山に、流石に沖田も引いている様子。

 

だがそれ以上に引いているのは、彼の後ろにまで後退している明日奈。

 

「ええ~……あのー沖田総悟さん……もしかしてあなた、やっぱりこの人とそういう……」

 

「おい頼むから止めろ、マジで変な想像するな、コイツだけだから、コイツだけ特殊なだけだから」

 

「い、いや大丈夫、私そういう趣味に対して別に否定的じゃないから……あなたが隠したいと思っているのであれば、私も何も見なかったと目を瞑っておくことにするわ……」

 

「なに急に俺に対して優しくなってんの? ムカつくんだけど? ちげぇつってんだろいい加減にしろお前等」

 

例え相手が沖田であっても彼の趣味趣向を否定する気にはなれないと、目を逸らしながらちょっとしたフォローを入れてくれる明日奈。

 

珍しく沖田が翻弄される立場に立たされると、彼は明日奈と神山両方に対してジト目で睨み付ける。

 

「おい神山、テメェの仕事なんてどうでもいいからマジで俺の視界から消えろ、そして二度と帰ってくな、さもないとテメェの汚ねぇケツから血が噴き出すぞ」

 

「バッチコイっす! 例え沖田隊長の奴のサイズがデカくても! ありのまま自分は受け入れ……アァーッ!!」

 

神山が言い終える前に、沖田はすかさず腰に差してた刀を思いきり彼の尻にブスリと躊躇なくぶっ刺した。

 

バタリと前から倒れた神山は、お尻に刀が突き刺さったまま動かなくなってしまう。

 

「おら、邪魔者は消えたし近藤さんの部屋へ入るぞ」

「……そうですね、それじゃあお邪魔しましょうか沖田さん」

「いやなんで敬語? ごめんちょっとお願いだから待って、頼むから俺の話を聞いて」

「いえ、だから私は大丈夫です、私はあなたの趣味を全て受け入れます」

「受け入れないで、それが俺への優しさになると思ったら大間違いだから」

 

近藤の部屋へと入る前にまず沖田にはやるべき事があった。

 

なんだか物凄く丁寧な物腰で、自分に対してちょっと優しくなっている明日奈が物凄く気味が悪く

 

そんな彼女に沖田は珍しく自ら謝って誤解を解こうとやや必死に話を始めるのであった。

 

 

 

 

そしてそんな彼等を、廊下の曲がり角で何事かとコッソリと見ているのは

 

「……ったくなにやってんだアイツ等?」

 

私腹の着物姿である真撰組・副長、土方十四郎が怪訝な様子でしばし眺めた後、踵を返して自分の部屋へと戻ろうとすると

 

「うお!」

「……」

 

ふと後ろに振り返ったら、気配も無くいつの間にか自分の背後に立っていた斎藤終とバッチリ顔を合わせる事に

 

どうやら彼も沖田と明日奈の様子を見に来ていたらしい。

 

土方が思わず驚きの声を上げると、斎藤はサッとその場から駆けて行き消えてしまった。

 

「……ったくどいつもこいつも何やってんだ全く」

 

思わずそう呟きながらため息をつき、土方はやれやれと首を横に振りつつ自分の部屋へと入ると

 

 

 

 

 

「さ、気を取り直して溜めていた今期のアニメを消化するでござる」 

 

それと同時に彼の部屋の中でボソリと謎の呟きが聞こえるのであった

 

 

 




終兄さん好きです、出番少ないけど……

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