竿魂   作:カイバーマン。

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余談ですが銀さんは他人の事を基本的に呼び捨てか仇名で呼ぶのが多いですが

唯一、ユウキの担当の主治医の事はさん付けで呼びます。彼なりに大切な人を護ってくれている事に敬意を称しているのかもしれません。

後、レア物のナース系エロDVDをユウキに隠れてこっそり貸してくれるので

そっちの意味でも凄く感謝しているんだと思われます


第六十九層 それは無数の刃を持つ黄金の剣

ここは四十八層のリズベット武具店。

 

銀時は今、この店の中で退屈そうに欠伸をしながら椅子に座って何かが完成するのを待っていた。

 

「ったくあのガキ、いきなり呼び出しておいてそっから一体何時間待たせんだよ……ユウキの奴もいきなりどっか行っちまうし……」

 

「慌てて何処かに行ってしまいましたね、まあ私としては都合が良いので良しとします」

 

「そしてお前はなんでナチュラルにここにいんの? 呼んだ覚え無いんだけど」

 

ここに来る途中でいきなりユウキが消えてしまった事も引っかかるのだが、なにより銀時が顔をしかめる原因は、ここに数十分待たせている事ではなく、いきなり現れたアリスがいつの間にか自分の隣で座っているからである。

 

「第六十層攻略の集合時間はまだ先だった筈だよな、俺、そん時に会おうって言ったよね?」

 

「偶然です、私もここに用事があって来ました、ここの天井にあるシミがやたらと気になっていたんで見に来たんです」

 

「そうか偶然か、でもそんな事する為にわざわざここへ来たんなら逆に怖ぇから本当の事だけ言ってくれ」

 

「わかりました、実は今日一日、お前を後ろからずっと監視していました、女性とよからぬフラグが立ちそうになったらこの手でお前とその女性を真っ赤に染め上げる為に」

 

「ごめん、やっぱ嘘の方で良いわ、真実の方が百倍怖ぇ」

 

凛とした強い眼差しをこちらに向けながら、真顔で闇が深い発言をするアリスに銀時はそっと目を逸らして話を打ち切った。

 

彼女の事は嫌いではないし好意を持たれるのは悪くは無いと思っているが

 

せめてもう少し愛情表現を一般的にしてほしいモノだと思いながら

 

「ていうかおたくさ、聞きたいんだけどリアルだとお前どんな感じなの? もしかして金髪ロリっ子のからくり娘とかじゃないよな?」

 

「……言ってる事がわかりませんが? 私は私です、アリス・シンセシス・サーティこそが本当の私であり、金髪ロリっ子なだというふざけた名称を付けられる者になった覚えはありません」

 

「でもよー、源外のジーさんの所にお前がちっちゃくなったような感じのからくり娘がいたんだが。強引な所とか話聞かねぇ所とか色々似てるし、全く無関係って訳じゃねぇとは俺は睨んでんだけど?」

 

「お前の推測は見当違いだとここでハッキリと明言しておきましょう、これ以上は追及しないで下さい、私自身己の正体がなんなのかまだ思い出せていないのに、勝手に正体はロリっ子にされてはいささか不愉快です」

 

「あーそうかいわかったよ、これ以上はもう聞かねぇ事にすっから」

 

ふと思い出して銀時が尋ねた質問に対し、アリスは表情は変わっていないものの、微妙に眉が吊り上がってる様に銀時には見えた。

 

どうやら自分の正体をちっちゃい女の子なんじゃないかと言われてちょっと不機嫌になったみたいだ。

 

そう察した銀時はすぐに話も止めて、再び大きな欠伸をしながら椅子に腰かけたまま店主が戻って来るのを待つ事にするのだが

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……なんでさっきから無言でジッと銀さんの横顔見つめてくる訳?」

「気にしないで下さい、特にやる事が無い時は、いつもお前を凝視して細かな部分もハッキリと脳内に記憶するのが私のライフワークなのです」

「いや気にするわ! なんだそのライフワーク! お前人が気付ていない所でそんな事してんのかよ!」

 

一点の曇りも無い二つの碧眼でジッとこっちを凝視して来るアリスに、銀時は勘弁してくれと椅子から立ち上がって彼女から距離を置こうとすると……

 

「はーい、長々と待たせてしまったわねお客様……ようやく仕上がったわよ~……」

「あ? なんだやっと戻って来やがったかって顔怖ッ!」

 

店の奥から大事そうにあるモノを両手で抱えながらやって来たのは店主のリズベット。

 

銀時はすぐに振り返ると、そこには年端の女の子であるにも関わらず、人前に出てはいけない姿だった。

 

ここは仮想世界であって当然プレイヤーは本当の身体ではない、にも関わらず今のリズベットは一目見ただけで何日も徹夜して、ようやく締め切り前に投稿完了した燃え尽きた漫画家の様にひどく疲れ切っているのが容易に分かった。

 

「おい大丈夫かお前! 店の奥から現れた時一瞬ゾンビかと思ったぞ! EDOじゃなくてバイオハザードなんじゃねぇのここって考えちまったぞ!」

 

「大丈夫よ、ちょっと休めばすぐに回復するわ……それよりコレを見なさいよ、フヘヘヘ、遂に私が己の知恵と実力を振り絞って造り上げた傑作がここに誕生したわ、ヒヒヒ……」

 

「なんで笑ってんだよ……いやそれちょっと休んだだけじゃ無理だろ、今すぐログアウトして病院行けって……」

 

まともに立つ事さえ難しいのか、その場で左右に体を揺らしながらこちらに力なく笑みを浮かべるリズの姿は、きっと小さな子供が見れば泣き叫ぶであろう。

 

流石に銀時も散々待たされた事に悪態の一つや二つ突いてやろうと思っていたのだが、ここまで疲弊しているのが見てわかるとちょっと不憫に思えて何も言えなかった。

 

「ヤベーよ完全に末期状態だろアレ、なんで薄ら笑み浮かべてんの? なんでさっきからブツブツ呟いてんの?」

 

「あんな状態のままではいっそこちらで楽に葬ってやった方が良いのではないかと私は進言します」

 

「まあいきなり俺達に笑いながら襲い掛かって来たらその手で介錯してやってくれや、とりあえず今は……」

 

突然笑いだしたり呟き始めたり、終いには店の壁にゴンゴンと頭をぶつけ始めるリズベット。

 

このまま人に恥を晒し続ける余地もいっそ早急に始末してあげるべきではと、アリスが眉を顰めるが

 

銀時は冗談交じりに彼女に返答しながら、自分はリズベットの方へ恐る恐る歩み寄る。

 

「とりあえず例のモンが出来たんだろ? ありがたく受け取っておくぜ」

「さあ私が渾身込めて作った力作よ、ありがたく受け取りなさい、グヘヘヘヘヘ……!」

「だからその笑い方止めろ! 夢に出そうでおっかないんだよ!」

 

受け取りに来た銀時に、リズベットはいきなり目を血走らせたまま奇怪な笑い声を上げつつも

 

両手で抱えていたそれを銀時にスッと渡すのであった。

 

それは長い布袋に包まれて中身は見えないが、形的には侍の魂である刀の様だった。

 

銀時は怪訝な表情でそれを片手で受け取るが、すぐに「うお!」とそれを握ったままちょっと驚いて見せる。

 

「なんだコイツ、すげぇ軽いぞ! まるで覆っている布袋の重さしか感じてねぇみたいだ!」

「恐らくEDOに存在する刀系統の中でも最も軽い筈だわ……布袋を取ったらもっと軽く感じるわよ」

 

まるで重さを感じないそれに銀時は片手で軽々と掲げて見せた。大きさ的には一般的な刀と同じぐらいの大きさであるというのに……

 

そしてほんのちょっぴり回復した様子のリズベットが椅子にドカッと座りながら促すと

 

銀時はシュッと縛っていた紐を引っ張って布袋を取って見せた。

 

すると中から現れたのは

 

 

 

 

 

「おお……」

「凄い……」

 

銀時が思わず感嘆した声を上げ、反応が鈍いアリスもまたちょっと目を見開いてボソリと呟く

 

布袋の中から現れたのは黄金の鞘に収められた美しき刀であった。

 

銀時がそれを両手で持ち直して、鞘からゆっくりと抜いてみると

 

これまた直視する事も躊躇してしまう程の綺麗な黄金の刀身が現れたではないか。

 

 

 

 

 

「『神器・金木犀の刀』、ぶっちゃけ名前は適当だけど、私が造り上げたこの世に二つとない最高の神器よ」

「安心しろ、俺は名前なんざ気にしねぇから、しかしこりゃまた……すげぇの造りやがったな」

 

胸を張って答えられる自慢の逸品だとリズベットは金木犀の刀を愛おしそうに見つめる。

 

それもその筈、この武器はそんじゃそこらの鍛冶師では到底作り上げることが出来ない、あの最高レアリティを誇る神器なのだから

 

銀時から金木犀の枝を預かってから死に物狂いで造り上げ、しばしの時を費やしてようやく完成できたのだ。

 

まさかここまで予想以上のモンを造ってくれるとは思っていなかった銀時も、コレはもう素直に褒めざるを得ない。

 

そしてアリスもまた彼が掲げている金木犀の刀をジッと見上げながら、その美しさと底知れぬ性能に目を光らせている。

 

「見栄えも良いですが切れ味も鋭そうですね、武器の重さが軽いという事は威力よりも速度を重視したという事ですか?」

 

「実際剣はそれなりに重い方が扱いやすいんだけどさ、銀さんって色んな重さの武器を手足の様に簡単に扱うことが出来るでしょ? だったら重くするよりうんと軽くして、素早く立ち回れる銀さんの動きに合わせられるように調整したって訳よ」

 

「そこまで彼の事を考えていたとは……もしや一時の感情に身を任せてこの男に恋心を抱いていませんか?」

 

「ハハハ、いや全然」

 

あくまで仕事人として、依頼主に合わせた武器を作ったまでの事で、銀時に対してそんな感情を持ったことなど一切ないとヘラヘラ笑いながら断言するリズベット。

 

彼女の返事を聞いてアリスは腰に差す木刀に伸ばしかけていた右手をそっと元の位置に戻した。

 

「命拾いしましたね」

 

「……なんで? あ、それと補足するけど、それの素材って金木犀の樹から取れた枝なのは当然知ってるでしょ? つまりそれって刀は刀でも正確には木刀なんだよね」

 

「マジでか? 現実世界で持ってる俺の木刀とはえらい違いだな」

 

鋭く光る刀身を見つめながら、これが木製だと言われてもイマイチピンと来ない銀時。

 

「普通の木刀は相手をぶっ叩くモンだけど、こっちは普通の刀と同じくぶった斬るって感じか、こりゃツッコミで使う事は出来ねぇな」

 

「いや普通の木刀でもツッコミに使っちゃダメだから……」

 

「相手をぶった斬っちまったらツッコミとして成立しねぇから、これは対キリト君用のツッコミ武器として活用させてもらうぜ」

 

「いやだからツッコミじゃなくて普通に使ってよ、あとそれだとあの厨二男が不憫すぎるわ」

 

一通り見れて満足したかのように銀時は刀を鞘に戻しながら変な事を言い出すので

 

リズベットがジト目でツッコミながら、店のカウンターから出て来てメインメニューを開き、出掛ける準備を始める。

 

「とりあえず実戦で試してみてよ、一応私は造り手だし性能はキチンと把握してるけど、果たして本番で上手くやれるのかこの目でしっかり確認したいし」

 

「っておい、まさかお前、この後のフロアボス戦についてくるつもりか? もう仕事は完了したんだからいい加減休めよ」

 

「そりゃ眠くて眠くて仕方ないけど、私の仕事はまだ終わってないのよ……初めて造った神器が果たして本当に完成しているのかどうか見届ける、それを終えてこそあなたの依頼を達成できるのよ」

 

「不真面目なのか真面目なのかよくわかんねぇ奴だな本当に……ま、途中でぶっ倒れても俺は知らねぇからな」

 

目蓋を擦りながらも眠る暇など無いとリズベットはあくまで銀時達と同行するつもりだ。

 

今から銀時達が向かうのは六十層のフロアボス。ここを超えてこそ銀時は晴れて上級者の仲間入りを果たすことが出来る。

 

つまりキリトとユウキに追いつく為の重要な戦い、彼等のいる七十五層に辿り着く為の大切な一歩なのだ。

 

「今回ばかりは足手まといに構ってるヒマは無ぇからよ」

 

「なら私の眠気が吹っ飛ぶぐらいの活躍を期待しておくわ、退屈な戦い見せたらその場で寝ちゃうわよ私」

 

「安心しろ、こっちにはテメェが造ってくれたこの刀があんだから、コイツがこの世界でどこまで通用するか……」

 

ニヤリと笑いながら軽口を叩いて来たリズベットに対し銀時は鼻で笑いつつ、手に入れた新たな得物をしっかりと鞘に収めたままの状態で握り締めながら

 

「しかとその目ん玉に焼き付けやがれ」

 

「フ、神器の名に相応しい力を見せてくれる事を期待しておくわ、それと言っておくけどその子にはまだあなたに教えてない能力が隠されてるんだからね?」

 

自信満々と言った感じの銀時に、肩をすくめながらリズベットが答えていると……

 

店のドアがバタン!と勢いよく開かれた。

 

「良かった! まだ店にいたんだ銀時!」

「んだよユウキじゃねぇか、血相変えてどうした?」

 

店の中へと入って来たのはユウキであった。

 

大事そうに何かを小脇に抱えながら慌てた様子で駆け寄って来た彼女に銀時が首を傾げていると、彼の右手に納まっている金色の刀を見つけてユウキは目を丸くした。

 

「ってあれ? もしかして遂に神器が完成したの? それが造ってもらった奴?」

「ああ、金ピカでちと趣味は悪いが、どんな性能かは実戦で確かめる事にするわ」

 

そう言って銀時はすぐに持っている神器を彼女に差し出してよく見せてあげる。

 

ユウキは軽くしゃがんでそれをまじまじと見つめながら「へー」と短く呟くと

 

「本当に金ピカだね、まるで成金が道楽で飾ってる鑑賞用の刀って感じだし、”銀”時とはちょっとイメージが違うけど……凄く綺麗なデザインだしカッコいいからボクは好きだよ」

 

「ありがとう、けど前半の台詞のせいで褒められてる気が全くしないんだけど……」

 

ケロッとした顔でズバズバと痛い所を突いて来るユウキに、頬を引きつらせながらリズベットが返事していると

 

ユウキの前に突き出した刀をスッと自分の手元に戻した銀時が彼女に問いかける。

 

「つうかお前こそそんなに慌ててやって来てどうしたんだよ」

「あ、そうだった、銀時に渡すモノあったんだった」

「は? 俺に渡すモン?」

 

つい神器に見取れてしまってここに来た用事をうっかり忘れてしまっていたユウキは、すぐに小脇に抱えていたモノを両手で持って銀時に差し出す。

 

「銀時の神器が完成するタイミングに渡そうと思ってたんだ、ギリギリ間に合って良かったよ、はいコレ」

「なんだよコレ、もしかして……」

 

ユウキが差し出したモノを受け取ると銀時はバッとそれを開いてみる。

 

するとそれは丁度銀時のサイズに合った着物であった。

 

流水紋の刺繍が流れる雲の様に施された真っ白な着物、袖と裾には空の様な水色が入っている。

 

銀時はそれを見るとすぐに「ああ?」っと軽く声を上げて

 

「現実世界で俺が着ている奴のとクリソツじゃねぇか、どこで手に入れたんだこんなの?」

「完全オーダーメイドで作ってもらったんだよ、アシュレイっていう腕の良い洋服作りのプロがいてさ」

 

その着物は正に銀時が現実世界で常に身に着けているモノと瓜二つであった。

 

一体何処で手に入れたのだとユウキに尋ねると、彼女は待ってましたと言わんばかりに朗らかに笑いながら答え始めた。

 

「ちゃんとインナーやブーツも揃えて作っておいたから」

 

「わかってるじゃねぇか、そうだよ銀さんなら普通この格好……っておいちょっと待て、よく作れたなコレ、触り心地からして現実のモンより上物じゃねぇのコレ?」

 

「まあね、なにせ高級のレア生地素材を持ってこないと注文は受け付けない所だったし」

 

見た目は現実と同じだが、手で軽く撫でてみるとかなり高価なモノを生地に仕立てているのがすぐわかる。

 

どうやら要求する素材がかなり高い服屋で造って貰ったらしいが、それを聞いて突然リズベットが目をギョッとさせて振り返る。

 

「ちょ、ちょっと待って! いきなり会話に入り込んで申し訳ないけど! アンタさっきアシュレイって言ったわよね!? もしかしてそれって、カリスマお針子のアシュレイ!?」

 

「うん、七十層で洋服屋を営んでいるやたらとキャラの濃いアシュレイ」

 

「ウソでしょ……アンタ、あの人に服をオーダーメイドして貰ったの……? しかもワンセット一式って……」

 

アシュレイ、その名をユウキの口から聞いてリズベットは絶句する。

 

ここよりかなり上の階層である七十層で服屋を経営しているその人物は、多くの女性プレイヤーから羨望の眼差しを向けられているカリスマデザイナーだ。

 

その腕から生み出された服は正に特級品としてプレイヤーの中でも一目置かれているが

 

難点があるとするならば目玉が飛び出る程の高い値段と

 

その服を造って貰う為にプレイヤー側が用意しなければいけない希少素材の入手難易度だ。

 

「それ仕立てて貰う為にアンタどんだけ頑張ったのよ! アシュレイって希少レアの素材でないと絶対造らない主義なんでしょ! しかも値段もべらぼうに高いって聞くし!」

 

「いやー本当に大変だったよ、ボクの予想を遥かに上回る金額と素材を要求されて焦った焦った、あちこち行ってモンスターを山ほど倒して素材を集めながらお金を貯め続ける毎日で……おかげで作って貰うのにかなり時間がかかっちゃった」

 

「アスナも全身のコーディネートを頼んだ時は、何度も死ぬ思いしながらようやく作って貰ったらしいわよ……大変だったわねホントに……」

 

 

アシュレイもまたリズベットの様に一切妥協はせず完璧なモノを造り上げる事を日々探求している人物。

 

だからこそプレイヤー側にもそれ相応の対価を払ってもらう必要があるのだ。

 

きっとユウキもその対価を払う為に色んな場所へ出向いてひたすらモンスターを狩り続けてレアドロップするのを待ち、ちまちまとコルを稼ぎ集めていきながらようやく作って貰えたのだろう。

 

しかも作って貰った服は自分のではなく銀時のである、彼女の献身的な努力を垣間見たリズベットは、思わずちょっぴり泣きそうになった。

 

「でも一番大変だったのは、銀時達に気付かれぬ様にソロでコソコソとやらなきゃいけなかった事かな?」

 

「俺達に気付かれない様ソロでコソコソ……あ、まさかお前」

 

彼女の話を聞いてそういえばと銀時は思い出す、ここん所最近、彼女が自分達から離れてソロでプレイし続けていた事を

 

「コイツを俺に渡す為に一人で素材探しやら金の準備やらしてやがったのか……」

 

「ハハハ、神器の素材を探す並に大変だったよ。けど間に合ってよかった、銀時が神器を手に入れた時に渡そうってずっと前から思ってたんだ」

 

「お前……」

 

前々から怪しいとは思っていたがまさかコレの為だったとは……頬杖を掻きながら照れ臭そうにはにかむユウキに、銀時もまた髪を掻き毟りながら黙り込んだ後

 

「ったく、別に秘密にする必要ねぇだろうが、ちゃんと言えば俺だって手ぐらい貸してやったっつうのに……」

 

「サプライズする相手に言ったら台無しじゃん、それにどうしてもボクだけの力でやりたかったんだ」

 

「はぁ~なんだそりゃ? 意味わかんね……まあいいや、とりあえずありがとよ、俺の為に色々と頑張ってくれて、こりゃ随分とでけぇ借りが出来ちまった」

 

「あーいいよ別に気にしないで、銀時のせいで苦労するのはもう慣れてるし」

 

「人が珍しく褒めてやってるのに可愛くねぇ事言いやがって……」

 

ぎこちない感じで礼を言う銀時の反応を見て、ユウキは満足したかのような表情を浮かべて意地の悪い事を言ってのける。

 

それに銀時も口元に軽く笑みを浮かべていると、彼女は更に補足を付ける。

 

「それとボクがプレゼントするこの服はちゃんとした防具だからね、今の恰好のままじゃ六十層以上は難しいから、これで銀時も上級者になる為の準備が整ったって所かな?」

 

「だから俺が六十層のフロアボスに行くまでに渡したかったのか」

 

「ま、神器とアシュレイ手製の防具を装備している時点、それと銀時の持つポテンシャルから見て、既に普通の上級者よりはそこそこ上なんじゃない?」

 

「そこそこかよ」

 

ボロボロのジェダイの恰好とはここでお別れ、ここからは現実世界と全く同じ格好で再出発だ。

 

しかし彼ならきっと問題ないだろうと、ユウキは冗談を言いつつも、いずれ彼が自分と同じ階層に昇りつめると確信している

 

「それじゃあ行こっか銀時、みんなの下へ、新しい力でみんなやフロアボスの度肝を抜いてやろうよ」

「そうだな、さっさとボスをぶっ倒して、全員でパァーッと打ち上げに洒落こもうぜ」

 

ユウキから貰った着物を肩に担ぐと、金木犀の刀を手に持ったまま銀時はユウキと共に歩きだす。

 

武器と防具を新調し、ここから更なる飛躍を遂げる為に……

 

 

 

 

 

しかし

 

「ちょっと待つであります」

「ぐえ!」

「銀時!?」

 

カッコ良く颯爽と店を出ようとした銀時だが、そこへ空気も読まずに彼の後ろ襟を掴んで引き止める人物が

 

ユウキが来てからずっと無表情で、ユウキが銀時にプレゼントしたり互いに笑い合いながら楽し気に喋っているのをやや険しい顔つきで眺めていたアリスである。

 

「なにやら仲良さげに会話していたので入る事もままならない状態でしたが、ここで私からもお前に渡すモノがあります、その着物も確かに素晴らしいのは認めます、ですが私が渡すモノの方がもっと良いモノです」

 

「どうして毎回お前は首を責めて来るんだよ、銀さんの首に恨みでもあんのかお前は……渡すモンってなに?」

 

どうやらユウキが銀時にプレゼントしていたのが少々気になったみたいで、負けじと自分も彼に何かを渡そうと思ったらしい。

 

首を押さえながら銀時が口をへの字にして首を傾げると、彼女はピッとメニューを開いてそこから

 

 

 

大人三人が簡単に入れる位の巨大袋を小さなメニューから無理矢理引っ張りだして

 

思いもよらぬモンを出されて銀時だけでなくユウキとリズベットも唖然としていると、袋の中でジャラジャラと鳴り響かせながら、アリスはそれをヒョイと手に取って結び口を銀時の方へ突き出して

 

 

 

 

「お金です、これで好きなモノをなんでも買いなさい」

「やっぱり金かよ!! いいってもう! その金のせいでユウキに色々と怒られてんだよこっちは!」

「お前に拒否権などありません、つべこべ言わずに受け取るのです」

「アリス、悔しいのはわかるけど流石に現ナマで対抗しようとするのは勘弁してよ……」

「生々しいわね……これが女同士の戦いって奴か……」

 

たんまりとお金が入った巨大袋を無理矢理銀時に押し付けながら真顔で受け取らせようとするアリス。

 

一体そんな大金をどこで手に入れたのだと疑問を浮かべながらも、そんな彼女にユウキは呆れた様な視線を送る。

 

リズベットもまたとにかく金があれば解決出来ると思い込んでいるアリスによる、是が是非でも銀時の主導権を奪おうとする執念を目の当たりにして、頬を引きつらせながらドン引きの表情。

 

結局、銀時はユウキからのプレゼントはありがたく頂いたが、アリスからの生々しいプレゼントはなんとか抵抗して拒否する。

 

その時の揉め事が原因で、彼等が待っている仲間達の下へ集まったのは、約束の時間がとっくに過ぎた頃であった。

 

前途多難な幕開けではあるが、ここからいよいよ

 

坂田銀時の進撃が始まる。

 

 




Qアシュレイってどんな人ですか?

Aマドモーゼル西郷と仲良くなれそうな人です、もしくは一緒に働いてる可能性もあります

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