Fate zero
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衛宮さんちの今日のごはん
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マンガで分かる! Fate/Grand Order
よし、fateシリーズの知識はこれで完璧だな
最強の男・ヒースクリフがほんの本気を見せた瞬間、優勢だと思われていた銀時はあっけなく敗北した。
HP残量は完全にゼロとなり、目の前の現れた画面に敗北という文字が浮かび上がっているのをただぼんやりと見つめていると
「銀時ー!」
やかましいぐらいに大きな声を上げながら、戦いを観戦していたユウキが観客席から飛び降りて急いで駆け寄って来るのが見えた。
「なんかボーっとしてるけど大丈夫!? ひょっとして負けたから悔しいとか思ってるの!? 銀時のクセに!?」
「ボコボコにされて完膚なきまでに叩きのめされた奴に対して言うセリフ?」
サラッと失礼な事を言ってくれるユウキに銀時はジト目で彼女を睨み付けると、彼女が差し伸ばした手を取ってやっと立ち上がった。
そして目の前の対戦画面が消え、HPバーは全快に回復する。
「あの野郎完全に遊んでやがった、まるで俺なんか敵じゃねぇって言いてぇぐらいに」
「そう? ボクが見た感じだと後半はかなり銀時が推してた様に見えたから凄いビックリしたよ? もしかしたら本当に最強に勝っちゃうんじゃないかって」
「あえて俺に攻撃させて来たんだよ、その結果、最後の最後に奴が本気を出したらそっからあっさりとやられちまっただろ?」
周りの観客席からヒースクリフの名だけを上げて称えている声を耳にしながら、ユウキは面白くなさそうな顔をしながら銀時に「ああ」と返事する。
「最後のアレだね、一瞬で銀時の前に現れて、そのまま一突きでKO勝利」
「時が遅くなったように感じた、そんでそん中でアイツだけがまともに動けてた様に見えた、ありゃ一体なんだ?」
「んー観客席にいたボクにはそこまで詳しくわからなかったけど……きっとなんらかのスキルだろうね、それもヒースクリフしか持ってないとっておきのレアスキル」
「流石頂点に立ってるだけあって能力も反則級だぜ、あんなのどう攻略すればいいんだよ、ったく」
ヒースクリフの反則じみたあの動きの正体は、ユウキ曰く彼の所持するレアスキルなのではないかと推測される。
確かに周りの時間を歪める事など、ただの人間では決して踏み込めない領域だ。
ただの人間ならば……
「それにしてもさっきからずっとヒースクリフにだけ歓声上げてるよ観客席の連中、銀時だって凄く頑張ったのにさ」
「勝者は称えられ、敗者は忘れられる、別に当たり前の事だろ? なんでお前が怒るんだよそんな事で」
「敗者だって称えられるべきだよ、君は最強の男の左腕を斬り落とした男だよ? ボクはキチンとその辺評価されるべきだと思う」
「別に俺は周りにどう評価されようが気にしねぇよ」
「ボクは気にするんだよ」
結果的には負けてしまったとはいえ、ユウキが見る限り銀時もかなり強かった筈だ。
仮想世界での動きに慣れていなかった彼は、今ではもう現実とさほど変わらない動きで戦えるぐらい順応している。
そこに至るまで彼なりに頑張った事も付き合いの長いユウキはよく知っている、だからこそ気に食わないのだ。
「別に銀時が有名になって欲しいとか思ってる訳じゃない、けどやっぱり、こうして君が誰にも見向きされていないと……ちょっと悔しいんだよ」
「勝手にしろよ、何度も言うが俺は周りに称賛されようが罵声を浴びせられようがどうでもいいんだよ。だからお前がその事で気にする必要なんかねぇって事だ」
「……」
銀時はただ全力の限りを尽くしてヒースクリフに勝とうとし、そして負けた。
彼にとってはただそれだけの事であり周りの評価が上がろうが下がろうが関係ないのだ。
意地を張ってる訳ではなく本当にそう思っているんであろう銀時に、ユウキが納得いかない様子でブスっとしていると
「安心しろよ、少なくともここにいる三人はちゃんとアンタはアンタなりに健闘したってわかってるから」
「え?」
ふと観客席から銀時に対して声を掛けて来たのでユウキが顔を上げてそちらに振り向くと
「途中からしか観れなかったけど、対人戦では無敗のヒースクリフ相手にあんだけ粘れたら大したもんだろ。ムカつくけど今後アンタとやりあっても俺が絶対に勝てるという保証は無いかもな、あくまで保証だけど」
「うわキリト! いつの間に来てたの!?」
「この人がご自慢の刀を取り出した時から」
観客席の最前列で身を乗り上げてこちらに話しかけてきたのはまさかのキリトであった。
銀時がヒースクリフ相手によく戦えたとぶっきらぼうに称える彼にユウキが驚いていると
彼の両隣から二人の男が身を乗り上げ
「俺達もちゃんと見てたぜユウキ、銀さんの暴れっぷりをよ」
「ったく、次から次へと武器をとっかえひっかえに使いやがって、現実でもこの世界でも無茶な戦いをしやがる」
「あ! クラインとエギルも来てたんだ!」
キリトの両隣から素直に銀時を称えるクラインと、呆れてため息をつくエギルの姿が
この二人がここまで来ていた事自体初めて知ったユウキは驚いて目を見開く。
「二人共キリトと一緒に銀時の戦い観に来てくれてたんだ」
「まあ俺もこのイベントには参加したかったからな、お前さん達を誘おうとしたらもう行っちまったってエギルの旦那に聞いたから一緒に追いかけに来たんだよ」
「そしたらコイツが血盟騎士団の団長様と戦ってると来たもんだ、そんな面白そうなモンを見ねぇ訳にはいかねぇだろ」
「わざわざ応援しに来てやったんだぜ?」
どうやら銀時達を追いかけに二人でここまで足を運んで来たらしい。
むさ苦しい野郎が二人でイベントに参加……それを頭の中でイメージしてしまった銀時は「うげ……」と呟くと
「野郎二人に応援されても全く嬉しくねぇんだよ、お前等に応援されるならされないほうがマシ……」
「良い所まではいったんだけどなー、詰めが甘いんだよ銀さんは」
「コイツは昔からそうなんだよ、ひょっとしたら勝てるんじゃないかって時にいつもボロ出して痛い目見るんだ、パチンコの話だけどな」
「って聞けよお前等!」
こちらのぶっきらぼうな文句にも耳を貸さずに、二人で先程の銀時の戦いっぷりについてダメ出しを始めるクラインとエギル。
銀時がそんな二人に声を荒げて「お前等如きが銀さんにダメ出し出来ると思うなよ!」と叫んでいるのを、ユウキがジッと見ていると
「ユウキが心配しなくても、俺達以外にもこの人の事をちゃんと見ていてくれた観客はいると思うぜ?」
「え?」
さっきから銀時が誰からも評価されない事に不満を抱いていたユウキに、観客席からキリトが励ますように声を掛ける。
「ベテランプレイヤーの俺でも声が出るぐらい良い戦いっぷりだった、わかってる奴はちゃんとこの人の事を評価しているよ、今もヤバいけど後々もっとヤバい存在になるかもって、少なくとも俺はこの人の事をそう感じてる」
「んーそうだよね……銀時の事をちゃんと見てくれてた人もいるよねきっと」
「惚れちゃった人いたりしてな、アハハ」
「ごめん、それは笑えない」
最後に余計な事を言わなければいい励ましになったというのに、ユウキはジト目でやや機嫌悪そうに言葉を返しながら、ふとまだクライン達と喋っている銀時にチラリと目をやる。
(わかる人はわかる……という事は今後もしかしたら、銀時は色んな人に目を付けられるかも……)
こんな大衆の舞台で大立ち回りを演じたのだ、あの銀髪は何者だと注目するプレイヤーも一人や二人いるかもしれない。
それが幸になるのか不幸になるのか
今のユウキにはどちらに転ぶかわからない
(ま、なんとかなるっしょ、銀時だし。ヤバくなったらボクが護ってあげればいい)
「おいユウキ帰るぞ! こうなったらヤケ食いだ! コイツ等にニャルラトホテプ食わせてやる!!」
「うん!」
だからこそ、今はとにかくいつも通り彼の隣にいよう
そうすれば例えどんな厄介事に彼が巻き込まれようと、彼を助けられるのだから
「まさかあの人を倒す者がここにいたとはな……」
「知らなかったのアンタ? さっきの奴が血盟騎士団の団長・ヒースクリフ、私の友達の上司よ」
そして銀時達から離れた場所から、キリトの言う「銀時を見てくれていた者達」がそこに数人ほど立っていた。。
立ち見で見物していた新八が眼鏡をカチッと上げながら、銀時が負けた事に少しショックを受けていると
横から神楽が彼に対して鼻を鳴らす。
「あそこであの天パが勝ったら間違いなく歴史に残る大偉業達成よ、ヒースクリフはこの仮想世界で最も強いと言われているプレイヤーなの。そう簡単に倒せる筈ないでしょ、むしろよくあそこまで粘れたって褒めてやって良いぐらいだわ」
「最強か……確かのあの白マントの男は強い、動きが全く読めなかった」
「アスナや私が組んで戦った時ですら相手にすらされなかったんだから、キザな野郎だけど実力は本物よ」
かつて稽古という形でアスナが神楽と組んでヒースクリフ、2体1の変則マッチをした事がある。
あの時の全く彼に歯が立たずに敗北してしまった自分を思い出し、顔をしかめながら神楽は苦々しく舌打ちをした。
「でもそんな最強のプレイヤーの腕を斬り落とすって事は……負けたとはいえ中々のモンって事よね」
すると彼等と一緒に戦いを見ていたリーファが口を挟み、誰もいなくなったデュエル場を見下ろしながらポツリと呟いた。
「シンさん、やっぱりそう簡単に倒せる相手じゃないわよあの銀時って人。潔く諦めたら?」
「それのどこが潔いいんだ、どうあろうとあの人は俺の目標、戦いもせずに諦めては侍として失格だ」
「それもそうだけど……私はシンさんがあの人に固執し過ぎるのは危ないと思う……」
「……らしくないぞリーファ、普段のお前ならそんな弱音は絶対に吐かない筈だが?」
「なんというかあの人の戦いを見るのはコレで2度目だけど、シンさんの時と違ってあのヒースクリフって人と戦ってる時はなんかこう……」
自分以上に負けん気が強い性格のリーファがおかしな事を言い出したので、どうしたのかと尋ねる新八。
するとリーファは歯切れ悪そうに先程の戦いを思い出し
「剣道の試合で私がやる様な礼儀作法に乗っ取った伝統の戦い方とはまるで違う、生死を賭けた戦場であらゆる手段を用いて絶対に相手を殺そうとするみたいな、強い執念みたいなのをあの人から感じたのよ……だからちょっとあの人が怖く見えた……」
「私も凄いと思いましたけどやっぱり怖かったです……」
日々剣術道場で鍛錬を行い、正式な試合で何度も優勝している桐ケ谷直葉だからこそ、先程の銀時の動きは極めて異質に見えたみたいだ。
そしてそれに賛同するかのように共にいたシリカも怯えた様子で頷く。
「相手のヒースクリフさんって人も、最後の一撃を浴びせる時に似たような雰囲気になりましたし、あの二人はまるで試合というより殺し合いをしている様に見えたんです……」
「殺し合い、か……」
新八の視点からすればあれは正に男と男の真剣勝負、という風に見えたのだが、リーファやシリカにはそうは見えなかったらしい。
この辺が憧れる者と警戒する者の解釈の違いなのだろうか……
「シリカ、アンタにはちょっと刺激が強過ぎたかもしれないわね、ヒースクリフの腕が飛ばされた時は気絶しそうになってたでしょアンタ?」
「はいぃ、ピナも私の肩の上でひっくり返って落ちちゃいました……」
「クエェ……」
未だちょっと怯えた様子のシリカに神楽が珍しく優しく声を掛けると、彼女は小さき頷き、肩の上に乗っかっている幼竜のピナも震えながら鳴き声を小さく上げる。
AIでも恐怖とか感じるのだろうか? そんな余計な事をふと考えながら、新八が彼女達の方へと歩み寄る。
「確かに女子供に見せるべきモノでは無かったかも知れん、だが覚えとけシリカ。この世界ではああいった光景はなんら珍しくない、むしろ更に残酷な光景を目の当たりにする事だってあるだろう。汚いモノをこれ以上見たくなかったら、とっとと自分のアカウントを消去してこの世界から立ち去るがいい」
「ちょ、シンさん流石にそれは言い過ぎ……」
それが見たくないなら、これ以上怖い思いをしたくないなら止めておくのが賢明だと新八が冷たく言い放った。
そこへリーファが口を挟もうとするが、それより先にシリカの方がブンブンと勢いよく首を横に振り
「そ、それだけはイヤです! 例え残酷な事が起きようと私はこの世界がとっても好きです! ピナにも会えたしリーファさんや神楽さんにも会えました! そ、それになによりシンさんにも会えましたし……」
「?」
最後の言葉は顔を赤らめてか細い声で呟いたので新八には上手く聞き取れなかった。
ただ一人、リーファだけは「えぇ……」と頬を引きつらせて困惑した表情を浮かべている。
「だから私はこの世界に残ります、シンさんがあの銀髪の怖い人の背中を追いかけるなら! 私だってシンさんにしがみ付いてやります!」
「フ、だったら精々俺にしがみ付いてる事だな、言っておくが俺は止まらんぞ、例えこの先どんな汚いモノを見ようといずれ必ずあの人と友のいる下へ……」
ここん所散々な目に遭った事ですっかり根性見せる様になったシリカに、心の中で「成長したなシリカちゃん……」と思いながらも、表面上はドライ気味に対応する新八。
するとそこへ
「新八くぅぅぅぅぅぅぅん!!!」
「え、なんですか? ってアレ? ゴ、ゴリラ!?」
「げぇ! あのゴリラ!」
背後からやかましい叫び声とドスドスと足音が聞こえて来たと思って振り返ると
そこには人間とは程遠い形をした毛深き獣の姿が
すぐに振り向いたシリカが素っ頓狂な声を上げると、新八も驚き、リーファも舌打ちする。
「やっぱり戻って来たわね、ゴリラ捕獲のプロのアマゾネス部隊に通報しておいたのに……!」
「二人共~こんな所にいたのか~、全く俺の事をほったらかしにして酷いな~全く」
「シンさん! このゴリラ喋るんですけど!? きゃ!」
「見るんじゃない! いずれ汚いモノを見るとは言ったが! このゴリラだけは見るんじゃない!」
新八とリーファに対してフレンドリーに接して歩み寄ってきたこのゴリラの正体は近藤勲。お妙のストーカー兼真撰組の局長だ。
デカい図体でノシノシとやってきた近藤にシリカが驚くのも束の間、彼女の両目を急いで手で塞ぐ新八。
幼い彼女には目の毒だ。
「いや~参った参った、さっき偶然いつも俺を捕まえようとする集団に見つかっちゃってさ、ずっと追いかけ回されてたんだよ~」
「偶然じゃないわよ、私が通報したからね」
「聞いてくれよ、俺の事を追いかけて来た部隊のリーダー、よく見るとすげぇゴリラみたいで思わず笑っちゃったよプププ!」
「モノホンゴリラになってるアンタだけには言われたくねぇよ!」
分厚い手を口に当てて笑い声を漏らす近藤ゴリラに新八がついリアルの時のクセでツッコミをお見舞いしてる中
その光景をちょっと距離を置いて離れてみていた神楽ははぁ~とため息をつく。
「ヤバい、このゴリラ絶対どっかで見た事あるネ……アスナ姐に報告は……必要ないアルな」
ここは見なかった事にしようと、ゴリラと揉めている新八とリーファをほっといて、プイッと目を逸らす神楽。
アスナに、大切な友人である彼女にこんな汚いモノを見せたくないという粋な心遣いであった。
一方その頃、神楽の心遣いを知らずに
血盟騎士団の副団長であるアスナは既に闘技場の出口前に待機していた。
「お疲れ様です”局長”」
「アスナ君か、もしや先程の私の戦いを見ていたのかな?」
「ええ、途中からでしたけど、やはりあの男と言えど局長には敵いませんでしたね」
対戦を終えた選手だけが使える隠し通路からひっそりと現れたヒースクリフに、アスナはペコリと軽く頭を下げる。銀時に斬り落とされた腕はもうすっかり元通りになっていた。
するとヒースクリフは「ハハハ」と力なく苦笑すると
「アスナ君、いい加減私の事を局長と呼ぶのは勘弁して欲しいんだが? 何度も言うが私は団長で、君は副団長だ」
「いえ、私の中で組織のトップと言えば局長なんです、そして次点が副長。こればっかりは局長が相手であろうと譲りません」
「君は物分かりが良い時と物凄く頑固な時があるな……優秀なのは認めるんだが少々ズレているというか、他人の話に耳を貸さないというか……」
なんでも彼女はリアルで尊敬する人物の内の二人は局長と呼ばれ、その局長よりも強く信頼している者は副長なんだとか。
そんな彼等に敬意を表して局長や副長、そして血盟組だとか言い出すもんだから、そんな相変わらずの彼女にヒースクリフはやれやれと首を横に振っていると
「最強のプレイヤーと呼ばれている割には結構苦戦してたみたいじゃねぇですかぃ、団長殿」
「おや、まさか君が出迎えに来てくれるとはな」
そこへフラりと見知った男が現れたのでヒースクリフは意外そうな顔を浮かべる。
神楽と同じく血盟騎士団の正規メンバーではないが、よく遊びに来る風来坊の沖田だ。
それに気付いてアスナもすぐに彼の方へと振り返り目を見開く。
「あなたどうしてここに……ってリズまでいるじゃない!」
「やっほーアスナ、ここで出会うなんて奇遇ね」
「それに……誰その際どい格好をした女の子? 変質者? それともあなたが無理矢理その子に着せてるの?」
「生憎変質者でもないし無理矢理着せられてる訳でもないわよ……全くこっちの世界でも失礼な人ね……」
そこにいたのは沖田だけでなく親友のリズベットや、初めて見るシノンの姿もあった。
会って早々変質者呼ばわりしてきたアスナにシノンがジロリと軽く睨み付けていると、沖田の方がヒースクリフに気さくに話しかける。
「早速だが団長殿にこの二人がちょいと尋ねたい事があるんだとよ、アンタの事だからどうせこの後も暇なんだし聞いてやってくれねぇかい?」
「あなたねぇ、いい加減局長に対してそのナメた態度どうにかならないのかしら? もしかしてまだ局長に負けた事を根に持ってるの?」
「構わないよ、確かにこの後特にやる事も無いしね」
「局長!」
沖田の言い方にアスナがすぐに噛みつこうとするも、それをヒースクリフは全く気にしていない様子で彼女を制止する。
「それにこんなにも可愛らしいお嬢さん方がやって来たというのに、無下に断るのは男としてどうかと思うしね」
「ひゅー、アスナの上司って聞いてたからお堅いイメージがあったけど、案外わかってるじゃないのアンタ」
「リズまで……」
中々気の利いた事を言ってくれると口笛吹きながら茶化すリズベット。
この二人は本当に相手を敬う気持ちを一から勉強した方が良いと、アスナがジロリと視線をぶつけていると
そこへスッとリズベットではなくシノンの方が軽く手を挙げ
「じゃあ私から聞いていい?」
「どうぞ、おや君は……フフフ、一体何が聞きたいのかな、”腕の良さそうな狙撃手さん”?」
「……」
シノンは今、メイン武器であるスナイパーライフルはを携帯していない、しかしヒースクリフは狙撃手と彼女の事を呼んだ。
悪戯っぽく微笑む彼を見て、自分の正体を気付かれているなと思いつつ、後頭部を掻きながらシノンは気にせず口を開く。
「あなたと並ぶ”三強”の一人、GGO型最強・ADAM・零についての情報が欲しいの、あなたはかつてあのプレイヤーと戦ったって話は前に聞いた事あるわ、その時どんな風に戦い、ADAM・零はどう仕掛けて来たのか、なるべく詳しく知りたいんだけど?」
「ああすまない、それだけは口が裂けても絶対に答えられない」
「ええ!?」
いずれはこの手で倒そうとしているGGO最強のプレイヤー・ADAM・零の情報を求めて来たシノンに対し、ヒースクリフはまさかの笑いながら即無理だと回答。
唖然とするシノンに「すまないね」と彼は首を横に振り
「ADAM・零は私にとっては中々の好感の持てるプレイヤーだからね、そう簡単に情報を漏らしたくないんだ、私以外の誰かに倒されてしまうのは癪だからね」
「最強のクセにケチね……」
「だが君はわざわざそれを聞く為に私に会いに来たのだし、ほんの少しだけ話してあげてもいいだろう」
ヒースクリフにとってはADAM・零が自分以外のプレイヤーに負けるのはあまり嬉しくないみたいだ。
意外にも子供っぽい理由だと思いつつも、理に適ってるからと納得するシノン。
しかしここまで来てくれたのだからと、彼は腕を組みながら彼女にちょびっとだけ情報を与えてあげる事にした。
「”彼”にとってこの世界は仮想ではない、いわば正真正銘存在する世界だと信じている、故に彼はこの世界に、もしかしたら私以上に”強く執着”している部分がある」
「……」
「もしかしたら彼にとって”現実こそが仮想”で、こちら側が現実なのかもしれない、それが何故なのかは私の口からは言えないが、いずれ君が”彼の本当の姿”を見た時に、自ずとわかるかもしれないね」
「そう……ありがとう。私が望む情報では無かったけど、今後参考にさせてもらうわ」
「ハハハ、少しと言ったのについ話過ぎてしまったかな?」
シノンがわかった様子で頷くが、彼の言ってる事を全く理解出来なかったリズベットは口をへの字にして首を傾げ
「今のでわかったのアンタ? 私にはサッパリだったんだけど」
「まあ戦いの中で優位になる情報では無かったわ、ADAM・零がどんな人物なのかほんの少し理解出来ただけね」
「さっきの話で? う~ん、やっぱり私にはわからないわ……」
先程の話の中で隠された意味や答えが含まれていたのだろうか……やはりどう考えてもリズベットにはちんぷんかんぷんだったので、気にせず自分もヒースクリフに話しかけた。
「まあいいわ、それより私も尋ねたいんだけど良いかしら?」
「どうぞ、確か君はアスナ君のご友人だったかな? そんな君が私に聞きたい事とは?」
「まあちょっとした事ね、さっきの戦いの話なんだけど」
「ほう」
リズベットが聞きたかったことは、先程の銀時の戦いの中での事らしい。
それを聞いてついさっき前の戦いを思い出し、ついヒースクリフがニヤリと笑っているとリズベットは気にせずに
「ぶっちゃけた話、あの時の対戦相手に足りなかった部分ってなんだと思う? もしこれがあったら負けてたかもしれない、とかちょっと教えて欲しいんだけど?」
「君も中々答えにくい事を尋ねて来るんだね、もしかしてその足りないモノを彼に与えるとか考えてるのかな?」
「まあまあ気にせずにパパッと答えちゃってよ、ちょっと参考がてらに聞くだけだから」
なんの参考になるのだとアスナが怪訝な様子で見つめてくる中、ヒースクリフの方は「そうか」とあっさりとした感じの反応をすると、腕を組みながら銀時との他戦いを強く思い出し
「脇差し、二つ刃、長太刀……三つの武器を上手く使いこなすのは確かに見事だった、だが私は、肝心な部分が抜けているように感じたね、逆に尋ねるがなんだと思う?」
「素早く振れる小刀、相手の得物を受けきる両刃剣、とっておきの切り札……あ」
銀時が現在所持している武器の特徴を思い出し呟きながら、ふとリズベットは気付いた様子で手をポンと叩いた。
「メインで扱える万能性の高い得物が無いじゃないの、戦いにおいて一番大切なモノじゃない」
「そういう事だ、意外性は確かに必要かもしれないがそれだけではダメだ、戦いにおいてどんな状況にも合わせて常に持ち出せる武器がないと、いざという時に困るだろうしね」
「ていうかそんな大切なモノが欠けてる中であそこまで動けるなんて……やっぱあの人おかしいわね」
銀時に足りないモノ、それは相手の意表を突くだけの武器ではなく、常に腰に差すようなシンプルな武器だ。
ここに至るまでどうしてそんな大切なモノを所持していなかったのか……
「なるほどなるほど、どうやら私が彼に造るべきモノがなんなのか見えて来たわ……」
「そうだな、彼の太刀筋を見た限りだと……刀とかの方がしっくり来るだろうね」
「刀、か……難しいわね、でも一度造ってみたいと思ってたのよね、超一流の鍛冶師と名乗る身としてはやっぱり避けては通れない武器だし」
「もし彼がさっき、ごく一般的な長さで上質な素材を利用した良い刀を持っていたら、もしかしたら私もそう上手く勝てたかどうかわからないな」
「ほうほう……」
わざとらしくリズベットに助言するヒースクリフの話を素直に聞いてうんうんと頷くと、彼女は「へっへっへ」と下衆な笑い声をあげると
「かかったわね、実は私は今あの人に物凄く強力な武器を造ってる真っ最中だったのよ……アンタが上手く私に乗っかって色々と話してくれたおかげで、あの人に必要なモノがなんなのかよくわかったわ……」
「おお、なんという事だ、私とした事がこんな可憐な少女についうっかり乗せられてしまうとは」
「自分の愚かさを嘆いてももう遅いわ! さあ今からすぐに制作開始よ!」
棒読み気味に台詞を言いながら口元に小さく笑みを浮かべているヒースクリフにしてやったりの表情で指を突き付けて嘲笑うと、早速店に戻って製作開始だとリズベットはこちらに背を向けて走り出す。
「私の造る最強の神器によって、最強の座を奪われるという危機の到来を震えて待つがいい!!」
「局長、私の友人に色々と付き合ってくれてありがとうございます……」
「ハッハッハ、構わないよ。彼女がどんなモノを彼に渡してくれるのか、”楽しみに”待つ事にするよ」
何処へと走り去っていく彼女の後ろ姿を見つめながらアスナがボソッとヒースクリフに礼を言うと、彼は軽く笑い飛ばして気にしていない様子。
むしろ本当にリズベットが銀時にとっておきの武器を作ってくれるのを期待しているみたいだ。
するとそんな彼をジーッと眺めていた沖田は、アゴに手を当てながら目を細め
「なぁ団長殿、俺もちょいとアンタに聞きてぇ事があるんですが?」
「なにかな、沖田君」
「旦那とやり合って、アンタはあの人を見てどう感じたのか教えて欲しいんでさぁ」
最後に尋ねて来た沖田に対してヒースクリフは「ふむ」と短く呟いてしばし間を置くと、沖田の方が再び口を開き
「さっきアンタはリズの野郎にわざわざ旦那に相性の良い武器を教えてやっていた。それはつまり、旦那にもっと強くなって欲しいと願ったからですかぃ?」
「ああその通りだ、君が睨んでいる通り、どうやら私は彼の事を気にいってるみたいだ、どうせなら付きっきりでその成長っぷりを観察したいぐらいに、負けたら血盟騎士団に入ってもらうという約束でもしておくべきだった」
「え、えぇ!? あんな人を血盟組に入れたいって、正気ですか局長!?」
「……」
あっさりとぶっちゃけ始めたヒースクリフにアスナはすぐに動揺の色を浮かべて慌てて問い詰める。
そしてそんな彼の発言に対し、シノンもまたそっと目を逸らして
(人を惹きつける才能、やっぱり銀さんは持ってるわね……)
常に中心に立ち、あらゆる人々を引き寄せるという銀時が持つ不思議な魅力。
このヒースクリフでさえ興味を持たせるとは、やはり銀時という男は普通ではないと、静かにそう確信する彼女であった。
「あの人はあの黒夜叉の仲間なんです! そんな人を私達の血盟組に入れるなんて絶対に反対です!」
「落ち着き給えアスナ君、血盟騎士団に入ってもらう云々についてはただの冗談さ」
あんな男が自分のギルドに入って来たら不祥事ばかり起こしてこっちは胃がもたない
彼を激しく拒絶してみせるアスナにヒースクリフは軽く笑い飛ばすも
「しかし彼が今後更に強くなって、再び私の前に現れる事を願っているのは、紛れもなく本当だ」
「局長……」
彼の言葉にアスナは若干の不安を覚える。
まさか最強の男がここまであの銀時という男に興味を持つなんて……
「彼にはもっと強くなってもらって、いずれはこの私を本気で脅かす存在として成長して欲しいんだよ」
「そんな、局長があんな男に最強の座を脅かされるなんてある訳……」
「そうでなくちゃ困る、私の望みはずっと前から」
「この世界で敗北を知る事なのだから」
彼の言葉にアスナはどういう事だと困惑し沖田もまた無言で見つめるだけ
しかし彼はもうそこから語る事も無く
「では用も済んだし帰るとするか」
とだけ言い残して去って行く。
EDOで頂に君臨する最強のプレイヤー・ヒースクリフ
果たして彼が望む敗北の機会は、いつになるのだろうか……
負けたからこそ得たものがあり、勝ったからこそ得る事が出来ない。
銀時VSヒースクリフはこれにて終了です。
次回は久しぶりの現実サイド、なんと銀さんがまさかのロリをお持ち帰り……?
蔑みの視線を送る和人、ユウキはなぜか無言でしかめっ面。
ヒースクリフよりも恐ろしいロリを相手に、銀さんはどうするのか……