竿魂   作:カイバーマン。

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第六十二層 男は一人、中心点に立つ

数あるイベントの中で最も大規模な「異星交流会」

 

多くの天人達が得そうにふんぞり返って歩いている中で

 

狙撃銃を肩に掛けた彼女もまた一人歩いていた。

 

「今回は随分と警備隊が多いみたいね……」

 

ラーメン屋で働く朝田詩乃の時とは全く違う雰囲気を放つもう一人の彼女・シノン

 

天人達に紛れて運営公式治安保護ギルドの血盟騎士団が、先程からチラホラと視界に入るのが気になっているみたいだ。

 

「これじゃあいつもみたいに戦争に発展するのは難しそうだわ久しぶりに天人の額をぶち抜きたかったのに」

 

そんな物騒な事を言いながらシノンは一人ため息をついていると、後方からドカドカと勢いよく地面を踏みつけながら駆け抜ける足音が聞こえて来た。

 

「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!! 俺はゴリラじゃないんだァァァァァァァ!!」

「うわ!」

 

悲鳴のような雄叫びと共に背後から迫る気配にシノンは慌てて横にのけ反った。

 

すると巨大なナニかが自分の横を泣きながら何かに逃げる様に走り抜ける。

 

それはまさしく毛深い体毛に覆われた……純度100%のゴリラ

 

「な、なんでゴリラがこんな所にいるのよ……ひょっとしてそういう種族の天人?」

「追えー! 絶対逃がすなー!」

「?」

 

そういえば地球のゴリラと酷似した天人がいると聞いた事はあるが、まさかさっきなのがそうなのであろうかとシノンが首を傾げていると、今度はそのゴリラを追う様に数人の屈強な体付きをした女性だけのGGO型のチームらしき人達が横を通り過ぎていく。

 

「チームアマゾネスの威信と我々を統率するビッグボスの名に賭けて! 脱走したゴリラを今度こそ捕まえるぞ!!」

「「「「「イエッサーボス!!」」」」」

 

先頭を走る一際強そうな気迫を持つムキムキの女隊長に背後の隊員が一斉に声を上げる。

 

軍隊じみたその女だらけのチームを前にどっかで見たような……とシノンが口をポカンと開けて眺めているとあっという間にゴリラと共に彼女達も他のプレイヤーのひとごみに紛れて消えてしまった。

 

「なんだったの今の……ひょっとして店の仕事が忙し過ぎて幻覚でも見える様になったのかしら私……」

 

「ったく、相変わらず物騒な連中ねチームアマゾネス……ゴリラなんてほっときなさいよ」

 

「え?」

 

今日は静かに過ごした方が良いかもしれないシノンが頭を抱えていると、不意に横からまた別の声

 

目を向けるとそこには自分と同年代っぽいピンク頭の女の子

 

銀時とキリトが神器の手配をしている自称マエストロ級凄腕鍛冶師・リズベットだ。

 

「アンタ大丈夫? さっきアイツ等とぶつかってなかった?」

「い、いや大丈夫、すれ違いざまにギリギリ避けたから……」

「そう、ならいいわ。ところでここら辺で銀髪天然パーマの死んだ目をした男見なかった?」

「え?」

 

こちらに振り返るとすぐに続けざまに尋ねて来るリズベットにシノンはたじろぎつつも、彼女の口から出て来たやたらと特徴的な人物をすぐに頭の中に浮かべた。

 

「それってもしかして……銀さんの事?」

「へ? ひょっとしてあの人の知り合い?」

「まあそんな所、かな……あの人に何か用でもあるの?」

「用というよりお願いかな? 神器完成するのもうちょっと掛かるからしばらく待ってくださいって、こういうのはメール越しじゃなくて直接詫び入れないとあの人うるさいのよ……」

「じ、神器って!?」

「あ、ヤベ、うっかり他人に漏らしちゃった」

 

誰もが欲しがる神器を造っている事など本来であば他言無用であるというのに、ついうっかりシノンにバラしてしまうリズベット。

 

前々から銀時が神器の素材を持っているとは聞いていたシノンは一瞬驚くも、すぐに彼女の方へ顔を近づけて小声で話しかける。

 

「ひょっとしてあなた、あの人に神器の作製を依頼された鍛冶師とか?」

 

「ま、まあそんな所かな……あ、この事はまだ他のプレイヤーに漏らさないでね? 神器が完成した暁には私自身で公に発表したいからさ」

 

「……職人って普通周りに隠すモノでしょ、他人に技術を盗まれたくないから、なのに自分で発表する気なの?」

 

「いやいや隠したら有名になってチヤホヤされないでしょーが、私は名声と地位が欲しい現実的な職人なのよ」

 

頑固気質な職人が多い世界にも関わらず彼女は純粋に周りから賞賛されたい鍛冶師の様だ。

 

確かに周りの人に認められたいという気持ちは痛いほどわかるが……

 

有名になりたいからって気持ちで果たして神器を造れるのだろうか?

 

胸を張りながら自信満々の様子のリズベットにシノンがジト目を向けていると、そこへ不意にフラッと何者かが歩み寄って来た。

 

「おい、お前こんな所でなに遊んでやがんだ」

「げ……ドS王子、アンタいたの?」

「怠けてねぇでさっさと旦那の得物を造りやがれ」

「うっさいわね! 何日も引きこもってたら職人だって外に出たい時があるのよ!」

 

甘いマスクをした長い髪を一つに結った和風の男。

 

頬に×の字の傷があったりどこかの流浪人を彷彿とさせる印象にシノンが怪訝な様子を見せている中で、何やら仕事を抜け出してここへとやって来たリズベットを咎めているみたいだ。

 

「で? このケツ出してる露出狂の小娘は何処のどいつでぃ?」

「誰が露出狂よ!」

「さっき偶然会ったのよ、なんかあの天パと私達同様縁があるみたいでさ」

「旦那の? へー」

 

血盟騎士団の副団長アスナのお傍に仕える居候の身、ソウゴこと沖田

 

あくまでそういう役職なのだが、実際は彼女をほったらかしにして自由気ままに歩き回る事もしばしば

 

現に今もこうして彼女と別行動をとり、偶然見つけたリズベットとその隣にいたシノンと出くわし怪しむ様に見つめている真っ最中である。

 

「拙者はソウゴでござる、オメェの名前は?」

「私はシノンよ……ていうかなんで拙者口調になってんの? ロールするならちゃんとしなさいよ……」

「あー気にしないで、よろしくシノン、私はリズベットよ」

「どうも、やっぱり銀さんと縁があるだけあってあなた達も変わってるわね……」

「それ自分自身にも当てはまる事よ、シノンさん」

 

互いに名を名乗りながら銀時と縁がある人物は何かと一癖も二癖もある変わり者ばかりというのを改めてシノンが認識していると、ふと沖田が「ん?」と街中の方へと振り返る。

 

さっきから若い男女がギャーギャーと揉めているような声が聞こえて来たのである。

 

「なんだかあっちが騒がしいな、旦那達がここに来ているってのは聞いてはいるが、もしかして向こうか?」

 

「いや別に騒がしいからっているとは限らないでしょ」

 

「甘ぇな、あの台風みたいなお人が通ればたちまち周りでトラブルが起こる。騒ぎある所に旦那ありってな」

 

「要するにただのトラブルメーカーってだけでしょ、はぁ~まあいいわ、特に目星も無いし行ってみましょう」

 

どうやら向こうで起こっている騒ぎ事に自ら首を突っ込もうとしている沖田。

 

しかし本当に銀時がいれば好都合だと、リズベットもため息をつきながら彼と一緒に行くことを決める。

 

「アンタも行く? 暇ならとりあえず見に行ってみましょうよ」

「私も? んーそうね、久しぶりにこっちの世界で銀さん達と会うのは久しぶりだし」

 

振り向き様にリズベットに促されて偶然彼女達と出くわしただけのシノンもついて行く事にした。

 

久しぶりに銀時が何処まで成長したか見てみたい気もあったし

 

「それに銀さんの成長っぷりをあの人に伝えれば、いい起爆剤になるかもしれないし……」

 

脳裏に映るのは銀時と同年代の黒髪ロンゲの堅物そうな男

 

あの男のいい刺激になる情報を得られればと、シノンは前を歩く沖田とリズベットと共にやや駆け足気味に歩を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「テンメェェェェ!!! ウチの妹分になに唾付けようとしてんだゴラァァァ!!!!」

 

「誤解だぁぁぁぁぁぁぁ!!! 俺は別になにもやましい気持ちなんてこれっぽっちも抱いていない!!」

 

「ちょっとちょっと! お姉さん話を聞いて!!」

 

「違うんですグラさん! シンさんとはただ普通に会話していただけなんです~!!」

 

シノン達が向かった噴水広場では、多くの野次馬達に囲まれながら四人の男女が騒いでいた。

 

銀時の姿はない代わりに、胸倉を掴まれて宙ぶらりんになっている新八と、彼の胸倉を掴み上げて激昂している様子の神楽。

 

そしてその周りではリーファと幼竜を操る小さなビーストテイマー、シリカの姿があった。

 

「銀さんはいないみたいね……だけど何かしらアレ、見た感じチャイナ風の女の人があの眼鏡の人に絡んでるみたいだけど」

 

「チッ、旦那じゃなかったか、なにしてやがんでぃあのチャイナ娘」

 

「あ、前に私が仕事依頼した眼鏡とリーファちゃんじゃない、どうして神楽ちゃんと揉めてるの?」

 

「あれ? 二人共ひょっとしてあの人達と知り合い?」

 

「ちっこいドラゴンを肩に乗せた女の子は知らないけど、それ以外の三人とは何度か顔合わせた事あるわ」

 

シノンはその四人組については全く知らないが沖田とリズベットは心当たりがあるらしい。

 

そして野次馬達を押しのけてリズベットを先頭に沖田とシノンも続いて彼女達の方へと歩み寄る。

 

「こんちわ、神楽ちゃん何してるの? こっちで無闇に暴れちゃダメってアスナに言われてるでしょ?」

 

「ああリズ、珍しいわねアンタが外出してるなんて。でも悪いけど私は忙しいの、ウチの娘にナンパしようと近づいて来たこの男を抹殺しないと」

 

「だから誤解だつってんだろうがァァァァァァァ!! なんだこのチャイナ女! どこの回しモンだ! しつけがなってないぞ! 責任者を呼べ責任者!!」

 

胸倉を掴んだまま平然とリズベットと会話する神楽、それに対して新八は宙に浮いたまま誤解を解こうと必死に抵抗する。

 

「おいそこの前に依頼を寄越してきた胡散臭い鍛冶師! 彼女と知り合いならうまく説得してくれ!」

 

「大丈夫よ神楽ちゃん、この眼鏡はナンパなんてやれる度胸は無いから、だって童貞だもの」

 

「どどどどど童貞ちゃうわ!!」

 

「ウソおっしゃい、仮想世界であろうとそのいかにも童貞臭い気配がプンプンすんのよ」

 

「童貞臭い気配ってなんだよ! 仮初の身体になってなお滲み出るってどんだけしつこい臭いなの!?」

 

一目見た時から新八の事を童貞だと見抜いていたリズベット

 

ぶっちゃけ気配とかではなく女の子と会話する時に何処かよそよそしかったのでなんとなく察していたのだが

 

胸倉を掴まれたまま激しく動揺する新八の様子を見てそれがすぐに事実だと察した。

 

「こんな童貞眼鏡にナンパなんて出来っこないって」

 

「それもそうね、悪かったわね童貞眼鏡」

 

「それで誤解が解けるのもすっげぇムカつくんだけど! ていうか変なあだ名を付けるな! 俺にはシンというちゃんとした名前があるんだぞチャイナ女ァ!」

 

「私にだってグラって名前があんのよ童貞」

 

互いにアバター名で名乗りながら神楽は掴んでいた胸倉をパッと放して新八を地面に落とす。

 

ようやく誤解が解けるとそこへリーファとシリカも慌てて駆け寄る。

 

「いやぁシンさんがいきなり美人なお姉さんに絡まれた時はビックリしたけど。まさかそのお姉さんがシリカちゃんの知り合いだったなんて」

 

「はい、この前ピナを悪い天人達に奪われそうになった時に助けてくれたんです!」

 

「クエー!」

 

随分前に神楽はアスナと共に彼女が使役しているピナを天人に奪われるというトラブルに関わった事があった。

 

最終的にその時助けてくれたのは神楽達ではなく別の二人組なのだが……シリカとしては彼女達も助けてに来てくれたと言う事もあって大切な恩人だというのに他ならない。

 

そういう経緯があったおかげで彼女は同じALO型でありモンスターを仲間にしている神楽と仲良くなったのだ。

 

「あれから神楽さんが攻略に手伝ってくれるようになったので、おかげでシンさん達と同じ五十層に辿り着けました」

 

「勘違いしないでくれる? 別にアンタの為じゃないんだから、ただ可愛い妹分が出来たから舞い上がって色々とほっとけなかっただけなんだからね」

 

「隠せてない! デレを全然隠せてないよ神楽ちゃん! ツンデレになってないから!」

 

リズベットがすぐにツッコミを入れる。

 

ここ最近神楽がアスナと行動する機会が減っていたのは、どうやらシリカの面倒を見てあげていたからみたいだ。

 

羨望の眼差しを向けて来るシリカにプイッと顔を背けてツンツンした態度を取るも、言ってる事は真逆のデレデレである。

 

彼女達と全くの初対面であるシノンはこのおかしな連中を前に頬を引きつらせて苦笑するも、ふと、もしかしたらと思い自ら彼女達の方へと歩み寄る。

 

「えーと、少しいいかしら? もしかしてあなた達も、銀さんと知り合いとか?」

「銀さん、だと?」

「ちょっとアンタ、銀さんってもしかして」

 

シノンの問いにいち早く反応したのは新八、続いて神楽であった。

 

二人揃って耳をピクリと動かして初対面であるシノンの方へ振り返るとその目つきを鋭くさせ

 

「もしかして銀さんというのは、天然パーマで死んだ魚の様な目をしたちゃらんぽらんの事か?」

 

「けだるそうにしながらふざけた態度取りまくりで、その上戦いに堂々と卑怯な真似までやるあの侍の男?」

 

「ああうん、二人の特徴を合わせると怖いぐらいピタリと一致するわね……確かにその銀さんよ」

 

口を揃えて銀時の特徴を上げる新八と神楽にシノンも確信した様子で縦に頷いた。やはり彼等もあの男となんらかの繋がりを持っているみたいだ。

 

すると今度は新八の隣にいたリーファが反応して軽く手を挙げて

 

「あの、すみません。その人を知っているって事はあの……その人と良く行動してる人とかもわかりますか?」

「え、ユウキとキリトの事? 常にという訳ではないでしょうけど、よく一緒にいるのは見かけるわね」

「キリト……新八さん、もしかして……」

 

キリトという名前にどこか既視感を覚えたリーファはすぐに新八の方へ振り返ると、彼は無言でスッと眼鏡を上げる。

 

「そいつの事も大事だが俺としては今はその”銀さん”の方が引っかかる。そこの露出の激しいふしだら娘、もしかしてお前は彼等の事を詳しく知っているのか?」

 

「露出の激しい娘っていう呼称は止めてくれない? シノンだから……詳しくはないけど銀さんがここに来てるって事はこの二人に聞いたわよ」

 

「なに!? あの男がここに来ているだと!?」

 

「なんですって! あのクソったれモジャモジャがここに!?」

 

明らかに目のやり場に困っている様子の新八にしかめっ面を浮かべながら、シノンがここに銀時がいる事を伝えると、すぐに新八だけでなく神楽もまた身を乗り上げて反応する。

 

「そいつがどこにいるか教えなさい、あの腐れ天パには借りがあるのよ! この場でキッチリで返せないと気が済まないわ!」

 

「待て、悪いがアイツとやり合うのは俺が先だ」

 

「はぁ?」

 

大分前の事だが神楽は銀時と交戦し、散々な目に遭った過去がある。

 

その出来事がフラシュバックし今度こそあの男を倒すと意気込む神楽ではあるが、そこへ新八が冷静に割り込んで来た。

 

「俺もまたアイツに一度負かされた過去がある、だからこそこの場でもう一度奴と剣を交えたい、迷いを断ち切った俺が強くなれたのかどうか、他でもないあの人に見てもらう事で初めてそれを実感できる気がするんだ」

 

「アンタなんかの理由なんてどうでもいいのよ、あの屈辱を晴らす為に天パを倒すのはこの私、邪魔者はすっこんでなさい」

 

新八もまた大分前に現実世界で銀時と河原での戦いを行った事がある。

 

あの時は肉体的にも精神的にも完全に完敗だったが、次に戦う時はあの時よりも更に強くなった自分を彼に見せたいと常々思っていたのだ。

 

しかしそれを邪魔しようとする者が今目の前に現れた。自分より先に銀時を倒さんと狙っている神楽だ。

 

そんな彼女を新八は冷たく見下した感じで静かに睨み付ける。

 

「こっちこそお前の個人的な私怨など知った事か、あの人と戦うのは俺だ。侍同士の決闘に女が割り込んで来るな」

 

「なにアンタ? ひょっとして喧嘩売ってんの? あの天パやる前にアンタから先にぶちのめすわよ?」

 

「やれるモンならやってみろ、言っておくが俺は相手が女だろうが容赦はせんぞ」

 

「ちょっとちょっと新八さん! なんでいきなり喧嘩腰になってんのよ!」

 

「二人共落ち着いてくださ~い!」

 

互いに譲れない事が出来たとわかった二人はすぐに顔を近づけてバチバチと火花を散らし合いながら睨み合う。

 

すぐにでもこの場で喧嘩をおっ始めようとする二人を見かねて、新八はリーファが、神楽はシリカが後ろから抑えて必死になだめる。

 

「あんな人の事をまだ引きずってたの新八さん! この世界に来た目的はあの人じゃなくてお兄ちゃんでしょ!」

 

「神楽さん! ここで喧嘩になったらアスナさんに怒られますよ! 私はその銀さんって人は知らないけど! とにかくここで暴れるのはよしましょう!」

 

「放せリーファ! 銀さんを倒すのは僕だ! こんな女に先を越されてたまるか!」

 

「放すアルシリカ! こんな厨二臭い眼鏡にあの男を倒される訳にはいかないんだヨ!!」

 

拘束されたままでもなお喚き合いながら喧嘩しようとする新八と神楽。

 

どうやら二人共それぞれ銀時に対しては色々と思う事があるのかもしれない。

 

そんな二人を観察しながら、沖田は一人「へっ」とほくそ笑む。

 

「悪いが旦那を先に殺るのはお前等じゃねぇ、この俺でぃ」

「先に言っとくけどアンタまであそこに加わろうとしないでよね、アンタが介入したら100パーここら一帯が血の海になるのが見えてるし」

 

沖田もまた銀時と出会った当初からいずれは戦ってみたいと思っていた生粋の戦闘狂。

 

むざむざと彼等に獲物を渡す気は無いと邪悪に笑う沖田を見て、隣でリズベットが静かに諭すのであった。

 

銀時をどちらが倒すか揉み合う新八と神楽、そして倒すのは自分だと一人笑っている沖田

 

ここにいる全員を見渡した後、シノンはふと空を見上げる。

 

「みんながみんな、様々な思いを秘めながらあの人を中心に回っている……これがかつて天人達に戦争を起こした攘夷志士達が持つ一種のカリスマって奴なのかしら……」

 

現実世界でもわかってはいたが、銀時というのは人を惹きつける不思議な魅力を持っている。

 

それは生まれつきの性分なのか、それとも攘夷戦争時代に築かれたモノなのかは知らないが

 

少なくともシノンもまた、多少は彼と縁があるのも自覚している。

 

最も彼女に取って強い縁を持つ人物は別の攘夷志士なのだが

 

「今も銀さんは、何処かで色んな人を惹きつけているのかしらね……」

 

 

 

 

 

 

「おーおーなんだここ、いきなり連れてこられたと思ったら」

「こんな所、いつの間に建てられてたの?」

 

そして場所は変わり、新八と神楽が揉めているのもいざ知らず

 

二人の争いの種である銀時はそんな事を知らずにユウキと一緒にこの世界を満喫していた。

 

今彼等がいる場所は、月の中心にある大都市、そしてそこでひときわ大きな建物の中にいる。

 

円を描く様に建てられたその建物の中で、天人も地球人も関係なく所狭しと集まっており

 

その中心では観客に見つめられながら地球人と天人が1体1での戦いを行っている。

 

「驚いたかい? ここは最近我々血盟騎士団が建てた闘技場だよ」

 

他の者同様2階からプレイヤー同士の戦いを見下ろしていた銀時とユウキに後ろから気さくに話しかけてきたのは

 

血盟騎士団の団長・ヒースクリフ

 

二人をここへ案内してくれた張本人である。

 

「地球人と天人の衝突やいがみ合いにはほどほど困っていてね、そこで彼等の鬱憤を晴らす為にここで公式に叩かせてあげようと考えたのさ」

 

「認められない戦争ではなく認められた決闘で勝ち負けを決めて双方納得させるって訳か、血盟騎士団とやらはそんな事までやらなきゃいけないのか?」

 

「所々でトラブルを起こされるより、ここで好き勝手に暴れてくれて貰った方が手間が省けるというモノだよ」

 

地球人と天人が全力で戦う事が許された唯一の場所だという闘技場。

 

双方のストレス発散の為にわざわざ血盟騎士団が自分達の財力で建てたモノらしく

 

「まだまだ上手くいっていないんだがね」とヒースクリフは自虐的な笑いをこぼした。

 

「君達をここに招待したのは、あのアスナ君が目の敵にしている黒夜叉の仲間達にここを是非知って欲しかったんだ」

 

「天人ぶった斬りてぇなら場所貸すから、頼むからよそで余計な事はすんじゃねぇぞって事だろ?」

 

「ハハハ、察しが良いな君は、ただ君達を呼んだのはそれだけが理由じゃないんだがね

「あ?」

 

黒夜叉ことキリトは何かと天人達に睨まれている人物だ。

 

副団長であるアスナもまた当然の如く彼の事を強く嫌い、そして痛い目に遭わせようとつけ狙っている。

 

そんなキリトの仲間である銀時とユウキをここに連れ来たのは、きっとキリト本人を上手く説得して咎めてくれという遠回し的なお願いの意味も含まれていたみたいだ。

 

と言ってもヒースクリフのそんなお願いをちゃんと理解してくれたのは銀時だけで、ユウキの方はさっきから闘技場での戦いを夢中になって見ていて全く話を聞いていない。

 

「行けーそこだ! 頑張れちっこいピンク!」

 

観客席の視線の対象にされている二人のプレイヤーは、広大な戦闘フィールドで一進一退の戦いを繰り広げていた。

 

一人は小柄ユウキよりも更に小さい体型をした全身ピンクの恰好の女の子

 

小柄な体型をいかしたすばしっこい俊敏な動きで相手を翻弄させようとしながら、これまたピンク色に塗装された銃を派手にぶっ放している。

 

もう一人はその女の子よりも数倍デカい大柄な天人。

 

一見猿の様な顔付をしたその大男は、素早く動き回る彼女に対してどっしりと構えながら、両手に持った長い鉄棒を巧みに振り回して楽し気に笑みを浮かべている。

 

「凄いよレン氏! さながらドクタースランプのアラレ氏の再来の如く素早さだ!」

 

「うおぉぉぉぉぉそんな大猿やっちまえレン!! こっちはアンタに全財産賭けてんだコンチクショー! 負けたら破産確定だから絶対負けんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ふと銀時が1階の観客席に目をやると、戦っている女の子の知り合いらしき二人が周りの観客に負けないぐらい大声を上げて興奮している。

 

一人は今戦っているプレイヤーと同じぐらいのメットを被った小さな金髪の女の子

 

そしてその隣にいるもう一人は……

 

「あれ? アイツどうしてここにいんだ?」

「どうしたの銀時、知り合いでもいた?」

「いや知り合いって訳ではねぇんだけどよ……」

 

袖をビリビリに破いたノースリーブ仕様の青いジャケットと、頭に巻いた赤い鉢巻きが印象深かったので銀時はすぐにその人物を見つけられた。

 

ここに来る前に偶然顔を合わせたあの前髪がVの字のオタクだ。

 

「やっぱどう見ても、現実世界で会った”アレ”と似てるんだよなぁ……」

 

「黒夜叉の情報はアスナ君から度々報告を受けていた、その上で私は、その報告の中に一つ気になる事があったんだ」

 

「あ?」

 

銀時が一人の男を怪しむ様にジッと見下ろしていると、不意にヒースクリフからいきなり話を聞かされた。

 

「アスナ君からの報告には毎回と言っていい程君の事も書かれていた、類稀な高度な戦闘技術と不気味と呼べる程の成長速度を持った素性の知れぬ謎の男だとね」

 

「そいつはどうも、全く褒められてる気がしねぇけど」

 

「彼女なりに高く評価しているんだと思うよ、彼女は素直じゃないから」

 

不気味、そんな風に呼ばれても全く嬉しくない銀時にヒースクリフは小さく笑うが、その目は真っ直ぐに彼を見据えている。

 

「それを踏まえて私は、君自身に少々興味を持った。あのアスナ君も認める君の実力が本物なのかどうか見極める為、君自身は一体どんな人物なのか知る為、この目で、いやこの身で是非体験しておこうと思ってね」

 

「は?」

 

「知ってるかい? ここは何も天人と地球人で戦う場所では無いんだよ、戦う理由があるなら天人同士でも地球人同士でも構わない」

 

ヒースクリフはこちらを見据えたまま挑戦的な態度で笑う。

 

彼が何を言おうと良しているのか銀時はすぐに彼の目を見て察した

 

 

 

 

 

「銀時君、今から私は君とここで一対一の決闘を申し込む」

 

血盟騎士団の団長にしてSAO型最強のプレイヤーと称される男が

 

 

 

 

 

 

「君の強さが本物かどうか、私に見極めさせてくれ」

 

ここ最近名が知られるようになった一人の男に目を付け、剣を交える事を望んだ

 

 

最強の男とのサシでの勝負、果たして銀時はこの戦いに何を見る……

 

 


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