竿魂   作:カイバーマン。

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この度本作品を題材に春風駘蕩様からイラストを描いてもらいました。

銀さんとユウキのツーショットという主人公とヒロインの素敵なイラストです


【挿絵表示】


「いずれは読者の方からイラストを描いてもらえるぐらいのSS作家になりたい」と密かに思いながらこうして長年書き続けていましたが、ようやくその夢が叶い大変嬉しく、そして読んで下さった方達に感謝しております。

でもまだ満足してはいけないので今後も執筆作業を頑張ろうと思います!






第六層 想い、永遠に冷めず

フロアボスとの戦闘に必要なのは質の高いプレイヤーもそうだが、肝は数と言っても過言ではない。

 

戦える者がいればいる程戦略は複雑となるが勝率もまた、いればいる程上がるというモノ。

 

ディアベル率いる初心者組+ベテラン組は全部で44人。

 

それらは複数のパーティに別れて各々の役割を担当する事になり

 

坂田銀時はその中の「フロアボスで出現するボスの周りに出て来るモブ敵の排除」という地味な役割を担当する事になってしまった。

 

「あ~かったりぃ、死ねオラ~」

「ってうおわ! 何すんねんボケコラカスゥ!」

「あ、ごめん、なんか後ろから見るとモンスターぽかったから、ほれ」

「ごめん言っといてまた攻撃してくんなや! マジでpkしたろかコラァ!」

 

ゾロゾロと第一層ダンジョンを順調に進んでいく一行ではあるが、大抵の雑魚敵は前衛陣があらかた倒してしまうので、一番後ろの後衛陣にいる銀時はけだるそうにしながら適当に目の前のいたキバオウ目掛けて光棒刀を振るっていた。

 

「あ~あ、すっかりやる気無くしちゃってるよ、まあ仕方ないか、ボス戦なのに自分だけ雑魚敵の相手する担当になっちゃったし」

「でもフロアボスとの戦いでポップするモブ敵を倒すのは地味だが大事な仕事だしな」

 

銀時がキバオウと揉めているのを後ろから眺めながら、ユウキとキリトは後をついて行く。

 

敵が湧かなくなってしまったダンジョンで得物を抜かずにのんびりと会話をしていた。

 

「何よりボスと戦う必要も無いから生存率も高い」

「いやぁ確かにそうなんだけどさぁ、彼にとってはつまらない仕事押し付けられたって心境なんじゃないかな、なんか相当イラついてるみたいだし」

 

ユウキがそう言っている傍ら、銀時はまたもやキバオウ目掛けてフルスイングしている真っ最中であった。

 

今まで口頭で注意するだけのキバオウだったが、遂にキレて背中の大型の片手剣を抜いて構えるが、すかさず二人の間に割って入るのは、銀時と古い仲であるエギルであった。

 

「まあまあお二人さん、そうカッカすんなや。二人共同じパーティだろ、役割に不満は持つのは構わないが、その不満は仲間じゃなくて敵に向けろよ」

「そうだよ、このご時世、いらんストレスばっか抱えてそれを周りに当たり散らしてても何も解決しねぇんだ、大人になれよキバゴン」

「誰やキバゴンって! キバオウじゃ! てか当たり散らしてたのはお前やろが!」

 

エギルに諭されつつシレッと被害者ヅラする銀時にキバオウがキレているという光景を眺めながら、キリトはそろそろフロアボスの部屋近くだなと気付いた。

 

「そういえばあのフードで顔隠してる変な女プレイヤーは何処行ったんだろうな」

「ああ~確かディアベルの指示で先鋒にに配属されてたよ、最前列でボスの攻撃を食い止めつつカウンターを決めてスタンさせていくっていう中々難しい役割任されてたね」

「あの俊敏性だったら第一層のボスぐらいならへでもないだろ、アレは新参プレイヤーの動きじゃない、間違いなくベテランだ、それもとびっきりの」

 

今頃あの少女は、最前列で黙々と行動しているのだろう。背後にいるディアベルを監視しながら

 

彼女は彼の事を怪しんでいた、EDO内でのリアルダメージ発生の原因が彼にあるかもしれないと……

 

しかしキリトにとってはまだそんな話信じられなかった、まさかゲームで実際に傷を負う事があるなんて。

 

「一昔前に流行ったライトノベルじゃあるまいし、よくもまあそんな非現実的な事を信じられるもんだな」

「おやおやキリト君、もしかしてあの子の事が気になるの~?」

「バカ言うな、あんなくそ真面目そうで頭でっかちで近寄りがたい雰囲気を持つ奴なんざ絶対にごめんだよ」

 

こちらに含み笑いを浮かべながら茶化してくる様子を見せて来るユウキ相手に、キリトは冷静にそんな訳あるかと否定すると、足を止めてフッと笑みを浮かべて

 

「俺の理想の女性は、俺の事を引きこもりだのニートだのそういう言葉のナイフ傷付ける様な真似は絶対にせず、常に優しく包み込むような母性に満ち溢れて、なおかつアレしろコレしろだの言わずにただ俺のやりたい事をやらせてくれるような慈愛に満ちた女の人なんだ。あとそうだな、お金持ちで一生俺が遊んで暮らせるぐらいの貯蓄を蓄えてるぐらいのお嬢様ならなお良いかな?」

「……一片死んで異世界に転生でもして来たらいいんじゃない?」

 

もはや盲目めいた願望というか夢物語に近いその理想のタイプを長々と聞いたユウキは心底ドン引きした様子でポツリと返事するのであった。

 

コイツ一生童貞だろうな、と内心思いながら

 

 

 

 

 

 

しばらくして大人数による第一層攻略陣営は、やっとこさフロアボスの部屋の前である大きな扉の前へとやって来た。

 

不気味かつ頑丈そうな分厚い扉、これを開ければそこはボスの待つ第一層のファイナルステージ

 

その扉の一番前で、指揮官のディアベルが全員のプレイヤーを周りにはべらして最終チェックを行っている。

 

「諸君、この扉を超えたら遂にお待ちかねのボスステージだ! 散々説明していたがボスの名前は『イルファング・ザ・コボルドロード』! 先程から狩っていたコボルドの王様みたいなものだな!」

 

ディアベルの言っているボスの特徴は概ねキリトが既に知っている事だ、彼はそれを聞かずにキョロキョロと辺りを見渡すと、やはりディアベルのすぐ近くであの少女が怪しむ様に彼を見つめながら立っていた。

 

アレではまるで「あなたの事疑ってます」と自己主張している様なモノだ……あの少女、腕は立つようだが隠密調査のやり方についてはてんで無知らしい。

 

「斧と大剣を得物としていてアクションは基本大振り、つまり攻撃動作を終えた後は隙がデカい! だが気を付けろよ、奴には必殺スキルがあり、その時の攻撃動作を終えるのは斧と大剣を4回ずつ振った後! つまり8回連続攻撃を耐え切らないと隙が生まれないんだ!」

 

ディアベルの説明に「へ~まあ雑魚敵担当の俺には関係ねーし」とけだるそうに銀時が適当な声で頷いている。

 

いやアンタはちゃんと話聞いておけよな初心者!とキリトは背後にいる彼に内心ツッコんだ

 

「しかも奴の連続攻撃を一度でも食らった時には、続けざまの攻撃を全てまともに食らっちまう事だってあるんだ! そうなると一気にHPが削り取られ! そのままお陀仏になる事だってある! 何を隠そう俺も一度それでやられちゃいました、あの時は本当に悔しかったぜチクショウ! ボスのHPが2割切ってたのに!」

 

周りのプレイヤーがディアベルの失敗談を聞いてドッと噴き出して笑い始める。

 

ボス戦を前に緊張していたプレイヤー達をほぐそうという粋な計らいであろう、指揮官に大事なのはやはり統率力と冷静な判断力が肝だが、こういったユーモアを絡めて士気を上げていくのも有効な手段だ。

 

笑いに包まれたプレイヤーの前でディアベルが「コラお前等ー! 俺の悲しい過去で笑うなー!」とムキになっている様で叫んでいるが、彼自身も少し笑っている。

 

キリトはそれを見て確信した、そうだこのプレイヤーは昔からみんなから慕われるぐらい良識のあるプレイヤーだった筈だ、あまり接点がない自分でもそれはよくわかる、彼は本当にこの世界を楽しんでいるんだと

 

こんな彼が、ゲームのシステムを改竄して他プレイヤーを危険に陥れる真似など絶対にする筈がない。

 

頭の中でそう断言し、キリトは再びディアベルを監視している少女の方へ目をやる。

 

しかしこちらがディアベルは無罪だと確信していても、以前少女はまだ疑ってるかの様にフードの奥から目を覗かせて睨んでいる。

 

「ったく、一人だけ笑わずに睨んでたら逆に自分の方が周りに怪しまれるぞアイツ……」

「そうだね、あの子密偵には向いてないよきっと」

 

自分がボソッと呟いた事に、いつの間にか隣に立って自分と同じように彼女を遠目から眺めていたユウキが返事するので、思わずキリトはビクッと肩を震わせて彼女から一歩遠のいた。

 

「へ? いきなりどうしたの慌てて?」

「い、いやその……異性のプレイヤーに隣に立たれると体が自然に反応してしまうというかですね……」

「わーお、さすが童貞、年頃の女が近くに寄っただけで慌てふためくとはまだまだですな」

「どどどどど童貞ちゃうわ!!!」

 

つい焦って上ずった声で叫んでしまうキリトだが、幸いにも他のプレイヤーは皆笑い声をあげているので、その声を聞いた者はいなかったみたいだ。

 

彼と話しているユウキを除いて

 

「その反応が確かな証拠なんだよねぇ~、まあ残念なお知らせですが、ボクもう好きな人いるからごめんなさい」

「なんで俺フラれたみたいになってんだよ……好きな人いるならさっさとその人の所へ行ったらどうだ?」

 

無邪気に笑って首を傾げながらフッて来たユウキ、しかし当然キリトは彼女に対して恋愛感情を抱いた事など一度たりとも無いので全く持ってノーダメージだ。

 

更にキリトは背後でエギルからアイテムのチェックをしてもらっている銀時の方へプイッとアゴで指す。

 

大方彼女の言う好きな人など検討が付いている。

 

「いっその事今から告って来たらどうだ? 戦いの前の告白イベントは死亡フラグ一直線だけどな」

「はぁ~人の気も知らないで勝手な事言うねキミ……あのね、そう簡単に想いを伝えれればとっくの昔にしてるよこっちだって、けどさ……」

 

他者との交流に疎いキリトならではの急なノリに、ユウキはどっと深いため息を突きながら、銀時のいる方へ顔を逸らして表情を曇らせる。

 

「私が伝えるよりも早く、あの人は既にお姉ちゃんを選んでいた……」

「……」

「私の方がお姉ちゃんより好きになるの早かったんだけどなー」

 

そう言って誤魔化すように笑顔を向けるユウキだが、それはいつもみたいな感じではなくただ無理矢理笑って見せているという感じだった。

 

出逢って数日程度の仲でしかないキリトにはわからないが、どうやら銀時とユウキ、そして彼女の双子の姉は表向きは仲の良い関係だったのだろうが、色々と複雑な間柄だったのかもしれない。

 

「それに多分、あの人がそう簡単にお姉ちゃんの事忘れられる訳ないよ」

「ユウキ……」

「悔しいけどめっちゃ相性良かったらなーあの二人」

 

キリト、桐ケ谷和人にとって恋愛は未知数でしかないのでよくわからない。

 

だが不思議と何故だろうか、彼女の事は素直に応援してやりたい気持ちが心の底から湧き上がった気がした。

 

「ユウキとあの人の相性も中々悪くないと思うけどな、まあ出会って間もない俺が言うのもなんだけど」

「へ? あーやっぱりそう見えるかな? ありがと、フフ」

「でも恋人というよりも、ちょっと兄と妹って感じにも見えるっちゃ見えるぞ?」

「そこは一言多いよ……もー気にしてる事なのに」

 

兄と妹、そんな風に見られる事は十分に本人もわかっていたのだろうか、頬を膨らませて不貞腐れるユウキの反応が面白かったので、キリトが思わず笑いそうになっていると

 

説明を終えたディアベルがまたパンパンと強く手を叩いて全員に号令をかけた。

 

「それじゃあ最後に! ここまで来たみんなに俺が言えることはただ一つだ! 勝とうぜ!!」

 

右手の拳をグッと掲げて高々に叫ぶディアベルに、周りのプレイヤー達がドッと沸き上がり歓声を上げている。

 

その反応に満足げにディアベルは頷くと、後ろに振り返って大きな扉に向かって両手を置いて、ゆっくりと前に押して開き始めた。

 

「作戦通りにやれば誰もやられずに第一層突破だ! みんな俺に続けぇ!」

 

その咆哮と共にディアベルを先頭に、他のプレイヤー達が一気に扉を開けた先にある暗闇に向かって突っ込んで行く。

 

迷いもなく突き進むその行進に自分もまた遅れぬ様に行こうとするキリトだが

 

不意に後ろ襟をグイッと掴まれた感覚を覚えたので、振り返るとそこには先程銀時と話をしていたエギルが佇んでいた。

 

「なんか用か?」

「いや大したことじゃねぇさ、お前さんがユウキとなんか深刻に話してるのが見えたからちと気になってな」

「ああ、まあちょっとした恋愛相談に乗ってあげただけだよ俺は」

「ブッ、お前が? 周りから戦闘狂とか呼ばれて一線引かれてるぐらい戦いに固執しているお前が恋愛相談だぁ?」

「はいはい、柄にも無い事したのはようわかってますよ」

 

自分が言った事に対し口元を横に広げてニヤニヤと笑い出すエギルに、キリトはすぐにプイッと顔を背けて不機嫌そうに呟く。

 

「さっさと行こうぜ、フロアボスがお待ちかねだ」

「ああ、軽くノシてやろうぜ、恋のキューピッドさんよ」

「ボス戦闘中に背後からの奇襲に気を付けろよエギル……恋のキューピッドさんは常にお前の心の臓を捉えようと剣を構えてるのを忘れるな」

 

まだ意地の悪い笑みを見せるエギルに振り返りキリトが警告していると

 

いつの間にかユウキは銀時に近づき、アドバイスをしていた。

 

「いい? モブ敵との戦いにかまけてボスの動きをチェックするのを怠らないでよ」

「わーってます」

「あと自分のHPバーの確認もね、気が付かない内に削り取られてて赤になってる事だってあるんだから」

「はーい」

「ハンカチとティッシュ持った?」

「ティッシュは忘れたけど手拭なら持ってまーす」

 

三つ目の確認は必要あるのだろうか、ていうかお母さん?……というキリトの疑問を置いて、準備万端となったのか銀時は光棒刀を取り出してユウキと共にこちらに向かって歩き出す。

 

「よし行くぞお前等、『皆に愛されし銀さんを死んでも護る隊』出動だ」

「勝手に変な隊名付けるな、除名届け出すぞ……」

「やれやれ、昔からホント自由だなお前」

 

呆れるキリトとエギルを引き連れて銀時は意気揚々と扉の中へと入ろうとするのだが

 

「待ちなさい」

「あん?」

 

不意に銀時達の前にバッと何者かが立ち塞がる。

 

一瞬誰かと思う銀時だがすぐに気付く、あのマヨネーズ娘だ。

 

「なにお前? もしかして『皆に愛されし銀さんを死んでも護る隊』に入りたいの?」

「そんなふざけた名前の隊に入るつもりは毛頭ないわ、私は警告しに来たの」

「告白? マジかよ、いつおたくとフラグ立てたっけ?」

「け・い・こ・く!」

 

本気で間違えてるのかわざと間違えてるのか、とぼけた様子でアゴに手を当て考える仕草をする銀時に、少女は口調を強めにして訂正する。

 

「この先、何が起こるかわからないわ。自分の身の危険を感じたらすぐに逃げなさい」

「大丈夫だって、たかがゲームだろ? 所詮負けても死ぬ訳じゃねぇんだし気楽に行こうぜ」

「……このEDOはゲームであってゲームじゃないのよ」

「?」

 

フードの奥からか細く呟いた彼女の言葉に銀時は顔をしかめるが、傍にいたキリトはどこかで聞いた覚えがあった。

 

確かそれはこのEDOを造りなおかつフルダイブシステムの創始者である偉大な研究者が言っていた様な……

 

「とにかく、今のEDOでは何が起こるかわからない状態なの、今までの常識が通用するとは思わない事ね」

「常識が通用しないってか……ならさっそく試してみるか、おいキリト君」

「え、なんで俺?」

 

考え事をしていたキリトを不意に呼ぶと、銀時は彼の袖を引っ張って無理矢理少女と向かい合わせの態勢にする。

 

「お前ちょっとこの小娘に告ってみろ、常識が通用しないなら無職で引きこもりのお前が相手でも間髪入れずにokして貰える筈だ」

「マジでか!? いやでも俺もうちょっとおしとやかな子の方が好みなんだが……」

「女ってのは付き合ってから男の好みのタイプに変わっていくもんなんだ、彼女をプロデュースするのは男の腕にかかってる」

「お~なるほど……」

「いやなに感心してんのよ! いくら常識が通用しないからって会ったばかりの人に告白してok貰える程非常識じゃないわよ!!」

 

腕を組みながらうんうんと頷く銀時の話を聞いて、真顔で頷くアホ丸出しのキリトに少女がすかさずツッコミを入れた。

 

さすがにゲームのシステムでの常識外ならともかく、男女の仲での常識は普通に現実世界となんら変わらない。

 

「ていうか何ノリ気になってるのあなた、あり得ないから。あなたみたいな全身真っ黒の厨二丸出しの服装した人となんかお断りよ」

「何も言ってないのにまたフラれた! 全身真っ黒で何が悪い! 黒はカッコいい色の象徴だぞ!」

「知らないわよそんな事、それにあなたさっき、この男の人にこう呼ばれてたわよね、無職で引きこもりだとか……」

「ぐ! いやそれは確かに紛れも無い事実だけども……!」

 

またもやフードの奥から冷たい眼差しが向けられたので、キリトはチクリと胸を刺された感触を覚えて思わず手で胸を押さえる。

 

そんなボス戦を前にして軽くダメージを食らってしまっているキリトに向かって少女はゴミを見るような眼差しを向けながら

 

「なら悪いけど私、収入が無い人とか絶対に無理。それに加えて引きこもりとかホント論外だわ、親の期待とか今まで育ててくれた恩を仇に返してよくもまあそれで平気面して生きていけるわねあなた、男以前に人としても見れないわ、恥を知りなさい」

「ぐっはぁ!!」

「キリトォォォ!!」

 

あまりにも容赦ない冷徹な言葉のレイピアがキリトの急所を的確に捉えてクリティカルヒットをかました。

 

ここまで酷い言葉を妹にさえ言われた事がない、あ、でも知り合いのとある姉弟の姉からは言われた事あったかも……

 

そんな事をおぼろげに思い出しながらキリトは背中からバタリと倒れてしまい、銀時が慌てて彼を抱き起こす。

 

「しっかりしろぉ! オイィィィィ!! てんめぇよくもウチの下っ端を手に掛けてくれたなゴラァ!」

「ええ!? いや私は正直に言っただけで……!」

 

ショックで意識が飛んでる様子のキリトを呼び起こそうとしながら、少女に向かって非難の声を上げる銀時。

 

流石に目の前で倒れてしまうなど予想していなかった少女は、流石にちょっと動揺してしまう。

 

会心の一撃によりキリトはすっかり精神状態がボロボロに

 

 

HPは減ってないが心の方の残りHPは間違いなく1ドットぐらいであろう。

 

白目を剥いてぐったりしてしまうキリトを眺めながら焦る銀時と少女だが、ユウキは平然とした様子で彼を見下ろしていた。

 

 

「まあアレだよね、うん。不幸な事件だったね」

「わ、私別に間違った事言ってないわよ! 人としての過ちを正してあげようと思っただけで……!」

「は! どうして俺横になってんだ!」

 

目の前で行われた悲劇を前に少女が己の非を認めないでいると、間もおかずに倒れていたキリトがハッと目を覚まして復活した。

 

「ふぅ~残念だったなマヨネーズ娘……引きこもりは多少のダメージじゃへこたれないんだ……」

「その割にはあなた気絶してたわよ、ぐっはぁ!とかマヌケな叫び声上げながら白目剥いて倒れたわよ」

「だが散々好き勝手な事言われたのはちょっと腹が立った、ぐうの音も出ない程正論なのが特に」

「わかってるんなら自分で何とかしようと思わない訳?」

 

銀時の肩を借りてキリとはヨロヨロと立ち上がると、目の前でジト目を向ける少女を前にして一瞬怯みそうになるものの、すぐに彼女の背後にあるボス部屋の方へ視点を向ける。

 

「とにかく俺達はもう行くから、アンタの警告など知ったこっちゃない、ていうかアンタの言う事聞きたくない、以上」

「あっそ、なら勝手にすればいいわ、後悔しても知らないから」

 

子供みたいな事を言い少女の警告を無視してキリト達は扉の前へと立つ、ここへと入ればすぐにボス戦だ。

 

恐らくまだボスが現れる演出が行われている頃だろう。

 

「さっさと行くぞアンタ等、どうせ第一層のフロアボスだ、パパッと倒しちまおうぜ」

「そうだな引きこもり」

「わかったよニート」

「俺の壁となって頑張ってくれよ童貞」

「何故だろう、戦う前に心が挫けそうだ……」

 

意気揚々と戦いへ赴こうとしたのに、エギル、ユウキ、そして銀時の順に精神的ダメージを浴びせられながら

 

キリトは三人を連れて扉を潜り部屋の中へと入っていった。

 

その先で一体どんな事が起きるのかも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

残された少女は彼等の背中を見送ってしばし考える様にアゴに手を当てた後、意を決したのか彼女もまたスッと歩を進めて中へ入ろうとする。

 

だが

 

「単独による独断行動は控えろと団長から言われてた筈だけど?」

 

不意に背後から少女に向かって何者かが言葉を投げかけた。

 

彼女はその声の主が何者か知っている様子で特に驚きもせずに後ろに振り返る。

 

そこにいたのはぱっと見て10代後半、もしくは20代前半ぐらいの女性であった。

 

ロングのオレンジ髪には一つだけ中国髪飾りであるボンボリが付けられ、服装もこれまた色っぽいスタイルが垣間見える白いチャイナ服であった。

 

壁に背を掛けながらこちらに目を細めてジッと見つめて来る彼女に少女は怪訝そうな様子で。

 

「うーん、ちょっと見逃してもらえるかな?」

「はぁ……仕方ないわね、酢こんぶ10箱で許してあげる」

「あはは……」

「まあアンタの腕なら何も心配いらないんだけど」

 

見た目に反して意外なモノを持ち出して、少女のワガママを素直に聞いてあげる彼女。

 

苦笑して見せる少女に彼女は背を預けていた壁から離れると、メインメニューを開くと、パッとその手で得物を取り出す。

 

それは見た目は傘ではあるが普通の傘よりも圧倒的に巨大なサイズの番傘だった。所持している彼女の身の丈と同じぐらいはあろうか。

 

重量感もありそうな傘を彼女は軽々と右腕だけで掲げて肩に掛ける。

 

「なんなら加勢してあげてもいいけど、ちょうど暇だったのよ」

「サラマンダーの部隊はシルフと交戦する予定だって聞いたけど? あなたサラマンダーでしょ?」

「興味無いわ、別に同じ種族だからって連中に仲間意識なんか持ったことも無いし」

「ALO型は本来同じ種族で組む傾向があるのに、あなたはとことんイレギュラーね」

「私の仲間は私が決めるのよ、友達もね」

 

キリト達に対しては無愛想な感じで接していた少女だが、彼女に対しては不思議と気心の知れた仲と言った感じで穏やかになっていた。

 

そんな少女に対し、彼女は話を続ける。

 

「それでどうするの? 私の手を借りる必要はある訳?」

「ううん大丈夫、今回の件は全部私個人で怪しいと思ってやってるだけだから。あなたまで巻き込む必要は無いわ」

「そう、ちょっと残念だけど仕方ないわね、久しぶりにアンタとクエストに参加できると思ったんだけど」

「それなら今度二人でどこか狩りにでも行きましょ、効率良くスキルポイントを溜められるエリアがあるって山崎さんから聞いてるの」

「山崎? ああ、”あのバカ”のパシリでしょ? 信用できるの?」

「”アイツ”はともかく山崎さんは十分に信用できる人よ、それに色々と向こうの事も親切に教えてくれるしね、”あの人”の事とか」

「ふーん……」

 

山崎というプレイヤーなど心底どうでもいいと思っているので、興味無さそうに彼女が呟いていると

 

少女はクルリと背を向けて扉の中へと入っていく。

 

「それじゃ、また今度ね」

「ええ、気を付けてね。ここ最近変な事件が多発してるし、特にあのディアベルとかいう奴、私もなんかきな臭いと思ってたのよね」

「わかってる、だからこそ私が行かなきゃ……」

「あまり気負い過ぎないでね、アンタただでさえ色々と抱え込むタイプなんだから」

 

少女の性格は彼女はよくわかっていた、だからこそここまで足を運んできたのだ。

 

彼女は少々心配そうに見つめながら少女の後ろ姿を見送る。

 

「困った時はいつでも助けになってあげるから、私はいつでもアンタの友達よ」

「……ありがとう」

 

素直に友達と認めてくれる彼女に感謝しつつ、少女はフードの奥でフッと笑うとボス部屋の中へと入っていくのであった。

 

残された彼女は一人ため息を突きながらボス部屋に背を向ける。

 

 

 

 

 

 

「それでもどうせアンタは一人でつっ走ろうとするんだろうけどね、ホント意地っ張りなんだから」

 

プレイヤー達が各々様々な思いを抱え込みながら

 

第一層のボス戦が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

とある密偵が記すEDOにおける設定と豆知識その2

 

一項目『年齢変更』

 

EDOでアバターを作成するにあたり変更できない部分は二つ。

 

それはプレイヤー本人の見た目と性別だ

 

もちろん多少の変化は許されている、髪を染めるとかスタイルを良くするとか

 

しかしどう足掻いても元の見た目は自分とまるっきり別人に変える事は出来ない。

 

というのもこのゲーム、昔は性別や容姿の変更も自由だったんだが、それだと現実世界に戻ったプレイヤーは多少の違和感を覚えたり自分の本来の性別を忘れてしまうなど色々と問題が耐えなかったらしい。

 

あり得ないだろそんな事と思うプレイヤーはきっとまだなり立ての新参者だ。

 

この世界は本当に現実世界と相互リンクする程リアルな世界観を再現しているので、こっちが現実世界だと錯覚させてしまうぐらい本当に凄い……

 

かくゆう俺も入りたての頃は現実とこっちの世界がゴッチャゴッチャになって、つい上司に向かって

 

「ア、アレは噂に聞く50層目に出て来る幻のゴリラ型モンスターのソラチンタマ! まだ50層いってないのにこんなきったない屋敷に出て来るなんて! よしここで倒せばレアスキルゲットだ!」

「いや俺ゴリラじゃなくて局長なんだけど!? どうしたザキ!? まさかの謀反!?」

 

っとつい組織のトップを幻の激レアモンスターと見間違えてしまう程の重症に……

その時はその組織のナンバー2に飛び蹴りされ、そこで強烈な痛みを味わってようやく、「あ、こっちが現実なんだ……」っと薄れゆく意識の中で気付きました。

 

そういう事がよくあったらしいので容姿・性別は元の見た目を引用するという規定が定められたのだ。

という事でみんな、いくら上司がゴリラに似てるからって仮想世界と現実世界の境界を忘れてレアゴリラと認識して倒そうとしちゃダメだからね、うん。

 

という事で話を戻そう、えーと年齢変更についてだよね?

 

これは裏技でもなんでもないのだが、自分の見た目を変えるちょっとしたやり方がある。

 

それは唯一許されているアバターの見た目の年齢を変更する事だ。

 

と言ってもそれは上も下も5年範囲だ、これ以上の変更は実質不可能とされている。

(あくまでゲーム上では)

 

例えばリアルだと14才位の女の子なんだけど、こっちの世界では年齢に5年分+させると

 

そのプレイヤーの容姿の成長性をシステムが予測して自動で作り上げ19歳の少女に早変わり出来てしまうのだ。かがくのちからってすげー!

 

ちなみに俺は欲張って5年分若返っている、誰も気付かないけど……

 

 

 

 

ニ項目『ロールプレイ』

 

仮想世界に入るとついやりたくなってしまう事

 

それはこの世界でより楽しくプレイする為に、現実世界での自分とは別の自分を演じる事だ。これがいわゆるロールプレイ。

 

それは本当に人それぞれであり、忍者風に喋ったり片言で喋ったり、クールになったり暑苦しい感じになったりと皆色々な人格になってプレイする者が非常に多い。

 

現実世界での自分を忘れ、こちらの世界で憧れた自分を演じる。

 

コレは至って普通の事だ、もしロールプレイ中のプレイヤーに「口調が変だなお前」とか言って笑ってみればいい、逆に君が周りに笑われる筈だ。

 

それぐらいこの世界では「演じる」事は極々当たり前の事なのだ。各々の楽しみに対して茶化す様な言動は控える様に

 

実は俺もまた基本的にこういう仕事以外の時はロールプレイにドハマりしていて結構ノリノリでやってたりしてます。

 

いやー実は俺昔ちょっとヤンチャ者だったからさ、そん時の頃を思い出して結構キレッキレに演じさせてもらってますわマジで

 

だがロールプレイを行うのに注意する事がある、それは先程も言ったように現実世界とごっちゃにしてはいけないという事だ。

 

かくゆう俺もつい上司の方に

 

「ああん!? 俺に指図してんじゃねぇよニコチン野郎! タバコなんてテメェが買って来いよバーカ!!」

 

っとこっちの世界のつもりでノリノリで喧嘩を売ってしまった、それからの記憶は無い、気が付いたら病院のベッドで横になってた……

 

という事でみんなはロールプレイをしていても本来の自分だけは見失わない様に注意しよう。

 

ちなみに俺のリアルの身体はまだ病院のベッドの上で横になったままです……

 

ホント何があったんだろう俺、全く思い出せない……誰か俺の失った記憶知りませんか?

 

 

 

 

 

 




番傘を持ったチャイナ服の綺麗な女性

彼女のイメージは無論、「劇場版・銀魂・完結編」の未来の姿です

声優を見事に使いこなし銀さんに

「あんな灼眼のシャナ知らねぇ!」と言わしめたボンキュッボンの姉ちゃんです。

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