竿魂   作:カイバーマン。

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空洞虚無さんからの竿魂支援絵です。


【挿絵表示】


特別ゲストして別作品から胡散臭い神様が2柱とまた仮面ライダー出てます、すぐに金髪ホクロに連れ戻しに来てもらいましょう。仮面ライダーは……まあいいや土管の中に住んでて下さい。

本編登場前に贅沢にもイラストで初登場させてもらった妖精王ですが

本作でも一応存在はしていますし、原作通り影でコソコソしているのでご安心を

ただ悲しい事に、色々と怖い人に睨まれちゃってます……

素敵で多彩なイラストを描いて下さりありがとうございました!


第五十六層 その音色は不協和音か完全一度か

キリトが新たな出会いを育んでいる中で

 

銀時とユウキは同じ五十層で久しぶりにある連中と再会していた。

 

「あ」

「……こんな所で会うなんて奇遇ね」

「よぉ、元気してた?」

「まあまあね……ちょっと前にとんでもない事に遭遇したせいで色々疲れちゃってたわ……」

 

エギルの店から出て二人は適当に複雑な構図な街中をブラブラと散歩していると

 

そこへバッタリと鉢合わせたのはまさかの人物

 

血盟騎士団・副団長・鬼の閃光ことアスナである。

 

自分といきなり顔を合わせた事に随分と薄い反応してくれる銀時にちょっとムッとしながら、隣にいるユウキの方にもチラッと目を向ける。

 

「ユウキはもっと久しぶりね、元気だったかしら?」

「はーいアスナ、ボクはいつも元気だよ。最近銀時絡みで腹の立つ事が続いてたけどホントに元気だよ」

「……」

「なに俺の事軽蔑の眼差しで見てんの? そういう眼差しはキリト君の為にとっとけ」

 

にこやかに手を振って挨拶しかえすユウキだが、彼女の口から不穏な情報が洩れたので、思わず銀時の方へ振り返って無言で顔をしかめるアスナだが

 

「あら犬泥棒にオカマ侍じゃない」

 

そんな彼女の背後からフラリともう一人の人物が

 

日傘を差したまま面白くなさそうにジト目で睨み付けて来るグラこと神楽がやって来たのだ。

 

「へーアンタ達五十層まで来れる実力あったんだ、ま、どうでもいいけど」

 

「あ、見て見て銀時、銀時お気に入りのボンキュッボンのネェちゃんがやって来てくれたよ、またナンパしてみれば?」

 

「おいおい勘弁してくれよ、見た目はボンキュッボンでも、リアルのコイツの正体はキュッキュッキュッだってのわかってんだからもう口説こうとする気すらしねぇわ」

 

「それ以上抜かすとアンタの首をキュッキュッキュッするわよ」

 

見た目は正にアスナ以上のナイスバディなのだが、既にリアルで彼女の本当の姿は知っているので

 

ユウキが意地悪く前みたいに誘ってみろと言われても、銀時は全く乗り気じゃない様子で後頭部を掻き毟る。

 

「しかしこんな平日の昼間から女二人で仲良くこっちに来てパトロールですかぃ、ひょっとして暇なのお前等?」

「相変わらず失礼な男ね、アンタ達とアスナと一緒にしないで頂戴、私はいつだって忙しいわよ」

「私だって忙しいわよ! ちゃっかり私だけあっち側に置かないで!」

 

銀時に指摘されて不満げに自分だけ忙しいアピールする神楽にアスナはすかさずツッコミを入れると

 

忙しい云々についてはあまり深く聞かれて欲しくないのか、コホンと咳払いするとすぐに話題を切り替えてしまう。

 

「そ、それよりいつも連れて歩いているあの凶悪犯はどこ行ったのよ、黒づくめの厨二病男は」

 

「アイツは今別行動だよ、え、なにおたく、キリト君に会いたいの?」

 

「会いたいと言われたら会いたいわね、親睦性を深めたいからじゃなくて主に取り締まる側と取り締まられる側として、どこにいるのか知ってるなら正直に白状してくれないかしら?」

 

「聞きましたユウキさん? この子ツンデレですよツンデレ、素直になれずにあんな建て前使ってでもウチのキリト君と接触したがってますよ」

 

「古き良き伝統のヒロインスタイルだねー、でもツンデレならチャイナ娘の方が似合いそうだと思うなボク、理由はわかんないけど」

 

「誰がツンデレよ! 私は未来永劫アイツの事は嫌いよ!!」

 

場所を知ってるなら教えて欲しいと頼んで来たアスナに、ハッキリと聞き取れる内緒話をしながら弄り出す銀時とユウキ。

 

それにすぐ様カッと反応して真っ向から彼等の推測を否定する。

 

「場所を知っていたら答えろって言っただけでしょ私は!」

 

「知らねぇよ、勝手にフラッと行っちまったんだし。まあ厨二病の事だから学校の理科室で、液体の入ったフラスコをクルクルしながらニヤニヤしてんじゃねぇの?」

 

「絶対に遭遇したくない光景ね……まあ知らないならいいわ、ご協力ありがと」

 

厨二病をどんな風に思っているのだと、答える銀時にアスナは首を傾げながらとりあえずお礼を言うと

 

「あ、そういえばあなた、リズから聞いたんだけど……」

「リズ?」

 

ふと今目の前にいるこの男の事で最近とんでもない情報を友人経由で耳にした事を彼女は思い出した。

 

「神器の素材の金木犀の枝を手に入れたらしいじゃない、しかもそれをリズに預けて神器にしてもらうまで話を進めているとか……正直驚いたわよ」

 

「ああ、リズってアレか、四十八層で店開いてるのあのピンク頭の小娘の事か、顧客の情報を流出するとかなに考えてんだアイツ」

 

「偶然私が彼女に店に足を運んだ時に、カウンターの上にあなたが彼女に渡した大金と金木犀の枝を見たから聞き出してみたのよ」

 

アスナの言うリズという人物が、四十八層で店を開いているあの若い娘のリズベットだとわかって銀時は納得した様に頷く。

 

世間は狭いというか、彼女の友人であったアスナは彼が店に来ていた情報をあっさりと入手していたのだ。

 

「正直なに考えてるのかよくわからない抜け目のない男だとは思っていたけど……よりにもよって私が欲しがってた神器の素材をあなたが手にするとはね……」

 

「ああ、オメェの所のドSのエセ抜刀斎に助力して貰ってな」

 

「そういえば……あなた彼と一緒に神器クエストに参加してたのよね?」

 

「アイツ……きっとアスナ姐が前々から欲しがってるの知ってて、わざとこの天パに取らせようとしていたアルな……」

 

銀時の口から出たドSのエセ抜刀斎、つまりこちらの世界では自分と度々行動を共にしているあの沖田総悟の事だと瞬時にわかると、アスナはジト目で呟き、神楽は素の口調を恨めしそうな表情でここにはいない彼に悪態を突く。

 

「あのドSはホントアスナ姐の敵ヨ、毎度毎度嫌がらせばっかしやがるし、その上最近じゃ勝手に人を集めて自分の部隊まで立ち上げたと聞くアル、いずれ血盟騎士団に対して反乱を起こし、アスナ姐の首を本気で狙いに来るのも時間の内だから早めに排除するべきネ」

 

「あ、そん時が来たらボクも参加させてね、面白そうだし」

 

沖田に対してはアスナ絡みもあって強い嫌悪感を持っている神楽。

 

腕を組みながらいずれ矛を交えるのも時間の問題だと呟いていると、ユウキが勢い良く手を上げる

 

「アスナはボクが護ってあげるしあの人とも戦いたかったんだー」

 

「アスナ姐を護るのもあのドSを倒すのも私アル、関係ない奴はすっこんでろ犬泥棒」

 

「ハハハ、まだあのワンちゃんを乗り回した事怒ってるんだ」

 

「当たり前だコラァ! あれからウチの定春はしばらく私を上に乗せてくれなかったんだぞ! ウチの定春の心を盗んでおいてタダで済むと思うなよ犬泥棒!」

 

「ごめんごめん、あ、今度また乗せてくれる?」

 

「ふざけるなアル! 二度と乗せるかぁ!」

 

愛犬である使い魔、幻獣種・定春を乗り回された事を未だに根に持っている神楽はユウキにすっかり頭に来た様子で怒鳴りつけるも、ユウキの方は全く悪びれもなさそうにヘラヘラとまた乗せてくれと言い出す始末

 

やはり銀時やキリトと付き合えるだけあって、彼女もまた他人に対して遠慮が無い

 

「そういえば神器で思い出したんだけどさ、もしかしてアスナって、五十五層にある氷の洞窟で入手できる青薔薇の剣の神器クエストに参加した事ある?」

「え? 確かにあるけどそれがどうしたの?」

「いやキリトが前に言ってた事思い出してさ」

 

神器と聞いてふと随分前の事を思い出し、ユウキは今度はアスナの方へ振り返って話し始めた。

 

「キリトがそのクエスト参加中に君らしき影を見たかもしれないって言ってたんだ、それでもしかしたら君が青薔薇の剣を取ったんじゃないかって少しの間疑ってたんだよ彼」

 

「ああ、リアルで初めて顔合わせした時もそんな事言ってたわね……でも青薔薇の剣を入手したのは私じゃないわ、凄く綺麗な剣だって聞いてたから欲しかったんだけどね、どこか別の人が先に取っちゃったみたい」

 

「へーそうなんだ、ボクは青薔薇の剣の事は知らなかったけど、そんなに綺麗だったの?」

 

「まあ実物は私も見てないけど、一目見ればため息が出てしまうという、あり得ない程に美しい剣とか前に聞いた事あるわ」

 

「そうなんだ、じゃあボクもちょっと欲しかったなー」

 

この世に二つとない輝きと美しさを併せ持つ神器・青薔薇の剣

 

その話でアスナとユウキが盛り上がっていると、小指で鼻をほじりながら銀時が「ケッ」と面白くなさそうな表情で

 

「美しいだとか、綺麗だとか、ホント女ってのはそういうの好きだよなー、剣で大事なのは見た目じゃねぇんだよ、大事なのは中身の方だ、人も剣も切れ味が肝心なんだよ」

 

「いやいや見た目も大事だって、見てるだけで愛着が湧く得物の方が使いたくなるでしょ? 見た目も中身も汚い銀時はそこん所わかってないなー」

 

「誰が見た目も心も汚いだ! 俺の心はいつだって少年だった時を忘れない純粋無垢なんだぞ! 見た目だって小栗旬だコラァ!!」

 

「小栗旬に失礼でしょ、謝りなさい」

 

「お前に小栗旬のなにがわかんだ!」

 

男として、侍としての感性でモノを言う銀時だがそこはユウキとアスナの女二人に逆に噛みつかれてしまう。

 

無論、銀時の言う通り剣で最も大事なのは中身である性能だが、見た目もまた大事であり、戦いにおける利と繋がる事だってあるのだ。

 

「銀時、金木犀の枝で造る神器はちゃんと恥ずかしくないのにしてよ、神器なんだからカッコいいのにしてね」

「知るかよ……そもそもカッコよくなるかどうかは鍛冶師の腕次第だろうが……」

「その辺は心配しなくていいわ、リズのセンスは抜群だから、完成すればきっといいデザインに仕上がってる筈よ」

 

ユウキの言葉にイライラした様子でブスっと返事する銀時だが、心配はないと自信満々にアスナは答える。

 

だが

 

「まあ完成すればの話だけどね……」

 

未だ初めての神器造りに幾度も難航し、最近ではすっかりノイローゼ気味になって

 

突然笑いだしたり泣き出したり、終いには踊り出したりする等

 

数々の奇行を繰り返している友人を思い出し、心配しつつ彼等に聞こえない様ボソリと呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして銀時とユウキがアスナと神楽と接触している頃

 

そんな事も露知れず、キリトは一心不乱にギガスシダーに生える一本の枝を斬り落とそうと頑張っていた。

 

偶然出会った不思議な少年、ユージオと共に

 

「ってオイ! 今完全にタイミングズレてたぞ! もっと俺に合わせろ! 俺とシンクロしろ! チューニングだ! そしてシンクロ召喚だ!!」

 

「シンクロ召喚ってなにさ……いやいや今のはキリトの方が悪いよ、だって完全に踏み込みが遅れてたじゃん、斬る箇所もズレてるし」

 

「いいかユージオ、俺と呼吸を合わせるんだ、お前は俺の思考を読み取り完全にコピーするんだ、お前は今から俺になるんだ、ユージオという存在はティッシュに包んでゴミ箱に捨てて来い」

 

「ごめん、君みたいになるのは嫌だから……とにかくもう一回合わせてみようよ」

 

ひたすら剣先程度しかない僅かな隙間に剣を振るって斬り落とすという作業はかれこれ4時間にも及んでいた。

 

キリトが剣を振り下ろし、ユージオが剣を振り上げる、全く同じ個所に同じタイミングかつ同じ威力で攻撃しなければならないというのは、やはり想像していた事よりもはるかに難しい動作だ。

 

二人はゼェゼェと息を荒げながら体が疲れて来た事を確認しながらも、今度こそはと再び一本の枝に向かって剣を振るう。

 

そんな彼等を少し離れた所で飽きずに見守ってやっているのは

 

ユージオの知り合いのつんぽと、キリトの雇った情報屋のアルゴであった。

 

「ハハハハ、続けてる内に段々とタイミングが合って来ているがまだ折れないナー、こりゃ相当判定がシビアなんだろうか」

 

「……」

 

「それにしても、おたくはさっきからずっとあの二人の頑張りを興味深そうに見ているが、何を考えているのかネ?」

 

「……少々意外だと思ってな、拙者自信が提案したとはいえ、アレがあんな熱心にあの少年に肩入れするとは」

 

隣りで笑っているアルゴに話しかけられると、つんぽは掛けているグラサンをスッと上げながら二人から目を逸らさずにポツリと返事する。

 

「アレは今まで拙者達以外の者とはあまり慣れ合おうとせんかった、自己主張する事もほとんどなく、拙者達からの指示を待つだけで自ら動こうとは考えもせんかった」

 

「へー」

 

「だが今のアレは、自ら進んであの少年に助言したり積極的に己が考えた事に従っているでござる」

 

表情は相も変わらず真顔のままだが、どうやらユージオの行動が予想外だったらしく、少し驚いている様だった。

 

とアルゴはそんなつんぽを見ながら推測する。

 

「もしかしてあの少年と関わった事が刺激となり、アレの思考が一時的に変化した、という事なのでござろうか」

 

「キー坊に触発されて自分の言いたい事を言えるようになったって事かい? まるで人間ではなくロボットに向かって言ってるかの様な口振りだな」

 

「おっと、拙者とした事が口が過ぎてしまった。勘の良さそうなおぬしにはこれ以上何も言わぬが吉か」

 

「いやいやもっと喋ってくれてもいいのだヨ、俺っちがなんでも聞いてあげるからサ」

 

つい喋り過ぎたと反省しつつ、アルゴに対してずっと警戒心をもっていたつんぽは、口元に小さく笑みを浮かべて黙る事にした。

 

それにアルゴが彼のロングコートの裾を引っ張って無理矢理にでも情報を入手しようとしたのだが

 

ギガスシダーの前でキィン!と今まで聞いた事のない強い快音が聞こえたので彼女はバッとそちらに振り返った。

 

「今の音、もしかして……」

「いや、ちと浅かったみたいでござる」

 

もしや?と思ったアルゴにずっと二人を観察していたつんぽがボソッと答えた。

 

キリトとユージオの攻撃は、これまでになくバッチリ噛み合ったタイミングだったのだが

 

残念ながら疲れのせいで威力を込めれなかったのか、両者の件は交差せずにあと数ミリ届いていなかった。

 

「く! 疲れのせいで威力が衰えたのか……惜しかったな今の、完全によっしゃ折れた!と思ったのに……」

 

「一回休憩挟んだ方がいいんじゃない?」

 

「いや一旦止まったらまた斬り付ける箇所とタイミングを覚えている体が忘れる、もう一度やろう」

 

「タフだなぁ……」

 

惜しかったことに悔しがりつつもすぐに剣を構え直すキリト。

 

この男は絶対に諦めようとしない、何が何でも己の欲望に従いこの枝を強く欲しているのだ……

 

最初はかなりふざけた奴だと思っていたが、疲労しつつもへこたれていない彼を見てユージオは思わず見とれてしまっていると、構えたままキリトが確認する。

 

「いけるかユージオ」

「正直キツイけど……君が大丈夫なら付き合ってあげるよ」

 

何時間も繰り返し続けたおかげで段々互いの呼吸とリズムが合う様になってきたキリトとユージオ

 

 

キリトは剣を振り下ろし、ユージオは剣を振り上げる、モーションは違うし力の込め具合も微妙に変わるが

 

二人は一本の枝を間に挟んだ状態で向かい合いながら、タイミングを揃える為にしばしの間を置く

 

「やるぞ、今度こそ!」

「うん!」

 

短い掛け合いを終えて二人は全く同時に得物にありったけの力を込めて地面を強く踏む。

 

そして

 

「でぇい!」

「そりゃあ!」

 

キリトが斜め下に振り下ろし、ユージオが斜め上に振り上げた。

 

すると次の瞬間

 

 

 

 

 

 

バッチリ噛み合ったエリシュデータと青薔薇の剣が正面からぶつかり

 

パキィン!と何か堅いモノが折れた音と同時に

 

ギガスシダーの枝が遂に折れて、地面にポトリと落ちたのだ。

 

神器の素材となるギガスシダーの枝が、遂に……

 

「お! おぉ! おぉぉぉぉ! よっしゃあ! よっしゃあぁぁぁぁぁ!!」

「やった! 遂に斬り落とせたねキリト!」

 

互いに疲労感も忘れて両手を掲げてガッツポーズする二人

 

キリトに至っては人生史上最大の喜びと言わんばかりに歓喜の雄叫びを上げている。

 

「長かった、遂に俺にも神器を手にする時が……!」

「良かったね、それにしても凄い喜び様だね……手伝ったこっちも思わず引くぐらい……」

「当たり前だろ、EDOをやる者のほとんが血眼にしてでも求める神器の素材を遂に手に入れたんだぞ」

 

念願の神器の素材を入手した事にひどく興奮した様子で震え出すキリトにユージオが軽く引いていると

 

「そういやずっと俺の素材入手に付き合ってくれてありがとな、お詫びに今度、お前が欲しいモンあったら手伝ってやるよ」

「え、いいの?」

「そりゃお前……流石にこんな面倒事にずっと嫌な顔せず付き合ってくれたんだから……お礼の一つや二つしてやらないと悪いだろ……」

 

突然頬をポリポリと掻きながら、キリトは照れ臭そうに今度お礼がしたいと自ら言い出した

 

そしてそんな事言われてちょっと驚いてる様子のユージオに対し、顔を背けながらスッと左手を差し出す。

 

「お前とは初めて会ったのに不思議とビックリするぐらい息が合った、だからこれからもよろしく頼むぜ」

 

「そうだね、最初は苦手な相手だと思ってたけど、正直キリトとの連携はまるで”ずっと昔から一緒”だったんじゃないかと思うぐらいバッチリだった……僕でよければこれからも暇があれば手伝ってあげるよ」

 

突き出すように手を出して来たキリトにユージオはフッと笑いながらその手を握って握手を交えるのであった。

 

だが

 

二人がそんな風に握手を交えて堅い友情が芽生え始めようとしている中で

 

「ん?」

「あれ?」

 

突如上からヒュンヒュンと何かが風を切りながら回転して落ちてくる音が聞こえた。

 

不思議に思ったキリトとユージオは揃って顔を上げると

 

「「!?」」

 

それと同時に彼等から数十センチ離れた所の地面に深々と何かが落ちて勢いよく突き刺さっていた。

 

握手を止めて二人は一旦そちらに目を向けるとそこには……

 

「……なぁ、アレって剣の先っぽだよな……? なんで上から落ちて来たんだ?」

「さ、さあ……あれ? でもあの剣、よく見たら君が持ってた剣と似てるような……」

「……」

 

地面に刺さっているのは見事に鋭く尖った黒い刃。

 

それを見てユージオが恐る恐る指摘すると、キリトは右手にずっと持ってたエリシュデータを思い出してスッと掲げてみる

 

 

 

 

刃の部分が付け根からポッキリと、見事なほどに綺麗にへし折られていた。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇ!? どういう事だこれぇぇぇ!? 俺がずっと愛用していた剣がなぜ!? ホワイ!?」

「あ~もしかして……」

 

自分の十八番である二刀流を行う事の出来る貴重なレア武器であるエリシュデータが、どうして折れてしまったのだとキリトが悲鳴のような声を上げると

 

頬を引きつらせながらユージオが心底申し訳なさそうな感じで

 

「枝を斬り落とす時に君の剣と僕の剣がガッチリぶつかった時に……僕の青薔薇の剣の衝撃で君の剣が折れちゃったのかも……」

「テメェのせいかァァァァァァァァァ!!!」

「うらばッ!!」

 

どうやら二つの剣が交差した時、青薔薇の剣が彼の愛剣を思いきり耐久値を削り切ってしまったみたいだ。

 

その事をユージオが告白した瞬間、キリトはさっきまでの恩義を忘れて、彼に向かって怒りのドロップキック

 

「どうしてくれんだコラァ! コイツが無いと二刀流になれなくなるんだぞ! 返せぇ俺のエリシュデータ!」

 

「い、いやそんな事言われても無理だよ! あ! 剣は折れたけど神器の素材があるんだし、無くなった剣は神器で補えばいいんじゃないかな!?」

 

「神器は造るけど二刀流も大切なんだよ俺は! 両手で剣を二本持つという超カッコいいプレイスタイルがもう出来なくなるじゃねぇか!!」

 

「い、いや別にそこまでカッコいいわけでもないんじゃ……ってうわぁぁぁぁ!!!」

 

「二刀流をバカにすんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!! 謝れ! 俺と宮本武蔵に謝れ!」

 

大切な愛剣、何より巌流スキルから放たれるお得意の二刀流が出来なかった事がショックで、キリトは我も忘れてユージオの両足首を掴むと豪快にジャイアントスイング。

 

せっかく強い友情が生まれたと思ったのに、不運な事故のおかげであっけなく二人の間にヒビが生じるのであった。

 

「あーあ、キー坊の奴、相手が自分を手伝ってくれた恩人だというのも忘れて何やってんだか」

「難儀な目に遭っているでござるな、しかしあの少年との出会いがアレにどんな音色を加えてくれるのか……」

 

ユージオをフルスイングしながら回転しているキリトを、離れた所で面白そうにアルゴが笑っていると

 

つんぽもまた、会ったばかりの少年に最後まで振り回されっぱなしのユージオを見てフッと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「出会いに感謝する歓喜の歌になるか、出会いに後悔する悲哀の歌になるのか……さてさてどんな歌が完成するか楽しみに待つ事にしよう」

 

 




これにてキリトの神器クエストは無事終了です、しかし代償は二刀流スキル持ちのレア剣一本……彼にとっては結構な痛手です……

次回はグロッキー状態のリズベットからスタート、神器造りに難儀している彼女の下へいつもの三人組を始め様々なプレイヤーが集まっていく。

選りすぐりの精鋭達が揃いし時、リズベットは彼等に一つの提案をするのであった……

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