竿魂   作:カイバーマン。

55 / 92

空洞虚無さんからの「竿魂」の支援絵です。


【挿絵表示】


元ネタは、転生したらスライムだった件、ですね。最近アニメ化したみたいですね。

スライムになった銀さん……うーむ、スライムなのに滅茶苦茶しぶとそうで怖いですね……

私の別作品の事ですが、スライム好きの某女神でも遠慮すると思います、けど某勇者は普通に仲間にする為に肉とかあげそう

面白いネタイラストを描いて下さり本当にありがとうございました!



第五十五層 受け継ぐ者と飢える者

第五十層・アルゲードにて、銀時はユウキに連れられてエギルの店へと来ていた。

 

2階建ての建築物で1階がエギルの店

 

胡散臭い雰囲気が立ち込められた店内には、いかにも怪しげなモノが売り場に出されている。

 

「そうか、テメェも遂にここまで辿り着きやがったか、コレでお前もリアルだけでなくこっちの世界でも俺の店の常連になるって訳だな」

 

「勝手に人を常連に仕立て上げようとしてんじゃねぇよ、なんでリアルでもこっちでもそのハゲ頭を拝まなきゃいけねぇんだ」

 

「おい。いい加減人をハゲ呼ばわりすんじゃねぇよ、そんなに自分がフサフサな事が嬉しいか? そんなにハゲが滑稽に見えるのか?」

 

「ハゲが滑稽つうか、希望も毛根も潰えた頭でまだ生える筈だと思い込んでるお前自身が滑稽なんだよ」

 

店の中に入って早々早速カウンター越しにバチバチと火花を散らすのは店主のエギルと客の銀時。

 

昔馴染みの相手だからなのか、いつも以上に喧嘩腰になる銀時に、一緒に来ているユウキが「はいストーップ」とビシッと手を伸ばして仲裁に入った。

 

「今日は五十層に辿り着けた事を報告する為にエギルの店にやって来たんでしょ? 喧嘩ならリアルでやってよ」

「いや喧嘩はいいのかよ」

「仕方ねぇな、しかし五十層ねぇ……お前もいよいよここまで来たのか、ま、いずれは来るだろうとは思ってたぜ」

 

ユウキに喧嘩を止められて銀時が渋い表情を浮かべる中で、エギルは顎に手を当て彼の凄まじい攻略速度に素直に感心する。

 

「これでお前もあと半分って所だな、六十層ぐらい行ける実力になればもう立派な上級プレイヤーの仲間入りだからしっかりやれよ」

「半分?」

「浮遊城・アインクラッドの全層は百層までだろ? だからあと半分ってこった」

「マジかよ、こんだけ苦労してまだ半分しか攻略できてなかったの?」

「おいおい知らなかったのかよお前……」

 

アインクラッドの全層は全て数えると百層だと言われている。

 

EDOをやるプレイヤーなら基本中の基本知識だが

 

そんな話今まで全く知らなかった銀時はキョトンとした表情を浮かべてエギルを呆れさせる。

 

「ちなみに俺はもう六十層まで攻略済みだぜ? カミさんは七十層だ」

「なんでカミさんがお前より十も上にいんだよ……あれ? それじゃあ……」

 

 

エギルが六十層、彼の奥さんが七十層と聞いて

 

ふと気になった様子で銀時はユウキの方へ振り向いた

 

「お前やキリト君は今どこら辺まで攻略してんの?」

「あーいつ聞いて来るんだろうと思ってたけど……やっとしてくれたねその質問」

 

今の今までずっと自分がどこまで攻略しているのかを聞かずに、ただがむしゃらに突き進んでいた銀時に、ユウキは肩をすかしながら軽く笑って見せると

 

「七十五層目だよ、キリトもきっとボクと同じだろうね」

「うげ……つう事はまだまだ先じゃねぇか……おまけにキリト君も一緒かよ」

「今の所そこにいるプレイヤー達が今のEDOトップランカーって所だね、七十五層から上のプレイヤーはまだいないから、実はこのゲームって未だ百層に到達できたプレイヤーって一人もいないんだよ」

「マジでか!? このゲームってもう発売して二年以上経ってんだろ!? なのに全クリした奴一人もいねぇとか冗談だろ!?」

「そこが凄いんだよこの世界は、二年かかってやっと七十五層、しかもそっから難易度が半端なく上がっちゃってて脱落者が続出中なんだ」

 

キリトとユウキでさえ攻略出来ていない七十五層、どうやらそこからの難易度は今までとは比べ物にもならない程高くなっており、そこまで到達できたトップランカー達も心折れてゲーム自体を引退する人が増えて行ってるらしい。

 

共に戦える仲間が減ってしまった事により七十五層の攻略がより難しくなってしまう。

 

ユウキやキリトがそこから上に上がれない理由は正にそれなのだ。

 

「トップランカー達がどんどん引退していって戦力がガタ落ち、おかげで七十五層のフロアボスを前にしてボク等は長い間一向にそこから先へ進めないんだ」

「七十五層まで来て引退とか勿体ねぇな、もうちょっと頑張れよそこは」

「そういう頑張ろうという気力も消え失せるぐらい七十五層からの難易度は以前より桁違いってことだよ」

 

七十五層、そこがユウキとキリトがいる場所だけでなくEDOのトッププレイヤーが君臨する場所。

 

しかし未だ戦力不足で先へ進めないという現状に、銀時は腕を組みながらふと考える。

 

「だったら俺が行くしかねぇな、その七十五層とやらに」

「銀時がボクと同じところまで来てくれたらそりゃ嬉しいけどさ……一人増えただけじゃまだ足りないんだよね……」

「俺一人じゃ不服だってか? なら増やせばいいだけだろ、使える戦力って奴を」

 

銀時だけじゃどうしてもまだ足りないと素直にぶっちゃけるユウキに、銀時はフンと鼻を鳴らして平然と答える。

 

「根性のある腕の良い連中が揃って一致団結すれば、そのつえーボスも倒せるだろきっと、このゲーム作った奴だってなにもクリアさせないようにしてる訳じゃねぇだろうし」

 

「まあね、けど集まるかなぁそんなプレイヤー……言っておくけど七十五層に辿り着く事自体凄く難しい事なんだからね」

 

「いつになるかわからねぇけど、その日が来るのを待つしかねぇだろうよ、気長に待ってれば集まるだろ」

 

ユウキのいる七十五層……まずはそこへ行く事を目的にしようと決心した銀時は

 

自分と同じく上へと目指す者達がそこへ集まる事をただただ願うしかないのであった

 

「後はその日が来るまでは個人の戦力を上げるとかすればいんじゃね?」

「銀時の割にはまともな事言うね、ならボクも頑張ってみるよ、銀時だってもうすぐ神器が手に入るし」

「どうだかねぇ……あの娘っ子は俺が見る限りあんま当てにならないんだよなぁ……」

「それに今ボクが銀時の為に準備してる……いやなんでもない」

「は?」

 

急に自分が言いかけた言葉を止めて誤魔化すユウキに銀時が疑問に持つ中

 

話題を逸らそうと慌ててユウキが彼に口を開いた。

 

「そ、そういえばさ。個人の強化ならキリトも熱心に取り組んでるんじゃない? 彼、あんなに神器欲しがってるんだし、もし本当に手に入ったら凄く頼りになるよ」

 

「アイツが? どうだろうなぁ、確かにリアルじゃクソ雑魚ナメクジのアイツが、こっちでは使えるっちゃあ使える奴になってるけど」

 

銀時だけでなくキリトも神器を手にすれば戦力は大幅に上がるのは間違いない筈

 

しかし果たして彼は無事に神器を手に入れられるのだろうか……

 

「神器に関しちゃ特に暴走気味になるからなアイツ……」

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、銀時の心配をよそにキリトはというと

 

「よしわかったこうしよう、俺とデュエルして決着つけよう、勝った方が青薔薇の剣の所有者だ」

「いや勝手な事言わないでよ……だからこれは僕が見つけたんだって……」

「なに自分が所有者面してんだぁ! 俺が手に入れようとしたのを横から掻っ攫った不届き物のクセに!」

「参ったなぁ……さっきから全然納得してくれないよこの人……」

 

ここは神器の素材になる枝があるという巨木・ギガスシダーの前

 

神器の素材目当てにアルゴの案内でここまでやってきたキリトは、そこで偶然顔を合わせた少年・ユージオと出会うのだが

 

実は彼が自分がずっと探し求めていた青薔薇の剣の所有者だと知って、さっきからずっと喧嘩腰で剣を奪い取ろうとしているのだ。

 

言いがかりを吹っ掛けられてユージオは困った様子で後頭部を掻きつつ、どうすれば諦めるんだと悩んでいた。

 

「というか僕、君の名前すら知らないんだけど……そんな誰だかわからない人に大事な剣をはいそうですかと預けられると思うの?」

 

「キリトだよ、これで俺の名前わかっただろ? 名前さえわかれば俺達はもう親友と言っても過言ではない、ということでその剣くれ親友」

 

「いやどんな親友それ……ねぇキリト、まずは僕の話を聞いて……」

 

死んだ魚のような目をしながら要求してくるキリトにユージオはやんわりと断っていると……

 

「どうやらお困りの様だな少年、なんなら拙者が代わりにこの者を納得させてやってもいいでござるよ」

「え? わ!」

 

そこへフラッと現れた人物にユージオはビクッと驚き目を見開く。

 

成り行きでキリトと出会いここまで来た人物・謎のプレイヤーであるつんぽだった。

 

するとつんぽは驚くユージオに対して自分の口に人差し指を押し当て

 

「こちらの世界ではつんぽという名前で通っている、間違えても向こうの世界の名だけは出すでないぞ」

「あ、わかりました……よろしくお願いしますつんぽさん……」

 

自分の本名は決して晒すなと釘を刺されたユージオはややオドオドした様子で頷くと

 

二人の会話を聞いていたキリトは「は?」と口をへの字にする。

 

「アンタ等知り合いなのか、もしかしてアンタが待ち合わせしてた相手ってこのユージオって奴の事だったのか?」

 

「いかにも、拙者の連れに随分としつこく付き纏っている所悪いんだが、こちらも何かと重要な話をしなければならないので、悪いが席を外してくれんか?」

 

「いや席を外すのはアンタ等の方だろ、俺は神器の素材を手に入れる為にこのギガスシダーの巨木の秘密を暴かないと……って」

 

つんぽと揉めてる最中でキリトはハッと気づいて目の前のギガスシダーを見上げた。

 

「そういえば俺元々ここに来たのってギガスシダーから神器の素材を手に入れる事だった……なんだよそれさえ出来れば俺もう自分の神器手に入るじゃん、お前から青薔薇の剣返してもらわなくても大丈夫じゃん」

 

「いや返すも何もこれは僕のモノだから……」

 

「あ、でも得物が二本とも神器ってカッコイイな、よし、やっぱそれもくれ」

 

「ようやく落ち着いたと思ったらまた戻って来た! もう勘弁してよ! 君どんだけ神器に取り憑かれてるのさ!」

 

 

つんぽが間に入ってくれたおかげであっさりと納得してくれるかと思いきや、また寄越せと言って来るキリトに、流石にユージオもいい加減にしろと叫んでいると

 

「ほれほれ、もうその辺にしておけキー坊、お前さんも本当にわからず屋だナ」

「あなたは……?」

「このバカの案内役兼保護者のアルゴってんだ、よろしく」

 

つんぽに続いて現れたのはキリトを止めに入る情報屋のアルゴであった。

 

半笑いで軽く挨拶する彼女に、ユージオも「あ、どうも」と軽く会釈していると、アルゴはこちらに顔をしかめてるもう一人の少年の方へと振り返る。

 

「さてキー坊、お望みの木の前にちゃんと挨拶してやったぞ、後は自分で考えて本命を取って見るんだネ」

 

「言われなくてもわかってるよ、けど出来れば取り方もちゃんと教えて欲しいんだが? 枝を斬れば良いって訳じゃないんだろ当然」

 

「まあそれぐらいの事なら答えてやってもいいか、言われて簡単に出来るモンでもないし……とりあえずこのギガスシダーの巨木は破壊不能オブジェクトだ、斬り落とす真似なんて絶対に出来ない」

 

「そもそもこんなデカい巨木を斬り落とせるプレイヤーなんてどこにもいる訳ないだろ、で? 巨木はダメでもそこにある枝ならなんとかなるのか?」

 

アルゴの話を聞きながらギガスシダーその物は斬れないと理解するキリト、そして丁度目線に合わせた先に神器の素材となる枝が生えている事に気付いた。

 

「流石に素材になる枝そのものは破壊不能オブジェクトはかかってないよな」

「なら試しに斬ってみたらどうだイ?」

「言われなくてもやってみるよ」

 

アルゴに言われるまでも無くキリトは既に剣をチャキッと構えていた。

 

そしてユージオとつんぽが黙って見てる中で、彼はジッと剣を上に掲げると、丁度目元にある枝目掛けて

 

「おらぁ!」

 

力任せに思いきり振り下ろす、しかし……

 

「あ、あれ!?」

 

枝を斬り落とすつもりで振り下ろした剣は、パァンと間抜けな音と共に弾かれてしまう。

 

そしてすぐにキリトの前にビッと短い音で「破壊不能オブジェクト」という赤文字が現れた。

 

「なんだよ枝まで破壊不能なのかよ! じゃあ枝を斬り落とすなんて絶対に無理じゃないか!」

「そりゃそう簡単には上手くいかないサ、だからこそコレは神器を手に入れる為の試練なんだヨ」

 

まさか情報はデマだったのか? いや正確性に関しては他の情報屋よりも一線を越えて高いアルゴの話だ、その可能性は低い。

 

なら何故斬れないんだろうかと疑問に思うキリトに、アルゴはまた話を始めた。

 

「コイツは確かに基本は破壊不能オブジェクトだ、だがこの枝の、ほんのちょっぴりの、剣先ぐらいの僅かな部分だけダメージエフェクトが発生する場所があるんだとサ」

 

「剣先程度の僅かな隙間って……もしかしてこの枝を折るにはそこを狙うしか無いってのか!?」

 

「しかも一寸も狂いもなく正確に、かつ威力も角度も完璧な状態で振り下ろす必要がある、人並外れた機械の様な精密動作を求められるんだヨ」

 

「ウソだろオイ……! 神器を手に入れる方法だと聞いてるから難しいのはわかっていたが……たった1本の枝を斬り落とす為にそこまでの技術を求むなんてムリゲーも良い所だろ……!」

 

銀時は数多の枝の中から1本の当たりを引かなきゃならないという正に天運のみに身を預けるクエストだったが

 

キリトの場合は己の技術力のみを頼りに1本の枝を折るという、対照的なクエスト内容だった。

 

銀時は実力は意味が無く運だけが頼りだった、しかしこればっかりは運は全く必要ない、

 

代わりに必要なのは剣を扱う為の威力・集中力・洞察力・精密動作・etc……つまり今まで培った実力がモノをいうという事だ。

 

「こりゃあ簡単にできる事じゃないぞきっと……まあ仕方ないか、難しいモノほど手に入れた時の満足感は半端ないしな」

「ほぅ、やっぱりお前さんは諦めないんだなキー坊」

「当たり前だろ、目の前にずっと欲しがってたモンがぶら下がってるのに諦めるなんて出来るか」

 

そう言ってキリトは再び剣を構える、何処を当てればダメージを与えられるのかと、ジッと目の前に生えてる枝を睨み付けながら

 

「どれだけ時間が経っても絶対に斬り落としてやる、これ以上あの人にナメられてたまるかってんだ」

「フ、まあ精々頑張って見ろ、俺っちもしばらく見ておいてやるから」

 

神器を手に入れる事に関しては誰よりも執着心が強いと自他共に認めているキリト

 

どれだけ難しいクエストだとわかっても絶対に成し遂げると迷いなく豪語する彼にフッと笑いながら

 

アルゴも彼に付き合ってやるのであった。

 

 

 

 

そして

 

「あれからずっとああして枝を斬り落とそうと頑張っておるな、あの少年」

「はい……でも凄いですよね、始めた時からずっと思いきり剣を振り下ろしてるのに、全く威力が衰えてない様に見えます……」

 

キリトが斬り始めてからしばらく経つ

 

アルゴが傍で見守ってる中、つんぽとユージオは彼女達から少し離れた所でその光景を眺めていた。

 

ゲーム如きになんであんなに必死になってるんだとつんぽは思っているのだろうが

 

ユージオの方は強い好奇心を持ってキリトをまじまじと見つめている。

 

「よっぽど神器を手に入れて力が欲しいんですかね、それとも絶対に負けたくない相手でもいるのか……」

「そんな事おぬしが気にする必要ではないでござろう、あの少年はほおっておいて、こっちはこっちでさっさと話をしようではないか」

 

その冴え渡った剣筋は素直に凄いと思った、普通の人ならすぐに集中力が乱れて剣先がブレブレに動いてしまう筈なのに

 

機械とまでは言えないがあそこまで大きなブレも無く何度も同じ感覚で剣を振り下ろせるプレイヤーなどそうはいないであろう。

 

「アレだけ必死に集中していればこちらも声も届かぬであろうし考都合というもの、それではまず例の計画の事でござるが……ん?」

「…………え? あ! す、すみませんつい見取れちゃってて……」

 

 

キリトの事は無視して自分達の話を、と思って切り出したのだが……

 

大事な話をする予定なのにユージオはただただジッとキリトを見つめたままだった。

 

「こんな世界でもあんなに夢中になって頑張っている人がいるのに僕は……」

「……そういえばおぬし、どうしてそんな得物を腰にぶら下げているのでござるか?」

「え?」

 

何か思い詰めた表情を浮かべるユージオにつんぽはしばしの間を置くと、ふと彼が腰に差している青薔薇の剣について触れる。

 

「おぬしには自慢の得物があるではないか、何より斬れる、そして何より恐れられる最強の得物が……」

「……コレは他のプレイヤーと同じように振る舞う為のカモフラージュです、あの”刀”は人前で使ったら目立ちますし。それに……」

 

腰元で輝く得物を見下ろしながらユージオは寂しげに

 

「この世界に自分がいるっていう証なんです、この剣だけは誰から貰ったモノではなく自分一人で手に入れた。何もかも貰ってばかりの僕が唯一自分で考え行動してその手に収めた存在……だから色々と思い入れがあるんですよねこの剣には」

 

「……唯一自分自身で得た物でござるか……なるほど、やはりおぬしは拙者達が考えてる以上に思考が複雑化しておるな」

 

「笑っちゃいますよね、僕みたいな存在が、ただの一つのデータでしかないモノに強く思い入れを持つなんて……」

 

「いやそれはそれで都合がいい、この世界に溶け込む為にはよりそういう判断機準でモノを考えた方が自然でござる」

 

彼が持つ青薔薇の剣がそこまで大切なモノであったのかと、つんぽは「ふむ……」と短く呟いた

 

(この一定の感情を持つ事はいわゆる進化という奴のであろうか、それとも退化か? どちらにせよ子守りに慣れない拙者一人では判断できん、戻って来たら武市にでも聞いておくとしよう)

 

このユージオという少年をどう扱っていくのか、つんぽが思考を巡らせ改めて方針を決めようとしていると

 

キィン!と突然向こうから刃が何かに突き刺さった音が聞こえて来た。

 

咄嗟につんぽとユージオがそちらに目を向けるとそこには

 

「さ、刺さった~!!」

「お、438回目の攻撃でようやく当たりにヒットしたナー、俺っちはもっとかかると思ったんだが日も変わらない内に当てるなんて凄いぞ」

「律儀に数えてたのかよ、お前も暇だな……でもダメだ、刺さっただけで斬り落とせなかった」

 

ギガスシダーの枝にひたすら休まずに剣を振り下ろしていたキリトはようやく破壊不能オブジェクトが表示されないポイントを見つけたのだ。

 

そこは丁度幹の方は斜めに振り下ろすという絶妙な角度から打ち込まないと当たらない場所。

 

こんな早い時間でさっと見つけてしまうとは、キリトの集中力と判断性はかなり高いモノなのかもしれない。

 

しかしそのまま綺麗に枝を斬り落とすとまではいかなかった

 

枝の硬さは尋常ではなく、本気で打ち込んだはずの剣の刃は丁度半分までしか食い込んでいない。

 

おまけにキリトが一旦剣を引くと、斬れた部分はたちまち何事も無かったかのように元に戻っている。

 

「とんでもなく耐久値が高い上に速攻で回復する自然治癒持ちかよ……俺の剣の一撃じゃ半分までしか行かないし……このまま続けても永久に斬り落とせないな」

 

「なら反対方向からも斬ってみたらどうだね? 上からの一撃と下からの一撃を全く同時に当てればちょうど半分ずつ斬れてポキッといけるかもしれんよ、キー坊は二刀流なんだしそれぐらい出来るんじゃないか?」

 

「いや流石に二刀流でもそう簡単にできる事じゃないからな……それってつまり2本の剣をカチ合わせるかの様にまっすぐ交差させた状態かつ場所、威力、タイミング、全てを揃えないと成立しない事なんだから」

 

やはりこれは激レア武器である神器の素材を手に入れる為の試練、そう安々とプレイヤーの思う通りにはなってくれない。

 

自分の一撃でもせいぜい半分、必要なのは一撃で枝を綺麗に斬り落とす為の威力

 

反対方向からも斬ってみたらどうだというアルゴの提案も悪くは無いが現実性が無い。

 

ステータス上に現れる能力ではなく、プレイヤーそのものが持つ力を必要とするこの試練を前に

 

流石にキリトもどうしたモンかと腕を組んでひたすら「う~ん」と首を捻っていると……

 

「凄いよキリト、さっき音がした時はビックリしたけど、遂に当てられるポイントを見つけたんだ」

 

「ん? ああユージオか……いや当てる事には成功したけどどうやらそっからが本当に大変みたいなんだよ……」

 

「遠目で見た感じだと威力が足りなかったとか?」

 

「まあな、しかし攻撃値も剣の切れ味も申し分ない筈なんだけどなぁ……これ以上の威力となると攻撃強化のポーション? いやそんなドーピングが通用する訳……」

 

ユージオの腰元で光る青薔薇の剣を欲しがりもせずに、ただ目の前の難題に集中して突破を試みようとしているキリトがブツブツと呟いていると、ユージオは少しばかりの躊躇を見せると静かに一歩前に出る。

 

「なら僕の剣を貸そうか? 青薔薇の剣」

「え、くれんの!?」

「あげないよ! 貸そうかって言ったんだよ僕は!」

「ああ悪い、俺の知り合いの天然パーマに「貸す=あげる」と勝手に脳内変換する人がいるからつい」

「無茶苦茶な発想の転換だね……そしてそれに影響受けてる君もまた無茶苦茶だよ……」

「まあでもいくら青薔薇の剣を俺がここで使ってもなぁ……」

 

自らにとって最も大事なモノと言っても過言ではない青薔薇の剣を一時的に貸してあげると提案するユージオ

 

しかしキリトはその提案に最初は乗り気になるもすぐに渋い表情を浮かべる

 

キリトが現在手に持っている剣はエリシュデータ

 

体力を半分以下に減らすともう片方の手に肩手持ちの装備が可能となる、銀時の持つ物干し竿にも匹敵する珍しい漆黒の魔剣。

 

当然威力も普通に剣に比べれば高く、神器クラスには確かに劣るもののこの世界では十分上位に食い込める性能だ。

 

「あの天パのおっさんじゃあるまいし、手に取ったばかりの剣をおいそれと簡単に振り回される程器用じゃないからな俺、まずは時間をかけて得物を手に馴染ませるタイプなんだよ」

「確かに同じ剣でも大きさや重さも全く違うからね、じゃあ今ここでキリトがまともに青薔薇の剣を扱うのは無理か……」

 

銀時なら初めて使う武器でも難なく扱えるイメージがあるが、普通はそうは行かない。

 

青薔薇の剣と言えど扱うにはそれなりの時間を有すると、キリトは苦い表情で頷いた。

 

「ああ、いきなり神器持たされてもまともな動作さえ出来ない様な気がする」

「そうか、普通のプレイヤーはそういう事でも頭悩ませることあるんだ……」

「ん?」

「いやなんでもない、気にしなくていいよ」

 

今なんか変な事言わなかったかコイツ?というキリトの疑問に気付いて、ユージオは慌てて自ら話を切り出す。

 

「それじゃどうする? もっと剣の速さと威力が上げてみるとか?」

「うーん、でも俺にはこれが限界なんだよなぁ……なんか画期的な方法があればいいんだけど……」

 

こうして頭を捻っていても名案が思い付かず、途方に暮れるキリト

 

するとそこへ

 

「ふむ、拙者を置いてけぼりにして何やら楽しんでいる様でござるな」

「あ! つんぽさん!」

 

 

フラリと歩み寄って来たのはつんぽ、どうやらユージオがキリトと親し気に会話している様子を見に来たようだ。

 

「すみません、今ちょっと彼がどうやってこの枝を斬り落とせるのか悩んでいたみたいなんで……」

「構わぬ、他者に対して興味を持つようになった事もまた重要なデータになるしな、してその悩みとは?」

「キー坊が枝を斬り落とすには、どうやら生半可な威力じゃ足りないんだとさ」

 

申し訳なさそうに謝るユージオにつんぽは別に構わないと言いつつ話を聞いてみようとすると

 

代わりに傍にいたアルゴがヘラヘラ笑いながら答えてあげる。

 

「今のキー坊じゃ精々半分程度しか食い込まない、だから倍の威力がないとコイツは斬れないって訳なんだヨ」

「倍、か……なるほど、それなら話は早いでござらぬか。どれ、拙者が知恵を貸してやろう」

「え?」

 

アルゴの短絡的な説明を聞いただけでつんぽは何か思いついたのか、キリトに向かって人差し指を立て

 

「半分斬れるのであればもう既に答えはわかっているであろう? 上から振り下ろして半分斬れるのであれば、同時に下から振り上げて半分斬れば済む話でござる」

 

「いやそれだと2本の剣が必要になるだろ、アルゴにも言ったけど俺は二刀流だけどそんな精密に同時に振る事なんて出来ないんだって……」

 

「問題ないでござる、おぬし」

 

「え? 僕ですか?」

 

 

言うのは簡単だがそうは上手くいかないだろと反論するキリトに、すかさずつんぽはユージオに向かって

 

「少しばかりこの少年を手伝わせてやっても良いぞ」

「ええ!?」

「ユージオに手伝ってもらう? まさかそれって……」

 

つんぽの提案を聞いて驚くユージオを尻目にキリトはすぐに彼が考えている作戦を察する。

 

ギガスシダーの枝を斬り落とすには今のキリトには2倍の威力が必要とされる、つまり……

 

 

 

 

「俺とユージオが協力して、反対方向から全く同じタイミング、同じ場所を挟み撃ちによるユニゾンアタック(合体攻撃)を決めろって言うのか……?」

 

「ご名答、ま、すぐには無理かもしれませんがやるだけやってみるでござる」

 

「おいおいマジかよ……」

 

ちょっとだけ意地悪そうに笑って見せるつんぽにキリトは頬を引きつらせるしかない。

 

つまり今キリトに最も必要とされるモノは

 

今ここで会ったばかりの少年と息の合ったコンビネーションを発揮する為の強い協調性

 

そう、かつて銀時とアリスが顔を合わせたばかりの状況で、ボス戦の中で披露したあの連係プレイを自分もまたやらなきゃいけないという事だ。

 

「お前、剣に自信あるの?」

「ハハハ、少しだけなら……」

「不安だ……」

 

 

キリトとユージオ、性格もまるで違うこの二人が無事にギガスシダーの枝を斬り落とせるのか

 

次回へ続く

 

 




ユージオは優しいし人当たりも良いですが、自己評価が低くてあまり前に出ようとしないタイプです。

キリトは皮肉屋だし他人とすぐ喧嘩になりますが、決して自惚れや謙遜も無く自分の評価をハッキリを自覚して、その上で出る所はしっかりと前に出ていくタイプです。

互いに弱い部分を補える「凸凹コンビ」って奴ですね。

お次はそんなキリトとユージオの初めての共同作業です、お楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。