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元ネタはユウキの姉・藍子と「ゾンビランドサガ」というゾンビ娘がアイドルやるアニメ。
竿魂では話が始まる前に既に彼女は死んでいるので、いつか色物のプロデューサーが掘り起こしてアイドルに……
そんなんなったら銀さんどうするんでしょうね、とりあえず泡吹いて倒れそうだ。
コメディ色溢れる素敵なイラストを描いて下さりありがとうございました!
第五十層・アルゲード
SAO型の占有地区でありアインクラッドでも有数の超大型の街
迷路のように複雑に作られたその場所は、下手に足を踏み込むと出口が見つからなくなり、延々と街中を迷い続ける事ケースがよくあるらしい。
そして銀時もまた遂にこの都市への入り口前へとやって来たのだ。
「デケェ~……なんだよこの街、かぶき町ぐらいあんじゃねぇの?」
「ここはアルゲード、SAO型の装備や道具が中心に揃う大きな街だよ、街中の構図は実は長年やってるボクでも把握出来ていないんだ」
「改めてこのゲームがすげぇって思ったわ……コイツを造った奴は一体何モンだよホント」
まだ入口に入っただけなのにその広々とした大広間を銀時が呆然と見回しているとユウキが彼の手を強く握る。
この世界の凄さにどんどん夢中になってくれている銀時の反応を嬉しそうにしながら
「ほらほら早く行こ、ここにはエギルが開いてる店があるの、まずはそこへ挨拶しに行こうよ」
「アイツの店? 別にツラ出さなくていいだろ、めんどくせぇ」
「結構掘り出し物とか揃えてあって結構人気な店なんだよ、よくぼったくりだと訴えられてるけど」
「そこは現実と大差ねぇんだな」
この街にエギルの店があるとユウキに引っ張られながら銀時も嫌々ながらも歩き出す。
「つうかキリト君の奴どこ行ったんだ? 一緒に五十層に上がった時は一緒にいたよな?」
「ああ、キリトならなんか野暮用があるんだって、どうしても一人で行かないといけないクエストがあるからとか」
「なんだよせっかく五十層来たってのに俺の許可なくトンズラかよ、生意気だなあのヤロー、今度シメるか」
「まあまあ、キリトもたまにはソロでやりたい事だってあるんじゃないの?」
彼女と手を繋いだままここにはいないキリトに悪態を突く銀時に、ユウキは振り返って口を開く。
「ここ最近は銀時のフォローに付きっきりで自分のやりたい事は後回しにしてたみたいだしさ、大目に見てあげようよ」
「アイツのやりたい事ってなんだよ、童貞を卒業する事? 一生かかっても無理だよそれ、諦めて大人のお風呂屋さんに行くしかないって」
「いやいや、いつも口癖のように言ってたじゃん」
自分の手助けをしてくれているキリトがやりたい事
それを聞いてもピンと来ていない様子の銀時にユウキが答えてあげる
「ほら、いつか自分の神器を手に入れるんだって」
「ああ、そういや毎度毎度言ってたな、ウザイ位に」
彼女の話を聞いて銀時はすぐに思い出した。
「神器なんざ手に入るの簡単だろ、俺なんか気が付いたらケツに刺さってたんだぞ」
「いやそれはたまたま銀時がラッキーだっただけだって、よく言ってるけどアレは熟練プレイヤーでもまず手に入らないと言われてるレア武器なんだから」
「そうか、なら今鍛冶屋に依頼している俺の神器が完成したら、アイツに思いきり見せびらかすとするか、きっと泣いて欲しがるぞアイツ」
「ああうん、キリトなら絶対に泣きながら土下座して譲ってくれと懇願するだろうね」
キリト以外なら、そんな大げさなリアクションする訳ないだろと言いたい所だが
神器の事に関しては人一倍執着心強い彼なら、銀時の言うオーバーな反応する姿も容易にイメージ出来てしまう。
「いつかキリトも銀時みたいに手に入れられたらいいね、そうすれば戦力大幅強化だし」
「お前は欲しくねぇのか? なんか欲しいもんあったら手伝ってやるよ」
「ええ!? い、いや機会があれば欲しいかもしれないけど、今の武器でも満足してるからなー……」
キリトと違ってユウキの方はそこまで神器に感心は無いみたいだ、しかし基本めんどくさがりの銀時が自分から「手伝ってやろうか?」と珍しい事を言うもんだから、若干戸惑った様子で受け答えする。
(なんでだろう、ここ最近ちょっと銀時がドキッする事をさり気なく言う様になってきた気がするような……)
ジーッと銀時を無言で見上げながらそんな事を考えつつ
ユウキは彼と一緒にエギルの店へと赴く事にするのであった。
そしてその頃、五十層に到達したのを機に、銀時達と別行動をしているキリトはというと……
「神器寄越せコラァァァァァァァァァァ!!!」
「うるさいナー、毎度の発作をこんな所で起こさないでほしいんだがネー」
彼は今五十層の街から少し離れた場所にある深い森の中を歩いていた。
近くにルーリッドの村というみずぼらしい村があるぐらいの人気の少ない大きな森
その森の中で銀時が神器の素材を手に入れたから更に頻繁に発症する様になった神器に対する心の叫びをお披露目するキリトに対し
彼と同行しているALO型の猫妖精・情報屋のアルゴがめんどくさそうに対応している。
「神器神器ってもういい加減勘弁して欲しいぞ、俺っちはお前に頻繁に催促されて仕方なく毎回神器の情報収集してやっていた私の身にもなってみろ」
「それがお前の仕事なんだろ、おかげで俺の持ち金のほとんどはお前への依頼料として消し飛んだぞ」
「欲しい情報はモノによってはそれなりの対価が必要とするのサ、この世の仕組みは全て等価交換で成り立つ、常識さね」
発作を抑え込んでやっとまともに戻ったキリトに上から目線で人生のアドバイスをしてあげながら
アルゴは周りに並ぶ大きな木々を見渡しながら話を続ける。
「だからこそ、キー坊が積み重ねて来た代金への返しとして、こうして俺っち自ら神器の素材がある場所へと案内してやってるのサ」
「それは本当に感謝しているよ、シノンから聞いただけの情報じゃ全然わからなかったからな。やっぱり持つべき者は金にいやらしいケチな情報屋だ」
「アハハハハ、それ褒めてる?」
どうやらアルゴは、キリトがかつて聞いていたシノンの神器の素材がある場所までの案内役らしい。
かつてキリトはシノンと初めて出会い、そこで世間話してる時にふと彼女から神器の情報を入手した。
その日からキリトは銀時の手助けを行いつつコツコツと情報を独自に集めたり、アルゴに協力を求めたりと日々奮闘をし続けていたのだ。
そしてようやく今回、銀時が辿り着いたこの五十層にあるプレイヤーも滅多に来ないこの森の中に
神器の素材となる枝を持つ巨大な大木があると判明したのであった。
「しっかし俺にもやっと神器を手に入れる事が出来るのか……思えば長かった、EDOが発売から二年経って、家に引き籠ってやり続けて妹から蔑みの目を向けられ、始めたばかりの新参者に神器の素材を先に取られるという出来事で、日々頭を掻き毟ってのたうち回りながら嫉妬に狂う日々を送っていた俺にも、やっと幸運が回って来たんだな」
「心底どうでもいいエピソードだナ、それとまだお前さんのモノになると決まった訳じゃないから、俺っちが案内するのは神器の素材がある場所なだけで、そこでどうやって手に入れられるかはキー坊次第だゾ」
「神器はやっぱり刀がいいなー、色もやっぱ黒だな、うん」
「捕らぬ狸の皮算用って奴か……こりゃ手に入らないフラグだな、うん?」
しみじみと今までの辛い出来事をフラッシュバックさせながら、手を顎に当てたまま既に神器を手に入れた気持ちでこれから先の事をあれこれ考え始めているキリトに、ツッコむのを放棄したアルゴがふと前に目をやると
「ちょっと待てキー坊、探知スキルが反応した、ここから少し先の距離をプレイヤーが一人で歩いているゾ……」
「相変わらず俺よりも広い範囲を探知できるんだな、って待てオイ! それってまさか!」
「んーもしかしたら俺っち達と一緒で神器の素材がある場所に向かっているかも……」
アルゴの持つ広範囲の探知能力にモンスターではなくプレイヤーが近くにいる事が判明した。
相手は一人だというが、もしかしたらこちらと同じでこの森にある神器を狙いに来たのかもしれないと彼女から聞くと
キリトはすぐ様背中の剣の柄を握りながら地面を蹴って駆け出す。
「させるかァァァァァァァ!!! 人の神器を奪おうとする奴は根絶やしにしてやらぁ!!!」
「おいおい、迷いなくPKするつもりカ、流石はキー坊、黒夜叉という悪名で呼ばれているだけの事はある。もはや血盟騎士団には言い逃れ出来ないナー」
自分を置いて勝手に走って行ってしまう彼をヘラヘラ笑いながらアルゴが見送っていると
俊敏力には自信のあるキリトはすぐにそのプレイヤーらしき人物の後ろ姿を見た。
背中に三味線の様な楽器を掛け、頭にはヘッドフォンを付けた一見場違い間のある奇妙な男
だがそんな事関係ないとキリトは問答無用で一気に彼に近づくと躊躇もなく飛び掛かる。
「俺の神器は俺のモンだァァァァァァァァ!!!」
右手に持った剣を引き抜いて、我も忘れて斬りかかるキリト
しかし
「!?」
「……」
彼の攻撃が当たる直前で、ずっと背中を向けて歩き続けていたプレイヤーが振り返らずに背中の三味線を握ったのだ。
そして直も振り返らないまま、キリトの剣に合わせて三味線に引かれてる弦で受け止めた。
しかし細い複数の弦は斬れる様子もなく、平然と彼の攻撃を防御してしまう。
「な、なんだ!? 剣を弦で受け止めた!?」
「……ほう」
ダメージが通らないとわかって瞬時に後ろに下がって驚いてる様子のキリトに
プレイヤーはやっと振り返った。
サングラスを掛けた黒髪の男性、そしてキリトと同じ黒いロングコートを着ている。
「これはこれは、まさか拙者が辻斬りに襲われるとは、いやはやこの世界は随分と面白き所でござる」
「誰が辻斬りだ! 俺は俺の神器を護りに戦う勇者だ! 俺のモノを横から奪おうとする卑劣な奴には勇者の一撃をお見舞い……ん?」
男は耳に付けたヘッドフォンからシャカシャカと音を立てながらあまり動じずに口を開くと、キリトはまだ剣を右手に構えたまま戦闘態勢に入る、しかしふと、改めてこの男を見てキリトは何かおかしな点に気付く。
(なんだコイツ……こうして見ると、俺達プレイヤーとは何か違う違和感が……)
目の前の男を見てキリトはふとふしぎな感覚に捉われる。
この男は何かおかしい、理由は不明だがそう頭の中で判断されるのだ。
違和感の正体にキリトは思考を巡らせながらまじまじと彼を見つめていると
「いやいやいや、案内役の私を置いて突っ走るとは酷い奴だなお前ーおや?」
後ろから呑気に歩いてやって来たアルゴがようやくキリトの所へ追いついた。
そして彼の隣へ立つと彼女はすぐに目の前の男に気付き
「……ほうコイツ、私達とは違う匂いがするゾ」
「お前もそう思うか? 俺もさっきから変に違和感を覚えるんだよ」
「見れば見る程なにか怪しいなあの男……特にあの黒いロングコートがいかにも怪しい」
「いや黒いロングコートはいい、アレはカッコいい、あのセンスは間違ってない、是非とも売ってる店を紹介して欲しいぐらいだ」
「ああそう、同じ服装のセンスを共有できる仲間が見つかって良かったナー」
黒いロングコートを着ている事に関しては強く仲間意識を持つキリトに対しアルゴが心にもない棒読みで返事して上げていると
キリトはさっきからずっと黙ってこちらをグラサン越しで眺めている男に自分から口を開いた。
「アンタ、ここに来た目的はなんだ? こんな観光地でもない森にやって来て何か探してるのか?」
「……」
「それともこの近くにあるルーリッドっていう小さな村にでも行くつもりか? あそこはクエストも何もないNPCだけがいるつまらない村だぞ、言っても時間の無駄だし引き返したらどうなんだ?」
「……」
「……っておい! 聞いてんのか!?」
「聞いているでござる」
何度尋ねても答えようとしない男にキリトが遂にカッとなって怒鳴りつけると、彼はやっとこさ短く返事してスッと自分の耳に付いてるヘッドフォンを指差し
「コレ、最近流行ってる神崎エルザの新曲、拙者としては立場上ライバルなのだが、中々良い音色を奏でるのでつい聞き惚れてしまったでござる、サビの部分が特に最高」
「いや聞いてるって曲の方聴いてるって事!? いや知らねぇよ! 神崎エルザって誰だ!」
「現在人気急上昇中のアイドル寺門通にも匹敵し、同じ時期にその名を広めているアーティストでござるよ、興味があるならサンプルデータを送ってやっても構わん」
「そこは返事するのかよ! なんなんだコイツ!? ひょっとして俺達の事バカにしてる!?」
全く話しが噛み合わないと思ったら急に神崎エルザだのサビが良いだのと音楽について語り始める男。
ひょっとしてただの音楽好きで夢中になってたら、たまたまここに来ていただけなんだろうかとキリトがジト目でそんな彼を眺めていると
「心配しなくても拙者はお主が欲しがってるモノは奪わんから安心せい」
「!」
「拙者はあくまでこの先にいる者と待ち合わせているだけでござる」
どうやら話はちゃんと聞いてはいた様だ。
しかもキリトの思惑とは違い、この先にいるプレイヤーと合流する為にここへ来たらしい。
神器とは何も関係ないと知ってキリトは一瞬ホッとするものの、いや口で適当な事言ってやっぱ狙っているんじゃないか?とまだ疑いの視線を向け続ける。
「こんな人気のない所を合流先にするなんてアンタの友人も変わりモンだな……いやアンタ自身もかなり変わってるけど」
「ま、人気が無い方が都合がいいのでござるよこちらも。お主だって秘密を共有したい相手とは人々の多い街中では無く、周りに聞かれない様な場所で言葉を交える事もあるであろう?」
「そりゃそうだな……なるほど、秘密の会合ねぇ……」
最もな意見を言う男にキリトもちょっと納得した様子を見せながらチラリと脇にいるアルゴと目が合う。
確かに自分もアルゴから情報を貰う時は、人が滅多に近づかない場所を選ぶことが多い。彼の言ってる事が本当ならここで戦うのは少々早計だ……
アルゴの方も自分と同じ事を考えてるのか「戦う必要はないんじゃないか?」と肩をすくめて無言のまま目だけで言ってくる。
「まだ拙者を疑うのであれば、お主等も一緒について来れば良かろう、拙者は一向に構わん」
自分達のアイコンタクトをよそに、男はこちらに背を向けて再び歩き出した。
キリトとアルゴも無言でその彼の背中を追う。
「俺達もこっちに用があるんでね、ついていくつもりは無いが変な動きしたらまた斬りかかるからな」
「お好きにいつでも来るがいい、お主の剣は磨けば光るであろうがまだまだ未完成の曲、その様な未熟な音色を奏でる者に負ける気は毛頭ないでござる」
「言ってる事はよくわかんがえらくコケにされてるってのはわかったよ……よーしならいっちょやるか」
「落ち着けキー坊、目的のモノが遂に手に入るチャンスを前に、わざわざ自ら虎の尾を踏もうとするバカがどこにいる」
要するに自分が未熟者のお前なんかに負ける訳ないだろと豪語しているのだろう。
こちとらこの世界では結構名の知れた凄腕プレイヤーだってのに……彼の言動にキリトがカチンと来てまた背中に差す剣を握ろうとしていると、そこへアルゴが笑いながらなだめに入る。
「そういえばお前さん名前は聞いてなかったナ、名はなんと言うんダ?」
「名か……そうでござるな、こちらの世界では……」
腕の袖を掴まれながらも男に斬りかかろうとしているキリトを止めながらアルゴが前を歩く男に話しかけると
男はしばしの間を置くとそっと振り返り
「つんぽ、こちらではその名で通させてもらうでござる」
つんぽと名乗る不思議な男と共に
キリトとアルゴは神器の素材が眠るというある場所へと再度向かうのであった。
それからしばらく三人で歩き続けていると
彼等の前にこの森の中でも群を抜いて巨大な黒い大樹が前に現れた。
顔を上げてもてっぺんが見えない程の大きさに思わずキリトも唖然とする。
「な、なんだこのデケェ大樹……? は! 大樹!? という事はもしかしてコレが!」
「ああそうだキー坊、コイツの名は『ギガスシダー』、周辺地の栄養を奪い取る為に『悪魔の樹』とも呼ばれていてナ、周りの木々よりも群を抜いてその身は硬く、何人たりとも斬る事は不可能と呼ばれている化け物さ」
「そしてその化け物の枝を斬れば……」
「……お前さん自身が化け物呼ばわりされる程の力を得るだろうネ」
このギガスシダー呼ばれる大樹の枝を斬り落とせば、神器の素材が手に入ると暗に教えてくれるアルゴにキリトは目を輝かせると、すぐに彼は大樹の方へと駆けていく。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!! 神器狩りじゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「あ~らら、また例の発作かぁ、ホント見てて退屈しないなキー坊は」
一目散に走り去る彼の背中を眺めながらアルゴがはぁ~とため息を突きつつ、大樹を前に立ち止まるもう一人の同行人、つんぽへ話しかける。
「んで? もしかしてお前さんはここで待ち合わせしていたのかい? 会いたい人はいるのかナ?」
「ふむ、見当たらんがきっとどこかにいるのでござろう、あの者が指定した時間に遅れるとは考えられんからな」
「たいした信頼性だね全く、まあ相手の事も気にはなるけど俺っちとしては……」
ここにいるのは自分を含めて三人しか見当たらないとわかっても、きっとどこかにいるであろうとわかった口振りをするつんぽに感心して見せるも、彼に対してアルゴの目つきがやや細くなった。
「お前さんの事がもっと知りたいねぇ……”つんぽ”さん」
「フフ、これはまた嬉しい事を言ってくれるでござるな」
名前の部分をやや強調して呼んで来るアルゴに、つんぽは余裕の笑みを小さく浮かべながら彼女の方へ振り返る。
「しかし拙者はどこぞの自称フェミニストと違って、残念ながらぬしの様な小娘に興味を持たれても困るだけだ、それに先程ぬしも言っていたであろう? 自ら虎の尾を踏むのは愚かであると」
「あー俺っちは良いんだよ、情報を求める為にはそれなりのリスクを背負うのも従順承知してるからネー、そんじゃ、お前さんの尻尾、踏ませてもらっていい?」
「フ……さてはおぬし、拙者が何者なのかもしや勘付いて……」
警告を受けてもなお食い下がってニヤリと笑いかけて来るアルゴにつんぽはグラサンの奥にある目を鋭く光らせる。
このまま一緒にいられると後々邪魔になりそうだ、つんぽは背中に掛けてる三味線へとゆっくりと手を伸ばそうとする、すると
「ふぎッ!」
「あイタッ!」
大樹の方から突然呻き声が聞こえた。
その声に反応してつんぽはクルリとそちらへ振り返ると
頭を押さえながら地面に尻もち付いているキリトと……
「おいおいおい……急に現れるなよビックリするじゃねぇか……」
「ご、ごめん、なんか騒がしいなと思ってつい顔出したら……いててて……」
「は? なに痛がってんだよ、仮想世界じゃ痛みなんか感じる訳ないだろ」
「アハハ……」
顔面を強打させて赤くさせたまま、キリトに苦笑しながら後頭部を掻くアッシュブラウンの髪の少年がいた。
年も身長もキリトと同じぐらいである
「ていうか君こそ危ないんじゃない? いきなりギガスシダーに向かって吠えながら突っ込んで来るなんてどう見ても行動としてヤバいでしょ」
「人は何故吠えると思う? それはな、獲物を奪わんと己を奮起させようと喉の奥からありったけの叫びを絞り出す為なんだよ」
「ああうん、やっぱりヤバいね君、頭が……」
悪びれもしないキリトに少年が軽く文句を言ってみるも、地面に尻もち付いたキリトは立ち直りながら平然と真顔で訳の分からない事を口走る。
そんな彼を見て少年はなおも困った様子で苦笑するしかなかった。
「それよりお前こそここに何の用だよ、さては神器か? 俺と同じ神器を狙いに来たのか? 神器一本釣り目当てか?」
「一本釣り? いや僕はここで人と待ち合わせしてるだけで……え? ていうか神器? もしかしてここにあるの?」
「知らなかったのかお前……よし今の言葉は全部忘れるか大人しくPKされるか選べ」
「ちょ! 待って待って! 別に僕は君と争うつもりは無いよ! ここに神器がある事に驚いただけさ!」
神器の素材は絶対に渡さんと血の気の早いキリトに少年は慌てて手を振って首を横に振っていると
「ん? おい」
「え?」
ふと彼のあまりにも安っぽい軽装が目に止まってキリトはふと止まった。
「お前五十層にいる割には随分と恰好がおかしいぞ、それってEDO始めたばかりに支給される服装だろ? もしかして初期装備でここまで昇って来たって訳じゃないよな?」
「い、いや僕は……」
鋭く尋ねられて少年は突然口をごもらせる
安い生地で作られた袖の短い青い布服と茶色のズボン、彼の服装はどう見てもここに昇り詰めるには無理な恰好をしている。
しかもその事を聞かれた途端急に彼の挙動がおかしくなるので、キリトはますますジーッと彼を眺めていると
彼の腰元でキラリと光るモノが見えた。
「うお……」
それを見てキリトは思わずため息がこぼれてしまう、失礼だが彼のみずぼらしい服装にはあまりにも似合わない、得物だったからだ。
白銀製の柄と鞘には薔薇の刺繍が施され、煌めく青玉が埋め込まれた青白い輝きを放つ剣
キリトはこれ程までに美しい剣を見た事が無いと、しばし見惚れてしまう
「なぁ、お前の腰に差してる剣ってなんだ? 俺でも初めて見るんだが……」
「ああ、青薔薇の剣の事?」
「へー青薔薇の剣って言うのか、確かに薔薇の刺繍が施されて柄も青白いし青薔薇と呼べるのもわか……」
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キリトの頭の中で一瞬が思考が停止した。
虫も殺せない様なあどけない表情をしたこの少年、今なんて言った?
「青薔薇の剣?」
「うん、青薔薇の剣」
「青薔薇の剣ってあの……氷の洞窟で手に入ると言われていた幻の神器?」
「よく知ってるね、あのクエストは本当に大変だったよ、運が良かったのか命からがら手に入れる事が出来たんだ」
「……青薔薇の剣を?」
「うん、青薔薇の剣を」
「……」
「……」
青薔薇の剣、それはキリトが以前意気揚々と五十五層にある氷の洞窟へ赴いたものの先に奪われてしまっていた神器……
あの時はしばらくショックで立ち直れず、おまけに銀時が別のクエストで神器の素材を手に入れて戻って来るという、もはや何事にも耐えがたい悔しい思いをした思い出がキリトの頭の中を駆け巡っていると
「あ、そういえばまだ僕の名前言ってなかったね、僕はユージオって言うんだ、よろしく」
彼が今頭の中で何を考えているのかわかっていない少年は、ユージオと名乗ってにこやかに挨拶して手を差し伸べる
しかしキリトは……
「えーとそれで君の名前は……ってうぐえぇぇぇ!!!」
「この盗人野郎がァァァァァァァ!!!!」
友好的な握手を求めながら名前を尋ねて来た心優しき少年であるユージオに向かってまさかの全力タックルをお見舞い。
そのまま彼を背中から地面に叩き付けると、馬乗りになった態勢でキリトは目を赤く光らせ
「俺の青薔薇の剣返せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「いたたた……い、いきなりなんなの!? 青薔薇の剣返せってこれ僕が先に取った物なんだけど!?」
「てんめぇ! 俺がその剣を手に入れる為にどれだけの財産と労力を賭けたと思ってるんだ! 対価は十分に払ってんだ! だったら俺がその剣を貰う権利も当然ある!」
「いやいやいやいや! 何言ってんの君!? やっぱり本当に頭おかしいの!? さっきから言ってる事が無茶苦茶し過ぎて頭が追い付かないんだけど!?」
「お前が理解出来ようが出来まいが知るかァァァァァ!!! いいから青薔薇の剣くれ! なんなら焼けた鉄板の上で土下座するから!!」
「そんな土下座を見せられても僕になんのメリットがあるのさ!?」
あまりにも傍若無人かつ身勝手な理由で青薔薇の剣の所有権を渡せと叫んでくるキリトに
ユージオは必死に抵抗を続けるのみであった。
キリトとユージオ
二人が最初に出会った時の互いの第一印象は
「盗人野郎」と「ヤバい人」という正に最悪の印象であった。
遅れながらSAOのアニメ・三期観ました。1話が思った以上に長かったのでビビリました。
そしてキリトがめっちゃ出来る男だったので二度ビビリました、ウチのキリトとは大違い。いやまあやればできる子なんですけど……
そして本編に戻りますが、今回から謎のヘッドフォン男・つんぽと、謎の神器の所有者・ユージオが登場です。
原作では出会ってすぐに仲良くなれたキリトとユージオですが、こっちでは初っ端からつまづいてるみたいですが果たして……
次回もキリトが神器を手に入れようと頑張ります。
その裏で銀さんはユウキと遊んでます