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仮面ライダーエグゼイドのラスボスらしいです、最近のライダーって漫画みたいな目になってるんですね。それともエグゼイドだけなんだろうか……
絵の中に書かれてる横文字は曲名らしくて、貴水博之さんという方が歌っていたエグゼイドのテーマソングらしいです。作品は見てないけど曲は好きです、エグゼイド
竿魂の支援絵(なのかな? うん、多分そうだろう、銀さんいるし)を描いていただきありがとうございました!
無事(?)に神器造りの依頼を終えた銀時達
しかしここでまた新たな問題が発生していた。
「……」
「見てごらんサチ、あんなにユウキさんがムスッとしているのは何時以来だろう」
「多分、ランさんが1週間ぐらい銀さんの口調を真似たロールをやり続けていた時かもね……」
基本的には明るくて人当たりの良いあのユウキが
48層地区の街で一人ベンチに座りながら、ずっと無言で機嫌悪そうにしているのだ。
銀時が自分の知らない所でアリスと度々密会を重ねていた挙句、その度に彼女から金銭的援助を受けていた事が発覚した為である。
「……」
「物凄い近寄りがたい雰囲気だ……いつもの彼女ならあり得ないな」
「まあ元はと言えばユウキの知らない所で他の女性にお金恵んでもらってたあの人が原因だろうけど……」
ユウキの様子を少し離れた所から、月夜の黒猫団のメンバーのケイタとサチが心配そうに見守りつつ、チラリと背後へと振り返る
そこにはユウキの機嫌をすこぶる損なわせた張本人の……
「なぁ、参考として聞かせて貰うんだけど、働かないまま女性からお金を貰って養ってもらう方法って、具体的にどうやれば出来るんだ?」
「知らねぇよバカヤロー、どうしてそんな事俺に聞くんだコラ」
「そりゃアリスのヒモとして常に大金を持って遊び呆ける事が出来る様になったアンタだからこそだよ、将来的に俺もそんなヒモとしてリアルで生き続けたい」
「どんだけ自堕落に生きてぇんだよお前、つうか誰がヒモだ殺すぞ」
彼女をほったらかしにしたままキリトと下衆な雑談している真っ最中の銀時がそこにいた。
傷心しているユウキに目もくれない彼に、流石にケイタとサチも軽く軽蔑の眼差しを向ける。
「ていうかあの、銀さんいい加減なんとかしてくれませんかね……ユウキさんの事」
「ああ? なんで俺がそんな事やらなきゃいけない訳? 向こうが勝手にキレてるだけじゃん、今回ばかりは俺悪くねぇよ」
「いやいやいや! 全面的にあなたが悪いでしょ! 流石に隠し事していた上に別の女とお金を絡ませた関係築いてたなんて酷過ぎるでしょ!」
「いやだから俺は別にアリスと金絡みの付き合いやってた訳じゃねぇんだって言っただろうが」
ケイタに指を突き指されて非難されながらも、銀時は小指で耳をほじりながら全く悪いと思っていない様子で
「アイツが勝手に誤解してるだけなんだよ、確かにアイツからすれば死んだ姉ちゃん裏切って別の女の所へ行ったと考えちまうのもわかるけどよ、そもそも俺はアリスとそういう関係になろうとなんざこれっぽっちも思ってねぇから」
「なんか微妙に銀さんも勘違いしているような気が……とにかく! 誤解だって言うならそれをユウキさん本人に直接伝えて下さい!」
銀時からすればそう思うのもおかしくないかもしれない。
彼からすればユウキは異性の対象というより妹であり家族のようなモノだ。
そんな彼女からすれば銀時の行いは、亡き恋人である姉を裏切る行為と見えると言えば見えるが……
多分ユウキはそんな理由で怒っているのではないんじゃないかと、恋愛事にはてんで疎いケイタでもわかる。
そしてそれは黒猫団のメンバーで最もユウキと親しかったサチもよくわかっている様子で
「銀さんお願いします、ここはユウキに謝ってください、土下座するなり一発ぶん殴られるなりして許してもらわないとダメです」
「俺アイツに殴られるの!? いやだから俺がどうして許されなきゃいけないんだっていう話な訳で……」
「大丈夫です、今の銀さんにはわからないでしょうけど、未来の銀さんはここで伝えておいて正解だったって思う筈ですから」
「い、今の俺と未来の俺? おいおい今度はSFか?」
急にサチが優しく微笑みながら変な事言い出したので、銀時はちょっと心配した様子で頬を引きつらせると
彼女自身は裏表の無いとっても良い子だと知っているので、その忠告を素直に聞いてやるべきかとしばらくポリポリと頭を掻いた後
「わ~ったよ、ちょっくら行ってくる」
そう言い残していつもの死んだ魚のような目をしながらめんどくさそうにユウキの方へと歩いていくのであった。
「案外素直に言う事聞いてくれて助かった、でもちゃんと上手く話し合ってくれるかな?」
「それは二人を信じるしかないよ、それよりも……」
銀時の背中を見ながら送り出したサチが不安そうにしていると、ケイタは頷きながらまたチラリと背後に目をやると
自分の仲間の三人が壁際に追いやられて黒づくめの剣士に絶賛絡まれ中だった。
「おい、お前等あの人に神器の素材を手に入れられるキッカケを作ったんだよな、もしかして本当は裏でそうなる様仕組んでたとか無いよな? 本当はこの世界の神器を入手できる術を知っているとはそんな超凄い集団とかなんじゃないのか?」
「いや違ぇよ! 俺達はただの弱小ギルドだし! 銀さんが手に入れたのも単なる偶然だって!」
「そういうのはいいから、そもそも始めたばかりの新参者がサクッと神器の素材手に入れるなんてご都合主義にも程があるってずっと思ってたんだ、お前等が手引きしたんだろ、素直に吐け」
「誤解だ! 俺達はただ一緒にクエストやりませんかって誘っただけだ!」
「いいから本当の事言えぇぇぇぇぇ!! そして俺に神器の在り処を教えろ!! 土下座するなり靴舐めるなりなんでもするから!! どうか俺に! 廃人プレイヤーと呼ばれてなお未だ神器を手に入れる事の出来ない哀れな俺に慈悲をくれぇぇぇぇぇ!!!」
「おいケイタ! コイツヤバいぞ! ある意味ランさんとは別の方向でヤバい!! 助けてくれ頼む!」
キリトに変な疑惑を掛けられながら、脅されてるのかお願いされているのかよくわからない状況下で助けを求める彼等を見て、ケイタとサチは引きつった顔を見合わせるとすぐに歩み寄って行く。
「とりあえず今僕等は……あの銀さんの仲間であるキリト君からの誤解を解く事にしようか……」
「うん……なんなんだろうあの人、どんだけ神器が欲しいんだろ……」
血走った目で叫びながら神器に強い執着心を燃やすキリトに
ケイタとサチも呆れながら月夜の黒猫団総メンバーで説得に入るのであった。
そして彼等がそんな事をしている間に、銀時はというと
「よぉ」
「……」
夕暮れ時にポツンとベンチに座るユウキに後ろから何気ない感じで話しかけていた。
しかし彼女は振り返りもせずに無視をしたので、やれやれと更にめんどくさそうな表情を浮かべながら彼女の横へと回る。
「ったく、隣座るからな」
「……どうぞご勝手に」
一緒にベンチに座ってみるとようやくユウキが重い口を開いたが、表情は依然ムスッとしたままだった。
それを見て銀時ははぁ~とため息を突きながら自分の膝に頬杖を突いたまま
「まあそのなんだ、悪かったなお前に色々と内緒にしておいて。お前に言うとどうせこういうめんどくせぇ事になるだろうと思ってよ」
「悪かったねめんどくさい女で……」
「お前って普段はそんなんじゃねぇのに、昔から俺が藍子に構ってばかりいるとすぐそうやって機嫌損ねるな、どうせ大事な姉ちゃんを俺に奪われるんじゃないかってムカついてたんだろ?」
「……もうなんでそう解釈するのかなぁ……」
わかり切った様子で呟く銀時に対し、ユウキはそうじゃないとハッキリと言ってやりたいのだが
どう違うんだと言えばいいのかわからなかったので、仕方なく顔をプイッと背けるしかなかった。
「そういう銀時もさ、昔からボクに隠し事ばかりする悪い癖があるよね、姉ちゃんと付き合い始めたのも黙っていたし……」
「そりゃまあ、お前に言ったら喧嘩売られるかもと思ったからな、また殺されそうになったらたまんねぇし」
「それとどうして攘夷戦争に参加していたのかとか……未だに詳しく教えてくれないよね」
「……そいつは言う必要もねぇだろ、聞いて面白ぇモンでもねぇし」
ユウキは銀時がかつて攘夷戦争に参加した経緯についてはよく知らない
唯一知っている事と言えば「大切なモノを取り返すために戦い、結果全てを失っちまった」という哀しい目をしながら唐突に呟いた彼の言葉のみ
あの時の彼の表情は今もなおユウキの脳裏に焼き付いている。
「銀時はさ……そうやってボクにはいつも何も言わずにどこかへ行っちゃうよね……姉ちゃんの事も戦争の事も……結局の所ボクって銀時にとってなんなの? 大切な事は言わなくていい存在なの?」
「おいおい急に重っ苦しい事言うなよ、ちぃとばかりネガティブになり過ぎだぞ、いつもの空回り気味なポジティブシンキングはどうした」
彼女の口から放たれた不安そうな消えいる声に、銀時はしかめっ面を浮かべると頬を掻きながら
「お前が俺にとってどんな存在なのかだと? んなの決まってんだろ、出会ったばかりの頃はクソ生意気でうるせぇ小娘、そんでその後は藍子の妹、そん次は藍子の忘れ形見、そんで今は……」
「……妹同然の家族?」
「ああ、それと……失いたくねぇ一番大事なモンだ」
「!」
ちょっと間を置いてそう呟く銀時にユウキは思わずバッと目を開いて振り返るも、彼はこちらを見ずに目を背けている。
「俺は戦争で何もかも失っちまった、けどまだ俺には藍子やお前がいたからまだ立っていられた、けどよ、藍子が死んじまった時は流石にもうダメだと思っちまう時もあった」
「銀時……」
「でもふと気付いちまったんだよな、そんなどうしようもねぇ俺に、いつもお前だけは離れずいてくれてたって事によ」
そう言いながら銀時はポンと彼女の頭に手を置くと、やっとユウキの方へと振り向きフッと笑った。
「ぶっちゃけ言うとな、俺がこのゲームやり始めたのは藍子の想いを継ぐってのもあったよ。けど俺自身も、お前が元気に飛び跳ねるって光景を見てみてぇと思ってたんだ」
「……」
「暗闇のどん底に落ちてた俺を拾い上げたのはオメェだ、俺が今もまっすぐ立って歩いて行けるのは、お前が隣にいてくれるおかげなんだぜ?」
ここまで銀時が自ら弱い部分を曝け出してくれたのは初めてかもしれない……
彼に頭を触られながらユウキが内心驚き、そしてカァッと胸の中から異常なまでに熱く感じる、顔も赤くなってるのではないかと思うと彼をどうしても直視できない。
そして銀時自身もそんな彼女の反応を見てこっ恥ずかしくなったのか、彼女の頭からパッと手を離してフンと鼻を鳴らす。
「ま、たまに隣でギャーギャーうるせぇ時あるから、お前を置いて一人でフラフラと行っちまう時があるけどな」
「だ、だからそれが酷いって言ってるの!」
「仕方ねぇだろ、銀さんだってたまには一人になりたい時とかあるんだよ」
「一人じゃないじゃん! アリスとイチャついてるんでしょ!」
「イチャついてねぇよ! ていうかお前だってたまに一人でこっちに潜ってる時とかあるじゃねぇか! それに藍子がこっちの世界で何していたかもお前自身からは聞かされなかったし!」
「そ、それは……」
つい彼が言った言葉にまたムカッと来て叫んでしまうユウキだが、負けじと銀時に反論されるとどう答えていいのか困った様子で俯く。
「う、うんまあそうだよね……よくよく考えればボクだって銀時に隠し事とかしてるモンね……自分を棚上にあげて銀時の事をとやかく言う筋合いは無いよね……ごめん」
「いやいきなり謝られたら俺もどうしていいかわかんねぇよ……俺も本当に悪かったと思ってるよ、今度アリスとか他の奴と遊びに行く時はお前を連れてくとか連絡するとかちゃんとするからよ」
「うん……そうしてくれたらボクも嬉しいよ、流石に彼女からお金貰ってる事についてはちょっとイヤだけど……」
「ああ、次からはちゃんと断っておくから安心しろ、金はもういらねぇって」
ユウキに頭を下げられては銀時も流石に強くは言えない
99%自分が悪くても残りの1%を振り絞って自分の正当性を主張する彼であっても
ここは素直に折れて彼女の不満の一つを解消してあげる事にした。
「そんじゃあこれで仲直りって訳でいいのか? 俺そろそろ疲れたから一旦ログアウトしてぇんだけど」
「いやいや何言ってんのさ、神器を造ってくれる店を見つけてくれた月夜の黒猫団にもお礼を言わなきゃならないんだし、それにもうすぐ夕食の時間だよ、この世界でのボクの楽しみの一つは、銀時達と一緒に同じ食事できる事なんだから、今日はとことん付き合ってもらわないとまたボクふくれっ面になるよ?」
「そいつは困るな、仕方ねぇ……それじゃあアイツ等に礼言うがてらに、アイツ等も連れてどっか夜の店にでも洒落こむとするか」
「うん!」
今日ばかりは彼女の言う通りにしてやろうと、銀時が自ら提案てあげるとユウキは心底嬉しそうに頷いてベンチから重い腰をあげた。
そしてそこから見える夕焼けを見つめながらそっと髪を掻き分ける。
「ねぇ銀時……」
「あん?」
「さっき言いそびれちゃったけどさ、ボクも銀時には感謝してるんだよ、リアルではもう酷い状態になっているボクを、君だけは唯一見捨てずに傍にいてくれた」
まだベンチに座っている銀時に心からの感謝の意を込めながら、ユウキは彼に向かってそっと微笑みながら振り返る。
「君がボクを大切だと言ってくれたように、ボクもそんな君の事を大切だと思ってる、それはきっとこれから先ずっと永遠に決して変わらないよ……」
「……」
「ありがとう」
「ずっとボクを導いてくれて、ずっとボクのヒーローでいてくれて、ずっとボクの大好きな君でいてくれて、本当にありがとう銀時」
彼女の言葉に銀時は思わず呆然とその場に座り込んだまま動けなくなってしまっていると
自分で言った事に恥ずかしくなった様子で、ユウキは顔を赤面させながらバッとその場で駆け出して
「じゃ、じゃあボク! 黒猫団のみんなとキリトを探してくるから!」
逃げる様にそう言い残すと、慌てた様子でその場を後にするユウキ
残された銀時はというと、しばしその場に座り込んだまま固まっていると、目の前に見える美しい夕焼けを拝みながらフッと笑うと……
「ったく、我ながら随分とおかしくなっちまったモンだ……」
「思わずアイツに見惚れちまったなんて知られたら、マジで藍子にぶっ飛ばされそうだわ」
銀時にとってユウキは妹の様な存在
しかしたった今彼の中で
彼女の気持ちがほんの少しだけ変わったのかもしれない。
銀時とユウキが仲直りしてるそんな頃
そんな事知ったこっちゃないと言った感じで
リズベット武具店の店主・リズベットは頭を抱えて泣き叫んでいた。
「どうすればいいのよコレェェェェェェ!!!」
目の前に置かれた大金と神器の素材を前にして、銀時達が去ってから何度も同じように叫び続けていると
そんな彼女の店に来客が一人やってくる。
「こんにちはリズ、予約した通り武器の刃こぼれ直して欲しいんだけど……ってどうしたの!?」
「アスナァァァァァァァァァ!!!」
店にやって来たのはまさかの血盟騎士団の副団長・アスナであった。
上手い具合に銀時達と入れ違いになる形でやって来た彼女に、リズベットは救いを求めるかの様に声を上げる。
「どうしよう私! 無理なのに! 絶対無理なのに! ついムキになって引き受けちゃったぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ! あなたらしくないわよリズ、無理な依頼を引き受けたってどういう事?」
急にこちらに駆け寄って来て腰にしがみ付いて来るリズベットに困惑しつつも、とりあえず事情を詳しく説明してくれと言うアスナ。
するとそんな彼女の背後からズカズカと見せに入り込んで来る侍風の男性プレイヤーが一人
「邪魔するぜぃ」
アスナのお守役兼殺し屋、人斬りソウゴこと沖田だ。
「お、こんなチンケでクソみたいな店に不釣り合いな大金が置いてあるじゃねぇか、金欠過ぎてついにヤバい事に手ぇだしちまったのかお前?」
「ってうわ! ドS王子じゃないの! てっきり神楽ちゃんと来ると思ってたのに!」
「アナタは黙ってて、今は私がリズから話を聞くのが先……って本当になにあの大金が入った袋!?」
やってきた沖田にリズベットが驚いて思わずアスナからバッと離れていると、アスナもまたカウンターの上に置かれた大金を見て目を思いきり見開いた。
「何をやったのリズ!? 正直に吐きなさい! 今なら切腹で済ませてあげるから!」
「いや済んでないでしょそれ! 二人共変に誤解しないでよ! あの大金は依頼人が私に持って来た、ちゃんとした契約金よ!」
「契約金って……あんなに高くつく依頼ってなんなのよ、さてはぼったくりね、腹切りなさい」
「どんだけ友人の腹を掻っ捌きたいのよアンタは!」
軽蔑の眼差しを向けながらいつもより若干トーン低めで切腹を申し付けて来るアスナに負けじとリズベットがツッコんでいると
「おろろ? おいピンク店主、どうして金と一緒に旦那が手に入れたモンがここに置いてあるんでぃ?」
「ってちょっと! 勝手に触らないでよそれ!」
勝手にカウンターの上にに歩み寄って物珍しそうに例のモノを見下ろしている沖田に慌ててリズベットが立ち上がって忠告していると、アスナもまたそこに置かれているモノをチラリと見てみる。
そこには金色の光を放ち、一目見て美しいと思える輝きを持つ枝の様なモノが置かれていたのだ。
それを一目見た瞬間アスナは「うぇ!?」と変な声を出しながらわが目を疑う。
「も、もしかしてそれって……金木犀の枝……じゃないわよね?」
「ああ、そういやアスナも前から結構欲しがってたんだっけ、そうよご名答、これがあの超高難易度のクエストでしか手に入らない神器の素材・金木犀の枝よ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? どどどどうして私がずっと探し求めていた神器の素材がこんな所にあるの!?」
置かれているのが金木犀の枝だと知ってアスナは急に激しく動揺した様子で慌てふためくも
すぐに自分を落ち着かせようとする為に懐からガサゴソと何かを取り出す。
「と、と、とりあえず落ち着きなさい私! こういう時はマヨネーズを! マヨネーズを摂取すれば落ち着く筈だわ!」
「お客様ー! 店内でのマヨネーズ1本直飲みはご遠慮下さーい! 見てるこっちが吐きそうになりまーす!」
サッと慣れた感じで一本のマヨネーズを取り出すと、赤い蓋を開けてゴクゴクと直で飲み始めるアスナ
どんな落ち着き方だと思いながらリズベットが止めようとするが、彼女はあっという間に飲み干してしまう。
「ふぅ、危ない危ない……私とした事がレアアイテムを見ただけでつい冷静さを失ってしまうなんて……マヨネーズが無かったら危険だったわ……」
「マヨネーズ一本早飲みしてる時点で十分ヒロインとしての立場が危ういと思うんだけど……」
勝手に落ち着いてる彼女にリズベットがジト目で呟いていると、「さてと」とアスナは改まった様子で金木犀の枝が置かれたカウンターに近づく。
「本当に本物みたいね……イベントが終わったと聞いたから私より先に誰かが手に入れちゃったんだと思ってたけど……まさかその誰かがここに持って来たっていうの?」
「ええそうよ、私に神器を造って貰う為にね」
「神器!? ああそういえばリズって前から神器造れるようになったとか周りに言い触らしてたものね……てことは遂に……」
「いや無理……そもそも神器の素材を現物で見たのも今日が初めて……」
「へ?」
遂に彼女が神器を造る所を見る事が出来ると嬉しそうに振り返るアスナだが
リズベットの方はバツの悪そうな顔で手を何回も横に振る。
「神器が造れるってのは店の評判を良くする為のでっち上げで……それを鵜呑みにしてやってきた客が本当に持って来ちゃったもんだから……つい断れずに依頼受けちゃったって訳……」
「おい副長、コイツはひでぇ詐欺師だ、ふん捕まえて晒し首にしましょうぜ」
「止めてぇつい出来心だったの! 魔が差して冗談半分でやってしまった事なのよ! 今は反省してるから許して!」
「はぁ……身から出た錆じゃないの……捕まえはしないけど厳重注意ねコレは」
アスナに向かって厳罰するべしと沖田が促すと、その場に座り込んで祈るポーズを取りながら悔い改めるリズベット
それを見てアスナは軽くため息を突くと、またチラリと金木犀の枝に目をやる。
「コレを持って来た依頼人にはすぐに謝ってきなさい、自分には造れませんって、お金と素材も全部返しますって」
「いや、その必要はないわ……」
「は?」
「こうなってしまった事も自業自得だってわかってる……けどこれは鍛冶師としてやってきた私への試練なのよきっと……」
ヨロヨロと立ち上がると、リズベットは詰まれた大金と神器の素材を見下ろしながら腹をくくった様子で目つきを変える。
「今までは自分の中で限界を作って、もうそこから上には行けないと思い込んでいた、けどいざこうして神器の素材を目の当たりにしてわかった事があるの……」
「わかったって何を……」
「私はもっと上に行きたいってね……だから造るのよ私は、己の限界を超えてその先へ一歩進む為に……」
金木犀の枝をグッと掴むとリズベットは決意を決めた眼差しをしながら
「まずはコレで立派な神器を造ってやるわよ! そうすれば嘘を本当に出来るし! コレからも胸を張って堂々と神器を造れる神業職人って名乗れるんだから!!」
「じゃあリズは……本気で神器を造るつもりなの?」
「もうこうなったらヤケクソよ! やってやるわよ神器の一つや二つ! かかってこいやコラァ!!」
「いや私はリズにかかって行く気は無いんだけども……」
どうやらさっきまで弱腰だった自分を捨て去って、すっかりやる気になった様子で神器造りを決心するリズベット。
まあここで退いてしまったら店の面目も潰れるだろうし、やるしかないという状況に追い込まれてしまったのだろう。
そんな彼女を困惑した様子で眺めた後、アスナはチラリと沖田の方へ目配せし
「やれると思う、彼女?」
「さぁな、ま、失敗しちまったらアイツが旦那にシメられるってだけのこった」
「旦那って?」
「あの枝を手に入れたお人だよ」
「え? あなた金木犀の枝を入手できたプレイヤーの事知ってるの?」
「当たり前だろ、俺もその時一緒にいたんだからな」
「!?」
沖田が金木犀の枝の正統保有者を知っているだけでなく、その人物と共にクエストに参加していたと知って驚くアスナ。すると沖田はニヤリと彼女に笑って見せると
「それとその人はお前も知ってるだろうよ、何せこっちの世界だけでなくリアルでも顔馴染みだしな」
「う、嘘でしょ!? 私もその人と知り合いなの!?」
「銀髪天然パーマに死んだ魚のような目、流れ雲の様に掴み所の無い男……忘れたとは言わせねぇぜ」
「天然パーマ……それってもしかして……!」
その人物はよりにもよって自分が最も忌み嫌っているあの黒づくめ剣士の仲間……
沖田の話を聞いてアスナはすぐにそれが誰なのかすぐに気付いて言葉を失った。
会う度にどこか読めない不思議な男だとは思っていたが
どうやらあの男は、本当にただ者では無かったみたいらしい。
ゲゲゲの女房、好きでした。
リズ視点からするとアスナと神楽は友人で沖田は悪友です。山崎は顔合わせる度に「誰だっけ?」とまともに覚えていません
次回はいよいよ銀さん、五十層目突破。 そしてキリトもまたいよいよ神器探しに動き出す。
そしてその道中で彼は不審な男と少年に出会います……その出会いは幸か不幸か
果たしてキリトは神器の素材を手に入れられるのか?