竿魂   作:カイバーマン。

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空洞虚無さんから頂いた竿魂の支援絵です


【挿絵表示】


中の人ネタでのユウキ=まどかですねW

銀さんが見たら「年考えろよ」と余計な事言いそう……

ところで右下にいるあのセクシーな魅力あふれる小動物、どこか凄く見覚えが……う!


毎度面白愉快なイラストを描いていただきありがとうございます!




獅子奮迅編
第五十一層 朗報をもたらす黒猫達


数多の試練や修羅場や出会いを経た坂田銀時

 

第四十八層へと到達している頃には、第一層でモンスターから必死に逃げていた銀時も、そろそろ中級者と呼べなくなるぐらいには様になった動きを見せる様になっていた。

 

「ったく離れた所からピュンピュンと……」

 

茶色のローブを風に乗せて颯爽と揺らしながら、両端にビーム状の刃が付いた武器、千封鬼を右手で回して

 

少し離れた距離から立ち続けに間を置かずに弓矢を放ってくるオーク兵に向かって駆けていく。

 

「うっとおしいんだよ!」

 

得物の二つ刃を回転して突っ込みながら、敵の放つ矢を次々と撃ち落としていきながら

 

銀時は一気にオーク兵との距離を詰めるとブゥンブゥンと音を鳴らしてビームサーベルで殲滅していく。

 

「ボス倒して上に昇ったと思ったらまた戦闘かふざけんなコラぁ! さっさと街に行かせろや! 俺は休みてぇんだよ!」

「そんだけ暴れられるなら休む必要ないんじゃないか?」

 

さっきからほとんど一人でポップしたモンスターを斬り伏せていく銀時にツッコミを入れるのは

 

先程から彼の背後を守りながら二つの剣で戦っているキリト。

 

「四十八層か、ここまで来るとそろそろ俺達も正直キツイんだよな、雑魚相手でも一撃じゃ倒せなくなってるし」

「そうなんだよね、敵の動きもどんどん賢くなっていて避けられる事もあったりして」

 

現れた巨大なジャイアントオークを二刀流で難なく倒していくキリトの横で

 

同じく俊敏な動きで敵を翻弄していきながら、空中からの剣術殺法で倒しつつ彼に返事するのはユウキだ。

 

「そろそろ三人だけで攻略していくってのは難しくなって来たねー」

「エギルやクラインは当たり前だけど、もっと他の奴等とも協力して昇る方が効率よくなるかもな」

「でもあの二人以外に頻繁にパーティーに参加してくれる人っていたっけ?」

「……アリスとか?」

「ア、アリス~?……アリスかぁ……」

 

個人では勝てないと察したオーク達が集団がかりで襲い掛かってくる中で

 

背後から迫る敵へすかさず振り返って一撃浴びせながらアリスの名を遠慮がちに出すキリトに

 

一度に三体のオークを屠りながらユウキは微妙な表情を浮かべる。

 

「やっぱり嫌か?」

「嫌って程でもないんだけどさ……あの子明らかに銀時に対してボクと同じ感情抱いてるの丸わかりだからさ……迂闊に背中任せられないんだよね彼女だけには……」

「そういや初めて会った時も喧嘩してたな……終いには互いに剣を抜こうとしてたし」

「なーんか身体が勝手に動いちゃうんだよねぇ……どうしてあんなにムキになっちゃうんだろうなボク」

 

ハァ~とため息をつきながらそろそろ全員倒したかなと思いつつ、ユウキはチラリと銀時の方へ目を向ける。

 

彼の方にいるオーク兵もすっかり少なくなっており、もう少しで終わりといった所であろう。

 

「やっぱりシメはコイツに限るだろ」

 

そう言いながら銀時が持っている得物をしまって再び手に持ったのは

 

藍子、ランから頂いた特殊刀・物干し竿

 

体力が半分以下になった時にのみ使えるその刀を得意げに取り出すと、長い得物による横一閃が残ったオーク兵を綺麗に両断してしまう。

 

「あー終わった終わった、さっさと街行こうぜ街」

「銀時も武器の切り替え随分早くなったね、クイックチェンジのスキルなんていつの間に手に入れたの?」

「……前にアリスと一緒だった時にクエストで……」

「…………ふーん」

 

複数の武器を瞬時に持ち帰る事の出来るスキル・クイックチェンジ

 

短剣、両刃剣、長刀と現在三種類の武器を操る銀時であれば、いずれはそのスキルを有効活用できそうだし、取る手伝いをしてあげようとユウキは考えていたのだが

 

どうやら知らぬ間にアリスに先を越されてしまった様だ

 

心底面白くなさそうな表情でジト目で彼を軽く睨み付ける。

 

「あれからもボクに隠れてまだ一緒に遊んでるみたいだね、彼女と」

「いやたまたま会っただけだって、たまたま一人でブラついてた時にたまたまアイツがやって来て、それで俺にピッタリなスキルがたまたまこの近くの村で手に入るクエストがあるからって、そんで取りに行くの手伝ってやるって言われたんだよ」

「たまたま多過ぎない!? ホントに彼女偶然銀時と出会っただけなの!? なんか怪しいんだけど!」

「まあ最初はビビったが、アイツ剣の腕は確かだし討伐クエストなら楽出来るから役に立つんだよ」

「いやボクだって剣にはちょっと自信があるんだけど……」

 

アリスの剣の腕を頼りにしている銀時に、自分もまた強いんだぞとボソリと小声でアピールしていると

 

「おい痴話喧嘩は俺がいない所でやってくれないか? さっさとここ抜けて街へ行くんだろ?」

「そうそうキリト君の言う通りだよ、ユウキ、お前は別にアイツの事なんざ気にしなくていいから、俺が個人的にアイツに興味があるだけだから」

「だからそう言われるとますます気にしちゃうんだってば……」

 

ちょっと揉めている二人の間に割り込んで、キリトがさっさと引き上げようと提案すると助け舟と言わんばかりに銀時もすぐに乗っかって街の方へと歩き出す。

 

まだ頭の中のモヤモヤが晴れていないユウキは、複雑な思いに駆られながらも渋々彼等の後をついて四十八層の街へと繰り出すのであった。

 

「ボクには個人的興味持ってないのかな……」

 

 

 

 

 

 

 

第四十八層・主街区・リンダースはそこらかしこに水車があるのどかな風景の街だ。

 

ようやく街へとやって来た銀時は、適当に喫茶店に入って、テラスで少し早めの昼食を取る事にした。

 

「よーしテメェ等! リアルじゃまともなモン食ってねぇからこっちの世界でジャンジャン食うぞ!」

「ここ最近買いだめした豆パンしか食べてないからな! とにかくここにあるモン何でもいいから食わなきゃやってられん!」

「二人とも大変だねー、よっぽど日々の食事生活にストレス溜めてたんだねー」

 

席に着くなり急いでメニューを開いて二人で覗き込みながら、なんでもいいからとにかくまともな食事を注文しようと鬼気迫る表情を浮かべる銀時とキリトを尻目に

 

リアルの世界ではガソリン以外摂取する事が出来ないユウキにとっては、こちらの世界では自由に飲み食い出来るだけで十分幸せだったりする。

 

「すみませーん、ボクはクリームソーダとカルボナーラで」

「俺は糖という言葉が付くモン全部で!」

「俺は人の温もりが込められた心温まる料理を!」 

「二人ともちゃんとメニューに書かれてるモノを注文してねー」

 

通りがかったNPCの店員に向かって必死の形相で銀時とキリトは勢いだけで叫んでいるのを朗らかに笑いながらユウキがツッコミを入れていると

 

 

 

 

「あれ? もしかしてユウキ? それと銀さん?」

「え? あ!」

 

困っている店員に向かってまだ何か叫んでいる銀時とキリトを頬杖を突いてのんびりと眺めていると

 

背後から不意に名を呼ばれたのでユウキは咄嗟に振り返って軽く目を開く。

 

なんとそこにいたのは

 

「サチ!? うわすっごい久しぶりじゃん!」

「相変わらず元気そうだね、フフ」

「あ? サチ?」

 

かつてユウキとランが何かと世話を焼いてあげていた月夜の黒猫団のメンバー・サチであった。

 

彼女との久しぶりの再会にユウキが驚いた声を上げると、それに気付いた銀時も注文するのを中止してすぐに彼女の方へ顔を上げる。

 

「久しぶりだなお前、ちょくちょく連絡は取り合ってたけど直接会うのは神器のクエスト時以来か」

「そうですね、アレからこっちも何とか頑張ってここまで昇って来れました」

「へー、お前等もこっち来てたのか、他の奴等はどうした?」

「みんなは街の中を探索しています、私はここでちょっと休憩を取ろうと思って寄ってみたんです」

 

かつて深い森の中を彷徨っていた所を、間一髪の所でサチのいる月夜の黒猫団に助けられた事を思い出す銀時。

 

まさかこんな所で偶然彼女と出会うとは思いもしなかった。

 

「ところでそちらの黒づくめの人は……?」

「キリトだよ、リアルでは銀時の奴隷で、永遠の厨二病なの」

「へ、へ~……」

「どんな紹介の仕方!? お前のせいでちょっと引かれてるじゃないか!」

 

キリトの事をサチに尋ねられたのでユウキがあっけらかんと簡単に紹介して見せるが

 

それを不服に思ったキリトは急いで立ち上がって頬を引きつらせるサチの方へ身を乗り上げる。

 

「奴隷じゃなくて住み込みの従業員だから! 俺はコイツ等をサポートして上げてる善良なプレイヤーのキリト! そう覚えておいてくれ!」

「永遠の厨二病については否定しないんだ……でもやっぱり銀さんやユウキの仲間なんだね、よろしくね、私はサチ」

「お、おお……」

 

こちらにニッコリ微笑んで挨拶してくるサチに、キリトは変なリアクション取りながら身を乗り出すのを止めてゆっくりと元の席に座る。

 

「なんなんだこのまともそうで優しそうな女の子は……こんな子がまだ地球に存在していたなんて……」

「そうだよこの世界では貴重なまともな良い子なんだよコイツは、絶滅危惧種だから丁重に扱えよ」

「いや絶滅危惧種扱いされるのは流石に断りたいんだけど私……普通に扱って下さい頼むから……」

 

女の子に敵意を持たれずにやんわりと話しかけられる事さえあまりなかったキリトにとって、サチは今まで見た事が無いタイプの子であった。

 

驚いて呆然と座り込む彼に銀時がうんうんと頷きながら同意してる中で、サチ本人は彼等の反応に困っている様子。

 

するとそこへ

 

「お、探したぞサチ! ビッグニュースだビッグニュース! 遂に見つかったぞ!」

「あれケイタ? 街の中を探索してたんじゃないの?」

 

サチに続いて現れたのは月夜の黒猫団のリーダー格であるケイタであった。

 

顔をほころばせ嬉しそうにサチの方へと駆け寄って来ると、すぐに銀時とユウキもそこへいる事に気付いてハッと目を見開く。

 

「銀さん!? それにユウキさん!? ええどうしてここに!?」

「二人共ついさっき下の階層クリアしてここに昇って来たんだって」

「よぉ、いつぞや世話になったな」

「ケイタも久しぶり~、相変わらずあちこち走り回ってそうで大変だねー」

「ハハハどうも、相変わらず元気そうですね……」

 

二人がいる事に驚いているケイタにサチが説明して上げると、銀時とユウキは軽く手を挙げながら彼に挨拶。

 

ケイタもまさか彼等がここにいるとは思っていなかったので後頭部を掻きながら苦笑した後、銀時達と同じテーブルに座っているキリトを指差し

 

「それで彼は?」

「キリトっていう銀さんとパーティー組んでる人よ」

「こんちわー」

「ああこんにちわ、君も銀さんとユウキさんの仲間なんだね、これからもよろしく」

「……」

 

けだるそうに挨拶するキリトだがケイタはそんな事気にもせずに爽やかに笑いかけながら挨拶を返す。

 

その反応にキリトは思わず無言になってしまうとすぐに銀時とユウキにしか聞こえない声で

 

「マズい、こんな愛想良いプレイヤーと連続で遭遇するなんて初めてだ……陰キャラである俺にとってはアイツ等が眩し過ぎてとても直視できない……」

「今までどんだけ暗い人生送ってたの君?」

「これだけでヘコたれんじゃねぇぞ、他にも三人いるからなアイツ等の仲間」

 

コミュ力の高そうな二人の登場だけで居心地悪そうにするキリト

 

銀時とユウキにボソボソと何か呟いている彼を見て、ケイタは「何か気に障る事しちゃったかな……」と困った顔を浮かべていると

 

「あ、そうだ! 本当は今からすぐにでも銀さんに連絡をって思ってたんですけど! 本人がこちらに来ているんでしたら丁度いい! 今時間空いてますか!? 銀さんに是非案内したい場所があるんですけど!」

「ごめん今からメシ食うから、食わずにこの席から立ち上がるとかホント無理だから」

「リアルで豆パンしか食ってない俺等の食欲ナメんなよ」

「あ、そうですか……じゃあ昼食が終わるの待ってるんでその後案内させてください……」

 

席から断固動かないといった態勢で絶対にここでご飯を食べるんだと並々ならぬ気迫が見てわかる銀時とキリトに

 

思わず圧倒されて後ずさりしてしまうケイタ。

 

「二人共凄い迫力だな……まるでフロアボスとの戦闘してる時のような顔つきだ……」

「ねぇケイタ、銀さんを案内させたい場所ってなに?」

「ああ、聞いてくれサチ、遂に見つけたんだ、あの日からずっと探し回ってやっとな」

「え!? それってもしかして!」

「前々からこの四十八層にあると噂されてたからさ、この目でその店を見つけられた瞬間その場で飛び跳ねちゃったよ」

 

大人しく銀時達の食事を待つ事にするケイタにサチが何処へ案内するのかと尋ねると、どうやら彼は銀時をとあるお店に連れて行きたいらしい。

 

それも今までずっと探し回り、必死に情報を集めてようやく見つける事の出来た所の様だ。

 

彼が遂に見つけたというとサチも嬉しそうに両手を当てて喜ぶので

 

それを傍から見ていたユウキは「?」と何事かと顔を上げる。

 

「二人共どうしたの? そんなに喜んでるって事は良いニュースなんだろうけど、銀時を何処へ連れて行くつもり

?」

「ユウキさんは当然銀さんが例のアレを持っている事は知っていますよね?」

「アレ?」

「超高難易度の神器クエストで銀さんが手に入れた金木犀の枝です」

「ああ、そういえば持ってたね、神器の素材になるレアアイテム」

「はいそうです、そして俺達やっと見つけたんです」

 

 

 

 

 

「神器の素材を使って、神器に造ってくれる鍛冶屋を」

 

 

 

 

 

 

 

銀時達が昼食を食べ終えると、やっと彼等はケイタやサチに案内されて目的地へと歩き出した。

 

その途中で彼等の仲間である、テツオ、ササマル、ダッカーとも合流し

 

七人でゾロゾロと道の真ん中を歩きながら街の景色を眺めつつ足を進めるのであった。

 

「よぉ銀さん服装変わったんだな! ちょっと厨二っぽい格好だな!」

「うるせぇよ余計なお世話だ」

「俺達がずっと探し回ってやっとこさ見つけられたんだ! 見返りは当然貰うからな!」

「ああそうかい、なら来週出るジャンプの代金出してやるよ、それでチャラだろ」

「あのー銀さん、ユウキさんとは上手くやっていけてるんですか? その色々と……」

「どういう意味だよそれ、ちゃんと仲良くやってるよコイツとは」

 

合流した三人に色々と言われるのをめんどくさそうに受け答えしている銀時を背後から眺めながら

 

ユウキは「へー」と感心したような声を上げていた。

 

「黒猫団に随分と懐かれてるんだねウチの人、愛想良い方じゃないからちょっと心配してたんだけど」

「まあ確かに愛想は良い方じゃないわね銀さんって」

 

ナチュラルに「ウチの人」呼ばわりしているユウキを微笑ましそうに見つめながら、隣でサチが正直に答える。

 

「でもそれをひっくるめて銀さんなんでしょ? ユウキと同じで基本的に裏表がないって感じで私達にとっても話しやすい人だもの」

「そう? 表はニコニコしながら裏では真っ黒だったウチの姉ちゃんとも仲良くやっていけてたじゃん」

「そ、そんな黒くなかったわよランさん、確かに銀さんの子と話す時にちょっと怖い感じがする時あったけど……それ以外は普通に良い人だったし」

「いやいや、サチは良い子だったから姉ちゃんも優しくしてあげてたんだよ、身内に対してはホント酷い性格してたんだから、銀時はからかわれるしボクに至っては容赦なかったよあの鬼姉」

「そういえばユウキがランさんのファイナルアタックボーナス奪っちゃった時は大変だったね……」

 

二人の中では結構頻繁に出てくる姉の存在、それをキッカケにユウキが恨みがましい様子で亡き姉である藍子への愚痴をサチに語り出し始めているのを、最後尾からケイタが懐かしむ様に眺めている。

 

「いやーこうしてユウキさんが僕等のパーティーにいるのは何時振りだろうなぁ、ああやってサチに対してランさんの文句を言っているのを見ていると昨日の事の様に思えるよ」

 

てことはいつもああしてサチに愚痴を聞いてもらっていたのかユウキは……とキリトは普段滅多に弱音を吐かない彼女にも色々とぶちまけたい相手がいたのかと心の中で呟きつつ、ケイタと同じ最後尾を歩きながら彼に向かって口を開く。

 

「アンタ等はユウキやその姉のランとも一緒に冒険してたのか?」

「うん、頻繁って訳じゃないけどたまに手伝って貰っていた事があったね」

「それがキッカケでユウキの姉と恋仲だったあの人とも仲良くなって、そんで一緒に神器獲得のクエストをやっていたと……」

「そうそう、それでまさかのあの人が当たり引いちゃったもんだから大騒ぎ」

「やっぱ俺も一緒についていけば良かった……」

 

銀時が神器の素材を手に入れたキッカケは、他ならぬ偶然この月夜の黒猫団と出会ったからだという事だ。

 

なんという幸運の黒猫……あの時銀時と一緒に行動していれば、もしかしたら自分が神器の素材を手に入れる事が出来たかもしれないと、強く後悔しながらキリトはため息を突く。

 

「んで? 今から行くその場所に、神器の素材を扱えることのできる腕のいい鍛冶師がいるって訳?」

「そうそう、いやーホント探すのに時間掛かったよ、銀さんが神器の素材を手に入れた時からメンバーが一致団結して「これはランさんへの恩返しのチャンスだ!」とあちこち探し回ってようやく見つけられたんだ」

「眩し過ぎる……基本自分だけの事しか考えない俺にはお前等のその献身的な行動力が到底考えられないよ……」

「いやいや大したことじゃないよ、僕等だってただ「これでもう会えないランさんへのお礼が出来る」って自己満足する為にやっていただけだから」

「そう言う事考えられる時点で立派なんだよアンタ等は……」

 

自分には到底真似できないなと自虐的にフッと笑うと、キリトはケイタに対してある一つの疑問を投げつける。

 

「けど良く見つけられたな神器を造れる鍛冶師なんて、神器といえば鍛冶レベルをカンストしてても造る事は難しいって言われてるんだぞ、この四十八層にホントにそんな腕の良い鍛冶師がいるのか?」

「ああ僕も驚いたよ、確かに神器は鍛冶レベルだけでなく様々なスキルと併用してやっと組み上げられるって聞いてるけど、彼女は正にマエストロ級の腕前で造作もなく神器を造れてしまうみたいなんだ」

「彼女?」

「コレから向かう鍛冶師の事だよ、見た目は僕等とそんな年の変わらない女の子なんだ」

 

どうやら天才的な鍛冶師というのは自分達と同年代位の女の子らしい。

 

なんで女性プレイヤーがこの世界でわざわざ店を開いてまで鍛冶師をやっているんだと思いつつ、キリトは小首を傾げた。

 

「そんな話聞いた事無いな……実は俺ここよりずっと上の階層まで攻略しているおかげで情報網は結構多くてさ、でも神器を造れる鍛冶師なんて未だに一回も聞いた事が無いぞ」

「うん僕も最近知ったんだ、この階層に神器を造れると周りに触れ回っている鍛冶師の女の子がいるって、そんでついさっき直接その本人に尋ねてみたら、彼女自信満々にその噂は本当だって言ってたよ」

「……」

 

なんだろう、ちょっと嫌な予感を覚えて来た、理由はわからないがその鍛冶師、何か怪しい……。

 

そう思いながらキリトが嬉しそうに話すケイタに恐る恐る詳しく聞こうとすると

 

「銀さんここっすよココ! 神器を造れる鍛冶師の女の子が開いてる店!」

「あ~? なんか思ってたのと随分ちげぇな、伝説の武器を造れるっつう割には随分と若者風の小洒落た店だなオイ」

 

どうやらキリトが尋ねる前に目的地へと着いてしまったみたいだ。

 

先頭にいた銀時が顔を上げると、そこには女受けの良さそうな妙にカラフルな外装をした店が立っていた。

 

神器という非常に難しい武器を造れてしまう巨匠とも呼べる鍛冶師がいる店には到底見えない。

 

「ホントにここにいんの? 俺がずっと持ち腐れにしてた神器の素材を扱える奴が?」

「疑り深いなぁ、俺達はちゃんとここにいる店主に直接聞いてんだから安心しろよ、神器なんて目隠ししててもサクッと作れるって、もし作って欲しかったら神器の素材持って来なさいってすげぇ自信満々に答えたんだぜ?」

「ふーん」

「ほらちゃっちゃっと作ってもらおうぜ! そんで遂に神器を手に入れちまえよ銀さん!」

 

キリトと同様に銀時も疑り深い目つきで店を眺めていると、そんな彼を後ろから少年達が三人がかりでグイグイと押しながら店に入れようとせかす。

 

「俺達も生で見たいんだよ! プレイヤーなら誰もが夢見る神器って奴をさ!」

「わかったから押すなって、入ればいいんだろ入れば」

 

神器に対しては特に欲しがっている訳ではない銀時は、彼等に押されながら渋々店の中へと入って行く。

 

続いてユウキとサチも期待しながら

 

「ボク達も入ろう、神器の素材は無いけど腕の良い鍛冶師って事はそれなりに良い武器も売ってるかもしれないし」

「そうだね、もしかしたらランさんが使ってた物干し竿みたいな凄い武器もあったりして」

「あれは姉ちゃんオリジナルだからなぁ、でも同じぐらいの性能を持つ片手剣とかあったらちょっと欲しいかも」

 

二人仲良く店へと入って行くのを眺めながら、キリトはふと店の前でピタリと足を止めて顔を上げる。

 

店の屋根にはこの店の名前らしき看板が掛けられていた

 

『リズベット武具店』

 

「……やっぱり聞いた事のない名前だな」

「どうかした? 君も店の中を覗いてみようよ、もしかしたら凄いお宝の武器が手に入るかもしれないよ」

「そうだな、あればの話だけど……」

 

ジッと看板を見つめていたキリトであったが、ケイタに促されてしばしの間を置いた後、彼と一緒にそっと店の扉を潜って行った。

 

果たして銀時はこの店で神器を造ってもらう事が出来るのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




月夜の黒猫団は原作とそんな変化はありません、みんな良い子です。

次回はいよいよ凄腕の鍛冶師の登場です、果たして無事に銀さんは神器を造って貰えるんでしょうか……

それでは新章スタートです

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