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詩乃の理想形……ですね、幾松みたいにシャキッとしてハキハキと出前やりたいのが窺えます。
まあ現実では出前の時はラーメンが重くてやや千鳥足でフラフラしながらおぼつかない足取りで仕事していますW
万事屋銀ちゃんの下の階にあるお店、スナックお登勢
そこにはまだ開店もしていない早朝から上の階に住む三人組が店主のお登勢から急遽呼び出しを食らっていた。
「アンタ等に良い話があるんだよ、港で極道モンが人間解体ショー開催するみたいなんだってさ、アンタらも参加して来たらどうだい」
「「いや遠慮しておきます」」
カウンターでタバコの煙をこちらに吹きかけながらガラの悪い顔をするお登勢に対し
大人しく席に座っている銀時と和人が丁寧な言葉で即座に断った
「参加するつってもそれ完全に俺等が解体される側だよね? もはや人体に必要な器官丸々全て持ってかれるよねそれ? 死んでこいって言ってんの?」
「あーそうだよ家賃払えねぇなら死んじまえロクデナシ! 毎回毎回家賃滞納しやがって! 金出せ金! 内蔵全部を金と等価交換してこいバカヤロー!」
「やだな、そんなブラックな錬金術……」
銀時の家の家主であるお登勢には毎月決まった額の家賃を払う義務がある。
しかし万年金欠の上に浪費癖の激しい銀時はそれを毎回滞納してはこうして激怒した彼女に催促される事もしばしば
そしてそんな状況になってもなおまだゴネる銀時に、この状況にもすっかり慣れ始めた和人は既にさっさと家に戻りたいと思っていた。
「おいアンタ、今回は何時にも増して店主が怒ってるみたいだぞ、一体どんだけ滞納してんだよ」
「いや俺も払うべきモンはキチッと払おうとは思ってたんだけどさ、どうも上手く行かねぇんだよ、ヨン様が俺に微笑みかけてくれねぇんだよ」
「それパチンコでスッてるだけだろ、冬ソナで負かされまくって有り金搾り取られてるだけだろ」
「はぁ~この不景気のご時世じゃ仕方ねぇよ実際、うん、俺が悪いんじゃない、悪いのはこの時代そのモノなんだ」
「いやパチンコ止めりゃあいいだろ、時代のせいにするな時代に」
万事屋として手に入れた報酬もほとんどギャンブルで浪費してしまう事を漏らしてしまう銀時に和人がボソッとツッコミを入れていると
タバコを片手にお登勢もやれやれと首を横に振りながら呆れている。
「こりゃあそろそろ本格的に出てってもらおうかねぇ」
「えーヤダ、ボクあの家がいいー」
「テメェはテメェでなに勝手にウチのガソリン飲んでんだからくり娘」
銀時達の強制退去も辞さない姿勢に入る彼女に対し、さほど危機感のない口調で異議を唱えたのは
銀時達と一緒にカウンターに座りながら、勝手に店に置かれていたポリタンクに貯蔵されているガソリンをコップで飲んでいるユウキであった
「ごめんねー、ここ最近銀時ったらガソリン代も無いみたいでさ、飲まないとボク動けないからちょっと頂戴」
「はぁ? アンタまさかコイツにガソリン代さえ払ってもらってないのかい?」
「うん、ボクのガソリンは全部ヨン様が飲んじゃったんだって」
「ヨン様殺す気かァ!」
ユウキの身体を満足に動かす為のガソリンを払う金さえないと聞いてお登勢はいよいよ深いため息を突く。
確かに銀時はロクデナシのちゃらんぽらんだが、ユウキがこうして外の世界を自由に歩き回ってもらう為には例え己の食費を削ってでも、彼女の動力源であるガソリン代だけは常に確保していた筈なのだが……
「とことん見下げ果てた男だよ全く、私が見かねて一回は助けてやったのにまたテメーの女の食費もパチンコに使い込みやがって」
「うるせぇな何が助けてやっただよ、俺達を化け物屋敷に売り飛ばしただけじゃねぇか、あんなのただの嫌がらせだろ」
「あの出来事の事は今も俺でもはっきりと覚えてるよ、おかげでたまに夢で見てうなされる、という事で慰謝料をアンタに請求する」
「なんなら私がこの場で解体ショーおっ始めてやろうか?」
以前お登勢は家賃だけでなくユウキのガソリン代も払えない、正に今と同じ状況だった時、オカマバーを営むマドモーゼル西郷に好きにしろと彼等を売り飛ばした事がある。
その事をまだ根に持ってる様子で文句を垂れる銀時と和人に、お登勢が澄まし顔で返事して吸い終わったタバコを灰皿に捨てていると
「コイツ等ニ何言ッテモ無駄デスヨお登勢サン」
店の奥からニュっと現れた猫耳を付けた団地妻の様な、いわゆる際どい顔付きをした女性が
片言言葉でお登勢に親し気に話しかけながら歩み寄っていく。
「サッサト追イ出シマショウお登勢サン、コイツ等ヲ甘ヤカシテタラ絶対痛イ目二遭イマース」
「そういやアンタも最初ココで働いた時に売上金パクろうとしたねキャサリン、アンタの言う通り私も心を鬼にしてここにいる奴等全員この店どころかかぶき町から追い出してやってもいいんだよ」
「私ヲコンナ連中ト一緒ニシナイデ下サイ! コイツ等ハお人好しナお登勢さんニ付ケ込ンデ家賃ヲ踏ミ倒ソウトシテルクソ野郎デスヨ! 私ハ違イマス! 私ハタダコノ店ノ金ヲ全部盗モウトシタダケデス!」
「オメェの方が余計タチ悪いじゃねぇか! 全然弁明になってねぇんだよコノヤロー!」
お登勢にキレられてツッコミを入れられているのはこの店で働く従業員・キャサリン
別の星から出稼ぎでやって来た天人であり特技は盗みを働く事、その結果過去に色々とやらかした前科モンである。
今ではお登勢の下で大人しく従業員として働いてはいるが、見た目だけでなく性格も最悪なのはちっとも変わらない。
「おいおいまだここで働いてたのかよそいつ、もしかしてアレか、50話目前になって未だにヒロイン一人攻略できていない和人君の為の緊急ルート要因なのか?」
「頑張ってキリト、頑張ってキャサリンルート入って」
「それ俺に死ねと言ってる様なもんだぞ! 絶対イヤだわふざけんな! ユウキも悪ノリするなって!」
コイツ等ホントノリだけで喋る時あるよな……と思いつつ、和人は即座に否定しながら怒鳴る。
「俺はおしとやかで常に相手を想いやってくれる優しい年上系お姉さんヒロインがいいんだよ!」
「アァ!? 年上系お姉さんヒロイントカソレモウ完全ニ私ジャネーカ!! 欲情シテンジャネェヨ童貞野郎! 気持ち悪い妄想シテンジャネェ!! 死ニ晒セクソガキ!!」
「剣が欲しい、この猫耳という特性をこの世で最も活かす事の出来ない団地妻を……! 思いきりぶった斬れる剣が欲しい……!」
「現実世界じゃ剣持ったら犯罪だよキリト」
本能の思うがままに好みの異性を叫ぶと、なにを勘違いしたのか突然キレた状態で中指を立てて来たキャサリン
ユウキに静かに正論を言われつつも、和人はただただEDOに出て来る様な剣が手元に欲しいと願っていると。
「ったく朝っぱらから騒がしい連中だね……仕方ない、そろそろこっちも色々と準備があるし家賃の件はまた今度にしてやるよ、有難く思うんだね」
「へいへい、ったく払えばいいんだろ払えば……」
どうやらお登勢の方は用事があるらしく、珍しくあっさりと自ら引き下がってくれた。
それに対して銀時は舌打ちしながらだるそうに席から立つ。
「おいお前等、ババァの長話が終わったからさっさと帰るぞ」
「あー空から可愛い女の子とか降って来ないかなホントに、そういう運命的な出逢いをすれば俺にもきっとフラグが……」
「心配すんなよ和人君、いつかお前の前にも身の丈に合った女の子がやって来るって、それかもう会ってるかもよ?」
「もう会ってるって事は無いって……俺の知り合いの女の子って大抵ロクな奴いないし……特にあのエリート気取りの高慢お嬢様とか絶対無いわぁ……」
「そうやって頑なに特定の相手を拒絶し続けるのもまたフラグの一つだってユウキに聞いた事あるぞ」
ブツブツ文句を垂れながら和人は銀時と共に店を後にする
ユウキもまたポリタンクに入ってあったガソリンをしこたま飲み干したのか、コップをカウンターに置いて席を立つ。
「ご馳走さん、じゃあボクも行くね、またヤバくなったら飲みに来るから」
「二度ト来ンジャネェヨブス!! サッサト消エ失セロガソリン泥棒!!」
「いや泥棒はテメェだろうが!」
軽く手を振りながらまたやって来ると言い残して去っていこうとする彼女にキャサリンがキレて、そこへお登勢が更にツッコミを上乗せしてる間に、ユウキは銀時達の後を追って上の階へと行ってしまった。
「ったくダメだねあの天然パーマは、一人でも満足に生活できないクセに、他に二人も家に住ませてやるなんてどういうつもりだぃ全く」
「バカナンデスヨ、トビッキリノバカダカラ何モ考テナインデスヨ」
「おまけに今じゃ仕事もロクにせずに一日中ゲームばかりしてると来たもんだ、ったくテメーの人生という名のゲームを詰んでる状況で他のゲームやってる暇なんて無いだろっつうの」
「惨メナ現実カラ逃避シタイダケナンデスネ」
反省する気も更々無い態度で出て行った銀時が気に食わなかったのか、お登勢は早速キャサリンにその事で愚痴り始める
彼とは随分前から古い仲ではあるが、ここ最近の堕落した彼の生活っぷりには目に余るモンがあるのであろう。
「そもそもゲームとかそういう娯楽モンは暇を持て余した時間の間でちょいとやるモンなんだよ、小娘は事情が事情だから仕方ないとして、銀時とあの桐ケ谷のじーさんの孫は現実を忘れちまうほど遊びこんでるってのはどういう訳だいホント」
「全クデスネ、ゲームトイウノハヤルモンデアッテ、ヤラサレルモンジャアリマセン」
「わかってるじゃないかキャサリン」
何処かで聞いた格言の様な事を口走るキャサリンに、お登勢はタバコを口に咥えながらニヤリと笑いかける。
「ゲームにのめり込むのも程々にって事さ、その点に関してはアンタも私もちゃんと理解してるみたいだね」
「常識デスヨソンナ事、アンナ三馬鹿ト一緒ニシナイデクダサーイ」
調子のいい事を言いやがってと、お登勢はキャサリンに小さく肩をすくめた後、加えていたタバコを灰皿に落とす。
「さてと……私達もそろそろ準備でもしようかね」
「ワカリマシター、今日モ頑張リマース」
そう言いながら二人は店の奥へと戻って行った。
大方店を開く準備を始めるのであろうか
しかし今はまだ早朝、ここはスナックというだけあって開店時間はまだ随分と先の筈なのだが……
「早ク私達デ世界ヲ平和ニシマショー」
「そうだよキャサリン、あの世界の未来は私達の手に掛かってるんだからね」
ところでついさっき彼女達が言ったばかりの発言を思い出してみよう
ゲームにのめり込むのも程々に
場所は変わりココはEDOの仮想世界・三十六層
そこで今、ちょっとしたトラブルが発生していた。
「ハハハハハ! やりましたなライオス殿! こんな低い階層で幼いとはいえ竜を手に入れる事が出来るとは!」
「おいおい喜ぶのはまだ早いぞウンベールよ、皇子への土産にはこれだけでは足りん、あそこにいるデカい犬も是非彼女達から譲り受けるとしよう」
「なるほどそうですな! 幼竜だけでなくあの白い犬も連れて帰れば! きっと珍しい動物を好むあの皇子も大層喜んでくれましょう!」
砂漠フィールドにて機嫌良さそうに高笑いを浮かべる男と、得意げに白い幼竜の首を鷲掴みにしている男。
そんな悪趣味な見た目ではあるがかなりレアな装備と衣装を身に纏う彼等二人組と
苦い顔をして静かに対峙しているのは
不正を正す事を生業とする上級ギルド・血盟騎士団の副団長を務めるアスナであった。
「あ~これは……ちょっとマズい事になったわね」
「はぁ? マズいも何もないじゃない、悪質なプレイヤーを斬るのがアンタの役目なんでしょ」
意気揚々と次の獲物を狙おうとしているその二人組に対しアスナが少し困った様子でいると
彼女の親友であるグラこと神楽が相変わらずのロールを行いながら厳しく彼女に追及する。
「アイツ等、あのチビ娘からあの白いトカゲを奪ったのよ、だったら悪いのは明らかにアイツ等じゃない」
「うえ~ん! ピナを返してくださ~い!」
神楽がチラリと後ろに目配せするとアスナも一緒に背後へ振り返る。
そこにはかつて新八に助けられた事のあるプレイヤーの少女、シリカが涙目で男達に奪われた幼竜を返して欲しいと叫んでいた。
どうやらまた質の悪い連中に襲われてしまったらしい
「ピナ~~!!」
「おまけにアイツ等、次は私の定春まで奪おうとかほざいてんだけど? プレイヤーが使役してるモンスターを奪うのって禁止にされてるんでしょ?」
「グルルルルルルルル!!!」
神楽の背後に立っている一匹の超巨大犬・狗神こと定春が毛を逆立てて歯を剥き出し、激しく憤っている。
どうやらAIにも関わらず同じモンスターであるピナを乱暴に奪い取った二人組に対して、強い敵意を剥きだしているらしい
「言っておくけどアイツ等が定春狙いに来たら私返り討ちにするから、私と定春もやる気満々よ」
「ま、待ってグラ……そりゃ相手が普通のプレイヤーだったら私もこんなに迷う事無いんだけど……」
日傘を差したまま神楽がそう言い放つと、アスナは慌ててなだめながらまた二人組の方へと目を向ける。
一見男達は普通の一般プレイヤーにも見えるのだが
よく見てみると、彼等の額には一本の触手の様なモノが生えているのだ(ちなみにライオスと呼ばれた男の方がデカい)
「間違いない、アレは央国星の者達だけが持つ独特の触覚よ……つまりあの二人は地球側からこちらの世界にフルダイブしている央国星の天人……」
「ほほう驚いたぞウンベール、地球人は野蛮なだけの猿共しかおらぬと思っていたが、どうやら我等がいかに崇高な存在なのかを一目でわかる者もおるらしいぞ」
「これは凄い大発見ですなライオス殿! 下等種族にもちゃんと脳が収まっていたのだと学会に公表すれば表彰ものじゃありませんか!!」
「おいおいそれは言い過ぎだぞ、いかに地球人だって脳みそぐらいは持っているさ、現に己が我々の下僕なんだとハッキリわかっているではないか」
「ハッハッハ! それもそうでしたな! 目上の者には従うぐらいの知能は持っているのだと忘れていました!」
央国星というのは額に触覚の生えた天人であり、地球とは表向きは友好的な関係を築いている星の種族である。
どうやらこの二人はそこの星出身らしく、アスナが彼等を相手に迂闊に手が出せないのはそれが理由であった。
「マズいのよ、央国星にはウチ(地球)結構お金とか色々借りてるのよ、お父さんの会社の取引先でもあるし……今ここで私達があの二人に手を出したら国際問題に発展して地球と央国星の間に亀裂が入る可能性が……」
「バッカじゃないのアンタ、ここはゲームの世界なのよ?」
リアルでは将軍家と繋がる名家のお嬢様である彼女にとって、天人との外交に障害が起きるというのはなんとか避けたいもの
しかしそれを聞いても神楽はジト目を彼女に向けたまま冷めた様子で
「よくわからないけどアンタが言うその国際問題ってのが、アイツ等をシメちゃったら本気で起こると思ってる訳?」
「あるのよ本当に! 現にそれを度々引き起こしているのが攘夷プレイヤーなの! アイツ等が身勝手に天人を襲うせいで! 地球には悪質なプレイヤーがウヨウヨいるって宇宙中で呼ばれているんだから!」
「だからといって女の子を泣かす奴をこのまま見逃すなんて真似出来ないでしょ、それをやったらアンタ、攘夷プレイヤーよりもずっと最低よ、アンタが嫌いなあの黒づくめの厨二剣士よりずっとね」
「も、もちろんそれはわかってるわ……」
内心ちょっと怒ってる様子の神楽に気付いてアスナはちょっと怯みつつも、恐る恐るピナを奪った男達の方へと歩み寄る。
「失礼します、私は血盟騎士団の副長のアスナ、貴方方は我々地球と友好的な間柄である央国星の方達で間違いないでしょうか?」
「おい己の身分をわきまえろ貴様! 我々がまだ話しかける許可も与えていないというのにいきなり尋ねてくるとは何事だ!」
「よいよいウンベール、所詮は刃物だけで我々を退けようとした蛮族共だ、そんな連中に社交的マナーを求めても無駄であろう」
アスナが口を開いた途端、いきなり激昂して怒鳴り出すウンベールと呼んだ男を嘲笑を浮かべながら制止させると、彼より格上の身分だと思われるライオスという男がゆっくりと返事した。
「いかにも我々は央国星の者だ、しかしただそこに住んでいる者ではない。我々は央国星の頂点に君臨するバ……ハタ皇子直属のお付きの者なのだよ」
「ハ、ハタ皇子!? 貴方方はあの央国星のトップのバカ……ハタ皇子のお付きの方達なんですか!?」
「おい今一瞬我等の皇子をバカと言いかけなかったか? まあいい、わかったか下民が、我々がいかに貴様等よりもずっと高い地位に就いている事を」
ハタ皇子と言えば珍しい動物をこよなく愛し、この地球に何度も足を運んで何かとワガママ放題しまくる事で有名な央国星の皇子だ。
彼等がそのハタ皇子の付き人だと知って愕然とするアスナに、ライオスの隣に立つウンベールが高慢そうにフンと鼻を鳴らす。
「ライオス殿、こんな連中と話すだけ時間の無駄です、さっさとあの白い犬も奪って皇子に献上しに行きましょう」
「ま、待ってください! いかに皇子直属の付き人であろうとそう簡単にプレイヤーの所有するモンスターを奪うというのは極めて悪質な行いです! ここは私の言う通りに従ってその竜をこの子に返して下さい!」
「き、貴様! よりにもよって皇子の為に忠実な行いをする我々を悪質と呼ぶだと!? なんたる暴言だ恥を知れ!」
「よせよせウンベール、お前はそうすぐカッカするのは悪い癖だぞ? ここは上の存在としてキチンと丁寧に教えてあげようではないか」
アスナの必死な懇願にまたもや怒鳴り散らすウンベールだが、そこでやれやれと首を横に振ってライオスがまた制止。
「まあ要するにだ、我々がこの竜とそちらの犬ッコロを奪うという行為がいけない事だと言いたいのであろう? しかしだ、奪うのではなく我々がそちらから譲り受けるという形であれば、なんら不正ではないと思うのだが、違うかね?」
「おっしゃる意味が分かりませんが……彼女達が自分の大切な存在を自ら手放すと本気で思いになっているんですか?」
「我々はハタ皇子直々に命令を下されている、この世界の珍しい動物を捕まえて連れて来いと、故に我々の行いは全て王が決めた事であり、我々央国星の傀儡である貴様等地球人もまた従う事は至極当然だという事よ」
「……」
これにはアスナも呆れ果てた、論点をすり替えて王の命令だから言う事を聞けなどと、支離滅裂で正当性も無く、まるで話にもならない。
これならまだあのキリトや銀時の方がまだ上手く喋れるであろう
他人の物を奪っておいて何が王の命令だと、内心文句を呟きながらジト目で彼等を睨み付けるアスナ。
そして神楽もまた手に持った日傘を高々と掲げ、彼女に従う定春も身を屈めて戦闘態勢に入り
「ねぇ、もうコイツ等殺っちゃっていいわよね?」
「いや待って待って! 確かに殴りたくなる気持ちもわかるけどアレでも一応私達の国の援助してくれてる星の人だから! めんどくさいけどここは穏便に済ませないといけないの! 相手がバカでもこっちは大人にならなきゃいけないの!」
「じゃあ、アイツ等の頭に生えてる触角抜くぐらいならいいわよね?」
「ダメよあんなピクピク動いてる卑猥な触角なんて触っちゃ! ばい菌付いちゃうわ!」
「おい貴様等ぁ!! 穏便に済ませる気あるのかぁ! さっきからこっちに丸聞こえなんだよ貴様等の会話!」
つい大声を出して神楽の説得に入るアスナだが
どうやら彼女達の会話は筒抜けだったらしく、ウンベールがまたもやキレながら自分の額に生える触角を指差す。
「ばい菌なんて付く訳ないであろうがぁ! この触覚は体の中で最も丁寧に洗っているのだぞ! 我等にとって最もデリケートな部分! 我が種族の雄の象徴にして誇りでありその名はチダンネクスコ!!」
ピョインピョインと上下に動く触角の呼称を叫ぶウンベールに続いて、ライオスもまたドヤ顔を浮かべ
「略してチンコだ」
「やっぱり卑猥じゃないのぉぉぉぉぉ!!」
「チンコをバカにすればチンコに泣く、これ以上我等の誇りであるチンコを乏しめるのであれば、この事を我等が皇子に報告して貴様等を極刑に処しても構わんのだぞ?」
「チンコチンコうっさいのよ! チンコ馬鹿にして処刑されるなんて願い下げよ!」
「アスナ姐!? アスナ姐はチンコとか叫んじゃダメアル! いくらこっちの世界に片足突っ込んでいてもアスナ姐がチンコは使っちゃったら駄目アル!!」
何をバカげたこと言ってるのだとアスナはさっきまでの丁寧口調を止めて、勢いに身を任せてライオスに向かって突っかかろうとしている中で素になった神楽が慌てて叫ぶのをやめさせようとしたその瞬間……
「待ちなさい!」
「え?」
不意に聞こえた声の方向へアスナは即座に振り返ると
そこには逆行を利用して黒いシルエットに身を包んだ謎の二人組が独特的なポーズを立っていた。
「女の子を泣かせた上にセクハラ発言を連発するなんて! そんなの私達が許さないわ!」
「私達ガイル限リ!! コノ世界デソンナ勝手ナ真似ナンカサセナイワ!!」
「なんだ貴様等! 姿を現せ!」
「フン、もしや我々に歯向かう者がまだいたというのか? やれやれ地球人はどうしてこう何時まで経っても愚か……」
ウンベールとライオスも気付いて二人組の方へ振り返っていると
シルエットに身を包んでいた二人は「とぅ!」という掛け声と共に天高く飛び上がり……
「タマブラック!!」
「タマホワイト!!」
一人は黒、もう一人は白を強調とした服装
どこぞで見たかもしれない昔懐かしの戦うスーパーヒロインの恰好をした
かなり年がいっている熟女二人が華麗に目の前に現れたのだ
「「超美熟女戦士! 二人はタマキュア!! ここに見参!!」」
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茶髪の短髪と黒髪ロング、本家の特徴は捉えているのだが……
その末恐ろしい見た目に一瞬この場の時が止まった。
「ラララララライオス殿!? 何やら新たな珍種が現れましたぞ!」
「なななんだあのモンスターはァァァァァァァ!?」
「ま、まさかアレも皇子の命令の下に捕まえねばいけないのですか!?」
「お、落ち着けウンベール! あんなグロデスクなモンスターは皇子と言えど絶対に無理な筈だ! というかまず捕まえる事自体絶対に無理であろう! 間違いなく一生の中で最も関わりたくない存在だぞアレは!!」
先に動いたのは慌てふためくウンベールであった、ライオスもまた先程までのやれやれ系傲慢キャラを捨ててひどく動揺している。
そしてアスナ達もまた口をあんぐりを開けて、華麗に現れた美熟女戦士を絶句した表情で見つめている。
「な、なにアレ……?」
「この辺で出現するレアモンスターアルか……?」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!! 助けてシンさぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
思わず素になって固まってしまうアスナと神楽の後ろでシリカがすっかり怯えた様子で叫んでいる。
そんなカオスな状況の中でも、そのカオスを生んだ張本人であるスーパーヒロイン・タマキュアは
「そこの額に卑猥なモンぶら下げてる奴等覚悟しなさい!」
「私達ノ正義ノ名ノ下ニ!!」
「「地獄に叩き落としてくれるわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「お、おのれぇ化け物め! 恐れ多くも皇子のお付きである我等に楯突くとは!」
「目にモノを見せてくれる! 迎え撃つぞ! ウンベール!」
思いきり物騒な事を口走りながら目を紅く光らせ、ライオスとウンベール目掛けて獣の様に飛び掛かるタマキュア
彼女達による正義の戦いが今始まる
「正義ってなんだろう……」
「ていうかアスナ姐、私達の活躍、あのババキュアって奴等に全部奪われたアル……」
「ババキュアじゃなくてタマキュアよ神楽ちゃん……」
トラブルを解決できなかった自分と、横から颯爽と現れ瞬く間にライオス達に喧嘩を売りに行くタマキュア
困り果てていた自分の代わりにライオス達に正義の鉄槌を食らわせてくれるのは良いが、これだけは確かに言える。
いかに正義の味方だからと言って
あの年であの恰好は絶対に無い
「母さんがあんな格好してたら私絶対一生引きこもりになるわ……」
「ウチの死んだマミーならイケるかもしれないアル」
EDOに現れた謎のスーパーヒロイン・タマキュア
彼女達の正体は誰も知らない。
皆さんお待たせしました遂に銀魂のヒロインが登場です。
薄々予想していると思いますがこの地獄は次回まで続きます
銀魂の最終回でテニプリネタがあったのが嬉しかったです