竿魂   作:カイバーマン。

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実写映画版の銀魂観てきました。

予算が倍になったおかげで前作を超えるクオリティに進化しています、アクションもギャグも

ていうか山崎役の人が本当に凄い……ホントにジミーそのもので凄くファンになりました。

本人はあの「あんぱん回」を短編集でもいいから是非ともやりたいと熱望していたので頑張ってほしいと思います。



第四十六層 それが私のあしながおじさん

時刻はすっかり夜になった頃、朝田詩乃は桂小太郎に急に誘われて夜の街中を連れて行かれていた。

 

「初めてよね、あなたが私を外に誘うなんて」

「幾松殿に頼まれてな、毎日店にこもって外出しないのは年頃のおなごとしていかがなモノかと相談され、ならばと俺の友が開いてる店に誘ってみたまでの事だ」

「もしかして私って幾松さんから引きこもり扱いされてるの……? もうちょっと外出てみようかな……」

 

前を歩く桂を追いながら、基本的に仮想世界と店の仕事を行ったり来たりの繰り返しでの生活を送っている事に不安感を覚える詩乃。

 

今日はいつもの制服ではなく地味な色合いの着物にそでを通した格好だ。

 

「ていうか”コレ”もついて来るの? さっきから私の後ろをついて歩いてくるんだけど」

「コレではないエリザベスだ」

 

詩乃がこれ呼ばわりしながらジト目で後ろに振り返ってみると、そこには不気味な珍獣・エリザベスがペタペタと足音を鳴らしながら何考えてるかよくわからない表情でついて来ていた。

 

狭い路地道だから仕方ないとはいえ、こんなのに後ろにピッタリ付かれていると軽くホラーだ。

 

「着いたぞ、あの店だ」

「随分と人気のない所に店を開いてるんだねその人……ダイシーカフェ?」

 

後ろから迫って来るエリザベスに背中を小突かれて煽られながら歩かされていると、先頭を歩いていた桂が目当ての店を指差す。

 

詩乃はその店の看板を見て喫茶店か何かか?と想像していると、彼はすぐに歩み寄って店のドアを開いて

 

「頼もう」

「ああいらっしゃ……って桂じゃねぇか」

 

カウンターの奥から彼等を迎えてくれたのは、屈強そうなスキンヘッドの黒人店主であった。

 

「なんだお前、まだ捕まってなかったのか」

「生憎、幕府の犬程度に捕まる程落ちぶれちゃいない。それにしても相変わらず流行っとらんみたいだなここは」

「うるせぇ、元々ここは喫茶店だっつってんだろ、朝と昼はもっと賑わってんだよ」

 

お尋ね者の桂に会っても平然としている所から察するに、彼が言っていた友人だというのはこの男の事なのであろう。

 

店内は洋装で良い雰囲気なのであるが

 

今はカウンターに頭を預けてすすり泣く声を漏らす、グラサンを掛けたラフな格好の中年のお客一人だ

 

「うぇ~ヒック……どうせ俺なんて負け犬だよ……一生人生転落し続けるだけの人生さ……」

「おい”長谷川”さん、いい加減飲みすぎだぞアンタ、もう帰った方が良いんじゃないか」

「うるせぇ! まだまだ飲み足りねぇんだよ! 負け犬の俺は嫌な事や辛い事も全部忘れるぐらい飲まなきゃやってけねぇんだよ!!」

「やれやれ、こうなっちまったら延々と愚痴を言い続けて居座るんだよなこの人……」

 

グラサンの下から涙を流しながら、私生活で酷い目にでも遭ったのか、エギルに対してキレながら酒を要求する中年男。

 

そんな男の対応に店主は疲れた様子でため息をついていると

 

桂が詩乃とエリザベスを連れてカウンターの席へと着く。

 

「おぬしに紹介しよう、こちらの異国の男はエギルという者でな、かつては俺と共に天人相手に戦っていたが、妻を取ってから戦いから身を引き、今はこの店の店主として働いている」

「っておい桂! なにサラッと人の過去を暴露してんだ!」

「へぇ、ぱっと見だと異国の人に見えるんだけど、この人もあなたや銀さんと同じ攘夷志士だったんだ」

 

グラサン男の隣に座った桂の隣にすかさず座りながら、落ち着いた様子でこちらを見上げて来る詩乃に

 

慌てていたエギルはそんな彼女の態度に顔をしかめて首をひねる。

 

「な、なんでそう簡単に受け入れるんだ? おい桂、何モンだこの娘」

「ただのラーメン屋で働く娘だ。気にするな、真撰組に俺達を密告する様な真似はせんよ」

「それならいいが……ところでもう一つ聞くが、お前が連れて来たその白いペンギンだかアヒルみたいな生き物もなんなんだ……」

「エリザベスだ、俺にもよくわからん、だが結構可愛いだろ」

「いや全然……昔からお前は変な所あるよなホント」

 

詩乃のついでにその彼女の隣に座ったエリザベスを不思議そうに眺めるエギル

 

不気味過ぎる……

 

どうしてあんなのを連れているのだろうとエギルは桂に対して視線だけで訴えていると、恐る恐る詩乃が彼に向かって軽く手を挙げた。

 

「あの、ところでここってお酒以外にも飲めるモノあるんですか? 私一応未成年なんですけど……」

「ああ、ウチは元々喫茶店だからな、ジュースやガソリンもちゃんと用意できてるから安心しな嬢ちゃん」

「いやガソリンは良いです、私死ぬんで」

「未成年……?」

 

エギルに詩乃が尋ねていると、彼女の言葉に先程までカウンターに倒れていたあのグラサンの男がピクリと反応して彼女の方へ振り返った。

 

「いいね未成年、まだまだ青春盛りのいい年頃じゃねぇか……だからこそ今を大事にしろよお嬢ちゃん……人生の中での楽しい時間なんかほんの一握りさ、気付いた時にはリストラされて妻にも逃げられて、職を転々とながら落ちぶれていく暗く辛い時間を繰り返す無限ループを送り続けるモンなんだよ……それが負け犬の人生ってモンさ」

「なんかいきなり知らないグラサンの人に話しかけられた! ていうかこの人! よく見るとグラサンの奥から凄い目でこっち見てる!」

 

若さとまだゆとりのある人生を送れる詩乃に対していきなり人生の闇を実体験の様に語り出す男。

 

しかもよく見ると、グラサン越しからこちらに対して虚ろな目を覗かせてしっかりと凝視してくる。

 

「滅茶苦茶怖いんだけど、あの人……大丈夫なの?」

「ああ、あの客の事は気にするな、長谷川さんって言ってな、ちょいと前は幕府のお偉いさんだったのにリストラされちまってよ、妻にも逃げられて今じゃその日その日を生きてくいくだけで精一杯みてぇなんだ、可哀想だがこのご時世じゃそう珍しい事でもねぇよ」

「そ、それは随分と大変だったのね、同情するわ……」

「同情するなら金をくれぇ!!」

「はい!?」

 

エギルから訳を聞いて哀れんだ視線を送っていると、詩乃に向かって突然バッと長谷川が身を乗り上げて来たのだ。

 

「可哀想だとか同情するとか聞き飽きてんだよ! 頼むよお嬢ちゃん! こんなまるでダメなオッサンなんて哀れで滑稽で猿にも劣るクソ虫だといくらでも蔑んでいいから! 千円でもいいから恵んでくれぇぇぇぇぇぇ!!!」

「い、いやちょっと困りますから! 別にあなたを蔑む権利とかもいらないんで!」

 

相当切羽詰まっているのだろうか、必死の形相でたかりに来る長谷川、もはやプライドもクソも無い

 

詩乃が反射的に退いてちょっと怖がっていると、二人の間にいた桂が真顔で突如長谷川の頭をむんずと掴み

 

「止めろ」

「わぞっぷ!」

 

カウンターに叩き付けて彼を一瞬で黙らせた

 

それを見て詩乃が驚いてるのも束の間、桂は叩き付けたばかりの長谷川の頭を掴んだままヒョイと上げて

 

「未来ある若者にすがろうとするな、俺はいずれ新しき国を築く、その国には彼女の様に将来有望な若者達が必要になる時が必ず来るであろう。俺達大人がそんな者達の邪魔をしてどうする」

「知らねぇよそんな事ぉぉぉぉぉ!! 俺はもう藁どころか埃にさえしがみ付きたいんだよ! こんなクソみたいな現実を生きていくにはもうなりふり構ってられねぇんだバカヤロー!!」

「フ、確かに今の世は腐っているが、己も腐ってしまっては元も子もないぞ」

 

言われてもなお負けじと言い返しながらもまだ頬を涙で光らせている長谷川に思わず笑ってしまうと、桂はエギルの方へと振り返り

 

「店主、酒を用意してくれ、二人分な」

「おいおい、まさかお前が恵んでやるのか?」

「なに、これ以上店に迷惑掛けるのも悪いと思ってな」

 

そう言って桂は隣で口をポカンとしている長谷川の方へ振り返る。

 

「俺にであれば好きなだけ吐き出したいモノ洗いざらいぶちまけてみろ、全部吐き出せば多少は気が休まるであろう、その汚れ切った心にこの桂小太郎が天誅を下してやる」

「アンタ……」

 

曇りない眼ではっきりとそう言ってくれた桂に、長谷川の必死めいた表情が少し安らぐ。

 

まさかこんな他人に干渉したがらない冷たい世の中でよもやこんな器のデカい男と出会えるなんて……

 

 

 

 

そして数十分後

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁもうホントいや!! 幕府とか国とかさっさと滅べばいいのに!」

「そうだそうだ! 俺達をちゃんと養ってくれないこんな国滅んじまえばいいんだ!」

 

まさかの桂の方が酔っ払う。

 

洗いざらいぶちまけてみろと言っていたクセにカウンターにつっ伏して自分が思いきりぶちまけており、それに対して酒の注がれたコップ片手に長谷川も上機嫌で同意していた。

 

「俺一人こんなに頑張ってるのに!! 国の危機も気付かずに好き勝手やって生きてる奴等がマジムカつく!!」

「あーわかる! 俺もうすっげぇわかる! 俺達真面目な人間が嫌な事でも我慢してやってんのに! 他の連中が遊び呆けてるの見ると腹立ってしょうがないよな!!」

「そして何より今一番ムカついているのは! 俺の友をそそのかして攘夷活動から引き離そうとするあの田舎小娘だ!!!」

 

カウンターを両手で思いきり叩き付けながら、桂は以前銀時のお宅にお邪魔した時に遭遇したユウキの事で怒りをあらわにし始めた。

 

「なにが今の銀時を知らないクセにだ! 女子供が侍に偉そうな口を叩くな! 俺と銀時はガキの頃から同じ学び舎で育った仲なのだぞ! 何も知らんポッと出の小娘が俺達の仲を引き裂こうとするとはなんと卑劣な! 銀時をNTRした行いにはいずれ俺が天誅を下してやる!!」

「おーやれやれヅラっち! なんかよくわからんねぇけどとりあえず天誅やっちまえぇ!!!」

 

二人共酒ですっかりノリノリで、遂には席から立ち上がって思いきりギャーギャーと騒いでいると

 

「うるせぇぇぇぇぇぇ!! 店に迷惑掛かるとか遠慮してたクセに! なにオメェが一番迷惑かけてんだよ桂!!」

「おいエギル! 俺とお前はかつては同じ戦場で共に戦った仲だ! どうだ!? 今から一緒にあの忌々しい憎き小娘を殴りに行かんか!?」

「そんなチャゲアスみてぇなノリで行く訳ねぇだろうが! 大体お前が言ってるその小娘ってのはユウキの事だろ! アイツの事はほおっておいてやれ! アイツは銀時の奴と一緒にいるのが一番幸せなんだよ!」

「小娘の幸せなど俺が知ったことかァァァァァァァ!!!」

「悪酔いにも程があるだろコイツ……」

 

何本目かわからない程の酒をがぶ飲みしながら、長谷川と肩を組んで大いに盛り上がる桂に、いい加減迷惑だと怒鳴り散らすと呆れてため息をつくエギル

 

「戦争時代は他の三人がアレだったからまとめ役に徹してたクセに、タガが外れるとすぐ暴れやがって……」

「な、なんだか昔も大変だったんですね……」

「ああ、銀時、高杉、坂本、そして桂、こいつら4人揃えば敵も味方も関係なくやりたい放題しまくって俺もヒヤヒヤしたもんだぜ」

「4人?」

 

攘夷戦争時代の桂の事は詩乃はあまり知らなかった

 

聞く必要も無かったし、もしかしたら聞いてマズい事でもあるのだろうかと彼の過去を追及する事は今まで無かったのである。

 

しかしエギルの口から洩れる彼とその仲間の話に、いささか好奇心が目覚める。

 

「銀さんは知ってるけど、他の二人は私は知らないわね、有名な人?」

「有名と言えば有名だな、まあ両方共桂や銀時と同様一癖も二癖もある野郎だ、つまり大バカ野郎って事だな」

「へぇ、ちょっと会ってみたいかも」

「い、いやぁ……そいつはちょっと止めておいた方がいいぜ?」

 

高杉と坂本、二人の事もよく知っている様子のエギルに詩乃がついボソッと呟くと、彼は苦笑しながらそれを止めてあげる。

 

そもそもあの二人はそう簡単に会える様な連中じゃない。一人は宇宙をまたにかけ、もう一人は……

 

「それにしても驚いたぜ、まさかコイツがお嬢ちゃんみたいなのを連れてウチにやって来るなんてな、趣味変わったのかコイツ? 攘夷志士とか関係なく別件で捕まるぞ?」

「ああ大丈夫、桂さんは今の今まで人妻目当てだから、この人の狙いはウチの店の店主、私の事はただの小娘ぐらいしにか思ってない筈だから」

「なるほどね、その店主を落とすためにまずは外堀から埋めるってか? 桂の野郎も姑息な手を考えてやがるな」

「ハハハ、多分そんな感じかな」

 

エギルに変に誤解されそうだったので即座に訂正する詩乃。

 

彼は自分の事など世話の掛かる妹分とかその程度にしか思っていないであろう。

 

そう思いながら彼女はまだ隣で長谷川とどんちゃん騒ぎしている桂に視線を向ける。

 

「でもいいの、こうしてたまに会って元気な様子を見せてくれれば、今のままの関係で私は十分満足してるしね」

 

こちらの視線にも気づかずに飲んだくれている桂を見てくすっと笑いながら

 

詩乃はふと彼と最初に会った日の出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

赤黒く燃えるデパートの中で

 

幼かった私は偶然拾った銃を彼に向けて発砲した。

 

「!」

 

派手な音が鳴り響くと同時に銃口から飛び出した弾丸は彼の真横をすり抜け

 

 

 

 

 

「ぐはッ!」

 

後ろから彼を襲おうと刀を振り上げていた男の胸部を貫いたのだ。

 

狙い通りだった、しかし咄嗟に撃たねばと思い放った弾が命中するなんて……

 

人を殺めたという恐怖感に身を包まれていた私が震える中、撃たれた男はただただ私に対して恨めしそうに目を血走らせて睨み付けたまま

 

バッタリと倒れて微かに痙攣した後、二度と動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ……」

「……まさかおぬし、俺を助ける為にこの者を撃ったというのか?」

 

彼は少し目を見開いて驚いた様子で動かなくなった死体を見下ろすと、すぐにこちらに顔を上げ声を掛けてきた。

 

「おぬしの父を救う事が出来なかった俺を……」

 

哀しい目をしながら彼は項垂れると、その足元には背中を斬られて絶命している私の父がいる

 

後になってわかった事だけど

 

この事件を起こした首謀者は過激派の攘夷志士だった。

 

幕府に追い詰められて次々と同胞を失っていく事で彼等は精神的にもおかしくなってしまったのか

 

天人が造り上げたこのデパートを崩壊させ、更には天人の店を利用する市民達を脆弱な負け犬と称して皆殺しにしてやろうとしていたらしい。

 

その結果、デパート内は地獄絵図と化し、私の父は目の前で殺され、母も私を庇う様な形で連中に斬られてしまった

 

そしてその時に連中を斬り伏せてきながら現れたのが彼。

 

同じ攘夷志士でありながらもこの殺戮行為にずっと異議を唱えていたらしいのだが、正気を失った連中はもはや彼の言葉に耳を貸さず実行に移ってしまい

 

もはや止める手段無しと察した彼は、かつては一緒に国を変えてみせようと強く誓い合っていた同胞達を自ら天誅を下しにここへとやって来たのだ。

 

「すまなかった、俺が不甲斐ないばかりにか弱き少女であるそなたの手を血で汚してしまった……」

 

既に何十人もの相手を斬り伏せて来たのであろう彼は返り血で真っ赤に染まっていた。

 

彼は震える私の方へゆっくり歩み寄って来ると、私と視線を合わせる為にスッとしゃがみ込んでずっと銃を握り締めている手を暖かく両手で包み込んでくれた。

 

「約束しよう、俺はおぬし達の様な未来ある者達が、こんな理不尽な目に二度と遭わない為の素晴らしき国を作ると、俺の名は桂小太郎、いずれはこの国に新しき夜明けを見せる男だ」

 

幼かった私は彼が言っている事はよくわからなかったが

 

私を安心させる為に微かに笑みを浮かべ、人を殺めた私の手に温もりを与えてくれた彼は

 

その瞬間、私を救ってくれたヒーローになった。

 

「そしてこの命を救ってくれたおぬしの為に、俺はいつでもこの身を挺して助けに行くぞ。この先どんなに辛い事があっても、俺が父に代わっておぬしを絶対に護ってみせる」

 

私の家族は攘夷志士に引き裂かれ攘夷志士に救われた

 

正直複雑な所はあるが、私は今でもハッキリとわかっている

 

 

 

 

誰が何と言おうと桂小太郎こそが真の侍なんだと

 

 

 

 

 

 

「……ん? 俺とした事が眠ってしまっていたのか?」

 

長谷川と飲みに飲んでからしばらく時が経つと、いつの間にか桂は酔い潰れカウンターにつっ伏して眠ってしまっていたみたいだ。

 

目蓋を開けてふと横に目をやると、ずっと自分が起きるのを待ってくれていた詩乃がこちらに笑いかける。

 

「おはよう」

「ああ……っておいちょっと待て、まさか俺が起きるのをずっと待っていたのか? 今何時だ? 夜更かしはいかんぞ」

「その辺は心配ないよ、私徹夜とか結構慣れてるし」

「おなごの身で徹夜に慣れるとはあまり感心せんな……」

 

顔を上げて店の時計を見るともう午前三時を回っていた。

 

そして店主のエギルともバッチリと目が合う。

 

「おい気分はどうだテロリスト、ったく女一人ほったらかしにして勝手に酔い潰れちまうとか同じ男として情けないぜ」

「そう言ってくれるな、反省はしている……む? 長谷川殿はどうした?」

「お前より先に起きて今は厠でゲーゲー吐いてるぞ、お前に言われた通り溜まったモンぶちまけてる真っ最中だよ」

 

彼がそういうと丁度店の厠から「オエェェェェェェェェェ!!!」という苦しそうな声が飛んで来た。

 

きっと長谷川が盛大に吐瀉物をぶちまけているのであろう、それを知ると桂はまたエギルの方へ振り返り

 

「エリザベスはどうした?」

「いやお前の珍獣なら隣に座っているだろ」

 

そう言ってエギルは桂の隣、長谷川が座っていた席を指差す。

 

「さっきからガソリン飲んでるぞ……なんなんだそいつ?」

「おおエリザベス、相変わらず良い飲みっぷりだな」

「どうして当たり前のようにガソリンを飲んでるそいつをお前は簡単に受け入れてんだ……?」

 

ちゃっかり隣に座っていたエリザベスが口の中にポリタンクを突っ込んでガソリンを飲んでいる事に

 

桂は全く動じずに感心した様に頷く

 

この店にはユウキが来るので最近ガソリンを用意する事になったのだが、まさかそれを飲む者が他にもいたとは……

 

困惑するエギルと同じく詩乃もまたそんなエリザベスを見ながら怪しむ視線を送る。

 

「ホント、中に入ってる正体が気になって仕方ないわ……」

「エリザベスに中などない、これが正真正銘偽りのない本当の姿だ、なあエリザベス」

『これが生まれたままの姿です』

「いやいやいや……」

 

 

プラカードを掲げてあくまでシラを切るエリザベスに詩乃が頬を引きつらせてジト目を向けていると

 

おもむろに桂が席からゆっくりと立ち上がった。

 

「さて、そろそろお暇するとするか……おぬしには悪い事したな、良い気分転換になるであろうとこの店に連れて来たというのに、せめてもの詫びとして店にまで送って行ってやろう」

「構わないわよ別に、あなたが寝てる間にエギルさんからあなたの話を聞かせてもらったし」

「ほう、さては俺の行った数々の武勇伝を教えてもらったのだな、エギルの奴も中々わかっているではないか」

 

顎に手を当てフッと笑って、一体彼女はエギルからどんなエピソードを聞かされたのだろうと思っていると

 

「昔、あなたが銀さんと遊郭に行って、そこで働く未亡人に本当に恋しちゃったけど思いきりフラれたって話」

「おい貴様! 人が寝てる隙に若い娘になんて事を教えている! その首斬り落とすぞ!」

「武勇伝には変わりねぇだろうよ」

「ていうかそんな話どこで聞いた! あの時お前はいなかったであろう!」

「そりゃ銀時に決まってんだろ、アイツ色んな奴にこの話振り撒いてるぞ」

「おのれ銀時……! 今度会った時はあの小娘にアイツと高杉が遊郭で揉めた話をしてやる……!」

 

他人の知られたくない過去をあろう事か彼女にバラすとは……

 

桂は煮えたぎる怒りをエギルか銀時にぶつけてやろうかと計画していると、「それよりよ」とそこでエギルが口を出して来た。

 

「帰るならちゃんと会計しろよ、あんだけ飲んだんだから結構な額になってるんだぞ、払えんのかお前」

「エギル、俺とお前は一度袂を分かれたとはいえ古くから繋がっている良き友人だと俺は思っている」

 

伝票を取り出して桂に突き出すと、そこには確かに一晩の酒代の割にはかなりの金額が記載されている。

 

しかしそれを見ても桂は腕を組みながらフッと笑い飛ばし

 

「かつて坂本は言っていた、金の縁よりも人の縁を大事にすべきだと、奴の部隊に入っていたお前であればその意味はわかるであろう?」

「……お前まさか」

「ツケで頼む、俺が倒幕を為した暁には色を付けて払ってやろうではないか」

「やっぱりか! お前前来た時もそう言って逃げただろ! 今度は絶対に逃がさねぇからなチクショウ!」

 

真顔で人差し指を立ててここは穏便に済ませようとする桂だがエギルはそれを絶対に許さない。

 

あれだけの酒を飲んで置いてツケ払いなど出来るかとエギルが怒鳴ると、桂は「ふむ」としばし考え込むような仕草をした後、

 

「エリザベス、悪いがここは俺の代わりに払っておいてくれ」

『持ってません』

「なに?」

『だからお金持ってませんってば』

 

いつの間にかポリタンク二つ分を開け終えているエリザベスが掲げたプラカードを見て桂は再び悩む。

 

そういえばエリザベスにお小遣いなど渡した事さえ無かった……

 

「そうか、お前も俺と同じかエリザベス」

「っておい! ハナっから金持ってねぇのに店に来てんじゃねぇよ!」

「さて、おぬしはどうする?」

「……へ?」

 

何でお金持たないクセに飲み屋なんかに自分を連れて来たのだろうと詩乃が内心呆れていると

 

不意に桂は彼女に向かって腕を組んだまま静かに語りかける。

 

「これでは俺達は無銭飲食として罪を犯してしまう、どうするべきであろうな」

「……あなたまさか」

「こうして困ってる俺達のもとに、慈悲深い心を持った優しき者が財布からそっと金を出してくれるような展開はないものか」

「いやちょっと待って、もしかしてあなた、私に払わせる気?」

 

こちらをチラチラと見ながら勿体ぶった様子で呟いてくる桂を見て詩乃はすぐに察した。

 

彼はこちらが根負けして金を払ってくれるのを待っているのだ。

 

なんともセコ過ぎてもはや呆れを通り越してその図太さに感心する。

 

「私あなたよりもずっと年下なのよ、しかもさっきあの長谷川さんって人にあなた自分で何て言ったか覚えている?」

「年上には敬意を払うべし、若い時は自ら進んでお金を出して国を支えてくれる年長者達に謝意を示すのだ、だったか?」

「若者にすがるなでしょ! 未来ある子供の足を大人が引っ張るんじゃないって自分で言ってたじゃないの!」

 

自分が数時間前に行った事をまるっと改訂して、思いきり反対の事を唱えだす桂に詩乃は冷たく言い放ちながら鋭い目を向ける

 

「なんというか、国を変えるだのなんだの言っている人が飲み屋で女子供にお金たかろうとするなんて恥ずかしくない訳?」

「……」

「はぁ~、私の信じる本物の侍がそんなみっともない真似するなんて、可哀想過ぎてこっちが泣けて来ちゃうんだけど」

「……くれ」

「え、なに?」

 

これでもか痛い所を突いていきながら哀れみの視線を送って来る詩乃に、最初は黙って聞いていた桂は次第に震えだし、そして

 

 

 

 

 

「同情するなら金をくれぇぇぇぇぇぇ!!! そげっぶッ!!!」

 

喉の奥から力強く叫ぶ桂に、遂に詩乃は彼の長い髪をひっつかんで無言でカウンターに叩き落とすのであった。

 

それと同時に彼女は思った

 

 

まあ、誰からも慕われる完全無欠のヒーローなんかよりも私にはこれが丁度性に合ってるのかな……

 

 

 

彼女は今日も

 

なんだかんだで充実した生活を送っている

 

 

頼りないがいつも見守ってくれるあしながおじさんがいてくれるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作・銀魂がいよいよ終わるみたいです

悲しいですねぇ、私が初めて銀魂クロスSS書き始めた頃はまだ吉原の回でした。

あの頃は銀魂が終わるなんて夢にも思いませんでした、けど始まりがあれば終わりもあるんですよねやっぱ……

これからは原作終わった中で銀魂SS書き続けなきゃならないんだなと非常に寂しく思います。

あ、次回はマザーズ・ロザリオVSプロジェクト・アリシゼーションです

&じゃなくてVSです

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