竿魂   作:カイバーマン。

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もうすぐ銀魂の映画です、楽しみですね。

私も期待しています

将軍の足軽も出演してくれるのか


第四十四層 されど妖精は眼鏡と踊る

新八と直葉がEDOを始まるキッカケは

 

一人の女性からあるモノを貰った事からだった。

 

「えぇぇぇぇぇ!? コレって和人君がやってるゲームの奴じゃないですか! どうしたんですか姉上!」

「ちょっとお客さんから頂いたのよ」

「頂いたぁ!?」

 

キャバクラ勤めを終えて自宅に戻って来たお妙が一緒に持って帰って来たモノを見て玄関で驚く新八。

 

 

なんと彼女がお持ち帰りしてきたのは和人がほぼ毎日プレイしている程めり込んでいるゲーム『EDO』を始める為の機器・ナーヴギアであったのだ。

 

それをお妙から差し出されると新八は恐る恐るそれを受け取る

 

「こんなモン貰って大丈夫なんですか!? コレって滅茶苦茶高いって聞きましたよ! 和人君なんかこれを手に入れる為にお母さんに三日三晩付き纏って土下座し続けてたって直葉ちゃんが言ってましたし!」

「あらまあ次から次へと情けないエピソードしか出てこないわねあの子、いつになったら主人公らしい哀しい過去を背負うのかしら」

「ある意味では哀しい過去ですよ……」

 

和人の過去の悲しいエピソードを踏まえながら、とにかくこれがとんでもなく高いモノだと主張する新八。

 

キャバ嬢相手、ましてやキャバ嬢というより用心棒的な存在なおかげで、人気もさほど高くないお妙相手にこんな高価なモノを渡すとは一体どんな変わり者だと思っていると

 

「近藤さんがくれたのよ」

「近藤さん!? あのゴリラまだ姉上に付き纏ってるんですか!?」

「懲りない人よねホント、まあ元々お客としてウチの店に来てた人だし」

 

どうやらこのナーヴギアをお妙にプレゼントしたのは、あのストーカーゴリラ事・真撰組局長の近藤勲だったみたいだ。

 

未だにお妙を諦めていない近藤、しかも今度はこんな高いモノを持参して彼女の気を惹く為にプレゼントをしたらしい。

 

「なんでも現実で関係を持つのがまだ無理なら、ゲームの中でなら私と仲良くなれるチャンスがあると思って買ったみたいなのよ」

「いやいや現実で無理ならゲームでも無理でしょ、現実世界だけでなくゲームの世界でもストーカーする気かよ……」

「私、ゲームとかあまり詳しくないし、ゲームの中の世界に入るってのも怖いからお断りしたんだけど、あの人本当に諦めなくて」

 

『お妙さん、このゲームだと現実での見た目をちょっと変えれるみたいなんですよ! だからお妙さんのおっぱいを大きくする事だって出来……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

EDOに関しては和人や明日菜から聞いた話でしかわかってないし、ゲーム知識に関してはてんで疎いお妙はあまりこのゲームをやりたくはないらしい。

 

しかしそれでも彼女と一緒にめくるめくる冒険の旅に出れば、フラグの一つや二つも立つだろうと叶わぬ夢を抱いていた近藤は、彼女に半ば押し付ける感じで無理矢理渡したみたいなのだ。

 

「だからこれは新ちゃんにあげるわ、私にはいらないモノだし」

「い、いいんですか!? なんか近藤さんに悪い気がするんですけど!」

「気を遣う必要ないわよ、こっちは最初から断ってたし、その後あの人が無理矢理押し付けたんですんもの」

「まあそうですけど……」

 

突如お妙にあげると言われて新八はちょっとした罪悪感を覚えるも、両手に持ったナーヴギアをまじまじと見つめる。

 

「いや実は……和人君から散々このゲームの事を聞かされててちょっと興味はあったんですよね……現実だと僕ってかなり地味なポジションで目立たない存在だし……だからこういう非現実的な世界でカッコよく冒険したいなぁとかたまに考えてたりしてたんですよね」

「あら意外、そんな事考えてたなんて」

「前の僕ならこんな事考えてませんでしたけど、最近の頑張ってる和人君見たら僕も何かしようかなって……それに和人君がこのゲームの世界でどんな風に生きてるのかなってのも、この目で確かめてみたいんです」

 

苦笑しながら実は前々から興味は持っていたと恥ずかしげにぶっちゃけると、お妙は「そう」と呟き優しく微笑みかける。

 

「ならとことんやってみたらいいわ、半端モンでは侍として失格ですからね。和人君に追いついて驚かせるぐらい精々頑張って見なさい」

「はい!」

 

和人は自分達をほったらかしにして夢中になってこのゲームをやり込んでいた。

現実を捨ててでも彼がどうしてやり続けていたのかという理由と、そして彼自身の背中に追いついてその肩に手を置く為に

 

新八はEDOをプレイする事を決心するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれからしばらく経って

 

「フ、この階層の街には随分とプレイヤーがはびこっているな。まだまだ上があるというのにこんな所で躓くとは、ここの連中のレベルが知れている」

 

アバター名、シンこと新八は、黒づくめの恰好で厨二感満載の台詞を吐きながら三十五層の街中を歩いていた。

 

「仕方ない、ここは俺がこの半端モンの連中を率いて先陣を切ってボス戦に挑むとするか、お前は後ろで大人しく待っていろリーファ、戦場でお前の子守りなどやってる余裕はないからな」

「あの、さっきから何一人でブツブツ呟いてんの新八さん? 周りからの視線が痛いんだけど?」

 

眼鏡に指を置きながらさっきからずっとアホみたいなことを抜かしている新八に

 

さっきから黙ってずっとついて来てくれていたリーファがジト目でやっとツッコミを入れる。

 

「主に一緒に行動してる私まで被害を受けるからさ、その訳の分からない厨二キャラいい加減ウザいから止めて」

「誰が厨二! おっと危ない、残念だったなリーファ、この世界でも俺のツッコミを拝めると思うなよ」

「いやそれ前にも聞いたから、なんなのそのキャラ? 方向性ブレブレなんだけど」

 

危うく現実世界の時みたいに勢いでツッコみかける新八に呆れた物言いをしながらリーファはため息を突く。

 

「それにしても三十五層か、結構やり続けてなんとかここまで来たけど、お兄ちゃんはまだずっと先なんだろうなぁ」

 

彼女の正体は桐ケ谷直葉。

 

和人の妹で新八とお妙の妹分にして文武両道の才女である。

 

今よりちょっと前の事。新八がEDOをやると聞いて、直葉もまた溜めていたバイト代でナーヴギアを購入して一緒にやる事にしたのだ。

 

最初は彼と同じく和人の鼻を明かしてやりたいという思いでこのゲームをやり始めたのだが

 

思ったより良く出来たゲームだったのでついつい時間も忘れてハマってしまい、今では和人が寝る間も惜しんで夢中にやっていたのもなんとなく理解できるようになった。

 

そして一緒にやっていた新八もまた自分以上にハマってしまい

 

現在の厨二キャラに至ってしまったのだ

 

「リーファ、前から言っているが俺達にとってあの男の存在など所詮通過点に過ぎん、俺もうアイツの存在に縛られるのはまっぴらごめんだ、俺は俺の道を行く」

「いや勝手に俺の道を行かないで、私のいる道に戻って来て」

 

何故であろう、最初の頃は初めての仮想世界で二人一緒にしばらくはしゃいでいた事は覚えているのだが

 

階層を進み、次第にゲームのシステムに慣れていくにつれ、いつの間にかこんなめんどくさいロールを演じ始めてしまっていた……

 

流石にリーファも慣れてはきたが、やはりウザいモノはウザい。そもそもツッコミ役は自分ではなく彼の筈だろう。

 

「剣の腕はリアルと変わってないって所が救いだけど」

「フ、お前はまだまだ慣れてはいない様だがな、柳生家からもスカウトが来る程の腕前はどうした」

「しょうがないでしょ、こういうのって人によって慣れる感覚違うんだから」

 

新八に比べて自分はこの世界でまだ身体が付いてきていない。

 

リアルでの剣の腕は我ながらかなりいい線いってるのはわかっているのだが

 

この世界で動かすのは本来の自分ではなく仮の姿、頭ではイメージ出来ていてもアバターが上手く動いてくれないのだ。

 

と言ってもリーファの操る剣は今の階層でも十分に渡り合える腕前だし、それにALO型特有の飛行能力にも随分と長けているのだが

 

やはり彼女自身はあまり納得出来ていないらしい。

 

「まあ最近じゃ結構こっちに潜って体動かしてるし、もう少しすれば私もシンさんみたいに動けるかもしれないから」

「そうか、期待はしていないがやれるものならとっととやってみろ、俺はもうお前の子守りなどごめんだからな」

「はいはい、シンさんをデュエルでボッコボコに出来るぐらい成長して見せますよーだ」

 

随分とまあそんな嬉々として演じれるモノだと思いながら、リーファは悪態をつく様に隣を歩く彼に向かってベッと舌を出してみせる。

 

そんな子供じみた真似をしていると、ふと前方で他のプレイヤー達が集まってざわざわ騒いでいる事に気付いた。

 

「あれ? なんかあそこ妙に人だかり出来てない? なんかあったのかな」

「興味ない、そんな事より次のボス戦の対策を考える方が先だ」

「あーもういいから、ほら行くよ」

「おいちょっと待て! 襟を引っ張るな!」

 

冷めた様子でそっぽを向く新八の後ろ襟をむんずと掴み、嫌がる彼を無理矢理引きずってリーファは人だかりの方へと近づいていく。

 

「すみません、なんかあったんですか?」

「ん? ああ、なんでも最近名を上げているアマゾネスっていう軍隊系ギルドが捕まえた珍獣がこの店で売られているっていうからさ、みんな興味本位で見に来ているんだよ」

「珍獣?」

 

野次馬の一人から話を聞いてみると、どうやらこの先にある店にある商品が原因でこの人だかりが出来ているらしい。

 

珍獣、それを見る為だけにこんなにも人が集まるとは一体どんな姿をしているのだろうか

 

「面白そうですね、ちょっと見に行きましょうシンさん」

「フン、珍獣なんぞさして珍しくもないだろ、ウチなんかしょっちゅう屋根裏に珍獣が潜んでるぞ」

「それただのストーカー!」

「お前の家にも今はいないが居ただろ、家から全く出ようともせずに働きもしない珍獣」

「それただの救いようのないクズ!」

「救いようのないクズとか言うなよ! せめて身内のお前だけは見捨ててやるな! 大丈夫だから! 最近やっと働くようになったんだからまだワンチャンあるから! 原作レベルに追いつける希望は潰えてないから!」

 

咄嗟に口から放ったリーファの身内(和人)に対する辛辣な発言に、ちょっと素に戻った様子で新八がツッコミを入れる中

 

彼女はそのまま新八を連れたまま人ごみを掻き分けて珍獣が売っているという店へと辿り着いた。

 

するとそこには野次馬達が興味深そうに指を差しながら

 

「見ろよあんなのがいたなんて初めて知ったぞ」

「ああ、この世界には色んな姿をした生物はいるが……」

 

 

 

 

 

「まさかモノホンのゴリラがいたとはな」

「うおぉぉぉぉぉここから出してくれぇぇぇぇぇぇ!! 俺はゴリラじゃない! ちゃんとしたプレイヤーなんだァァァァァァァ!!」

「しかも自分をプレイヤーと思い込んで喋ってるぞあのゴリラ、こりゃあ相当値の張る珍獣だな」

「どこにいるんですかお妙さぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 近藤勲はここにいます! 助けて下さぁぁぁぁぁい!!」

 

店の前で見世物の様に檻の中に閉じ込められながら人語で叫んでいるのは

 

力強い肉体を毛深い剛毛で覆った正真正銘間違いなく本物のゴリラそのものであった。

 

自分を囲う檻を掴んで激しく揺らしながら涙目に叫ぶそのゴリラを見て

 

リーファと新八は唖然とした表情を浮かべて固まってしまう。

 

「シ、シンさん……みんなが眺めてた珍獣ってこのゴリラみたいね……」

「そ、その様だな……でもゴリラなんて現実世界に戻れば動物園でいくらでも見れるし……そんな珍しいとも思わないしさっさとこの場を後にしよう」

「ねぇ、あのゴリラさっきお妙さんとか叫んでたような……それになんか自分の名前っぽいのも……」

「ゴリラが人名を叫ぶわけないだろ! それにゴリラに名前はない! ゴリラの名前は今も昔もゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ!!」

「いやそれは名前じゃなくて学名……」

 

何故であろう、このゴリラを見ているとふと頭の中に一人の人物が鮮明に映し出される……

 

関わりたくないと思った新八は、急いで疑問に思うリーファを連れてゴリラに背を向けてこの場を立ち去ろうとすると

 

 

泣き叫んでいたゴリラがふと彼等を見てハッと何かに気付く。

 

「あぁーッ! ちょっとそこの木刀腰に差した黒髪のお兄さん助け……! ってあ!」

「!」

 

不意に特徴で呼ばれて反射的に立ち止まってしまう新八

 

するとゴリラは檻の中から顔を覗き込んで彼をじっくり眺めて

 

「お兄さんが掛けてる眼鏡ってもしかして……間違いない! 君は俺の愛するお妙さんの弟の新八君じゃないか!」

「ってなんで眼鏡だけで判別できんだよ! 仮想世界でもリアルとおんなじ眼鏡掛けてる訳じゃねぇのに!」

「丁度良い所にあった新八君! 未来の義兄が今猛烈に困っているんだ! 早く俺をここから解放してくれ義弟よ!」

「誰が義弟だ! ぶっ殺すぞコラァ!」

 

 

どさくさに自分の一族に潜り込もうとする悪質なゴリラを一喝すると周りのプレイヤーがざわつき始め「え? あの兄ちゃんゴリラの弟なの?」「もしかしてゴリラの飼い主? 兄弟っていう設定で飼ってたとか?」「うわ引くわー、ゴリラのAIを操作して自分を弟と認識させるとか無いわー」等と言いながらこちらに注目を集めていく。

 

マズいこのままだと変な噂が広まってしまう、今まで築き上げた緻密なキャラ設定がこのままだとペットのゴリラと義兄弟を結ぶ奇行に走った可哀想な人だと認定されてしまう……

 

せめてこっちの世界ではカッコいい理想の自分でありたい、と常々思っている新八はすぐにこの場を立ち去ろうと

 

「逃げるぞリーファ!」

「え! ちょ!」

 

リーファの手を掴んで強引に人込みを掻き分けて一目散に走り出した。

 

するとそれを見ていたゴリラは慌てた様子で檻に手をかけ

 

「ああ! 待ってくれ新八君! 俺を置いていかないでくれぇぇぇぇぇぇ!!!」

「わぁぁぁぁぁ!! ゴリラが檻を壊して出て来たぞぉぉぉぉぉ!!」

「せめてお妙さんが何処にいるのかだけでも教えてくれぇぇぇぇぇ!!!」

 

助けてくれと懇願していたゴリラが、まさかの自力で檻を破壊して乱暴に出てくる。

 

ゴリラの脱走という事でプレイヤー達がパニックになっている中、逃げる新八の背中を慌てて追いかけるゴリラであった。

 

 

 

 

 

 

「ここまで逃げれば大丈夫か……」

「はぁ……流石に私も驚いたよ」

 

数分後、新八とリーファは街から離れてフィールドまで逃げた所でやっと足を止めた。

 

新八はリーファから手を離すと、どっと疲れたかのように肩を落として呼吸を整える

 

「何やってんだあの人、全く……」

「ていうかあのゴリラ、間違いなく”近藤さん”よね」

「やれやれ……まさかこんな所でも出会う事になるとは」

 

その場にあった石の上に座りながら一休みするリーファの意見に、新八も渋々認めるしかなかった。

 

「狙いは間違いなく姉上だな、元々姉上と一緒にこのゲームをやりたいがために姉上を誘っていたんだ、自分でも買ってプレイしているのもなんら不思議じゃない」

「きっとこの階層に来るまでずっと探してたんだろうねお妙さんの事、どこまで粘着質なのよ、仮想世界でもストーカーって……」

「まあ残念ながら姉上はこのゲームを俺に譲ったから、近藤さんがこの世界で姉上と会う事は絶対に無いが」

 

 

ゴリラの正体は先程見た動きと発言から、お妙のストーカーである真撰組局長の近藤勲と見て間違いない。

 

彼に対しては心底嫌悪感を持っているリーファが思いきり嫌そうな顔を浮かべ、新八も呆れたようにため息を突いていると……

 

「新八くぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」

「ってギャァァァァァ!!」

 

傍の茂みの中からバァッと勢い良く現れたのは今二人の話の種になっているゴリラ事近藤

 

突然両手を上げて現れた彼に新八は思わずその場に腰を抜かして地面に尻もち突いてしまう。

 

一方で石の上に座っていたリーファは近藤を見て思いきりしかめっ面

 

「うわ最悪……檻から抜け出して私達の事追いかけて来たんだ……」

「いやー急に逃げるなんて酷いじゃないか新八君、俺と君は切っても切れない関係の筈だろ?」

「そんな関係築いた覚えねぇよ! つうかどうやってここまで追って来たんだよ」

「知らないのかな新八君、ゴリラはね、鼻も利くんだよ」

「完全にゴリラとしての能力をまんべんなく使えちゃってるよ! もう身も心もゴリラになってるよこの人!」

 

腕を組みながら得意げに笑って見せる近藤に新八はヨロヨロと立ち上がって叫びつつ、すぐにビシッと指を突き付けた。

 

「つうかなんでそんな完全なるゴリラになってんだよ見た目!」

「そうなんだよよく聞いてくれた新八君! 普通この世界ではアバターの見た目ってリアルの見た目とほぼ同じ姿になる筈だろ!? なのに俺は何回やり直してもゴリラになっちゃうんだよ! 何回やってもゴリラに生まれ変わるの! 輪廻転生ゴリラなの!」

「いやもうそれ完全にゲーム側から近藤さんはゴリラだと認識されてるじゃないっすか」

「どうゆう事なのコレ!? 確かに周りからゴリラゴリラ言われるけど! もうコレ完全にモノホンのゴリラそのものだよね!? 明らかに運営側が俺に対して嫌がらせをしてるとしか思えないんだけど!?」

「知らないですよそんな事……」

 

ナーブギアを通して顔認識された結果ゴリラになった。

 

普通に聞いたら冗談だと思うが、この男だったらそれもあり得るなと、新八は素の口調に戻りながら考える。

 

「それともう一つ言っておきますけど、ウチの姉上このゲームやってないですよ、僕にくれたんで」

「えぇマジ!? なんだよもー! せっかくお妙さんとドキドキワクワクの大冒険を始めようと思ったのにー! どおりでここまで辿り着いても全く見つからない訳だよー!」

「そんな一生叶う事のない願望の為にここまで良く来れましたね……」

 

お妙がいない事を知って酷く落胆した様子で肩を落とす近藤

 

三十五層に来るとなるともはや初心者とは呼べない立派な一人前と称されるレベルだ。

 

お妙を探す為にここまで上って来たと近藤は言うが、そんな不純な動機でここまで来るとは腐っても真撰組の局長なだけはある。

 

「しょうがない、お妙さんと一緒に冒険するという目的は諦めよう、やっぱりお妙さんは仮想の世界で会うよりも現実世界の本当の姿をした俺に会いたいんだなきっと」

「どこまでポジティブなんだよこのゴリラ……」

「ねぇシンさん、そろそろこのゴリラ殺っちゃっていい?」

 

そして潔く諦めたと思えばすぐに「お妙さんは仮初の世界で会う事よりも現実で会う事を望んでいる」と勝手に激しい思い込みですぐに立ち直った。

 

もはや誰が見ても完璧なストーカー、リーファもいい加減イライラしているのか、腰に差す細身の剣を抜こうかと指を動かしている。

 

「こういう輩は抹殺するのが世の為だと思うんだけど?」

「おいなんだこちらに敵意を強く向けて来るこの娘っ子は! ああひょっとしてお妙さんや新八君と一緒にいた前髪ぱっつんお嬢ちゃん!?」

「どんな覚え方よ! 直葉よ直葉! ええいもうたた斬ってくれるわ!」

「だぁぁぁゴリラは斬っちゃダメ! 希少な生き物なんだからゴリラは斬っちゃダメぇ!」

 

何やら強い殺意を感じて来たので、近藤派すぐに両手を突き出して慌てた様子で抵抗しようとする

 

腰の剣に手を置きながらリーファが彼にジリジリと歩み寄ろうとすると、そこへバッと新八が手を出して彼女を止める。

 

「よせリーファ、近藤さんだろうがゴリラだろうがお前が手を出す必要はない。これ以上この人と関わるの面倒だし、俺達は何も見なかったとして静かに立ち去ろう、それが大人のゴリラへの対処法だ」

「……まあ現実世界でも相手にしたくないのに、こっちの世界でも相手にするのは確かに嫌だけど……」

「えぇー!? 待ってくれよ二人共! せっかくこうして会えたんだぞ! 仲良くしようよ~!」

 

喧嘩する事はない、相手にするだけ損だと忠告する新八にリーファは渋々従って剣から手を離すと

 

近藤はそんな二人に優しく語りかける。

 

「俺、お妙さんと一緒に冒険する以外にも目的があるんだ、実は目に入れても痛くないぐらい可愛い妹分がこのゲームにハマっててさ、その子がこっちの世界でも上手くやっていけてるのかちゃんとこの目で確かめたいと思ってんだよ」

「アンタ妹分なんていたんですか……? だったらさっさと見に行って来て下さいよ、僕等関係ないんで」

「いやでもその子ってまだまだ上の階層にいるみたいなんだよ、だから俺とパーティ組んで一緒に上を目指そうぜ!」

「絶対ヤダ、死んでも無理」

「断るの早ッ!」

 

自分の身内同然に可愛がっている子がこの世界で上手く頑張っているのか確かめに行きたい。

 

近藤には彼なりの上へと目指す理由があったらしい。

 

しかしそれを聞いてもリーファはジト目ですぐに拒否、本気で彼の事を嫌っているのであろう。

 

だが新八の方はというと顎に手を当て考え込み……

 

「いや、案外悪くないかもしれん」

「はぁ!? シンさん何言ってんの!? さっきはこの人と関わるの面倒だって言ってたクセに!」

「よく考えてみろリーファ、俺達の目的はなんだ?」

 

突然近藤を仲間にするのも良いかもしれないと言い始める新八に、リーファは混乱しながらブスッとした表情で答える。

 

「……お兄ちゃんに追いつく事?」

「そうだ、そしてあの男はまだまだ俺達よりもずっと高みに昇っているのはわかっているだろう」

「まさかお兄ちゃんに手っ取り早く追いつく為に、この人の手を借りようとか思ってる訳?」

「俺達はすぐにでもあの男に追いつきたい、その為なら猫の手だろうがゴリラの手だろうが借りたいというのも確か」

「えぇ~……」

 

真撰組のトップを務めている近藤勲という戦力を手に入れれば今よりもずっと攻略が楽になると踏んだ新八だが、リーファは口をへの字にして物凄く嫌そうな表情。

 

「なんか嫌な予感しかしないんだけど私……だってこの人だよ? お妙さんにストーカー行為を働いてる最低な人だよ? こんな人に自分の背中任せられる?」

「近藤さんは確かに変態だし陰湿なストーカーゴリラだが、真撰組として日々死線を潜り抜けている豪の者。剣の腕も恐らく俺達以上やもしれん、人としては最低レベルだが戦力の駒としては十二分に働けるはずだ」

「新八君! それ褒めてんのけなしてんのどっち!?」

 

実の兄以上に慕っているお妙に悪質なストーカーを繰り返している近藤が仲間になっても信用できないと断言するリーファだが、新八は性格はアレでも剣の腕は本物の筈だと、近藤を貴重な戦力だと考えているみたいだ。

 

「まあいいや仲間にしてくれるなら! 同じ真撰組の総悟やザキがいるんだけどアイツ等あまり付き合ってくれないんだよ! そもそもアイツ等はもっと上の階層を攻略してるみたいだし! だからこうして同じ所にいる奴等と一緒に攻略できるという事はきっと同じ喜びを分かち合えるはずだから!」

「……どうするのシンさん、このゴリラもう仲間になる雰囲気作ってるけど、本当にいいの?」

「互いに目的を達成できれば後腐れなく解散すればいい、それまではこの男の力に頼ろう」

「……」

 

新八達と一緒に行動出来ると思って勝手にテンション上がっている近藤を見てリーファは眉間にしわを寄せ無言になる。

 

何度も言うが本当に嫌なのであろう、元々異性に対しては身内を除けば新八ぐらいしか交流が無く、おまけに自分が姉同然と強く慕っている人にストーカー行為を働く狼藉者だ、激しく拒否反応を見せるのもおかしくはない。

 

「……言っておくけど私は仲間になろうとこの人の事は認めないからね」

「まあそう言うなよえーとリーファちゃん? 俺はこっちの世界ではフルーツチンポ侍Gっていうんだ! 気軽に略してフルチンって呼んでくれてもいいぞ!」

「シン……新八さん私本当に嫌だこの人! 年頃の思春期まっただ中の女の子に自分の事をフルチンと呼べと言えるこんな大人なんかと一緒にクエスト行きたくない!」

「落ち着けリーファ! いや直葉ちゃん! フルチンってもう自分で言ってるから!」

 

えらく馴れ馴れしい様子で接して来たと思ったら自らのアバター名、フルーツチンポ侍G、略してフルチンとだと名乗る近藤

 

そんな彼に指を突きつけながらリーファが新八に抗議していると、近藤は「いやー」と後頭部を掻きながら

 

「年頃の女の子は俺等おっさんの事は基本的に敵として認知してるから仕方ないよなー。でも俺は安心していいから! だって俺とリーファちゃんにはある一つの共通点があるんだぜ!」

 

いきなり何を言いだすんだとリーファはジト目で近藤の方へ振り返ると

 

彼は得意げに胸を張って

 

 

背中からバサァッと薄緑色の羽根を見せて来たのだ

 

「俺も同じALO型のシルフだ! つまりリーファちゃんと俺は同族! 生まれながらにして仲間なんだ!」

「いやぁぁぁぁぁぁこのゴリラALO型だったのぉ!? しかも私と同種族ぅ!?」

 

自分と全く同じ羽根を広げて風妖精・シルフだと言い張るゴリラにリーファは悲鳴を上げる。

 

確かによく見ればこのゴリラ、耳が自分と同じように尖っている。

 

「さあ同族同士互いに手を取り合って頑張ろう!」

「やだぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ゴリラと同じ種族とかいやだぁぁぁぁぁぁぁ!! よりにもよってなんで私と同じタイプ選んでんのよぉぉぉぉぉぉ!!」

「落ち着くんだリーファ! パッと見は絶対わかんないから! 周りから見られても絶対バレないから!!」

 

 

こちらに優しく分厚い手を差し伸べてくれる妖精ゴリラに、遂にリーファは新八の胸倉を掴み上げて彼の上体を揺すりながら泣き叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

「私絶対にこのゴリラの妖精を仲間として認めないからね! それ以上近づいたら躊躇なくPKするから!」

「君も大変だな新八君、こんな周りに壁を作りたがる思春期妖精と旅してるなんて」

「いや彼女が壁を作ってるのは主にアンタに対してだけだから!」

 

早速予想だにしないアクシンデントに見舞われたリーファこと直葉。

 

冒険は一筋縄ではいかない、それを初めて強く痛感し、少女は成長していくのだ……

 

 

 

 

 




ゴリラもEDOデビューという事で銀魂メンバーの仮想世界入りも着々と増えていってます。

それと皆さん薄々わかっていると思いますが

少女戦記編は銀さんの出番少なめです

マザーズロザリオをお待ちください


でも次回はファントム・バレット

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