竿魂   作:カイバーマン。

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第四十三層 厨二病でも眼鏡掛けたい!

EDOでのゲームシステムではプレイヤーがプレイヤーを襲うPK行為については一応は認められている。

 

無論街中や休憩場所では禁じられてはいるが、フィールドでは基本的にどこからでも襲われる可能性はあり。

 

襲う方も襲われる方もそれを従順承知して常に周りを警戒しながら冒険している。

 

そう、この世界では迂闊に周りに隙を見せては命取り、特に視界の悪い暗くて迷いやすい森のダンジョンなど……

 

「さあお嬢ちゃん、早く選びなさい。このまま大人しく”アレ”を差し出すか、それともここで痛い目に遭うか」

「うぅ……」

 

年端も行かないALO型の少女プレイヤー・シリカは一人三十五層の迷いの森で窮地に陥っていた。

 

震えて膝をつく彼女の眼前には、派手な恰好をした男性プレイヤーを取り巻きにし、いかにも性格の悪そうな女性プレイヤー・ロザリアが毒々しい笑顔を浮かべながらこちらを獲物と見定めた様子で見下ろしていたのだ。

 

彼女達はEDOで日頃から悪質な行為を繰り返し続け、あの血盟騎士団からも指名手配されている犯罪ギルド・タイタンズハンドである。

 

「ねぇ早くして頂戴、アタシ達も暇じゃないのよ。あなたがレアなモンスターを運良く手に入れて使役している事ぐらいとっくにお見通しなんだから、さっさとそれを渡しなさい」

「だ、だから何度も言ってるじゃないですか! あなた達なんかにあの子は絶対に渡しません! それに今手元にはあの子はいないんです!」

「あらはぐれちゃったの? 可哀想に、弱い主人に愛想尽かしちゃったのかしら?」

 

タイタンズハンドのリーダーであるロザリアの狙いは、シリカが持つ特殊なレアモンスターであった。

 

レア度と潜在能力だけを見ればあの神獣・狗神(神楽の所有する定晴)にも匹敵する代物、そしてこの世界に来てすぐにシリカと仲良くなったモンスターである。

 

ALO型でありビーストテイマーの猫妖精タイプである彼女はモンスターを使役する能力がある。

 

そんな彼女が始めていきなりあんなレア度の高いモンスターを使役する事が出来たのは極めて幸運だったという事に他ならない。

 

しかしその一匹の相棒をシリカはこの深い森の中ではぐれて見失ってしまった

 

そしてどうしたもんかと一人寂しく歩いていると、待っていたといわんばかりに

 

他人のモノなど平気で奪い取って高く売り飛ばすような質の悪い連中にこうして出くわしてしまったのだ。

 

「私は弱くありません! こう見えても短剣スキルは結構上達してるんですからね!」

「あらあらこの状況でも強がり言っちゃって可愛いんだからもう、そんな事言われたらお姉さんあなたの事徹底的に痛めつけたくなっちゃう」

「……っ!」

 

精一杯の強がりを見せるものの、ロザリアはそれがどうしたと言わんばかりに、自分の周りを囲んでいるニタニタと下卑た笑みを浮かべる数人の男達にチラリと目配せ

 

「あなた達、勇敢なお嬢様に敬意を称してちょいと遊んであげなさい、転移結晶も使わせずにHPをゼロにしない程度に」

「へっへっへ……そいつは大得意でさリーダー」

「痛い目に遭わせて一度逃がしてまた捕まえてボコボコに……それを繰り返してりゃあこんなガキすぐに折れちまいやすよ」

 

ロザリアの命令を聞くとすぐにシリカの方へとジリジリと歩み寄る男達。

 

楽しむ様に近寄って来る下衆な彼等、こっちは一人であっちは多勢、負ける事を悟ったシリカはただではやられないと腰に差した短剣を抜こうとする。

 

だがその時であった。

 

 

 

 

震えてはいるものの懸命に立ち向かおうとする少女が屈強な男達に今にも襲われかけているこの危険な状況下で

 

「おい貴様等、さっきからギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ」

「!?」

 

黒づくめの恰好に身を包んだ、腰に一本の木刀を差す一人の青年が驚くシリカを尻目に

 

「発情期か貴様等」

 

男達に挑発的な物言いをしながら掛けている眼鏡をクイッと上げると、耳に入れていたイヤホンを片方だけ外す

 

「貴様等のその汚い声のせいで、寺門通の歌にいらん雑音が入った、せっかくの新曲に心躍らせている俺を邪魔したこの始末、どう責任を取ってくれる」

「な、なんだコイツ……何訳のわかんねぇ事言ってんだコラ!」

「姐さん、こいつもやっちゃいますかぃ?」

 

 

いきなり自分達の間に入り込んで来たと思ったら、自然にシリカの前に立ち塞がって自分達と対峙する青年に男達は怪訝な表情でロザリアに確認を取ると

 

「ひゅー、良いじゃない、大方可愛い女の子のピンチに駆けつけに来たヒーロー気取りって奴かしら? いるのよねぇこういう坊や、現実世界でアニメや漫画ばっか見て、こっちの世界でつい空想のヒーローに憧れてロールする滑稽なヒーロー様が」

「ハッハッハ! 姐さんの言う通りだ! いるよなこういう馬鹿は!」

「こういうオタク野郎には大人である俺達がちょいと現実って奴を教えてやらねぇとな!」

 

突然現れた青年に対して全く動じずに面白おかしそうに笑い出すロザリア

 

それに釣られて周りの男達も青年に対して馬鹿にしたように笑い出す。

 

しかし青年は特に気にした様子は見せずに取っていた片方のイヤホンを再び耳に入れると背後で固まっているシリカに

 

「……早く行け」

「え?」

「ここは俺が引き受ける」

「!」

 

振り返らずにそう言うと、青年は目の前でまだゲラゲラと笑っている男たちの方へと静かに歩み寄りながらスッと腰に差す木刀に手を置くと

 

「ったく頭の悪い俺に教えてくれよヒーロー様! これだけの人数相手にどうやって小娘を助け……どべるぶッ!!」

「「「「「!!!!」」」」」」

 

躊躇なく横一閃の居合い切りを決めて一際笑っている男に強烈な一撃

 

前触れも無しにいきなり攻撃を仕掛けて来た青年に一同は思わず笑うのを止めて驚いている中

 

「多人数の相手にどうすれば勝てるか、だと? 決まってるだろ」

 

青年は抜いた木刀をチャキッと構え直しながらどよめく男達に向かって一気に駆け寄る。

 

「雑草は全て薙ぎ払えばいいだけの事だ」

「くそ! や! やっちま……でべるッ!!」

 

慌てて叫ぶ男に向かって青年は頭上に向けて得物を叩き落とすと、すぐに他の標的に狙いを定め、それをひたすら繰り返す。

 

「コ、コイツヤベェ! 隙が全く見当たらねぇ!」

「なんて野郎だ……! 姐さんどうし……! ほぎゃあおッ!!」

 

周りに囲まれない様一対一の状況に持ち込む為に的確に判断しながら孤軍奮闘を繰り広げる青年。

 

どこか冷めた目つきで、こちらの動きに翻弄されて剣を抜く事さえ忘れている男達を木刀、そこに体術を混ぜながらバッタバッタと薙ぎ倒していく。

 

「凄い……」

 

それを少し離れた場所に隠れて眺めていたシリカは、冷静沈着な態度で集団を前に颯爽と飛び回って打ち倒していくその姿に思わず呆然と見惚れてしまっていた。

 

程無くして青年はあっという間に男達を全員倒し終えると、パンパンパンと両手を叩く渇いた音が

 

「見事ね、私の手駒達を相手にたった一人で倒しちゃうなんて。お姉さん凄いビックリしちゃった」

 

青年が振り返ると、男達の大将格である筈のロザリアが何故かこちらに向かって熱を帯びた視線を向けながら拍手して賞賛の言葉を送って来た。

 

しかし青年の方はただ無表情でなんの反応も示さずにそんな彼女を無言で見つめていると

 

「あ、姐さん助け……」

「うるさい、ちょっと黙ってて」

「がッ!」

 

ロザリアの足下にまだHPがかろうじて残っていたプレイヤーの一人が助けを求めて縋り付こうとするも

 

彼女は見向きもせずにただ腰に差すレイピアを抜いて、瀕死のプレイヤーにトドメの一撃

 

「実を言うとこの連中の弱さには飽き飽きしていたのよ、この前も全身ピンクのちっこい小娘一人を狩ろうとして返り討ちにされたし……だからお姉さん決めたわ」

 

使えない部下の事でため息交じりに愚痴を呟くと、ロザリアは青年に対しニコッと笑いかける。

 

「ねぇあなた私の下へ就かない? そんな貧相な小娘よりも私みたいな大人のお姉さんの方が魅力的でしょ? 常に私を護るナイト様になってくれたら色々とサービスしてあげるわよ」

「ほう、色々なサービスか」

「そう、色々よ」

 

サービスしてあげる、という部分をやたらと艶っぽく言いながら仲間に引き込もうとして来るロザリア

 

すると青年は意外にもその誘いに乗り気な様子で木刀を右手に持ったまま彼女の方へと歩み寄る。

 

「俺も流浪人としてずっと拠点を持っていなかった事だし、そろそろどこぞのギルドに入り込もうと思っていた所だ」

「あら~じゃあ好都合ね、私のギルド・タイタンズハンドはアナタの様な強くてステキな人は大歓迎よ」

「強くてステキな人か、悪くない響きだ、この剣を是非アンタのギルドに使わせてくれ」

「物分かりが良くて助かるわ~、グダグダ考えずに即決してくれる男の人ってホント好き」

 

ロザリアからの誘惑と過剰に褒められた事で気を良くしたのか、青年はあっさりと彼女のギルドに入る事を承諾。

 

そんな青年に内心ちょろいモンだと小馬鹿にしながら微笑む彼女

 

「それじゃあ私からの熱いサービスを上げる代わりに一つ頼めるかしら、まずは早速そこの小娘からあるモノを奪って……」

「いや、それより先に、これだけは一つ言わせてくれ」

「え?」

 

いきなり言葉を送りたいと真っ直ぐな視線を向けながら言ってきた青年に

 

もしかして愛の告白でもする気かこの眼鏡、っと表面上はキョトンとした顔を浮かべながら内心嘲笑っていると

 

 

 

 

 

「嘘じゃボケェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

「うげぇぇぇ!!」

 

一瞬の閃光がロザリアの真横を通り過ぎたと思ったら、青年の咆哮と共に派手に上空に吹っ飛ばされ

 

そのまま突然の出来事に受け身も取れないまま顔から地面に真っ逆さまに落下するロザリア。

 

そしてフンと鼻を鳴らし青年は腰に木刀を差し戻すと、クルリと彼女の方へと振り返る

 

「小賢しい色仕掛けなど俺に通用すると思ったか、俺の心はとっくの昔に一人の女性に盗まれたまま、貴様如きで俺のこの一途な想いを変えられる訳が無い」

 

赤く四散して消えていくロザリアに向かって冷たくそう言い放つと、一人取り残されて呆然としているシリカを無視して何処へ歩き出そうとする。

 

それにハッと気付いた彼女はすかさず立ち上がって青年の方へと駆け寄る。

 

「あ、あの!」

「勘違いするな、俺はただ耳障りな連中が邪魔だったから斬り伏せただけだ、何処ぞの知らぬ小娘を助けようと思った訳じゃない」

 

近寄って来たシリカに対してぶっきらぼうに青年は答えると、足を止めてゆっくりと彼女の方へ視線を下ろす。

 

「それにこんな薄暗く奥深いダンジョンでたった一人で行動してるとは呆れたモンだ、たった一人で攻略できる程この森は甘くないぞ」

「えっとですね……ここには一人で来た訳じゃないんです、『ピナ』っていう幻竜種のちっちゃいドラゴンが私の大事な相棒なんですけど、この森を進んでる途中ではぐれちゃって……」

 

パートナーとはぐれた事をしょんぼりとしながらシリカが答えると、青年はクイッと眼鏡を上げながら軽くため息。

 

「お前を襲った連中の狙いはそれだったのか、幻竜種は幻獣種と並んで高値で取引されるとは前に聞いた事がある、もしかしたら今頃別のプレイヤーに捕まって売り飛ばされてるかもしれんな」

「そ、そんなぁ! ダメですピナは私の大事なお友達なんです! 捕まえて売り飛ばすなんて絶対に許しません! あ、あの! 助けてもらった上にこんな事頼むのもアレなんですけどその……!」

 

たかがプログラムの一つに対して、ましてやモンスターの事を大事な友達と呼ぶとは……

 

青年は弱々しくこちらを見上げて来るシリカにやれやれと首を横に振り、このままだとその大事なお友達とやらを一緒に探してくれと頼みこまれそうだと思いどうしたもんかと考えていると

 

 

 

 

 

「あーいたいた! もう散々探したんだからねーこっちは!」

「チッ、またうるさい奴のお出ましか……」

「?」

 

突如森の奥から少女の声がこちらに向かって飛んで来た。

 

すると青年はめんどくさそうに軽く舌打ち、シリカはそんな彼の反応を見てキョトンとしていると

 

「ったく一人で抜け駆けして奥へと進まないでよ!」

 

森の中をALO型だけが持つ飛行能力で低空移動して飛んでやってきたのは

 

金髪ポニーテールのエルフ風の恰好をした気の強そうな少女だった。

 

声がしたと思ったらあっという間にこちらに急接近して姿を現した彼女に、シリカが言葉も失い驚いてる中

 

青年の前に綺麗に着地すると不満げな様子で腰に手を当てながらジト目で彼を睨み付ける。

 

「前にも言ったでしょ、無理してつっ走ってもどうせ迷うんだから一人で行くなって! 探索用のスキルを一切持ってない”シンさん”がこんな所に来るなんて自殺行為も良い所よ!」

「フン、そっちこそ俺に対してよくもそんな偉そうな事を言えたもんだな、”リーファ”。お前が”あの男”を追う為に毎晩この世界に潜って修行している事に俺が気付かないとでも? つっ走ってるのはお前の方だ」

「えぇなんでそんな事知ってるのよ……もしかしてシンさん私のストーカー?」

「下らん冗談はよせ、俺はあくまでお前のお守役として見てやってるだけだ。お前の様なじゃじゃ馬娘などこっちの方から願い下げだ」

「なんですってー!?」

 

顔を合わせるや否やすぐに真っ向から口論を始めてしまうシンと呼ばれた青年とリーファと呼ばれた少女。

 

突然目の前で方や冷静に、方や熱くなった様子で口喧嘩をされたので、シリカは一瞬驚くもののすぐに間に入って

 

「け、喧嘩は止めて下さーい!」

「ってうわビックリした! え、なにこの娘? シンさんの彼女?」

「かかかかか彼女ぉ!?」

「たまたまここで会っただけだ、この俺がこんな小動物みたいな娘になびくとでも?」

「あぅ……」

 

彼女と尋ねられて顔を赤らめ気が動転するシリカだが、それをあっさりと否定されてほんのちょっぴりショックを受けていると

 

「きゅいきゅーい!」

「ってあぁぁーッ! ピ、ピナッ!?」

 

 

聞き慣れた鳴き声がしたと思って振り返るとシリカはまたもや口を開けて驚く。

 

リーファの背後の方からこちらに向かって小さな翼を広げながら嬉しそうに飛んで来たのは

 

自分が愛称としてピナと名付けた白くて小さなドラゴンではないか。

 

何処に行ったのかずっと心配していたのにまさか向こうから現れるとは思ってもいなかった

 

自分の周りを飛び回るピノを呆然としばらく見上げていると

 

ふとリーファがそれに気付いたかのようにそちらに振り向いて

 

「あれ? もしかしてその子ってあなたの?」

「え!? ピナの事知っているんですか!?」

「うん、なんか木の上でお腹を空かして倒れてたから、ご飯上げてみたらずっとついて来てたのよその子」

「ほ、本当ですか!?」

 

リーファから事情を聞いてシリカは肩に降りて来たピナを優しく抱き抱えながら慌てて彼女に向かって頭を下げる。

 

「この子を助けてくれてありがとうございます!」

「いいわよそんなの、でもそこまで大事にしてるんならまたはぐれちゃったりしたらダメよ」

「はい! それとお兄さんも私を助けてくれてありがとうございました!」

「だから礼などいらないと言っただろ」

「え? なにシンさんもしかしてこの子と偶然会っただけじゃないの?」

 

 

優しく微笑むリーファを見てなんて良い人なんだと感動しつつ、シンの方にもすかさずお礼を言うシリカ

 

その光景にリーファがキョトンとした様子で彼を眺めると、シリカはすぐにここで起こった事を話し出す。

 

「実は先程ピナを狙っている連中が私を襲って来たんです、そこへ颯爽と駆けつけてくれたお兄さんがバッタバッタとカッコよく倒してくれて……」

「へぇ~そうだったの。女の子を助けるなんてシンさんも粋な事する様になったのね~」

「フン、うるさく騒ぐ連中を黙らせてやっただけの事だ、助けてやった訳じゃない」

「はいはい、そういう事にしておきますよー」

 

事情を聞いてすぐに茶化すように笑いかけて来るリーファに不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向くシン。

 

あくまで人助けじゃないと否定し続ける彼に「素直じゃないんだから」と呟きつつ、リーファは左手を動かしてメニュー画面を目の前に表示させる。

 

「ところでこのダンジョンのマッピングはずっと飛び回ってたおかげでほとんど終わったから、ボスの所までの道のりは完全に把握できたし、後はボス戦の為の準備をする為に一回脱出しましょ」

「脱出ルートもちゃんと確保しているんだろうな?」

「当然抜かりはないわよ、さあ行きましょ」

 

この迷宮の様なダンジョン内を隈なく飛び回ってマップに記す事を終えたとリーファが報告すると、シンは短く確認を取ってすぐに彼女と共にダンジョンを一度出ようとする。

 

「お前達も脱出したかったら勝手について来い、このままダンジョンで彷徨ってまたあんな連中に襲われたいのなら止めはしないが?」

「い、いいんですか!? 私とピナを助けてくれた上に脱出まで手伝ってくれるなんて!」

「勘違いするな、このまま置いてけぼりにして泣かれるのも面倒だと思っただけだ」

「……」

 

ピナを頭の上に乗せたシリカにおもむろに一緒に来るかと誘うシン。

 

そんな彼のぶっきらぼうでツンデレな優しさにシリカは両手を合わせてすっかり感激している一方で

 

リーファはそんなシンの喋り方や態度を見て、頬を引きつらせて一人苦笑する。

 

「あ、あのさシン、さん? いい加減そのロール勘弁して欲しいんだけど……凄くめんどくさいんだよねホント」

「一体何を言っているのかわからないな、俺は常に俺だ。とっとと行くぞリーファ」

「……」

 

眼鏡を何度もクイクイッと上げながら断言するシンに、あまりにも厨二なその感じにリーファは顔をしかめるものの、渋々彼に従ってまずはダンジョンの脱出する事を決める。

 

「それじゃあ行こうか、あ、そういえばあなたの名前聞いてなかったわね?」

「あ! 私はシリカでこっちはピナです!」

「きゅいきゅい!」

「よろしくねシリカちゃんにピナ、私はリーファ、ALO型の風妖精よ」

 

シリカとピナの名前を改めて聞いて自分もまた自己紹介すると、リーファはチラリとジト目をシンの方に向けて

 

「んでこっちのSAO型で厨二病全開の眼鏡がシンって人」

「誰が厨二……! おっと危ない残念だったな、よもやこの世界でも俺のツッコミを拝められると?」

「いや誰もただやかましいだけのツッコミなんて期待してないから」

 

厨二と言われて敏感に反応して思わず叫びそうになるも、それを堪えて冷静に眼鏡を直すシン

 

それに対して呆れた様子でリーファが答えてる中、シリカはそんな二人を惚れ惚れとした様子で見つめている

 

「シンさんにリーファさん……二人共凄くカッコ良くて憧れちゃうなぁ……」

「きゅ~い」

 

自分と大切な友人を助けてくれた二人に対して

 

この世界で初めて強く尊敬して憧れる対象を見つけ、また一つこの世界での楽しみを覚えたシリカであった。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして場所も変わりここは現実世界

 

流行らない剣術道場を営んでいるこの志村邸で

 

 

自分の部屋で最新型のMMORPGを体験できるナーヴギアを被りながら布団の上に横たわる少年

 

志村新八がゆっくりと上半身を起こして

 

「……」

 

彼はそのまま無言でナーヴギアを頭から取り外すと

 

無表情のまま立ち上がって部屋の窓をスッと開けて、昼時の空をしばし眺めた後

 

 

 

 

 

「うおっしゃぁぁぁ仮想世界最高ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」

 

身体の内から湧き上がる興奮を抑えきれずに、天に向かって喉の奥から思いきり雄叫びを上げるのであった。

 

「もう現実なんていらねぇよバカヤロー!! 道場の復興なんざクソ食らえだ!! ゲームの世界ばんざぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」 

 

すると部屋の外の廊下の上をドタドタと何かがこちらに勢い良く迫ってくる足音が聞こえたと思いきや……

 

「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」

「おぶるッ!!!」

 

襖を開けて部屋に入ると、窓から叫んでご近所に迷惑をかける新八に向かって思いきり飛び蹴りをかます少女はこの道場に通う数少ない門下生、桐ケ谷直葉

 

「ログアウトしてこっちに戻ってくるたびに叫ぶの止めろって毎回言ってるじゃないですか!! ていうか道場の復興なんかクソ食らえってどういう事ですか新八さん!」

「ご、ごめん直葉ちゃん……なんか一時のテンションに身を任せてつい……」

「EDOやり始めたばかりのお兄ちゃんもその一時のテンションに身を任せて叫んでたんですよ! 新八さんまでそうなったら私泣きますよホントに!」

「いやホントにごめんなさい……」

 

胸倉を勢いよく掴みながら怒鳴りつけてる直葉に、眼鏡がずれた状態で頬を引きつらせながらすっかりビビった様子で謝る新八。

 

実は何を隠そうこの二人こそ

 

先程シリカとピナを助けた二人、シンとリーファだったりする。

 

これは遠くにある二人の男の背中を追いかける少年と少女のお話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シンは劇場版に出てた5年後新八verをイメージしてくれればいいです

あの青学の柱みたいな奴です

次回も二人の物語、そしてまさかの一番合いたくない相手に遭遇……?

ではまた来週



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