竿魂   作:カイバーマン。

40 / 92
銀魂の実写キャストが続々発表されてますね、みんな豪華で凄いですが一番驚いたのはやっぱり長谷川さんでした

そういやSAOの方もキリトが遂に実写になりましたね

ノンスタイルの井上さんで

正直私は好きです




第四十層 その男、正しく夜叉

そこは広大なる荒れ地の上に大量の血に塗れた戦場

 

その地には、今は異形の姿をした者達がひしめき合ってたった一人の侍を囲んでいる。

 

これはいわば総力戦

二つの勢力がぶつかり合って互いに力を出し合い、敵の陣営を一人残さず狩りつくせばこちら側の勝ちというシンプルな戦。

 

「残る者は貴様一人だ、無様に生き延びようとするか? それともお前等お得意の切腹とやらを見せてくれるのか? 選べ」

 

顔つきが猫の様な見た目をした天人一人が腰に差す銃を構えると同時に

 

侍を囲む他の者達も一斉に構え始める。

 

「まあどっちを選ぼうと、我々はどちらも許しはしないがな」

 

白い羽衣に身を包みし銀髪の若き侍は、少々疲弊した様子を見せながらもまだ目は死んでいなかった。

 

しかしこのまま大人しくしていれば間違いなく負ける

 

そして負けはつまり死を意味する。

 

「ここで我々の手によって散れぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

だからといって銀髪の侍にとってこの連中に背を向けて逃げるというのは

 

それもまた死と呼んでも過言ではない程御免こうむる。

 

自分達の星で好き勝手やっているこんな連中に

 

これ以上惨めな姿を晒してなるものか。

 

囲まれて一斉に群がって来る異形の者達を前にして、一人生き残った銀髪の侍がやる事は一つ。

 

「うるせぇな、周りでピーチクパーチク……」

 

右手に得物である刀を光らせ

 

侍はキッと鋭い視線と殺意を放ちながら顔を上げる

 

「ちっとばかり黙ってろ!」

「!?」

 

その瞬間一番先に彼に近づいた天人の首が宙を舞った。

 

肉眼で捉えきれなかったその剣の動きを見て

 

先程彼に話しかけていた猫の顔つきをした天人の表情が強張る。

 

「あの動き……まさか!」

 

近づいて来る天人をバッタバッタと斬り伏せて

 

集団で囲まれてもそれをモノともせずに果敢に挑む肝っ玉

 

疲労の色は見える筈なのに、それでもなお膝を突かないタフな生命力

 

彼の強さが尋常じゃない事を天人達はすぐに理解した。

 

 

「クソ! 時代の流れに逆らう野蛮な猿共め! これ以上抵抗されると面倒だ! もっと全員で叩き潰せ!!」

 

とち狂ったように叫ぶ指示を聞いて天人達が襲えば襲う程

 

次第の銀髪の侍が纏う白い羽衣が 

 

 

 

返り血によって赤く染め上がっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

戦いはそれから数分で決着が着いた。

 

戦場に生き残るのはたった二人。

 

一人は先程まで指揮を取っていた猫のような顔つきをした天人と

 

返り血に染まった銀髪の侍。

 

他の連中は皆屍と化し、そこら中で苦悶の表情を浮かべ絶命していた。。

 

「ハァハァ……! おのれ地球の猿め……!」

 

勝てる筈だと思っていたこの戦いで、まさか一対一にまで追い込まれるとは予想だにしてなかったらしく。

自分はただ指揮役としての仕事をしていれば終わるとタカをくくっていたのだが

 

結果はこの始末である。

 

「我々『天人』に支配され続けるだけの存在が! どうして未だに抵抗を続ける……」

「ああ? なんだよ今更、決まってんだろ」

「は! そ、その銀髪と返り血に染まった白い羽衣……もしや貴様! 最近噂に聞くあの……!」

 

猫の様な顔つきをした天人がが一歩一歩後退しつつ、今自分が対峙している相手が何者なのかとわかりかけて来たと同時に

 

「ぐっはぁ!」

 

その侍がこちら目掛けて駆けてきたと思いきや一瞬で距離の差は無くなった。

 

深々と胸に刀を突き刺され

 

口から血を滲ませながら最後の一兵である天人は目だけを僅かに動かし

 

自分を突き刺した張本人を睨み付ける。

 

「き、貴様……!」

「こっちはこっちで取り返してぇモンがあるから剣振ってんだ」

 

自分を刺したその侍はゆっくりと口を開くと。

 

ニヤリと笑って一気に突き刺した刀を引き抜く。

 

「その為なら俺達は何度でもテメェ等の毛の生えた心臓突き刺してやるよ、侍の剣って奴を」

「バカな……我等がたった一人の地球人に敗北するなど……そうかやはり貴様が……」

 

胸から大量の血を噴き出しながら少しずつ意識が遠のく中で、猫の顔つきをした天人はその侍の正体を最期に悟った。

 

(我々に対して鬼神の如き怒涛の攻めを続け、様々な戦に参戦しては数多の同胞をひたすら討ち続けている白き衣を身に付けた銀髪の侍、その者の異名は……)

 

 

 

 

 

 

「白夜叉」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが攘夷戦争時代に呼ばれていた銀時のもう一つの名だ」

 

時と場所は戻ってここは万事屋を営む銀時の家の居間。

 

そこにはここにいる家主の銀時の正体をあっさりと暴露した攘夷志士の桂小太郎と

 

それを小指で耳をほじりながらけだるそうに話を聞いていた銀時と、聞いても全く驚いていないユウキ

 

そして聞いて初めて銀時の正体を知った事で、物凄く驚いた表情を浮かべている和人がいた。

 

「ア、アンタ攘夷戦争に参加してたの……? しかもあの白夜叉って……」

「あ~……まあ昔はちょこっとヤンチャだった時もあったね俺も、ただの若気の至りって奴だよ」

「ヤンチャってレベルじゃないから! 天人相手に戦争してたんだろ!?」

 

最初に会った時からただものではないとわかっていたのだが、まさか天人相手に戦争を吹っ掛けていた元攘夷志士だったとは……

 

しかもかつて英雄と呼ばれた伝説の「白夜叉」と聞いて、その名からもじられた二つ名を持つ「黒夜叉」の和人もまたこれにはもう開いた口が塞がらない。

 

「ユウキ知っていたのか!? この人が! この見た目完全にダメなおっさんの正体が実は白夜叉だったって!」

「うん、ていうかボク、その頃から銀時と会ってたし」

「え!? まさかお前も攘夷戦争に参加してたとか!? お前ならあり得そうだし!」

「いやいや、その頃はただ田舎に住んでただけの小娘だよ」

 

まさかユウキまで攘夷志士じゃないよな?と疑ってくる視線を向けて来た和人に彼女はあっけらかんと答える。

 

「その時に偶然銀時と会う縁があってね、懐かしいねぇ、銀時はボクとの最初の出会い覚えてる?」

「ああ、あの時お前俺を殺そうとしたよな」

「そうそう、良かったー覚えてくれていて」

「いや待て待て待て! のほほんと思い出話に花咲かしてる所悪いけど明らかにおかしいだろ!」

 

銀時と朗らかに当時の出来事を語り出しているユウキに、慌てて和人が手を伸ばす。

 

「なんで田舎に住んでただけの小娘が攘夷志士殺そうとした!?」

「んーまあそういう時代だったんだよ、ボクも生きるのに必死だったんだあの頃は、悪いのはボクじゃない、強いて言うなら悪いのはあの時代そのものさ」

「ど、どこの映画の台詞だそれ? 何があったんだホント……」

「いやぁこの辺は話すと長くなるからさ、それにボクの昔話は銀時に比べて面白くないし聞くだけ時間の無駄だよ。それより話し戻すけど」

 

そう言って笑いかけながら上手く話題を逸らすと

 

目を細めて怪しんでくる和人をよそに、ユウキがおもむろに話し掛けた相手は……

 

「あれからとっくに攘夷志士なんて止めちゃってる銀時の所に、どうしてヅラは今になってやって来たの?」

「ヅラじゃない桂だ、決まっておるであろう、かつての同志を奮い立たせもう一度共に剣を取ろうとわざわざ誘いに来てやったのだ。今こそ幕府と天人に天誅を下そうとな」

 

なんか少々迷惑そうな感じで尋ねて来たユウキに、桂は腕を組みながらハッキリと答えつつも

 

その途中でふと彼女の顔をジッと見つめ

 

「いや待て、ていうか誰だこの娘っ子は、おい銀時、しばらく見ない内にまさか子供でもこさえたというのか?」

「そんな訳ねぇだろ、お前覚えてねぇの? 俺がお前等とはぐれた時によ、世話になっていた村に住んでた双子の妹の方だ」

「双子……? ああ」

 

呆れた様子で銀時がユウキの事を教えてあげると、桂はわかった様子でポンと手を叩く。

 

「そういえば戦の途中で行方知れずになったお前を”高杉”や”坂本”と一緒に迎えに行った時にその様な者達がおったな、あの時はお前を連れてかれまいと抵抗されて俺達も困り果てたモノだ」

「まああの頃はボクもまだ銀時達がどんな思いで戦っていたのかもよく知らなかったからね~」

 

当時の出来事を思い出してため息を突いて桂に、ユウキは苦笑しながら後頭部を掻く。

 

「正直あの頃はヅラ達の事は銀時を連れて行こうとする凄く嫌な連中だと思ってたけど、今はキチンとわかっているから安心して。ヅラ達にとっても銀時はなくてはならない存在だったんだって」

「出来ればあの頃に気付いてほしかったなそれは、おかげで俺達は三人で『銀時争奪戦』などという、下らない戦をやらなければいけなかったのでな」

 

ちょっとばかり反省している様子のユウキに桂はまたもやため息を突きつつ、ふと「ん?」と何かに気付いて首を傾げた。

 

「……というかこの娘、よく見たらあの頃となんら変わり無いではないか。何故年を取っておらん?」

「うるせぇなコイツにも色々と複雑な事情があんだよ」

 

昔と何も見た目が変わっていない、むしろ若返ってるかのようにも見えるユウキに桂がごもっともな疑問を呟くも、すかさず銀時が間に入って

 

「女なんてみんな複雑なモン抱えてるのが当たり前なんだから野暮な事聞いてんじゃねぇよ、だからテメェはデリカシーが足りねぇって言われんだよ、ヅラ」

「ヅラじゃない桂だ、お前こそ人をバカにしたように呼ぶのどうにかしろ」

「いいだろヅラで、高杉や坂本だってずっと呼んでただろ? いい加減もう認めろよ、自分はヅラですって、ずっと前から被ってましたって」

「被っとらんわ! 訴えるぞ貴様!」

 

ユウキの身体に関しては説明するのも面倒なので、無理矢理銀時が誤魔化してみせると

 

彼に向かって銀時は「つうかよ」と呟きながらポリポリと頭を掻きつつ

 

「今更戦争なんざ加担する気ねぇから、こちとら忙しいんで、攘夷なんざテメー1人でやれるだろ? いつまでもお母さんが手伝ってくれると思ったら大間違いですよ?」

「いつお前が俺の母親になったんだ、なにをふ抜けた事言っている、大体どこが忙しいんだ、今のそのだらけきった顔をどう見れば忙しそうに見えるんだ」

「いやマジで忙しいんだって、なぁ?」

 

桂の厳しい追及に対し、銀時はめんどくさそうに返事しながらチラリと隣のユウキに目配せすると彼女は「うん」とコクリと頷いて

 

「仕事は無いけど一日中ゲームしてていつも忙しくボク達と遊んでるよ」

「おい銀時! 国の一大事の時にいい年こいて子供とゲームなどして遊んでおるのか!?」

「いや違うって、俺は遊んでじゃなくて戦ってんだよ、モンスターと」

「やっぱり遊んでるだけではないか! 国が腐りきる前に自分だけ先に腐りおって!」

 

かつての戦友がゲーム三昧の自堕落な生活を送ってると聞いて桂は激昂した様子で銀時に詰め寄る。

 

「貴様それでも侍か! 俺達が斬るべき相手はモンスターではなく天人であろう! 空想の世界に引き籠ってないで早くこっちに戻って来い!」

「いや最近のゲームも結構バカに出来ねぇよマジで、それに天人相手とやり合いてぇなら俺よりもっと適任な奴がいんぞ」

「なに、本当か?」

 

自分よりも勧誘すべき相手がいるぞといった感じで

 

銀時は近くで話を聞いていた和人の肩にポンと手を置き

 

「実はコイツ、暇さえあれば地球に侵略しに来た天人をぶった斬っている生粋の攘夷志士なんだよ」

「おお! それは中々の逸材ではないか!」

「ってオイィィィィィィィ!! ふざけた冗談はよせコノヤロー!!」

「冗談じゃねぇだろ、いつも自慢げに生意気な天人をシメて来てやったって話してくれてたじゃねぇか、黒夜叉君」

「いやそれは仮想世界での話だから! 現実だったら俺なんてもはやスペランカーだし!」

 

自分の肩に手を置きながらサラリと自分を桂に売ろうとする銀時に

 

和人が首を振って急いで否定しようとするが……

 

「なんと前途ある少年だ! 初めて会った時からどことなく昔の銀時と雰囲気が似てると思っていたのだ!」

「いや無理です! 俺リアルではただのもやしっ子なんで!」

「なに恐れる事は無い! まず最初は簡単な事をやらせてあげよう! とりあえずいっちょ江戸城を爆破してくれ!」

「どこが簡単!? その行動一つで倒幕したようなモンじゃねぇか! 出来るかそんな事!」

 

自分の両手をすかさずガシッと掴み上げて早速勧誘して来た桂の手を振り払う和人。

 

「もういいから出てってくれ! さっきからアンタのせいで外もざわついていて騒動が大きくなってんだよ! さっさとこの人連れて攘夷活動なりテロ活動なりやって来い!」

「おいクソガキ! テメェドサクサになに俺をコイツに売り飛ばそうとしてんだコラ!」

「大丈夫だ、アンタがもし幕府に捕まっても処刑場にはちゃんと顔出すから、安心して逝って来い白夜叉」

「なにも大丈夫じゃないよねそれ!? 俺が死ぬ前提で送り出そうとしてるよね! ふざけんなお前が逝け黒夜叉!」

 

白夜叉と黒夜叉がお互いに掴みかかってギャーギャーと罵り合いを始めたので

 

取り残された桂は「やれやれ」と首を横に振り

 

「よしならばこうしよう、二人まとめて俺の同志に……」

「ちょっと~悪いけどそれは困るんだよねぇ、ウチの銀時にはもうそういうのやって欲しくないからさ、ついでにキリトにも」

「む?」

 

いっそ二人仲良く仲間にしてやろうと我策する桂だったが

 

ソファに座りながらユウキが即座に彼に対して口を挟む。

 

「もう銀時の戦はとっくの昔に終わったの、頼むからもうこの人をほっといて欲しいんだよね」

「ふん、何も知らぬ小娘が偉そうに……残念ながらそうはいかん。おぬしがどれだけ銀時と一緒にいるのかは知らんが、アイツの事は俺が一番よく知っている」

 

銀時を勧誘するなと頼んで来るユウキに、桂は腕を組みながらフッと笑い飛ばす。

 

「なにせ俺と銀時はずっと幼き頃から同じ学び舎で育った仲でな、その後も共に数多の戦場を駆け回り苦楽を共にし、そのおかげで俺達は固く結ばれた強い絆を持っているのだ」

「ふーん」

「故にコイツの考えなどすべてお見通しだ、きっと今もまだあの戦いの日々を忘れられないでいるに違いない」

「銀時の事を一番知っているって言うけどさー」

 

自慢げに銀時との思い出話を始める桂に、面白くなさそうな顔で聞いていたユウキがジト目で一つ尋ねてみる。

 

「それなら当然銀時の恋人とかも知ってるって事だよね」

「恋人だと? フ、魂胆が丸見えだぞ小娘。侍たるものそんなモノに現を抜かす事あるわけないではないか、それにコイツがモテない事などとっくにわかっている」

 

してやったりといった表情で、桂は真顔のユウキに得意げに語りかける。

 

「引っ掛けてやろうと思ったのだろうが甘いぞ小娘、この男とその様な関係になるおなごなどおる訳がなかろう、フハハハハハハ!!」

「いやいたけど」

「……え?」

 

勝利を確信した様子で盛大に高笑いを上げる桂に

 

まさかの本人である銀時が、掴み合っていた和人の首を腕で締めながら急に話に加わって来た。

 

「お前等には話してなかったけどいたから俺、ちょいと前に死んじまったがそれまでちゃんといたから」

「な、なんだとぉ!? 下らん見栄を張るな銀時! お前の様なただれた恋愛しかないちゃらんぽらんに惚れるおなごなどこの世におる訳ないではないだろ!! 」

「殺すぞテメェ! 俺だって惚れたり惚れられたりするわボケ! 参ったかコノヤロー!」

 

首を絞められて段々と顔色が青白くなってきた和人をやっと解放させながら

 

銀時はしかめっ面でハッキリと桂に言ってやる。

 

「そもそもオメェだってモテた試しねぇじゃねぇか、昔っから人妻とか未亡人ばかりに惚れてよ、そんであん時も……」

「待てぇい! それ以上言うな銀時! 言ったらタダでは済まんぞ!!」

「侍たるものそんなモノに現を抜かす訳がないと言っていたクセに……」

「なんだとぉ!」

 

慌てて銀時を黙らせる桂に、呆れた視線を送って来るユウキに対して、彼は面と向かって

 

「侍とて男なんだから仕方ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うわぁ開き直ったサイテー」

「おい銀時! なんなのだ小娘は! さっきから俺に喧嘩を売ってきおってからに! しつけがなってないぞ貴様!」

「いやそいつ小娘じゃないから。俺達とたいして年変わらねぇから」

 

ユウキに色々と言われて悔しかったのか桂はすぐに銀時に抗議するも、

 

彼は小指で鼻をほじり出しながらめんどくさそうに返す。

 

「つうかもう帰れよ、俺今から三十八層攻略しに行くんだから、フロアボス倒してさっさと上に昇ってコイツ等に追いつかないといけねぇから、レアアイテムドロップしたいんだよ」

「さ、三十八層? フ、フロアボス? さっきから何を言っているのだ貴様は……?」

「ああどうせ君にはわからないよ、銀時が言っているのはこことは違う世界の話だから」

 

聞き慣れない単語を用いる銀時に理解出来ずに桂が怪訝な表情を浮かべていると

 

ユウキは内心勝ち誇った様子で彼にドヤ顔を浮かべる。

 

「君が知っているのは昔の銀時だけでしょ? 今の彼を一番知ってるのはボク。今の彼をなんにも知らない君じゃ」

「なに!?」

「いくら説得しても銀時を誘って仲間にする事なんて出来っこないよ。かつては君の隣に銀時がいたのかもしれないけど、今の銀時の隣はボクの席だからね」

「ぐぬぬぬぬぬ! 言わせておけば……! 銀時の隣に居るべき存在は自分だと!? ずけずけと言いおって! だが!」

 

『過去』だけを知る桂と、『今』を知るユウキ

 

今の銀時についてはロクに知らない桂は、その事を彼女にキツく言われて心底悔しそうに肩を震わせるすぐにでも怒鳴り散らしそうな反応をするが

 

「……確かに俺は今の銀時の事は知らなすぎる、もう一度と共に手を取り合うには、まずはコイツの事をよく知るベきやもしれん」

 

頭に血は昇っている状態ながらも彼女の言い分には少々理解出来る部分があったので、桂は仕方なくため息をついて矛を収めて銀時達にクルリと踵を返す。

 

「邪魔をしたな、今回は素直に退散するとしよう」

 

意外にもあっさりと引き下がった桂は

 

銀時達に背を向けて窓の方へと歩き出す。

 

「いずれ然るべき準備を整えたら、今度こそお前に剣を取ってもらうぞ、銀時」

「いやもう来なくていいから、お前の仲間になるなんざ二度とごめんだ」

「フ、そう言っているのも今の内だ。俺は一度決めたら絶対に諦めん、それはお前が一番知っているであろう?」

 

そう言い残して最後にこちらに笑いかけると、桂は窓に手を着いて一気に飛び降りるとそのまま消えて行ってしまった。

 

きっと彼はまたここへやって来るであろう、それも一度や二度だけでなく何度も

 

いやもしかしたら追いかけてくる為に、今度はここの世界ではなく向こうで……

 

そんな気がしたユウキは長い髪を指に巻きながら心配そうに銀時の方へ振り返り

 

「……まさかまたあの人と一緒に戦争おっ始めようとか考えてないよね?」

「は?どうした急に? お前、自分でヅラの野郎に俺が仲間になる訳ないって啖呵切ってたじゃねぇか」

「そうだけどさー、たまに銀時ってよく一人でつっ走ちゃう事あるから、もしかしたらボクを置いていって勝手な真似するんじゃないかなってちょっと心配になっちゃった」

「はん、ヅラと一緒に国盗り合戦なんざなんの得があんだよ、そんな事全然考えてないから安心しろ」

 

恐れる様に呟くユウキの頭に、銀時は鼻を鳴らしてポンと手を置く。

 

「お前もムキになってヅラなんかと口喧嘩すんなよ、ガキでもねぇのにみっともねぇ」

「……う、うんわかった」

 

呆れたように言う銀時にユウキがぎこちなく返事をする。

 

そしてそれを黙ってジーッと見つめていたのはずっと彼等の一部始終を傍観していた和人。

 

「なんか置いてけぼり感あって寂しいんだが……なぁアンタ」

「あん?」

「過去にアンタが攘夷志士をやっていて、しかも俺と縁のある白夜叉だったなんて、正直俺は未だに頭の中で整理出来ないぞ」

 

彼がさっきからずっと気になっていた点はそう、銀時がかつて白夜叉と呼ばれた伝説の攘夷志士だったという所だ。

 

「まあアンタの底知れない強さと成長っぷりはEDOで嫌という程見せられて来たけど、まさか本物の天人相手に戦ってた人だったとはな……」

「ずっと昔の話だよ、一時的なテンションに身を任せてどんちゃん騒ぎしてただけだ、大したことじゃねぇ」

「いやそんな国を揺るがす程の一時的なテンションってどういうテンション?」

 

ぶっちゃけ詳しく聞きたい所ではあるのだが、このめんどくさそうに対応する銀時から察するに上手く聞き出す事はそう簡単ではないだろう、和人はそう判断し潔く根掘り葉掘り聞くのは素直に諦めた。

 

「しかしあのテロリストの桂小太郎と元戦友かー、これ世間にバレたらちょっとマズイんじゃないか?」

「あ? なんだ和人君もしかして俺を脅す気? それとも死ぬ気?」

「それはボクとしてもちょっと困るかなー、頼むから秘密にしておいてくれない?」

「待て、早とちりしてる所悪いけど誤解しないでくれ、今の俺はアンタを幕府に売る気は毛頭無いさ」

 

そう言って和人は手を横に振るとこっちをジッと見て来る二人に顔を上げて

 

「しかしコレからは俺の事をもっと大切に扱う様に、じゃないともしかしたら俺がどこぞの組織の副団長様にうっかり漏らしてしまう可能性も……っておい止めろ! 木刀掲げてにじり寄るな!」

「安心しろ、ただの口封じだ。すぐに楽になる」

「口封じに安心もクソもあるか! 冗談だから! ちょっとしたジョークだから! 頼むからそんな殺意に満ちたオーラを放ちながらこっち寄らないで!」

 

無表情でためらいさえ見せずに木刀を向けて来る銀時に、調子に乗り過ぎたと和人がソファの上で必死に叫んでいると

 

『凶悪攘夷志士・桂小太郎は依然姿を見せません、こうして時間が過ぎる中、果たしてあの家に住む方達は大丈夫なのでしょうか……おーっと見て下さい!』

 

ずっと点けっぱなしだったテレビには、何か変化があったらしくかなり賑わっている。

 

リポーターの花野アナの叫びに、ふざけていた三人組もふとテレビの方へ振り向くと

 

『なんと待機していた真撰組の中の一人の隊士がバズーカ片手にやってきましたー! これは一体何をするつもりだー!』

『決まってんだろうぃ、桂の野郎もろ共あの家ぶっ壊すんだよ』

『なんという事でしょう! 痺れを切らした一人の隊士が市民の命丸投げで強行突破に移ろうとしています!』

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

テレビに映っているのはバズーカ片手に飄々とした感じでマスコミに応える人物。

 

その顔は間違いなくあの沖田総悟

 

どうやら自分達が桂と話している間ずっと真撰組は周囲で待機していた様で、このタイミングで遂にあの男が我慢出来なくなってしまったみたいだ。

 

思わぬサディスティック星の王子の襲来の危機を感じて銀時と和人は同時に叫ぶと、ユウキを置いて慌てて玄関の方へ

 

「マズいマズイ! あの野郎ウチの家をバズーカでぶっ飛ばすつもりだ! ヅラはもういねぇってのに!」

「早く止めにいかねぇとヤバいぞ! ったくなんなんだあの男! 護るべき国民を犠牲にしてでも犯罪者捕まえたいのかよ!!」

 

二人は足早に玄関へと辿り着いて、急いでその戸を開けた

 

しかし次の瞬間

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォン!!!と凄まじい爆発音が家の前で炸裂

 

耳をつんざく豪快な音ともに、居間に待機していたユウキの耳に聞こえたのは

 

「「うぼあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

恐らくバズーカの玉をモロに食らってしまったと思われる銀時と和人の悲鳴だった。

 

両耳を押さえながらユウキは玄関の方を覗いてみると

 

「あちゃ~……」

 

破壊されて惨状と化した元玄関に

 

白目を剥いて横たわる銀時と和人の姿がそこにあるのみであった。

 

『あり? 今どっかで見た様なツラした二人がいたような……まあいいか』

『テメェ総悟! 何勝手な真似してんだコラァ! 切腹にすんぞ!!』

『皆さん見て下さい! これがあの真撰組です! 彼等は犯罪者を捕まえる為ならば罪のない一般市民をも犠牲にするという恐ろしい思想を……!』

『ふざけんなイカれてるのはコイツだけだ! 真撰組自体を頭のおかしい集団に仕立て上げようとしてんじゃねぇ! おいカメラ止めろ! たたっ斬るぞ!!』

 

テレビではまだバズーカを肩に担いでる沖田と、そんな彼の胸倉を掴み上げる同じ制服を着た男が怒鳴り散らしていた。

 

しかしユウキはもうテレビは観ておらず、やれやれと言った感じで玄関であった方へと赴くのであった。

 

「まあ例え戦争に行かなくともこの町自体もはや戦場みたいなモンだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀時と和人が真撰組にぶっ飛ばされている頃

 

そんな光景を無事に逃げ出していた桂小太郎が物陰に隠れて覗いていた。

 

「俺は絶対に諦めんぞ銀時、お前は必ず俺と共に戦う運命にある」

 

素性を隠す為の三度傘の下から顔を出しながらそう呟くと、桂はゆっくりとその場から姿を消す。

 

「しかし久しぶりに友と語り合う事が出来た、今日はこれで満足としよう」

 

真撰組やマスコミに悟られぬ様に裏道沿いに、桂はふと思い立った様子でフラリと歩き出す。

 

ここ最近すっかり行きつけになっているとあるお店へ……

 

 

 

 

 

「さて、久しぶりにあの微妙な味の蕎麦がどれほど成長したか確かめに行くとするか」

 

 

 

 

 




狂乱貴公編はこれにて終了です。

藍子&ユウキVS桂&他二人による銀時争奪戦の内容はいつかお送りします


次回からは新章です

新章の主役は一癖も二癖もある野郎共相手に戦うヒロインたちの物語。

時に瞳孔全開男

時に厨二全開眼鏡

時に電波全開男

そんな野郎共に振り回されつつも、彼女達は今日も抗い続ける

まさかの同じ男を狙うライバルが出現しようとも……

新キャラ複数登場予定「少女戦記編」、次週から開始です

それでは

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。