竿魂   作:カイバーマン。

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私がこの男の出番をずっと引きずっていた理由は一つです

前作の時に出し過ぎて、今更こっちで書くのダルかったから


第三十九層 その男、狂乱につき

「はぁ~こんな時間に起きて外出してるなんて未だに自分でも信じられないな……」

 

平日の昼下がり、桐ケ谷和人はまだ眠たそうに欠伸をしながらカンカンと2階へと続く階段を上っていた。

 

右手に持っているのはジャンプやら雑貨品等々、スーパーで買って来た商品が入ったビニール袋。

 

今日の朝、銀時とユウキは自分が寝てる間にいつの間にかいなくなっていた。

 

大方二人でデートでもしけこんでるんだろリア充爆ぜろ、ていうか死ね、みんな死ね

 

と思いながら和人は自分にはまだロクな出逢いもフラグも立たない事にイラッとしながら

 

こうして一人でスーパーに行って必要なモノを買い揃えて家に戻って来たのである。

 

「今日は仕事も無いし久しぶりにソロでEDOに潜る事にするか」

 

そう言いながら既に我が家同然の銀時の家の戸の取っ手を掴む和人、しかしすぐに「ん?」と顔をしかめる。

 

「開いてる……もしかしてもう帰って来たのかあの二人?」

 

ちゃんと鍵を閉めて出た筈なのだが……てっきり銀時とユウキが帰って来ていたのかと思ったのだが

 

ガララと開けた戸の先にある玄関には二人の靴は見当たらない。

 

代わりにあるのは見覚えのない草鞋……

 

「……」

 

不審に思った和人は恐る恐る靴を脱いで家に上がり、ビニール袋片手に居間へと入っていくと……

 

 

 

 

 

 

「おお、待ちかねたぞ、随分遅かったではないか」

 

黒い長髪を腰までなびかせた

 

青の着物に白の羽織を付けた

 

銀時とさほど年の変わらなそうな男が平然と来客用のソファに腰を落として座っていた。

 

それを見て和人はその場で立ちすくしながら呆然と固まる。

 

(は?……誰だこの人? なんで堂々とこの家に上がり込んでいるんだ? あれ? でもこの顔どっかで見た様な……)

 

様々な疑問が頭に浮かんで少々混乱した様子でいる和人に、男は「ん?」と小首を傾げて見せた。

 

「なんだ銀時ではないのか、この家は奴の家だと聞いてお邪魔していたのだが?」

「へ? あ、もしかしてあの人の知り合い?」

 

首を傾げながら尋ねて来た男はどうやら銀時の事を知っているらしい。

 

彼の知り合いだとわかった和人はようやく頭の整理をつけてゆっくりと向かいのソファの方へ移動する。

 

「悪いけどあの人は今外に出払ってるよ、俺はあの人と同居してるただの従業員」

「む、そうだったのか、そうかアイツは留守か……」

「そういう事、あの人に用があるならまた後で来てくれ」

「ふーむ、アイツが不在だとは思わんかった……ならば仕方がない」

 

どうやって鍵の掛かったこの家に入り込めたのか知らないが、銀時はいないしどう対応すればいいのかわからないからさっさと出て行ってくれと追い出そうとする和人。

 

だが男の方は顎に手を当てしばらく考え込む仕草をした後

 

「……」

「え? あの、ちょっと……」

「……」

「いやだからあの人はいないから一旦帰って欲しいんだけど……」

「……」

 

考え込むポーズを止めてもなおソファから立ち上がる事もせずに座ったままの男に和人が顔をしかめて話しかけると……

 

「ではとりあえずお茶を頼む」

「は!?」

「いきなり上がり込んで来た非はあるし安い茶で十分だ。だがもし高級茶葉でも置いてあるのであればそれを淹れてくれても構わんぞ」

「いやいや! いきなり家に上がり込んで来たと思ったらお茶出せって!」

 

真顔で茶を出せと要求してくる男に和人はツッコミを入れながら

 

「そもそもアンタ何者なんだよ、もしかしてここに依頼に来た客か? それならお茶ぐらい出すけどさ」

「依頼? 客? なんの事だ? 俺は銀時の奴に直接尋ねに来ただけだ」

「だったらその男がいないとわかった時点で帰れよ……」

「いずれ奴がここに戻って来るのであれば、ここで待っておく方が賢明であろう」

「待つ気かよ……なんなんだこの人」

 

どうやら家主の銀時が戻ってくるまでここで座りながら待つ魂胆らしい。

 

本当に一体何者なのだろうか……確かに前に何処かで観た覚えはあるのだが、それがどこでだったかどうも思い出せない和人。

 

(ともかくこんな素性も知れぬ男が傍にいちゃ素直にフルダイブも出来やしないな……)

 

ナーヴギアを被ってEDOにフルダイブしてしまうと、ここにある本来の身体は完全に無防備を晒してしまう。

 

どこの誰だかわからない輩がいるのにそんな真似出来るはずないし、とりあえず和人は彼が出て行くまで仮想世界へ向かう事はしばし諦める事にする。

 

「はぁ~……久しぶりに子守りを忘れてソロで満喫しようと思ってたのに」

「おい、お茶はまだか?」

「なんで俺があの人の知り合い相手にそんな事しなきゃならんのだ? それより俺からいくつか質問させてくれ」

 

お茶を催促してくる男に和人はめんどくさそうにソファに深々と腰着かせたまま

 

とりあえず彼が何者なのか突き止める事にした。

 

「まあアンタがあの人の知り合いだというのはわかったよ、で? 実際の所何者なんだアンタ?」

「知り合い程度の関係では無いのだがな、それよりおぬし、さっきから気になっていたのだが、もしかして俺の事を知らんのか?」

「いやどっかで見た覚えはあるけど……もしかして有名な方?」

 

ずっと前から仮想世界にどっぷり沈んでるおかげで、こっちの世界の事情はとことん疎くなってしまっている和人。

 

テレビも最近観ないしニュースにも興味はない、そんな彼が頭に「?」を付けて本気でわかっていない様子でいると

 

男はフッと不敵に笑いながら腕を組む。

 

「これも噂で聞いていたゆとり教育の賜物か……ならば覚えておくがいい、何を隠そう俺はいずれはこの腐った世界に天誅を下さんと立ち上がった革命家なのだ」

「革命家? へ~」

「……おいちょっと待て、なんだその薄いリアクションは、もうちょっと良い反応せんか、ここは普通驚く所だぞ」

「そう言われても、いきなり家に上がり込んで自分が革命家だとのたまうロンゲのオッサンが相手だと」

 

短く頷くだけで、驚きもせずに平然としている和人にやや不満げに男が口を尖らせるも

 

和人は後頭部を掻きながらけだるそうに

 

「どうも胡散臭さが優先してただの「頭がヤバい人」という感想しか持てないんだよな」

「頭がヤバい人とはなんだ、年上に対して失礼だぞ。俺は本気でこの国を変えて、天人を排除して再び侍の国を取り戻す為に立ち上がったのだ」

「そんな攘夷志士みたいな事言われてもなぁ……ん? 攘夷志士?」

 

男が厳しめの口調で窘めて来る中で、和人はふと彼が言った攘夷志士というワードに何か引っかかった。

 

そういえば随分前にこっちの世界で攘夷志士について何か話をしたような気が……

 

「いつだっけな……なんか今この状況で凄く大事な事を思い出さなきゃいけない気はするんだけど……」

「あ、そろそろ観たいドラマの再放送の時間ではないか、少年、テレビを点けてくれ」

「へ? ああ、テーブルの上にリモコンあるから勝手に点けて良いよ」

 

考え事をしてる最中に男に話しかけられたので和人は適当に答えると

 

男はスッとテーブルの上のリモコンを取って、部屋の隅に置かれている小さなテレビをピッと点けた。

 

するとそこに映っていたのは

 

『ただいま緊急速報が入りました、申し訳ありませんがこの後放送される「14歳の母親」は時間を遅らせてからの放送となります』

 

簡易な文字で書かれたテロップが浮かび上がっていた。

 

それを見て男はすぐに眉間にしわを寄せ

 

「ドラマの放送が遅れるだと? おのれ放送局め、この俺が観たいドラマを先延ばしにしおって。やはりこの国には一度転覆が必要だな、そう思うだろ少年?」

「いや観たいドラマが延期になったから国家転覆しようなんてふざけたノリには同意いたしかねます」

「しかし緊急速報とはなんだ、下らんニュースだったらこのまま放送局に乗り込んで天誅を下してやる、そう思うだろ少年?」

「いや思わないけど」

「そもそも最近のニュースと言うのはやれ芸能人の不倫だの政治家の失言だのと陳腐なスキャンダルばかりではないか、そんな事よりももっと国民に知らせるべきニュースを教えて欲しいものだな、そうだろ少年?」

「だからなんで俺に同意を求めるんだよさっきから」

 

いちいちこっちに振り向いて同意を求めてくる男に、めんどくさそうに和人がツッコんでいると

 

テレビの映像がパッと移り変わった。

 

『ただいま現場にかぶき町に駆け付けた花野アナです』

 

そこに映ったのはたまにテレビの報道ニュースで見かける花野アナであった。

 

『周りはすっかり住民たちの野次馬に囲まれており、報道陣もあまり近づくことが出来ない状況でいます、すみません通してください!』

「ほう、どうやらかぶき町で何かあったらしいな……そういえばここもかぶき町であったな」

「マジでか、まあしょっちゅう色んな所で騒動がある街だからなここ、けど緊急速報されるような事件が起こるなんて珍しいな」

 

どうやらニュースになった原因はここかぶき町で何かがあった様子。

 

何かと物騒なこの街で騒動や事件なんて日常茶飯事の事なので、和人は特に驚きもせずにテレビを観ていると

 

花野アナがマイクを片手にリポートを続ける。

 

『この放送を見ているかぶき町在住の方は絶対に外出しない様にして下さい、現在この街には有名な凶悪犯が潜伏しているという情報が入っています。もう一度言います、くれぐれも外出は控える様に』

「凶悪犯? こりゃまた恐ろしいな……あの二人大丈夫か?」

「まだ日も昇っている時間だというのに凶悪犯などという輩がウロついているとは何てことだ……市民の安全の為にも、やはり俺がこの腐った国を豊かで平和な国に変えねばならんという訳か」

 

和人が随分前に外出した銀時とユウキの安否を心配している中、男はまたもやブツブツとおかしな事を口走っていいる。

 

そんな彼をスルーしていると再びテレビの中で映像が切り替わり

 

「ただいま新しい情報が入りました、凶悪犯は現在、この近くにある……あ! あそこの2階の家に立て籠もってる模様です!!」

「……ん?」

 

凶悪犯がかぶき町にある家に立て籠もってると聞いて和人がその映像をよく見ると

 

どうも見知った家がそこに映され、花野アナがそこを指差し叫んでいた。

 

『万事屋銀ちゃん』などというふざけた看板が貼られた、スナックお登勢という店の上の階にある家に

 

 

 

 

 

 

「ウチじゃん え、ウソ? マジでここ?」

「なに!? てことはこの家に凶悪犯が潜んでいると言うのか!?」

 

何度も見た事ある家、というか自分が現在進行形で住んでいる場所だ。

 

口をポカンと開けて固まる和人をよそに、男は慌てて立ち上がって周りを見渡し始める。

 

「どこだ凶悪犯! 悪事を働く不正な輩はこの俺がたた斬ってくれるわ!」

「いやいやホントにここに凶悪犯がいんの!? どういう事だコレ! なんかの間違いだよな! ってあれ?」

 

いまいち状況が掴めていない状況で段々焦って来た和人だが

 

ふと目の前で周りを見渡しながら腰に帯刀している刀の鞘に手を置く男を見て何かに気付いた。

 

廃刀令のご時世で堂々と真剣を腰に差している事に……

 

「ア、アンタちょっと聞きたい事あるんだけど……」

『凶悪犯の顔と名前はこちらです』

 

和人が男に向かって何か言いかけたその時、テレビの画面がパッと代わり

 

凶悪犯と思われし人物の人相と名前が映し出された。

 

 

 

 

 

 

『このウザったるい長い黒髪をした男こそ、あの有名な攘夷志士・桂小太郎です』

 

 

 

 

 

 

 

その人相と名前を見て

 

和人はそーっと男の方へ顔を上げる。

 

ウザったるい長い黒髪をした男もまた、テレビに映された自分と瓜二つの顔を見て無言で腕を組むと

 

 

 

 

 

 

「なんだ俺ではないか、心配して損した」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

『先日この国と友好関係を築こうとしていた異星に対して爆破テロを行った主犯であり、攘夷戦争時代に「狂乱の貴公子」と呼ばれ多くの天人に目を付けられた程の強者であり、現在はトップクラスの犯罪者として指名手配されているまごう事無き凶悪犯です』

「爆破テロではない、攘夷活動だ、誤解を招く報道をしおって」

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

桂小太郎、その名前を聞いてようやく和人は眠っていた記憶を思い出した。

 

随分前にオカマとして営業していた時に偶然出くわした結城明日菜が

 

この男の手配書を持って探し回っていた事を

 

 

桂小太郎の事は当然和人もその名は知っていた、しかし顔まではすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

これには流石に自分がテレビやニュースを観ていなかった事に強く後悔するしかない。

 

「ア、アンタがあの狂乱の貴公子の桂小太郎……!?」

「うむ、そういえば自己紹介がまだであったな、これは失敬した」

「……」

 

こちらに真顔で軽く頭を下げる男、桂小太郎に和人は先程までの余裕な態度はもはや無い。

 

目の前にいるのが国中で追われている凶悪なテロリスト……その事実をしばしの間を置いてようやく受け入れると

 

和人はすぐに彼に背を向けると、一目散に玄関の方へ

 

「た、助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」

「待たれよ少年」

「ぎゃぁテロリストに捕まったぁ!!! 殺さないでぇ!」

「テロリストではない攘夷志士だ、無益な殺生などせんから安心しろ」

 

逃げようとする和人の後ろ襟をサッと掴んで引き留める桂

 

仮想世界ならともかく現実世界では貧弱なステータスの和人は抵抗虚しくあっさり捕まってしまった。

 

「俺は友人に会う為にここへ来ただけだ、決してここで暴れる様な真似はせん」

「ゆ、友人? そ、それってまさか……」

 

後ろ襟を掴まれたまま和人が言葉を震わせて恐る恐る彼の方へ振り返ってみると

 

桂の背後にあるテレビでまた新たな変化が起こっていた。

 

『すんませーん、そこ通してくださーい』

『うわぁ、なんか人一杯いるけどどうしたのー?』

『ああ! 突然原付に乗った二人組がこちらにやって来ました!』

「うお! 戻って来たのかあの二人!」

 

テレビの向こう側ではまさかの展開

 

この家の家主である銀時が、後ろにユウキを乗せて原付で戻って来たのだ。

 

家の前で起こっている状況に特に気にする様子もなく銀時は原付から降りると、群衆を掻き分けてユウキを連れて2階へ上がろうとする。

 

『オイ邪魔だテメェ等、ウチの家の前でたむろってんじゃねぇ』

『すみません大江戸テレビです! もしかしてあそこの家の者ですか!?』

『そうだけど、え? なにそれカメラ? 俺ひょっとして映っちゃってるの?』

『うわヤバ、てことはボク達お茶の間に映っちゃってる訳? テレビデビューじゃん』

 

報道陣が押し寄せてくると、早速カメラを見つけてこちらに振り返る銀時とユウキ

 

『つうかなんでウチの家の前でカメラが回ってんの? なに? もしかしてウチのロクデナシのクソガキを更生させる番組でも放送する訳? ならまずはウチに話を通してくれないと困るんだけど』

『テレビ局からの依頼ならギャラもたんまり貰えそうだね』

『いやすみません、そういう目的じゃなくてですね……あなた達の家に今凶悪犯が潜んでいるという情報が……』

『はぁ、凶悪犯?』

 

花野アナに対して口をへの字にして後頭部を掻くと、銀時は「いやいや」と呟き

 

『ウチにはそんなんいませんって、俺とコイツは極めて平和に生きてる一般市民ですから、凶悪な居候ゴキブリなら1匹飼ってますけど』

『最近ウチの人のおかげでますますクズ化の一途を辿っている居候ゴキブリです』

「おいコイツ等俺がいないのをいい事になにテレビに向かって人の事をロクデナシだのゴキブリ呼ばわりしてんだコラ! 俺の身内が観てたらどうすんだよ!! 主に妹に!!」

 

傍に自分がいないのいい事に散々酷い事を言っている銀時とユウキに、テレビに向かって和人が怒っていると

 

銀時はそのままユウキを連れて報道陣を押しのけていく。

 

『まあとにかくウチにはそういうのいないから、今から家帰るんでとっとと退いてくれや』

『いや私の話聞いてませんでした!? 今あなたの家に凶悪犯が立て籠もっているんですよ!?』

『だからいねぇって、ほら行くぞユウキ』

『うん』

『ちょっとぉ! いるんですよ本当に凶悪犯が!!』

『大丈夫大丈夫、だって凶悪犯なら家の中じゃなくて今ボク達の目の前に……むぐ』

 

ユウキが銀時を指差して何か言おうとした所を、すかさず銀時が彼女の口を押えて黙らせると

 

そのまま花野アナの忠告を無視して二階へと上がり

 

そして

 

程無くしてガラララっとここの家の戸が開けられる音が和人の耳に入った。

 

「ったく余計な事言おうとしてんじゃねぇよテメェは」

「いやーついノリで言いかけちゃった」

 

そんな会話と共に玄関で靴を脱ぐ音と共にこちらへ向かう足音

 

桂に後ろ襟を掴まれながら和人が固まっていると

 

「おい穀潰し、お前ちゃんと起きてるかコラ、真っ当な人間はとっくに活動してる時間だぞ、ん?」

「ただいまー、ってアレ?」

 

和人達の前にようやく銀時とユウキが現れた。

 

二人はすぐに和人があの恐ろしいテロリスト・桂小太郎に捕まっているかの様な状況に出くわすと

 

しばし見つめた後、銀時の方がすっとこちらに指を差し

 

「ヅラ?」

「あ、ホントだヅラだ」

(ヅ、ヅラ……?)

 

自分の背後にいる桂を指差して特に驚きもせずにユウキと一緒に桂に対して変な呼び名を使うと

 

顔をしかめる和人をよそに桂はその呼び方に不満を覚えた様子で

 

「ヅラじゃない、桂だ」

「ああやっぱヅラか、なにお前、勝手に家に入り込んで」

 

そう返事して桂はようやく和人の後襟からパッと手を放す。

 

「かつての戦友との久しぶりの再会だというのに随分とふざけた挨拶だな、銀時」

「戦友!? ちょっと待てオイ! アンタどういう事だこの状況!?」

「まあ安心しろ和人君、俺とコイツは友達じゃないから、一方的にコイツが俺の事を友達だと思い込んでるだけだから、友達がいないあまりに俺を頭の中で友達だと認識している哀しい男だから」

「ふざけるな、同じ学び舎で育ち、同じ戦場で戦った俺とお前が、友と呼ばずしてなんと呼ぶ」

「!?」

 

桂に解放されてすぐに銀時の方へと駆け寄りつつ

 

二人の会話を聞いて和人はギョッと目を大きく見開く。

 

「おいおいおい……まるで状況が掴めないぞ、今完全に頭の中パニックだぞ、頼むから誰でもいいから説明してくれ」

 

もはや驚き過ぎて笑いさえ込み上げて来そうなこの展開に戸惑っていると

 

銀時の隣にいたユウキが首を傾げながら

 

「んーとね、ヅラと銀時は幼馴染って関係なのかな? 確か」

「幼馴染!?」

「そんで一緒に天人に対して喧嘩を吹っ掛けた戦友、的な存在?」

「天人に対して喧嘩……そ、それってもしかして!?」

 

自分でも詳しくは知らなそうな様子で答えるユウキに、和人がとんでもない予想が頭の中で浮かんでいると

 

「攘夷戦争、かつて俺達が敗れ、最も大切なモノを失った戦だ」

 

彼女の代わりに目の前の桂が静かに答え、そして一歩こちらに歩み寄る。

 

「しかしまだ戦は終わっていない、この国が完全に天人の傀儡と化し腐り行く前に、今度こそ幕府と天人共にこの剣を振り下さねば、俺達の戦は永遠に終わらぬ」

 

そう言って桂は自分の腰に差していた刀を鞘ごと引っこ抜き

 

死んだ目を向けてくる銀時に対してスッと鞘に収まった刀を掲げる。

 

「銀時、例え手を汚してでも取り返せねばならんモノがあるのはお前が一番知っている筈だ」

 

 

 

 

 

 

 

「かつて攘夷戦争で敵だけでなく味方からも恐れられた武神」

 

 

 

 

 

 

 

「『白夜叉』と呼ばれたお前の剣を、再び俺に貸してはくれまいか?」

「!?」

 

白夜叉と呼ばれた銀時に咄嗟に彼の方へ振り返る和人。

 

その名は和人にとって、否、キリトにとってとても深く関わりのある二つ名だ。

 

彼が「黒夜叉」と呼ばれた所以は

 

 

 

 

攘夷戦争時代で活躍した攘夷志士、白夜叉の二つ名から引用されたのだから

 

明かされた衝撃の新事実に

 

物語は着実に進行していく

 

 

 

 

 




次回は狂乱貴公編・最終話

銀時の正体やユウキとヅラの意外な因縁も書かれますのでお楽しみに

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