竿魂   作:カイバーマン。

36 / 92
さあ行きましょ、常識を飛び越えて


第三十六層 Here we go, off the rails

新装備に切り替えてから銀時は更に上の階層へと昇りに昇っていた

 

相も変わらず回避性能に特化しまくって当たってもさしたるダメージにならない攻撃でさえも避けるクセは抜けてはいないが

 

それでも自らダメージを削って物干し竿を取り出す、という機会は減っていった。

 

そして銀時の現在いる層は第三十五層。彼と同じタイミングで初めたプレイヤーの中では群を抜いて早い。

 

と言っても彼の場合は最初から備わっているずば抜けた身体能力と剣による立ち回りと

 

彼を補佐する何人かのベテランプレイヤーの存在があってこそなのだが

 

そして今、三十五層のダンジョン、迷いの森というこれまた難儀な場所の攻略に勤しんでいた。

 

「あれ? ここなんか前に来た事なかった?」

「だな、やっぱ久しぶりに来るとわからないモンだな……」

 

生い茂った深い森の中で着ているローブに引っかかる枝や葉っぱを払いながら、銀時は共に同行しているキリトに尋ねる。

 

キリトもまた以前ココを攻略したのはだいぶ前の話なので、どういう風に進んで行けばいいのか忘れてしまってるらしい。

 

ちなみにユウキは今回の攻略に同行していない、ここ最近はひたすらこっちに潜りっぱなしだったので、休憩を取らせてしばらくは現実の世界で待機するよう銀時が言い聞かせているからだ。

 

「二十層の特殊ダンジョンもこんな感じだったけどよ、ここはあそこよりも更に複雑化してねぇか? こんなの下手すりゃ最深部どころか最寄りの村にも帰れねぇぞ……」

「俺もソロで初めてここに来た時は散々迷わされたからな……迷いの森という名に相応しく、一度入ったら中々抜けられなくて、攻略を諦めたプレイヤーがよく自らのHPを削り切ってゲームオーバーするって事はザラにあるらしいぞ」

 

迷ってる間にすっかり夜になってしまい、昼でも暗かった森の中は完全に暗闇と化していた。

 

先頭を歩くキリトが手に持った松明を目印に、なんとか手触りで少しずつ歩きながら銀時は渋い顔を浮かべる。

 

「森の中で自殺か、どこぞの自殺スポットかよ……」

「死んだ事に気付かずに未だ森の中を彷徨っている幽霊とか出そうだな」

「ケ、ここで死んでもリスポーン地点の村に戻るだけだろうが、変な事言って大人をからかうんじゃねぇ」

 

銀時でもすぐにわかる冗談を言って茶化してくるキリトに銀時がしかめっ面で舌打ちしていると

 

ふと傍の茂みからガサゴソと何か音がしたので銀時は即座にビクッと肩を震わせる。

 

「ってなんだよ風でそよいだだけか……ったくモンスターが出たのかとつい身構えちゃったぜ、なあキリト君」

「おい……なんでいつの間に俺の手を握ってんだアンタ……」

「何言ってんだこうすりゃはぐれる心配もねぇからだよ、それ以外の事なんか何もねぇよ、決してそっちの趣味があるとかそんなんじゃないから安心して」

「いや手汗半端ないんだけど……」

 

視界も悪く音も聞こえず、そんな不気味な所を歩き続けながら些細な事で一々ビクつく銀時は

 

いつの間にかキリトの松明を持ってない方の手を強く握って離そうとしない。

 

この人ホラー系ダンジョンとして有名な六十五層と六十六層に行ったらビビり過ぎて死ぬんじゃないか?とキリトがジト目で見つめながら、お化けがめっぽう苦手な銀時の今後にますます不安を覚えた。

 

「手を握るならユウキとやってくれ、こんな暗闇でオッサンの手を握り続けながら歩くとかなんの罰ゲームだ」

「そのユウキがいねぇから仕方なくお前と手ぇ繋いでやってるんだよ! 俺だって野郎と二人で手なんか繋ぎたくねぇよ! ありがたく思えやコラ!」

「なんでそんな上から目線!? もういいから離せ! モンスターに奇襲されたらどうすんだよ!」

 

自分の手を決して離そうとしない銀時にキリトがうっとおしそうに引き剥がそうとしていると、ふと銀時の背後からうっすらと……

 

「ん?」

 

長い髪をした小柄なシルエットが見えたような気がした……

 

「おい、今アンタのずっと後方に……長い髪をした子供みたいなのが茂みの中から見えたぞ」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「抱きつくな!!」

 

キリトが呟いた瞬間銀時は彼の頭に両手を回してしがみ付いて来た。

 

それを強引に振り払いながらキリトは怪しい者が見えた方角に目を細める。

 

「消えた……感知スキルにも反応が無いな、悪いけどアンタはここで待ってくれ、俺はちょっと辺りを探索してみる」

「はぁ!? なに言ってんのお前!?」

「なんか気になるんだよ、この森で小さな子供を見たなんて情報は今までなかったし、もしかしたらここで起こる隠しイベントがあるのかもと思ってさ」

 

通りすがりのプレイヤーという可能性もあるが、感知スキルに反応しなかったりあっという間に消えてしまうなどおかしな点がいくつかある。 

 

もしかしたら何かレアなイベントでも発生しているのかもしれないと思い、キリトは銀時を置いて単独で消えた子供を探そうとするが、当然それを銀時が許すわけにはいかない。

 

「今更クエストとかどうでもいいだろ! もう見えねぇって事はどうせただの気のせいだよお前の!」

「いやもしかしたら神器入手のクエストかもしれないし」

「お前ホント頭の中神器ばっかだな! どんだけ囚われてるんだよ神器に!」

「いいだろ別に! 真のゲーマーたるもの神器はなくてはならない存在なんだよ!」

 

前にシノンから聞いた神器の情報も未だ解明は出来ていない。

 

なればここで消えた人物を探し当てて、なんらかのフラグを立てればまた新たな神器の情報が手に入るかもしれない。

 

ここ最近特に神器に対して貪欲な姿勢を見せているキリトは、もはや居ても立っても居られない状況なのだ。

 

「ということでちょっくら行ってくる、何も無いと判断したらすぐ戻って来るから」

「待てぇ! 俺だけ置いてけぼりにして勝手にどこ行くつもりだテメェ!」

「あまり遠くには行かないから、まあこの辺はベテランでもすぐに迷うから自信を持っては言えないけど」

「オイ! 不吉な言葉残しながら行くんじゃねぇ! 待てやコラ! 待って! 待って下さぁぁぁぁぁぁいい!」

 

銀時が必死の形相で手を伸ばすがキリトは軽く手を振りながら何処へと駆けて行ってしまった。

 

すぐにでもその背中を追いかけたい所ではあったが

 

こんな暗い場所で長い髪の子供がポツンと立っていた、というキリトの言葉を思い出した事ですっかり腰が引けて動けずにいたのだ。

 

「あんのゴキブリ童貞腐れヒキニートが! 現実世界に戻ったらぜってぇシメてやる!!」

 

拳を震わせながら置いてけぼりにしたキリトに恨めしそうに叫んでいると、銀時はふと一人になった事にどんどん不安感を募らせていく。

 

次第に辺りをキョロキョロと見渡して、何か近くで不審な事が起きないのかとビクビクしながら頬を引きつらせる。

 

「い、いやそもそもお化けなんざいる訳ねぇだろ、所詮ゲームの世界だし……つうか現実にもいる訳ねぇし、俺リアリストなんで、この目で見た事がない空想の存在を信じる程子供じゃないんで……」

 

震える声で自分自身にそう言い聞かせながらなんとか平静を保とうとする銀時

 

「そうだよ、たかが暗くて静かで薄気味悪いだけじゃねぇかこんな所。いつも通り堂々と攻略して行きゃあいいんだよこんなダンジョン、よーしそうと決まれば俺を置いてどっか行ったあのバカを探しに行こう、タケコプターでもありゃあ上から探せんのにな……」

 

頭の中でひたすらドラえもんの歌を再生しながら己の恐怖感を半減にする事に成功すると

 

銀時は腕を振り上げやっと消えて行ったキリトを探しに行こうとする。

 

だがそんな時であった。

 

「!」

 

後ろから雑草を踏み歩いて来ながら、何者かがこちらに近づいて来るのを銀時は感じた。

 

その瞬間、全身から冷や汗を流しながら銀時は再びその場に根を張ったかのように動けなくなってしまう

 

(え? なんか後ろから誰か来てる? キリト君? キリト君だよね? キリト君だと言ってお願いだから!)

 

ザッザッとこちらに近寄って来た足音が自分のほぼ真後ろの所でピタリと止んだ。

 

先程別ればかりのキリトだと懸命に祈りながら、銀時はゆっくりとそちらに振り返ると……

 

 

 

 

 

 

そこに立っていたのは長い黒髪を腰の下まで垂らした、ボロボロで粗末な服を着た線の細い小柄な少女であった。

 

「あ、あの……」

「…………」

 

その少女はオズオズとしながら銀時の方へ顔を上げて何か言おうとするも

 

暗闇の中からいきなり現れた小さな女の子が背後から現れた、というホラー映画で腐るほどやられているシチューエションに

 

頭の中は真っ白になり、ついでに顔も真っ白になり、目も白目を剥いていた。

 

そして

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「あ!」

「テルネイドマルチビダパンウシコハムトラボンチャンブルカタロハムフラマショウタイガネメポノツガリトン!!」

 

頭の中に突如降って来た念仏の様な言葉を並べて叫びながら、すぐに銀時は少女から回れ右して恐怖に駆られながら全力疾走で走り出す。

 

「トットコハムハムトットコキヒキヒトットコシクシクヘッケヘケ!!」

「待っ……!」

 

呼び止めようとこちらに手を伸ばしている少女にも気づかずに、銀時はただひたすら意味の分からない言葉を叫びながらがむしゃらに草葉を掻き分けて必死に逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……ここまで来りゃあ追ってこれねぇだろ……」

 

数十分の間全力で森の中を駆け抜けて行った銀時は

 

傍にあった木に手を当てて呼吸を整えながら辺りを伺う。

 

先程遭遇した少女の気配はもうどこにも無い

 

その事に安堵したかのように銀時はフゥ~とため息を漏らした。

 

「危ねぇ危ねぇ……どうやら俺が叫んだ呪文のおかげで上手くおっ払ったみたいだな、藍子が昔観てたガキ向けのアニメの歌を適当に叫んでただけだけど……」

 

そう呟きながら顔から滴り落ちる大量の汗をローブで拭いながら、ひとまず安心だといった感じで銀時は歩き出そうとする、だが

 

「……あれ、ここどこ?」

 

パニックになって一目散に逃げだしてしまった事が仇になったのか

 

今現在ココがどこなのか全く検討付かない銀時

 

辺り一面は暗い森の中、空に浮かぶのは唯一光を差してくれる月のみ。

 

とどのつまり、完全なる迷子となってしまったのだ。

 

「オイオイオイオイ……ひょっとしてコレ遭難って奴? ウソだろ洒落にならねぇぞ……」

 

キリトみたいに松明みたいな暗い所を照らすアイテムを銀時は所持していない。

 

周りを見渡しても暗くて何も見えず、頬を引きつらせて無理矢理笑みを浮かべながら銀時は途方に暮れる。

 

「しゃあねぇ、こうなったらはぐれたキリト君を探すしか……」

 

とりあえず離れ離れになった相方を探そうと銀時は闇雲に歩こうとする、だがその時であった。

 

「ひ!」

 

再び後ろから雑草を踏み歩いて来ながら、何者かがこちらに近づいて来るのを銀時は感じた。

 

その瞬間、短い悲鳴を上げて、先程と同様全身から冷や汗を流しながら再びその場で動けなくなってしまう銀時

 

(ま、またなんか後ろから気配がすんぞ! ウソだよね? 追いついて来たとかじゃないよね? お願いだから違うと言って!)

 

自分のほぼ真後ろの所でピタリと止んだ足音に、銀時は全身を震わせながらゆっくりとそちらに振り返ると……

 

 

 

 

 

 

 

そこに立っていたのは

 

金色の騎士風の鎧に身を包んだ

 

鎧と同じく煌びやかに輝く黄金の髪を垂らした

 

腰に『洞爺湖』と彫られた木刀を差す少女であった。

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

いきなり唐突に現れたその少女に、銀時は恐怖も忘れて目をパチクリとさせると

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

すぐに驚いた表情を浮かべ、無表情でこちらを見つめて来る彼女に思いきり叫び声を上げるのであった。

 

あまりにも予想外過ぎてただただ叫ぶしかない。

 

「な、な、なんでお前がここにいやがんだぁ!?」

「……」

 

銀時は前にもこの少女であったことが一度だけある。

 

第二十層の特殊ダンジョンにて、いきなり現れたと思いきやいきなり自分を蹴り上げて来たのだ。

 

訳の分からない行動にあの時ばかりは銀時も面食らっていたが、その後再び彼女と会う事は今の今まで一度も無かったのである。

 

「キリト君でもお化けでもなくまさかお前が俺の前に現れるとはな……相変わらずずっとこっちを無言で見つめて来て訳わかんねぇ野郎だぜ、それに……」

 

またもや何も言わずにただ凛々しい目を向けてくる彼女に、銀時は警戒しつつもゆっくりと歩み寄って腰に差す得物を見下ろす。

 

「なぁおい、ちょいと聞きたいんだがその木刀、どこで手に入れた」

 

これだけ綺麗な身なりをしておいて、腰に差しているのは小汚い木刀というなんとも違和感を拭えない代物。

 

しかしこの木刀を銀時がよく知っている、ここの世界でなく、現実の世界で

 

「どうしてお前が、”俺の木刀”を持ってやがるんだ」

「……」

 

銀時がとにかく彼女について一番不思議に思っているのは何よりもそこであった。

 

彼女が刺す木刀は自分が現実で常に持ち歩いている奴と酷似しており、彫られた文字さえ同じという紛れもなく瓜二つの代物である。

 

しかし銀時が静かに問い詰めても、彼女は相も変わらず黙り込んで何も喋ろうとしない。

 

そんな彼女に銀時はやれやれと首を横に振る。

 

「ったくなんなんだよお前ホントに……これだから最近のゆとり世代はダメなんだ、会話のキャッチボールすら出来ないと社会でやっていけねぇぞ」

「……違う」

「え?」

 

髪を掻き毟りながらブツブツと銀時が文句を垂れていると

 

不意に少女が初めて銀時に向かって口を開いた。

 

そしていきなり何を言い出すのかと思いきや

 

「前に見た時と服装が違います」

「ああ? まあ最近変えたんだよ」

「何故ですか? 前の方が良かったじゃないですか」

「へ? どしたのお前……」

 

藪から棒に突拍子も無い事を言い出す少女に銀時は流石に戸惑った様子で後ずさり。

 

今の銀時は着物の様な格好の上に大き目のローブを羽織ったジェダイスタイル。

 

どうやらそんな今の彼の服装が、少女は気に食わないらしい。

 

「すぐに着替え直すべきだと思いますが」

「ああうんまあ、確かに俺としても前の服装の方がしっくり来てたけど、どうもこっから先はあの防具じゃ難しいらしくてよ、現に今の服装にチェンジしてから前よりも戦いやすくなったのは確かだし……って俺はなんでこんな奴にこんな事話してんだ?」

「初期に使ってた武器屋防具も、底上げをし続ければ上位の階層でも通用出来ます。その分お金はかなりかかりますが、お前があの時の服装を維持したいとお望みであればすぐにそうするのが得策です」

「ちょちょちょ! 待て待て待て! なんだ急にグイグイ前の服装を推してきて! 前の方が良かったとか言われてもこっちはこっちで色々と都合があるんだよ!」

 

一歩下がった銀時に一歩歩み寄ってジリジリと顔を近づけて来る少女

 

さっきまでずっと黙り込んでいたのに急に長台詞を吐いて来る彼女に銀時も両手を突き出しながら慌てて後退。

 

「お前一体なんなんだ! いきなり現れた時は思いきり俺を蹴飛ばしたり! そんでまた会った時はいきなり服を元に戻せだぁ!? なんで俺が縁もゆかりもないお前なんかにそんな事指図されなきゃいけねぇんだよ!」

「……何故ですか?」

「は?」

 

ついイラッと来た様子で銀時が反論を仕掛けるも、少女はおもむろに自分の手をギュッと握ったまま胸に当てながら、辛そうに一言

 

「どうしてお前が服装を変えただけで……私はこんなにも嫌な思いになるんですか」

「……いやそれこっちが聞きたいんだけど……」

「お前は一体……誰なんです?」

「ここに来てまさかのその質問!? じゃあお前俺の事よく知らねぇクセにずっとああだこうだほざいてた訳!? あーもうホント訳わかんねぇ……なんなのコイツ?」

 

息苦しそうに問いかけて来る少女に、銀時は苦々しい顔で舌打ちすると後頭部を乱暴に掻き毟りながら

 

「え~……坂田銀時っつうんだよ、こっちでの名前はギンだけど。今じゃ普通に本名で呼ばれてるから銀時でいい」

「坂田……銀時……何故でしょうその名前にどこか覚えがある様な気が……」

「言っておくがお前みたいな綺麗なネェちゃんと会った覚えは俺にはねぇから」

 

ぶっちゃけここまで綺麗な人を過去に見ていたら一生忘れる事はないであろう

 

現に銀時は今の今まで記憶の片隅に彼女の顔だけでなく、見た目そのものも全て脳内でしっかりと記憶に刻みこまれていた。

 

向こうは自分の名前に何か知ってるような反応をしているが、恐らくただの気のせいであろう。

 

「で? お前の名前は?」

「私の名? 私は『アリス・シンセシス・サーティ』、それが私を作った人物が付けた名です」

「あ? 作った人物って親の事だろ要するに、その表現だとどことなく生々しく聞こえるから、そういう情報はいらねぇから」

 

喋れば喋る程疑問が増えて来るなコイツ……

 

全く持って謎だらけの少女、アリスに銀時は顔をしかめながら目を細めてジッと見つめていると

 

彼女は不意に自分ではなく別の方向に目をやる。

 

「……近い」

「あ? 近いって何が? ションベン? もうその辺でしちゃいなさい、ぐふ!」

 

デリカシーの欠片も無い言葉を口に出す銀時にアリスは無言の腹パン。

 

「近いと言ったのはここのボスの事です、この先を進めば最深部、そこで私達を待ち構えているみたいです」

「コイツまたいきなり……どうしてボスがこの先で待ち構えてるってわかんだよ」

「ここから先に強大な魔物の気配を感じるからです、先を進みましょう」

 

ここからボスのいる所までわかるという事は、キリトよりも広い範囲の探知スキルを彼女が所持しているという事である。

 

それも迷いの森に生息するモンスター全てが何処にいるか把握できる程……

 

そんな謎だらけのアリスはしばらく考えた後に目星の付いた方向へと歩き出そうとするも、すぐに銀時の方へ振り返って

 

「お前も来なさい」

「は? いやいいって俺は、二人だけでボス挑んでも死ぬだけだろ。俺はここで相方待ってるから死ぬんならお前一人で死んでくれ」

「口答えは許可してません、いいから私について来ればいいんです」

「ちょ! お前!」

 

いきなり上から目線な物言いで、強引に銀時の手を取って無理矢理同行させるアリス。

 

これには銀時も呆気に取られてしまう。

 

「もしもし! 俺は行かないっつったんだけど聞こえてなかった!? どうして俺がお前みたいな胡散臭い奴とボス戦やらなきゃいけないのか簡潔に述べてくれません!?」

「……坂田銀時、私はお前を知らない筈なのですが、何故か知っているような気がするのです」

「いや知らないのに知ってる気がするって……お前ホントに頭大丈夫か? なんかだんだん怖くなってきたんだけど」

「故に私は決めました」

 

自分の手を決して離そうとしないアリス、一体どうして自分をここまで連れて行きたがるのかと不思議に思っていると

 

前だけ向いて歩いていた彼女がやっとこちらに振り返った。

 

「お前と同じ時間を共有すれば、やがて私の中にある記憶がお前を思い出すのではないかと」

「……なんか段々頭痛くなってきやがった……お前アレか? 電波系って奴か?」

「少なくともここのボスを倒すまでは私から離れる事は決して許しません、お前が逃げようとしても無駄です、絶対に私の手から離しはしませんから」

「……はぁ~」

 

ジッとこちらを見つめて来る彼女の鋭い碧眼を覗き込みながら銀時は深いため息を突いた。

 

ここで本気を出せば彼女の手を振り払って強引に逃げ切る事も出来るかもしれないが

 

なぜ彼女が現実世界の自分が持っていた得物を所持している事も気になってはいるのは確かだ。

 

それに何より、記憶にある筈の自分の事を思い出したいという彼女の言葉にも引っかかる。

 

「仕方ねぇ……危なくなったらお前だけ置いて逃げるからな俺は」

「逃げませんよ、お前はそういう男です」

「お前に俺の何がわかんの?」

「わかりませんよ、けどわかるんです」

「……」

 

もうツッコむのもめんどくさい……そんな感じで銀時は黙って彼女に付き合ってやる事にした。

 

どことなく彼女が気になってもいるし、銀時はアリスと共にボスへ挑む事を決める。

 

「ところでいい加減手ぇ離してくれない? もう逃げようとか思ってねぇから」

「駄目です、この手は絶対に離しません」

「嬉しいと思うべきかめんどくせぇと思うべきか難しい所だな……」

 

隣に立って一緒に歩いているというのに、以前アリスは手を離さないまま銀時の手を強く握っている。

 

これにはちょっと前に自分と手を繋ぐことを嫌がっていたキリトの気持ちがほんの少しわかったような気がした。

 

 

 

 

謎の少女アリス、果たして彼女は何者なのであろうか……

 

 

 

 

 

 

 




次回、謎の少女アリスに導かれた銀時は意外な人物に会います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。