竿魂   作:カイバーマン。

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明日菜はぶっちゃけ和人より設定が細かく出来てます、彼女と真撰組のエピソードに話数を割くとスピンオフが1本出来上がるぐらいに

そうなると必然的に銀さん達の出番が減ってしまうので、舞台を広げる為の序盤の内は彼女達の話は極力書きたくなかったというのが本音です。



第三十五層 忘れられない思い出と忘れたい思い出

結城明日奈は今よりずっと幼い頃

 

短い間だけ江戸から離れて田舎の武州にいた事がある。

 

彼女が幼少の頃、攘夷戦争によって多くの幕府に連なる者が攘夷志士に暗殺される事件が多発し

 

身内にも被害が及ぶ可能性があると思った明日菜の父は、我が子だけでもと妻の甥である男に戦争が一段落するまで預かって欲しいと頼み込んだのだ。

 

バラガキと呼ばれたその男に

 

 

 

 

明日菜が武州に疎開して数週間経った頃

 

今日もまた夕日が照らす道をぐずりながら歩いていた。

 

「うう……ぐす……」

「ったく毎度毎度あのガキに泣かされやがって……」

 

今よりずっと小さくそして幼い彼女の前を歩くのは、長い黒髪を一つに結った目つきの鋭い男。

 

近寄りがたいその雰囲気を持つ男に、何故か明日菜は懐いていた。

 

「テメェがそうしてピーピー泣くからつけ上がるんだよ、ちっとは反撃しろ」

「ぐすん……だって私女の子だもん……」

「女も男もオカマも関係あるか、次アイツに虐められたら顎にアッパー食らわせろ、もしくは懐に入ってボディブロー決めちまえ」

「無理だよそんなボクサーみたいな真似……」

 

男は子供が嫌いだった、特にこんな小さな女の子などどう相手すればいいかわからない。

 

彼女の兄の方は素直だし男というのもあって扱い方はわかるが、自分の後をこうして泣きながらついて来る明日菜には基本的に突き飛ばすような感じで接している。

 

そのまま男は後ろで泣いている彼女を無視してそのままスタスタと歩いていると、後ろから「おーい!」とこちらを呼ぶ声が飛んで来た。

 

「お前達こっちにいたのか! 探したぞ全く!」

「近藤さん!」

 

手を振ってやって来た大柄の男性に明日菜が即座に振り返り、男もめんどくさそうに彼の方へ振り向く。

 

近藤勲、男が通っている道場の跡取り息子で何かと自分達の世話を焼いて来るお人好し

 

一緒に疎開している明日菜の兄は男の方も強く信頼しているが、どちらかというとこの近藤の方を非常に尊敬しているらしい。

 

そんな彼に男はフンと鼻を鳴らしながらそっぽを向き

 

「別にこっちは探される覚えはねぇよ、このガキがうるせぇから山に捨てる所だ」

「ええ!?」

「おいおいそういうのは冗談でもこの年の子供は真に受けちまうんだぞ、心配するな明日菜ちゃん、コイツは見た目も中身もふてぶてしいがそんな真似するような男じゃねぇよ」

 

山に捨てると聞いてまた明日菜が泣きそうになるが、すぐに近藤がしゃがみ込んで安心させるように大きな手で頭を撫でてあげる。

 

「総悟の奴には俺が一発ゲンコツ食らわして説教してやったから大丈夫だぞ、なんでも明日菜ちゃんがアイツの姉のミツバ殿と一緒に庭で遊んでいたのが気に食わなかったらしい」

「ケッ、ガキ同士の喧嘩は理由もガキだな。山に捨てるのはやっぱあのガキにしとくべきか?」

「まあそう言うなよ、アイツも姉ちゃんを奪われるかもと思ってついムキになっちまったんだろうさ」

「果たして姉ちゃんだけかねぇ……」

 

ぐずる明日菜を慰めながら頭を撫でてあげている近藤を見下ろしながら男がボソリと呟いていると

 

近藤は明日菜の小さな両肩に優しく手を置く。

 

「明日菜ちゃん、困った時や泣きたい時にはいつも俺やコイツ、ミツバ殿を頼ればいい。大人がすぐに助けてくれるってのはガキにしか出来ねぇ特権だ。無理に一人で抱え込まずに全部吐き出しちまえば良いんだよ俺達に」

「……うん」

「ここにいる間は俺達がお前達兄妹の家族だ、家族同士で遠慮なんざいらねぇ、思う存分この近藤勲に頼ってくれよ!」

 

コクリと頷く明日菜に近藤は満足げに二カッと笑い、その笑顔を見て思わず明日菜もやっと小さく微笑んだ。

 

 

 

これは結城明日奈が武州にいた頃の大切な思い出の一つである。

 

 

 

 

 

 

そして

 

「助けて明日菜ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「……」

 

あれから十数年後

 

あの時は困った時はすぐに自分を頼ってくれと豪語していた近藤勲は

 

現在、志村邸の庭に生えていた木に逆さ吊りにされ、衣服を剥ぎ取られ真っ白な褌一丁の状態で、泣きながらこちらに助けを求めていた。

 

その醜態を、唖然として言葉も出ずにただ廊下に腰掛けて見つめていたのは、あの時よりもずっと成長してより女らしくなった結城明日奈である。

 

 

「どういう事近藤さん……お妙さんのストーカーってもしかして近藤さんだったの?」

「違う違うそれは誤解だ! 俺は決してお妙さんのストーカーじゃないんだ!」

 

吊るされたまま身体を左右に振りながら叫ぶと、近藤は誤解を解く為に慌てて彼女に話しかける。

 

「俺は常日頃からお妙さんに陰湿な輩が近づかない様警備をしていたんだ! 真撰組局長として! そして何より愛するお妙さんを想って!」

「近藤さん、そういう事するのがストーカーと呼ぶのよ、陰湿な輩はあなた自身なのよ」

「断じてストーカーではありません! 強いて言うならハンターです! 恋の!」

「あ、ダメだこの人もう手遅れだ……」

 

逆さになったままキランと歯を輝かせてドヤ顔を浮かべる近藤に、明日菜は頭を手で抑えながらため息を突く。

 

「そう言えばここ最近近藤さんがよくいなくなるってアイツ(沖田)から聞いていたけど……まさかお妙さんの家に忍び込んでいたなんて……」

「アスナはこのふんどしゴリラと知り合いなの?」

「え?」

 

すると隣に座って一緒にもがく近藤を普通に眺めていたユウキが不意に彼女に話しかける。

 

「なんかちゃん付けで呼ばれてるし、アスナも知ってる感じだからそう思ったんだけど」

「え、ええ一応そうなんだけど……子供の頃この人の道場によく遊び行ってて凄く面倒見て貰ってたの……けど何故かしら、今となっては無性に忘れたい……」

「幻滅しないで明日菜ちゃん! 俺はいつだってあの頃の俺さ! 困った時はすぐに俺を頼っていいから! けどその前にまず俺を助けてお願いだから!!!」

「助けて欲しいってよアスナ」

「「いやだ」って言っておいて……はぁ~何やってるのかしらこの人……」

 

またもや涙目で懇願してくる近藤に、明日菜が幻滅を通り越してこっちが泣きたいわと項垂れていると

 

「おーいちゃんと逃げない様見張っていたかテメェ等」

 

先程近藤をこの木に吊るした張本人である坂田銀時が

 

スーパーの袋を持ったお供の桐ケ谷和人を連れてまたこっちに戻って来た。

 

肩に何本かよく燃えそうな薪を担いで

 

彼等がやって来るとすぐにユウキが振り返ってムスッとした表情

 

「見張りぐらい出来るよ! それよりボク等をここに置き去りにして二人でなにやってたのさ!」

「ちょっくら買い出しに行ってたんだよ、ゴリラ一頭丸ごと焼き尽くすのに必要な薪を揃えて来たんだ」

「俺はその時ついでに焼いておこうと思ってサツマイモ買って来た」

「焼き芋かーいいなー」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なにのほほんとした空気醸し出しながら末恐ろしい事実行しようとしてんだテメェ等! 会話の中にサラリとゴリラ焼こうとしてんじゃん! 俺ゴリラじゃないけど!!」

 

彼等の会話を聞いてコレは確実に焼かれるとすぐに察した近藤は、身体をくねらせながら必死に抵抗する姿勢を見せた。

 

「明日菜ちゃん本当に助けて! このままだと俺焼かれちゃうよ! サツマイモのついでにこんがり焼かれてコイツ等に食われちゃうよ!」

「誰がテメェみたいな汚ねぇゴリラ食うか、てかもしかしてお前等知り合いなの?」

 

明日菜に助けを求める近藤を見て、銀時はふと彼女の方へと振り返ってこの男と知り合いなのではと尋ねるが

 

素っ気ない表情で彼女は近藤から目を背けて冷たく一言。

 

「いいえ知りませんそんなゴリラ」

「明日菜ちゃぁぁぁぁぁぁん!!! 武州で同じ釜の飯を食った仲じゃないか! お願いだからコイツ等に止めてくれって言ってくれよ!!」

「人違いじゃないですか?」

「えぇぇぇぇぇぇ!? ならば仕方ない、明日菜ちゃんの為に俺は心を鬼にして……あれはまだ君が武州にいた頃……」

 

あくまでシラを切る態度に出た明日菜に、近藤は目を瞑りながら遠い昔を思い出すように

 

「夜中、総悟の怪談話を聞いた明日菜ちゃんはあまりの怖さに厠に行く事も出来ず……次の朝、彼女の布団にはこれはこれは見事なアメリカ合衆国が……」

「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

周りに人がいる中で、思い出しただけでも無性に頭を掻き毟りたくなるような自分のこっ恥ずかしい出来事を淡々と語り出そうとする近藤に悲鳴のような声を上げながら立ち上がる明日菜。

 

その反応を見て和人は「ああ~」と察してニヤリと笑い

 

「なにお前、布団の中でアメリカ建国してたの? そりゃ中々出来ないぞ立派だな。新八だって精々ネパールぐらいしか作れなかったのに」

「それ以上そのニヤケ面をこっちに向けて来るなら……アンタも燃やすわよ……!」

 

弱みを握ったと嬉しそうにしている和人に明日菜は本気の殺意を持って睨み付けていると

 

隣で座っているユウキがまあまあとなだめる。

 

「ボクは気にしてないよアスナ、姉ちゃんなんか昔、カナダ建国してたし」

「え、アイツがカナダ建ててたの? 俺はアイツにお前がカナダ建てたって昔聞いたんだけど?」

「違うよ姉ちゃんだよ! 騙されないで!」

「つうかカナダってどんな風に漏らせば出来んの?」

 

慌ててそれは姉の狂言だと叫ぶユウキに銀時は別の事で疑問を抱いていると

 

「あら戻って来たらみんなで世界地図の勉強でもしてるのかしら?」

「あ、お妙さん」

「お妙さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! いい加減降ろしてくれませんかね!? なんか頭に血が昇り過ぎて意識がボーっとして来たんですけど!」

「そのまま頭から血が吹き出るぐらい吊られてなさい」

 

彼等の下へ志村妙がいつもの様にニコニコしながら現れた、隣には明日菜の友人の神楽もいる

 

「大丈夫アルよアスナ姐、私はアスナ姐が布団に壮大な国を作っていようが全然気にしないネ」

「掘り返さないで! お願いだからそのまま土に埋めて私の過去は!」

「そういや明日菜ちゃん、あの時も証拠を隠滅しようと必死に穴を掘っていた様な……」

「早くこの人燃やしましょうお妙さん」

「いやいやいやいやいや! 燃やさないで! 埋めていた過去を掘り返した事は謝るから! アメリカなだけにアイムソーリー!!」

「ライター貸してください」

「明日菜ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

お妙に何か燃やす為の道具がないかと、自ら燃やそうとする明日菜に近藤がこれで何度目かと思うぐらいの絶叫を上げていると、お妙はニコニコ笑ったまま

 

「その事なんだけどやっぱり燃やすのは止めておこうと思ったの、だって煙なんて立ったらご近所にも迷惑だし、何より焼けた死体の匂いが充満して家に付いちゃうかもしれないじゃない」

「嬉しいんだけど怖いですお妙さん! 俺が死ぬ事云々よりもご近所と匂いの方が気になっちゃうんですか!?」

「だから後始末の方法を変えてみたのよ、すみませーん、こっちでーす」

「へーい」

 

嘆き悲しむ近藤をスルーしてお妙は後ろに振り返って声を掛ける。

 

すると

 

「で? 斬って欲しい奴ってのは何処のどいつでぃ?」

「そこに吊るされている野ゴリラです」

「げ! お妙さんなんでそいつを!」

「総悟ぉ! そうか俺を助けるために来てくれたのかぁ! あれ? でもなんで刀抜こうとしてんの?」

 

何故か志村邸の前でパトカーを停めて昼寝決め込んでいた沖田総悟が腰の刀に手を置きながらフラッとやって来た。

 

いきなり現れた彼に明日菜が面食らってる中、必死にこちらに助けを求める近藤の方へと歩み寄って、沖田は軽くしゃがんでしげしげと眺めはじめる。

 

「野ゴリラかぁ、流石にゴリラ斬るのは初めてだな、あれ? なんか近藤さんに似てるなこのゴリラ、まあいいか、んじゃ股から一気に頭の先まで両断する感じで」

「オイィィィィィィィィ!! なに普通にえげつない斬り方しようとしてんだ!! 大将だよ大将! 君が働いてる所の大将の近藤局長だよ!?」

「あり? なんだやっぱ近藤さんでしたかぃ」

 

サラっと恐ろしい斬り方を試みようとしていた沖田を近藤が慌てて叫んで自分こそがお前達の大将だと叫ぶと

 

やっと気付いた様子で沖田は刀から一旦手を離す。

 

「どういう訳でそんな恰好になってるんですかね? 俺はここの家主にストーカー捕まえたから斬ってくれって頼まれたんですが、ひょっとしてそのストーカーって近藤さん?」

「違うお妙さんは誤解しているんだ! 何故なら俺はストーカーではなく恋の……」

「あり? もしかしてそこにいるの旦那じゃないですか? いやー奇遇ですねー」

「聞けやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

会話の途中でふと銀時達に気付いた沖田は近藤の事も忘れて彼に向かって挨拶。

 

こうして現実世界で顔を合わせるのは初めてである。

 

「ゲームの世界でコイツのお目付け役してたソウゴでさぁ、ちゃんと覚えてます旦那?」

「ソウゴ? ああ、あの妙にSッ気の強い奴か、なにお前警官だったの? てっきり人斬りの浪人だと思ってた」

「警官も人斬りもなんら変わりやせんよ、そこにいる二人のガキは向こうの世界でも一緒にいた奴ですかぃ?」

「ああそうそう、色々あって今コイツ等養ってんだよ俺」

 

ゲームの世界と何ら変わらない顔付きだったので銀時はすぐに分かった様子で頷くと、早速沖田と世間話を始める。

 

「あ、そういや神器の素材を扱える鍛冶屋には会えやしたかい?」

「それがまだなんだよなー全然見当たらねぇんだよホント、けど最近三十層で新しい武器と防具を買い揃えたぞ、地球防衛軍基地とかそんなん前の店で」

「へぇ俺もあそこたまに顔出すんですよ、あそこはGGO型でも扱える近接武器が売ってるんで、今度一緒に行きやせんか? 面白れぇアイテム売ってるんですよあそこ」

「総悟ぉ!? なにのほほんと普通にゲームの話始めちゃってるの!? おたくの大将を見て! 裸にされて逆さ吊りにされてんだよ!? 部下としてここは激昂するべきイベントだよ! 俺達の大将をこんな目に遭わせて許さん!って戦闘画面に映る筈だよ!」

 

自分そっちのけで銀時とゲーム談議に花を咲かしている沖田に近藤が傍でわめいていると、彼の代わりにお妙が沖田に声を掛け

 

「すみませーん、さっきからこのゴリラ逆さの状態で叫んでて苦しそうなので、いっそ楽にさし上げて下さーい」

「へーい」

「総悟ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

お妙に言われて沖田は振り返ると、スッと躊躇もせずに腰の刀を抜こうとする。

 

澄ました目で容赦なく自分の所の大将を斬ろうとする沖田に雄叫びを上げると、近藤は最後の綱として明日菜の方へ

 

「明日菜ちゃんこの敵だらけの地帯で君だけが唯一俺の味方である筈だ! お願いだから総悟を止めてくれ!」

「私の恥ずかしい話を暴露しておいて、私が近藤さんの味方でいてくれるという根拠を知りたいです」

 

冷たく静かに睨み付けて来る明日菜に対して近藤はフッと笑うと

 

「なんだまだ布団にアメリカ建国した事を気にしてるのか? 気にするな明日菜ちゃん、誰だってみんなそういう事やらかして成長していくもんなんだよ、俺だってガキの頃はよく布団に地球を創星してたもんだ」

「だからそれを止めて下さいって言ってるの! ていうか創星ってなんですか!? どんだけ出せば創れるんですか地球!? それもう完全に体ミイラになりますよね!?」

「アメリカ?」

 

明日菜が一喝しながらすぐに近藤を黙らせようとしていると、二人の会話が耳に入った沖田は小首を傾げた後

 

「あー昔、姫様がクソチビの時に布団に盛大に漏らした奴か」

「言うなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「でもアレってアホ面かまして寝てた姫様の布団の上にバケツ一杯分の水ぶっかけただけなんだけどな」

「だから言わ……え?」

 

なんか今凄く気になる事をサラッと言わなかったか?

 

怪訝な表情を向けて来た明日菜に沖田はシレッと自分を指差して

 

 

 

 

 

「姫様が漏らしたと思い込んで泣き喚く様を見る為に、俺がやりやした」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「いやーまあガキの頃のしょうもないイタズラという事で、器の広い姫様なら当然許してくれやすよね?」

「許す訳ないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

後頭部手を置きながら全く悪びれていないのがハッキリと見て取れる沖田に

 

あの時のショックな出来事がが全てコイツのせいだとわかった途端、明日菜の中でプツンと切れる音が聞こえた。

 

「神楽ちゃん戦闘モード! コイツを徹底的に叩きのめしてやりなさい!!」

「おうよ! コイツをボコボコに出来るのをずっと待ってたアル!!」

「私がどんだけあの事件を引きずってたと思ってるのよ! 今更はいそうですかって許せるもんですか!!」

 

すぐに近くにいた神楽に命令して、沖田に指を突き付けながら激昂する明日菜。

 

するとすぐに沖田は回れ右して仏頂面のままその場を逃げ去ろうとするが

 

「待ちなさいよコラァ! 神楽ちゃん思う存分にやっちゃいなさい!」

「逃げんなサド野郎! アスナ姐の抹殺指令が出た時点でテメェはもう私に殺される運命なんだよぉ!」

「テメェ等なんかに俺を殺れる訳ねぇだろうぃ」

 

志村邸の広い庭で突然鬼ごっこを始めた沖田と明日菜、そして神楽。

 

そんな光景を唖然としていた表情で見ていた近藤は、ふと自分の傍でパチパチと薪が焼かれている音と何やら香ばしい匂いを感じる。

 

「ってあれ? なんかめっちゃ煙いんですけど! しかもなんか香ばしい匂いが!」

「おい和人君、自分の分だけじゃなくて他の奴等の分も焼いておこうとかちっとは考えろよ」

「焼き芋ぐらいでネチネチ言うなよ、どうせ俺が焼いても「お前の方が大きいからそっち寄越せ」とか言うクセに」

 

そう言いながら薪を燃やしてアルミホイルに包まれた芋を串に刺して突っ込む和人に

 

銀時も負けじと真似をして芋を焼き始める。

 

「焼き芋ってのは焼き加減が大事なんだよ、うっかり焦がし過ぎると中身までダメになっちまう。タイミングだ、タイミングを読んで焼け、今からお前はニュータイプになるんだ」

「いやなれねぇよ」

「ユウキちゃんはお芋いるのかしら?」

「ううん、ボク食べれないからお構いなく」

 

お妙もいつの間にか加わってユウキと会話しながら焼き芋を作り始める。

 

しかしその反動で、傍で逆さ吊りにされていた近藤はかなりの手痛い被害を被っていた。

 

「お、お妙さん煙が目にしみるんですけど! これ結構キツいんですけど! 煙いし焼き芋の匂いで腹も減るしで中々の拷問なんですけど!」

「あらそうなの、どうでもいいわね」

「お妙さん!? うちわでこっちに向かって煽がないで! 死ぬ死ぬ! 風に流されてきた煙で息が出来なくて死ぬぅぅぅぅぅぅ!!」

 

焼死させるなり斬り殺すよりもこうしてジワジワと嬲っていく方が反省させるには好都合だと考えたのか

 

泣きながら懇願する近藤にお妙はパタパタと取り出したうちわで煽いであげる。

 

後はこれに懲りて近藤がお妙へのストーカー行為を大人しく諦めるかどうかであった。

 

そして

 

「待ちなさいつってんでしょうが!」

「逃げんなゴラァ!」

「嫌でぃ」

 

銀時達が拷問兼焼き芋作りに精を出している中

 

彼女達の鬼ごっこは一向に終わる気配が無かった。

 

 

 

 

 

その頃、志村邸の前には

 

沖田が運転して来たのとは違うパトカーが停まっていた。

 

「この辺に局長と沖田隊長がいたと聞いて来てみれば……」

 

入口から双眼鏡を使ってコソコソと内部を見ているのは真撰組の密偵・山崎退。

 

どうやら仕事業務中なのに行方知らずになった二人を探してここまで来たらしい。

 

彼の双眼鏡の先では、沖田が明日菜や神楽に追われて、近藤は民間人にキツイ拷問を受けている。

 

とても世間には公に出来ない姿を眺めた後、山崎は双眼鏡からゆっくりと顔を離して後ろに振り返る。

 

「……どうします副長?」

「はぁ~……ほっとけ」

 

そこにはパトカーの助手席で座りながら、窓を開けてタバコの煙をプカプカと浮かせる男がいた。

 

「連絡が取れねぇと思ってたらこんな所でサボってやがったのか、戻って来たらあの二人士道不覚悟で切腹だ」

「副長、それマジで言ってる訳じゃないですよね……」

「俺はいつだって大マジだよ」

 

頬を引きつらせながら尋ねて来る山崎に男はバッサリと答えながら

 

タバコを片手に持ったままフゥ~とまたふてぶてしく煙を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ等あの頃からなんにも変わってねぇ、つくづく呆れるぜ全く」

 

 

 

 

 

 




何気にここで真撰組のメインメンバーが勢揃いしてます。でもまだ副長がメインの話は先になりそうですね……

次回は森のダンジョン内を彷徨っていた銀時が『彼女』と2度目の顔合わせ

けれども全く会話が噛み合わない上に一方的に話を進めてしまう彼女に銀時も振り回されて大混乱。

一体彼女の正体とは……

それでは


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