竿魂   作:カイバーマン。

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この世界の明日菜は実家暮らしではありません

江戸にある超高級マンションで神楽と二人暮らしです。


第三十四層 親方、天井裏からゴリラが!

ある昼の平日、結城明日菜は神楽と共にある場所に赴いていた。

 

かぶき町に初めて行った時に良い意味でも悪い意味でもお世話になった志村妙と連絡を交換していたので

 

つい先日、そんな彼女からウチに遊びに来ないかと誘われたのである。

 

明日菜は二つ返事で承諾して、彼女の暇が空いてる日程に合わせてこうしてやって来たのだ

 

真撰組の使うパトカーに乗せられながら

 

「……いやなんでパトカーで送迎されなきゃいけないの?」

「そりゃあ姫様決まってるでしょうよ」

 

後部座席に座った状態で明日菜は納得していない様子でジト目になっていると

 

パンを咥えながら運転している甘いマスクの男、真撰組一番隊隊長・沖田総悟がバックミラーで彼女の不機嫌そうな顔をチラ見しながら答えた。

 

「ここん所最近物騒なんでね、おいそれと名家のお嬢様をフラフラ外出させるのも何かと護衛が入り用みたいなんでさ。そんで俺が激務の中少ない時間を割いてわざわざ姫様の為に運転手を務めてやってるんですぜ」

「護衛なんかいらないわよ、神楽ちゃんがいるし」

「そうだヨ、私がいれば誰が来ても明日菜姐を護ってあげるアル」

 

明日菜が隣に振り向くとそこには酢こんぶを3枚一気に口に咥えた状態で得意げの神楽が座っている。

 

「お役目ゴメンの税金泥棒はとっとと私達の前から消え失せろヨロシ」

「そうは行かねぇぜチャイナ娘、俺は護衛役と同時に護衛対象が危ねぇ遊び場に行かねぇか見張っておくお目付け役も兼ねてんだ」

 

強引に狭い曲がり角をカーブしながら、沖田はこちらに不敵な笑みを浮かべながら振り返って来る。

 

「俺達が気付いてねぇとでも思ったか? こちとらテメェ等がかぶき町とかいう色町に遊びに行ってた事ぐらいお見通しなんだよ」

「な! 私は遊びに行ったんじゃないわよ! 仕事上の調査で出向いてたのよ!」

「おめぇいつからそんな仕事する様になったんでぃ、平日だろうが休日だろうが年中遊ぼ呆けてるクセに」

「う……」

 

まさかそこまで話が彼等の耳に入ってたとは……

その上、かなり痛い所を突かれてぐうの音も出ない

 

こうなってはもう言い逃れは出来ない。明日菜は悔しそうにプイッと彼から目を背ける。

 

「いいからちゃんと前向いて運転しなさいよ、きゃ!」

「その必要はねぇ、今さっき着いた所ですぜ姫様」

 

いきなり急ブレーキを掛けて車を急停止させるので、思わず短い悲鳴を上げる明日菜

 

車が止めた先には確かに大きな屋敷の前の門前だった。

 

「んじゃ、俺はここでしばらく待機してるんで。姫様は社会人が日々労働に精を出しているこの平日の昼間から、一般人の俺達を見下しながら堂々とお遊びくだせぇ」

「引っ掛かる言い方ね……」

「明日菜姐、こんな奴ほっといてさっさと行こうアル。アネゴきっと待ちくたびれてるネ」

「そうね、護衛だのお目付け役だの言っておきながら、結局はここでサボる気満々だった暇な警察官なんてほっときましょう」

 

後部座席のドアを開けて屋敷の前に降りて、運転席で安眠マスクを装着して熟睡モードに入ろうとする沖田を一瞥した後

 

明日菜は神楽と共に意気揚々と門を潜って中へと入って行った。

 

「アネゴはこんなデカい屋敷で一人で住んでるアルか?」

「流石に違うと思うわよ、前に弟とか妹がいるとか言ってたし」

 

広い庭を見渡しながら「実家にある私の私有スペースと同じぐらいかしら?」とか呟きながら明日菜は屋敷の前に立ってチャイムを鳴らしてみる。

 

するとすぐに

 

「はいはい今出ますよー」

 

とお妙ではなくけだるそうな少年のような声が戸の向こうから聞こえて来た。

 

そして明日菜はあぁやっぱり弟と一緒に住んでるんだなと思いつつ

 

その後すぐにあれ? なんか今のけだるそうで妙に腹立たしい声、どっかで聞いた様な……と感じていると

 

自分達の前にある戸が乱暴にガララと開いた。

 

「新聞なら間に合ってるんで、ここの屋敷って見てくれは立派だけど家主は貧乏で金無いから」

 

関口一番にぶっきらぼうに話しかけて来た黒髪の少年は

 

前に見た時のオカマの恰好ではなく、やたらと黒を強調した服装に様変わりしていた。

 

桐ケ谷和人、明日菜とは色々と因縁が深い間柄の男である。

 

明日菜が彼に気付きかつ、いきなり現れたことに言葉を失っていると、和人も「ん?」と気付いたのか彼女の顔を呆然と見つめた後

 

「はい、今ここの人は誰も居ませーん、残念ですがお帰りくださーい」

「ってなに閉めてんのよ! 開けなさい!」

 

目の前でピシャリと閉めて門前払いして来たではないか。

 

明日菜もムキになってその戸を両手で開けようとするも、向こうも押さえつけているのか簡単には開かない。

 

ならばと明日菜はすぐに後ろに振り返り

 

「神楽ちゃんGO!」

「ウィース!」

「は!? おい待てお前等! まさか人ん家の戸を壊すつもりじゃ……!」

 

戸の外側から彼女達の声が聞こえたのか、和人は慌ててバッと戸を勢いよく開いて。

 

「ふざけんな! そんな事されたら俺達が怒られるんだよ! お前等お得意の暴力的解決は仮想世界だけでや……」

「ほわちゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「どるふぃん!!」

 

和人が戸を開けると同時に神楽の飛び蹴りが彼の顔面に直撃

 

夜兎の一撃を食らった彼はそのまま長い廊下を吹っ飛び壁に叩き付けられてしまう。

 

「開いたアルよ明日菜姐」

「よくやったわ神楽ちゃん、最初から素直に開けなさいよね全く」

 

神楽に言った「よくやった」とは戸を開けた事ではなく和人に一撃を食らわせた事に対する賞賛だ。

 

開いた戸を潜って早速二人は玄関へと上がると

 

廊下で倒れている和人を無視して着物を着た女性が足早々にやって来た。

 

「いらっしゃい二人共」

 

二人をここに呼んだ当人、志村妙である。

 

「早速中へ入って、居間に案内するわね」

「はい、お邪魔します」

「お邪魔しまーす!」

 

相も変わらず微笑みを崩さないお妙に明日菜は頷いて靴を脱いで上がり、神楽もまた後に続く。

 

(それにしてもここ、なんだか懐かしい匂いがするわね……ああ、武州にいた頃の)

 

そんな事を思いながら明日菜は先導するお妙についていくと

 

ふと曲がり角の所でまだノビている和人の近くを通りかかった

 

「あ、思ったより神楽ちゃんのキックが強すぎたのかしら……そういえばなんでこの人いるんですか?」

「ああ気にしないで、ちょっと仕事して貰ってるだけだから」

「仕事?」

「まあここで話すのもなんだから、”それ”はそのままにしていいからこっちいらっしゃい」

「え!? いいんですかこのままで!? 実はこの人がノビてるの私達のせいなんですけど!?」

 

流石にやり過ぎたかと明日菜が心配そうに和人を見下ろすのも束の間、お妙はそんなのほっとけと言った感じで居間の方へと歩き出す。

 

明日菜は少し躊躇しつつも、倒れている和人の後襟をひっ掴んで

 

「あ~もう仕方ないわね……」

 

そう言ってズルズルと気絶した和人を引っ張りながらお妙を追う明日菜であった。

 

 

 

 

 

お妙に招かれて明日菜と神楽は居間へとやって来た。

 

倒れた和人は畳の上で放置しつつ、明日菜はふとテーブルの上にある皿の上に置かれている者をまじまじと見つめる。

 

幸いな事にそこに置かれていたのは普通の市販で売られている茶菓子だ。

 

「良かった、流石に二度も食べる気力はもう私には残ってないわ……」

「ごめんなさいねぇ、その場しのぎみたいなお菓子しか出せなくて、本当は得意の卵焼きでも作ろうとしたんだけど、随分前に出かけた弟が朝食に冷蔵庫の卵使っちゃって切らしちゃったのよ」

「弟さんありがとう……あなたは命の恩人よ……」

 

目の前にはいないお妙の弟に小声で感謝しつつ、明日菜はホッと胸を撫で下ろしていると

 

「お茶淹れてくるわね、ゆっくりしていて頂戴」

「あ、はいありがとうございます」

 

居間から出て行くお妙を見送って、素直に言う事を聞いて明日菜は神楽と共に敷かれた座布団の上に正座していると。

 

突然廊下をドタドタと駆ける足音が

 

「チクショウ逃げやがった! あの野郎そう何度も俺から逃げ切れると思うなよゴリラ!!」

「うわ!」

 

いきなり廊下から居間にやってきたのは

 

腰に木刀を差した銀髪天然パーマの侍、坂田銀時であった。

 

和人と同様、オカマではない彼がいきなり間近で現れたことに明日菜が驚いていると、隣に座っていた神楽がすかさず立ち上がり指を突き付けて叫ぶ。

 

「テメェ天パ! アネゴの家でなにしてんだコラァ!」

「あ? なんでお前等がここにいんだよ、って今はそんな場合じゃなかった。チッ、あの軟弱小僧はどこ行きやがった、せっかく挟み撃ちするチャンスだってのに……」

「その軟弱小僧ならここにいるわよ」

「ん?」

 

舌打ちしながらキョロキョロと見渡している銀時に、明日菜は真顔で自分の横で寝ている和人を指差す。

 

銀時はそれに気付くとやれやれ困ったもんだと言った感じでフッと笑った後

 

「なにサボってシエスタ決め込んでんだコラ! とっとと起きて仕事しろ! 働けニート!」

「おふぅ!」

「え、ちょっと!」

 

間髪入れずに和人の腹に蹴りをかまして、そのショックで我に返ったのか、驚く明日菜を尻目に和人はゆっくりと両目を開ける。

 

「な、なんだ……顔と腹から猛烈な痛みがあるんだが、一体俺の身に何が……」

「いいからさっさと行くぞ、いよいよゴリラを捕まえるチャンスだ、俺とお前で挟み撃ちにしてやる」

 

ヨロヨロと起き上がりながら自分の身に何が起きたのか記憶が飛んでいる様子の和人

 

そんな彼に悪びれもせずに銀時が命令していると、また廊下を掛ける足音が

 

「銀時! あのゴリラ厨房の冷蔵庫漁って勝手にバナナ食べてたよ! もしかしたらもうお腹空いて限界なのかも!」

「んだとあのゴリラ! 俺達が追いかけまくって奪った体力をバナナで回復させる気か! やらせるか! 下のバナナもぎ取って体力どころか男としての尊厳も奪ってやる!」

 

突然現れたな長い髪をなびかせる着物を着た少女を見て明日菜はハッと気付く。

 

仮想世界で銀時や和人と共に行動している紅一点、ユウキだ。

 

「じゃあ早速、ボクと銀時とキリトの三人の連携で完全に仕留めよう!」

「よし! じゃあお前は動くな!」

「なんでさ!? 今の流れでなんでさ!?」

 

ノリノリで銀時達の追いかけっこに参加しようとするユウキ、だが銀時は一足早く行こうとする彼女の両肩を両手で掴み上げて

 

「おいそこのブルジョワ娘! コイツがそこで動かないよう見張っておけ!」

「え、私!?」

「ちょちょちょ! 銀時それはないんじゃないの!? ゴリラを捕まえるぐらい手伝っていいじゃん!」

「バカ野郎ゴリラを甘く見るな!アイツはケツから出したウンコを直で手に取って投げつけて来る凶悪性を秘めているんだぞ!」

 

そう言ってユウキを座っている明日菜に押し付けて、銀時は復活した和人を連れて廊下を再び駆けて行く。

 

「待てゴリラこらぁ! テメェ捕まえねぇとこっちも報酬貰えねぇんだよ!」

「おい! やっぱ俺ちょっと痛いんだけど!? 絶対なんかあったよな! 絶対何かしらの衝撃を食らって気絶していたよな!」

「テメェの事なんざ知るか! とにかく今はゴリラに集中しろ! ゴリラの事だけを考えて己自身がゴリラなのだと思い込むぐらいゴリラと気持ちを一つにしろ!」

「絶対イヤだわ!」

 

ツッコむ和人を連れて銀時は嵐の様に消えてしまった。

 

呆然とする明日菜の隣では、ムスッとした表情で体育座りするユウキの姿が

 

「なんでこういつもボクだけ仲間外れにするのかなぁ……」

「……あなた、ユウキよね?」

「そうだけど何……ってアレ?」

 

明日菜が恐る恐る声を掛けるとユウキは不機嫌そうな表情で振り返り、一瞬で少し驚いたかのように目をぱちくりさせる。

 

「もしかして……アスナ?」

「そうそう、現実世界であなたと顔合わせるのは初めてだね」

「ってウソホントにアスナ!? まさかこっちの世界で顔合わせるなんて! もしかしてキリトのリアルを調べ上げて殴り込みに来たの!? 君ってそんなにキリトに執着してたんだ……」

「ち、違うわよ! あなた達と偶然近い所に住んでいたの! 今ここにいるのはこの家の人に誘われてお邪魔してるだけ!」

「そうなんだ、それにしてもリアルでもこうしてアスナと会う事になるとは思わなかったよ、ん? 君の隣に座っている女の子は?」

「私は神楽ネ、お前よくもあの時は私の定晴を奪って私から逃げ回ったアルな。まだ根に持ってんだぞコラ」

「んん? あの時ってもしかして……あ」

 

明日菜があの血盟騎士団のアスナだと知って驚くユウキに、神楽がジト目で文句を言ってやると、彼女の事もまたユウキはすぐに勘付く。

 

「もしかしてグラ? 銀時にやたらと口説かれてた?」

「そうよ、神楽ちゃんは向こうの世界ではちょっと大人なだけどこっちではこの通りまだ女の子なの」

「いずれは向こうの世界の私よりもナイスバディなボンッキュボンになる将来有望な美少女アル」

「はぁ~そうだったんだ、でもなんでだろう、あのグラの正体が君だった事にホッとしてるんだよねボク」

 

銀時がやたらと彼女にナンパみたいな真似をしていたので、結構ヒヤヒヤしていたのだが

 

彼女の正体が実はこんなあどけない小さな少女だったと知って、ユウキがフゥと一安心していると

 

明日菜は先程廊下を駆けて行った銀時達の事がふと気になっていた。

 

「そういえばユウキ、あの二人は一体この家で何をしているの? ゴリラを捕まえるとか言ってたけど?」

「ああ、お妙に依頼されてね、捕まえて徹底的にシメ上げて欲しいと言われたんだ、ストーカーを」

「ストーカー!?」

「どういう事ネ犬泥棒! まさかアネゴにゴリラのストーカーがついてるアルか!?」

「うん随分前から付き纏われてるんだってさ」

 

あっけらかんとした感じで答えるユウキに明日菜と神楽が驚いていると彼女は更に話を続ける。

 

「ほんとしつこくてさ、いっつもこの屋敷の内部に入り込んで来るんだってさ、だからそろそろ本腰入れて抹殺しようって事でボク等を呼んだって訳」

「……あなた達って殺し屋だったっけ?」

「アネゴに付き纏うストーカーなんて許せないアル!」

 

無垢な顔でサラリと恐ろしい事を言うユウキに明日菜が頬を引きつらせていると

 

神楽もやる気が出たのかとバンとテーブルを叩いた勢いで立ち上がる。

 

「連中だけじゃ確実に仕留められるか心配アル、私も手を貸してゴリラストーカーを抹殺してくるヨロシ」

「ま、待って神楽ちゃん! 抹殺はしなくていいから! 警察に突き出すだけでいいのよ!」

「うおぉぉぉぉぉ覚悟しやがれストーカー!!」

 

お妙に危機が迫っていると思った神楽は、怒りの矛先をストーカーに向けてそのまま廊下を突っ走って行く。

 

残された明日菜は不安そうにするも、程無くして心底嫌そうな表情で首を左右に振る。

 

「でも神楽ちゃんが凄く怒るのも当然ね、一方的な行為を押し付けてその上無断で家に侵入するぐらい付き纏うなんて、男以前に人として最低だわ」

「ホントそうだね、だからボクもストーカー退治に参加したいんだけど、銀時がそれを許してくれなくてさぁ」

「そういえばユウキにはすぐに動くなって言って私に強引に預けて来たわねあの人……」

 

先程の銀時とユウキの会話を思い出して明日菜は彼女の方へ振り向く。

 

「よほどあなたの事を大事にしてる証拠じゃないの?」

「とにかくボクに危ない真似させない様必死なんだよ、ボクだって万事屋の仕事ぐらいできるのに」

「……私と同じね」

「え?」

 

不満げにテーブルに頭を乗せながら呟くユウキに明日菜もまた彼女の気持ちを理解してるみたいに頷く。

 

「私も周りからお嬢様だのなんだの言われて何もさせてもらえないのよ、あっちの世界じゃ自由にできるのに、こっちの世界では何もかも制限されてホントに窮屈に感じるわ

「あぁそれボクと同じだ、ボクも向こうなら飛んだり跳ねたり出来るけど、こっちだと激しい運動はダメだとかですっかりマスコット扱いだよ」

 

「そうそう、それもこれも周りがいつまで経っても子ども扱いしてくるせいよ、私だってちゃんとやれるわよ、攘夷志士の調査ぐらい私だってやれるわよ」

 

「ボクだって万事屋の仕事ぐらい出来るよ、なのに銀時は何時まで経ってもボクを妹扱い、嫌になるよねー全く」

 

そんな風に互いに似たような愚痴を言い合っていると不思議な親近感が芽生えたのか明日菜とユウキはフフッと笑いが込み上げてしまう

 

「案外似た者同士なのかしらね、私達」

「そうかもねー、君は血盟騎士団でボクは攘夷プレイヤーの仲間だけど」

「あ、そうかそうだったわね……だけど私の敵はあくまで黒夜叉ただ一人だから、アレと仲良くするつもりはないけどあなたとならこうして普通にお喋りするのも悪くないわ」

「ハハハ、アスナはとことん嫌ってるんだねぇキリトの事」

「そりゃそうよ、あんな口の減らない小生意気な奴なんて、いずれぶった斬ってやるんだから」

 

しばらくそうして談笑をしながら二人仲良くやっていると、ふと天井裏からドンドンドン!と騒がしい音が

 

『おいそっち行ったぞ! 捕まえろ!』

『待て待て待て! 俺こんなガタイのいい人を拘束なんて出来ないぞ! 仮想世界ならともかく現実じゃ無理でぶふぅ!!」

『チッ! 軟弱なもやしっ子はこれだから! おいお前等! 行け! そこで仕留めろ!」

 

上の方から銀時と和人が騒いでいる声がする。和人は途中で呻き声をあげてやられてしまったみたいだが、銀時はまだ騒がしく走り回っている足音がした

 

「ストーカーが屋根裏に逃げ込んだらしいね、ホントしぶといなー」

「往生際が悪いわね、人として最低な真似して置いて、潔く腹を切ればいいのよ、あそうだ」

 

天井に向かって屋根裏で逃げ回っているのであろう正体不明のストーカーに悪態を突くと、明日菜はおもむろに懐から携帯を取り出す。

 

「そういえばこの家の前に警察がいたんだったわ、どうせ暇だろうし連絡して捕まえてもらいましょう」

「警察? なんでこの家の前で待機してんの?」

「私の護衛役なんですって、頭は空だけど剣の腕なら真撰組の随一って呼ばれてる男だから、ストーカーぐらいサクッと片付けてくれるわよ」

「……警察が護衛に付くってアスナって何モンなの?」

「いや私なんて普通よ、周りが大げさにしてるだけで、ただの江戸の中でもトップクラスのエリート階級に生まれた長女だから。ただの選ばれし勝ち組だから」

「さり気ないどころか堂々と自慢してくるね君、流石にボクもイラッと来たよ」

 

最新型の携帯を手の平で遊ばせながらサラッと自分が富民層だとアピールしてくる明日菜にユウキが真顔でツッコミを入れた。

 

「それに真撰組が捕まえればもう二度とそのストーカーはお妙さんに近づく事さえ出来ない筈だわ」

「真撰組か、そんなに良い噂聞かないけどそんなに信用できるの?」

「もちろん、一見ガラの悪そうな人たちが多いけどみんなホントは良い人よ。一番隊隊長は例外だけど」

 

泣く子も黙るあの真撰組、ユウキはそれほど接点も無いしいい噂も聞かない

 

しかし明日菜は何故だかそんな彼等を強く信頼している様子。

 

「あそこは二人のトップが上手く組織を纏め上げて導いているのよ、一人は真撰組の頭脳と言われている鬼の副長。そして……」

 

『神楽ちゃんいくわよ! あの野郎にトドメを刺す!』

『よっしゃあアネゴ! 私に任せるヨロシ!』

 

天井裏でいつの間にかお茶を淹れて来ると言っていたお妙が神楽と合流していたらしい。

 

二人で上手く連携を取ってストーカーを追い込んだみたいだ。

 

それに気付かずに明日菜はユウキに得意げに語っていた、真撰組のトップである……

 

 

 

 

 

 

「真撰組の大将を務める、近藤局長がいれば、きっと江戸は将来安泰になる筈だわ」

「「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

「どんぶらばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

その瞬間、明日菜達の丁度真上の天井を突き破ってお妙と神楽が何者かを踏みつけたまま勢いよくテーブルの上に降って来た。

 

突然の出来事にビックリしつつも咄嗟にユウキの肩に手を回して庇う明日菜。

 

すると立ち込められた砂埃の中から

 

お妙と神楽に踏まれ、大の字の状態で倒れながらノビている男が見えた。

 

その男をしばらくジト目で見続けて明日菜はすぐに誰だか気付く、否、気付いてしまった

 

 

 

 

 

 

「…………近藤さん?」

「あ、あれ? ひ、久しぶり明日菜ちゃん……」

 

 

兄の様に慕っていた男が姉の様に慕っている女性のストーカーだったという事を

 

明日菜はあ然とした表情でやっと気付くのであった。

 

次回に続く。

 

 

 

 




次の話では明日菜の過去や真撰組の連中との関わりが書かれます

そしていよいよあの男も……

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