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このイラストはすぐに各話それぞれに挿絵として貼らせて頂きました。
ここまで見事にキャラ達を生き生きとした表情で描いて下さり本当にありがとうございます!
ある日の昼下がり、桐ケ谷和人は志村家の家に来ていた。
正確には家の中へではなく、家の”屋根の上”にお邪魔しているのだが
「……」
トントントンと無心で金槌を振り下ろしながら、板に釘を打ち付けていると
いきなりバキ!っという鈍い音が
「……」
ジンジン感じる痛みを覚えると案の定、自分が降り下ろした金槌は釘でなく、その釘を支えていた指の方に直撃していたのである。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うるっせぇな、金槌で指打ったのか?」
「どうして神器手に入られねぇんだバッキャロォォォォォォォ!!!!」
「いやどんだけ引きずってんだよ、流石に未練がましいにも程があんだろ」
一緒に屋根の修繕を行っていた銀時が声を掛けると、彼は痛みよりも先にフッと頭に蘇った出来事にゴロゴロと転がり回る。
神器の入手失敗、それが未だにショックなのか度々彼はこうやって叫び回っているので、銀時はもはや慣れてきた。
「まともに働かねぇと給料出さねぇぞ、さっさと屋根の修理終わらせて一息突きたいんだよ俺は」
「いやそもそも給料貰った事ないんだけど俺! 頼むぞオイ! ここ最近はほとんど家を空けてアンタの所に住んでるから生活面が危うくなってきてるんだよ!」
「だったらさっさと釘でも指でもいいからとにかく打ち付けろ、さもねぇと俺がお前のチンコここに打ち付けてオカマバーに転職させるぞ」
「アンタ人の家の屋根になんちゅうモンを打ち付けようとしてんだ!」
いきなり下半身の冷える事を言ってのける銀時にツッコミを入れると、金槌片手に彼に向かって襲い掛かる和人
「いい加減給料ぐらい出せよダメ社長! もしくは神器の素材出せぇ!」
「テメェ明らか後者の方を欲しがってるだろ、いい度胸だ、仮想世界ならともかく現実世界でこの銀さんを相手に勝負挑んできたらどうなるかその身体に教えてやる」
そう言って持っていた金槌を下ろしてポキポキと拳を鳴らし始める銀時
そんな彼に歩きづらい屋根の上を駆け下りながら突っ込む和人。
そして
ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
「あれ、なんか和人君の悲鳴が上から聞こえたんですけど?」
「ほっときなさい、どうせ釘じゃなくてタマにでも金槌振り下ろしちゃった程度の事でしょ」
「姉上、下半身が冷える冗談はやめて下さい……」
「まあ屋根の修理なんて素人のお兄ちゃんじゃそう簡単に上手く行きませんからね」
案の定、銀時に返り討ちにされている和人の悲鳴を真下で聞いていたのは、居間で茶を飲んでいた志村新八と姉のお妙、そして和人の妹の桐ケ谷直葉であった。
彼の悲鳴を聞いても新八以外はさして心配していない様子で
テーブルを挟んで向かいに座りながら
ポリタンクを掲げてゴクゴクと中に入ったガソリンを男らしく飲んでいるユウキに向かってお妙は声を掛ける。
「それにしてもユウキちゃんは凄い飲みっぷりね、ガソリン一気飲み選手権とかあれば即優勝出来るんじゃないかしら?」
「姉上、そんな大会に参加するのは自殺志願者だけです」
「プハァ、やっぱガソリンはエネゴリに限るねぇ」
「いやそんな事言われても僕等共感できないんで、僕等飲んだら死ぬんで」
一通り飲み干した後にケロッとした顔を向けて来たユウキ
そんな彼女を見てお妙が可笑しそうに笑っていると、隣に座っていた直葉が心配そうな表情で勇気に話しかける。
「あのーユウキさん? お兄ちゃんはそっちで上手くやっていけてますか? 前にお兄ちゃんが久しぶりに家に戻った時はやたらと雇い主や仕事について愚痴ってたんですけど……」
「え? ああ別に心配しなくても銀時と上手くやっていけてるみたいだよ、今でも仲良くここの屋根の修理やってるみたいだし
らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
「いやさっきからずっと屋根の上で叫んでるみたいなんですけどお兄ちゃん、ホントに大丈夫なんですか? あの人に桐ケ谷家の長男任せちゃって大丈夫なんですか?」
「問題ない問題ない、きっとふざけ合いながら仲良く二人で仕事してるよきっと」
またもや聞こえて来た和人の悲鳴に流石に直葉も不安になるも、ユウキはヘラヘラ笑いながら答えるだけ
「でもよくウチの所に依頼頼んで来たねぇ、ここん所収入無かったらそりゃ嬉しいけど。君達って銀時の事あまり好きそうじゃないみたいだし」
「私の場合は好きか嫌いじゃなくて、どうも胡散臭くて怪しんでるだけなんで、それに依頼したのはお妙さんですし」
「僕は別に嫌いじゃないですよあの人の事は、決闘みたいな真似しましたけど別に悪い人とは思えなかったんで」
「新八さんは人が良すぎるんですよねぇ……」
ユウキの問いかけに直葉は苦い顔、新八が苦笑していると、お妙はそんな二人の反応を一瞥した後ユウキの方へ振り返る。
「そういえばユウキちゃんは和人君や銀さんがやってたゲームとかやってるの? ほらあの……」
「EDOの事?、発売当初からやってるからかれこれ2年近くプレイしてるかな?」
「そう、てことは明日菜ちゃんって子も知ってる? あの子どうやら和人君とゲームで親交があるとか聞いたんだけど」
「アスナの事? うん知ってるよキリトと顔合わせたらしょっちゅう喧嘩してるし
あっけらかんとユウキが答えると、二人の話を聞いていた新八と直葉がすかさずバッとテーブルに両手を突いて身を乗り出して
「え、ちょっと待ってください! まさか和人君女の子の知り合いとかいんの!?」
「嘘でしょ! あのお兄ちゃんが!? あの根っこからダメ人間オーラ醸し出してるお兄ちゃんに女の人が!」
「この前仕事中にリアルでも遭遇して大変だったってぼやいてたね」
「マジでか!? 和人君にそんな出逢いのチャンスが巡っていたとは!」
アスナという少女と和人が知り合ってたという事実だけで急にテンパり始める新八と直葉。
「まさかモテるモテない以前に人として足りない部分が多すぎるあのお兄ちゃんにそんな事が……新八さん、やっぱりもっと時間を費やして早く追いついた方が……!」
「そうだね! こうなったら腹くくってペースを一気に上げよう! そんで早く和人君にいる場所に辿り着かなきゃ!」
「二人共なんの話してるの?」
「い、いや別に……大したことじゃないから」
二人で顔を合わせて慌てた様子で相談し始める新八と直葉にユウキがキョトンとしていると、直葉が焦りながら必死に誤魔化す。
「と、とにかくお兄ちゃんが女の子と仲良くなるなんて真似は妹として見過ごせないよ、なんとしてでも私が阻止しなきゃ」
「わーお、妹さんがそんなにお兄ちゃん取られるの嫌がってたなんて意外だなー」
「違います」
「え?」
なんだかんだで兄が自分の傍を離れるのはイヤなんだなとユウキが思っていると、そこへ直葉が真顔でハッキリと否定する。
「あんな社会非適合者でクズの中のクズの兄なんかに近づいたら、間違いなくその女の人が不幸になるから絶対に阻止しないといけないんです」
「ああ、アスナの方が心配なんだね……大丈夫だよ、互いにそういう気は全くないみたいだから」
「万が一の可能性もあるんです! 濡れた子犬を不良が拾ってそれを見た女の子が恋に落ちるとか! そういう展開もあり得るんです!」
「んー少女漫画の方は随分昔に卒業しちゃったけど、まだそのパターンは廃れてないんだ」
和人になんからのフラグが立つのを怖れながら直葉は強くテーブルを叩いていると
タイミング良くそんな彼女達の部屋へ、仕事を終えた銀時と何故かボロボロの和人が戻って来た。
「どもー今さっき屋根の修理済ませておきましたー」
「HPゲージが赤に……誰かハイポーションを……」
「あらあらお疲れ様、和人君も随分と張り切ってたみたいね、上から何度も気合の雄叫びが聞こえてたわよ」
「それは雄叫びじゃなくて断末魔の叫び……」
空いてる方の席に二人でドカッと座りながら一息つく銀時と和人にお妙からの労いの言葉。
そんな彼女に和人が体をさすりながら死んだ目でボソッと呟いていると、直葉と新八が慌てて立ち上がって彼の傍に駆け寄る。
「お兄ちゃんゲームで女の人と知り合ってリアルで会ったって本当!?」
「ズルいぞ和人君抜け駆けするなんて! 僕なんてまだそんなキッカケ一度も掴めてないのに!」
「あ? いきなりなんの話だよ、女の人? ひょっとしてそれアスナとかいう頭のイカれたマヨネーズ女の事か?」
突如問い詰めて来た直葉と一人悔しそうに眼鏡の奥から涙を光らせる新八に、和人は胡坐を掻きながら首を傾げると、すぐに「あ~」と呟き
「別にお前達が考えてるような事は何も無いって、アレとそういう関係になるとか絶対に無い、断じて無い、100パー無い」
「ホントにそう言い切れるの、なんだかわからないけどお兄ちゃんがそのアスナさんって人と、人目も気にせず堂々とイチャイチャするという世界線が頭にふとよぎったけど本当に大丈夫なの!?」
「それは確かに最悪な世界線だな、もしそんな世界線があったら時間と次元を超越してその世界の俺を全力でぶん殴りに行きたい」
「むしろ逆にお前が返り討ちにされるんじゃねぇのそれ?」
並行世界の記憶を持つ力にでも目覚めたのか、よくわからない事を口走る直葉に和人が呆れながら答えてやると隣に座っていた銀時がボソッとツッコミを入れる。
「つーか妹、オメェがそんな心配する必要ねぇんじゃねぇの? 誰であろうとダメ兄貴を拾ってくれる女がいるならそらいい事じゃねぇか、一家の寄生虫を自分から引き取ってくれる人がいるんだぞ」
「こんな危険な寄生虫をみすみす渡したら間違いなくその人が不幸になるじゃないですか! させませんそんな事!」
「うぉいさっきから俺の事を寄生虫を呼ぶの止めてくれないか!? 今はもう真面目に働いてるんだぞ俺! せめて寄生という言葉ぐらい取ってくれよ!」
「虫呼ばわりされるのはいいんだ……」
銀時と直葉が和人の将来について口論を始める中、あんまりな扱いに嘆く和人に新八は静かに呟いた後、はぁ~とため息を突く。
「まあでも確かに、ここ最近の和人君は依然と違って働いてるんだし少しは更生したと思ってもいいよね」
「随分と上から目線だな新八……なんの苦労もせずに貧乏道場で剣振ってるだけのお前なんかよりも、ハッキリ言って今の俺の方がずっと苦労してるんだぞ」
「それはどうかな、こっちもこっちで色々と大変なんだよ」
ずっとニートだったクセになに苦労人装ってんだコイツと内心イラッと来ながら、新八はジト目で和人につっ返す。
「ここ最近姉上にストーカーが付き纏う様になってさ、あまりにもしつこくて僕と直葉ちゃんも困ってるんだよ」
「は? この人にストーカー?」
「コイツにストーカー?」
近頃お妙をつけ狙うストーカーが出没するようになったと聞いて、和人も、そして銀時も
笑っているお妙の方を眺めながら目を細める。
「「随分と物好きな奴もいたもんだ……ぶふぅ!!」」
「ホントに仲良いのね二人共、言葉も反応も完全にシンクロしてるじゃない、良い事だわ」
二人がボソリと同時に呟いた途端突如彼等の顔面にテーブルに置かれていたコップが炸裂。
目にも止まらぬ動作で一瞬でコップを彼等にほおり投げたお妙はニコニコ笑いながら感心する。
「店で働いてる時に急に結婚申し込んで来てね、その時は上手く顔面にパンチ決めて断ったんだけど、それから何度も何度もせがんで来てホントにしつこくて」
「最低よ、お妙さんにストーカーするなんて許せない」
どうやら店の客に付き纏われているらしく、その経緯を知っていた直葉は立ち上がったまま奥歯を噛みしめて怒りを露にする。
「今度こそ永久にお妙さんに近づかない様制裁を咥えなきゃ、お兄ちゃんも手伝ってよね」
「金さえ払えばな」
「は!? 私達のお姉さん的存在がピンチなのに何言ってんのよ!」
「そうは言っても俺もう万事屋として働いてる身だし、何かして欲しいならそれ相応の報酬を貰うのが筋ってモンだろ」
「ほとんど家に帰らなくなった上にその冷めた態度……やっぱりお兄ちゃん、どことなくその人に似て来たんじゃないの?」
「いやいや、俺はここまで年中けだるさMAXで生きてないから」
もはや家族同然のお妙の身に危機が迫っているというのに和人はあっけらかんとした感じで手を横に振る。
「それにこの人なら簡単にストーカーなんて一人や二人血祭りに出来るだろ」
「まあ現に姉上は、僕等が駆けつけた時には大抵一人でボコボコにしてますからね……」
「そりゃあ向こうから飛びついてきたらビックリして薙刀で刺しちゃうことなんてよくある事よ」
「しかも事前に凶器持ちかよ! もはや完全に息の根止める気満々じゃねぇか!」
ガチャリと床に置いてあった薙刀を持ち上げながら笑顔を浮かべて来るお妙に、和人が戦慄するとすぐに彼女から座ったまま少し距離を取る。
次失言したらあのストーカー撃退用の凶器が自分にも襲い掛かるんじゃないかと危惧した為だ
そんな時、ふと隣に座っていた銀時が頬杖付きながらユウキの方へ口を開く。
「そういやお前、ちゃんとコイツ等から報酬金貰ったよな」
「うん、事前に貰っておいたよ」
「じゃあそこから少し引いてくれ、今日の仕事は俺と和人君だけじゃなくもう一人いたんでな。少しばかりそいつに分けておくわ」
「もう一人?」
屋根の修理は二人だけでやっていたのではなかったのか?とユウキが首を傾げていると、銀時はお妙の方へ振り返って
「しっかしお前もいい所あるじゃねぇか、素寒貧な俺達の為にわざわざ屋根の修理とかいって金払ってくれるなんてな」
「いえいえ、屋根が壊れかけているのは本当の事ですから、ここ最近”アレ”が屋根の上に昇ってしょっちゅう穴開けるから困っていたのよ」
「それにやたらと積極的に動いてくれる良い助っ人も紹介してくれたしよ、アイツがいなきゃこうも早く終われたなかったぜ」
「え、助っ人?」
助っ人と聞いてお妙は眉をひそめる。そんな人物呼んだ覚えはないのだが……
そう思っているとふと廊下からこちらに向かって歩いて来る足音が
「お妙さん! 屋根の修理と更に色の落ちた部分をペンキで塗っておきました! これでもう完璧ですよ!」
大きな声でお妙に叫びながら、親指を立ててキラリと歯を光らせるのは
屈強な体つきをしたどこか見覚えのある黒い制服を着た帯刀持ちの男。
そんな彼を見て直葉と新八が固まっていると、銀時が「おー」と彼の方へ振り返って
「ご苦労さん、わざわざ俺達の仕事の分まで働いてくれて悪いねホント、これ少しだけど受け取ってくれや」
「いやいや悪いですって! 俺はこの家のモンですから当然の事をしたまでですよ!」
「へぇ、アンタここの家の人なの?」
「ハッハッハ、まあ大きくは言えないんですけど、実を言うと俺はここの家の女性と恋に落ちましてね、ゆくゆくはこの家に俺も住む事が決まっているんですよ」
銀時から出されたお金も受け取らずに腕を組んで高笑いを上げながら、実はこの家と親密な間柄にあると暴露するゴリラ顔の男。
「まあそれでこうして日々この家に足を運んで、どこか怪しい所はないか日々点検をしているんですよ俺、屋根裏とか軒下とか」
「なるほどねー、将来守る家族の為に日々警備を務めているとは今時ご立派だねぇ」
「いやいやだから当然の事をしてるだけですって」
そう言って照れ臭そうに鼻の下を指で掻きながら、満更でも無さそうな顔でビシッと決める。
「だって俺は常に、愛するお妙さんを護るナイトなんですから」
「ナイトじゃなくてテメェはただの陰湿ストーカーだろうがァァァァァァァァァ!!!」
「ごっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
決め顔をこちらに向けて来た男に向かってお妙がやったのは
まさかの立ち上がり様に繰り出す痛快なドロップキック
そのまま彼を庭へと吹き飛ばすと、すぐに恐ろしい形相で飛び掛かる。
「今度という今度は完全に息の根止めてやらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
仰向けに倒れた男にマウントを取ってすぐ様両手で容赦なく殴り続けるお妙を見て
銀時と和人はやっと気付く。
「え、なに? もしかしてあのゴリラがストーカーだったの? いやー気付かなかったー」
「俺達より先に屋根の上にいたから、てっきりお手伝いさんかなと思っていたよ」
「オイィィィィィィ!! まさかアンタ等! 姉上のストーカーと一緒に屋根の修理してたって事ぉ!?」
「なにストーカーなんかと仲良く仕事してんのよお兄ちゃん!」
「いやでもあの人ちゃんと真面目に働いてたぞ」
「自分がこの家に忍び込もうとした時に何度も足踏み外して壊してた場所を! 証拠隠滅の為に直してたんだよそれ!!」
いきなりのストーカー男の出現に新八と直葉に何やってるんだと責められながら、銀時と和人が「あー」と納得した様に頷く中、すぐ様近藤とお妙の方へと駆け寄っていく新八と直葉。
「姉上やり過ぎはダメです! その人一応警察の人っぽいですから! 後々面倒な事になりますって!」
「お妙さんここで一気に仕留めよう! 世にはびこるストーカーを全滅させてやりましょう!」
「煽らないで直葉ちゃん! 僕は自分の姉がそんなストーカー殺戮マシーンになる事は望んでないから!!」
ギャーギャー言い合いをしながら荒れ狂うお妙の傍に駆け寄っていく二人を眺めた後
銀時と和人、そしてユウキは一仕事終えたかのように立ち上がる。
「そんじゃ仕事も終わったし帰るか」
「なら帰りに飯食いに行こうぜ」
「あ、僕、北斗心軒がいい」
関わるのもなんか面倒だと思い、さっさとこの場を後にする三人であった。
ストーカー男の悲鳴は彼等が家を後にした後もしばらく長く続いた。
「お妙さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「ギャァァァァァァァァァァァ!!!!」
「ふーん、それでその後どうなったんだい?」
「さあな、しばらくゴリラの悲鳴が聞こえてたけど、その内静かになったし死んだんじゃねぇの」
惨劇の屋敷と化した志村邸を後にした銀時達は
かぶき町へと戻ってラーメン屋の北斗心軒へと来ていた。
今日はちゃんと営業時間にやって来たので、店主の幾松がカウンターに座る銀時の話を聞きながらラーメンを作っていた。
「あんな女にもストーカーが付き纏うんだ、おたくの所は大丈夫なのか、女二人でかぶき町に住んでちゃ何かと物騒だろ」
「こんな儲けの無いラーメン屋を切り盛りしてる未亡人の女なんて誰も狙おうだなんてしないよ、あの子も賢いからきっと大丈夫だよ、まあちょっと不器用で抜けてる所あるけど」
数年前に攘夷浪士のテロに巻き込まれて亭主が亡くなってからずっとこの店を守り続けていた幾松。
依然は一人だけでこの店を回していたのだが、最近住み込み出来るバイトを拾ったので、今は彼女のおかげで幾分か楽になった。
北斗心軒、そんな店の内装をぼんやりと眺めながら、銀時の隣に座っている和人が「ほーん」と呟く。
「ここがアンタがよく通ってる馴染みの店か、思ったよりまともそうで安心したよ」
「思ったよりまともそうってどういう事だい? ウチはちゃんとした店だよ」
和人の余計な一言に少しカチンと来ながらも、幾松は完成させたラーメンを彼の前に置く。
「はいラーメン一丁」
「はぁ~やっとまともな食事にありつける」
「っておい、なんでコイツが先なんだよ。普通は年上優先だろ?」
「別にどっちが先でもいいだろ、すぐに作ってあげるから待っておくれよ」
差し出されたラーメンにすぐに箸を突っ込んで食べ始める和人に横目を向きながら銀時が難癖を付けるも
幾松は軽く流して彼の分も作ってあげようとする。
だがその時
「ただいま幾松さん、出前戻って来たんだけどちょっと……」
「ああおかえり、今回はちゃんと原付の運転出来たのかい」
「ええうんまあ……停車しようとする度に転倒しそうになったけどなんとかふんばって持ち堪えたけど……」
店の戸をガララと開けて中へと入って来たのは、この店で住み込みで働いている朝田詩乃だった。
幾松に早速ちゃんと出前用の原付を運転できたのかと尋ねられ、目を逸らしながらバツの悪そうに呟く。
「お客さんのラーメンを思いきりこぼしちゃった……そんでまた作り直せって怒られて帰って来た……」
「またかい、アンタこれで何度目だよ全く。今度やったら承知しないよ」
「ごめんなさい……」
どうやら肝心の出前の方を失敗してお客にしっぽり怒られて帰って来たらしい、申し訳なさそうに後頭部に手を回す詩乃をピシャリと叱りつけると、幾松はラーメン作りを再開する。
「悪いね銀さん、残念だけど今から私、ラーメン作ってそれを出前に届けなきゃいけなくなっちゃったから」
「ええ!? おい待ってくれよ! じゃあ俺のラーメンは何時になったら現れるんだよ!」
自分のラーメンが後回しにされると聞いて銀時はガッカリするとすぐに和人の方へ振り返り
「おい! 俺にもちょっと寄越せ!」
「ん? 悪いもう全部食った」
「早ッ!」
「話を聞いてる内に薄々アンタに取られるんじゃないかと思ってから急いで食った、いやー美味かった」
「この野郎……日に日にどんどん悪知恵が働くようになって来やがった……」
取られると察して急いで全部胃の中に掻き込んで満足げに腹をさする和人に
額に青筋を浮かべながら銀時が「さっきもっとシメておきゃ良かった……」と呟いていると
不意に彼の背中にポンと小さな手が置かれて
「なんならボクのガソリン飲む?」
「飲むかぁぁぁぁぁぁ!! てか飲めるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
無垢なる表情で善意で話しかけてきたのは一人だけラーメンが食べれない体のユウキ。
銀時達と一緒にカウンターに座りながら、ガソリンが注がれたコップを差し出してきたがすぐに銀時は拒否する。
「おいじゃあなんか手頃なモンサクッと作ってくれよ! こちとらやっと金が入ったから久しぶりにまともなモンが食えると思って楽しみにしてたんだよ!?」
「しょうがないだろ、なんなら詩乃の奴になんか作ってもらいな」
「へ、私?」
文句を垂れる銀時に詩乃がどうしようかと悩んでいると、不意に幾松からは話を振られてキョトンとする。
「いやあの私、まだ人前に出せるラーメン作れないですけど……」
「ラーメンじゃなくていいからこの人になんか作っておいてあげて、私はコレ出来たらすぐ出前に行くから、アンタはこの三人の相手しておいてくれ」
「……」
まあ自分のミスが原因でこうなってしまったのだから仕方ないかと、詩乃は何を作るべきかと迷いながら彼等の方へ近づく。
「とりあえずごめんなさいね銀さん、私のせいでドタバタしちゃって……」
「お前まだ原付乗れねぇのかよ、あんなのすぐに慣れるだろ」
「ゲームの世界なら多少は乗り回せるんだけど、現実世界だとそう上手くはいかなくてさ……」
こちらにしかめっ面を浮かべてくる銀時に詩乃は苦笑していると、ふと彼の隣に自分とあまり年の変わらない少年が座っている事に気付く。
「ってアレ? もしかしてこの子が最近銀さんの所で働き始めた子?」
「ああ、名前はクズト君だ、気軽にクズとかクソ虫とか呼んでやってくれ」
「和人だよ!」
「ふーん和人君ねぇ……」
銀時になって自分の名前を叫ぶ少年、和人を、詩乃はじっと観察しながら目を細める。
(この顔……前に向こうの世界で観た様な気が……)
和人にどこか思い当たる節があって、一体誰だったかと思い出そうとしていると銀時が
「おいなにボーっとしてんだ、いいからなんか作ってくれよ、こっちはもう腹減って死にそうなんだよ」
「あ、はいはいちょっと待ってて」
もう限界だと言わんばかりの銀時の声に我に気付いた詩乃は、すぐに厨房の方へと移動する。
「で? なに作って欲しいの? 言っておくけどまだ私半人前だから期待しないでよ」
「いいよその分安くしてもらえれば、えーと……ん?」
さり気なく値下げを要求しながら銀時は壁に貼られているメニュー欄を一通り眺めると、一番端っこの所に一際新しい字で書かれたメニューを見つけた。
「そば? ここってそばなんてやってたっけ?」
「あ、あ~それは……」
ラーメン屋なのにどうしてそばがあるのかと頭の上に「?」を浮かべる銀時に、詩乃はなんと言えばいいのか困っていると、隣に立っていた幾松がフッと笑って
「それはちょいとこの子が練習しているモンなんだよ、なんでも食べて貰って「美味い」と言って欲しい相手がいるんだってさ」
「ちょっと幾松さん……」
「ほーん、とうとうお前もテメーの料理を食べさせたい相手が見つかったか」
「いや別にそういう意味じゃないから、妙な勘繰りは止めてよ……」
幾松の話を聞いてカウンターに頬杖を突きながらニヤニヤしだす銀時にジト目を向けると、詩乃は彼に向かってしかめっ面を向けて口を開く。
「なんなら試しに食べてく? その人に何度もダメ出し食らってるぐらいあまり美味しくないそばだけど」
「何度もって事は結構な頻度にここに通ってる客なのかそいつ、一体どんな奴か見てみてぇモンだ」
「だからそういうのじゃないって……」
一体どんな奴なのかとしつこく聞いて来そうな銀時に嫌そうに詩乃がため息を突いていると、彼は「仕方ねぇ」と呟き人差し指を立て
「じゃあそば一丁」
「あいよ」
練習台として付き合ってやるかと銀時は詩乃に注文してあげる。
彼女が一体どんな人物にそばを食べてもらって「美味い」と言って欲しいのか想像しながら
第三章はこれにて閉幕です
次回からは更に新展開が起こる予定です
仮想世界では、様々なGGOキャラや更にはGGO型の敏腕スナイパーも
そしてGGO型最強と謳われ伝説の神器を持つ男とは一体……
ついでに銀さんも衣装を変えて更なるパワーアップ?
しかし二人目のヒロインには不評の様子……その理由とは……
現実世界では和人がフルーツポンチ侍と、明日菜がフルーツチンポ侍と出くわして大騒ぎ
4章も大波乱の予感
それではまた