竿魂   作:カイバーマン。

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ちなみに寺門通の曲「お前の兄ちゃん引きこもり」は実際にアニメでお通が歌った歌です。

CD化までしてます、ピー音多めです


第三層 厄日という名の吉日

「で? なんでお前ここにいんの?」

「いやそのセリフそのままそっちに返すんだが?」

 

 

 

 

 

 

 

一人の少年プレイヤーは思った、今日は本当に厄日だと

 

妹には嫌がらせに近い悪魔の歌を聞かされて睡眠妨害

 

久しぶりの外出では天人に難癖付けられボコられ

 

その時助けに来てくれた侍にはいちゃもん付けられパシリにされ

 

挙句の果てにこの始末

 

目の前にいる男は現実世界よりも若干若返った顔付きだが、相変わらず死んだ魚の様な目をしていたのですぐに誰だかわかった。

 

万事屋銀ちゃんとかいう怪しい何でも屋を営む、坂田銀時だ。

 

「人の事を散々引きこもり呼ばわりしてた割には、こんなまっ昼間からMMORPGに潜るって時点でアンタも相当な暇人じゃねぇか」

「あ~天人共にボコボコにされてたクセに随分と偉そうな態度じゃね? あの時誰が助けてやったか答えてみろ」

「チュートリアル的なこのフィールドでモンスターに襲われてキャンキャン泣き喚いてたマヌケなプレイヤーの名前ならすぐに答えてやるが?」

「ちょっとちょっと! お前さん達なに!? いきなりメンチ切り合ってどうした!?」

 

互いに頬を引きつらせ絶対に引かないという態度で火花を散らし合う二人に、銀時と一緒に行動していたクラインが慌てて間に入る。

 

「なんだか知らねぇけどここは助けてもらったんだから礼ぐらい言っておこうぜギンさん! えーとそっちのちっこい剣士さんは名前なんていうんだ?」

「”キリト”だよ、別に礼とかいらないから、俺はたまたまここでさっきのレアモンスターがドロップするアイテム狙いに来てただけだし」

「そうかそうか! キリトっつうんだな! 俺はクライン! よろしくな!」

 

少年ことキリトはめんどくさそうに頭を掻き毟りながら名乗るとクラインは極めて友好的な態度で自己紹介してくれた。

こういう社交的なプレイヤーは別に嫌いじゃないのだが、あまり他人と関わらないプレイを進めているキリトにとってはどう対応していいのかわからない様子で「ども……」と軽く会釈して見せる。

 

そして肝心のあの憎ったらしい銀髪天然パーマの男はというと感心したように頷き

 

「引”き”こも”り”の”人”でキリトか、なるほど上手いな」

「いや上手くねぇし! あんたどんだけ人の事を引きこもり呼ばわりしたいんだよ! 俺は引きこもりじゃなくて部屋の中が好きなだけだ!! そして周りの視線が痛いから外出しない! それだけだ!」

「いやキリト、それが引きこもりだから……」

 

仏頂面でまたしても癪に障る偏見を呟くので、キリトは自信ありげに親指で自分を差して必死に自己主張するもクラインがジト目でボソッと彼にツッコミを入れた。

 

「なぁギンさん、アンタも何が気に食わないか知らないがここはキチンとキリト君に礼を言っておくのが筋ってもんだぜ? それがゲームをより楽しくやる為のマナーってもんさ」

「そうだな俺もここはキッチリ大人の対応をしてやるべきだったな、すまなかったなキリト君よ」

 

クラインに言われて渋々納得したのか、銀時は軽くこちらに頭を下げてきた。

 

「わざわざ俺達が襲われてる所に助けに来てくれたのに引きこもりだのゴミカスだの虫けらだのチンカス野郎だのと罵っちまって」

「引きこもり以外にも色々と増えてるんだが!? あ~いやもういいや別に、引きこもり呼ばわりされるのは妹と寺門通で慣れてるし」

「寺門通?」

「こっちの話だ、気にしないでくれ」

 

少々腑に落ちないがここで揉めるのも時間の無駄だ、それに引き込もり呼ばわりされるのは別に初めてではないし……。

 

「で? アンタ達はなんでこんな所に武器も所持せずにノコノコと出歩いていたんだ?」

「武器? ああそうだった! ギンさんコイツは俺もドジっちまった! 俺達まだ武器装備してねぇよ!」

「マジかよ、てことは俺達今までずっと素手で冒険に出てたの? やべーよちゃんと町の住人の話聞いとけばよかった、「武器は装備してないと意味ないよ?」とか言ってた気がするし」

「あー初めてのVR空間にテンション上げまくって肝心な事忘れちまってたよ俺も……」

 

指摘されてやっと気付いた所から察するにどうやら本当の初心者らしい。

クラインはすぐにメニューを開き、SAO型のプレイヤーの初期装備である海賊刀を画面から出現させ、それを手に取って見せた。

 

「ほれ、おたくもやってみな」

「えーとどれどれ……相変わらずどこをどういじればいいのかわかりにくいなチクショー」

「天人倒す時はすぐに木刀引き抜いてたが、こっちの世界じゃそうはいかないんだよ」

 

慣れない感じでああでもないこうでもないと色々試行錯誤している銀時に、キリトは先輩目線で言いながら笑っていると、銀時がこちらに顔を上げた。

 

「おい、『倫理コード解除設定』ってなんだ?」

「どうしてそんな奥深くにヒッソリとある所に辿り着けた!? ちょっとメインメニュー公開してくれ! 俺が画面見ながら教えるから!」

「いやその前に倫理コードを解除するべきだと思うんだギンさん、ここに何か、俺が求めていた何かが見つけられる気がする」

「いいから! なんでそこで素直に引き下がらないんだよ!」

 

銀時が辿り着いた倫理コード解除設定というのは、いわばゲーム内で男女が必要以上に体を接触させる為に本来不可能な設定を解除させる為のものである。

本来ならその項目は普通に探しても見つからない様に奥深くにスクロールしていかないと出てこないモノなのだが……。

一体どうやって見つけたのかと疑問に思いながらも、キリトは銀時に自分のメニューを他のプレイヤーにも公開できるように指示して、彼のステータス画面を見ながら説明してあげることにした。

 

他人のプレイヤーのステータスを覗き見するなどやってはいけない事だが、どうせ今日このゲーム始めたばかりなのだから、隠すスキルやアイテムも持っていないだろうと思ってキリトは早速銀時のステータス画面を隣で一緒に見てみた。

 

 

「GGO型……その身なりでGGO型とか奇妙だな、どう見ても俺と同じSAO型だと思ってたんだが」

「またそのGGO型か、なんなんだそれ? ガンダタ君も驚いてたけど」

「……まさか自分のタイプの事も把握してないのかアンタ?」

「これ全部やってくれたのは俺じゃねぇし」

 

アバターの設定ぐらい自分でやっとけよ……と内心キリトは呆れる。

設定を決める時に色々とナビがこの世界についての簡単な説明や操作方法も教えてくれるというのに。

恐らく彼はそんな事も知らずにあらかじめ作られていた自分用のアバターでそのままフルダイブしてしまったのだろう。そりゃ何もわからないのが当たり前だ。

 

「GGO型ってのはいわば銃器やからくりに長けたタイプ、言うなればガンナー型だ。銃器を操るだけじゃなくて、俺達SAO型じゃ操作できない機械仕掛けの乗り物に乗れたり、武器に改造を施して変形機能を搭載させたりとか便利な点も多いけど、その分色々と面倒で複雑な精密動作が必要で結構扱い辛いって評判なんだ、ぶっちゃけガンマニアでもない限り選ぶ奴はEDOでは中々いないぞ?」

「銃~? んなもん俺使った事ねぇよ、なんだよこのタイプ最悪じゃねぇか。ダーマの神殿行って転職とか出来ねぇの?」

「生憎、一度タイプを決めたアバターは二度とそのタイプを変更する事は出来ないな。有料でもう一つのアバターを作成してまた一からタイプを決め直すって手もあるけど」

「有料? じゃあいいやコレで、んな事で金出したくねぇし」

「アンタそれでいいのか……」

 

この男、思った以上に身が軽い、さっきまで文句垂れてたのに金がかかると聞くとすぐにこれでいいやと開き直った。

全く行動の読めない銀時にキリトは戸惑いつつも、彼に武器を出すように指示する。

 

「ほらそこのアイテム欄に初期装備のがあるだろ、それを選んで取り出し……ん?」

「ああはいはい、コレ押せばいいのか、どれ」

 

一緒に彼のアイテム欄を見ていたキリトが若干眉をひそめて何か変だと思っている中、銀時はさっさとボタンを押して自分の武器を画面から取り出してみた。

 

この世界で初めて銀時が手に入れた武器、それは

 

「『光棒刀』んだコレ、ただの棒っきれじゃねぇか」

 

武器を取り出してみたものの銀時は若干顔をしかめる。

右手に握られたその得物はさほど長くはないが柄の部分に怪しげな赤いボタンが付けられただけの質素なモノであった。

 

試しに2度3度軽く振ってみるが思ったよりもかなり重量感が無い、これではあまり威力が期待出来ないであろう。

 

「とりあえずこのボタンを押してみっか、お」

「へーそいつがGGO型の武器か」

 

おもむろに柄の根元に付いてるボタンを押してみると、今度は棒の部分が白く光り出した。

するとゲームの世界であるのにほのかに熱気を感じたクラインが興味津々に彼の得物を眺め出す。

 

「なんかSF映画で見た事ある奴とちょっとだけ似てるな」

「得物の先が熱くなったんだけど何コレ? コレで相手の顔面を強打して焼き尽くせばいいって事?」

「いや焼き尽くすにはちと熱が弱いんじゃないか? こりゃあちょっとだけダメージ付加させるだけのおまけみたいなモンだと思うぜ、ま、所詮は初期装備だからな」

 

クラインに説明されて、白く光った得物を再び振ってみる銀時。

やはり軽いが振る度にブンブンと微かに音が聞こえるようになった。クラインの言う通りこれはただの初期装備、期待する程あんまり良い武器ではないという事であろう。

 

しかしキリトは一人、彼が持つその光棒刀という武器を見つめながら腑に落ちない表情を浮かべていた、そして。

 

「ギンさん、アンタのアバターってもしかして他のアバターからコンバートされてるのか?」

「こんばー? 何か前に一度聞いた事あったような……」

「要するにナーヴギアに保存されているアバターのデータをもう一つのアバターに移動できるシステムの事だ」

 

コンバートとはナーヴギアに用意されている基本設定の一つであり。

別のアバターの装備やアイテム、スキル等をデータ化させ、それを別に作ったアバターに移し替えるという方法の事だ。

 

これで新参プレイヤーが最初から強いアイテムやスキルを持ったままスタートできるというまさに強くてニューゲームという状態になれるのだが、それで初心者がそう簡単に無双できないのがこのEDOである。

 

「GGO型の初期装備なら片手装備の無名のハンドガン一丁の筈なんだよ、なのにアンタはGGO型には珍しい近接武器の一つの光棒刀、これもちょっとだけ進めば手に入るぐらいの武器なんだけど、最初からそれがアイテム欄にあるのはおかしいと思ってさ」

「あ~そういやアイツが言ってったな、私が持ってる装備やらスキルを一部だけあげるとかなんとか、それってこういう意味だったのか」

「やっぱりな、プレイしたばかりなのに妙に珍しい服装してるなって違和感があったんだよ」

 

どうやら銀時自身も心当たりがあったらしい、手をポンと叩いて思い出した様子の彼を見てキリトは確信した。

よくよく考えてみればGGO型の初期防具で和風の侍風の格好になるなんてあり得ないのだ。

無論、クエストをこなし腕を上げていけば、GGO型でも今の銀時みたいな格好にはなれる。

 

現に巷でもっぱら噂されているギルド、『KOB』にはGGO型でありながら侍風の格好をしてなおかつ、特殊な機能が備わった刀を扱っているという変わったプレイヤーがKOB一番隊隊長として名を馳せているとキリトは聞いた事がある。

 

「アンタの服装、こうしてアイテム欄から見るとどうやらオーダメイドみたいだな、大方コンバートする前にアンタの為にその防具を作ってやったんだろう」

「そいつはありがてぇ話だが、だったら武器の方ももっといいモン寄越して欲しかったんだがねぇ、はぐれメタルの剣とか」

「その辺は自力でなんとかしろって事だろ」

「融通の利かねぇ奴だなホント……」

 

銀時の為に自らのデータを渡した人物はさすがにそこまで甘くはないみたいだ。

確かに序盤から質の良い武器を手に入れては、ゲームの楽しみも薄れてしまうというもの。

彼自身にこのゲームを本当に楽しんでもらう為の配慮であろう、彼にデータを渡した人物はきっとこの男の扱いに慣れてる人なんだろうなと思いながら、キリトは改めて彼のアイテム欄の方へ目をやると、再び奇妙なモノを見つけた

 

「このアイテム欄の下の方にあるこの『????』って確か……一定の条件が無いと解放されない武器とかアイテムだったか、スキル欄や技項目にも何かあるかもな……」

「っておい、勝手に人のモン覗くなよ。そんなにギンさんの中身をじっくり見たい訳?」

「変な言い方するなよ……どれだけスキルや技が転送されているか見てみようと思っただけだって、そうしないとアンタ何もわからないままだろ?」

 

EDOの中にはある条件が無いと扱う事が出来ない特別なアイテムや装備、スキルや技などがある。

キリト自身もそういう特殊スキルを持ってはいるが、こういう封印されたアイテムの存在はEDO内でも結構珍しい代物なのだ。

どういうモノか見てみたいが銀時自身が条件を解放しないと名前すらわからないので、とりあえずキリトは彼に指示して保有しているスキルを開示させた。

 

「うーん、結構あるな。さすがに俺程じゃないけど筋力や俊敏性とか近接面での戦闘を中心に出来る為のステータスアップのスキルを色々持ってるし、他にも技能スキルが結構……なんで料理だけ上限値MAXにされているんだ?」

「つーか料理なんて出来るのかよこのゲーム」

「まあサバイバル生活に役に立つけど、これ上げるなら戦闘方面のスキル上げた方が……あ、やっぱスキルや技欄の方にもあったなこの「????」って奴が」

 

EDOには各ステータスを上げる為にはステータスアップのスキルが必要なのだが、何故か料理レベルが群を抜いて最高値に達しているし他にも戦闘面ではあまり役に立たないスキルがちらほらと。

 

コンバートさせた元の持ち主は銀時に何を期待しているのだろうか……。

 

その事を疑問に思いながらも、銀時の指を取って勝手にスキルや技の所を調べてみるキリト。

 

「やっぱ特殊スキルだよな、それにアイテム、スキル、技の所にあるって事は、レアなユニーク武器を扱う事によって解放されるスキルだ、俺の奴と同じか……」

「え、てことは俺今、超レアな武器を最初から持ってるって訳? なんだよじゃあこの棒っきれいらねぇじゃん」

「でもある条件をクリアしなきゃ装備出来ないんだよそういう武器は。別のアイテムが必要だとか俺みたいにHPが一定以上減らないと得物として扱う事が出来ないって奴もあるし」

「要するにピンチにならないと使えない必殺技的な感じ?」

「ま、そんな所だ、どんだけ強い武器でも扱うにはデメリットがあるのがこの世界の常識だからな」

 

とにかく銀時が現在持っているアイテムには大方特殊スキル発動できる為のキーみたいな武器があるのだろう。

 

しかしそれを装備するにはまず彼自身が条件をクリアしなければならないので今は封印状態。

 

せっかくレア物の装備があるのに使えないとは持ち腐れもいい所だなと、キリトは銀時に肩をすくめながらふと聞いてみた。

 

「そもそもレアスキルといいオーダーメイドの防具といい随分と羽振りの良いプレイヤーだな、アンタにコンバートしたこのデータを見る限り、かなりの上級プレイヤーだったんだろうし」

「まあよく妹とゲームしてたからなあの女、相当強かったんじゃねぇの? 俺は知らねぇけど」

「女?」

「なんだなんだギンさん? アンタにデータ渡してくれた人って女性だったのか?」

 

髪を掻き毟りながら呟く銀時にキリトが反応する前に横からクラインが面白そうに会話に入って来た。

 

「もしかしてアレですかぃ? その女性というのはギンさんの……」

「あ? いいだろ別に、コレだよコレ」

 

ニヤニヤしながら尋ねてくる彼に銀時はぶっきらぼうに小指を立てると、クラインは「うひょー!」と変な声を上げて羨ましそうに銀時を眺める。

 

「いいなぁゲーマーの女性と仲良くやれてるなんてよぉ、俺もいつかそんな子と仲良くやりたいもんだぜ~、そうだギンさん! その子も呼んで俺達と一緒にパーティ組まねぇか! 女子がいれば女の子も警戒せずに寄って来るだろうし!」

「ああ無理、あの女もう二度とこのゲームやらないから」

「ええ~やっぱり引退しちゃったのか~?」

「いや引退っつうか」

 

この反応を見る限り彼女なんていないんだろうなと、キリトが目を細めてクラインを見ていると

銀時は大きな欠伸をした後けだるそうに

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと前に死んじまったからねアイツ」

「「……え?」」

 

平然とした様子でとんでもない爆弾発言をして来た銀時に、キリトとクラインの表情が固まったが、彼は気にせずに淡々とした口調で

 

「俺がこのゲームやるキッカケになったのも、アイツからゲーム渡されて、自分が死んだら代わりに双子の妹の面倒見てくれって頼みを聞いたからだしな、あの時はまさかこんな早くにくたばっちまうとは夢にも思わなかったよ、いやー人間ってのは結構あっけなく逝っちまうモンなんだなーってアレ? どうしたのお前等?」

「い、いや……」

「思ったよりヘビーな話だなと思って……」

 

さっきまで妙にテンションの高かったクラインが今ではすっかりお通夜モードに。

キリトもまたどう答えればいいのかわからずポリポリと引きつった頬を掻くが

 

 

「けど、大切な人の死がキッカケでこのゲームを始めたってのは、俺も一緒だな……」

 

ふとその手を止めて彼の目を見ながら口を開く

 

「俺も部屋に引きこもりになる前は妹と一緒によく剣術道場に足を運んで大人達に混ざってよく稽古やってたんだ。そん時にちょっと俺達みたいなガキの面倒を見てくれる兄貴分みたいな人がいてさ」

 

数年前、キリトがまだ幼い頃は妹とよく恒道館という道場で竹刀を振って稽古をしていた。

その時はまだ道場にいたのはほとんど大人達で、子供は自分と妹、それと泣き虫な弟と勝気な姉という姉弟がいるだけだった。

そして”あの男”はいつも自分達に対して笑いながら接してくれた。

 

「その人には色々と剣の事かそれ以外の事も色々教えてもらってたから、恩返し代わりにいつかはその人を超える程強くなってやろうと思ったんだけど、ちょっとした事故でその人あっさりといなくなっちまってさ」

「……」

 

キリトの話に銀時は以外にもまっすぐな目をしながら無言で話を聞いていた。

 

「そっから目標失った俺はもうこの通りだよ、ダラダラだと自堕落に生きてネットゲームにドハマりして、妹に怒られるわあの姉弟には散々戻って来いとか言われてるけど、剣を握る理由を失った俺にはもうあの道場に行く必要も無いからな。こうして気ままにゲームライフ送って現実を忘れようとしてるのさ、あの人と一緒にいた現実を」

 

どうして会ったばかりの男に自然と自分が秘めていた事をぺらぺらと打ち明けられたのだろうか。

多分この男には何か自分と似通ったモンを感じたのかもしれない。

と言っても彼は大切な人の約束を守る為、自分は大切な人との思い出から逃げたいが為にゲームをしているのだが

 

ほとんど真逆と呼んでいい理由なのかもしれないが、不思議と銀時には自分の事を聞いて欲しいという思いがあったのかもしれない。

 

何故か彼には”あの男”と似た何かを感じるのだ。

 

「大切な奴との思い出は、引きこもってるだけじゃそう簡単に忘れられるモンじゃねぇよ」

 

ずっと無言で聞いてくれていた銀時がふいに口を開く。

 

「逃げるんじゃなくて背負ってみろ、背負いきれない程重てぇモンかもしれねぇがそいつが本当に大切な奴だったんなら出来んだろ、一緒にいた思い出って奴を」

「……」

「俺だって出来んだ、お前だってやってみろって」

 

真剣な表情でそんな事を言って来た銀時にキリトは少々肩透かしを食らう。

なんなんだこの男、まるで雲のように掴み所がない、侍にしてはちゃらんぽらんでチンピラにしてはまっすぐな目をした男、坂田銀時。

 

この男ともう少し話をしてみたいと思っていたそんな時、ふと自分と彼ではなくもう一人ここにいる男が急に嗚咽を漏らし始め

 

「おいおいおい、ギンさんに続きキリトよぉ……お前までそんな辛い過去を背負ってゲームしてたなんて……俺なんかただ楽しむ為に、あわよくば女性プレイヤーとお近づきになれるチャンスだと思ってプレイ始めたんだぞ……なんて野郎だ俺は、こんな下心丸出しの下衆な気持ちでゲームしようと思ってたなんて……!」

「い、いやクライン、ゲームや理由は人それぞれだからな。俺だって今は楽しんでこのゲームをプレイしてる訳だし」

「そうだよガンダタ君、ゲームなんてモンは所詮遊ぶ為だけのモンなんだ、理由なんて適当でいいんだよ適当で」

「うう……いい加減名前で呼んでくれよギンさん……」

 

どうやら自分と銀時の話を聞いて感極まったのか、涙を流し一人泣き始めてしまったクライン。

涙を流すというのはゲーム上ではプレイヤーの感情に作用して流れるように設定されているのだが、それにしちゃ随分と泣き過ぎである。

 

クライン、この男もきっと悪い人間ではないだろう。自分と銀時の仲を取り持ったりきさくに話しかけてきたりと中々好感の持てるプレイヤーだ、殺伐としたEDOの世界じゃこの類の人間はかなり珍しいと言っても過言ではない。まあそういうお人好しのプレイヤーだからこそ、この世界で上手くやるのは中々難しいのだが……

 

キリトが目の前で泣いてる男にそんな評価を付けていると、銀時はふと遠くにある町の方へ視線を向けていた。

 

「やべ、そろそろ戻らねぇとアイツに怒られちまう……」

「アイツ? 誰かと待ち合わせしてるのか?」

「さっき言っただろ、このゲームやって双子の妹の面倒見てくれって言われたって」

 

ずっと手に持ってる武器をどうやれば仕舞えるんだ?と色々やりながら、銀時はキリトの方へ振り向く。

 

 

「その面倒な妹だ」

 

 

 

 

 

 

 

「ぎ~ん~と~きィィィィィィィィィ!!!!」

「ぷるこぎッ!!」

 

西の草原フィールドから数分かけて徒歩で始まりの街へと戻った銀時に対する洗礼は

 

見知った顔をした少女からの出会い頭の飛び蹴りであった。

 

ここが街中でなく戦闘地区であったら彼のHPパーは5割は削れたかもしれない、顔面にモロに食らって派手にぶっ飛んだ銀時を眺めながら、共について来たキリトは少々困惑していた。

 

「……やっぱりあの時の女の子だったのか」

「勝手にボクを置いてどこ行ってたのさ! ずっと探してたんだからね! あ」

 

ゲーム内では痛みは無いモノのぶっ飛ばされた感触はそのプレイヤーに直に伝わる。

意識が朦朧としている銀時の上に跨り、彼の胸倉を掴み上げながら怒っている様子の彼女だが、こちらに気付くと

顔を自分の方へ向けてきた。

 

「あっれー? もしかして君ってあの時のヒッキーさん? こんな所で会うなんて奇遇だね、ボクはユウキ、覚えてる?」

「ああ、あんな出会い方すれば嫌でも覚えるさ……でもリアルネームをゲーム上で名乗っちゃダメだと思うぞ」

「ああ大丈夫、ボク、リアルでもEDOでも同じ名前で通してるから」

「マジでか!? まあそれならいいけど……さっきこの男の本名も叫んでたよな?」

「あ、そうだった。いっけね」

「……」

 

ケロッとした表情で堂々と本名でプレイしている事をぶっちゃけるユウキ。

キリトは戦慄しながらもふと彼女が使っているアバターに気付く。

リアルの姿と恐ろしい程に寸分の違わぬ姿であった。

 

長く伸びた紫のかかった黒髪に自分よりも年下なのであろうと伺える幼い顔立ちはリアルと会った時と全く同じ。

確かに容姿の変更はリアルとさほど変わらないのがEDOだが、ここまで同じだと逆に奇妙に思える。

 

変わっている所と言えばリアルでは江戸では女性の服装にとってはおなじみの洒落た着物を着ていたが。

こっちの世界では剣士と言った感じのより動かしやすさを重視したやや肌の露出の高い服装をしていた。

 

胸部分を覆うのは黒曜石のアーマー

 

その下にはチェニック、動かす事に不自由が無い様深々と切れ込みが入っている青紫のロングスカート。

 

そして腰に差しているのは細くて黒い鞘。

 

銀時と違いこちらは完全にこの世界の住人としてすっかり順応しているのが窺える。

 

「もしかしてこの人と何かあったの?」

「ああまあ、西のフィールドでこの人がモンスターに襲われてる所を偶然見つけてさ。それからちょっと色々とこの世界の事の説明や世間話をしていたんだよ」

「フィールドー!? はぁ、この人は本当にバカなんだから……」

 

キリトから訳を聞いて彼がノコノコとフィールドで歩き回っていたと知ると、ユウキは呆れた様子でぐったりしている銀時の方へチラ見する。

 

「リアルでも相当無茶をする奴だけど、まさか仮想世界でもそんな無謀な真似するなんて……もう勝手にボクがいない時に外をうろついちゃダメでしょ! 外には危ないのがわんさかいるんだから!」

「いで! え、何? お母さん!?」

 

わんぱく坊主を叱る肝っ玉母さんの様にユウキは気絶状態の仲間を覚醒させる時に使う『平手打ち』を銀時にお見舞いすると、彼はフラフラと頭を揺らしながらゆっくりと目を開ける。

 

「ってお前かよ、ったく出合い頭にいきなり蹴りお見舞いするとか何考えてんだ……さっさと俺の身体の上から退け」

「それがボクとの約束破って勝手に戦闘地区を出歩いていた人が言う事?」

「あ~悪かったって、随分と気の良い奴に会えたから話に夢中でヤベェ場所まで行ってたなんて気づかなかったんだよ」

 

まだボーっとしながらも不機嫌そうに頬を膨らましているユウキを退けさせて銀時は立ち上がると、自分を心配そうに見ていたクラインの方へ指を指す。

 

「コイツ、この世界に入ったばかりの俺に声掛けてくれた俺と同じ新参者、名前はガンダタワイフ君だ、旦那のガンダタがやられたら会心の一撃バンバンかましてくるから気を付けろ」

「クラインな、ギンさん、アンタ間違いなくわざとやってるだろ、もう説明が後半ドラクエになってるし……」

「えーもうネットで友達出来ちゃったの!? 相変わらず人の懐に入り込むのが得意だね君って」

「それ褒めてんの?」

 

早速この世界で仲の良いプレイヤーを見つけた事にユウキは驚きつつも、銀時と仲良くなってたくれたならと彼女はクラインの方へ手を差し伸べる。

 

「まあいいや、よろしくクライン。ユウキって言うんだけど、こう見えてこのゲーム長くやってるからわからない事あったらいつでも聞いていいよ」

「お、おおそうか……もしかしてアンタがギンさんの連れだって言ってた例の妹さんか……?」

「妹さん? ああお姉ちゃんの事でも聞いたの? お姉ちゃんなら今頃三途の川クロールで泳いでるんじゃないかな?」

「うう……気丈に振る舞う姿が余計に泣けて来るぜ……強く生きろよ妹よ……!」

「いやいきなり泣かれたらこっちもどう対応していいかわからないんだけど? まあとりあえずありがと」

 

互いに自己紹介しただけで男泣きするクラインに事情をよく知らないユウキが小首を傾げつつも礼を言うと、また銀時の方へ振り返る。

 

「そういえばクライン、君の事をギンさんって呼んでたけど、もしかしてボクと同じ本名でやってるの?」

「いや「ギン」ってのが俺の名前なんだよ、だからコレからこの世界では迂闊に俺の本名出すなよな」

「ギンかぁ、なーんかお姉ちゃんらしいネーミングだなぁ、お姉ちゃんも名前「ラン」だったし」

「適当に考えただけだろ、アイツの事なんだから」

「そうかなー、ギンとランなら二つ合わせれば銀蘭でしょ? 銀蘭といえば花の名前だし多分そっから取ったんじゃないかなー」

「偶然だよ偶然」

 

意外と女の子らしく花に関しては知識があるのか、すぐに銀時と姉の名前の意味が花に関連するのではないかと勘付くユウキだが、銀時はぶっきらぼうに曖昧な返事をして流してキリトの方へ顎でしゃくる。

 

「それより俺はもう十分この世界の仕組みとやらを理解出来ちまったぜ、あそこにいるキリト君のおかげでな」

「キリト? ああ、引”き”こも”り”の”人”でキリトか、上手いね」

「アンタ等二人揃って同じ発想か……」

 

銀時と会った時も同じような事言われたのを思い出し、キリトはユウキに軽くジト目を向けた後、髪を掻きながふと気付いた。

この少女と双子の姉と銀時はそういった関係であったとしたら……

 

銀時はこれぐらいの年頃の女の子を手籠めにしたという事になる。

 

「…………」

「オイ、なんだいきなりその俺を軽蔑する様な眼差しは」

「……アンタ、ロリコン?」」

「人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ! なんなんだ一体! クロスSSで銀さんがロリコン呼ばわりされるのはお約束なのはわかるけど! 言っておくけどコイツは見た目はこんなんだが、実際は俺と……いづ!」

 

よくよく考えればそうであった、このユウキという少女は見た目からして自分よりも年下である。そしてその双子の姉と恋仲になったという銀時はつまり年端もいかない少女に手を出した大罪人という事。

しかし銀時はそれをすかさず否定してユウキを指差しながら何か言おうとするが、その前にユウキが後ろからローキックをかまして黙らせる。

 

「レディーの年をネット上以前に男として平気でバラすのは如何なものかなーと思うんだけど?」

「うるせぇ俺はここで終わらせるんだ! 歴代のクロスSS銀さん達がロリコンと比喩されていくお約束に俺が終止符を打つ為に!!」

「なにわけのわからない事言ってるのかなー」

 

足をさすりながら意味深な事を叫ぶ銀時にユウキは「は?」と理解してない表情を浮かべると、再度キリトの方へ振り返って笑顔で。

 

「という事でボクの年齢は内緒だから、そこん所よろしくー」

「あ、ああわかった……」

 

一体いくつなのだろうか、アバターの年はリアルから老けさせるのも若返させるのも最大で5年ぐらいだと聞かされているが……

しかしユウキの反応を見る限りその辺について詳しく聞こうとするのは野暮ってモンかと、下手すれば命に関わると悟ったキリトは年齢を聞くのを潔く諦めた。

 

(二人揃って謎が多いな……一体何モンなんだこの二人……)

「あ、礼を言うのを忘れてた、ギンに色々とEDOについて教えてくれてありがとね。おかげでボクが説明する手間が省けたし」

「今度からフルダイブする前にキチンと操作方法ぐらい教えてやれよ、まだメインメニュー出す事さえままならないんだから、せめてクイックで武器装備出来るぐらいにさせておかないとロクに実戦に出せないし」

「うんわかった、今からその辺の事を教えておくつもりだし。よーし今からボクがみっちり特訓して強くさせてやるからねギン!」

 

ステータスの方はコンバートされたおかげで十分に戦えるレベルなのだが、どれだけ強かろうがそれを扱えるかどうかはプレイヤー次第だ。

EDOではステータスだけでなくプレイヤーの五感が影響するので、簡単に思う様に進めるようになるにはまだ時間がかかるであろう。

 

ユウキは早速戦闘方面やその他色々の事を銀時に教えようと決めるのだが、銀時の方は恨みがましい目つきで彼女を見つめながら

 

「いや、俺もう結構やったから元の世界に帰るわ」

「ええー!? ウソでしょー!?」

「ゲームは一日一時間が常識だろ、長く店を開けてたらせっかくの依頼を逃がしちまうかもしれねぇし」

「イヤだよもう終わりなんて! どうせ依頼なんて来ないじゃん! 万年ニートみたいなもんじゃん! ただのプー太郎じゃん!」

「誰がプー太郎だ! こちとら真っ当な社会人として活動しているんだよちゃんと! たまに!」

「やっとこっちの世界で君と会えたのにさー! ならせめて二人でどっかご飯食べに行こうよ!」

「ご飯?」

 

EDOでは現実世界の様に食事を取る事が可能であり、無論食べてもリアルの肉体の腹が膨れる訳ではないのだが、空腹感がある時に食べるとHPが回復したり追加効果を得たり、何より満腹感が覚えて腹が満たされた気持ちになるのだ。

 

どういう原理なのかはわからないが、こっちの世界でたらふく食えば、リアルの世界に戻ってもしばらく何も食べなくとも構わないんじゃないかという錯覚を覚えるのだ。

 

それのおかげで女性プレイヤーにとっては新しいダイエット方法になるのではと現在調査中である。

 

「こっちの世界だと一緒にご飯食べれるから楽しみにしてたの! だからこの辺のお店に行ってみようよ! ボクが奢るから!」

「一緒ねぇ……」

 

銀時と一緒に食事が取れる事をずっと望んでいたのか、自分の袖を引っ張りながら必死に懇願するユウキに

 

一瞬神妙な面持ちを浮かべると銀時はやれやれとため息を突き

 

「まあそんぐらいなら別にいいか、こっちのメシにもちょっと興味あるし」

「やったー! じゃあ早速美味しいパフェがある甘味店に行こうか」

「美味しいパフェって……まさか現実みたいに食ったら甘味とか感じるのかここでも?」

「リアルの味とはちょっと違うけど、結構本物に近く再現した味が堪能できるらしいよ」

「マジでか!? つまり糖尿病の心配なく甘いモンが食い放題とかある訳!?」

 

仮想世界の凄さに銀時が驚愕の表情を浮かべていると、ユウキはクルリと身を翻してまたキリトとクラインの方へと振り返った。

 

「今日は色々とありがとね二人共、今からはギンの面倒はボクが見ておくから安心して」

「本当に大丈夫か? この人危なっかしいし、なんなら店の方までついて行っても」

「はぁ~……いやいやダメだねーキリトはー」

「へ?」

 

本音を言うとこの二人の事には個人的に興味があるので、色々と聞きたい事があるからもうちょっと一緒にプレイしたいと思っていたキリト。

 

他人のプレイヤーに興味を持つ事は初めてではないが、共に行動したいと思ったのは初めての経験である。

 

しかしユウキは頬を引きつらせながら後頭部を掻き毟りつつ呆れた様子。

 

「男と女が二人っきりで食事に行くのについて来ようとするのはナンセンスだよ、お心遣いには感謝するけど彼との初めての食事は二人だけで取るって決めてたんだよねボク」

「えーとそれはつまり……デート的な?」

「勘が良いんだか鈍いんだよくわからない感覚持ってるね君、そういう所ギンと似てるよ。まあ察してくれるならそれはそれで助かるけど……」

 

思い切って探りを入れて来たキリトにユウキはそっぽを向いて若干頬を赤く染めると、突然自分のメニューを開いて操作を始めた。すると今度はキリトとクラインの前にパッと画面が浮かび出る。

 

ユウキからのフレンド登録申請だ。

 

「せっかく会えたんだしこのままお別れってのは味気ないでしょ? ボク結構長い時間潜る事あるから何かあったらメールでも送っていいよ」

「フレンド登録申請か……確かにフレンドリストに入れてれば相手の居場所がすぐにわかるし便利だもんな」

 

相手からの申請を承認しフレンドリストに登録しておけば、互いの居場所がすぐにわかる。

それに電子メールを送り交わす事も出来るしある程度の通話を行う事も出来る。

ユウキからの要望を素直に受け取ると、キリトは『登録承認しますか? YES/No』と書かれた画面のYESの方に指を押し付けた。

クラインもまた片手で目を拭いならYESを押す。

 

「うう……こんな俺でもいくらでも助けになってやるぜ……! 本当に強く生きろよ妹よ……!」

「ねぇ、なんでこの人は会った時からずっと泣いてるのかな?」

「さあ……まあ悪い奴じゃないから」

「それはわかるんだけど目の前で泣かれると困っちゃうんだよねー」

 

涙ながらに強く頷くクラインにキリトが苦笑し、ユウキは困った様子で両肩をすくめると銀時の方へ振り返る。

 

「そういえばギンともフレンド登録しておかないと、目を離したらすぐにどっかいっちゃうから……ってアレ? 何処行ったんだろう」

 

気が付くとそこにはもう銀時の姿は無い、何処へ行ったのだろうとユウキが疑問に思っていると、ようやく泣き止んだクラインが顔を上げて

 

「ああ、ギンさんの方ならフラフラとどっか行っちまうのが見えたぜ、なんか「この先から俺を誘う甘い匂いがする!」とか叫びながらよ」

「ええーまた勝手にどっか行ったの!? 目を離したらすぐコレだよ! ホント何時まで経っても世話が焼けるんだから! ちょっとボク探してくる!」

 

どうやらまた勝手にどこかへ行ってしまったみたいだ。「いっその事首輪でも付けてやろうかな……」とかユウキはボソッと恐ろしい事を呟きながら、クラインが指さした方向に向かって猛ダッシュで走り出す。

 

「ごめん行ってくるね! 今度会ったらよろしく!」

「おお! 頑張れ妹!」

「装備面とスキルのチェックは怠るなとあの人に伝えておいてくれ」

「うんわかった! じゃあね!」

 

アレは相当俊敏性にスキル振ってるな……とキリトが思うぐらいユウキの駆けるスピードは相当速かった。

きっとかなりの手練れのプレイヤーなのだろう、クラインとキリトは去り行く彼女に最後に言葉を投げかけると、彼女はこちらに手を振って笑顔を浮かべたまま行ってしまった。

 

「さてと、そんじゃキリト、俺も行くわ。これ以上ダチを待たせる訳にはいかねぇし」

「お前もこの先気を付けろよ、こっちの世界だと平気で他人を騙して金やアイテムを奪い取ろうとする詐欺まがいのプレイヤーが腐る程いるんだからな」

「ははは、その辺はリアルでもおんなじだろ? まあご忠告は素直に受け取っておくぜ。あ、そうそう」

「ん?」

 

良識あるプレイヤーは何かと不遇な目に遭いやすいと、キリトは行こうとするクラインに助言してあげると、彼は笑って頷きつつメニューを開きこちらに何かを飛ばしてきた。

 

それは先程のユウキと同じくフレンド登録申請だった。

 

「ギンさん達の事も心配だが、俺としてはお前さんも心配なんだよな。お前さんもお前さんで苦労してるみたいだしよ……」

「心配してくれてどうも、だが初心者に心配される程俺はそんな弱くは無いぞ、なにせ2年間ずっとこのゲームに入り浸ってる生粋の廃人プレイヤーだからな」

「ははは、違ぇねぇ、まあたまには一緒にクエストでもやろうぜ」

「気が向いたらな」

 

彼からの申請をキリトがすぐに承認すると、クラインはユウキ同様にこちらに手を振りながら「現実に負けんなよー!」と余計な事を大声で叫びながら行ってしまった。

 

最後に一人残されたキリトは、そろそろ現実の時間だと夕方頃だし帰ってきた妹が夕食の準備でもしてるのかなとかふと思いながらログアウトしようかどうか迷っていた。

 

「ったく、あの連中のおかげで今日は全然効率良く稼げなかったな。今度の宇宙戦の前に色々と資金を調達しないとマズイってのに……」

 

メインメニューを開きつつ自分が所持してるお金を確認しながらキリトは一人ため息を突く。

 

今日は本当に厄日だ

 

 

妹には嫌がらせに近い悪魔の歌を聞かされて睡眠妨害

 

久しぶりの外出では天人に難癖付けられボコられ

 

その時助けに来てくれた侍にはいちゃもん付けられパシリにされ

 

挙句の果てには……天パの侍と野武士顔の男、年齢不詳の破天荒娘に絡まれもう散々……

 

「あれ?」

 

ふとキリトは自分の顔に違和感を覚えて思わず手で触った。

 

いつの間にか口元が僅かに広がり笑っている様な表情になっていたのだ。

 

EDOでの表情形式バグかなんかかと思いながらも、キリトはふと体の中から何か暖かいモノを感じる。

 

 

「ロクに稼げなかったのになんなんだろうな……この満ち足りた感じは……」

 

2年間ずっとゲームの世界に籠っていたキリトが初めて味わった感覚。

それはどれ程のレアモンスターを狩り尽くしても、どれ程の天人を討ち倒しても得る事の出来なかった満足感だった。

 

キリトは思わずメニューから顔を上げてはじまりの街を眺める。

 

いつもの見慣れた景色であるにも関わらず、今日の景色は以前と比べ程にもならない程綺麗に見えた。

 

いやもしかしたら最初からこの世界の景色はこんなにも綺麗だったのかもしれない。

 

クエスト攻略や武器やスキルの調達、激闘必然の宇宙戦ばかりに気を取られてて、この世界の本来の姿を見つめる余裕が無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ま、厄日って訳でもなさそうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

とある密偵が記すEDOにおける設定と豆知識その1

 

『GGO型』

 

EDOには三種類のタイプが存在し、その中で一つファンタジーとは程遠い近未来的なイメージに乗っ取ったタイプが存在する、それがGGO型だ。

 

武器は主に重火器を扱い、手に収まるポケットサイズの拳銃やら手榴弾を始め、果てはバズーカやビームサーベル、大型モンスターを一撃でし止める程のスナイパーライフルと一部のガンマニアが喜ぶ程扱える銃器は多い、

 

更には戦車や飛行船などからくり仕掛けの搭乗兵器を乗り回せるのが他のタイプと違う所だ、最近アップデートされた事によって二足歩行型ロボットにも登場可能となり、ロボットアニメファンが次々とGGOに移行する出来事もあった。

 

武器をオリジナルで改造し、様々なギミックを搭載させる事にも長けており、スキルを付加させる事しか出来ないSAO型と違いGGO型は性能だけでなく見た目も大きく変える事が出来る。中にはSAO型でしか装備出来ない「刀」をイメージして作られた武器も存在するらしい。

 

しかし自分オリジナルの武器を作れたとしてもほとんどが既に存在する武器の劣化版に近く、愛着が無ければ中堅プレイヤーに達する頃には大半は手放してしまうらしい。

 

存在する武器よりも強い武器を作るには莫大な資金と素材、そしてベースとなる武器のレアリティによって決まる。失敗して全てを水泡に帰すパターンもよくある事なので、ベテランになればなるほど、迂闊に武器作成を行わない様になるのが常識だ。

 

 

更にGGO型は弾薬の補充や武器のメンテナンスなど、維持費もかなりかかるので長く続けるには定期的に狩りを続けたり対人戦によるマネーファイトなどでひたすら稼がなければならない。

 

その為ほとんどのプレイヤーが脱落し、次々と他のタイプにコンバートして切り替えるのがザラである。

 

アインクラッド第三十階層にGGO型用の拠点街があるのだが、そこにいるのはもう名だたる玄人プレイヤーがあちこちとはびこっていて、更には他の街とは違いここでは街中でもPK可能なので、しょっちゅうガンファイトをおっ始める為、観光気分で迂闊に入っては絶対に行けない。

 

GGO型じゃなくても容赦なく蜂の巣にしてくるので街というより戦場に行く感覚で挑もう。

 

ちなみにコレを記している密偵である俺も2回ほどここで落とされました……

 

1回目はコソコソと街中を調査してたらGGO型の間じゃ有名な「狂弾の貴公女」と呼ばれている凄腕のスナイパーに高所から頭を撃ち抜かれ。

 

2回目……護衛としてついて来てくれたリアルでもギルドでも上司である人に、銃弾の盾にされて死にました……

 

という事でGGO型にとはロクでもない奴しかいないので気を付けよう

 

ちなみに俺を盾にしたその上司もGGO型です、わかるよねこの意味……

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで下さった方、ありがとうございました

これにて出会い編はおしまいです

連載前はここで終わらせる予定もあったのですが、1話に続き2話目もたくさんの方が読んで下さり感想と評価を付けてくれたみたいなのでもうちょっとだけやっていこうと思います。

余談ですが銀魂クロスSSの中にも銀さんがロリコン呼ばわりされない作品も多くありますので。。

ちなみに作者が書いてる銀魂クロスSS五作品の銀さんは

漏れなく全員ロリコン呼ばわりされてます。

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