竿魂   作:カイバーマン。

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第二十九層 ボクが欲しかったモノ

「デートしよう!」

 

二十七層地区の町で神器を造れる鍛冶屋を探している時に

 

ふとユウキが突発的に銀時の背中に向かってそう叫んだ。

 

今ここにログインしているメンバーは銀時とユウキのみで

 

キリトはというと、長く異星にいた父親が実家に戻って来たとかで、近況報告がてらに久しぶりに我が家へと帰っている。

 

その為にこうして二人だけで色々と探索をしていたのだが

 

いきなりユウキから出てきた言葉に銀時はポリポリと頭を掻いてしばらく黙り込んだ後、クルリと彼女の方へ振り返って

 

「デートって、今もしてる様なモンだろ。俺とお前の二人だけだし」

「いやこうしてダンジョン攻略とかに勤しむんじゃなくてさ、ちょっと二人で景色の良い所行ってみたいと思って」

「景色なんざ興味ねぇよ俺、あーでもそういや二十層の特殊ダンジョンの奥はは割と綺麗だったぞ」

「ホント!?」

 

デートと言われてもさして興味無さげにそう呟く銀時だが、意外にも自分から眺めの良い場所を教えてくれるのでユウキが興味持ったように身を乗り上げて来た。

 

「じゃあそこ行ってみよ! 転移結晶使えばすぐだし!」

「つってもあそこ結構奥まで遠いぞ」

「大丈夫、今はもう銀時のおかげで普通のフィールドになっちゃったから」

「は?」

 

あそこは結構複雑な迷路になってるし、銀時が通り抜けれたのもあそこで月夜の黒猫団と出会えたおかげだ。

 

再び赴くとなるとそうとう時間がかかると踏んでいた銀時だが、どうやらユウキ曰くあそこはもうダンジョンではなくなったらしい。

 

「銀時が神器の素材を入手したからもう長かったイベントは終わって、今はもうモンスターも出没しない森になっちゃったの、迷路の方も無くなったからちょっと歩けばすぐに奥に辿り着けるよ」

「ほーん、それじゃあ問題ねぇか、よし行くぞ」

「うん!」

 

すぐに行けると聞いて銀時は早速アイテム欄から転移結晶を使って20層に赴こうとする。

 

そんな乗り気な彼にユウキは嬉しそうに頷いた後

 

 

 

 

 

「いやちょっと待って! なんか今日の銀時おかしいよ!」

「あ?」

「なんでボクがデートしよって誘ったら普通にOKしてるの! いつもは鼻で笑うなり「めんどくせぇ」とかぼやいて断るクセに!」

 

ふと我に返ってユウキは気付いた。

あのめんどくさがりで素っ気ない男がこうもあっさりとデートを承諾するとは思えない

 

慌てて銀時を問い詰めると彼ははぁ~とため息を突きながら頭に手を置き

 

「チッ、バレたか」

「ええ!? バレたってどういう事!?」

「あーそうだ。ぶっちゃけ凄くめんどくせぇよ、なんで年中ツラ合わせてる上に同居してるお前なんかと新鮮味の無いデートなんかするかって叫びてぇよ、デートするならやっぱ結野アナだろ、俺とデートしてぇなら今すぐ結野アナに転生しろってお前に宣言してやりてぇわ」

「してるじゃん今! 思ってる事全部まるっとぶっちゃけてるじゃんボク自身に!」

「しかしだ、銀さんは考えた。お前にそんな風に言って断ったら、お前自身がどう反応するか」

 

あっさりと白状してホントは心底めんどくさいと言ってしまう銀時にユウキが軽くショックを受けていると

 

彼は更に人差し指を立てて

 

「ほぼ間違いなくゴネる、こんな人気の多い街中で散々叫びまくって、挙句の果てには俺の袖をひっ掴んで無理矢理にでもデートに洒落こもうとするに違いないと、俺はお前に「デートしよう!」って言われた後の短い間に明確に推理できたんだよ」

「い、いや流石にそれは考え過ぎじゃないかなー? ボクだっていい年だしそんな子供じみた真似する訳ないと思うけどー?」

「いや絶対するね間違いない、お前が生身でその見た目だった時から知ってる俺だからこそ断言できるわ、お前は100パー俺の袖を掴みながらギャンギャン泣き喚く」

「な、泣きはしないよ! た、多分……」

 

自分の発言に少々自信が無いユウキに対し、逆に自信ありげな様子で腕を組みながらうんうんと頷く銀時

 

「そこで俺は考えました、そうやって結局無理矢理お前の言う事を聞かざるを得ない状況になるなら、いっその事サクッとお前の話を呑んで、適当に二人でどっか行ってさっさと終わらせよってな」

「ひど! どんだけボクとデートするのが面倒なの!」

「という事でさっさと行くぞ、俺の手掴まれ、ちょっと観たらすぐ帰るからな」

「……一人で帰ろうとしたら本気で泣くからね……」

 

転移結晶を持ってない方の手を出してくる銀時に、恨みがましい目つきでそう訴えながらユウキが強く握りしめると

 

彼等の姿は一瞬にして二十七層から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして二人は二十層の特殊ダンジョン跡地にへと赴いていた。

 

奥地にあった金木犀の大樹は依然と変わらぬ姿でそびえ立ってはいるも

 

その下には数十万本の枝達は全て跡形もなくなり

 

代わりに地面を覆う金色に輝く草々が辺り一面に覆い茂っていた。

 

銀時は大樹の下から「へー」と呟きながら一望した後、すぐにその場で横になる。

 

「前も綺麗だったけどクエストが終了して殊更綺麗になったな、んじゃ、お前は適当に眺めておけ、お前の気が済むまで俺は寝っから」

「とうッ!」

「うげ!」

 

大樹の木陰が丁度涼し気で寝るには抜群のスポットだと思い銀時は早速ユウキをほったらかしにしてシエスタを決め込もうとするが

 

それを許すまじとユウキが上からのしかかって彼にうめき声をあげさせる。

 

「デート中に相手をほったらかしにして昼寝をする男なんてモテないよ?」

「いいんだよ付き合い方を熟知している相手なら昼寝しても……いいからそこどけ」

「いーやーだー!」

 

けだるそうに銀時はすぐにユウキを引き離そうとするも、自分の胸に顔をうずめながらテコでも動こうとしないユウキ。

 

しばらくして彼女は彼の脇辺りを枕にしながらゴロンと寝返りを打った。

 

「そう来るならボクもここで寝ちゃうから、こうして一緒に寝るのも久しぶりだし」

「はぁ? お前夜中に俺の布団に忍び込んで、俺が気が付いたら勝手に腕を枕にして寝てるじゃねぇか」

「え!? バレてたの!? いやでもたまにしかやってないからね!」

「たまにってお前、しょっちゅう俺の布団に潜って来てるだろうが、言っておくけど何回か寝てるフリしてお前がコソコソと入って来る様を目を細めて見てたからな」

「うわなんか恥ずかしくなってきた……気付いてるならすぐに言ってよもう……」

 

普段の習慣をバッチリ知られた事に赤面しつつ、ユウキは銀時の上半身に抱きつきながら

 

ここから見える金色の草原を寝たまま一望する。

 

「……綺麗だね」

「あ~……お前の方が綺麗だよ?」

「その言わせられてる感はなに?」

「お前が言って欲し気に上目遣いでチラチラ見て来るから察してやっただけだ」

 

試行錯誤しながらようやく銀時の右腕を枕にする事にしたユウキに、似合わないキザな台詞を吐きながら眠たげに欠伸をする銀時。

 

「しっかしアレだな、ちょっと前はまさかお前とこんなだだっ広い場所に来れるとは夢にも思わなかったな」

「ここは仮想世界だからね、現実の身体が不自由でもこうして身軽に動き回れてホント楽しいよこの世界は。あ、からくりの身体になった今のボクなら現実世界でも同じような事出来るかな?」

「危ねぇ場所には連れてかねぇぞ、お前の身体はちょっとの事ですぐに故障しちまうポンコツ仕様だからな」

「せめて水の中に入れればなー、みんなで海水浴とか出来るのに。あ、銀時は泳げなかったねそういえば」

「は? 俺がいつお前に泳げないって言ったよ?」

「銀時には聞いてないけど姉ちゃんが言ってた、浅い川の中に足滑らしてそのまま「死ぬぅ助けてぇ!!!ってもがきながら泣き叫んでたって」

「アイツ妹になんてモン教えてやがんだ! 言っておくけどその時のアイツはな! 溺れる俺を眺めながら普通に釣りしてやがったんだぞ! 最終的にアイツの釣り糸に俺が引っかかってそのまま俺を釣り上げやがったんだアイツ!」

「へー良かったじゃん姉ちゃんに助けてもらって」

 

今思えば彼女は結構Sだったのかもしれないとふと思い出す銀時の横顔を見つめながらユウキは呟く。

 

「仮想世界での姉ちゃんはもっと凄かったよ、銀時に見せたかったなー」

「いや見たいとは思うけど興味半分怖さ半分だわ……それに見ようと思っても二度と見れないからな」

「まあ、ね……」

 

現実世界の藍子も仮想世界のランも既にこの世にはいない。

彼女の事についていくらでも語れる銀時とユウキだが、それはもうすべて過去の話。

 

彼女は自分達より一足早く、現実でも仮想でもないもう一つの世界へと旅立ってしまったのだから……

 

「……ボクもここで銀時と一緒にいられるのも、一体いつまでなんだろう」

「おい……いきなりサラリと縁起でもねぇこと言うなよ、流石にビビるわ」

 

自分の腕で不安そうに顔をうずめながらつい口走ってしまうユウキに、銀時はジト目を向けながら左手でその頭を軽く叩く。

 

「お前は藍子と違って首の皮一枚繋がったんだろ? 今はまだからくりの身体だけど、あと何年か経てば生身の身体で動ける可能性も無いわけではないって倉橋さんが言ってただろうが」

「まあでも病気が病気だからね、宇宙からやってきた感染兵器だから、まだ油断はできないよ」

 

現在ユウキは藍子と同じ病にかかっている

 

宇宙から飛来した天人が持ち込んで来たという人を死に至らしめるウイルスに感染し、症状の進行が早かった藍子が先に亡くなり、幸いにも進行が遅かったユウキは、現代の科学文明でなんとか一命はとりとめた。

 

天人の感染兵器で殺されかけ、天人の科学で助かる、なんとも皮肉な話である。

 

「それに倉橋さんから聞いたんだボク、生身のボクはもう目が完全に失明して手と足も動かせないだろうって……そんな状態の姿、銀時に見せたくないよ」

「んだよそんな事、なら俺の目ん玉一個やるよ」

「え?」

「手も足も一本ずつ分けてやらぁ、そうすりゃお互い似た様な体になるし丁度いいわ」

 

自分の胸に顔を置いたまま寂しそうに呟く彼女にあっさりと自分の身体を半分ずつ提供してやると言ってのける銀時。

 

ボリボリと頭を掻きながら銀時は更に言葉を付け足す。

 

「お前はその、妹みてぇなモンだし? そんぐらいはお安い御用だっての」

「ハハハ、銀時の死んだ目を貰ってもあんまり嬉しくないなぁ……」

 

相変わらず妹分として扱われてる事に複雑な思いを抱きながらも、自分の為にそこまでしてくれると言ってくれた銀時にユウキは苦笑した。

 

「でも大丈夫だから安心して、もう少し先になるけど、いずれは人体の身体にからくりを仕掛けて、目や手足の代わりになる補助器具が出来るかもしれないって聞いたしさ、それを付ければ普通の人間となんら変わらずに日常生活が出来るんだってさ」

「ほぼほぼサイボーグだなそりゃ、それって何年後?」

「んー年数はわからないけど、20年後にはボクも普通に生活してるかもね、それまで生きられるか不安だけど」

「20年か……そんな先の話じゃ俺が何やってるかも想像つかねぇよ」

「20年後の銀時……案外子供とかいたりして」

「いやいやないない、ガキなんかめんどくせぇだけだって」

 

そんな遠い未来の事など全く想像出来ないと言いながら、銀時はこっから見える景色を改めて一望する。

 

「この世界もいずれは薄れて消えちまうモンなのかねぇ……」

「そうだね、世界と言っても所詮は人が造り上げた空想の世界だし」

「藍子が好きだったこの世界も、お前の言う20年後とやらには跡形もなく無くなっちまってるんだろうな」

「……ホントに銀時は頭の中姉ちゃんの事ばかりなんだね」

 

胸元にチクリと嫌な痛みを覚えながら、寂しげにつぶやく銀時の顔を見つめてユウキはそっと彼の胸に手を置く。

 

「大丈夫、例えこの世界が無くなろうと銀時がいる限り姉ちゃんはここにいるから、だから遠い未来を不安がるんじゃなくて今を精一杯楽しもう? 姉ちゃんがいたこの世界でたくさん冒険してたくさん思いで作ろうよ」

「……そうだな、ならディアベルが言ってた正体不明の黒幕って奴も早い所倒さねぇと、さもねぇと20年後どころか近い内にこの世界が滅びかねないしよ」

 

自分を安心させる為に優しく励ましてくれたユウキの頭に手を置きながら、銀時はフッと笑う。

 

「藍子が死んだ時にもしお前が傍に居なかったら、俺は二度とまともに立つ事も出来なかったかもしれねぇな」

「銀時なら強いし大丈夫だよ、ボクがいなくてもきっと別の人が銀時の支えになってくれたかもしれないし」

「お前の代わりなんざどこにもいねぇよ」

 

そう言って頭を撫でてくれる彼に、ユウキは「お、おぉ……」と変な声を出しながら顔をうずめた。

 

「今度は一体なんなのさ……まためんどくさいからってボクの事からわないでくれる、頼むから……」

「おめぇ知らねぇの? デートってのは互いに腹を割って本音をぶつけあうのも醍醐味の一つなんだよ、ただ二人で仲良さげな雰囲気醸し出して、良い景色見るだの、美味い飯食っててもそれは本物のデートとは呼ばねぇ、単なるお遊びよ」

 

自分の上半身に顔をうずめながら耳を赤くさせるユウキにヘラヘラと笑いながら銀時が答える。

 

「だから今日は特別に俺の本音ぶちまけてやったって事さ、んで? オメェは俺になんか本音ぶちまける事あんの?」

「い、言えない……!」

「は?」

「言えないの! 絶対言えないの!」

 

銀時の服を掴みながら顔を左右に振り断固拒否するユウキ。

 

残念ながら彼女が抱えている秘密はそう簡単に彼に話せる事ではないのだ。

 

「だから今はまだこのままでいいの! これぐらいの距離間でまだボクは満足だから!」

「いや何言ってるのかよくわかんねぇだけど」

「わからなくていいから!」

 

ユウキの言葉に何一つ理解出来ていない様子の銀時に叫んだ後、彼女は彼の腕を枕にしながらフンと鼻を鳴らす。

 

「このままがいい、たまにこうして二人で原っぱで寝そべって笑い合うのが、ボクにとっての最良の距離感だから」

「いやいい加減離れて欲しいんだけど、ただでさえここあったけぇのにお前がくっついてると暑くて仕方ねぇんだよ、俺の腕から頭どけろ」

「やーだー! 今日は一日中こうするのー!」

「だぁぁぁぁぁもう結局それかよ! いつもいつもワガママ言いやがって! 離れろってんだよ暑苦しい!」

「いーやーだー!!」

 

もうそろそろ離れて欲しいとユウキの頬をグイッと押しながらひっぺ返そうとする銀時だが、負けじと抵抗して必死に彼の首に両手を回してしがみ付くユウキ。

 

イベントが終わりただの平原と化した金木犀の大樹がそびえ立つフィールドにて

 

二人はゴロゴロと転がりながら激しく揉み合いを続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

そしてそんな二人を大樹から離れた森の方から遠目で見ているのは

 

金色の鎧を着た金髪碧眼の女性であった。

 

随分前に銀時に対して初対面であるというのに、この地でいきなり無言で蹴りを入れた張本人である。

 

楽し気にじゃれ合っている二人を眺めながら、女性はグッと胸元をおさえながら険しい表情を浮かべる。

 

「……何故でありましょう、胸の部分から込み上げるこの激しい痛みは……」

 

彼等を見ているだけで異変が生じる己の身体に違和感を覚える華の様に、女性は傍に生えてる気に手を置きながらもう片方の手で頭を抑える。

 

「怒り、嘆き、喜び……いえ、この痛みの根元はそれらどれにも当てはまりません……」

 

苦しそうに表情をこわばらせながら、額から流れる汗を拭い少女は改めて銀時達の方へと目をやる。

 

無邪気に笑いながら抱きついて来る小さな少女にしかめっ面で何かを叫びながらじゃれ合う銀髪の男。

 

銀髪の男……こうしてずっと彼を見ている時、たまにこうして胸に強い痛みが生じる事があるのだ。

 

例えば前はあの男が短い黒髪の少女と談笑を交えてた時とか……

 

あの時は思わず自ら姿を現して感情の思うがままに彼に蹴りを入れてしまった。

 

しかし自分がどうしてそんな真似をしたのかは、実の所自分でもよくわからない。

 

「お前は……お前は一体誰なんですか?」

 

つい反射的に腰に差す洞爺湖と彫られた木刀の柄を握り締めながら

 

女性は奥歯を噛みしめたままと奥にいる銀時をジッと凝視する。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は一体私のなんなのですか……」

 

 

デートを楽しむ銀時とユウキの裏で

 

一人悩み苦しむ謎の女性

 

果たしてその正体は……

 

 

 

 

 

 

 




20年後の銀さんは何をしているんでしょうね



次回は纏め回です、久しぶりにあの二人が出たりあの店の子が出たりします

それとどうも志村家に不審者が忍び込むという事件が多発してるとか……

次回もよろしくお願いします。

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